特集/重度・重複障害児者のリハビリテーション 重度障害者のリハビリテーションにおけるプレースメント

特集/重度・重複障害児者のリハビリテーション

職業

重度障害者のリハビリテーションにおけるプレースメント

The Placement Process in the Rehabilitation of the Severely Handicapped

William M. Usdane, Ph. D.

池田勗**

 過去25年以上にわたって、プレースメントについては、天候が話題になるのと同程度に頻ぱんに語られてきている。しかし、その成果として何らかの変化や方向づけができたかというと、何ほどのこともないままにきている。リハビリテーションサービス分配体系の中でのプレースメント過程は、重度障害者に対して用いられる種々のサービスの中にあっては最も専門化されていない領域である。

プレースメントにおける専門性:新しい開拓者

 職種の開発、求人の懇請、障害者のための労働市場予測、職業工学、職業のあっせん、職業的フォローアップといった、プレースメント過程における諸面での専門性の進展具合は、非常に不均等である。1973年のリハビリテーション法、1974年の法改正を通じて、重度障害者の就労に焦点があてられ続けているにもかかわらず、プレースメント過程における専門性については、大学院レベルでの訓練にとり入れるような画期的なものは生まれてきていない。例えていえば、プレースメントワーカーを訓練するための大学院コースはと見ても、リハビリテーション庁がスポンサーとなっているもの、あるいはそれ以外のもののいずれにおいても、いまだに目ぼしいものはない。プレースメント過程のコースが一つ二つあったり、あるいは、リハビリテーションカウンセリングに関する数ある大学院カリキュラムの中の一「課程」にプレースメント過程を強調するものがあっても、これらのプログラムの焦点は当然のことながらカウンセリングに力点を置いたものとなっている。

 リハビリテーションサービス分配体系の中に、プレースメント過程を扱うための新しい開拓者が出現する必要がある。Dunn が1974年12月の論文で述べているように、「プレースメントと就職後の職務適応指導の重要性は、プロセスの最終段階だけに限定されたものではなく、どの段階においても重要のはずである」。

 この論文は、職業評価と作業適応に焦点をあてた、ウィスコンシン大学スタウト校研究訓練センター(Menomonee)からの副産物である。職業評価と作業適応という二つの重要な領域も、スタウト校、アラバマ州立大学(Auburn)、ICD 研究訓練センター(New York)、その他、専門職の組織化や定期刊行物発行といった活動を通して、開拓者的推進をした人たちの指揮、リーダーシップによって今日を迎えたものであるが、プレースメント過程もその革新的、実験的発展のためには、同じように積極的な専門的リーダーシップを必要としている。このような進歩は、重度障害者に対する全過程の眼目は就労―直ちにであろうと長期的に見てであろうと―であるとする、リハビリテーションサービス分配体系にあっては特に重要である。職種の開発と求人の懇請、誘致、勧奨には少しずつ専門性が出てきているが、しかしまだ、大学からの強い支持や承認が得られるまでにはなっていない。

 保健教育福祉省リハビリテーションサービス局長の Dr.Andrew S. Adams は、最近、障害者の就労について講演した中で、プレースメント過程の重要性について以下のように述べている:

 障害者が就労できるようにするために現在なされている仕事に、私は満足することはできないでいる。私はまた、彼らが就労した後にも最大の上向移動ができるかどうかについても関心を持っている。我々の社会が、障害者に彼らの最高のレベルで働くことができるよう援助できなければ、社会は障害者の労働から十分な見返りを得ることはできないであろう。

 1973年のリハビリテーション法の求めに基づいて、議会に提出された特別報告書の一つに、「重度障害者のリハビリテーションにおけるシェルタードワークショップの役割」というものがある。この報告書は、ランダムに抽出した400箇所のワークショップの調査に基づいて、以下のように報告している。  

 労働的ワークショップと認可された場所は総計2,766あり、そこでは、年間410,000人がサービスを受け、各年182,000人が終了している。全国の認可ワークショップにいるクライエントのうちの、10%が毎年一般雇用にあっせんされていると推定される。1日当たり140,000人がワークショップで処遇されているが、このうち100,000人が長期的で報酬を伴う仕事に就労している。1973年リハビリテーション法の101条は、施設内あるいはワークショップで長期的に就労している障害者に対するリハビリテーションサービスとして、定期的な再審査と再評価を行う年間計画を立てなければならず、この定期的な再審によって、一般労働市場への就労あるいはそれに向けた訓練の可能性が判断されなければならない、としている。

 この条文の内容と、個人ごとに文書化されたりリハビリテーション計画との両者が、重度障害者の就労可能性を保証するための基本である。現在および将来にわたってプレースメント過程における専門職性が今までになく必要となってきている。

概念再構成したプレースメント

 プレースメント過程は、概念の再構成をする必要がある。最近のサービス内容のリストから始めるのが手近であろう。リハビリテーションサービスを、医療、心理、社会、レクリエーション、職業というように直線的に並べた場合に、プレースメントの位置は、常に最終段階の<職業>の中に置かれている。さらに、職業領域内で直線を作ると、慣習となっているのは、カウンセリング、評価、作業適応指導、訓練、そして最後にちょっぴりプレースメントとなる。障害者とリハビリテーションカウンセラーとの出会いにおいては、常にカウンセリング関係というものが基本的関心事となっている。しかし、その出会いにおいてプレースメントが基本的焦点に含められることは稀である。リハビリテーション分野にいるワーカーは、他のサービスが完了した後にしかプレースメントについて考慮しないと考えるのは、単純すぎるのかもしれないが、この印象を変えようとしても、専門的プレースメントワーカーとして訓練されたものがまだひとりもいないことも明らかである。

 国―州プログラム内においては、リハビリテーションカウンセラーの役割機能の一部にプレースメントの職責が位置づけられている。多くのリハビリテーション施設においては、州のリハビリテーションカウンセラーが巡回して来るまでプレースメントが延期されている。その施設の職員にリハビリテーションカウンセラーが採用されていても、カウンセリングと評価に力点が置かれているのが通例である。プレースメントは、他機関への紹介過程の中にかくれてしまい、「紹介」あるいは、仕事への「準備完了」、で終了とされることが多い。

 カウンセリングは、障害者を就職できる状態に準備させるのにはすばらしい働きをすることができるが、いつもその背景に、職種の開発、求人の懇請、職業工学、をプレースメント過程の主要部分と考える専門的理論を持っているわけではない。本論は、最後にあげた三つの内容が、リハビリテーションカウンセラーの訓練カリキュラムに含められるべきだとここで主張するつもりはない。既に、現行のリハビリテーションカウンセリング資格認定と、リハビリテーションカウンセリングの大学院カリキュラムの認定基準の両方ともが、その方向に大きく踏み出しているのである。

 しかしながら、プレースメント業務もチームの一員となるべきひとつの職責であるという原則が敷かれなければ、プレースメントに対する考慮がリハビリテーション過程の初期に現れることはないだろうし、最後までそのまま行ってしまうことになろう。リハビリテーションの眼目には、就職後の職務適応指導サービスと共に、労働市場情報のサービスも含まれる。しかし、サービスの直線的配列概念では、プレースメントをサービス体系の最後に位置づけてしまい、重度の障害者は見過ごされてしまいやすい一員となる。最近は、交通上の障壁や建築上の障壁の除去が法制的にも必要とされるようになっており、プレースメントワーカーの役割は必須のチームメンバーとして、より以上に重大なものとなってきているのである。現在では、1973年のリハビリテーション法5章の規定により、アファーマティブアクションプログラムがリハビリテーション概念の一部に入ってきているが、これはプレースメントワーカーの職責を通して成し遂げられるものなのである。

 にもかかわらず、リハビリテーションチームに、a)プレースメントを中心にした広範囲な知識を大学院で専門的に訓練されたもの、b)リハビリテーション過程の初期から、職種の開発、求人の懇請、労働経済予測、労働市場情報、職業工学、職業へのプレースメント、定着指導の職責を与えられたもの、が加わることは稀である。重度障害者の職業的発達を内容に含めた革新的サービスプログラムの場合であっても、プレースメント援助という面は軽く扱われている 。それらは、保健分野のパラプロフェッショナルとしての重度障害者向け技術の開発にかかわっていて、実際のプレースメント過程に光をあてることはあまりない。プロジェクトの中心テーマは職業的発達か訓練である。しかし、専門的訓練を受けたプレースメントワーカーの援助なしには、そのような職業に向けた訓練は行きづまるか、無報酬の仕事しか与えられなくて重度障害者に満足を与えることができない結末となる。現実の仕事につく期待を持って訓練したり準備したりして、実際にはそれが実現されないという事態は、障害者にとっても非障害者にとっても有害である。

 重度障害者の総合的職業リハビリテーションに関する会議が、ジョージワシントン大学医療センターで開催された。職種開発プレースメント部会での話題は、プレースメントワーカーとしての専門職の展開に関してはさしたるものが出されず、実験的経験の概観が中心であった。それにもかかわらず、プレースメントスペシャリストまたはプレースメントカウンセラーと名づけられた職員が、紹介活動のために地域資源を活用し、職業的探究のために類似職務の模造試験を数多く行ったという好事例が示されていた。この場合、プレースメントはまとまった理論あるいは適切な訓練にもとづいて行われたわけではなかった。会議の目的とはされていなかったが、この例が、チームの中にだれかプレースメントスペシャリストあるいはプレースメントカウンセラーと呼ばれるような人が必要である、ということを示していたことは明白である。

 再度、リハビリテーションサービス分配体系の各段階を直線的順番に配列した場合に、<全体を通して>プレースメント過程というのが継続的に考慮されるよう、概念再構成することが時宜を得ていると指摘したい。プレースメント精神のないチームメンバーの、気持ちの持ち方として最良のことは、重度障害者のリハビリテーションの最大眼目を、ごまかすようなことをやめようとすることである。

 いかなる概念再構成の場合にも、プレースメント原理が、リハビリテーション過程全体を通してずっと基底に流れているように位置づけることがすすめられる。もちろん、カウンセリング原理は関係づけの方法として重要である。しかし、重要な成果―プレースメント―も障害者にとって主要な期待である。現代はコンシューマー(消費者)の時代である。そして、州の職業リハビリテーションサービスを受けているすべての障害者が、好結果につながるプレースメントを期待するのが妥当であり、合法的なのである。

 国際的にも、国連の Development Program とILOの共催を得て、ポーランドで開催された地域セミナーで、プレースメントサービスに対する社会的要請とプレースメントワーカーの必要性が、つぎのように表明されている:

 リハビリテーションチームが直面している最大の問題は、コースの最終段階に、障害のある訓練生が、商業あるいは工業の中の特定の職務に適し、その準備ができたということがわかって、就労機会を探すときにやってくる。資格のあるプレースメント担当者がチームの一員となり……適切な求人を探すために、人事担当者、労働組合……商工会議所、個人の雇用主等と連絡を保つ職責を持っている。

 プレースメント過程に連続するサービスの延長については、公法93―112、1973年リハビリテーション法103条、(a)(2) 「障害者のカウンセリング、ガイダンス、紹介、プレースメント」に示されている。

リハビリテーションカウンセラーの専門的、機能的役割

 大学院で、リハビリテーションカウンセラー候補生の前にいる専門職のモデルは、教育者あるいは大学教授である。ほとんどの場合、教育者は必然的に心理学者がガイダンスカウンセラーであって、明らかにプレースメントワーカーではない。カウンセラー訓練プログラムは、どれもがカウンセリング過程に焦点をあてているのである。

 プレースメントに対する準備期間中のリハビリテーションカウンセリングが、カウンセリング関係を強調するのは当然ではあろう。州立職業リハビリテーション機関にいるリハビリテーションカウンセラーが機能する役割は、ケースマネージャー、カウンセラー、プレースメントカウンセラーとなっているが、ケースマネージメントと、様々の機関内でのマネージャー任務が、彼らの日々の活動の大部分を占めている。多くの場合、カウンセラーモデルとしての時間は非常に少ない。州機関でのリハビリテーションカウンセラーのモデルは、プレースメントカウンセリングに焦点をあてたケースマネージメントとケースコーディネーターの役割に大変大きな比重がかかったものとなっているのである。

 Dunn は、州立職業リハビリテーション機関に対し、障害者のプレースメントを向上させるために21か条の運営上の勧告をしている。その17番目のものの中で、「プレースメント活動に従事することに対する否定的態度、彼らをそうさせようとする悪い傾向が、リハビリテーションカウンセラー全体に広く認められる」と強く指摘している。

 Scorzelli は最近の論文の中で、リハビリテーションカウンセラーの訓練内容に関する諸研究とか、リハビリテーションサービスの運営指針では、職業へのプレースメントとフォローアップの重要性が指摘されているが、調査の結果では現実は逆であって、リハビリテーションカウンセラーの役割と機能のモデルとして支持されていたのは、カウンセラー─コーディネーターのそれであったと述べている。

 彼はさらに、55人という少数のリハビリテーションカウンセラーのサンプルの場合ではあるが、彼らの目には、プレースメントには専門的役割は低いと映っているようで、「職務へのプレースメントやフォローアップの仕事は、補助職員やパラプロフェッショナルな人に譲るのがより効果的であり、実際的である」と感じていると指摘している。

 1972年の、リハビリテーションカウンセラーの役割と機能に関する会議でも、職種の開発とプレースメントの業務は、訓練の度合いはやや低く、リハビリテーション過程にあってはより専任任務として機能する補助的職員に与えられるべきだと述べられている。最近5年間の、リハビリテーション過程とその結果に関する全国的な実態調査の中で、リハビリテーションカウンセラーの役割、彼らの対人関係処理能力水準に関して、興味ある結果が示されている。この調査が、「カウンセラーの面接行動に限定していて、カウンセラーがクライエントの職探しやプレースメントのために行っている活動は考慮外に置いている」のが大変興味深い。

 ここでも、プレースメントは、リハビリテーションカウンセラーの業務結果の主要指標からは除外されていたのである。とにかく、この調査は、カウンセリングに力点を置いた業務効果という観点に大きな考慮が払われていたのである。この調査の結果が示すもうひとつの特徴は、「心理的変化<そのもの>がリハビリテーション目標となり得ると考えていた」という点である。

 プレースメント技法は、大学院のリハビリテーションカウンセラープログラムを卒業した後に、現職訓練または短期訓練を通して与えられることが多い。これら種々の形態の訓練は、本来はカウンセラーとして訓練を受けた人たちから教わるという事態が続いている。このような研修の場合、州のプレースメントスペシャリストをスタッフに加えるのが普通である。彼らは元来カウンセリングの訓練を受け、その後の職務としては、大学院でのアカデミックな訓練内容とは異なった役割を行い、職業へのプレースメント分野では成功している人たちだからである。

 リハビリテーションカウンセラーのモデルは、カウンセラーであって、プレースメントワーカーをモデルにしようとされたことはない。リハビリテーションカウンセラー資格委員会では、資格認定プログラムへ参加したいという5,000人以上の応募者をかかえているが、リハビリテーションカウンセラーの、カウンセラーとしての専門性は、この資格認定の制度とカリキュラムの認定制度を通して、明らかに著しく向上してきているのである。プレースメントワーカーと名づける新しい専門職の役割と機能を設けても、重度障害者のリハビリテーション過程においてリハビリテーションカウンセラーが果たす重要な専門職としての役割を否定するものではない。作業評価者の場合と同様、プレースメントワーカーは画然と区別されかつ必要なプロセスを受け持つのである。

プレースメントワーカーの役割と機能

 プレースメントワーカーの役割と機能は、重度障害者が就労に結びつくためのプレースメント過程全体に主要焦点をあてたものである。リハビリテーションチームの中で、心理専門職、医師、リハビリテーションカウンセラー、ソーシャルワーカー、その他と対等な立場を持つためには、業務は明瞭、密接にプレースメントと関連していなければならない。職責には、前に述べたものもあるが、職種の開発、懇請に加えて、アファーマティブアクション政策との橋わたし、雇用主とリハビリテーション機関との協力関係の締結が含まれる。さらに、労働市場情報、求人変動に関係する経済動向、実業界の拡張、縮小循環、失業の原因等についての知識も含められるべきである。労使関係、労使関係を律する法律、取り扱いの実際と手順、組合活動の実際、団体交渉にも通じていなければならない。職業工学も関連ある重要な基礎であり、プレースメントワーカーの知識の一部として前にも指摘したとおりである。

 ほかの職員、特にリハビリテーションカウンセラーも、プレースメントに関与していることは否定されない。リハビリテーションチームのすべての人は、プレースメントを含めて種々の職務のどれでもやらなければならないことになっている。しかし、多くの場合、クライエントの立場から見るとその効果は芳しくない。

 ついでにいえば、リハビリテーション施設内において、心理専門職、ソーシャルワーカー、リハビリテーションカウンセラー間の、職務機能の重なり合いや補い合いの程度は、これらの職種とプレースメントワーカーの間のものよりもずっと大である。

プレースメントワーカーのモデルの必要性

 今までのところ、大学においても、公私いずれのリハビリテーション現場においても、専門的プレースメントワーカーのモデルはできていない。プレースメントに関して最近演じられている役割は、プレースメントスペシャリストとかプレースメントカウンセラーが行っているものだけである。これらの両者とも、リハビリテーションカウンセラーが職場訓練を経た後に新しい職務名をもらった<改造>名である。リハビリテーション施設内では、様々の背景、様々の経験を持った、非専門職の人がプレースメントの仕事をしているのが見られる。ボランティアがこの仕事を頼まれていることも多い。

 数少なくても、経済学部あるいは経営学部の中の大学院コースに、プレースメントワーカーのためのカリキュラムが創始されるまでは、適切な専門家モデルの欠如という状態が続くのであろう。

紹介過程:接触、仲介、就職

 リハビリテーションサービス分配体系の中で、チームメンバーが障害者もしくは重度障害者を他の機関へ紹介したいと考えるのは、プレースメント問題に当面した時点である。雇用サービス機関はこの議論対象からは除外する。というのは、ここでの議論は、個々の人を対象とした職種開発、懇請という複雑な過程が、その人のリハビリテーション過程に責任を持っている機関の外へ紹介することを通してやれるとは考えられない、ということを問題にしているからである。プレースメント過程における紹介とは、実際の仕事あるいはその可能性への紹介である。プレースメント過程内で行われる紹介、また障害者の期待する紹介は、実際の仕事あるいは就労機会と関連したものでなければならない。

 プレースメント過程は複雑であるが、Granovetter は、職場接触と就職の研究の中でこの問題を広くとりあげてうまく記述している。彼は、専門的・技術的・管理的職種への求職者が用いる紹介ネットワークについて論じている。この研究では、職を変えた一群の人たちについてとりあげ、なぜ彼らは他の人がやらなかったようなうまい接触をとったか、に注目している。この研究の中で彼は、専門的訓練を受けている非障害者がプレースメントに援助を必要としていると述べている。さらに彼は、リハビリテーション分野においては、よく訓練されたプレースメントワーカーが、重度障害者のために、代理人としての強い接触役とコミュニティとの仲介役を果たすことが必須のニードであると述べている。この研究では、ある特定の個人にやれる空席があるという雇用情報へ、どうやってその伝達路を探しあてるかの概要が述べられている。

 適切な時期に、適切な場所の、適切な仕事に、適切な接触を持つということは、臨時的にその気になった人にはできないことと思われる。まったく逆に、Granovetter は、知識を持ったプレースメントワーカーが、そのクライエントのために職種の開発、懇請を行うことができる体系を科学的に追跡している。彼は、40年以上にわたるブルーカラーに関する研究でも、プレースメントには類似の結果を示していると述べている:職業へのプレースメントの公式的メカニズムが、20%以上になることは稀である。逆に、60~90%は非公式な方法、主として知人、親戚を通したものである。直接交渉は、公私いずれの職業紹介機関の公式的接近よりもよい成績であった。

 Granovetter は、「就労機会情報の伝達性の方が、職種それ自体のいかなる特質よりも、労働移動の直接的条件になりやすい」といっている。彼によれば、プレースメントに関する研究、論文のうちには、「失業とか労働力不足問題に動機づけられた」、アメリカ的労働経済学者によるものがあまりにも多すぎる。彼の見解によれば、職を得るために必要な接触は、特に特定訓練を必要としている職業の場合には、前提となる労働市場や賃金に関する経済学的枠組と同様、社会学の一対象側面になるべきである。これらの経済学的概念を捨てることができないのは当然であるが、捨てるのではなく、よりよい就職口は「口こみ」によって見つけられる、という理解を付加すべきだということである。

 手慣れたプレースメントスペシャリスト、あるいはプレースメントカウンセラーは、名前、所在地、会社名、接触窓口、関係者、その他社会資源の「小さなメモ帳」によって、障害者をうまく紹介することができることを知っている。しかし、プレースメント過程に作用するこの社会的要因も、労働市場に関する経済学的、理論的枠組で基礎がためをしておく必要がある。

 一方、プレースメントワークの専用的訓練がないために、リハビリテーション機関でのプレースメントの仕事が、初めての職歴であるようなカウンセラーのうちの、高率のものがやめてしまうという傾向はもっと続くであろう。そして、前記のような人たちはますます「接触の輪」とプレースメント技法の知識の達人となり、プレースメント領域内での地位の向上は小さくなる。結果として、通常のカウンセリング職にいるものの方が、管理運営、監督、高給に結びつきやすいという傾向が出、プレースメントという障害者が頼りにする仕事を続けるのを渋らせることになる。すると、後から来た新人も、職についてからプレースメントについて勉強し、そして同じ循環をたどることになる。

 職探しに関する別の書物に、Richard K.Irish の<自分を売りこめ>がある。内容は、職探し過程への接近法として大変鋭敏かつ皮肉に満ちたものである。専門職あるいは高度の訓練を受けた者に照準をあわせ、州や民間の雇用サービスを後生大事に受けることを否定している。Irishは、Granovetter が科学的にとりあげた社会学的アプローチに、少し茶化しげな続きをつけ、「雇用サービス機関はペストのように避けるべきだ」と警告している。両者ともが明言しているのは、重度障害者が、リハビリテーションチームの通常の一員としてのプレースメントワーカーの専門的援助を利用するのは有効であるという点である。

要約 

 リハビリテーションサービス分配体系におけるプレースメント過程は、重度障害者の場合には特に重要視すべきだという面で大変遅れていると思われる。これは、プレースメントを配列の最後に持ってくるようなサービスの直線系列的提示によるものである。プレースメント過程を、サービス分配系列の最後につけ加わるひとつだけ不連続なサービスとするのでなく、常に底流となる原則とする、といった簡単な概念再構成をするだけで、種々のサービス全体に浸透していく効果が得られる。この重要なサービス領域の重要視を強めるためには、プレースメントワーカーという新しい専門職が専門分化する必要がある。そのための訓練は、経済学部か経営学部かに置かれる大学院レベルで行われるべきである。

 プレースメントの職責は、州立リハビリテーション機関では州のリハビリテーションカウンセラーにあずけたままにするにしても、その他のリハビリテーションセンターやワークショップの中に、プレースメントワーカーというひとつの専門領域を創ることによって大きく促進できる。リハビリテーション機関内であれば、プレースメントワーカーの主要業務を明確化することができ、必要な職責を与えることができる。このような、リハビリテーション分野におけるプレースメント過程の見なおしをすることによって、重度障害者の将来は、現在のサービス分配体系や現在の専門的訓練によるリハビリテーションメンバーによるものよりも、ずっと開けるであろう。

Rehabilitation Literature, June, 1976から)

参考文献 略

 ワシントン、D.C.リハビリテーションサービス庁、プログラム開発局次長。それ以前、1963年~1969年の間はSRS、研究デモンストレーション部長。全国リハビリテーション協会ニューヨーク支部長、全米心理学協会第22部会(リハビリテーション心理学)部会長を歴任。1959年~1960年は米国リハビリテーションカウンセリング協会長を勤めた。
**東京都心身障害者福祉センター職能科主任

(訳者注) 1973年のリハビリテーション改正法施行以来、アメリカのリハビリテーションサービス態勢には、今までにない何かが起こっているようである。この法律のひとつの特徴は、重度障害者に特に焦点をあてるということにある。しかしながら、重度障害者とは何かという定義には、我が国の現代の常識とはやや異なった様相があるように感じられる。このような背景を承知のうえで本論文を読んでいただきたいが、この中には、今までに紹介されている論文にあまり見られない現実的な指摘がいくつか含まれていると思われる。
 訳文中、本論文での語義として、placementは我が国のことばでいえば、「就労への紹介」に相当するように用いてあるが、アメリカでのリハビリテーション関係の中での用例としては、コミュニティへのプレースメント等もう少し広い使い方もあるので「プレースメント」と訳出した。また、訳文中「アファーマティブアクション」としたのは、affirmative actionの訳であるが、これは、1973年リハビリテーション法で規定された新しい施策で、合衆国政府と受注契約の関係がある企業は、障害者雇用に関して計画、方針など具体的な姿勢を示さなければならないという内容のものである。


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1977年10月(第26号)31頁~38頁

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