職業 北欧・東欧の職業リハビリテーション施設をかいま見て

職業

北欧・東欧の職業リハビリテーション施設をかいま見て

大漉憲一*

はじめに

 昨年の10月1 日から17日間、社団法人ゼンコロ主催北欧・東欧研修旅行に参加する機会を得た。旅行の目的は、職業リハビリテーション、特に保護雇用(Sheltered Employment )にかかわる制度や施設を見学し、訪問国の指導者のセミナーを受けることであった。訪問したのは、デンマーク、スウェーデン、オランダ、イギリス及びポーランドの5か国で、シェルタード・ワークショップ9か所、関連施設2か所を見学し、5回のセミナーを受けた。

 このように短期間のかけ足旅行ではあったが、筆者の目に写り、耳で聞いたことがらをここに記して、読者諸賢の御参考に供したい。

1.デンマーク

(1)社会援助法(Social Assistant Act)

 この法が1974年に改正、76年に施行され、80年までに完全実施されることになった。この法の目ざすものは、①社会の連帯(solidarity)、②障害者の一般化(normalization)、であるとされる。改正の主な点は、

 ①従来はBoard of Social Welfareの下に身体障害、知恵遅れ、盲、ろう、難聴、てんかん、言語障害の七つの団体があり、この下に各種施設が設置されていた。このような、原因によるカタログを一つの法にまとめて、あらたにニードによるカタログへと改めたこと、

 ②従来、国にあったサービスの実施責任をCountyに移譲したこと(decentralization)、そして、国はあらたに立法(regislation)、調整(coordination)、計画(planning)の役割を担うようにしたこと、

である。このような大きな改革の移行期にあって、従来の障害別団体間の思惑の相違など困難も多いとのことであったが、実施に向けた大きなエネルギーが感じられた。

 Countyは、人口30~50万をひとまとめにした行政単位で、デンマークには14ある。この下に277の市がある。

(2)Holger Bruuns Eftf.

 これは、1952年結核患者を対象として設立されたRehabilitation Instituteで、結核患者の減少に伴いあらゆる障害者を対象とするように変更されてきた。内部は、二つの部門から成っている。

 ①Sheltered Employment部門──90人の障害者が働いており、このうち年金受給者は、出来高によって時給8~10Kr.(デンマーク・クローネ.1Kr.≒43円)、年にして約8,000Kr.(これ以上だと年金が減額される)を年金以外に受給している。年金非受給者は、この国の最低賃金である時給29.5Kr.よりスタートする賃金を受給している。

 ②Rehabilitation部門──近隣の市からの委託によって一定期間の訓練を行う部門で,50人が在籍している。訓練生は、市からのRehabilitation Benefitを受けている。

 参考までに、デンマークの障害年金は表1の通りである。これに住宅省からの補助を加えれば、独りでもまあまあの生活が可能であると聞いた。

(ちなみに、国民の平均年収は、7~80,000Kr.であるが、平均40%の税を納入しなければならない。)

表1 デンマークの障害年金
1976年12月現在
作業能力   月額(Kr.)
0又は僅少 基本額 1,369

2,954

 

障害加算 682
雇用不能加算 903
約1/3 基本額 1,369 2,052
障害加算 683
最大1/2 基本額(1/2) 683 1,023
障害加算(1/2) 340
補助給付   月額(Kr.)
○年収3,500Kr.以下のとき 補助年金 293
○恒久的に介助を要するとき 介助手当 682
○ケアや指導する人が恒久的に必要なとき ケア手当 1,363
○その他の困難があるとき 個別手当 個々に決定

(3)重度脳性マヒ者の収容施設

 Jonstrupvangという名の収容施設を見学した。ここは、18~45歳の重度脳性マヒ者のための施設で、電動車いす利用者が目立った。人が生きるということの価値と責任を見つめ、自分の生活は自分自身で決めるという自主性を尊重した方針で運営されていると聞いた。入所者には家具、浴室付きの1DKの個室が与えられ、外来者の宿泊も含めてその管理は入居者にまかされている。この施設は給食のかわりにレストランを経営しており、入所者はもちろん外部の人も自由に利用できるようになっており、また、施設の廊下やロビーを外部の人の絵画の展覧会場として貸与し、内部外部の人に公開するなど、施設内外の交流を積極的に実施しているのが目立った。作業は、清掃、洗車、売店販売員、皮革加工、編物などを週30時間行っており、製品はバザーなどで販売されるが、売上金は楽しみのための行事費に使われるだけで、経常費は委託した自治体から支出されていると聞いた。明るくて、自由にあふれた共同生活を楽しんでいるという印象であった。

2.ポーランド

(1)ポーランドのリハビリテーション

 筆者らは、元国連障害者問題担当官Dr.Hulekのセミナーを受けた。「ポーランドのリハビリテーション」という氏の解説から、その要旨を紹介しよう。氏によると、社会主義国であるポーランドのリハビリテーションは、三つの政党の関心事であり、また、議会(労働社会政策委員会、体育文化委員会、教育委員会が担当)、政府(労働社会政策省、教育省が担当)も熱心である。直接的には、労働共同組合中央連合(Central Union of Labor Cooperatives)の構成単位である障害者協同組合(Invalid Co-operatives)が中心的実施機関となっている。

 ポーランドの職業リハビリテーションの特徴として、氏は次の3点を指摘した。

 ①リハビリテーションが企業、工場、職場と密着していること(工場内で発生した障害者は、できる限りその工場内で処理する、など)。

 ②障害者協同組合の存在(1949年創設され、現在420余の協同組合の各工場で、合計27万人が働いている)。

 ③職業・社会的サービスが中央から分散され、人民協議会の中で問題解決がなされていること。

(2)障害者協同組合

 障害者協同組合については、いくつかの報告がなされているので、ここでは省略し、筆者らが見学した三つの工場の概略を記すにとどめる。見学したのは、①盲人協同組合のブラシ工場、②ゴム製品工場、③プラスチック工場であった。①では、各種ブラシの「主要生産者」として国から指定されており,470名の視覚障害者(うち55%は全盲)が生産に従事していた。②は、乳首、ゴム手袋などのゴム製品を生産しており、1,265名が従事していた(うち989名が身体障害者、37名が戦傷病者、残りは非障害者)。ここでは、てんかん患者が乳首の箱詰作業を行っており、作業場は発作時の安全を配慮した設備改善がなされ、休憩室が設けられているのが注目された。③は、約20台のプラスチック成型機を導入した新鋭工場である。ここの特色は、精神障害者に就労の場を提供していることで、そのため、精神科関係の医療スタッフを充実させ、集団カウンセリング、体操などのプログラムを取り入れていた。

 三つの工場に共通することとしては、従業員の相当割当が在宅就労であること、診療を含めたリハビリテーション部門があり、工場内のみならず、地域在住障害者の医療センター的役割を果たしていること、などがあげられよう。

3.スウェーデン

(1)ストックホルムの保護雇用

 ストックホルムCounty(人口150万人)労働保護局の係官から、同Countyにおける保護雇用の実態について説明を受けた。それによると、ストックホルム市及びその周辺自治体から成るストックホルムCountyは、社会的要保護者を対象としたシェルタード・ワークショップとして、Avebeという企業を経営している。ここで働く人は、8週間の評価、6週間の訓練を経由した後、Avebeに来る。現在、パッケージ部門(11工場、474人就労)、印刷部門(8工場、473人)、機械部門(6工場、502人)及び、社会的不適応を起こし特に保護性の強い人を対象とした部門(5工場、580人)の4部門、30工場で構成されている。就労者の雇用条件や賃金は、一般企業に働く労働者と同一水準が保たれているとのことであった。

(2)賃金補給制度

 シェルタード・ワークショップと一般の職場との中間に「セミ・シェルタード」とでも呼ぶべき就労形態が存在すると聞いた。これは、一般企業内に特に設けられた作業場で、ここに就労する者の作業能力が同一職種に就労する非障害者のそれに達しない場合には、当該職種の基本給の不足分について、企業は国から補償を受けることができる。この補償は90%が限度(一般の職場では75%)で、年ごとに漸減していく(重度は75%を確保)という制度であるが、経験上、良い効果をあげているということであった。一般企業での雇用を促進する観点から、この賃金補給制度は注目すべきものと思われた。

(3)アクティビティ・センター計画

 同労働保護局に、16~35歳の重度・重複障害者を対象としたアクティビティ・センターの計画があった。定員の枠を設けず、内容も固定せず、個個の対象者に合った作業(例えば印刷、マイクロフィルム、ブティックでの販売など)を随時考えていく、フレキシビリティを重んじた開かれた施設で、他のワークショップと同一の賃金を支払い、医学的、社会的な訓練部門を併設するなど、初めての企画を盛り込んだものである。24時間サービスを受けさせるこのセンターは、初年度30名を予定し,1978年10月オープンを目ざして、準備を急いでいるとのことであった。

4.オランダ

(1)社会雇用法(Social Employment Act)

 オランダの職業リハビリテーションは、1969年に制定されたこの法によって推進された。この法の精神は、「人はだれでも人権のひとつとして労働する権利を有する」という思想に立脚しており、具体的には、①労働から収入を得ること、②時間を有効にすごすこと、③生きがいを得ること、④社会的地位を得ること、を内容とする。これらを保障する意味から、一つは収入の保障としての失業給付の充実があり、他は職業につく権利(1976年立法化)の保障としてのワークショップの拡充がある。

 失業した場合の給付は、はじめの26週間は最終収入の80%、その後2年間は75%、以後65歳までは国が定めた最低賃金額を保障されている(65歳以後は老齢年金)。失業の原因が事故、障害、疾病による場合には、一般労働不適当者法では52週まで、特別労働不適当者法では65歳まで、それぞれ最終収入の80%が保障されることになっている。

 ワークショップ(オランダではSocial Workshopと呼ぶ)は、法制定を機に拡充され、現在180か所に上がっており、設備の充実した大規模のものが多い。オランダ・ワークショップ連盟のvan Stokkom氏は、「ワークショップは、一般の経済・社会情勢と無関係ではあり得ないが、発展の方向にある。すべての人に職を与えるのは困難だが、少なくとも希望者には全員に就労の場が与えられるよう、研究グループを作って研究していく」と語っていた。

 筆者らが見学した二つのワークショップについて簡単に記す。

(2)Hoofddorp Workshop

 市立のワークショップで、300余人(知恵遅れ130人、それ以外は身体障害)が就労しており、職員と就労者との比は1:6(全国平均1:8)である。観葉植物の温室栽培、金属、包装、コンピューター部品の組立等の部門に分かれており、年間3,000万ギルダー(約3億円)の売上げがあるが、これは賃金の15%にしか相当せず、不足分は政府補助金等でまかなっているとのことであった。

(3)Dordrecct Social Workshop

 1952年に6人で設立したものが発展し、1970年には7万㎡の敷地に18億円を投じた市立のワークショップとして創建されるまでになった。現在、知恵遅れ300人、身体障害者1,100人が就労しており、全員通勤制である。

 ここで注目されたのは、身体障害者と知恵遅れの人たちを全く分離していることである。作業場はもちろん、食堂まで別であった。このことについて質問すると、「身体障害者がワークショップで働くのは次の段階へ進むためのワン・ステップであり、施設で働いているというだけで心理的に鋭敏になっているので、それ以外に余分な負担をかけないようにするためであり、また、知恵遅れの人たちにとっては、社会人として完全に自立しているわけではないので、彼らにふさわしい環境をつくるためである」との説明であった。

5.イギリス

(1)Remploy

 1944年、身体障害者雇用のため、公社として設立されたRemployは、我が国でもあまりにも有名である。現在、全イギリスに散らばった87工場に約8,000人の障害者を雇用しており、その営業範囲は広く海外にまで及んでいる。筆者らは、その中から次の二つの工場及びショールームを見学した。

 ①Alfretonのニットウェア工場──ロンドンより北へ約300km離れたところにあり、6か所あるニットウェア工場のひとつで、製品完成までの全工程を行っている。100人が就労しており、16kmの範囲内から通勤しているものばかりである。障害のある労働者の平均能力は、非障害者の2分の1~3分の1とされているが、車いす使用者などの重度者は見当らず、また、高齢者の割合が高いように見受けられた。

 ②Chesterfieldの補装具工場──整形外科用の補装具類を製作しており、医師や、病院等を巡回している補装具士等の注文によって、流れ作業で大量生産している。この工場では24病院を担当しており、類似4工場でイギリス全土をまかなっている。この工場には、約110人が働いており、身体的に重度の人が多かった。製品の質は、我が国のものと大差ないと思われたが、製作を数か所に集中し、流れ作業を主とした工場形式で行っているのが注目された。

 Remployの過去10年間にわたる年間販売高、国からの補助額及び年間総予算額の動きを図1に示しておく。

図1.Remployの10年間の動き
(1ポンド≒800円、1976年現在)
図1. Remployの10年間の動き

(2)その他の現況

 Employment Service Agentの係官によると、イギリスにおける失業率は6.7%であるが、障害者の失業率はその2倍にも達し、不況の影響が深刻であるという。イギリスにおける障害者の就労形態は次の3通りに大別される。①一般企業への就職、②一般人の30%の生産能力を持っている人のためのSheltered Workshop、③30%以下の生産能力しか持たない重度障害者のために、社会保障省や地方自治体が用意した作業場(簡単な仕事で、収入はポケットマネー程度)。このうち②に該当する人がRemployの8,000人を含めて13,000人おり、Remployのほかに120の作業所(うち半数は盲人用)で就労している。1977/78年度の国の補助金は合計2,700万ポンドで、うち2,000万ポンドがRemployに対するものであると聞いた。

感想─まとめにかえて─

 以上5か国を通じてみた感想をいくつか述べてみたい。

 第1に、Workshopの対象者を「職業的にハンディキャップを持っている者」ととらえており、従って、身体障害や知恵遅れのみならず、精神障害者、刑余者、社会的不適応者などにまで拡大して考えていた。そして、それらの対象者を、オランダ以外の国では同一の職場で働かせていた。これは、さまざまな障害者がお互いの長所を利用し合い、欠点をカバーし合うことができる優れた方法であるが、反面、職員に幅広い専門性が要求され、一定規模以上にならないとうまくいかないのではないかと思えた。しかし、デンマークを初めとして北欧・西欧はこの方向へ進みつつあった。

 第2に、障害者に対する所得保障が充実していると思われた。デンマークを例にとると、国民の平均年収は7~80,000Kr.であるが、40%の税を控除すると、42,000~48,000Kr.になるのに対し、就労困難な障害者に対する障害年金は基本額のみで36,000Kr.を保障しており、必要に応じて補助給付が支給されるので、これによって独立した一応の生活が可能となっている。障害者は低所得であるから消費面で割引制度を設けるというよりも、所得を一般人並みに保障するかわり、消費面では一般人と区別しないとする方が、障害者の自主性、独立性を尊重した優れた方法であるように思える。

 第3に、Workshopに対して政府及び地方自治体が支出している補助金がかなり高額、高率に達しているように感じられた。例えば、Remployに対する国の補助金2,000万ポンドは、保護雇用労働者1人当り2,500ポンド(約165万円)に当たる。これは、Workshopの経営を安定させるのみならず、間接的に障害労働者の所得水準をも高め、労働者を行き過ぎた能力主義から救っているように感じられた。

 第4に、Workshopが発達している反面、障害者が一般企業の中で働くようにする努力がもう一つ不十分であるように思われた。これは、今回の研修コースが、Workshop中心であったために感じられたことでもあろうが、しかしながら、見学したWorkshopの中には一見かなり軽度の人の姿が多く見られ、また、我が国のような納付金付きの雇用率を定めている国は、歴訪した5か国には見い出せなかった。

 最後に、特に北欧3国で感じたのは、社会全体が障害者を自分たちと全く変わらない市民の1人として受け入れているということである。これは、宗教の違いなどというものではなく、ひとりひとりの人間が、自己を大事にするのと同様に他人をも大事にし、尊重していくという伝統に基づくものと思われる。このようなコンセンサスがあってこそひとりひとりの幸せが護られる真の福祉社会が成立するのではなかろうか。

参考文献 略

*東京都心身障害者福祉センター職能科


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1978年3月(第27号)28頁~33頁

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