職業 職業適応:可能性と実践

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職業適応:可能性と実践

Work Adjustment*:Potential and Practice

Clinton O. Wainwright, Ed. D.** & Robert Couch, Ed. D.***

服部兼敏****

職業適応プログラムの背景

 連邦法が州―連邦の職業リハビリテーションプログラム所轄の機関にその機関のクライエントのためにリハビリテーションワークショップからサービスを購入する(1)権限を与えたとき、これらの職業的なリハビリテーション施設できわだった効果的になされるサービスとは何であるかということに目が向けられた。職業適応(work adjustment)は、この道の草分けたちが見通していたように、行動を変容し、作業態度を育て、障害を持つ人たちを労働市場に足を踏み入れる労働者として導くために職業の持つ心理・社会的な役割を利用する極めて洗練されたプロセスと見ることができる。地域で生活してゆくのにどうしても必要な社会的生活能力(community survival skills)を教えることは、本来の手に職を付けるという目的を果たすためのもう一つの必要で有益と考えられたゴールであった。

 職業適応の理論的な柱について書いた文献はほとんど見当たらないが、学習理論は明らかに初期のプランナーたちに、職業(work)やワークショップを治療訓練の場として用いるについて有益な基本原理を与えた。ある有機体が行動するのに必要な特定の諸条件と将来の諸条件との間の類似の程度としてのべられる行動の原理を敷えんするならば、ある個人は将来同じような環境条件のもとでは同じようにふるまう可能性が極めて高いということになる。従って、もし現実の産業界と同じ職業環境(work environments)をワークショップの中に創りえたなら、ワークショップの中で良い働きをすることを学ぶクライエントは、ワークショップの中で育てることができたし、ワークショップの中で良い働きをすることを学ぶクライエントは、現実の労働の世界の同じような条件の許でも変わりなく良い働きをすると考えても差し支えなかった。モデリングによって職業行動(work behavior)を学ぶという方法は初期のプランナーたちによって支持されたもう一つの原理であった。職長(foreman)ないし監督(supervisor)として務めている非常に熟練した専門家たちは、ワークショップのクライエントのために職業的な役割モデル(role models)として働くことができた。カウンセリング、心理学、そしてソーシャル・ワークの訓練を受けたこれらの専門家たちは、仕事にかかわった行動や態度を観察した上で、カウンセリングの仮説(counseling hypotheses)を立て、個々の問題を改善し、クライエントの成長と職業的進歩をうながすためにデザインされている他の有効な治療訓練サービスをワークショップのプログラムに組み合わせることができた(Gellman and Friedman,1970)。ワークショップですぐ使えると思えるアプローチには環境療法、行動療法(behavior modfication)、実験学習(experimental learning)、そしてアクティヴィティーカウンセリング(activity counseling)がある。それゆえ考えられるのは、職業的な施設で可能な職業リハビリテーション・サービスとしての職業評価、カウンセリング、職業訓練、保護雇用、そして就業(placement)と一体化された職業適応である。

 他とは違った治療訓練の方法としての職業適応サービスとは何であるかをまとめてみたが、次には今も止むことのない拡大と発展の動きについてふれてみよう。よくあるように、理論的な整理と実際の仕事の間には大きなへだたりがある。職業適応とは何かを細かく煮詰めようとすると必ずあいまいに残してきたことがらがわかる。職業適応は実際に行われているし、ある施設で実施されているものが何であれ、それを表すために操作的に定義された(Bradley 1973)。アジャストメント・スペシャリストと呼ばれる臨床家たちには、高校教育を受けていない人たちから博士レベルの行動療法技術者(behavioral engineers)(2)まで含んでいる。仕事さえ与えておけば治療として意味があるという前提で仕事をした者もいた。従って職業適応と言えばクライエントに何か仕事を与えること以外の何ものでもなかったわけである。こんなあり様の施設のプログラムでは、産業界のような環境条件を作るとか、安全で障害者にも使える建物を整備しておくとか、あるいは専門的なクライエント・サービスのプログラムを開発するといったことには、これっぽっちも注意が払われなかった。

 専門的スタッフはまねかれざる者、利用できない者、あるいは、ぜいたくすぎる者であった。もし障害者のためにまだするべきことがあったにしろ、全然ないよりはましなのだと、このようなプログラムの企画者は正当化した。驚いたことに、たぶん偶然うまくいったのであろうが、こんなワークショップの作業から、仕事の喜び、報酬、そして義務について学び、そして地域社会の中で適職を見つけるクライエントがいた。このようなたまの成功が、多くのワークショップの管理者たちに、作業活動だけでもリハビリテーションのゴールを達成するのに十分だという確証を植えつけた。

 一方の極において、高い水準を行くものたちは初期のリーダーたちの足跡をたどり、より洗練された職業適応プログラムの有効さを実地に示した。全体の中ではごく一部だが、これらの施設は第10回研究回(1971)で提案された手法を含む職業適応サービスを展開した。第10回研究会は職業適応サービスを次のように定義している。

 個人が、仕事の意味、価値、そして義務を理解し、態度、性格(characteristics)、そして職業行動を修正するか育て、そしてクライエントができうるかぎりの職業的進歩をとげられるような機能的能力を養うことに役立つように、個人別そしてグループによる作業ないし職業的な活動を利用した体系的治療ない訓練のプロセス。

 このような指針にそって作られた施設の職業適応プログラムは、職業適応の問題にすぐにも使える多くの新しい治療訓練の技術を取り入れていた。Marc Gold博士の「別のし方でやってごらん」(“Try Another Way”)は重度の精神薄弱者に作業を教え込むことでいったいどんなことが成し就げられるかのすばらしい例である。行動療法が多くの職業適応の場面で応用され良い結果を得ている。施設での出席率、生産率、作業訓練、そして職場でのふるまいといったクライエントの問題は行動療法によって容易に修正することができる(Couch & Allen,1973)。Walkerら(1971)は労働の世界へと施設のクライエントを誘い出すのに特別なグループ・セッションが効果を挙げることを実際に示してみせた。Usdane(1973)はEric Ericksonの同一化の危機(identity crisis)を個人の職業適応の問題に応用することをもくろんでいる。

 施設のクライエントを彼の人生に対し責任を持ち、彼自身の人生の方向を決めるだけに成長した能力ある、問題解決力を持った人として見る思想もまた流れ込んできている。交流分析(Transactional Analysis)と行動療法のたくみな結合はこのアプローチにとって有効であることが証明されている。

 バイオ・フィードバック(biofeedback)、労働生理(ergonomics)、合理的行動訓練(rational-behavioral training)、そして、その他多くの治療の技術や手法が、作業訓練(task training)、行動―作業適応(behavioral-vocational adjustment)、そして職務適正化(job modification)の信頼に足る有益なアプローチであることがわかってきている。

 この職業適応サービス・プログラムの将来性が、30年程前に考えられたものと異なっているというわけではない。しかしながら、このような成果を挙げるうえに必要な専門的知識そして資源は、いまだ大半のリハビリテーション施設でサービスを受ける個人にはとても手が出るものではない。職業適応についてのプログラムの中身がこれ以下の節で討議されるにつれて、この将来性と現実との乖離がすぐに明らかとなろう。

適職就業(job placement)

 この時点で適職就業についてのべることは、時期尚早に思える。しかしながら、もし適職就業に、この特別なリハビリテーション・サービスを認めた法を見れば明らかなように、高い優先順位を与えるならば、満足のいく適職就業は障害者とふさわしい適応を求めようとしているリハビリテーションの専門家にとっては第一番目のそして変わることのない関心事である。作業場面や労働者に課せられる義務を考慮しない職業適応のプログラムに失敗するのが始めから決まっているようなものである。労働者に課せられる義務そして労働者が得る満足という点からの職務分析を含む職務調査(vocational survey)はほとんどの職業適応プログラムからはかえりみられていない。社会的諸制度における変化の現象は、職場という環境よりも人間活動の全般におよんでいるように言われている。Robert Guest博士(1952)は「組立ラインの人間―一世代後に」の中で労働者の口に出す不満の中身と不満の強さは1949年と今でも変わりがないと報告した。もしも職場というものが不満というものを労働者におしなべてもたらしているならば、職場にとけ込んでゆこうとする障害者に手を差しのべることにたずさわっているだれにとってもそれは確かに大へん大切な問題である。

 それだから適職就業の役割は仕事と労働者をただ単に結びつける以上のものとなる。つまりここで申し上げたいのは、本来の労働者としての障害者だけでなく、仕事それ自体、そして仕事の人的そして物理的諸条件が職業適応プログラムに含まれねばならないということである。障害を持つ労働者が仕事につけるようにするための職務適正化(job modification)は物理的な作業条件をふさわしく作りかえることだけではなく、労働諸条件の人的側面の評価と適正化を含むものなのである。

 しかしながら、現在の就業援助(placement)において実際に行われていることは決して満足のゆくものではない。グリーンレイ研究(Jack Victor,1975)はワークショップのクライエントのうちたった13%が毎年就業の機会を得ていることを明らかにし、リハビリテーションのこの段階は相当目を向けられる必要があるとの結論を下した。職業適応の役割を果たす一つとして、就業援助は比較的洗練されたそして専門的なプロセスになりつつある。就業は進歩を見せ、今では就業準備、グループ就業、職務適正化ないし職務再設計(redesign)、積極的雇用行動(affirmative-action)の有効な利用、就業を続けさせるためのカウンセリング(job maintenance counseling)、そしてフォローアップが含まれている。

仕事とワークハビット(work habits)

 ワーク・ハビットはある人が仕事という経験から得る意義ある産物である(3)。仕事あるいはワーク・ハビットについての概念的なフレーム・ワークは、労働の意義と仕事の中で好きなことを区別するのは難しいことがわかる。

 LofquiatとDawis(1969)は労働の意義について最も有用で実用的な概念わくを提案している。彼らの努力は「職業適応の理論」にまで発展している。理論は「いかなる時点においても個人の職業適応は彼のその時点での職業的満足(satisfactoriness)と人格的満足(satisfaction)によって示される」のではないかと言っている。職業的満足は職業的諸条件といううまい観点からとらえることができる。それは労働者がやり就げなければならない職務の集合とその職務を遂行するにあたって守らなければならないルールの集合として定義される。職業的満足は、それゆえ、職業上の環境がもとめる条件とそれに応える労働者の能力との間の関係といえるかもしれない。作業環境下の労働者の行動の観察は職業的満足の指針となる。他方、人格的満足は「個人の能力が作業環境の求める能力にみあっている場合の、作業環境の強化システムと個人のニードとの間の対応の仕方」と言っても良いだろう。仕事の人格的満足は永年勤続、ないし仕事に腰を落ちつけるという結果をもたらす。労働者がある仕事をうまくこなすだけの能力があると仮定した場合、人格的満足の鍵となる要素は、それぞれの労働者の強化メニュー(reinforcement menus)の働きである。労働の諸条件についての誤りは、すべての労働者は同じ強化つまり給与支払小切手を唯一のものとし、そのために働くという考えであった。Lofquist and Dawis(1969)はこの考え方に異をとなえ、労働者と労働の諸条件との間の相互作用をはかった場合の職務的満足と人格的満足の双方を決めることが大切であることを示唆している。施設の職業適応プログラムは、クライエントが特定の作業場面や仕事によって得られると予測される職務的満足をテストし、そして彼の潜在的な人格的満足に対するフィードバックを受ける理想的な場を与えてくれる。

職業的評価(vocational Assessment)

 職業評価(Vocational evaluation)と職業対応の関係は詳細に検討されている。そして共通点と相違点が明らかにされている。すべての議論に共通していることは、良い職業適応プログラムは、その問題となっている個人の良い職業評価プログラムがあって始めて決められるという考えである(Baker & Sanyer,1973;Barton,1971;Hoffman,1971)。

 より重度の障害者がリハビリテーション施設に照会されてくるにつれ、適職就業に先だって重点評価サービスが必要になる者が増えている。

 適応プログラムを開始するまでに、クライエントの資産(assets)(4)を確かめ、仕事の遂行を疎外する問題を洗い上げ、職業上の将来の方針を示し、そして問題解決へと導びく実施計画とそのためのリハビリテーションを示すことをその内容とする職業評価は終了しているべきである。評価報告書から、個々の適応プランが立てられよう。リハビリテーション・スタッフとの間でクライエントが決めた目標を達成しようとして得た進歩をその後再評価することは大へん重要であり、そこには適応サービスへの指針のすべてがある。職業評価と適応は切り離しえない職業的進歩(vocational development)(5)の伴侶である(Barton,1971)。

求職と保職の技術

 グリーンレイ研究は、ワークショップでの就業レディネス訓練がただ一つリハビリテーションのポジティブな結果と高い相関を持っていたことを明らかにした。それでいながら、このようなプログラムを看板にかかげているのは全国のワークショップのうちたった46%にすぎない。サービス・プログラムの数、専門スタッフの数、そして専門スタッフとクライエントの比率も同様に良いリハビリテーションと正の相関をもつことがわかった。このデータはクライエントがふさわしい仕事を得、それを続けてゆくのを助ける私たちの知識や手腕にくらべて施設での職業適応の実際はかなり後手にまわっているという主張を支持している。

 専門的に指導される職業適応のプログラムは施設のゴールとなるべきである。補修教育、職業訓練、就業レディネス・クラス、行動療法プログラム、ジョブ・ラボ(job labs)、グループ・個人・家族カウンセリングは、適当で現実的な職業上の活動とともに有効である。何をすべきか、どうすべきかを知っている熟練したスタッフによって指導されるこのようなサービスは、施設のクライエントのリハビリテーションの成功に大いに力を発揮する。このような方向に進もうとする施設のための利用資源ができてきている。ウィスコンシン大学スタウト分校にある資料開発センターがこのようなリソースを活用しようとする臨床家にとって大へん役立っていることは周知の事実である。

まとめ

 職業リハビリテーションは障害者サービスの永いそしてすばらしい歴史を持っていると言われている。職業適応はだんだん数が増している重度の障害を持つクライエントにとっては必要不可欠なリハビリテーションサービスである。職業の世界へとリハビリテーションのクライエントが足を踏み入れ腰をおちつけたとき初めてリハビリテーションは成功したのだという思想を職業リハビリテーションが持っているのだとしたら、そのとき、他の適応サービス(adjustment service)をともなった優れた職業適応は障害を持つ人に問題を解決し、目標を達成し、そして人生をまっとうする大切な力をもたらすであろう。このリハビリテーションサービスの未来に限りはない。このサービスの効果を実地に示しさい先良いスタートを示すならば、リハビリテーションは障害者サービスの大きな突破口に立っていることがわかってもらえる。

 ここで検討された職業適応プログラムは多くのリハビリテーション施設で一般に日常行われているといったものではなく、約30年前先見のあるリーダーたちが心にえがいた夢に近いものである。職業適応はリハビリテーションの最前線であり続ける(Sink,1977)。実践と夢の間にあるギャップを埋めるため、職業適応の専門家を養成し、施設の適応プログラムを運営するためこれらの専門家を雇い、有効な手法や技術を研究し、そして実行に移し、さらに適切な適応サービスプログラムを作り上げ運営してゆく施設を援助するため諸制度が活用されなくてはならない。

(Journal of Rehabilitation, Jan./Feb./Mar.,1978から)

参考文献 略

*work adjustmentをあえて職業適応と訳出した。work aadjustmentは職場にかぎらず広く、生育から退職までの長いプロセスをさしている。
**North Texas州立大学準教授、リハビリテーション研究センター所長。
***Auburn大学教育学群職業・成人教育学部リハビリテーション・サービス教育学科、準教授
****日本障害者リハビリテーション協会嘱託
(1)「サービスの購入」とは日本では聞きなれない表現だが、実際と評価は、IQテスト1回30ドルといったように特定のサービスごとは支払われる。
(2)著者らはヒューマニスティック・アプローチ(humanistic approach)を採り、いわゆる行動理論などの「科学的」アプローチに異論をとなえる立場を採っている。つまり科学では人を語れない、リハビリテーションは人がするものという立場を取っており、このengineerという用語をtechnicianとの対比の上であえて批判的に用いたように考えられる。
(3)働くことから得るよろこびや満足がある人の行動を強化するという意味。
(4)資産(assets)という用語を個人の有効に活用できる能力資源という意味で用いることがある。同時に負債(liabilities)を障害がもたらすマイナスの条件を示すのに用いる。
(5)職業的進歩(vocational development)は作業能力のみならず、職業選択の意思決定の程度、仕事にまつわる社会生活等の成長をのべる概念である。


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1979年3月(第30号)29頁~33頁

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