〈心理〉 フロスティグ視知覚検査とその訓練プログラムに関する概観

〈心理〉

フロスティグ視知覚検査とその訓練プログラムに関する概観

Review of The Frostig Visual Perception Test and The Related Training Program*

Donald D.Hammill,Ed.D**J.Lee Wiederholt,Ed.D***

生川善雄****

 子どもたちが良い学業成績をあげるためには、一定の視―知覚―運動技能に熟達しなければならない、と今日の多くの教育者は信じている。教育者はそのような技能(たとえば、形態の再認、刺激間の鋭敏な視覚的弁別、視―運動パターンの統合など)を、就学レディネスと学力との両方、あるいはそのどちらか一方に欠くことのできない要素とみなしている。今日の大部分の視―運動発達プログラムは、子どもたちの初期の教育的かかり合いにおいて、視―知覚経験が最も重要な要因とはいえないにしても一つの重要な要因になっている、という仮定に基礎を置いている。この仮定を正当とする根拠は主としてPiaget & Inhelder(1967),Gesell(1940)、Gesell,Ilg,& Bullis(1950),Ilg & Ames(1965)らの発達理論の解釈、相関分析の値、さらにFrostig,Getman,Kephart,Barschといった教育学的文献への貢献者の主張にも少なからず基づいている。

 子どもたちの初期の教育的発達において、視―運動経験は一つの重要な要因であるという立場は一般的ではあるけれども、今日の教師は対立する見解があるということをも知っている。たとえば、Bibace(1969)は知覚―運動の完全さが学業の成就にとって必須の条件であるという仮説に疑問をなげかけたし、一方で、Mann(1970)、Mann & Phillips(1967)は知覚―訓練プログラムが依存している理論的および経験的な基礎に異議を唱えた。Cohen(1969)およびBateman(1969)は、最近、読むことが最終目標であるならば、読み方の指導が知覚の訓練では望ましいという立場をとった。

 学校における知覚の役割についての論争の多くはFrostigの視知覚発達プログラムについてのものである。今日市場に出まわっている多くの知覚の検査および知覚プログラムの中では、FrostigおよびKephartの研究が多くの研究に刺激を与えてきたという点でユニークである。Frostigの場合には、体系的で継続的なプログラムを経て彼女の理論的立場を教育実践の中へ移そうとし、評価方法すなわち彼女の検査を開発してより先の段階へと進んだことでユニークなのである。他のプログラムの大部分は伝統的な幼稚園、作業療法および理学療法、あるいは体育などのカリキュラムから借用した手法の、単なる寄せ集めにすぎないように思われる。また、これらのプログラムは余りにもしばしば、妥当性について何らの検討もせずに公に提出されてきた。

 それ故、筆者らは、多くの研究を生み出し、そしてまた学校でも広く使用されてきているという理由から、Frostigの検査およびプログラムについて検討するつもりでいる。まず、評価道具としての検査の有効性が検討され、次に、読み方、レディネス、知覚そのものに関連づけてFrostigの教材の効力を検討することにする。

 本章の目的は、Educational Index、Psychological Abstracts、Dissertation Abstractsによって、適切な文献を調べることであった。さらに、手許にあったすべての文献の参考文献欄が検討された。いくつかの雑誌、たとえば、Exceptional Children, Journal of School Psychology, Psychology in the Schools, Journal of Learning Disabilities, Journal of Special Education, Elementary English, Elementary School Journal, Perceptual and Motor Skills, Academic Therapy Quarterlyなどが1961年から1971年12月号まで全号が調査された。

視知覚発達検査(DTVP)

 DTVPは子どもたちの知覚―運動障害を診断するために、主に教育現場で使用されている。この検査が何を測定しているのか、また、この検査が学業成績における将来の成功あるいは失敗をいかによく予測するかということを、この節で考案しよう。DTVPに関して以下の側面が論じられる。すなわち、(a)測定に関してのFrostigの理論的正当性、(b)検査についての説明、(c)規準データ、信頼性、妥当性の諸研究を特に重視した上での標準化手続きの検討、である。

 DTVPに関してのFrostigの理論の正当性

 いくつかの独立した知覚領域が検査と訓練のために区別されるだろうというFrostigの結論は、何年もの臨床的観察およびTurstone(1944)、Wedell(1960)、そしてCruickshank、Bice & Wallen(1957)らの幼児の視知覚の分化に関する研究結果に基づいている。こうして得られた五つの領域は次のようであった。

 目と手の協応、図形と素地の知覚、形の恒常性、空間における位置、空間関係。…これら五つの視知覚能力が多くの理由で選ばれた。それらは学業の習得にとって重要であり、色彩視や純音の弁別のような他の機能に比べてずっと大きく生体としての人間全体に影響を及ぼす。またそれらは人生の比較的初期に発達し、しばしば、人生の初期に障害を受け、神経学的にハンディキャップを負っていると診断された子どもたちの場合にはしばしば障害を受けている。さらにそれらは集団検査にも適しており、これらの領域の訓練が非常にしばしば成功しているということを、われわれは見てきた[Frostig、Lefever、& Whittlesey,1961]。

 これら五つのおそらくは別々の視―知覚能力が、DTVPの構成において、可能な下位検査領域として選ばれた。Frostig(1965)は、その後、各領域を評価するために検査を開発し、そのうちのどれか一つあるいはいくつかの領域に欠陥がある場合に、子どもが学校で出会うであろう特別な学業上の問題を予測した。

 Frostig検査の説明

 検査項目五つの各下位検査でやさしいものから難しいものへと順に続いており、3歳から9歳の子どもたちの興味をひくように選ばれている。検査は1時間以内で個別に、あるいは小集団の子どもたちに実施できる。各下位検査に含まれた課題についてのFrostig(1965)の説明は、それらの課題が関係していると信じられている学業上の技能と同様に、以下のように要約される。

下位検査1

 目と手の協応は運動能力という限られた領域を検査する。いろいろな幅の境界線からはみ出さないように、連続した、直線や曲線、あるいは角をなした線を描くよう子どもに要求する。この下位検査の得点は、「活字体で書いたり、筆記体で書いたり、模様のはり紙や模写のような活動をしたりする子どもの能力を予測する…」とFrostigは思っていた。

下位検査2

 「図形と素地」という下位検査は、交差しているさまざまの図形を弁別したり、隠された図形を見いだしたりするよう子どもに要求する。この下位検査に困難のある子どもたちは、単語や節を分析したり合成したりできないために、結果として、つづりを書いたり読んだりする学習において困難に出会うことになるだろう、とFrostigは考えた。これらの子どもたちは、また、読んでいるものを理解することばかりでなく、ページで自分が読むべき部分を見いだしたり、その個所を追い続けることにも困難を示すであろう。この下位検査で困難に会う子どもたちは思考過程において硬さを示すだろう、ともFrostigは述べた。

下位検査3

 「形の恒常性」はさまざまな大きさ、濃淡、素材、背影、空間における位置において、見せられる幾何学図形を、子どもが認知したり弁別したりすることを要求する。この下位検査が困難な子どもは、後になって、異なった本や文脈の中で示される見慣れた単語を再認するよう要求される時、困難を示すだろうことが示唆される。

下位検査4

 「空間における位置」は類似図形の列において、回転や反転の弁別を含んでいる。この領域に欠陥のある子どもたちは、反転され、また回転された文字を認知することに困難を示すだろう。

下位検査5

 「空間関係」は物と物との相互の位置関係をどのように把握し、あるいはある物の他の物への位置関係を認知する能力を言う。この領域で困難にあう子どもたちは、おそらく読むことができないだろうし、書くことにも困難を示すだろうとFrostigは思った。

 検査全体および各下位検査の粗点は、知覚年齢ないしは標準得点に換算してもよい。検査全体に対する知覚指数(PQ)は、五つの下位検査に対する評価点の合計に基づいて算出された偏差得点である。

 標準化手続き

 検査が適切に標準化されるためには、テストが評価することを目標としたような被験者集団を代表する大きな標本に対してテストを実施しなければならない。この標本が成績の平均および平均偏差の変化の度合いを示す規準を確立するのである。検査作成者は尺度の信頼性および妥当性に関する問題をも取り扱わなければならない。この節は、関連した研究とともに、DTVPの標準化において用いられた規準作成、信頼性、妥当性の手法について考案するものである。

 検査は3歳から9歳の2116名の「任意抽出の」保育所および公立学校の子どもたちの標本に基づいて標準化された。これらの被験者は南カリフォルニアの中階層の白人の子どもたちであり、性によって別々に規準が作られた。実際には、この検査は標準化の時の標本とはかなり異なった子どもたちに広く使用されている。たとえば、精神遅滞(Allen,Dickman、& Haupt,1966;Alley,1968)、脳性マヒ(Tyson,1963)、学習障害(McLeod、1967;Mould,1965)、読書障害(Lewis,1968)、経済的困窮者(Alley,Snider,Spencer、& Angell,1968;Wiederholt & Hammill,1971)と分類される幼児である。しかし、経済的困窮の被験者を除いて、いずれの研究もこれらの特殊な子どもたちに使用する場合、この検査は妥当性があるとか信頼性があるとかということを例証していない。

 検査の信頼性

 検査の信頼性という概念は、得点の一貫性に関する側面を吟味するために使用される。検査の信頼性についての情報から、検査得点の全分散における誤差分散を見積もることが可能になる。換言すれば、検査の信頼性は次の二つの広がりを示すのである。それは個々の検査得点の相違が検討中の能力の「真の」相違から生じてくる広がりであり、もう一つは相違が偶然の誤差から生じてくる広がりである(Anastasi,1968)。信頼性に関しては種々の型があり、それらを評価するためのさまざまな統計的手続きがあるが、DTVPにおいては二つのものが使用されてきたにすぎない。その技法のうちの一方は再検査法であり、期間をおいた場合の被験者の検査成績の変動を評価する。他方は折半法であり、テスト測定時に回答が一貫しているか否かを予測する。

 再検査法

 Frostigは自分の検査について3回にわたり再検査法による信頼性の検討を行った。最初の研究(Frostig,Lefever,& Whittlesey,1961)において、彼女は全得点に関して.98の信頼係数を報告した。被験者は50名の学習障害児で、検査実施の時間間隔は3週間であった。2番目の研究(Frostig,Maslow,Lefever,& Whittlesey,1964)においては、検査は70名の1年生と74名の2年生とに対し、2週間間隔で実施された。彼女らは全標本の全得点に関して.80の信頼係数を報告した。下位検査の信頼係数は.42(目と手の協応)から80(形の恒常性)の範囲であった。

 最後の研究においては、Frostig(1964)らは55名の幼稚園児と72名の1年生とを用いた。幼稚園児の標本については、全得点に関して.69の信頼係数が報告された。下位検査の信頼係数は.29(目と手の協応)から.74(形の恒常性)の範囲であった。1年生の標本については、全得点の信頼係数が.69で、下位検査については.39(目と手の協応、図形と素地)から.67(形の恒常性)の範囲であった。

折半法

 折半法による信頼係数はFrostigら(1964)によって、3段階の年齢水準(CA、5―6歳、6―7歳、7―8歳)で各下位検査および全得点に関して算出された。その際、Spearman-Brownの相関公式が用いられた。5―6歳児については、下位検査の信頼係数は.59(目と手の協応)から.93(図形と素地)の範囲であった。このグループの全得点の信頼係数.89であった。6―7歳児では、下位検査の折半法による信頼係数は.60(目と手の協応)から.91(図形と素地)の範囲であり、全得点の信頼係数は.88であった。7―8歳児では、折半法による信頼係数は.48(空間における位置)から.91(図形と素地)の範囲であり、全得点の信頼係数は.82であった。8―9歳児では折半法による下位検査の信頼係数は、.35(空間における位置)から.96(図形と素地)の範囲であり、全得点の信頼係数は.78であった。

 Frostigの研究以外にはわずか一つではあるが、DTVPの信頼性に関する研究が見いだされた。Hammill,Goodman,amp; Wiederholt(1971)経済的に恵まれない主として黒人の子どもたちの無作為標本を用いて検査の適切さを検討した。Frostigの研究と同様、折半法および再検査法(Hammillらの研究では2週間の間隔)による信頼係数だけが算出された。

 これらの研究者たちは、彼らの再検査法の信頼係数とFrostigのそれらとの間の差異は統計的に有意でない、と述べた。それ故、各下位検査と全得点との両方に関しての再検査法による信頼性は標準化の標本について報告されたものと同じくらいである、と彼らは結論した。折半法による信頼係数を比較すると、「図形と素地」、「形の恒常性」、「空間関係」についての二つの資料は著しく類似していた。しかしながら、「目と手の協応」と「空間における位置」とに関して、統計的に有意な差が見いだされた。「目と手の協応」はHammillの研究の被験者の方がより信頼性が高かったが、他方「空間における位置」ではその逆であった。

 DTVPの信頼性についての結論

 結論としては、DTVPが開発当初の目的をどれだけ達成しているか、すなわち、特殊な視―知覚障害の認知を行うDTVPの判定能力は、その疑わしい信頼性のため非常に疑問を持たれることになる。個々の子どもたちの特別訓練プログラムを計画するための基礎として特定の検査を使用する場合には、その検査が高い信頼性を持っている必要がある。Anastasi(1968)やFox(1969)は、測定用具が適切なものであるためには.80あるいはそれ以上の信頼係数が必要とされる、と提唱している。Guilford(1956)やKelley(1927)は.90あるいはそれ以上を推奨している。いずれにしても、DTVPの下位検査は上述の信頼性の程度すら水準に達していない人がいる。幼稚園児の再検査法による値は基準となる水準よりもわずかに低いけれども、全体の信頼性はおおむね満足できるものである。公平にみれば、よく知られているWISCやITPAの適切な知覚―運動下位検査をも含めた他の大部分の視知覚検査に関して報告された信頼性に比較して、DTVPの信頼性は決して悪くはないということが指摘されるべきである。

 検査の妥当性

 検査の妥当性を考える場合、検査が何を測定しているのか、そして、またその検査が検討中の特徴をいかによく測定するのか、ということに問題がかかわってくる。妥当性を測定するための手続きは、検査される行動に関して、特定の検査の成績と他の尺度の成績との関係を扱うのである。妥当性の手続きは内包的妥当性、経験的妥当性、構成理論的妥当性の三つの主な型に分類される(Anastasi,1968)。この節では、DTVPの経験的妥当性と構成理論的妥当性とを論じてみよう。

 DTVPの全得点の経験的妥当性。どのような検査でも経験的妥当性を予測する場合は、特定の場面での個人の行動を予測するにあたって検査の効果が予測される。DTVPの経験的妥当性を扱かった文献は多数ある。これらの研究はDTVPの全得点と他のさまざまな心理教育学的な尺度との関係を検討している。諸研究はこの検査と関係づけられた変数に基づいて四つのグループ―すなわち、知能、学力、レディネス、知覚―運動の各尺度―に分けられた。

 筆者らは検討中のFrostigによる諸研究の相関係数の大きさを解釈するにあたり、Guilford(1956)によって提唱された指標を用いた。それによると.30から.80の範囲の係数は心理学と教育実践とにおいて有用な予測関係を表し、また、.20から.30の間の係数はわずかに関係あることを示している、とGuilfordはのべている。

 1. 知能 表1は、知能についてのさまざまな尺度の得点とDTVPの全得点とを関係づけた研究者たちは、その研究のほとんどにおいて、二つの尺度の間に統計的に有意な関係を見いだしたことを示している。報告された相関係数は.18から.59の範囲であり、すべて統計的に有意であった。13個の係数の中央値は.39であり、二つの検査はおそらく適度の共変動(15%)があるだろうことを示している。

表1.DTVPの全得点と知能尺度との各研究者による相関
研究者 N 被験者 尺度
Allen(1969、1969a) 36 教育可能な精神遅滞児 ピーボディ絵画語い検査のIQ(MA) .59 **(.18)
Culbertson&Gunn(1966) 65 さまざまな障害児 WISC、スタンフォート・ビネー .44**
Frostigら(1964) 304 幼稚園児 教師の評価 .50**
Frostigら(1964) 299 幼稚園児 グッドイナフ検査 .46**
Frostigら(1964) 202 1年生 グッドイナフ検査 .32**
Frostigら(1964) 214 2年生 グッドイナフ検査 .37**
Hammillら(1971) 88 幼稚園児 スロッセン知能検査 .39**
Hammillら(1971) 74 1年生 スロッセン知能検査 .40**
O’Connor(1969) 89 1年生と2年生 ピーボディ絵画語い検査 .56**
3
Olson(1966、1966a) 71 2年生 カリフォルニア精神発達簡易検査 .21**
Spraque(1965) 111 幼稚園児 グッドイナフ検査 .24*
Spraque(1965) 111 1年生 グッドイナフ検査 .27**

*.05の有意水準   **.01の有意水準

 2. 学力 DTVPと学力との関係を扱った研究が他のいかなる研究よりも多いことを、筆者らは見いだした。これらの研究においては、Stanford,Metropolitan,California,Durrell,Gatesの各アチーブメント・テスト(SAT、MAT、CAT、DARD、Gates)が学業の進度を評価するために用いられた。全部で6人の研究者たちが1年生、2年生、3年生からなる被験者七つの標本集団を検査し、29個の別々の相関係数を報告した。これらの中央値は.40であり、知能の場合の中央値に同程度であった(表2)。

表2.DTVPの全得点と学力尺度との各研究者の相関
研究者 N 被験者 尺度
Bryan(1964) 25 1年生 読語力(CAT)
読解力(CAT)
.50**
.51**
Bryan(1964) 22 2年生 読語力(CAT)
読解力(CAT)
.65**
.53*
Bryan(1964) 21 3年生 読語力(CAT)
読解力(CAT)
.01
.36
Hammillら(1971) 74 1年生 単語の知識(MAT)
単語の識別(MAT)
読み取り(MAT)
算数(MAT)
.36**
.26*
.33**
.55**
Jacobsら(1968) 37 2年生 単語の意味(SAT)
段落の理解(SAT)
語い(SAT)
.36*
.31*
.15
Jacobsら(1968) 29 2年生 単語の意味(SAT)
段落の理解(SAT)
語い(SAT)
.16
.08
.32
Olson(1966) 71 2年生 読語力(CAT)
読解力(CAT)
数理(CAT)
算数の基礎(単純なもの)
国語の構成(単純なもの)
つづり(Gates)
段落の理解(Gates)
単語の把握(CARD)
.44**
.35**
.51**
.53**
.40**
.32**
.32**
.42**
Wiederholt(1971) 70 1年生
および2年生
単語のおもいつき(CARD)
単語の分析(CARD)
筆記(CARD)
単語の把握(CARD)
読解力(CARD)
.49**
.49**
.47**
.56**
.56**

 3. レディネス DTVPと就学レディネス検査との関係を調べた研究は、わずかに3個だけしか見つからなかった。Bryan(1964)は幼稚園児、1年生に対し変数としてMetropolitanレディネス・テスト(MRT)を使用し、それぞれ.70と.46の相関係数を報告した。Hammill,Goodman,& Wiederholt(1971)は幼稚園児にMRTを使用し、話し言葉の理解力を扱った二つを除いて、すべての下位検査に関して.44から.60の範囲の係数を報告した。

 相関係数は最後の二つの下位検査に関しては有意でなかった。O’Connor(1969)はDTVPとHarrison読み取り・レディネス・テストとの間にr=.62という相関を報告した。

 これらの比較的高い相関係数は、レディネス尺度とDTVPとが、ある程度、同様な特性を検査していることを示している。これは驚くべきことではない。なぜなら、大部分のレディネス検査は視覚―運動の統合、視覚的シンボルのマッチングなどを必要とするいくつかの下位検査を含んでいるからである。もちろん、わずか三つの研究結果だけからDTVPと就学レディネスとの関係についての結論的なことを述べることはできない。このテーマは将来の研究にとってやりがいのある領域であるように思われる。

 4. 知覚―運動能力 驚くべきことに、DTVPの妥当性を確証するための最も直接的な方法、すなわち、DTVPと視覚―運動の能力に関しての他の尺度との相関をみることがあまり研究されていない。Allen(1969)、Culbertson & Gunn(1966)、O’Connor(1969)はDTVPの全得点とベンダー・ゲシュタルトとの間に、それぞれr=.75、.52、.63の有意な関係を見いだした。Colarusso(1971)は都心の黒人の子どもたちに運動能力を必要としない視―知覚検査を行い、その検査とDTVPの全得点との間に.73の相関係数があると報告した。これらの係数はDTVPの全得点の妥当性を推定するための最も強い証拠を与えてくれる。

 5. DTVPの全得点の経験的妥当性の要約 DTVPの全得点と知能、学力、レディネスといった各尺度との相関はすべて正であり、ほとんどが統計的に有意である。Guilford(1956)の相関係数についての解釈を受けいれるならば、これらさまざまな尺度とDTVPとの関係はわずかではあるが有効な予測的関係を示しており、この検査の妥当性についてのいくらかの証拠を与えてくれる。しかしながら、この検査の妥当性に関してきわめて説得力を有する支えとなっているのは、DTVPと他の視覚―運動の能力についての尺度との相関である。

 6. DTVPの下位検査得点の経験的妥当性の研究 DTVPの下位検査の経験的妥当性の検討をした六つの研究が見いだされた。Olson(1966a)Hammillら(1971)、Wiederholt(1971)は各下位検査と就学レディネスとの関係を研究した。Culbertson & Gunn(1966)、Allen(1969)、Colarusso(1971)は各下位検査と他の視―知覚検査との関係に関心を持った。Allen(1969)とHammillら(1971)は下位検査と知能検査との関係を検討し、それらはかなり異なった過程を測定していると結論した。Olsonは2年生の被験者に対し、彼が作成したいくつかの検査に加えてCaliforniaおよびGatesアチーブメント・テストの下位検査をも行った。Hammillらは幼稚園児および1年生の標本に対し、MATおよびMetropolitanレディネス・テスト(MRT)の下位検査を使用した。Wiederholtは、Hammillの標本のフォロー・アップとして15か月後にDurrell読み取り能力テストの下位検査を使用した。

 これらの研究の結果は著しく似ていた。OlsonおよびWiederholtの研究においては、「目と手の協応」と「空間関係」とが学業の程度を最もよく予測できる下位検査であった。Hammillらは「目と手の協応」と「図形と素地」とが最もよく予測できるものであると報告した。これら3者の研究の結果はすべてが「形の恒常性」は予測用具として利用価値が最も少ないということで一致した。OlsonおよびHammillらは、統計的には有意であるけれども比較的低い相関のために、DTVPの下位検査が読みの技能を予測するのにはとりたてて有用ではないだろうと結論した。一方、Wiederholfの研究はいくらか勇気づけてくれるものである。すなわち、彼の結果は「空間関係」と「目と手の協応」とが学業能力の予測に有効であることを示した。

 Culbertson & GunnはDTVPの下位検査とベンダー・ゲシュタルトとの相関を求め、「目と手の協応」および「空間関係」だけが有意な関係を示したと報告した。同様な研究において、Allenは.54から.81にわたる有意な相関係数を報告した。Colarussoの運動能力とのかかわりの無い知覚検査も各下位検査との有意な相関があり、それは.38から.60の範囲であった。

 構成理論的妥当性  おそらくDTVPの根本的な欠点は構成理論的妥当性を評価することによって明らかにされるだろう。構成理論的妥当性はテストすることによって理論上の特性ないしは特徴を測定するよう要求されている度合いを、評価する。因子分析は検査の基礎をなす心理学的特性を確認できる手続きである。9個の因子分析的研究(Allen,1968;Boyd & Randle,1970;Cawley,Burrow,& Goodstein,1968;Corah & Powell,1963;Hammill et al.,1971;Macht & Olson,1968;Ohnmacht & Rosen,1967;Olson,1968;Sprague,1965)は、知能、読み取り、学力、知覚といったさまざまな検査を用い、異なった子どもたちの標本を対象とした。これらの研究はDTVPにおいて5個の別々の知覚因子を抽出できなかった。事実、七つの研究はわずかに1個の因子のみを、また他の二つの研究はわずかに2個の因子のみを見いだしたにすぎなかった。Frostigが仮定しているようには、DTVPが5個の別々の視―知覚因子を測定しているのではないことを、上述の結果が示しているので、この検査の構成理論的妥当性は疑わしい。

 妥当性の研究についての要約  DTVPの全得点と下位検査の得点とは両方とも、視覚―運動の統合に関しての他の尺度と最も高い相関があり、いくつかの共通の課題を共有しているレディネス検査とはその次に高い相関があり、知能検査や学力検査とは最も低い相関しかない。このような経過は視知覚検査に対して予想されることであり、それ故、この検査およびその下位検査の妥当性は支持される。

 各下位検査が別々の視覚―運動の特質を測定しているので診断的価値を有するというFrostigの仮説は、これまでに行われた因子分析的研究によって反論される。各下位検査の独立性に関するこの疑問は、DTVPの下位検査に加えて、「目と手の協応」、「図形と素地」、「空間における位置」、「形の恒常性」、「空間関係」についての多様な検査を含めた因子分析が行われるまで解決されないだろう。

 DTVPの今日の広い受け入れと使用とを正当なものとするには、各下位検査をより信頼できるものにするために、そして各下位検査の独立性を明確に確立するために、この検査を修正するべきである。

Frostig―Horne視知覚プログラム

 市販されているすべての視―知覚プログラムのうち、Frostig & Horne(1964)によって開発されたものが断然よく知られている。われわれは最近の知覚関係の35研究を調べた。そのうち23研究はFrostig―Horne用具を使っていた。この節はこのプログラムの説明と子どもたちの知覚、就学レディネス、読み方の成績に及ぼす訓練効果の議論とにあてられる。

 プログラムの説明

 Frostig―Horne知覚―発達プログラムは、大まかに言えば、DTVPの下位検査すなわち「目と手の協応」、「図形と素地」、「形の恒常性」、「空間における位置」、「空間関係」に類似したセットに分類される359枚のワークシートから成っている。各セットの中で、ワークシートはやさしいものから難しいものへという順序で配列されている。さらに、ボディ・イメージ、粗大および微細筋肉運動の協応、眼球運動コントロールにおいて、より基本的訓練を必要とする子どもたちに対しては、練習問題が勧められている。Frostigは言語、聴知覚と視知覚、基本的概念、社会的技能の訓練がワークシートの使用に結びつけられることを示唆している。これらのワークシートはDTVPのできない子どもたちに使用するばかりでなく、保育所や幼稚園、1年生のプログラムの補助としても提供される。

 読み取りに及ぼす視―知覚訓練の効果

 しかしDTVPと読み取りとの間の統計的に有意な関係の可能性を認めるにしても、重大な疑問が残る。すなわち、もし人が多くのFrostig―Horneに関する教育的プログラムを追加すれば、子どもたちはそれ相当の読み取りの技能の改善を示すであろうか。われわれが知る限りでは、Frostigの研究の中にこのことが確かに暗示されてはいるけれども(Frostig,1972参照)、Frostigは決して子どもたちが改善を示すだろうとは述べていない。しかし、多くの教師は読み取りの技能を高めるという明らかな目的のためにこの用具を使用してきた。この問題について大まかに考察してみるだけでもプログラム効果を最も熱心に信じている人に対してさえ、その意気込みをくじくには十分である。

 この結論は12の研究結果に基づいている。すなわち、Arciszewski(1968),Bennett(1968),Forgone(1966),Fortenberry(1968),Jacobs(1968),Jacobs、Wirthlin, & Miller(1968),Lewis(1968),Linn(1967,1968),Mould(1965),O’Connor(1968),Rosen(1966),Sherk(1968),Wiederholt & Hammill(1971)の諸研究である。すべて読み取りに及ぼすFrostig―Horneプログラムの効果を研究した。これらの諸研究は、統計的専門技術は、被験者のタイプと数、訓練者数、使用された検定、全体の質、に関して大きく異なっていた。驚くべきことには、12の研究のうち11において、Frostig―Horneプログラムの組織的な使用の結果として、それに伴って生じる読み取りの改善が期待されえないと著者たちは結論づけた。

 唯一の例外はLewisの研究であったが、その研究は被験者がわずかに5人で、統制群をとっておらず、週に3時間ずつ10週間しか訓練をしていないという点で重大な方法論的欠点があった。この研究結果は混乱している。すなわち、5人の被験者は読み取りにおいては有意な改善をしたが、視知覚においては有意に改善しなかった。後者については、おそらく、(視知覚ではなくて)技能が訓練されたのであろう。

 幼稚園児の知覚訓練は1年生の活動を習得する上において子どもたちによりよい出発点を与える、とLinnは結論づけたが、この研究は否定的なものとしてとりあげられた。その理由は、1年生の終わりの時点で、訓練を受けた子どもたちと受けなかった子どもたちとの間のMetropolitanアチーブメント・テストの差が統計的に有意でなかったからである。

 就学レディネスに及ぼすプログラム効果

 DTVPとMRTとの関係についての上述の議論においては、ある程度高い相関係数が報告された。このことは当然のことだと思われる。なぜなら、MRTの下位検査のマッチングや模写はDTVPの下位検査のいくつかと類似しているからである。したがって、Frostig―Horne用具で子どもたちを訓練する結果として、レディネス得点の有意な改善が予想されるだろう。この問題を扱った六つの研究が見つけだされた。これらのうち三つの研究は、測定してわかるほどには知覚訓練がレディネスの成績に影響しなかった、と報告した(Mc Beath,1966;Simpkins,1970;Wiederholt & Hammill,1971)。ところが、そのような知覚訓練はAlleyら(1968),Cowles(1968),Frostig(1970)等によって支持された。これらの研究結果の矛盾性から、就学レディネス・プログラムの補助として用いられる場合のFrostig―Horne用具の効果に関しては、賛成しようと反対しようと、決定的なことを言えない。これらの研究のほとんどすべては、実験計画と実施法との両方ないしはどちらか一方に重大な欠点を持っている。

 視知覚に及ぼす視―知覚訓練の効果

 Frostig―Horneプログラムの使用によって視―運動の発達を促すことで、研究者たちはどのような成功をしてきたのか、という根本的な疑問が残っている。Frostig―Horne用具を使い、統制群を設定し、少なくとも20名の実験群を使用し、15週間あるいはそれ以上の訓練を行っている七つの研究のうち、六つの研究(Alley,1968;Alley,Spencer,& Angell,1968;Arciszewski,1968;Cawleyら、1968;Jacobs,1968;Jacobs1968;Wiederholt & Hammill,1971)は訓練群と非訓練群との間に統計的有意差を報告していない。Mould(1965)だけが知覚過程を発達させることにおいて、その訓練が有効なことを見いだした。

 小さな標本しか使わなかったり、統制群を持たなかったり、短い期間しか訓練しなかったり、という他の諸研究は、その指導が視知覚の改善に有効であると見なす傾向にあった。しかしながら、実験計画のまずさのために、これらの研究は特別な慎重さをもって解釈されなければならない(Bennett,1968;Forgone,1966;Maslowら,1964;Rosen,1966;Talkington,1968;Tyson,1963)。他の研究(Allen、Dickman,& Haupt,1966)は、そのプログラムが精神薄弱児の視知覚のいくつかの領域において改善へと導いたことを報告した。しかしながら、この結論は分散分析表の誤りのために割引いて考えられなければならない。分散分析表が正しいならば、有意な結果を示さないだろう。読み取りに関して前述したLewis(1968)の結果もまた有意でなかった。

 現在まで、すべての視知覚検査および視知覚過程を発達させようとしているすべてのプログラムのうち、Frostigと関連したものが大部分の研究を刺激してきた。全体としての価値は有益であるが、Frostigの各下位検査が信頼性に欠けることを、そして各下位検査の妥当性と測定の独自性とが確立されなければならないことを、諸結果に関しての一般意見が指摘している。Frostig知覚訓練プログラムは、読み取りには何ら効力を持たず、就学レディネスや知覚そのものにも疑わしい効力しか持たないことを研究が指摘している。

 参考文献 略

*The First Review of Special Education Vol.1.Philadelphia:JSE Press、1973、pp.33―48.
**前テンプル大学(Temple University)
***アリゾナ大学(University of Arizona)
****淑徳大学非常勤講師


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1979年1月(第29号)18頁~26頁

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