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<心理>

リハビリテーションにおける動機づけの誘因としての競争

Competition as a Motivational Incentive

Captain Clyde H.Bell、Jr.*

塚越昌幸*

 動機づけはリハビリテーションにおいて、重要な関心事であることから、クライエントのセラピーへの積極的参加を促す手段が多く求められている。クライエントの動機づけのレベルは、作業療法活動で期待される成功の一つの指標となっている。この論文は、作業療法をうけているクライエントに十分な作業を促す一つの動因である、競争という現象を検討するものである。

 我々の社会の大多数の人々は、競争場面を勝ち抜くとともに、競争意識(Competitiveness)に影響を与えるような明確な冒険的特性を持っている。治療活動に組み込まれた競争場面は、クライエントが課題達成に最大の努力を払う誘因であるとの指摘がなされている。

 競争の一般性

 歴史を通じ、絶えず人類は競争状態に携わってきた。原始人は、互いに、また他の種族と生存をかけて戦ってきた。しかし、競争場面にかかわる必要性は、生存本能のみに限らず、遊びのうちにも観察される。Huizingaは、ルールが最も重要視される遊びの一つの形態として、競争を述べている。彼は次のように言っている。「我々が遊び、競争する目的は、まず勝利することである。」

 競争という現象は、多くの文化で有力なものとなっている。Meadは、社会の構成員の競争行為は、基本的には、その社会全体の強調によって条件づけられると指摘している。競争の重視は、アメリカ社会では特に顕著で、スポーツ、そして仕事に見い出される。仕事や娯楽の追求に、競争は決定的な影響を与えることが可能である。

 好んで競争場面を求めたり、スリルを味わうため競技やゲームと取り組む人たちがいる。一定の課題に組み込まれた競争は、これらの人々に、最大の努力を払わせるための誘因となる。逆に、競争場面では、効果的に機能できないため、それを避ける人たちもいる。これらの人々に競争を促すことは、フラストレーションをもたらす。この場合、競争は、動機づけの誘因として適切でない。

 競争は、特定の人々に、課題達成の動機づけを行う。それでは、競争を課題達成への誘因として利用することは可能であろうか。職業やレクリエーション活動の治療手段に、競争を持ち込むことを意図することは可能である。優秀さの基準を設定することや、クライエントを、個人的・集団的に、その基準達成へと促すことが、競争を活動に組み込むことになるのである。

競争の概念

 競争が広く生体-心理-社会-人類学的現象であることは、生物・行動両科学の文献に見い出される。操作的には、あらかじめ決定されている優秀さの基準と関連して、打ち勝とうとする願望として定義される。競争は、自分自身、もしくは他者より生じた基準と関連して生じる。自己との競争は、過去の成績より優れようとするもので、他者とのそれは、ある課題の達成をライバルと競うものである。McClellandとHeckhausenは、自己、及び他者との競争、そして課題とのそれを、達成動機の変数として示した。

 

 

冒険心:競争意識の指標

 McClellandとHeckhausenは、冒険心と競争の関係を示した。彼らの研究では、達成動機の高い者は、競争場面で最適に活動する中度の冒険者であることを示している。冒険心は、いろいろの不確定さのもとでの決定である。達成動機の高い者は、少なくとも半々の成功チャンスがあれば冒険するため、競争場面で最高の課題遂行を示す。彼らは、自分の能力を確信し、ほぼ同等の能力を持つ仲間との競争で、自分の能力をテストするであろう。競争は、活動や課題の最適な遂行を、彼らに動機づけする。さらに、冒険心と競争間に相互関係があるので、冒険心に対する態度を評価することによって競争場面での作業遂行の予知が可能となるのである。

面接

 この研究で、競争意識の指標としての冒険心を評価するため、構成化した面接テストが計画された。テストの予備調査は、ロス・アンジェルスのスプルベダ傷い軍人病院(Sepulveda Veterans Administration Hospital )でランダムに選択された10人の精神病患者を用いて行われた。予備調査の目的は、面接テストの表現と主題の均一性を改善することにあった。この結果から、面接を受けた10人の患者のうち、4人が中度、3人が高度、4人が低度の冒険者であることが確認された。

 McClellandとHeckhausenの達成動機の研究によれば、このグループの中度冒険者は、競争場面で最適に機能すると思われる。

 このことは、後に述べる臨床的な観察を通じて妥当なものとなる。

 この面接テストは、五つの質問からなる。三つの異なる程度の冒険を示す選択肢とともに、これらの質問は、ある状況を描写している。解答は、各質問ごとに一つの冒険を選択するよう教示し、正答・誤答の区別がないことを示す。一つの選択肢は、それぞれ低度、中度、高度の冒険の状態を示している。また各状況での成功の確率は、あらかじめ決められており、質問時に提示される。これらの解答は、被面接者の冒険的な態度を表すよう意図されている。

 面接者と被面接者への教示、そして、面接テストの質問の一例は次に示される。

冒険的態度の面接

 面接者への教示: このテストは、一個人の冒険的態度の確認を意図するものである。各状況で三つの冒険を示す選択肢は、低度、中度、高度から成る。選択される冒険は、あらかじめ決められており、成功・失敗に関する主観的な確率は、排除してある。各々の被面接者に等しい確率をもった選択肢を提示することで、各被験者の反応は冒険的な態度を示す。この冒険的な態度の確認から、被面接者が競争場面でいかに機能するかについて指標が確立されるであろう。

 被面接者への教示:この面接テストは、その結果の確率が、すべての人に同じであるような五つの仮の状況を含んでいます。しかし、技術や努力によって、その結果は変わるかもしれません。面接者が、これからあなたに質問をする状況を読みます。その後、あなたは、リスト化された、三つの選択肢から一つの冒険を選び出して下さい。各々の状況は、三つの異なる程度の冒険を含んでいます。あなたが挑もうと思うものを選んで下さい。

 あなたは、質問される状況に親しんでいなかったり、興味がないかもしれませんが、その中から最も関心のあるものを選んで下さい。これらの質問は、単にあなたの冒険的な態度を確認するためのものです。この面接から得た情報は、あなたの作業療法における治療プログラム計画に利用されることになります。

質問 輪投げゲームでは、くいから5、7、もしくは10フィート離れて立つことができます。そして、くいにめがけて一度だけ輪を投げることが許されています。距離が大きくなれば、輪投げの成功の確率は、小さくなります。選択される距離は、輪投げの成功の確率、そして、その距離に応じた金銭的報酬とともに、下のリストに示してあります。失敗の場合、あらかじめ決められた額が失われます。もしあなたが、この状況に直面した時、どの位置から輪を投げますか。

〔-、低度の冒険〕
a.5フィート 35セントのもうけの確率 90%
1ドル20セントの損害の確率 10%
〔+、中度の冒険〕
b.7フィート 60セントのもうけの確率 50%
60セントの損害の確率 50%
〔-、高度の冒険〕
c.10フィート 1ドル70セントのもうけの確率 10%
35セントの損害の確率 90%

 以上の、低度、中度、高度の冒険の表示は、被験者には示さない。これらは、被面接者の反応を評価するために用いられる。面接テストの残りの4質問も、同様な意図をもち、すべての反応の結果が、被面接者の冒険的な態度を表すことになる。

得点化

 テストの得点化では、中度の冒険的態度が(+)と評価され、低度並びに高度の冒険的な態度は、(-)の評価を得る。そして、面接の得点化の後、被面接者は、低度、中度、ないし高度の冒険者のいずれであるかについての決定がなされる。McClellandとHeckhausenが、競争が組み込まれた課題で、最適に課題を遂行するのは中度冒険者であるという傾向を見い出したように、競争が作業の動因となる作業療法プログラムでは、これらの被面接者が最適に機能するであろう。

妥当性

 面接テストの妥当性は、この面接結果と選択ディレンマ質問表(Choice Dilemmas questionnaire )から得た結果の比較から、評価が可能となる。後者は、冒険的態度を測定するテストとして認められたものである。競争場面での実際の作業遂行の結果からは、さらに直接的なこのテストの妥当性の検討が可能となる。

考察

 クライエントの作業療法プログラムを計画するにあたって、興味と態度を評価することが重要となる。もし、セラピストが、クライエントを動機づけすることができるような活動を知ることができれば、クライエントの興味を引く治療プログラムがつくられるであろう。また、自己もしくは、他者との競争場面において、クライエントが、最適な活動を行うということが認められるなら、そのプログラムは競争が作業の動因となるように計画されるであろう。作業療法は、このように、競争場面が目的を持った治療手段として使われる方向づけをもった専門的活動である。競争は、クライエントが、過去の自分の成績や、同じ活動に取り組むクライエントと成績を競うことで、組み込まれることになる。

 切断手術を受けた人のリハビリテーションプログラムを扱う作業療法治療部門は、作業動因として競争を利用している。選択的に、同様な障害を持つクライエントを、分類したり、ペアにしたり、もしくは、日常生活行為や運動の調節課題を行う際に必要な補装具の使用を競わせることで、その使用の熟練を速めることが可能となる。活動に組み込まれた競争は、課題達成のための最大の努力をクライエントにもたらす。同様の治療プログラムが自己との競争に適するクライエントを対象として、展開している。それは、時間制限を設けることや、活動の過程を記録化することで、クライエントの自己の記録と競争や、その向上のための努力を促すのである。

要約

 この論文では、競争場面で勝ちぬこうとするクライエントを確認する方法として組織化された面接テストを紹介している。競争は、特定の人々にとって、作業療法の治療目的を達成する上での動機づけをもたらす誘因となるということが示された。また冒険的態度は競争時における作業成績の指標をもたらすと、引用文献は指摘した。自己や、他者との競争を治療に組み込む方法も確認された。

 卓越もしくは優秀さへの到達の願望は、能力の発達において固有のファクターである。競争を通じ他者によって達成された基準と自分の基準の比較から、より高い優秀さへの到達にむけての努力がなされる。また、自己との競争では、過去に達成したこととの比較を通じ、優秀さの達成がなしとげられることになる。

(The American Journal of Occupational Therapy May/June,1975から)

引用文献 略

参考文献 略

ベル陸軍大尉は米国テキサス州サム・ヒューストン基地にある米国陸軍保健科学アカデミーの内科、外科の専任講師
**筑波大学大学院


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1977年1月(第24号)23頁~26頁