教育 知覚訓練活動ハンドブック

教育

知覚訓練活動ハンドブック

Perceptual Training Activities Handbook

Betty Van Witsen*

山下皓三**

 本書は、学習に特別のつまずきを示す子どもを助力するため、主としてこれらの子どもにたずさわっている実践家を対象として書かれた知覚訓練活動ハンドブックで、序論をはじめとした9章から成っている。

 第1章から第3章までの序論、行動問題、指導の各章では、知覚とその指導の意義、学習に特別の問題を有する子どもの行動特性とその指導法、およびかれらに対する指導原理等に簡単に触れ、第4章以下の視覚訓練、聴知覚技能、触知覚技能、嗅知覚技能、味知覚技能、および筋肉運動知覚技能の各章で、経験的に認められている具体的な活動が列記されている。なお巻末には付録として、視-運動協応能力を育成するため、わが国の折り紙からヒントを得て考案された訓練活動が紹介されている。

 本項は紙数の関係上、具体的訓練活動については、脳性マヒ児の知覚訓練で主としてとりあげられている視および筋肉運動知覚訓練活動を中心に紹介し、他の訓練活動については割愛したことをおことわりする。

(注:訓練活動に付されている数字は、本書の訓練活動番号に対応するものである)

第1章 序論

 知覚とは感覚の説明であり、環境とのかかわりの中で、諸感覚を介して得られる過去の経験に基づいている。したがって学習された機能であり、それゆえに指導することも可能である。この指導は、見ること、聞く・話すこと、触れること、身ぶり、からだの動き(筋肉-運動)といった感覚経験を、これら経験の説明をも含めて計画的に準備してやることで達成される。

 さて本書に示した訓練活動は、感覚の機能的側面に対応して以下のように分類されている。すなわち視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚、および筋肉―運動感覚である。これら諸感覚の知覚ないし意味の理解は、伝えられるメッセージがより強化されるよう、種々な感覚がいかに統合して機能するかに左右されるものである。たとえばコップの中に熱いチョコレートがあるということは、コップからのぼっている蒸気、かっ色の液体(視覚)、コップをもった時の手の熱さ(触覚)、香り(嗅覚)、口の中での特別の味(味覚)などにより知ることができるのであり、さらにその液体を見、味わい、嗅ぎ、熱さを感ずると同時に、その中に「熱いチョコレート」のあることを言葉を通しても知るのである。

 ところが、これらの諸感覚を分類することのできない子どもたちもいるのである―かれらは自分たちが見、聞き、嗅ぎ、触れることでかえって混乱してしまうのである。このような子どもたちは、感覚経験を意味ある知覚に統合することができず、しばしば統合困難、衝動性、固執性、抑制困難、被転導性、および図―地の混乱といった特別の行動特性を示すことがおおい。

 ただこのような行動が、知覚の混乱により結果するものであれ、学習障害の要因と予測されるものであるにしろ、ここで重要なことは、教師の指導技術を通してこれを変えることが可能であると考えられることである。すなわち経験によれば、子どもが感覚の理解を学び、自己の経験を意味ある現象に統合することを学ぶに従い、しばしばかれらの行動に改善がみられるのである。ところで本書の諸訓練活動は、既述の学習問題を有する子どもを含め、広範な子どもを対象に利用できるよう意図されてはいるが、とくに末[梢]神経系の障害児のために意図して作られたものではない。

第2章 行動問題

 〔統合困難 Disorganization〕

 (行動特性)

 子どもの反応は、自己の指向した活動においても、教師に指示された活動においてもおおく見通しがなく、初歩的な計画の欠如がしばしばみられる。

 (指導技術)

 高度に構造化した(きまりきった様式の)手順と特別の教示が必要である。すなわち周囲の刺激を少なくし、学習過程における個々のステップに対しては明白な指示を与え、容易で、短時間に終了する課業を与える。

 〔被転導性 Distractibility〕

 (行動特性)

 出現する、関係のない刺激、たとえばブラインドのカサカサという音や教師の腕時計といった、普通ならば背景の現象として気づかれないようなものに気を奪われ、注意を集中させ続けることができない。

 (指導技術)

 教材は、分かりやすく、明るく彩色したものを用意し、短時間で終了する課業を与えるようにする。なお使用ずみの教材は、直ちに片づけることが必要である。

 〔固執性 Perseveration〕

 (行動特性)

 注意を転移したり、もはや不適切となった行動でさえも改変することができない。

 (指導技術)

 異なる色で個々のイメージ(語や絵、数など)を彩色したり、線で区分けしたりする。また新しい課業に入る際、机やいすを移動したり、立たせたり、座らせたりすることが助けとなることもある。

 〔図と地の混乱 Figure-Ground Confusion〕

 (行動特性)

 図となるべき必要な刺激を、地(背景)からひき出すことができない。例えば聴覚的には、聞こうと思う音から地となるべき雑音を排除することができないのである。

 (指導技術)

 視覚的刺激に混乱のある場合、そのものの外縁を枠づけするなどして強調するとよい。また聴覚的には手製のメガホンで直接的に話すのが助けとなる。

 〔抑制困難 Disinhibition〕

 (行動特性)

 無計画な行為と意味のない不適切な運動反応を示す。

 (指導技術)

 無関係な運動行動を抑制するには、目的動作を利用した教材、例えばペグとか分類箱、クレヨン等を用いた活動がよい。

 〔過活動 Hyperactivity〕

 (行動特性)

 年少児の場合には、猛然と突進したり、次から次へと物に手を出したり、絶えず話しや質問をし、しかも答えを待てずに次の質問をするといったことが観察される。注意の持続時間が非常に短い。

 (指導技術)

 ほかの子どもにわずらわされない個室や、幕で囲われた空間が過活動のコントロールに役立つ。しかしこの中にいる時には、常に課題が与えられねばならない。しかもその課題は、運動反応を必要とする、形の分類、なぞり、ペグなどがよい。

 〔破局反応 Catastrophic Reaction〕

 (行動特性)

 明らかな理由もないのにコントロールの突然の崩壊を示す。このような行動を示すこどもは、落ちたクレヨンでも突然泣き出す原因となり得る。

 (指導技術)

 パニックを減少させるには、高度に構造化した手順、意図的な1つの感覚チャンネルによるアプローチ(イヤホーンの使用等)、具体的教材、意味ある場面の設定などが役立つ。

 〔具体的行動 Concrete Behavior〕

 (行動特性)

 物や語、概念を概括せず、異なる側面に気づかない。例えばピンクを赤色の変色として考えることができず、全く異なる色としてとらえてしまうのである。

 (指導技術)

 もっとも強い感覚チャンネルが、弱いチャンネルを補強するように用いられるべきである。分類やグルーピングゲームは、個々の現象が分離した、異なったものではない、ということを感知させるのに役立つ。

第3章 指導

 学習は経験を通しての行動の変容として定義され、学習しようとの意志、動機づけに依存すると言われる。

 ところで学習障害児(the Child with learning disabilities)には、しばしば失敗や混乱、否定的な自己イメージ、および勉強に対する恐れの経験があり、学習しようとの子どもの自然な願望をよみがえらせることは困難なことではあるが、教師はこれを引き出さねばならず、それが務めなのである。

 さて、学習障害児に対する初期の指導では、特別の課業に注意を集中できるよう刺激を制限することが必要であり、場を構造化すること、すなわち目標と必要な行動を明確に説明しながら教材を提示し、その手続きを段階的に構成することも重要である。例えば正常児であれば、本を机にしまいなさい、というだけで十分であるが、学習障害児にあっては、本をとじて机にしまいなさい、と言わねばならないであろう。

 子どもの参加する活動は、初めは活動自体が報酬となるようなものでなければならず、また教師が賞を与える場合は、あまりに機械的であってはならない。

 さらに指導にあたって大切なことは、教師が子どもに何を指導しようとしているのかを知ることであり、単純なものからより複雑なものへと順序だって進めることであり、楽しく、価値ある活動をゆとりをもって与えることである。そして子どもと教師が成長と進歩に気づくことが必要であり、もし子どもが自己の能力を信ずるようになれば、自尊心や自我の強さをも発達させることが可能となるのである。

第4章 視覚訓練

 視覚は、心像をはっきりと経験する過程以上に複雑なものである。すなわち視覚過程をより機能させるため、指で触れるとか、頭を動かすとか、声にたよるといった他の感覚の助力を必要とするほどに眼球に問題を有していたり、その意図的コントロールが不十分であったりすれば、視覚の効果やこれを通しての意味の獲得は、それだけでも減じられることになる。

 さて以下に示す視知覚活動には、眼球運動と焦点化、形態知覚、視覚記憶、視覚の比較、視覚の投映、および目と手の協応等に関する活動が含まれており、視覚の医学的側面よりはむしろ機能的側面が主として扱われている。

眼球運動と焦点化 Eye Movement and Focusing〕

 (1) 子どもの見知っている物を4~5こ持って対座する。1つを子どもの左側に離して呈示し、それを見てから、名前を言うように指示する。子どもが注意を向けている間に、もう1つを右側に離して置き、その名前を言うように指示する。これを繰り返す。訓練が進むにつれ次第にその交換をはやめるようにする。そして頭の動きを少なくするよう指示する。年齢の高い子どもには玩具でなく、文字や数、フラッシュカードを使用する。

 (2) 子どもが見て、取ることのできる範囲の種々な方向と位置に物を置き、それをとらせる。

 (3) ピンポン玉の入った円型の器を子どもに持たせ、時に方向を変えながら回転するように言う。ただし可能なかぎり頭を動かさないでまわすよう指示する。

 (4) 「マースデンボール」 ひものついた直径2インチのボールを天井からつるす。

 A. 子どもの目の高さにボールをつり、ゆっくりと振り、それを目で追わせる。初めのうちは指で追わせるのもよい。

 B. ボールを左右にふり、目で追わせる。

 C. ボールを床から3フィートの高さにつる。子どもはその下にあお向けに寝る。ボールを円型にふり、とまるまで目で追わせる。ボールに赤い点をつけるなどの工夫で見やすくすることもよい。

 (5) 子どもは左右の人さし指に指人形などをつけ、目から12インチ、それぞれの指が12~14インチ離れるようにおく。それらを右→左、左→右と交互にできるだけ速く見るよう指示する。初め子どもによっては、教師が鉛筆等で見るべき指を交互に指示したり、言葉で助力してやることも必要である。

 (6) 子どもは鉛筆を鼻より10~12インチ離し、立てて持つ。その鉛筆と壁や黒板にある絵とをできるだけ速く交互に見るよう指示する。この活動は10~15回ほど連続させるが、訓練が進むにつれ、鉛筆を鼻に近づけるようにさせる。この活動は、焦点を弾力的に合わせることができるよう助力するのに役立つ。

 (7) 懐中電灯を用いたゲーム。まず教師が黒板に光をあて、それを子どもに懐中電灯の光で追わせる。初めは円形に、次いで横、縦、斜めの方向へと変化させる。この活動に習熟したのちは2人の子どもに同様の活動をさせる。年齢の高い子どもの場合、円形、十字形、正方形、文字などを光で描いてのち、記憶でこれらを描かせることで、視覚記憶の訓練としても利用することができる。

 (8) 「壁野球 Wall Baseball」 部屋の明るい壁に図のように色つきの円板をはる。子どもを部屋の反対側に立たせ、頭を動かさず言われた色の円板を見るよう指示する。何回か練習したのちゲームを開始する。子どもの目が指示された円板にいかない時、ワンストライクとなり、スリーストライクでワンアウトとなる。すべて成功した場合はホームランである。

壁野球 Wall Baseball

(後には、同色の円板で、それぞれに数字を書いて実施してもよい)

 A.練習 以下の順に色名を言う。赤、青、黄、黒、緑、桃、白、橙、茶。初めは色名を言うのと同時に、その色板を棒で示してやるとよい。

 B.野球ゲーム 以下の順に色名を言う。

○赤、黄、白、茶(2回)

○赤、黄、黒、桃、白、茶(2回)

○赤、青、黒、緑、白、橙(2回)

○青、黄、橙、茶(2回)

○青、黄、緑、桃、橙、茶(2回)

形態知覚 Form Perception〕

 子どもは4歳になれば、たいてい円形、正方形、十字形を知覚することができ、5歳で三角形、6歳で菱形、7歳では長方形の中に十字と斜十字の描かれている図形や、横向きの菱形を知覚することができるものである。

(型板の使用)

 (9) 図のように円形、正方形、三角形、長方形(横長と縦長の2種類)、菱形(横長と縦長の2種類)それぞれについて2組の型板セットを用意する。セット1は、セット2から切り抜いたもので、セット2の方形の1辺はほぼ8インチである。各型板の底部は、空間での位置が容易に理解できるよう黒色で縁どりをする。これら2組の型板を用い、子どもにそれぞれを黒板でなぞらせる。この活動では、各々の形とその名称とを一致させるよう指導する。

セット1

セット1

セット2

 セット2

 (10) 上記と同形の型板セットで、大きさがほぼ4インチのものを用意し、机上の紙になぞらせる。もちろん形と名称を連合させる。

 (11) 型板のうち、枠板を机上の紙に置き、その中に色をぬらせる。

 (12) (10)でなぞった紙を用い、それぞれの形に色をぬらせる。

 (13) 2つの形を組み合わせ、意味のある絵を作らせる。たとえば、

 (14) 2つ以上の形を組み合わせ、図のような意味ある絵を作らせる。たとえば、

(ペグボードの使用)

 (15) ペグボード上の型紙に合わせて形を作らせる。たとえば、

 A.水平の直線、B.垂直線、C.正方形、D.長方形(横長、縦長の2種類)、E.三角形、F.平行四辺形、G.台形、H.六角形、I.八角形、J.菱形(横長、縦長の2種類)、K.十字形、L.×型、M.星型、など。

 (16) (15)における活動ができるようになってのちは、型紙なしで簡単な形を模写させる。

 (17) いくつかの形が組み合わさった模様を模写させる。たとえば、

 (18) 文字を模写させる(E、L、Hなど)。

 (19) より複雑な図形を模写させる。ただし意味のある形を用いる。たとえば、

(寄せ木ブロック Parquetry Blocksの使用)

 (20) 初めはパターンの上にブロックを置かせ、次いで模写させる。のちには鉛筆でパターンを紙に模写させる。たとえば、

 (21) ブロックを使って左右相称のデザインを子どもに作らせ、次いでそれを手本にして別のブロックで模写させる。

 (22) 子どもの作ったデザインを実際のものにあてはめさせる。たとえばブックカバー、誕生カードといったように。この活動では、基本図形の形をした物を教室に用意しておくとよい。

(デザインブロック Design Blocksの使用)

デザインブロックは立方体でできており、4面が異なる色で、残りの2面は対角線で仕切られた2つの三角形が、それぞれ異なる色でぬられている。

 (23) ブロックで作られたパターンの上面と同じ模様を作らせる。たとえば、

 A.1つのブロックで、赤。

 B.赤、青各1こを横列に。

 C.Bのブロックを縦列に。

 D.赤、青、黄各1こを横列に。以下略

視覚記憶 Visual Memory〕

 (24) 子どもはテーブルに背を向けて座る。テーブルに子どもの見知った物をを置き、合図で数秒見させ、のちに覚えている物の名前を言わせる。3つの物から始め、次第に数を増していく。

 (25) 4つ以上の物をテーブルに置き、子どもに目をとじさせ、その間に1つを取り除き、何であるかを言わせる。次第に数を増していくが、6つ以上の物になったら、ナイフとフォーク、鉛筆とチョークといったペアの物を用い、記憶する際にペアとして覚えるよう指導する。対の基準には形、色、機能、材料、大きさ等が用いられるが、1度に1つの基準を使うようにする。この種のゲームは、視覚記憶と組み合わせる技能の訓練によい。

 (26) いろいろなものの描かれている絵を呈示し、それを隠してのちに何が描かれていたかを言わせる。

 (27) 黒板に単純な形やパターンを、子どもに見せながら描く。しばらくしてすばやく消し(または覆い)、子どもに描かせる。

 (28) 図のように幾何図形の組み合わさった絵を描き、何の絵を描いたかを子どもに教える。次いでそれを消し、子どもに描かせる。のちには描いたものの名前を教えずに描かせる。

 (29) 「十文字並べ Tic-Tac-Toe Tachistoscope」黒板に縦横それぞれ3列ずつのます目を描きそれを子どもに紙に写しとらせる。教師はその枠のいずれかに×印か○印をかき入れ、しばらく見せてから隠す。子どもはその印と同じ場所に同様の印をつける。初めは1つの記号から始めるが、次第に数を増し、呈示時間も短縮していく。子どもによっては、右、左、真ん中、上、下といった言葉を用いて空間を組織してやることも必要である。

視覚の比較 Visual Comparison〕

 (30) いくつかの物、絵、玩具等をテーブルに並べる。子どもによく見せてから、目をとじさせる。その間に教師は順序を1つ変え、のちに正しい順序に並べなおさせる。活動が進むにつれ2つまたは3つの順序を変える。

 なお以下に示す活動は、類似性と差異性の認知能力向上にも役立ち得るものである。

(ジグソーパズル Jigsaw Puzzlesの使用)

 (31) 3つに切断された顔の絵、2つに切断されたびんやボールといった絵(左右相称)、および同じく2つに切断された動物の絵(非相称)を、それぞれ組み合わせるよう指示する。

 (32) 全体の絵を見せながら、数個に切断された絵を組合わさせる。子どもによっては、最初正しく組み合わせたものを見せる必要がある。

 (33) 市販されている簡単なはめ絵パズルをさせる。

 (34) 市販されている簡単な組み合わせパズルをさせる。全身像や顔のパズルを用いることで身体像(body image)に関する訓練にも役立つ。

 (35) 市販のより複雑な組み合わせパズルをさせる。このパズルでは、一般にジグソーパズルとして市販されているような切断されている境界が、絵の輪郭や部分とまったく無関係のものを用いる。

 (36) ここではレクリエーションとして、みんなで成人向けパズルをする。

(マッチングと分類に関する活動)

 (37) 種々の色の幾何図形板を用意する。子どもに形、色、大きさに従ってマッチングさせる。まず円と正方形から始め、次いで三角形、長方形、菱形、平行四辺形、不等四辺形、六角形、八角形へと進む。のちには種々な箱に分類して入れさせるが、初めは2つの対照的な形から始め、次第に異型を増していくようにする。

 (38) 具体物を相互の関係において分類させる。たとえば銀器、クレヨン、鉛筆、本などを呈示し、関係のある物どうしを選ばせる。

 (39) 動物の絵。子どもに3匹の動物、たとえば2匹の猫と1匹の犬の描かれている絵を見せ、異なる動物を指さすように言う。野菜や他の動物の描かれている絵も用いる。次第に差異の少ないものにしていく。

 (40) 教師自作の教材。雑誌類から絵を切り抜き、厚紙にはる。それらの機能の基準に従って分類させる。絵は、果物、車、玩具、鳥等を用いる。

 (41) 市販の「お店やさん」、「おもちゃの家」、などを用い、種々のグルーピング活動をさせる。

 (42) 数字の代わりに絵(円形、正方形、三角形、星形、菱形)を使ったドミノゲームをさせる。

 (43) 数字の代わりに絵(食物、花、玩具、着物、車、家庭用品)を使ったロットゲーム。

(ひも通し活動)

 (44) 幼稚園向けで、いろいろな形がそろっている大きめの玉を用いる。初めは形に応じて分類させ、次いでパターンに従ったひも通しをさせる。この活動に習熟したのちは、玉の大きさをより小さくし、玉の種類を多くして同様の活動をおこなわせる。

(模写および説明に関する活動)

 (45) ブロック体で、子どもの名前の頭文字を、次いですべての文字を模写させる。のちには他のアルファベット、語を模写させる。なお模写のできない子どもに対しては、当初なぞりをさせる。

 (46) 家具、玩具、その他のラベルを用意する。子どもにそれらの物とラベルとをマッチングさせる。初めは差異のはっきりした、語数の少ないものを用い、次第にその語数を増していく。この活動に習熟したのちは、絵と語、語と語のマッチングへと進む。

 (47) 子どもに絵を描かせ、それについて説明をさせる。

 (48) お話に合った絵を描かせる。

 (49) 子どもの経験を話させ、それについての小冊子を作らせる。さらにその話を記憶させ、「読ませる」。

(絵画配列)

 (50) ある活動の初めから終わりまでを4つの絵にし、それらを順に板に描く。これと同じ絵の描かれた4枚のカード(大きさも同じ)を子どもに呈示し、板に描かれている活動を説明させながら、板の絵の配列と同じに並べ替えるよう指示する。のちには絵の枚数を6枚に増やし、種々な話をつくらせる。

視覚の概念化 Visual Conceptualization〕

 本書における視覚の概念化は、想像的、直観的思考を意味している。したがって以下の想像的思考に関する活動には、記憶や視覚の比較を必要とするものが含まれている。

 (51) あるものについて説明し、子どもにそれが何であるかを言わせる。たとえばスクルールバスでは、「私はいま大きくて、黄色いものを考えています。そのものには入口が1つと、車が4つついており、まわりにみんな窓がついています。そしていろんな所へ行くのに使われます」といったごとく説明する。一方子どもにあるものの名前を言わせ、それについて説明させてもよい。このゲームは何人かの子どもに、少しずつ順々に説明させていく方法でも可能である。

 (52) クラスのある子どもについて、その外見や着ているものを説明し、だれであるかをあてさせる。のちには説明役を子どもにさせる。

 (53) (52)と同じ方法で、ある場所についてあてさせる。

 (54) 子どもに買物に行った時の話をさせ、ほかの子どもに何の店であるかをあてさせる。

 (55) テレビコマーシャルゲーム。子どもに言葉を使わず、身体の動きのみであるもののイメージを表現させ、ほかの子どもに何であるかをあてさせる。

 (56) 子どもに家からほかの家へ行く道順や学校への道順について説明させる。

 (57) 「どこにあるかな」 子どもに目を閉じさせ、部屋の中の人や物について、名前を呼ばれたものの方を指ささせる。まちがった時に目をあけさせる。

 (58) 部屋の中にある物の名称を言い、その物をとらせる。ただし子どもはとる前に、その物がどこにあるかを言葉で言わねばならない。(先生の机の上とか、引き出しの中といったごとく)。

 (59) ショーウィンドー遊び。店のショーウィンドーを実際に見学させ、あとでそこにあった品物を記憶で言わせる。この活動は、店の絵などを用いることで代用できる。

 (60) 一部分を切りとった絵や写真を呈示し、何枚かの切りとられた部分の絵の中から合うものを見つけ出させる。たとえば自動車の絵から車の部分を、馬の絵からしっぽの部分を、といったごとく。なおこの活動は、極端に不安傾向の強い子どもには実施すべきでない。

目と手の協応 Eye-Hand Coordination〕

 目と手の訓練は、視覚の比較に関する技能を促進するものである。

(両手による直線がき)

 図のように、腕全体を使った運動が可能な時計様のものを黒板に描く。子どもは円の中心に視点を固定し、両手にチョークを持って指示された直線を描く。

 (61) 水平線(A1、A2の代わりに時計の数字を使ってもよい。すなわちA1→9、A2→3、といったごとく)

 A.右手―A2→中心;左手―A1→中心

 B.右手―中心→A2;左手―中心→A1

 C.右手―中心→A2;左手―A1→中心

 D.右手―A2→中心;左手―中心→A1

 (62) 垂直線(時計では、D1→12、D2→6となる)運動の方向は(61)と同じである。ただし、D1、中心点、D2を使用する。

 (63) 斜めの運動。たとえば、E1、中心点、E2を使用し活動。運動の方向は、(61)と同じである。

 (64) 種々な方向を組み合わせた活動

 A. 右手がD点;左手がA点

 B. 右手がA点;左手がD点

 C. D点と斜めのB、C、E、F各点をそれぞれ組み合わせた運動

なおこの活動においても、両腕の運動方向は(61)と同じレベルまで進めることが望ましい。

 (注):ある1つの組み合わせの運動に習熟するまでは、次の組み合わせの運動に進ませるべきではない。それはこれらの活動に対して拒否的態度を形成する恐れがあるからである。

(点結び)

 (65) 教師は黒板に1つの点をかき、その点にチョークを置かせる。次いで教師は別のところに点をかき、子どもに点と点を腕全体を使って結ぶよう指示する。訓練が進むにつれて、いろいろな形になるよう点結びをさせる。最後には点なしでそれらの形を再生させる。

 (66) 市販の点結び帳を練習させる。

(黒板活動)

 (67) 子どもは両手にチョークを持ち、黒板に描かれている×印を真正面に見えるように立つ。両腕全体を使い、図のような方向で円を描くよう指示する。

 (68) 円の代わりに、三角形、正方形、長方形、菱形をかかせる。方法は(67)に同じ。

(型板を用いての色ぬり)

 (69) 外辺6インチ平方、内辺4インチ平方の中空の型板を硬いボードで作る。紙の上にこの型板をおき、その中を色ぬりさせる。

 (70) 図のように(69)で用いた型板の一方を切りとり黒の太線で代用して、その中を色ぬりさせる。

 (71) (70)の型板の上方を切りとり、L型を作る。切りとられた部分には同様に黒の太線をひき、その中をぬらせる。

 (72) 次には底部を切りとり、同様にして色ぬりをさせる。

 (73) 太い線のみで囲まれた正方形の色ぬりをさせる。

(色ぬり)

 (74) 初めは黒い太線で囲まれた簡単な形の色ぬりから始め、次いで市販のぬり絵をさせる。その際子どもは、絵の各部分についてよく理解していることが必要である。そうでないと同じ色をぬるべき両袖にそれぞれ異なる色をぬったりし、かえって混乱させてしまうことがある。これを防ぐためには、各部分の外縁を必要な色でふちどりしておくとよい。

(はさみで切る)

 はさみを用いた活動には、微細運動技能と目と手の協応に関する活動が含まれる。

 (75) 紙の中央に黒い太線をひき、その線の両わきに厚紙をはり、はさみで切らせる。この活動では、厚紙がはさみを導く役目をはたすことになる。

 (76) (75)の活動に引き続いて、厚紙を片方だけにし、切らせる。

 (77) さらに補助としての厚紙を用いず、太線を切らせる。

 (78) 太い直線のみで囲まれた簡単な幾何図形を切らせる。

 なおこの活動の当初は、各辺の色がそれぞれ異なる図形を与えることで、切る方向の変わることを示すとよい。

 (79) 太い線の曲線や円を切らせる。

 (80) 黒い太線でふちどられた簡単な絵を切りとらせる。

 (81) より複雑な絵を切りとらせ、それらを台紙にはらせる。この活動は、図-地知覚能力の育成にも役立つものである。

(なぞりと絵の模写)

 (82) 図のような幾何図形の点線をなぞらせ、のちにその図形内に色ぬりさせる。

 (83) 図のように絵を段階的に模写させる。

(紙と鉛筆を用いた活動)

 (84) 紙の左端に緑色の印、右端にいくつかの円や正方形などの描かれている用紙を用意する。子どもにまず円や正方形の1つに点をうたせ、次いで左端の緑の印からその形へ直線をひかせる。以下同様にして順次(左→右の)直線で結ばせる。

 (85) 図のように数本の1群の縦線が描かれている紙を子どもに与え、左端の線の中央から右端の線まで、縦線を逸脱しないようにして横に直線をひかせる。方法を説明する際は、常に左端から右へ線をひくように留意する。

 (86) 「ねずみゲーム Mouse Game」 図のようにます目を描いた紙を子どもに与え、ねずみがチーズをとりに行く道順を線でひかせる(ます目に順次点やまるをかかせてもよい)。

 (87) 「文字ゲーム Letter Game」 図のようにひとかたまりの大文字や小文字の書かれた紙を子どもに与え、大文字ないし小文字をまるで囲ませる。

AAaa aaaA AAAa aaaA

CCC Ccc ccC CCc ccc cCC

 (88) 目と手の協応能力を高める他の活動

 A.ボールのキャッチング(始めは大きいボールから始め、次第に小さいボールを用いる) B.ボール投げとキャッチング(壁に向かって) C.ひも通し D.積木 E.投げ矢遊び(Dart Games) F.光の追いかけっこ(懐中電灯を用いる。(7)参照) G.紙やナフキン折り。簡単な折り紙(日本の折り紙)は、目と手の協応に関するすぐれた訓練活動であり、多くの子どもが興味を示すものである H.石または小さい鉄玉を用いた遊び I.おはじき J.粘土 K.くぎ打ち L.料理:計る、皮をむく、バターをぬる、つぐ、といった活動 M.棒打ち(Pick-up-sticks) N.カードとじや縫うこと O.あみもの P.石けんの彫刻 Q.靴ひも結び R.タイプ S.書写 T.ペインティング:4歳以下の子どもには大きい刷毛でぬらせる U.ペグボードを用いた活動 V.組み立て玩具

第9章 筋肉運動知覚技能

 ボディイメージとは、身体の空間におけるひろがりや位置を、自分が見る他の現象と比較して知ることである。そこでボディイメージが貧弱であれば、その子は障害物をくぐる時、どのくらい身体を低くしてくぐったらよいか判断できないし、空間内で自分がどこにいるかを知ることができないであろう。ところで筋肉運動技能は、ボディイメージの強化に役立つばかりか、運動技能と密接に関係する視覚技能とも重要なかかわりをもっているものである。

粗大運動活動 Gross Motor Activities〕

(基本活動)

 (162) 「雪の中の天使」 子どもは足を合わせ、手を体の両側につけ、あお向けに寝る。カウント1で、両手を床につけたまま左右に開きながら頭の上方にのばし、2で体の両側にもどさせる。足の運動は、当初は手と別々に行う。まずカウント1で両足を床につけまま左右に開き、2でもとに戻すよう指示する。両手、両足ともスムーズな運動ができるようになってのち、両方の運動を組み合わせて行う。なお1、2の代わりに、「開きなさい」、「閉じなさい」、といった言葉の方が理解されやすいこともある。

(統合活動)

 (170) 音楽に合わせてはう。子どもは教師のピアノ、レコード、タイコのビートに合わせてはう。ただし右手、左膝と、左手、右膝の動きが一致するように指示する。

(バランス活動)

 (173) バランスボードの上で平衡を保つよう指示する。ボードは、厚さ3/4インチ、縦、横12インチ平方の合板の中央に、1/2×2×2インチの木片のついたものを用いる。

 (その他粗大運動パターンの育成に適したゲーム、活動、および用具)

 (181) ジャングルジム この活動は、種々な方向での登り、降りをするところから、空間の位置や方向性に関する知覚能力を育成するのにも役立つものである。

 (189) 協応能力を発達させるゲーム

 A.ボールゲーム:野球、サッカーほか

 B.リーダーの動きを模倣する

 C.ボウリング

 D.輪投げ…など

 (190) 空間での方位づけの能力を発達させるゲーム。これらの活動には、目かくしあそび、目かくしをして障害コースを進むゲーム、迷路歩き、およびよく見知った部屋を目かくしをして歩くゲームなどがある。

微細運動活動 Small Motor Activities〕

視知覚領域における多くの技能は、運動の統合に基礎を置いているところから、訓練活動はともに類似したものである。微細運動技能を発達させる活動には、第4章に記した、切る、はる、書く、ペグをさす、といった目と手を協応させる活動が含まれる。

(Teachers College Press,Teachers college,Columbia University,1967から)

*情緒障害児サフォークセンター所長
**文部省特殊教育課教科調査官


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1979年3月(第30号)2頁~12頁

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