Leon J. Schofield, Jr.*
Sandralawae Wong
生川善雄**訳
子どもの集団に対してのオペラント技法の使用については、最近の文献では少ししか言及されていない。そのようなアプローチの主要な報告は、Clementと彼の同僚によって、主として普通学校における内気で孤立した子どもの集団に対して行われたものである(Clement and Milne 1967, Clement 1968, Clement et al. 1970 a, b)。ほかの者は、学校場面において、分裂的な(disruptive) 行動を減らし、適応性のある行動を増やすために子どもの集団に対してオペラント技法を用いた(Barrish et al. 1969, Hinds and Roehike 1970, Herman and Tramontana 1971)。同様なアプローチは、また、学童間の社会測定状態を改善するためにHansen et al. (1969) によって使用された。これらの報告は、主に普通学校の子どもたちに対する集団カウンセリングへのオペラント技法の適用に関してのものであった。
最近、Schofieldとその同僚は、情緒障害児の寄宿制治療センターにおいて、4名の社会不適応男児の間で、課題に向ける注意と仲間同士の相互作用の頻度とを首尾よく改善した(Schofield et al.1974)。男児の年齢の範囲は8歳2か月から10歳であり、知能の平均は低かった(平均IQは92)。彼らは1週間に1度ひきあわせられ、それぞれのセッションは30~45分間続けられた。適切な行動は、「ほうび」を得る得点数を明確に記した得点方式を採用することにより、また、言語的賞賛および身体的接触(たとえば、抱き締めること)により、それぞれ奨励された。
治療の初期には、静かに座ること、指示された活動をすること、および治療者の要求に従うことに対し、それぞれ得点が与えられた。後には、オモチャや教具を分け合うようなこと、進んで他者を援助しようとすること、他者に言語的な支持や示唆を与えること、あるいは競技を行うことに対し、それぞれ得点が与えられた。不適切な行動は、それがその時に行っている行動を中断させないならば無視することにより、また、1分の中休み(部屋のすみのイスに座る)により、それぞれ減じられた。
本研究は、脳性マヒと精神遅滞の両方ないしはいずれか一方を有する小さな私立学校の4名の子どもについての、課題に向ける注意および社会化を改善するために計画されたものである。
仮説は、治療の結果として、(1)集団治療場面の中での「課題に取り組む」行動の割合の増加、(2)集団治療場面の中での社会的相互作用に費やす時間の割合の増加、および(3)教室での適切な行動の増加と不適切な行動の減少、がそれぞれみられるだろうということであった。
脳性マヒ児と精神遅滞児のための通学制学校の同じ学級の男児4人が集団セッションに参加した。彼らの年齢の範囲は4歳10か月から5歳7か月であり、IQの範囲は58から107であった(表1)。IQはスタンフォード・ビネー尺度により測定された。その検査は集団セッションに7~11か月先だって実施され、その診断は集団セッションに1~10か月先だって専門医により行われた。
子ども |
年 齢 |
IQ |
診 断 名 |
被験者1 | 5:3 |
107 |
知覚―運動障害と言語遅滞 |
被験者2 | 4:10 |
81 |
脳性マヒ |
被験者3 | 5:7 |
58 |
自閉的特徴を有する遅滞 |
被験者4 | 5:0 |
92 |
特発性の精神的運動発作 |
子どものうち3人は約4か月半学校に通学しており、もう1人は16か月半通学していた。2人の子どもは重い言語障害を有しており、通常、他人に理解されえなかった。ほかの2人の子どももまた、いくらか言語障害を有していたが、彼らの言葉は通常理解されえた。4人の子どもはすべて、やや均整のとれていないスタイルではあったけれども、歩行可能であった。
同じ教室のほかの6人の子どもは集団セッションに参加しなかった。彼らのIQおよび診断名もまた多様であったし、彼らはセッションに参加した4人と同じ年齢範囲であった。概して、彼らのIQは、非常に低い2人の子どもを除いて、平均的範囲内の低い方であった。6人のうちの1人を除いてはすべて歩行可能であった。
場面
集団セッションは、円形テーブル、四つの小さなイス、およびすみに置かれた一つの小さなイスを除いて、どのような家具も置かれていない12フィート×15フィートの部屋で実施された。男児のチェック・シートがはられているコルクの掲示板を除いて、壁はむき出しであった。ほうびと教具とは子どもの手の届かない棚の上に置かれた。その棚の上にはまた、その部屋で教師がしばしば使用した別の教具も置かれていた。窓からのみ街路を見渡すことができた。ドアには一方視の鏡があった。
治療者
集団セッションの指導者は治療期間中2~3回変わった。最初の9セッションは筆者たちによって実施された。筆者たちのうちの1人(Schofield)はさまざまな場合における行動療法に関していくらかの経験を持っていた。もう1人(Wong) は行動修正に関していくらかの知識を持っていたが、個人へのそれの適用の経験はわずかであった。
10番目から15番目のセッションはSchofieldと子どもの教師ないしは助手とによって実施された。教師と助手とは交互に変わったが、彼らはいずれも行動修正に関して多くの知識は持っていなかった。最後の8セッションはWongと2人の心理学専攻の学生のうちの1人とによって行われた。2人の心理学専攻の学生は交互に変わったが、彼らはいずれも行動修正に関しての経験がなかった。
手続き
子どもたちは30分間のセッションのために週2回ひきあわせられた。23回の治療セッション、2回の治療前セッション、そして2回の治療後セッションがあった。すべてのセッションは火曜日と木曜日の昼食後の午後早くの休憩時間中に実施された。全セッションの活動が表2に掲げられている。
セッション | 一次的活動 | 二次的活動 |
12 | ブロック、「小魚のオモチャ」指人形、オモチャの農場動物 | |
23 | 大きなポスターの色ぬり | |
3 | パズル | |
4 | 積み木 | |
5 | 積み木と自動車 | |
6 | 色の再認と命名 | 治療者による色の学習指導 |
7 | 色のマッチング4 リレー競争 |
治療者による色についての復習 |
8 | 形のマッチング リレー競争 |
治療者による形についての復習 |
9 | 数の再認と命名 | |
10 | 数のマッチング リレー競争 |
|
11 | 文字ビンゴ | |
12 | 文字のマッチング リレー競争 |
治療者による文字についての復習 |
13 | 数ビンゴ | 治療者による数についての復習 |
14 | 役割遊び 形と色に関する「先生ごっこ」 |
治療者による形と色についての復習 |
15 | 指導者について歩く | 形と色に関する「先生ごっこ」の役割遊び |
16 | 身体の部分に関する「シモンの発言」(指定された身体の部分に触れる) | 整列して並ぶ5 治療者による身体の部分についての復習 |
17 | 数に関する「先生ごっこ」の役割遊び | 整列して並ぶ |
18 | 色のマッチング リレー競争 |
整列して並ぶ 子どもは色に関する「先生ごっこ」をして遊ぶ |
19 | 積み木 | 整列して並ぶ 整列して歩く |
20 | パズル | 整列して並ぶ 整列して歩く |
21 | 2人ずつ組んで文字のマッチングを助け合う | 整列して並ぶ 整列して歩く 子どもは数に関する「先生ごっこ」をして遊ぶ |
22 | 2人ずつ組んで数のマッチングを助け合う | 整列して並ぶ 整列して歩く 子どもは数に関する「先生ごっこ」をして遊ぶ |
23 | 店屋ごっこ(記憶を使う) | 整列して並ぶ 整列して歩く |
24 | 多くの指示に従う(たとえば、「―を取り上げる、ドアを閉める、―と握手をする」) | 整列して並ぶ 整列して歩く |
25 | パズルと輪投げ | 整列して並ぶ 整列して歩く |
262 | 積み木「小魚のオモチャ」、指人形、農場動物 | |
273 | 大きなポスターの色ぬり | |
1 言語的な賞賛と励ましだけが使用された治療前および治療後セッション(1、2、26、そして27)を除いて、全活動(一次的にせよ二次的にせよ)は適切な強化を伴っていた。
2 基準となるセッション;組織化されていない活動。子どもたちはいくつかの、あるいはすべてのオモチャで遊ぶようにと言われた。 3 基準となるセッション;組織化されている活動。子どもたちは大きなポスターに色をぬるようにと言われた。ほかのどのような活動も有効とはされなかった。 4 表を通して、「マッチング」とは、板あるいはカードにおける該当するものの上に形、色、数ないしは文字を置くことを意味する。 5 整列して並んだり歩いたりすること(2分ないし5分間)が、セッション中の順序および教室へ戻る時の順序を維持するために、多くのセッションの始めと終わりとにおいて行われた。 (訳者注)セッション11および13のビンゴとは、数や文字を記したカードの目をうめて勝負をきめる遊戯のことである。 |
2回の治療前および2回の治療後セッションは、Schofieldによって実施された。Wongと1人の心理学専攻の学生とが、一方視の鏡を通して観察し評定していた。子どもたちはいくつかのオモチャのうちから選択できたので、治療前のセッションのうち最初のセッションはそれほど組織化されてはいなかった。2回目のセッションは一つの活動のみであり、より組織化されていた。各々の子どもは床にとりつけられた1枚の大きな白紙のポスターに色をぬった。言語的な励ましの強化のみがこれらのセッションで用いられた。これと同じ活動は2回の治療後セッションにおいても同じ順序と方法で呈示された。これらの活動は最後の治療セッション後、その同じ週に直ちに実施された。しかしどのようなフォローアップ・セッションも実施されなかった。なぜなら、集団セッションは学年の終わり近くに終了し、その後、子どもたちのうちの2人はその学校の別々の学級に入れられ、他の2人は別な学校の特殊学級に入れられたからである。
一次的強化を使用しないことおよびチェック・マーク方式から始めることが決定された。チェックは適切な個人および集団行動を強化するために、そして望ましい行動を奨励するために使用された。20あるいはそれ以上のチェックがたまると、小さなオモチャないしは菓子の入ったあてもの袋(福袋)のほうびをもらう資格を子どもに与えた。子どもたちがほうびをもらえるよう得点を得られるように、チェックは各々の子どもに対しておよそ1分半ごとに与えられた。失敗は23セッションのうち励ましと奨励とが効果をもたなかった、2回で生じたにすぎなかった。
最初は、静かに座ること、活動に従事すること、および治療者の指示に従うことに対して、それぞれチェックが与えられた。治療の中ほどでは、手をあげて答えること、名指しされるのを待つこと、整列して並ぶこと、および整列して歩くことに対して、それぞれチェックが与えられた。最後の数回のセッションでは、主として、オモチャを分け合うこと、教具を前後の人に手渡すこと、および互いに話し合うことといったような社会的相互作用に対して、それぞれチェックが与えられた。
最後の3セッションでは、ほうびは除かれ、社会的強化および1人の子どもにつき5ないし10回のチェックだけが与えられた。それらのセッションを通じて、チェックと関連した言語強化が用いられた。一領域において行動が改善されるにつれて、チェックは新しいより複雑な行動に対して与えられ、言語強化と結びつけられた。言語的な賞賛は、チェックなしに、「前に」命令された行動のいくつかに対して継続して与えられた。
適切な行動を励ますことだけでは不適切な行動を除去するのに十分ではない、ということが間もなく明らかになった。そこで、「中休み」の手続きが治療の最初のセッションに導入された。1分の「中休み」(部屋のすみのイスに座ること)が、攻撃的な行動や、課題を満足に遂行しているほかの子どもたちの妨害となる行動に対して与えられた。また、治療の中ほどでも、子どものうち2人が床に横になったり、部屋を歩き回ったりした場合、別の方法でこのような望ましくない行動を除去できなかった後に、「中休み」が与えられた。子どもが自発的に「中休み」をとらないならば、彼らは2分間部屋の外で立つよう命じられた。そうしない場合には、強制的にそうさせた。23セッションにおいて、わずか25回の「中休み」が実施されただけである。そのうちの5回は部屋の外での2分間であった。
4人の子どもすべてが課題に対して注意を注がない(「課題に取り組まない」)ならば、集団セッションは終了された。このようなことは、2回の治療前のセッション中と5回目の治療セッション中とのわずかに3回あったにすぎない。(5回目の治療セッションにおいては、活動は非常に扱いにくく、治療者は十分な言語強化ないしはチェックを与えなかった)。これら3回のセッションはすべて12分から15分後に終了された。
治療に参加している子どもが欠席した時は、代理の集団構成員が教師によって選ばれた。これらの代理の子どもたちはセッションの方法に慣れていなかったけれども、彼らは治療者の励ましとほかの子どもたちを模倣することにより、たやすく学習した。23セッションのうち8回は代理の子どもが必要であった。どのような「中休み」も代理の子どもに対しては与えられなかった。
信頼性
治療前および治療後のセッションは、Schofield et at.(1974)と同様な方法で評定された。2人の評定者が討論やあらかじめの訓練なしにセッションを評価した。彼らは3種の行動、すなわち、「課題に取り組んでいる」行動と「課題に取り組んでいない」行動、相互作用の存在と型、そして子どもの相互作用の性質と特性、に関して各々の子どもを評定することを依頼された。
「課題に取り組んでいる」行動とは、提示された活動に従事することと治療が表示したり、ほのめかしたりした指示に従うこととの両方ないしはどちらか一方である、と定義された。また相互作用とは、大人あるいは子どもとの何らかの身体的ないし言語的接触である、と定義された。子どもの相互作用の性質と特性は、ポジティブ、ニュートラル、あるいはネガティブとして評価された。ポジティブないし協調的な遊びとは2人以上の子どもが共同しあい、他者の目的を全般的に認めることを要求する共通の活動に従事することである、と定義された。ネガティブな行為は他の子どもを押したり打ったりすることを含んでいた。それ以外の子どもの相互作用はニュートラルと評定された。
評定は任意の観察順序に従って15秒ごとになされた。その結果、それぞれの治療セッション中、各々の子どもは1分ごとに1度評定されたことになる。「課題に取り組んでいる」場合および「課題に取り組んでいない」場合の評定に関しての全体にわたる評定者相互の一致度は89.2パーセントであった。(他の子どもとのあるいは治療者との身体的ないし言語的な)相互作用に関しての一致度は79.5パーセントであった。相互作用の存在に関して一致している場合には、(子どもと子どもの、大人と子どもの)相互作用の性質についての評定者相互の一致度は100パーセントであった。子どもの相互作用の性質(ポジティブ、ニュートラルあるいはネガティブ)もまた評定されたが、その評定者相互の一致度は65.2パーセントであった。
教室における行動も、治療前と治療後とに評定された。治療前のセッションの評定者はまた、2回の治療前の教室での評定をも行った。しかし、最初の評定者のうちの1人は、2回の治療後の教室でのセッションを評定することはできなかった。
教室での観察は、治療セッションが始まる1週間前およびそれらが終わってから1週間後に、約1時間ずつなされた。ここでも、評定中にはどのような討論もなされなかったし、また、どのような実際的な訓練も評定のためになされなかった。評定者は「課題に取り組んでいる」行動と「課題に取り組んでいない」行動とを評定するよう依頼された。「課題に取り組んでいる」とは教師の指示に従うこと、教師のいうことをきくこと、そして活動に従事すること、と定義されている。教室での活動は、出欠を調べること、「示して話すこと(show and tell)」、絵の同一視、および週の日付けの確認といったような質疑応答型のものであった。ほかの活動は、色をぬったり紙をはったりするといったような机に向かって行う作業であった。
評定は任意の観察順序に従って5秒ごとになされた。「課題に取り組んでいる」活動と「課題に取り組んでいない」活動とに関しての評定者相互の一致は、治療前では86.6パーセント、治療後では84.7パーセントであった。
評定者の不一致は平均することによって解消された。すなわち、教室および集団セッションの評定に関して、実際に考察されたり報告されたりした数字は、個々のカテゴリーに対しての2人の評定者の数字の平均であった。
観察結果
最初の仮説は支持された。治療に従って、すべて4人の子どもは全般的に、そして組織化されている活動および組織化されていない活動の両方に対し、「課題に取り組んでいる」時間の割合が増加した。全体にわたっては、被験者1は46.7から85.7パーセントへ、被験者2は26.7から91.7パーセントへ、被験者3は33.3から95.2パーセントへ、そして被験者4は50.0から85.7パーセントへ、それぞれ増加した。組織化されている課題においては、被験者1は50.0から92.9パーセントへ、被験者2は20.0から88.1パーセントへ、被験者3は30.0から92.9パーセントへ、そして被験者4は32.1から71.4パーセントへ、それぞれ増加した。組織化されていない課題においては、被験者1は43.3から78.6パーセントへ、被験者2は33.3から95.2パーセントへ、被験者3は36.7から97.9パーセントへ、そして被験者4は65.9から100.0パーセントへ、それぞれ増加した。
第2の仮説は部分的に支持された。1人ないしはそれ以上のほかの子どもと相互に作用しあいながら過ごした時間の割合は、治療前と治療後との組織化されていないセッションを比較すると、4人の子どものうち3人が増加した。
被験者1は13.3から9.5パーセントへとわずかに減少した。被験者2は10.0から21.4パーセントへと増加した。被験者3は23.3から45.2パーセントへと増加した。そして被験者4は23.3から26.2パーセントへとわずかに増加した。もちろん、1人ないしはそれ以上のほかの子どもと相互に作用しあう時間の割合は、治療前と治療後との組織化されているセッションの間では、4人の子どもすべてがはっきりと減少した(28.6から9.5パーセントへ、16.7から7.1パーセントへ、20.0から7.1パーセントへ、そして13.3から7.1パーセントへ、それぞれ減少した)。このことは課題の性質および課題への注意を持続するための子どもの能力の増大と一致している。
4人の子どもの間での相互作用の頻度が比較的低く、ニュートラルな相互作用が支配的であり、そして相互作用の型(ポジティブ、ニュートラルないしはネガティブ)の評定に関する信頼性が低いために、相互作用の性質についてのいかなる有意味な分析もできなかった。しかしながら、注目された何らかの変化はポジティブな方向にあった。
第3の仮説は部分的に支持された。4人の子どものうち3人は「課題に取り組んでいる」行動の割合が増加した。被験者1は83.3から91.0パーセントへ増加した。被験者2は91.7から88.9パーセントへ減少した。被験者3は81.4から92.4パーセントへ増加した。そして被験者4は83.3から95.1パーセントへ増加した。「課題に取り組んでいる」行動の割合が最初から高いのは、「課題に取り組んでいない」行動を確認するのに困難を有し、騒々しい場合を除き、このようにネガティブな得点を与えることを嫌うという評定者の傾向ばかりでなく、学級の非常に組織化されたきびしい性質を反映しているのであろう。
教師はまた、治療前と治療後の学級における各々の子どもについて16の行動を評定することを依頼された。それらの行動は次のようであった。すなわち、静かにいすに座ること、手をあげて答えること、押したり取っ組みあいをしたりすること、ほかの子どもに話しかけること、整列して静かに並ぶこと、整列して静かに歩くこと、ほかの子どもたちと遊ぶこと、授業中にあれこれ話すこと、教師ないし助手に注意を払うこと、叫ぶことないし機嫌が悪いこと、指示されたら活動するために注意を払うこと、指示されなくても活動するために注意を払うこと、「空白」を凝視すること、破壊性(物を投げたり壊したりすること)、指示に従うこと、そして次の活動ないしは指示を静かに待つこと、であった。
治療前の平均得点が16の行動カテゴリーの各々に関して得られた。4人の集団構成員は、概して、16のカテゴリーに関し学級全体の平均ないしはそれ以下であった。被験者1は八つのカテゴリーで平均以上、八つで平均以下であった。被験者2は九つで平均以上、六つで平均以下(一つは同じ)であった。被験者3は二つで平均以上、14個で平均以下であった。そして、被験者4は10個で平均以上、六つで平均以下であった。治療後の平均得点もまた、16の行動カテゴリーの各々に関して得られた。治療前の評定と比較して、4人の集団構成員は集団構成員でない者よりも、改善に関してより大きな頻度と割合とを示した(表3)。
改 善 | 変化なし | 悪 化 | ||||
集団構成員 | 数 |
% |
数 |
% |
数 |
% |
被験者1 | 11 | 68.7 | 3 | 18.7 | 2 | 12.5 |
被験者2 | 9 | 56.2 | 6 | 37.5 | 1 | 6.2 |
被験者3 | 14 | 87.5 | 1 | 6.2 | 1 | 6.2 |
被験者4 | 13 | 81.2 | 3 | 18.7 | 0 | 0.0 |
非集団構成員 | ||||||
被験者5 | 7 | 43.7 | 8 | 50.0 | 1 | 6.2 |
被験者6 | 8 | 50.0 | 6 | 37.5 | 2 | 12.5 |
被験者7 | 4 | 25.0 | 10 | 62.5 | 2 | 12.5 |
被験者8 | 10 | 62.5 | 6 | 37.5 | 0 | 0.0 |
被験者9 | 5 | 31.2 | 10 | 62.5 | 1 | 6.2 |
被験者10 | 9 | 56.2 | 7 | 43.7 | 0 | 0.0 |
4人の子どものうち3人は、評定された多くの行動において学級全体の平均以上であった。被験者1は七つのカテゴリーで平均以上、九つのカテゴリーで平均以下であり、被験者2は九つで平均以上、七つで平均以下であり、被験者3は11個で平均以上、五つで平均以下であり、そして被験者4は13個で平均以上、三つで平均以下であった。このように、4人の子どもはすべてその評定において実質的な改善を示したが、4人のうち2人だけについて、この改善が学級全体の改善よりも大きかった。
脳性マヒ児および精神遅滞児の集団療法へのオペラント原理の適用は、集団の指導者への注意および課題への注意を高めるのに効果的であると思われる。また、集団構成員の間での社会化の増大のきざしもいくらかみられた。この増大は「課題に取り組んでいる」行動に比べて、それほど印象的なものではなかった。なぜなら、終わりの方のセッションの何回かを除き、この増大は治療者の主たる興味の中心ではなかったからであり、また、子どもたちのこの増大がより複雑で困難なものであることを見いだしたからである。以前から相対的に不足している仲間との相互作用や子どもの言語障害もまた作用していた。それにもかかわらず、行動的技法が適切な行動を確立するのに有効であるように思われる。
教室での行動についての教師の評定および「課題に取り組んでいる」行動についての評定者の観察は、行動の改善が教室の中へと及んできているということを示した。教師が改善すべく留意した点は広い領域にわたっていたが、特に本質的であるということもなかった。おそらく、それは適切な行動に対する強化の相対的欠如や不適切な行動に関しての一貫しない罰が、学習行動を消去させることになったためだろう。
本研究においては、教師と助手とは2回の治療セッションにおける共同指導者であり、それらのセッションについての何回かの討論に参加した。このようなことは治療プログラムの技法を続けようとする教師の関心と動機づけとを高めたようであるが、しかし一時的なものにすぎなかった。時間不足のために教師が共同指導者をやめた後では、教師の関心や適切な強化の使用は減少した。教師の訓練と「学級での」治療プログラムを増やすことは、教室での長期の行動変容を確実なものにするのに役立つだろう。他方、「ゲスト指導者」として教師を含めることは、「学級での」プログラムに無理をして傾倒することなく、その技法とそれらの適用とについて学習する機会を教師に与えるだろう。
いくつかの強調されるべき結果が明らかになった。第一に、子どもたちはかなり幼かったけれども、一次的強化から始める必要はなかった。このことは、指導者(たとえば「私の方を見なさい」)、チェック(たとえば、私がそれを板の上に置いた時私を見れば、チェックがもらえるだろう」)、適切な行動(たとえば「君が座ることは非常によいことだ」)、および蓄積されたチェックの結果(たとえば、「君の用紙がチェックで一杯になれば、君はほうびがもらえるだろう」)のそれぞれに関する子どもの意識を高めることにより、最初の2・3セッションの間に実行できた。
もう一つ別の結果としては、集団の指導者の交替が集団の前進の重大な障害にならなかった、ということである。何らかの抵抗ないしはぎこちなさが示された最初のセッション以降は、それぞれの新しい指導者たちは彼らの役割においてより快的となり、より効力をもつようになった。おそらく、それは2人の経験を積んだ指導者(筆者たち)のうちの1人が常にいあわせたからであろう。作業を分担したことに加え、指導者を変えたこともまた何人かに対し貴重な訓練を与えたことになった。
最後に、欠席した集団構成員の代理となった別の子どもがどのようなつまずきも示さなかったということが見いだされた。事実、「ゲスト」構成員は、チェックを得るためには何が要求されるのか、また、蓄積されたチェックの結果がどうなるのか、ということを非常に速やかに学習した。「ゲスト」構成員はまた、しばしば、正規の集団構成員によって援助された。正規の集団構成員は、たとえば、そのような援助が自分たちの仕事であるということを、あるいはチェックを得るためには自分たちは何をすべきであるかということを、自発的に自分たちに言いきかせていた。このように、集団セッションは構成員を「変える」ことによって、あるいは、おそらく正規の集団構成員ではない学級の中の別の子どもたちが常に出入りできるような一つの場所を持つことによって、より効果的にさえなるだろうと思われる。
脳性マヒ児ないしは精神遅滞児の集団療法に対してのオペラント・アプローチの効力を検討するために、4歳10か月から5歳7か月の4人の男児に30分の治療セッションを週に2回ずつ合計23回与えた。治療後、子どもの課題に向ける注意にかなりの改善がみられた。そして、より少量ではあったが、子どもたちは社会的相互作用においてもいくらかの増加を示した。教師の評定もまた、教室での行動におけるいくらかの改善を示した。
(Developmental Medicine and Child Neurology, 1975 から)
参考文献 略
* 米国ホバート・ウィリアム・スミス大学心理学部
**東京教育大学大学院
(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1977年10月(第26号)8頁~15頁