教育 農村部のコミュニケーション障害児童のための就学前集団プログラムの開発

教育

農村部のコミュニケーション障害児童のための就学前集団プログラムの開発

Development of Preshool Group Programs for Nonurban Handicapped Children with Communication Disorders

James C. Montague,Jr.,Ph. D*

中田雅子**訳f

 近年、ことばの理解ならびに表現に障害をもつ就学前の子どもの早期発見のためのプログラムの開発に対して関心が高まってきている。大都市においては、難聴、知恵遅れ、脳性マヒ、社会的に見捨てられた子らを対象とした、話しことばの向上に重点を置いた就学前の特別な集団プログラムを設けることが多い。

 しかしながら、人口の少ない地域では特に、特定のコミュニケーション障害別には十分に子どもが集まらず、また、財源面でも高度に専門的で費用のかかる就学前プログラムは無理である。言語治療士や言語臨床家は、就学前の子どもの障害を診断したあと、コミュニケーションの遅れを改善する場を制約されている。紹介されたとしても、週1回から5回、1日30分から1時間程度の時間制で行われる個別的な話しことばの治療ないし、ことばの指導(行動理論を基にしているところが多いが)を受けられる程度であろう。このような方法はそれなりに効果はあるが、治療に時間がかかり、費用も相当かかることが多い。そして治療場面以外の場への応用とか仕上げの際に問題が生ずることが多い。

 そのほかに、農村地帯の言語治療士が診断後に可能な手段としては、コミュニケーションに遅れを示す就学前の障害児を近くの保育園ないしは幼稚園に紹介することである。

 保育所の典型的な日課としては、遊び、おやつ、昼寝が主な活動であり、コミュニケーションに障害のある幼児のための、課題的、意図的活動は少ない。保育所の職員には話すことに障害を示す幼児の指導についての訓練は受けていないが、ひとのよいタイプが多い。

 幼稚園の職員は、幼児教育の資格をもっている人が多く、子どもに対する特殊な設定課題を、半ば意図的方法で行う人も多い。このように幼児教育の教師はしっかりした理論的基盤をもち、経験ももっているが、人間のコミュニケーションについての正常発達や話すことの障害に対する治療教育については、十分な知識をもっていないことが多い。

 筆者は以前に農村地帯のリハビリテーションセンターに勤務していたが、就学前の子どもの話すこと、および話しことばの発達促進には、定期的に週5日、1日3時間の、特にそのために用意した集団プログラムが必要であると考えている。なにかひとつの特定の障害に限ると、子どもが十分な数だけ集まらず、経費の高いプログラムに見合わないので、コミュニケーション上にいろいろな障害をもつ就学前児を混ぜ効果的な集団プログラムになるように適当に編成を行うことを考えた。

 口蓋裂ないしは脳性マヒの就学前の子どもにはことばの表現面の問題を持っていることが多い。が、後の認知の発達により重要なのは、このグループの子どもたちのことばの理解面の遅れである。このような言語面で特殊な遅れを示す子どもが(学校での)能力別学習に入る前に、話すことに関する潜在能力を最大限伸ばすには、特別な技術や発見方法が極めて重要である。

 このプログラムを進めるに当たっては、人間のコミュニケーションに含まれている様々な解号および構号の過程に基づいたコミュニケーションモデルが開発された。このモデルを使うに当たって、このプログラムの主眼を文章の聴覚的知覚、理解および統合に置くことにした。コミュニケーションの遅れを示す就学前児に、理解できる語の蓄積を多くすればするほど、話しことばや表現力もそれに見合って向上すると仮定されている。

方法

 口蓋裂の子ども4名、脳性マヒの子ども5名、微細脳損傷の子ども1名をこのプログラムに選んだ。プログラムの主眼を理解語いの構築に置いたので、どの子どもにも2種の理解力テストを行った。アモンズ式簡易検査(Ammons夫妻のQuick Test)とロイドダン(Lloyd Dunn)のピーボディー大学式理解力検査(Peabody Picture Vocabulary Test((PPVT))である。二つの検査を行ったのは、検査時に、よく高い測定の標準誤差が生ずるので、信頼性を見るためである。このプログラムで仕事をした教師や助手は、これらの検査の実施法や採点法について、年長の正常な子どもで訓練を受けた。治療の前と後にPPVTの代替テストを使用した。検査は静かで気の散らない個室で行った。条件づけに、最初報酬(あめ)を使ったが、この方法は子どもに不適応行動をやめさせ、テストを終わりまでやろうという動機づけに役立った。10名全員がこの治療前のテストを受けた。

 口蓋裂の子どもに関しては、理解語いに注意を集中することにより、より多くの表出言語が新しい音声環境をもちながら発達する。そしてその中から「鍵となる」単語が誤って構音されている音を正しく産出させうると考えられる。例えば、外科的には回復した口蓋裂の子どもについて考えてみよう。この子どもの外科的に回復した口蓋は、正しい“P”音を出すために十分な口腔内圧を作れるにもかかわらず、実際には機能的に“P”を省略し、依然として“apple”を習慣的に“a-le”と言っている。もしこの子どもが、大量の理解語いにさらされた場合には、その中で音素“P”を産出しうるより多くの音声環境を含んでいる表現語いの表出の際に相応の増加を示すと仮定することができる。脳性マヒ児はグループとして、理解語いが遅れる。このような根拠から、同一の就学前の言語プログラムに脳性マヒと口蓋裂という異種混合グループを編成した。

 子どもの理解語いの蓄積を発達強化させるのに単位を設ける方法を考案した。このような単位には、家族、家庭、学校とか食物、衣服、玩具、果物、植物、動物、祝祭日、天候、地域社会の仕事がある。毎日の活動の大半は、この言語単位の学習にあてられた。この単位は時期ごとに変えている。言語単位を補うために宣伝用の文章や絵、ぬり絵、作文を使った。その他の補助的手段としてテープレコーダー、聴能訓練機、ランゲージマスターは訓練用語いの聴覚的フィードバックを増すことに極めて有効であった。語い習得単位学習の統合的に計画された部分としては、サーカス、農場、公園、海岸などへの遠足がある。ラーソン(Larson)の研究によると、就学前の障害児は、正常児と比較するとこの種の戸外経験に非常に困難を示す。

 脳性マヒ児に対しては補足的に作業療法士が知覚─運動学習を行い、また年齢の割に著しい遅れや構音の偏奇を示している子どもたちには小集団の構音学習を行った。

 プログラム全般にわたって話しことばおよび言語能力の向上が意図されている。たとえば、毎日のおやつの時間にはこの子どもたちの神経筋運動の協応を助長するために特定の面が調整されている。ストローを短いものから徐々に長いものに変えていくことによって、口蓋裂の子どもの口蓋咽頭の括約および脳性マヒの子どもの口腔の協応強化の助長によって食べるための機能の改善が得られる。吸啜に加えてストローで吹いて飲物をぶくぶくすることを勧める。吹くこと、噛むこと、吸うこと、吸い込むこと、飲み込むことなどの食べるための働きは、話すことと直接には関係がないようにみなされている。しかしながら、食べるための機能の改善は後に協応的な発語運動を作るための発生的基盤となるのである。手に入ったときには、動物や人間などの形のビスケットで、特定の語の概念の強化をした。

 この言語能力プログラムの主要な部分は理解語いの獲得であるが、コミュニケーションの解号ならびに構号の両過程のその他の面についても重視している。聴覚解号の音声学的レベルでは語音の弁別学習を行う。教師が身近な物の絵を見せながら正しい発音で言ったり、誤った発音で言い、子どもに正しい方を当てさせる。たとえば教師がボール(ball)の絵を持ちながら子どもに「これは、マール(mall)」と聞く。子どもの動作やことばによる反応を見ると、教師はどの音素について弁別課題を行うことが必要かを決めることができる。言語学習のその他の例としては解号の統語レベルがある。この例としては疑問文や命令形の文でなされる訓練である。たとえば子どもに「学校へは何を持っていくの」「ボールを拾ってスミス先生にあげなさい」と言う。子どもが正しい動作ないしは言語反応をすれば、おとなの文章表現を正しく解号(理解)していると考えてよい。

 5か月間の治療プログラムの終了時に、当初10名の子どものうち6名に前述のテストを行った。他の4名の子どもは引っ越したり病気による長期間の欠席ないしはプログラムに合わないために除外した。治療の前と後との検査結果を比較するとQuick TestおよびPPVTの双方に有意な改善を示した。Quick Testの上昇のグループ平均は17.8であり、PPVTの得点増加のグループ平均は6.6である。個人の検査得点を検討すると、改善は文句なく均質といえるもので、たとえば脳性マヒだけというような一つの障害に限定されていたり片寄っていることはなかった。Quick Testではt=2.25 df5の場合t.05=2.02 PPVTではt=3.0 df5の場合.05=2.02(片側検定による有意水準)

考察

 Quick TestならびにPPVTのグループ得点に示された統計的改善は、この語い獲得プログラムが口蓋裂および脳性マヒ幼児の言語理解能力が改善したことを示唆している。プログラムを注意深く計画し、異種のコミュニケーションの遅れを示す就学前幼児を慎重に選んでグルーピングをすれば言語能力の向上に、明らかに役立つと考えてよい。この種のやり方は、財源ならびに職員に見合うほど十分に特定の同一のコミュニケーション障害の子どもをそろえることのできない人口の少ない地域において特に価値があると思われる。就学前の子どもの言語能力の向上のためのプログラムの開発に、言語病理学者が有効な助言や援助をすることができるのである。

(Rehabilitation Literature, Nov.-Dec., 1976から)

参考文献 略

*Montague博士は、フロリダ大学言語病理学科で、Ph.Dの学位を受けた。博士はアーカンサス大学医学部及びLittle Rock分校のコミュニケーション障害の大学院課程の部長である。Montague博士は最近、発達遅滞の子どもの言語能力やダウン症候群の子どもの声の研究をしており、現在、精神薄弱ならびに言語病理学に関する各種学会の会員である。
**日本肢体不自由児協会中央療育相談所言語治療士


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1978年3月(第27号)34頁~36頁

menu