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<教育>

精神薄弱児指導における模倣学習

Imitation as a Facilitator of Treatment for the Mentally Retarded

Paul Wehman *

田嶋善郎**

 模倣学習は、精神薄弱者に新しい行動や技能を獲得させる際の基本的な援助方法である。精神薄弱者の適応行動のうち、代理学習によって確立されるものは広範囲にわたっている。言語能力、社会的行動、職業能力、教科学習などは、模倣が効果的に使われている分野である。典型的な、観察者-モデル、学習においては、教師あるいは訓練者がモデルとなり、観察者あるいは生徒にこうあって欲しいと思うことを行動や言語で示す。訓練生の仲間がモデルとなったり、あやつり人形を用いて望ましい行動を身振りで物語ることもしばしば行われる。一般的にモデリングは、身体で示す手掛かりや言語的手掛かりといった、ほかの行動形成の手続きと結びつけて用いられ、正の強化が与えられる。そして、モデルとか身体的手掛かりといった弁別刺激は徐々に消されるが、行動が自然環境下で統制的に行われるようになるまで続けられる。

 本論文の目的は、模倣学習が精神薄弱者の訓練における教育技術にもたらす効果を評価することにある。特に本評論では、次のことを意図している;a)社会的学習の理論を概略説明する、b)精神薄弱者の行動の変化を促進する主要方法として、モデリングを使用した代表的な研究を概観する、c)教師やリハビリテーションの専門家が、モデリングの効果を最大限に生かすための助けとして、生きたモデルと象徴的なモデルの対比、複数のモデル、結果としての行動統制といった要点をうきぼりにする。

観察学習の理論的説明

 観察学習過程を記述するのに、今までに多くの用語が互換的に使われてきている。モデリング、模倣、代理学習、社会的学習、役割演技、同一視、社会的促進等といった用語を各々の研究者が使っているが、それらは本質的には同一の行動過程を述べたものである。Rachman は、観察学習、模倣、モデリングの違いを明らかにしようとして、以下のように述べている。

 観察学習とは、他の人物の行動を観察した結果獲得した、行動の変化を意味するものとして用いられている。……模倣は、他の人物や動物の行動、あるいは無生物(例えば音)の状態などを観察した結果獲得した、行動の変化を意味するとされる。模倣行動は、観察した事柄や観察した経験との類似性に特徴づけられ、しかも、その事柄や経験に似せようとする意図的な努力がされていることが多いものである。モデリングは、社会的模倣の意味に用いられる;つまりそれは、模倣と観察学習の両方の下位分類となるが同義語ではない。

 Kohlbergは同一視について、対象との類似性の認知が強化因子となって維持されると考えられるマッチング行動である、と定義している。彼は〈模倣〉という用語を、外的な強化によって支えられた道具的反応に限って使用している。Banduraは、代理学習過程というものが別の変数によってコントロールされるのでなければ、用語の区別をすることは混乱を招くし価値もない、という立場をとっている。本論文では、その目的のうえから、モデリング、模倣、観察学習を互換的に用いることにする。観察学習の定義としては、Flandersが提案した以下のものを採用した。

 観察者(O)がモデル(M)を観察した結果、OがMの影響を受け、それ以後のOの行動がMの行動に一層似てくる場合に、OはMの模倣をしているという。

 代理学習過程の説明をしている理論にはいくつかがある。初期のモデリング理論では、モデリング行動を生得的、あるいは本能的なものと考えていた。連合理論は別の角度から模倣を説明している。すなわち、モデリング刺激と観察者のマッチング反応とが一時的にでも近接すれば、十分模倣が起こったと考えるのである。しかし、観察学習に関する連合理論では、現在我々が模倣行動といっていることの一部についてしか説明していない。この理論では、観察者とモデル間の相互作用の結果、どのようにして新しい反応を獲得するのかについては説明することができない。

 オペラント条件づけないしは強化理論でも、観察学習の説明をしている。モデリングの行動分析をした場合、強化を必要条件として挙げて、標準的な刺激-反応-結果という図式で説明するのである。しかし、Bandura が指摘しているように、モデルと観察者が顔を合わせるという強化過程がない場合に、観察学習はどのようにして生じるのか、また、新しく獲得した反応が数週間あるいは数か月間も出現しないでいるのはなぜか、といったことをオペラントモデルで説明するのは難しい。

 Bandura は、これまで考察してきたモデリング理論の欠点を考慮して、新たな社会的学習理論を提唱している。彼は観察学習を、注意をひく過程、保持する過程、運動再生の過程、動機づけの過程の四つの過程に分けている。

 注意をひく過程は、モデル刺激の特性と観察者特性とに分析される。モデルの弁別は、独自性、複雑さ、モデルの持つ正の誘意性、機能的価値の関数として起こる。観察者特性として考慮されるべきものは、感覚能力、知覚構造、過去の強化の経験である。

 保持する過程も、モデリングの過程できわめて重要な構成要素と考えられる。人がモデルを観察して、あとで再生するためには、その表現様式の情報を保持しなければならない。Bandura は、観察学習における象徴的表象という知見を支持する、経験的な事実を述べている。しかしまた、観察者が、外部のモデリング刺激を正確に再現できるように保持していることは、まれにしかないことをも指摘している。

 運動再生の過程は、社会的学習理論の第三の構成要素で、ここでは、導こうとする行動のモデルパターンにおける象徴的表象が活用されるのである。観察学習における速度と水準は、一面では、必然的な反応構成要素に分解できるかどうかに支配されている。例えば、精神薄弱者に対して複雑な行動を教えようとするときは、最初は変化量を小きざみにしたモデルを使わなければならない。

 最後の構成要素は、動機づけないしは強化の過程である。これは、観察を通して知った行動を活動に移す過程である。Bandura は次のように述べている。

 強化に関係する変数は、マッチング行動の表出を規定しているだけではなく、最も注意をひきやすいモデルの型を選択的にコントロールするという面からも、観察学習に影響を及ぼす。さらに、ねらいとする行動の実演や、機能的価値を持つモデルの行動リハーサルという過程を通して、注意を選択的に促すという働きもする。

 Bandura が提示した社会的学習理論は、モデリングを精神薄弱者に適用できるように発展させるうえで有効である。四つの構成要素で分析する考え方が導入されたことによって、模倣学習の概念は、単純な古典的条件づけやオペラント条件づけの枠組より広がり、認知過程にまで深くふみこんだ考察ができるようになっている。精神薄弱者に対するBandura の理論が持っている最大の強みは、観察学習過程の中で、どんな欠陥要素が模倣行動を生じさせない働きをしているのかを、詳細に吟味できることにある。

研究の概観

 〈自助能力〉 排せつ、食事、着脱といった基本的な自助能力に関して、行動の変化をもたらそうとする主要方法として、モデリングを利用した研究発表はわずかである。報告された研究の多くは、シェーピング(Shaping )とチェイニング(Chaining)の過程を中心にし、モデリングを付随的に使っている。例えばAzrin とFoxxは、最重度精神薄弱者の排せつ訓練のために、シェーピング法を主に使っているが、その中でモデリングは次のような役割を演じている。

 模倣学習をシェーピング法と一緒に行えば、訓練は早まると期待できる。また施設在園者が他者の行為に敏感であれば、他者の排せつを正確に観察することによって、習得が早まると期待できる。このモデリング効果は、数人の在園者を互いに観察し合えるようにして同時に訓練した時に得られたものである。

 学級への出席についても、モデリングの方法を使って訓練がなされている。中度精神薄弱の生徒に対し、出席を個人ごとに強化、出席するモデルによる代理強化、強化なしの統制条件という三つの異なる条件が与えられた。その結果、2種の強化条件での被験者は、統制群に比べて出席状況がよかった。両強化条件間ではほとんど差がなかった。

 Hamre は、中度精神薄弱女性の洗髪訓練のプログラムを報告している。ここでは、教師やさし絵の模倣が、技能の獲得のための道具として使われた。役割演技とシミュレーションを、生理の始末や歯みがきの指導をする際に用いたものもある。中度精神薄弱者の衛生訓練を目的として、フィルムを補助手段として使った例を、Thompson とFaibish が報告している。家庭内への般化は、行動シェーピングによる直接的訓練とフィルム観察を併用したときにだけ起こった。直接的訓練だけでは般化は起こらなかった。

 自助能力の習得に際して、モデル(生体でも象徴的でも)だけを使った研究は見当たらない。これは恐らく、矯正しようとする自助行動のほとんどが、たくさんの運動を含んでいることに帰因しているからであろう。Gardner は次のように述べている。

 新しい行動パターンの開発を促進させることを目的としたモデリング過程を、精神薄弱者に役立たせるためには、継続的接近という過程を用いなければならない。最初は、完成した行動パターンをより小さく分解した単位から始め、次第により複雑な行動に結びつけていくようにしなければならない。

 今後の研究としては、自助能力に欠けている精神薄弱者に対して、順次提示できるようにした、象徴的モデルの可能性について追求することが有用であろう。衣類の着脱行動、配膳能力、入浴、身繕い等が、階層的な行動を段階的に提示するというモデルを使える技能である。定期的にモデルを提示すれば、生徒はモデルの行動を同時的に表出してみる機会を持つことができる。モデリングの効果を高める組み合わせ方を調べるためには、行動逸脱度、強化因子の種類と即時性、言語的教示などを操作してみればよい。

 〈社会的技能と遊びの技能〉 模倣は社会的技能および遊びの技能の開発や、不適切な社会的行動を修正するのにも使われてきた。Nelson、Gibson 、Cutting の3人は、ビデオテープを使用して軽度精神薄弱の少年の社会的行動を修正するプログラムを提示している。使用した訓練方法は、モデリング、教示+社会的強化、モデリング+教示+社会的強化の3種である。変化した社会的技能は、適切な話し方をすること、微笑すること、質問をすることの三つであった。すべての行動で頻度は増したが、順序効果があるために、実験条件間の厳密な比較はできなかった。Nelsonとその協同研究者たちは、精神薄弱者の行動の変化を導くのには、モデリングと教示との二つの操作を組み合わせて、正の強化因と結びつけるのが強力な手段となると示唆している。

 中度精神薄弱者に対して、等身大の絵と現実の生きたモデルによって、性の識別を学ばせた例もある。Hamre とWilliamsは同じ対象者に対して、家族関係を学習するプログラムを作成した。同胞や両親が実際に生活をしている場面を描いた大きなポスターを使うことにより、生徒は各々の家庭内での位置づけや、同胞、両親の名前をおぼえることができた。

 Fechter は、施設にいる精神薄弱者に、空気でふくらませた大きな人形と“攻撃的に”遊んでいる、あるいは“親しそうに”遊んでいるビデオテープを見せた。被験者は攻撃群と、親密群の2群に分割し、年齢、IQ、性別をマッチさせた。その結果、仲間が親しそうに遊んでいるフィルムを見た被験者は、より親切になって攻撃的な行動は減少した。攻撃的なフィルムを見た被験者は、より攻撃的となったことがわかった。しかしFechterの結果には、〈親密〉と〈攻撃的〉という用語の操作的定義が不十分である、結果の維持あるいは追跡について考察がされていない、指導方法の示唆がない、といったいくつかの欠点がある。

 関連した報告で、TalkingtonとAltmanは、施設にいる精神薄弱者を被験者にして、年齢、能力、モデルのタイプ(攻撃的か好意的か)といった三つの要因の効果について研究している。被験者は、大きなプラスチックの人形に対し、攻撃的あるいは親密にしているモデルのフィルムを見せられた。結果は、親密な行動よりも攻撃的な行動を示す傾向が強いことが示された。年齢と能力に関していえば、IQが低く、比較的高年齢(16歳~21歳)の被験者が攻撃的な行動を最も多く示した。

 教育可能な精神薄弱者に対して、生きたモデルとビデオテープのモデルを使って、適切な電話の使い方の指導をしたものがある。両実験群の被験者とも、電話をかけること、応答することができるようになったが、統制群の場合は、電話での応答能力が習得できなかった。二つの実験群間には習得の比率の差はほとんどなかった。

 精神薄弱児の協同遊びの発達に関する最近の研究で、モデリングとシェーピング法の効果を比較吟味したものがある。その結果では、最大の協同遊びは、実際のモデルが適切な遊びを演じた条件下で出現した。この場合、ことばで激励することが、遊びの技能の習得と遂行に有力な役割を演じていることも明らかであった。

 ほかの遊びの研究でも、モデリングが行動変化にとって効果があることを実証しているものがある。この研究では、重度の精神薄弱児が対象となり、最初の段階ではたくさんの粗大運動を模倣するように教えられた。彼らは、遊びの模倣を経た後に、ブランコに乗っている子どもを押すとか、車に乗っている相手を引っ張るといった協同遊びを確立した。この訓練中に習得された社会的相互交渉の技能は、他の場面へも般化された。

 社会的能力の開発は、ほとんどの精神薄弱者の適応行動にとって非常に重要な領域である。Wehmanが指摘しているように、社会的行動は地域や職場、教室などでうまく適応するための技能でもあることが多い。しかし、精神薄弱者が洗練された社会的技能を習得し、維持するのに役立つような訓練技術はいまだ証明されていない。おそらく役割演技、シミュレーション、ビデオテープ、映画などを適切な教示、強化、般化の手続きと結びつけて用いるのが、よい結果をもたらす方法であろう。

 〈言語能力〉 近年、言語の受容能力と表現能力の開発に関する領域での多くの研究プログラムが、精神薄弱者を対象にして展開している。この種の研究の多くは、観察学習と教師のモデリングによってすすめられてきている。この場合、より高度の言語行動の前提として、発声の模倣の指導が行われている。Sloaneとその協同者の研究では、口と舌の模倣を運動反応訓練の中に含めている。そして発声訓練は、前もって学習した口-舌の運動と音声との組み合わせのモデリングで構成している。

 言語構成のプログラムも、モデリングとシェーピング法を使用してなされている。Bricker は、重度精神薄弱者を対象に、模倣的サイン訓練を行って成功している。生成文章の使用訓練にあたり、模倣と強化を同時に使用した研究もある。

 新しく習得した言語を、異なった場面や異なった治療者に対しても般化できた、ということを強調した報告がいくつかある。Garciaは重度精神薄弱児を対象にして、3人の実験者による各々異なった場面設定の中で、模倣と分化強化の方法を用いて、会話言語を習得させた。DeHaven とGarciaも、数人の実験者を使って、般化した言語の使用訓練を行っている。そのプログラムでは、質問に対する被験者の自発的応答を実験者が観察している。

 〈職業能力〉 Kazdinは、ワークショップにおける行動に関して、代理強化の効果を支持する研究結果を出している。目標とした被験者の、望ましくない行動(例えば仕事が遅い)に対して強化法を用いると、目標としなかった被験者の中に望ましい行動が増加したのである。結論としてKazdin は、効果的な賞賛の方が、モデリングや代理強化よりも行動をコントロールするうえで、より大きな効果をもつとしている。

  Brown とPearceは、公立学校の職業前指導場面において、強化されたモデル提示+直接強化と、観察者へのフィードバックが効果的であるとしている。強化されたモデル提示だけの場合と、強化されたモデル提示+直接強化+フィードバックの場合との間では、差はほとんどなかったが、いずれの条件とも生産量は著しく増大した。Brown とその同僚は、別の実験で、生産の量と質を増すためにモデリングを使用している。中度精神薄弱の女性を対象に、作業場面における適切な社会的技能を訓練するために役割演技を用いた例もある。

 何人かの研究者は、ビデオテープやグラフでの自己観察を、生産増大のための強化因子として、またフィードバックの方法として用いる可能性について研究している。別の報告では、作業遂行のグラフを毎日知らせ、自己観察とフィードバックによって作業量に影響を与えたと述べている。また、シェルタードワークショップにいる、教育可能な精神薄弱者の作業量を増加させるために、毎日の作業遂行のビデオテープをうまく使ったというものもある。

 これらの結果から、視覚的機器、役割演技、モデリング、代理強化はすべて作業遂行を成功させるための有効な促進因であり、特に、言語を持たない重度の人にとって効力を発揮することが示唆されている。精神薄弱者向けワークショップの指導者が、これらの可能性を深く探究することは非常に有益なことと思われる。

 〈教室での行動〉 Brown とその同僚は、言語を持たない、いろいろの年齢層の精神薄弱児を対象にして、教科学習における観察者-モデル学習を妥当性について述べている。読書能力、質問能力、情景説明の語い力などの指導は、モデリング使用によって教える読書指導のいくつかの例である。数学の能力についても、言語によるモデリングや教師が行う正確な反応という方法を通して訓練したものがある。

 概念の獲得と問題解決学習も、模倣学習を使用している別の学習領域である。ある報告によると、職場において色と形の概念を教えるのには、モデリングと無言のデモンストレーションを組み合わせた方法の方が、言語による教示だけの場合よりも有意に効果があった。この研究において、著者は対象者の遅滞の程度について明確に述べていないが、両条件とも被験者にはフィードバックが与えられていた。RossとRossは、小学校在籍中の精神薄弱児に対して、問題解決能力と計画する能力の開発を促進するために、モデリングと代理強化を使用している。他の報告では、中度精神薄弱者に対して、乗合バスの乗り方とバス路線で降車駅を正確に認識する能力を開発させるために、ビデオテープを使用している。

 これまで概観してきた研究は、新しい行動の促進、あるいは、遅れている行動を促進させることを目的とした研究であったことがわかる。モデリングが、精神薄弱者の行動生起に対し、頻度を抑制する効果をおよぼすということを示した研究は限られている。けれども、精神薄弱でない被験者の場合に、代理罰や代理消去の効果が検証されており、精神薄弱者が示す特定の行動(例えば、かんしゃくとか攻撃的行動)を指導する際にも有効だと思われる。

訓練にモデルを使用する際の最善の方法

 〈モデルの選択と提示〉 モデリング経験は、様々な方法で提供できる。生きたモデル対象徴的なモデル、複数モデル対単一モデル、仲間のモデル対仲間でないモデル、その他色々な組み合わせが考えられる。これまで概観してきた研究を要約すると、重度と最重度の精神薄弱者の場合に、生きたモデルが使われて成功していることは明らかである。しかし、この人たちに、象徴的なモデルを使う試みはほとんどされていない。軽度から中度の精神薄弱者を被験者としたプログラムのほとんどは、象徴的なモデル(ビデオテープあるいは絵)か、象徴的なモデルと生きたモデルとの組み合わせを使っている。低機能者である精神薄弱者の行動変化を促進させるうえで、象徴的なモデルを使用することがはたして可能なのかについては、経験的に疑問が残る。

 Hamre のものとかBrown とPearceの報告では、多数のモデルが使用されていたが、大部分の研究はモデルをひとつだけ使用している。精神薄弱でない被験者を用いた実験室での研究では、複数のモデルを使用すると般化が促進されることが示されている。変化させたい行動を演ずる複数のモデルを使用すると、観察者の中に刺激般化が生じる確率が高まるようである。また異なったモデルに対し、提示する回数を変えることによって、般化が起こるまでの時間の長さを調べることができよう。

 概観した文献の多くは、教師や大人のモデルに頼っている。仲間を使ったモデリングで成功した研究は限られているが、恐らく将来はより広範に使用してみるべきであろう。知的な遅れのない被験者を使った多くの研究では、モデルの持つ情動価が重大な影響を及ぼすことが示唆されている。情動価は、モデルが持つ高度の能力、社会的影響力、地位を示すシンボルにもとづいている。

 Flandersは研究を概観して、能力の程度、社会的地位、自己評価といった観察者の特性が、観察学習の起こる度合いに影響を及ぼすという研究を紹介している。けれども、精神薄弱者のほとんどは洗練された認知能力に欠けているため、これらの研究結果を、精神薄弱者対象のプログラムにまで般化できるかどうかは疑わしい。したがって、これらの要因が、精神薄弱者にとって望ましいモデリングないしは学習法を作るうえで必ずしも重要であるとはいえない。

 〈モデル観察の結果としての行動統制〉 概観した研究のほとんどは、観察者に対してモデルを示し、正しく模倣するように強化を行っていた。作業場面や教室場面で代理強化を有効に使っている研究者も少数はいるが、代理強化は変容の方法として十分利用されてきたわけではない。代理強化を適用できないような例もいくつかある。例えば、教師(モデル)と生徒(観察者)の間における指導関係は代理強化になじまず、生徒に対し正しい模倣行動を直接強化するという方向を持つものである。けれども他の多くの場合には(仲間による強化、象徴的なモデルによる強化)、代理強化は、観察学習の効果を最大にする方法といえるようである。精神薄弱でない被験者を使った研究でも、代理強化はポジティブな行動変化を起こすのに有効であることを述べている。

自助能力訓練のためのモデリング

 ほとんどの精神薄弱者においては、行動面の重大欠陥は自助能力に欠けていることである。リハビリテーションカウンセラーや、特殊教育の教師から共通して聞かれるのは、精神薄弱者が自己決定できない、自分の行動を効果的に行うことが常にできない、といったことである。自己観察、自己強化、自罰および潜在強化法(covert method )などに関する研究はかなり蓄積されてきたが、不幸なことに精神薄弱に関しての研究報告はほとんどない。

 Bandura とその同僚(Thoresen Mahoney)が報告した、自己統制に関する研究の多くは、精神薄弱者の自助行動の訓練に最も適しているように思える。Bandura の研究は、観察者-モデルという手法に頼っている部分が多い。健常者を対象にして行った、Bandura の自己強化に関する研究から導かれる、基本的一般理論のうち、精神薄弱者の自己統制を生み出す研究に関係あるいくつかを以下にあげる。

 ● 自己報酬的行動は、モデル提示を通して確立される。

 ● 自己強化の基準は、先行するモデリング経験の影響を受ける。

 ● モデルに一貫性があると、自己基準の発生を促進させる。

 ● 自己報酬の基準を選択する機会が与えられると、被験者は非常に高い要求を自らに課すことが多い。

 ● モデルと被験者の間に能力差がある場合には、モデルの基準に近づけるようにして差が縮まる。

 これらの一般化されたもののうち、いくつかは地域社会での社会的技能を向上させる場合に役立つだけでなく、リハビリテーション場面において独立した作業行動を確立させる場合にも役立つ。例えば、軽度精神薄弱者向けワークショップの多くでは、トークン制度を実施しているが、これによる経済体系は作業所内の管理者や指導者が作ったものとなっている。モデリングや代理強化を用いれば、訓練生はワークショップにおける諸場面で自己評価や自己決定、自己強化などに関与することができる。このことは、訓練生が自ら仕事の基準を設け、その基準に達したか否かを評価し、自分のトークンを自由に使えるようになるということを意味している。先に述べた諸研究でも、ワークショップ場面における自己観察の効果について示しており、自己統制能力は職業場面において教えることができ、きちんと持続している。

模倣学習の将来の方向

 数年前、AltmanとTalkingtonは、精神薄弱者訓練の方法として、モデリングを広範に使用した方がよいという論文を発表したが、その中で彼らは、特に次のようなことを述べている。

 面白いことに、精神薄弱者は行動変容が特別に必要であるのに、行動の欠落点を矯正しようとしてモデリングを用いる試みは、ほとんどされなかった。……この報告の目的は、精神薄弱者の行動変容の方法として可能性を持ちながらも、いまだ利用されなかったモデリング法を前進させることにある。

 本稿で報告した諸研究から、精神薄弱者を訓練するための教育技術としての模倣学習には、前進があったことが示されている。4年間という比較的短い期間に、訓練技法としてのモデリングの使用が、これだけ増えてきたことは注目すべきことである。将来の研究では以下の方向に重点がおかれるであろう:

1.教室内やリハビリテーション場面で、代理強化の使用が増す。

2.低機能の精神薄弱者に対しての、象徴的なモデリング使用の効果について研究される。特に、重度および最重度の精神薄弱者は象徴的モデルを通して学習できるのか、もしできるとしたらどのような条件のもとでなのかが論じられる。

3. 複数のモデルは、新しい環境への行動の般化に関して、どのような役割をするか;モデルの演技を見せる回数は、技能の習得および維持に関してどのような役割を持つか。

4. 精神薄弱者の行動過剰を減少させるテクニックとしてのモデリングの前途はどうなのか。

5. 精神薄弱者の自己統制能力を育てるうえで、モデリングが何らかの役割を演じることができるのか。

6. 大人のモデルと比較した場合、仲間のモデルは行動に影響を及ぼすうえでどのような役割を持つのか。

7. モデリング効果だけから生じる結果はどのようなものか(シェーピング法と混合させないで)。

 1967年に、最重度の子どもに初めて模倣の仕方や反応の般化の仕方を教えて以来、観察学習は長い道のりを歩んできた。これからのプログラムでは、訓練場面におけるモデリングの新しい戦略を開発し続けることが望まれる。行動変化のテクニックとしての模倣学習を、精神薄弱者の新しい技能を訓練する手段として用い、リハビリテーション場面に広げていく必要がある。

Rehabilitation Literature,Feb.1976から)

参考文献 略

*Wisconsin 大学Madison 校の行動障害研究部の助手で、最近Ph.D. の候補となった。彼はDr.William Gardnerのもとで研究している。イリノイ州立大学で心理学修士の資格を得、1972年から1974年まではリンカーン州Lincoln State Schoolの心理学専門職であった。
**東京都心身障害者福祉センター精神薄弱科


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」1977年4月(第25号)2頁~10頁