社会 障害者のための電子技術

社会

障害者のための電子技術

Electronic Technology Disabled People

Roger Jefcoate*

 世界は宇宙飛行士Neil Armstrongが最初の小さな一歩を踏み出したときかたずをのんだ。優れた精神能力と驚くほど釣り合いのとれた肉体を持ったエリート集団から選ばれた彼を、宇宙に送り込んだのは何とすばらしい技術であろう。おそらく、コミュニケーションの分野がその最たるものだが、世界の多くがいろいろな分野で恩恵を受けている。他方、このことに疑問を持った人たちがいる。もし、肉体的にも精神的にもほぼ完全な一握りのエリートにこれ程のお金が使われるならば、肉体的、精神的に障害を持つ人たちのためにもっとなしうるであろう。アメリカ航空宇宙局(NASA)もこのような発想を持って考えていたに違いない。なぜなら、最近、特にカルフォルニア州ダウニーのランチョ・ロス・アミーゴス病院(Rancho Los Amigos Hospital)、そしてニューヨークのリハビリテーション医学研究所(Institute of Rehabilitation Medicine)で障害者の利益となるよう宇宙技術(space technology)が使われている。

 部位の高い脊髄損傷者、進行性の多発性硬化症ないし筋ジストロフィーを持った人、あるいは脳性マヒのため書いたり話したりができない子供など、重度障害を持った者にとって、目を見張るばかりの技術的な突破口が、これよりずいぶん早くヨーロッパで開かれた。ストーク・マンデビィル病院の英国国立脊髄損傷センターにおける新しい希望の光である。これは1960年代初頭のPossum(呼気によるコントロール装置)の出現であった。私は、これを初期のプロトタイプから医師の処方で入手でき、中央政府の助成金で購入できるまで広く行きわたるようになった器具にまで開発した当初からの小グループの一員であった。

 Possumは電子セレクター(electronic selector)の最初のものであった。多くがそれに続いた。あるものは今でも製造されており、購入できる。最初の器具は、高い部位の脊髄損傷者たち(四肢マヒ)が、ただチューブを吸ったり、簡単なつまみを押したりすることで緊急ベルをならしたり、必要なときに人を呼んだり、テレビ、ラジオ、電灯、そしてヒーターといったもののスイッチえ付けたり消したりするのができるような環境セレクター(Environment Selector)であった。

 それはドア口にいる訪問者と話しをしたり、ドアの錠をはずしたりすることもできた。すばらしいことに、電話をかけることもできた。1966年にまず英国保健省の目にとまるところとなり、どう見てもたいへんな投資額である1500ドルから3000ドルの範囲で、このような機械が約800個以上も支給された。それでもこの交付は費用効果がたいへん優れていることを示している。社会のたいへんな負担となる病院や収容施設ではなく、明らかに障害者が望んでいる家庭で、家族と一緒に、そして自らの生活空間の中で、何百という極めて重度の身体障害者が生活することを可能とした。

 私は確かに、適切な装置の正しい適用によってもたらされる費用効果が、今になっても十分に認められていないことを感じている。ニューヨークのリハビリテーション医学研究所のDr. Howard Ruskが何年もの間、述べているようなことであるが、この種のリハビリテーション・プログラム全体に対して言われていることである。たとえば5万ドルといった金を払うべき者にしてみれば、目の玉の飛び出るような金額を社会に負担させるリハビリテーションのプログラムは、長い目で見ると社会に何百万ドルもの節約をさせるであろうと信じている。

 もしリハビリテーション・プログラムが受けられなかったとしたら、障害者は、長期入院治療、特別な医療施設、その他を必要とし、社会のたいへんな負担となったことであろう。障害者がリハビリテーション・センターを経由していくならば、仕事を得る機会に恵まれる。リハビリテーションの当初の費用より大きな額を税金として還元することになる。自助具はすべてに重要な役割をはたしている。

 多くの障害者が自分の家でほどよく正常な生活ができるようにするため、洗練された電子機器を使うという英国でのかなりの経験から、予想だにしない、おもしろい結果が得られた。たぶん、一番大切な点は心理的な効果であった。多くの場合ストレスの顕著な現象があった。特に多発性硬化症や筋ジストロフィーといった進行性障害のある者たちの場合、このストレスの減少は心の安定化と一致している。英国保健サービス(Britain's National Health Service)によりこの種の装置を交付するにあたり、予後について意見を求められる経験を積んだ神経科医ですら、話にならない程誤っていることもある。私は、進行性の疾患で体の自由がきかなくなり、話すこともできず、当初予測されたよりも永く、数か月どころか何年もの間生きていた人たちのことを知っている。

 もちろん他の意見もあるが、中でも一番重要なものは、電動式ないし電子式のタイプライターを用いた書字と、コミュニケーションのための補助装具の開発である。もちろん、電動タイプライターと言えば、多くの読者はたぶん電動タイプライターの最も知られた製造者であるIBMによって実施され、営業用として寿命の尽きた電動機を再調整し、障害を持つ子供や大人を助けるため商売とは名ばかりの価格で入手できるようにするというすばらしい機構を思いうかべるであろう。それはともかく、障害者のニードに対する進んだ技術の応用についての多くと同じように、英国においてこの機械は、呼吸器(respirator)を使っているPaul Bates(現在は患者のため調整可能な電動ベッドを製造している会社の販売担当マネージャー)が、IBMに口でくわえた棒でタイプできるように再調整されたタイプライターをもらいうけたいと話を持ち込んだとき、その第一歩が始まったことを知る人がいったい何人いるだろうか。この初めての決定にたちあったのは、現在、英国IBMの重役であり、父親が進行性の重度障害者であった若者であった。何年か後に、私は電子環境制御装置(electronic environmental selector)を彼のために入手することができた。かくて、間接的とは言え、この機構から恩恵を受けている世界中の人々にかわり、私はこの援助組織に「ありがとう」と言うことができた。この機構は現在、世界中ほとんどのIBM社を通じても利用できる。

 もちろん、口にくわえた棒で電動タイプライターを動かすにしても障害が重すぎる者もいる。電子リモート・コントロール・システムはしばしば重度障害児が効果的な教育プログラムについてゆき、同程度の障害者が有利な仕事につくのを可能にした。

 職業リハビリテーションは特に目ざましい。というのは、このような装置を使うことで、障害者は、金銭的のみならず、社会に対してほんとうに実質的に貢献することができるからである。

 脳性マヒの43歳の男であるDick Boydellはコトバが不明瞭でほとんど理解できない。彼は、極めて知能が高かったにもかかわらず、正式にはどんな学歴も持っていない。今、Dickはフォード自動車会社のコンピューター・プログラマーである。彼のわずかな残存コントロール(彼の右足のみ)を活用するハイ・スピード・ワード・ストーレッジ・タイプライター(high-speed word-storage typewriter)を使うために、彼は、中心の穴のまわりに放射状に位置した8個のスロットのいずれか一つにすべり込むような、つま先の先端にポインター(pointer)の付いたスケート状の部品を用いる。Dickの能率は非常に高い。時に彼は一分間50から60語にまで達する。このような技術なくしては、彼には自分を生かす機会がなかったに違いない。彼の残存コントロールの研究、それを適切に結びつける設計、そしてふさわしい出力装置(output equipment)の選択を含む、非常に注意深い評価なくしては、彼の非常に高い知的能力は現在のように実を結ぶことはなかったに違いない。正に、Dickはたいへん成功したので、彼は障害者のための英国コンピューター協会スペシャリスト・グループ(British Computer Society Specialist Group for the Disabled)(March,1975)の発起人となった。そして協会の最初の名誉会員になるという誉れを得ている。

 Robert Bowellの話も似かよっている。28歳、筋ジストロフィーに起因する進行症状におかされている。Robertはまた、在宅の会計士という彼の仕事において電子リモートコントロールタイプライターを用いている。時間のあいたときには、彼は障害者のための雑誌を編集し、そしてまた彼はポッサム使用者の会(Possum Users Association)の設立委員の一人である。彼の機械は彼のために政府の職業リハビリテーション局(Government Vocational Rehabilitation Agency)が購入したものである。現在、彼は税務の専門家として、国税庁に税が過分に支払われないようにそれを使っている。しかし、私は別にこのことを後ろめたく思っているわけではない。

 DickやRobertのような人々を助ける鍵は、かれらの残存能力の注意深い評価である。私は自助具に通暁した評価者として、彼らにできないことというより彼らにできることを捜している。適切に選び出された自助具と結びつけた残存能力は、しばしば重度障害を克服するのに役立っている。

 Dick Boybellのように、Robert Bowellの場合も血のにじむような努力をした。彼の非常に弱い指の注意深い評価が必要であった。特に立体スプリント(three-dimensional splint)に取り付けられた特別仕様のマイクロ・スイッチは両手が負担なくそして自然にするすると位置まで移動するのを可能にする。電子コントロールボックスに差し込まれたそれぞれの指のかすかな動きが、押されている部分の機械をコントロールするキイになる。8本の指を動かして、Robertは誤りなく一分間20語までタイプできる。

 この種のスプリントを組み立てるため、近くにあった大学の歯学部に連絡がとられた。この非常に珍しい器具を作るように熟練した技術者におねがいした。しかしながら、この非常に特殊なサービスを求める人々の数が増えるにつれ、器具を作るだけで技術者が余暇に費やす時間が100時間を超えただけでなく、この活動を可能ならしめるよう必要な労力を提供してほしいと頼み込むのが、ますます回を重ねるごとに時間がかかり難しくなっていった。

 障害者は一人一人違っている。そして、彼らの可能性を最大限引き出すには、彼らの残存能力が注意深く研究され、操作しやすいよう正しいプレッシャーで作動し、適当な位置に組み込まれたスイッチとしっかり組み合わされることが核となる。1967年に、私は必要なものはできれば移動可能な自分のラボラトリーを持ったフルタイムの技術者であるとの結論を下した。私はこの先覚的プロジェクトに手を染めた。そしてついにキャンパー型トレーラー、熟練した技術者の給与と手当てのための3万ドルを調達した。このユニークなサービスはたいへんうまくいったので指導的なロンドン教育病院(London Teaching Hospital)にも設置された程だった。その直接の結果として、大人、子供を問わず、多くの障害者が、時として生まれて初めて、電子装置を使ってコミュニケートしている。

 たぶん障害者が社会に貢献するのを電子技術が可能にした最もすばらしい例は故Hilary Poleの場合であろう。重症筋無力症によってマヒし、呼吸し、話し、あるいは飲み込むことができなかったが、彼女は呼吸器を使って10年以上も生きた。食物は胃管の中へと直接取り込まれた。マヒしたまぶたのため彼女は良く物を見れなかった。それでいて、電子環境制御装置は彼女が3局のラジオプログラム、テープレコーダーと話す本(talking book)、扇風機、そしてその他いくつかの機械をコントロールできるようにした。電動式タイプライター(electronic typewriter)は、彼女の失われた言葉と書字能力を補った。電子技術は、おそらく当時生きていた世界中で最も重度の障害者であったHilaryがロンドン教育病院を退院し、家で養生するのを可能にした。彼女には大きなつま先を約1/16インチ動かすという残存能力があった。そしてこの残存能力はHilaryが装置を動かすことができるよう利用されねばならなかった。彼女の物語はDorothy Wilson Clarkeによってほんとうに雄弁に語られている。

 しかし彼女の物語は家に住み、ベッドに横たわり、まわりのなすがままに無為にすごす障害を持った女の子の物語ではなく、正に反対である。外向的なパーソナリティーのたぐいまれな勇気があり、克己心に富み、彼女より障害の軽い者たちが重度の障害に立ち向かうのをはげまそうと決めた、活発でチャーミングな女の子の物語である。彼女の成し遂げたことは多い。しかしそれでいて、それらはすべて技術が可能としたことである。私は彼女の物語にかかわったことをたいへん誉れに感じている。彼女は雑誌を編集した。彼女は障害を持つ仲間たちのために数千ドルを調達し、そして英国女王より表彰されもした。胸をおどらせ、心をゆりうごかす物語である。

 中身に違いはあるけれど、正にすばらしいのは元バレー・ダンサーElizabeth Twistington Hgginsの物語である。25年以上も前にポリオに冒され、首から下は全く動かず、息もできなかった彼女は毎夜、鉄の肺の中ですごした、彼女は歯の間にしっかりくわえ込んだ30cm以上の長さの筆で美術をものにした。彼女の絵の持つ繊細なタッチはニューヨークでの展覧会を含めどこへ行っても人々を驚嘆させた。たぶんそれ以上に、興奮させることは、なんとMs. Higginsがポータブルの電子式音声拡大器(electoronic voise-amplifier)そして特に重要なこととして、息をふきつけると反応して動く高能力テープレコーダーの助けを借りて、振付け師そして教師として、バレーの世界にもどったことである。これらの助けを借りて、彼女はバレーの新しい分野である礼拝式バレー(litargical ballet)の分野を切り開き、それはロンドンその他の大都市で上演され、また英国とアメリカのテレビに流された。ほんとうにすばらしい人であり、障害にもめげず、彼女は積極的に社会に貢献している。

 個別プログラミング学習(individual programming)担当教師のために特に開発されたティーチングマシンは現在入手できるようになってきており、身体的そして精神的障害を持った子供たちの教育を効果的にするのに必要な柔軟性をもたらしている。絵を描きたいけれども、悲しいことに、鉛筆をつかんだりコントロールしたりするには障害が重すぎる人たちのために、新しく開発された機械が今年登場することになろう。X―Y座標の基板の上にモデル・モーター(model motors)をコントロールする2つの入力スイッチがあり、非常に複雑な絵を描くことができる。生まれて初めて、地理の授業の中で地図書きの練習を皆と一緒にすることができるようになる障害者たちもいるだろう。

 疑いもなく、最もすばらしい開発の一つは極めて汎用性の高いエレクトレイド評価タイプライター(Electraid assessment typewriter)である。これは独特の様々な入力装置のついた電子的にコントロールされた遠隔操作タイプライターである。このような汎用性は教師、セラピスト双方にとってたいへん重要である。たとえば様々な重度障害児が通う特殊学級では、それぞれの子供がエレクトレイド(Electraid)をたのしく操作することができる。子供が身体的そして知的な能力をつけてゆくにつれ、システムは子供の発達に合わせて教師によってプログラムされよう。システムは個々の利用者に対して切れ目なくそして豊かなチャレンジをさせる。進行性症状を持つ大人の場合、状況は正に逆である。この場合も、機械は必要により調整できる。障害児には、システムは通常視知覚の障害者のために設計された活字の大きいタイプライター(1インチにつき8文字)と一緒に支給される。私にとって何にもまして心を踊らせることは、システムはそれを製造し販売する自分の会社を作った障害者によって発明されたことである。

 もちろん、このすべてはたいへんすばらしいもので障害児に大きな機会を与えるのみならず、親たちと教師たちの人生をより生き生きとした、興味深くもあり、また有意義なものとするであろう。あまり幸運とは言えないこの分野にかなりの時間、エネルギー、そして資金を費やすことにあたって、心にとめておかなくてはならないことがある。それは医療および看護技術の目ざましい進歩のおかげで、障害者は健常者にくらべて寿命が短いわけではないということである。

 標準品に改造の手を加えたもの、あるいは特別に作られたものとにかかわらず、おもちゃは、ゲーム、ティーチングマシン、その他のレジャー活動と同じように、精神的そして身体的障害児に、より良い身体的・知覚的コントロールを学び獲得しかくて障害を減らすよう必要な刺激を与える。電子装置をコミュニケーションのため生涯必要とする子供たちは、もし早期に発見されれば、単価の低い簡単な装置ですむ。できうるならば、子供の知的能力に合った店で売っているおもちゃを改造して使いこなすことが大切である。初期には、とんぼがえりする小犬やリモートコントロールのローラーコースターが理想的である。後には、競争に参加するのを助長しそして思考を刺激するためへびとはしご(snakes and ladders)とかマルとバツといったゲームが用いられよう。一つのスイッチの操作で動くよう開発された、これらのおもちゃは障害児と非障害児とが一緒に活動に参加するのを可能にする。身体および精神障害児のためのリモートコントロールのおもちゃという分野でのすぐれた先駆的な仕事は、特殊学校のためのロンドン工業センター(London's Engineering Center for Special schools)の所長Mr. Peter Toftによって実施されている。数多くの重度のコミュニケーション障害児の治療訓練に使われるおもちゃには、スイッチ一つで遊べるマルとバツゲーム、主なチェインストアーの店頭で購入できるが最重度の障害児のためにコントロール装置に簡単な改造がほどこされたキャタピラー・トラクターがある。トラクターは、色と動きという視覚的刺激のコンビネーション、手でつかみ作動をコントロールしたいという身体的刺激、そして、おそらく一番大切なこととして、特定の場所にトラクターを位置させようとチャレンジする精神的刺激を与える。

 英国において、親たち、教師たち、セラピストたち、技術者たち、そしておもちゃ製造業者たちの協力を促進し、障害者に合うようにおもちゃのデザイン、開発、改造をすすめるため私は最近新しい組織をスタートさせた。その名は“ACTIVE”―おもちゃ、ゲーム、学習機器、そしてレジャー活動の有効利用を通じて、身体的および精神的障害を持つ子供や大人をより活動的(active)な人生へと導こうとする活動的(active)な人々の会、同様の組織が、北米にたぶん西海岸をふり出しに設立されることを期待する。

 過去におけるアメリカ合衆国のメディケア(医療給付制度)は、必要最小限の在宅ケアがしばしば経済的な場合でも、老人や障害者を施設に措置してしまうようになっている。合衆国では1974年の社会保障法の社会サービス修正条項の第10項(Title XX of the 1974 Social Services Amendments to the Social Security Act)が、老人と障害者双方のための在宅ケアに対する政府援助の基準となっている。しかし、孤立(isolation)に対して戦う方法はほとんどのアメリカ人には全くといってよい程知られていない。この領域での先導的な思想や技術のうちいくつかはHomecall組織によって1978年の終わりまでに合衆国でも利用できるようになるかもしれない。Homecallは政府ないし慈善団体が50人かそれ以上に対してサービスを提供することに本当に興味を持っているならば、すでに証明された優れたプランに基づき完全なコミュニケーションのサービスとネットワークを設けることができる。Homecall Central Ltd.(U.K.office:Brunswick,Newcastle upon Tyne,NE13 7BA,England. Tel.〔098426〕5411)は地歩を固め、しばし、ヨーロッパで活動している。Homecallの合衆国におけるディレクターは、Robert L. Robertson(21 Willowmeve Ave.,Riverside.Conn.06878)である。しかし、サービスはまだ開始されていない。

 電話は老人がたおれたり急に病気になった場合、かんじんのコミュニケーションの役を必ず果たせるわけではないことがはっきり証明されている。ヨーロッパでは電話につける補助装置が現在非常に発達している。このようなシステムは、身体的ならびに精神的状態についての総合的な理解にもとづかねばならない。たしかに、単なる“アラーム”システムをはるかに超えたものがなくてはならない。

 十分プライバシーを守ることができ、なおかつホームケアに代わるものとして、特定目的を持った老人用の集合住宅がある。これに対しても、ヨーロッパでは政府の援助と関心があったため、集合住宅方式の管理と絶対的な安全性と経済性を保障する洗練されたコミュニケーション・システムの開発が推進された。

 孤立は障害者にとって、正に切実な問題である。あるレポートの中で、開業医は「あたかも監獄の独房での生活にも似て、不安定な心を作り出す社会的コンタクトの欠落をもたらす孤立(isolation)を『洗脳』(“brain washing”)」と呼んだ。

 どの障害者にとっても、もちろん、コミュニケーションはいかなる意味においても重要不可欠である。これは特に老人たちの場合にはなおさらである。しかし、コミュニティーのソーシャルワーカーたちは、一度アラーム・システムが設置されると、老人たちへの訪問回数を減らす傾向にあるという現実は危険が存在することが指摘されている。これは増加する一方の担当ケース数と相まって、我々が認識しなくてはならない危険である。しかし、システムがあれば老人のことをいつも少しは気にかけていることになる。いずれにしろ人のかかわり、それに代わるものは何もない。

(Rehabilitation Literature. April,1977から)

参考文献 略

*Jefcoate氏は、英国で重度障害者のための電子機器についてのコンサルタントとして活躍している。


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1979年3月(第30号)34頁~39頁

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