職業 若年脳性マヒ児の追跡研究

職業

若年脳性マヒ児の追跡研究

―心理的、教育的、職業的観点から―

A Follow Up Study of Young Cerebral Palsied Patients

―Some Psychlogical,Educational and Vocational Aspects―

H.H.Nielsen*

塚本昌幸**

要約

 39人の精神薄弱を伴わない青年および成人のフォローアップ・スタディの結果、85%は普通学校に通学し、残りは身体障害者ないし精神薄弱者のための学校に通学していたことが明らかにされた。学習障害を有する精神薄弱を考慮から外すと、問題ケースは10%をこえず、この率は、デンマークの普通学校に在籍する子供に認められる率に非常に近い値であった。職業的進路については約80%が一般の労働市場で雇用され仕事を続けることができると予測された。約1/3は、身体的虚弱および緩慢、あるいはパーソナリティーの問題および知能障害のために、かなり明白な職業的問題を経験していた。女子は男子に比べて、一般的に自分の仕事に満足していて、うまくいっているように見えた。問題の標本集団においては、軽度の身体障害を持つクライエント数が不釣り合いに多く(表1参照)、このような「境界」的な位置をしめた場合はいわゆる正常な標準と簡単に比較し、対照させることが難しいということを示している。研究の基礎になった心理的評価からのデータと学校でのコースの間に密接な関係が見られた。それとは対照的に、幼児期の報告と、フォローアップで得られた雇用に関するデータの間には低い一致しか認められなかった。

表1 診断・障害の程度・年齢・IQ・家庭での情緒的な環境による被験数
   
〈オリジナルな評価〉   
診断 片マヒ 19* 49
対マヒ 20 51
障害程度 軽度 21 54
中度 9 23
中重度 9 23
IQ 75-89 5 13
90-110 18 46
>110 16 41
〈フォローアップ時〉

  

年齢 14―16 15 38
17―19 10 26
20―23 14 36
家庭での情緒的な環境 協調のない家庭 10 62
正常な家庭 17 44
不確定 12 30

  *  右片マヒ N=13  左片マヒ N=6

 このレポートは、8~10年前より心理的評価をうけていた若年の脳性マヒ児の再評価を基礎としている。この調査は、特に精神衛生、教育的な達成度、そして雇用可能性について、現在の状況とともに、クライエントの幼児期から青年期にかけての発達についての心理的側面を明らかにすることを企図した。このようにして、最初の心理的判定の予測的意義の検討がなされた。

 これらの諸目的を頭に置いた脳性マヒ児のフォローアップ研究は文献に見られない。以前の研究は脳性まひ児の特殊な、大半が医学的な問題、ないしは成人の患者に焦点をあてている。ここで採用された発達段階的(developmental)アプローチは、この年齢による人工的な断絶をつなぎ合わせることを可能にした。

方法

被験者

 60年代の初めに、著者は6~15歳の精神薄弱を伴わない40名の痙性マヒ児のグループと年齢、IQ、性別、そして社会経済的背景がマッチした非障害児からなるコントロール・グループについての徹底的な心理研究を行った(Nielsen,1966)。この研究ではパーソナリティー特性の調査と一緒に、いくつかの認知及び視覚運動機能についての分析がなされた。さらに、家庭的背景と学校の記録についての報告がなされた。そしてコントロール・グループに見られるよりも、有意に多くの患者が視覚―運動障害、学習障害およびパーソナリティー障害の微候を示すことが主な結論であった。

 患者は、コペンハーゲン大学病院の障害児のための外来クリニックで治療を受けていた約400名の脳性マヒ児から選択された。選択の基準は次の通りである。

 暦年齢は6~15歳の範囲、ビネーによるIQは75以上、痙直性の片マヒないし痙直性の対マヒ―それぞれ半数ずつ―との医学的診断の下っている者(これらの選択基準を設けた動機はNielsen,1966にある)。性別、居住地(いなかないし町)、運動障害の程度に関して、患者の分布はランダムであった。運動障害の程度は、ほとんど運動に不便を感じることのない程度の運動疾患から、たいへんな動作の困難をもたらすかなりの重度の障害まで、さまざまな範囲にわたっている。しかしながら、全く自発的運動ができない子供たちはいなかった。一名には軽い聴覚障害が、また一名には軽い視覚障害があった。20名の片マヒのうち10名はてんかんという診断も下っていた。痙直性の発作をもつ対マヒの者はいなかった。

 社会経済的背景については、大多数が中流という社会環境からであり、若干が下層中流からであった。

 このグループは脳性マヒ者の集団一般を統計的に代表するものでなかった。知的な障害をもつ患者は除外された。またたいがいが痙直性の三肢マヒないし四肢に障害を受けた、最重度の運動障害をもつ者は含まれなかった。このグループは、精神薄弱を伴わない痙直性の片マヒないし対マヒの患者を代表したものと考えることができた。

 最初の評価の8年後にフォローアップ研究が計画された時、若い女子の患者が脳腫瘍で死亡していた。40名のうち残りの39名が本調査の対象者を形成する(表1参照)。残念ながら、コントロールグループである普通児の再評価の可能性はなかった。

手続き

 フォローアップ・データ、はいくつかの方法手段を通じて集められた。それらは、患者の95%との面接を通じて、両親や教師との面接によって、そして、学校や病院の記録から、またリハビリテーションセンターから集められた。

 最初の対象者との接触の時、面接の目的は簡単に説明された。また面会によって生ずるであろう収入上の損出に対して支払うと同様に交通費を支給したい旨の申し出がなされた。2~3ではあるが、質問にこたえて、あるいは、対象者の態度全体からこのような約束した方が良いと判断されたため、テストが行われることはないと強調せねばならなかった。

 患者グループの約1/3は若く、依然として大学病院の障害児のためのクリニックで外来治療を受けていた(年齢の上限は約18歳)。これらの若者との接触は、定期の外来の1つを通じて行われた。そして彼らの協力は容易に得られた。残りの患者とは、電話もしくは郵便を用いて接触した。若干のケースであったが、協力がついに得られるまでに2~3回の照会をする必要があった。たった2ケースだったが数回申し込みをしても返事が得られず、クライエントとの面接はあきらめられた。これら2人の患者については、学校と病院の記録からそしてリハビリテーションセンターから十分な情報が得られた。

 面接は病院で行われ、通常、2時間にわたった。それは自由面接であり、質問は予め概ね構成され、次の内容に焦点を当てていた。それらは、学校でのコース内容、職業訓練及び教育、雇用、趣味、身体障害、両親・親戚・友人・異性との関係であった。重点は現在の生活状況についての情報とともに、上にのべたような領域で経験した困難や問題に光りを当てることになった。18歳以下の患者の場合、片親ないし両親からの面接をもとに、データが付け加えられた。最後に、病院記録からさらにデータが集められた。若干ではあるが、患者とその親たちからの協力が全く満足いくものというわけではなかったかなりやっかいなケースの場合、教師やリハビリテーション職員がさらに情報を集めるのを助けてくれた。

 在学年数、仕事の種類、その他の純然と事実的な情報の収集にあわせて、対象者の全体的な精神衛生状態についての印象を得ることにも重点が置かれた。これはプロジェクティブ・テクニークを用いずに行われねばならなかった。というのは計画の段階でテストによらないということがすでに決定されていたからである。ためらいを示したり積極的でない対象者には、テストは行われないとはっきり言ってあげさえしたら協力が得られるだろうと考えた。かくて、精神衛生の評価は、学校や病院の記録といった適当な外部の社会資源からのデータを参考としながらも面接を通じて得られた臨床像に基づいていた。

分析

 膨大な量の資料がかくして集められた。しかし資料は本来計量的分析になじまない長期の詳細にわたる生活歴であった。かくて、質的なアプローチが広く行われることになった。

 ここで報告されるデータは二つのカテゴリーに分けられ処理された。第一は学校教育をカバーし、第二は職業をカバーしている。すべての利用可能な資料(面接、記録等)を基に、対象者は次のグループに分けられた。それらは「著しい問題を示すグループ」、「著しい問題のないグループ」、「不確定(情報が不完全な場合)」であった。実験者によるバイアスの影響をできるだけ少なくするため、臨床的な解釈は最小限にとどめ対象者が偽りなく述べた彼の状況についての感じや評価に大きな重点が置かれた。対象者自身による主張と対立する分類がなされたのは、問題についての神経症的な否定や抑圧があると判断しても全く誤りでないことがはっきりしていた若干のケースのみであった。これらの場合、他のすべてのケースと同様に、学校、職場、そして病院からのクライエントについての事実に基づいた、正確に把握可能な情報が分類の適否を確かめるのに用いられた。

 「問題を示すグループ」に含まれたのは、著しくしかも長期にわたる情緒的、認知的、職業的困難をもつものであった。専門家の治療を要するとは考えられない、さして顕著でなく、たぶん一時的でしかない困難を持つクライエントは、十分に適応し精神的に健康な対象者と一緒に「問題を示さないグループ」として記載された。

 フォローアップの結果は、(1)脳性マヒの種類と程度、(2)その子供の家庭の情緒的な環境、そして(3)最初の心理的判定からの結論との関係において検討された。

 脳性マヒの種類と程度は小児神経科医によって診断された。そしてこの分類は特定の身体的な要素とフォローアップの結果の間の相関の分析に用いられた。

 家庭での情緒的な環境は、以前の研究について評価され、フォローアップで検討された。三つの広いカテゴリーが用いられた。それらは「協調のない家庭」、「正常な家庭」、そして「不確定」であった。研究を通じて用いられた手続きに関して言うと、患者の家族の中に顕著なそしてだれの目にも明らかな対人的な問題がある場合にかぎって「協調のない家庭」というカテゴリーが当てられた。いわゆる「正常」のカテゴリーは、精神的で健康で協調の取れた家族から、顕著ではなく一時的な心理問題をかかえた家庭までの、かなり広い範囲の異なった家族的背景を含むことになった。「不確定」なグループには、情報があまりにも乏しいあるいは分類を確たるものとして主張するには一貫性をあまりに欠いている家族を含めたこのカテゴリーには、家庭の情緒的な環境が当初の評価時とは、良くなった場合も悪くなった場合もあるが、著しく変化してしまった若干のケースが含まれていた。

 最後に、フォローアップの結果は当初の心理的記載と比較された。この記載は、幼稚園、学校、そして病院の専門職員からの情報に加えて、認知テストや投影テスト、観察、親たちとの面接などを活用して得られる子供についての全体的な印象に基づいていた(Nielsen,1966)。それは知的な機能、認知および視覚―運動についての資産と負債の一般的水準についての説明、パーソナリティーについての記載、そして、若干の予測的な検討を含んでいた。分析ではこうした初期の報告とフォローアップ・データの間の一致が検討された。

結果

学校

 後の職業訓練や就業についても同様だが、学校教育に関するデータを評価するにあたって、対象者の大多数は正常の精神的能力を持っていたことは留意されるべきである。最初の評価におけるビネー知能検査の結果によれば、39名中5名のみが、IQ75~90の範囲にあり、遅滞を示しているにすぎない。(表1参照)。

 表2は最後に就学した学校のタイプによる患者の分布を示している。大多数(85%)が一般の学校に通学し、そしてしかも36%もが中学ないし高等学校に進んだことが明らかにされよう。当時7年であった義務教育終了後すぐに学校を去った患者はたった一人で、他の者全員が自発的に、1年ないしそれ以上学業を続けた。

表2 最後に通学した学校の種類
JQの範囲
中等学校もしくは初等中等学校 14 36 105―139
小学校 19* 49 78―122
肢体不自由児養護学校 4 10 97―106
精神薄弱児養護学校 2 5 77―83

*このうちの1名か2名は後に、初等中等学校に入学している。

 もちろん、これらのたのもしい結果は、一部には、どの患者も重度の障害を受けていなかったことが挙げられるが、たぶん、これらの結果は、障害児の一般の学校へのインテグレーション、そしてすべての児童への基礎教育を延長することに関心が高まっていることを反映したものともとることができよう。

学校における困難

 39名の患者のうち9名(23%)が、主として認知ないし行動的性格の顕著な問題を学校で示していた。これは驚くにあたらないが、この問題のあるグループは、知的に遅れた子供(46%)と家族間に不協和のある家族的背景を持つ子供(45%)を比較的多く含むことによって特徴づけられる。これは全群でそれぞれ示された値(13%、26%)よりも多くなっている。最も多く発生した学校での問題は表3に要約される。

表3 学業に困難をもつ患者(N=9)
ケースNo. 診断 障害の程度 IQ 家庭での情緒的環境 有力な問題 問題の予測
1F* 右片マヒ 中重度 106 協調のない家庭 行動障害
非活動的、反抗的
敗北主義的行動
あり
6M 右片マヒ 中重度 111 協調のない家庭 神経質で不安が強い
抑圧されやすい
なし
7F 左片マヒ 軽度 101 協調のない家庭 行動障害
精神薄弱(てんかん)
あり
8M 左片マヒ 軽度 78 普通 学習障害 あり
12M 左片マヒ 軽度 82 普通 学習障害 あり
13F 右片マヒ 中重度 77 不確定 学習障害 あり
25F 対マヒ 軽度 78 協調のない家庭 学習障害
内向性
難聴
あり
27M 対マヒ 軽度 83 不確定 学習障害 あり
30M 対マヒ 軽度 117 不確定 自己主張が強い
心身症的愁訴
器質的な背景をもった性格の障害
なし

* F:女性 M:男性

 軽度の知的遅れによる全般的な学習の困難が半数以上の子供たちの主な問題であった。彼らはすべて遅かれ早かれ特殊学級ないし学校に移された。そこでは身体障害と重なった知能の障害に応じて相当の配慮が払われた。行動上のまた性格上のゆがみが残りのケースにははっきりしていた。しばしば、協調の悪い家庭的背景ないし脳の機能不全(てんかん)が、これらの行動・性格の乱れの出現を伴っていることが見うけられた。(表3参照)。

 予測とたがわず、身体障害の種類と程度は、学校でのコースに影響を与えているようには思われなかった。問題のグループの中で軽度の障害を持つ子供たちの数が他の障害程度の子供たちより若干多いということは、雇用に関して同様に見られる傾向で、その関連において後に述べるつもりである。

 8~10年前の最初の心理的評価からの結論および予測(現在の調査におけるのと同じように測られたとして)がフォローアップの結果と比較されたとき、学校でのコースについての明白な不一致が見られるのはたった4ケース(10%)であった。2人の若者は、かなり重い認知上のそして行動上の障害が予測されているという、当初の予想をうらぎり、かなりの成功をおさめていた。一つのケースの場合、永年にわたる普通では考えられないような思いやりにふれた。そして家族の建設的な支援がすばらしい成功の理由と考えられよう。もう一方のケースの場合はデータからははっきりしない。

 2名の対象者は予測もできないかつまた重度の情緒的、行動的障害を見せていた(表3参照)。一人は永い年月の間に夫婦の不和がますます増しているというかなり雑雑な家族の中の虚弱で神経質な男の子であった。もう一人の患者の家庭環境についての情報はかなり少なく、顕著な心理的ないし社会・経済的問題を示す印は見あたらなかった。低学年の時、この男の子は夜尿と軽度の行動上の問題(短気、攻撃的、身体障害による劣等感にさいなまれる)に対しての当部門での治療に成功していた。1年後の定期検査の時も、状態はあいかわらずたいへん満足のゆくもので、彼の問題は一時的で回復可能だと考えられていた。しかし、思春期を過ぎるころになると、高等学校の退学を余儀なくされ、また器質的な原因によるとはっきり考えられる条件が見られ、精神病院への入院に至るような症状の再発が彼には見られた。

 全体を通してみると、かなり難しい性格の学校での問題は少数のケースと認められるにすぎなかった。もし学習に困難を持つ遅滞児が考察から外されるならば、著しい情緒もしくは適応障害を示すものは10%を超えることはない。障害を持たないデンマークの学童のうち、同程度のパーソナリティーおよび行動の障害についての分布についての報告によれば、その値は7~10%である(Vedel Peterson et al.)。だから、正常の知能を持つ、軽度から中度にかけての障害児を一般の学校のシステムの中にインテグレートすることが、障害児に大きな心理的なリスクを負わしめるとは思われない。ついでながら、これらのデータは、インテグレーションの障害児および非障害児に及ぼす、おそらく有益な影響についての結論を導き出そうとするものではないことを追記しておく。

訓練と雇用

 フォローアップ時、22名の被験者(標本全体の56%)が学校を終了し、それに続く訓練か職を求めていた(表4参照)。

表4 フォローアップ時の職業
  診断 身体障害 IQの範囲
片マヒ 対マヒ 軽度 中度 中重度
熟練もしくはなんらかの訓練を必要とする職業 5 2 3 2 2 1 102―114
非熟練職業 3 0 3 2 1 0 99―122
保護雇用もしくは保護訓練 4 4 0 3 0 1 77―98
失業中 4 1 3 3 0 1 96―121
訓練中* 6 2 4 3 0 3 94―116
学校に在籍 17 10 7 8 6 3 78―139

 * 教育大学もしくは総合大学

 表4から、22被験者中14名までがいわゆる競争条件の中で訓練を受けているか、就労しているかしていたことがわかる。その14名の内訳は、教育大学もしくは総合大学で学んでいたもの6名(すべて女子)、勤労労働に携わる者5名、そして未熟練労働に携わる者3名から成っている。

 4名の患者はシェルタード・ワークショップでの訓練ないし保護雇用についていた。うち2名は、身体障害と精神の障害(精神薄弱)の重複のため、1名は肢体不自由に視覚障害がかなりひどく加わりシェルタード・ワークショップが唯一可能な就労場所となっていた。

 たった4名の被験者(全員男子)が失業中で、このうち3名はたぶん一時的なもので、地域のリハビリテーションセンターからの何らかの職業訓練および援助を受ければ、安定した職を得、自立できるようになると思われる。4番目のケースについては、保護状態での雇用ですら、患者の重度精神障害(痴呆、器質的障害による性格障害、てんかん)のために疑わしい。

 年少の脳性マヒ児の訓練および雇用について、代表的な研究(Hansen,1960;Ingram et al.,1964;O'Reily,1974)の中で普通報告されているよりも、表4にみられる数値はより楽観的な印象を与えるであろう。疑いなく、この理由として考えられるのはサンプルの選択である。精神障害を持つ患者は除外されており、たとえば三肢マヒまで最重度の障害を持つ者はサンプルに含まれていなかった。比較的軽度の身体障害を持ち、平均的知能を有する患者のみが考慮されている場合には、これと一致した結果が得られている(Ingram et al.1964;Kohman & Skogrand,1964)。かくてIngram等は、身体障害が比較的軽度で、IQが90以上ある患者の約92%は一般雇用もしくは「条件※※」雇用(「条件」雇用とは、労働者の障害に応じて配慮を加えた雇用をいう)されていると報告する。本研究において、学校を出た患者の77%が一般雇用下で、職を得、そして職にとどまるだけのポテンシャルを持っていると予測された。

訓練及び雇用に関する問題

 対象者は訓練や雇用についてほとんど満足しているかのように見える。しかし、その1/3が身体的な弱さや緩慢さ、もしくは心理的な理由(性格的な障害、精神遅滞等)のため、著しい問題を経験していた(表5参照)。

表5 雇用問題をもつ患者(N=7)
ケースNo. 診断 障害の程度 IQ 家庭での情緒的環境 現在の雇用 有力な問題 問題の予測
12M 左片マヒ 軽度 82 普通 保護雇用 知的な遅滞 あり
15M 右片マヒ 軽度 98 普通 保護雇用 身体障害
弱視
なし
18M 左片マヒ 軽度 96 普通 失業中
就労不能
精神薄弱
器質的な背景をもった性格の障害
なし
26M 対マヒ 軽度 121 普通 失業中 身体障害 なし
29M 対マヒ 軽度 110 不確定 失業中 身体障害 なし
31M 対マヒ 中度 122 協調のない家庭 非熟練労働 落ちつきのなさ
衝動的行動
なし
34M 対マヒ 軽度 99 協調のない家庭 非熟練労働 落ちつきのなさ
敗北主義的行動
なし

 「問題を示したグループ」の最も目立った特徴としては1人を除き全員が、(1)軽度の障害を持った、(2)男子のみが含まれていることである。女子は、一般に、職業に比較的満足し成功しているように見うけられた。これは、いろいろ理由がある中でも、家族を養うことができるようにかなり強く期待される男子において程には、女子においては雇用や給与に対しての欲求が強くないということに関係があろう。

 予想に反して、比較的障害が最重度とされている者の多くは問題を示すグループには含まれていなかった。これらの者の多くは、より一層進んだ訓練を受けているか終了した女子であった。彼女らは、労働市場に出たより軽い障害をもつ男子の何人かが経験した大きな困難ほどにもより大きな身体障害にもかかわらず困難を経験していなかった。クライエントについての説明の中でも指摘したように、教育大学やビジネススクール、総合大学といった女子をとりまく環境は、製造業その他よりストレスが少なく、競争を強いることが少ないと仮定しても適当と思われる。軽い障害を持つ若い男子のある者は、学校を巣立ちそしてほとんど正常の身体の強さや運動機能について自信を持ちながら、あらかじめリハビリテーション職員やその他の専門機関の援助を受けず一般の労働市場で職に就こうとしたとたん問題にまきこまれていた。肉体的な弱さや緩慢さにより解雇されることは、傷つきやすく、感受性の強い青春期の自尊心や不安定な自己同一性(ego-identity)という感情に対して取り消せないような打撃を与えることになろう。ある青年がいみじくも言った「できっこないことをやれだなんて」という我慢のならない経験にしばしば抑圧的で自己屈辱的な反応が伴う。

 軽度の身体障害は、少なくとも重度の障害と同じくらいの頻度で人格的あるいは職業的困難を伴っているのではないかという感じは非常に限られた数の被験者に基づいている。しかしながら、問題のグループの中では若干程度のケースの比率が多いのだが、学校についての分析に同じような傾向が表れた。

 以前の研究(Nielsen,1966)において、重度障害の場合、肉体的に健康な者との日常的な比較・競争はさほど身につまされるものではないため、時に重度障害の者よりも軽度の障害の者は大きな精神的緊張を受けることが指摘された。しかしながら、こういった肉体のかかわりの程度は、個人の発達過程に影響を及ぼす、いくつかの、そしてより重要な要因のうちの一つとして考えられるだけである。

 問題を示すかなり多くのケースが家族間と問題の多い家族の出身であったろうという意味において、ある関係が家族的背景と職業的業績の間に存在することが予測された。しかし、この仮説は事実にあてはまらなかった。表5は、約60%ないし全集団の場合より若干多いくらいの割合が、情緒的には、「正常」ないしは「良好」と判断される家庭で育てられたことを示す。問題の多い家庭的背景のある場合のパーセンテージは全集団の場合と同じであった。

 したがって、子供の家庭の情緒的な環境と雇用の間には、関係が立証されえなかった。若干だが、確かに、事態のなりゆきが肯定的であれ、否定的であれ、情緒的な環境の影響を強く受けていたケース―以下にコメントする―もあった。しかしながら、ここで強調されるべき重要なことがらとは、本研究で定義され記述されたような家族の情緒的な雰囲気は後々の訓練や雇用の方向にはっきりとした関連を持っているとは集団の持つ傾向が示さなかったということである。

 これらの知見は、最初の心理評価の結果と雇用に関するデータの間に見られる一致が低いということと関連づけて考慮されるべきである。表5の「予測された問題」という例は、この目的を念頭において再評価された当初のデータを基にして雇用の問題が生まれるか否かについてのべる。この評価は広範なデータに基づくもので、データの中では、認知的及び情緒的発達の家族的背景に重点が置かれたが、身体障害の程度には特別の注意は払われなかった。この研究全体を通じ他の例にもみられるように、かなり重度の機能不全―知的、情緒的、もしくは家庭的なもの―のみが将来に問題がありそうだとの結論に結びついた。

 表5の、7名の実際の問題ケースのうち予測できたのはたった1ケースであった。これは以前、保護雇用されたが主に精神薄弱のためいくつかの非熟練労働をマスターできずに退所させられた20歳の男子である。

 雇用に問題のあった残る6ケースは予測だにされなかった。正常の知能を持つ軽度の障害のある若者3人は、肉体的に劣るため手足を使う仕事から解雇されてしまったという気持ちのやり場のないような失敗を社会で等しく経験した。他の3名について言えば、問題には、主に当初の検査時より悪化した、ないし、もう少し正確にいうならば、その時は観察できなかった、性格的な障害がからんでいると思えた。一名の若者は思春期に入ってから知能と性格が著しく退歩しだした。彼は何度か精神病院に入院した。彼の逸脱した反社会的行動はきわめて器質的、てんかん性のものと考えられた。

表5中の最後の2名は、長続きせず失業が多く、彼らの能力以下の仕事であるにもかかわらず、職を点々と変えた。子供の時の検査では、彼ら2人ともほとんど問題なく見え、知能的にもよくインテグレートしていたため調和を欠いているという家族的背景もわかっていたが、後になって職業生活に極めて悪い影響を及ぼすことはないと評価されていた。しかし、彼らの親たちの社会的行動パターンや職業上の経歴をしさいに追ってみると、彼らは家族的背景が成人になってからの職業的生活に決定的影響を与えているとわかる特異なケースであることがはっきりした。

 まるで幼児期の情報に基づいた「予測」と職業についてのフォローアップ・データとの間の関係をはっきりさせるように、職業的困難の予測が不正確だった3つのケースがあった。これら3人のクライエントがすべて女子であったということは偶然の一致以上のものであろう。子供のときは、彼女らは、自己主張が強い攻撃的であるといったようなかなり顕著な行動やパーソナリティーの障害を示し、しょっちゅう親たちや学校当局からの訴えがなされていた。しかしながら、フォローアップをしてみると、地道な半熟練労働に就き、良く適応し満ち足りた女性となっており、皆を喜ばせてくれた。

 全体としてみれば、当初の心理的レポートに基づく予測と職業的経過についてのフォローアップ・データとの間の一致度は低いということになった。訓練中もしくは就労中の22ケースのうち、わずか13ケースが正しく「予測」されたにすぎず、9ケースは、顕著な職業的問題はない(6ケース)とするか困難に出会う(3ケース)とするかというふうに誤った予測がされた。

 学業の分析では、初期の「予測」とフォローアップの結果との間の明らかな不一致は、わずかにケースの10%にすぎなかった。それに対し、就労の分析では41%であった。この食い違いについてのもっともな説明を見いだしてみたい。最もたしかな説明は、心理的にみると、認知テストやパーソナリティーの記述を含む最初の幼児期の評価からのデータは、青年期の職業的適格性よりも青春期の学業的行動に内容的により関連しているということのように思える。学校というシステムは、労働市場よりも、比較的に単一な環境を成しており、それゆえに、大きな困難なしにそこでうまくやっていくのに必要な心理特性を定義することは、割合やさしそうである。

 考慮されなくてはならないもう一つの要因がある。それは、個人の心理も機能のレベルは学校にいるよりも、若者が学校を去り、さらにその上の訓練を始めるか仕事に就く時期ごろがたぶんにより変化しやすいということである。

まとめ

 本研究から得られた知見は、次の方法論的弱点を頭に入れつつ考慮されるべきである。それらの弱点とは、1)被験者の数が少なく、精神薄弱を伴わない痙直性マヒの患者のみが標本を形成している。2)当初の研究における非障害・非脳損傷児からなるコントロール・グループはフォローアップでは再評価されておらず、障害という状態のおよばす心理的影響について推論するのに基礎として弱すぎることを示している。3)データは著者一人によって収集され、評価されたため、主観的な解釈や実験者のバイアスのかかった分類の入り込む余地があった。

 しかしながら、被験者の数が少ないということは、一人の人間が当初とフォローアップの調査を両方とも行えるということのほかに、同様な緻密な研究に共通して言えることだが、ある強みを持っている。個人的な関係が最初の接触から子供・家族と著者との間に築かれたことは、たぶんに、高いフォローアップへの参加率(95%)の重要な要素である。このお互い個人的に知っていたことが、患者にとってもそしてその家族にとってもすすんで情報を提供するのにいくぶんかでも容易にし、そして個人の発達プロセスについてより広くまた多様な心理的洞察を著者にもたらしてくれたと言っても間違いはない。

(Scandinavian journal of Psychology,1975 16,217-224)

資産と負債(assets and liabilities)会計になぞらえて、クライエントのリハビリテーションにプラスとなる要因を資産、マイナスとなる要因を負債という言い方が広まっている。
※※“niche”は適所といった意味であるが、placement等を考え条件雇用と訳出した。
*アーハス大学、デンマーク(University of Aorhas,Denmak)
**筑波大学大学院


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1979年3月(第30号)20頁~28頁

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