職業 街を歩む:障害者の職探し行動に関する調査

<職業>

街を歩む:障害者の職探し行動に関する調査

Pounding Pavements : A Study of the Job Hunt of Disabled People

Sheila H. Akabas, Ph. D*., Louise Medevene, MSW*, and Jack Victor, Ph. D*.

池田勗**

 1975年のはじめ、サンドラー夫人1は、ニューヨークで簿記の仕事を探し求めていた。彼女は、ウォール街の株式仲買会社で13年間事務員をしていたが、この年の前年に交通事故に遭い、脊髄の不全マヒによる軽い歩行障害、軽い手の機能障害を残していた。

 彼女は、最近、ニューヨーク市の労働市場で人手の不足している簿記の訓練を受けたのであるが、職を探すのは相当困難であった。彼女には、バス通勤のできる仕事であること、そして、週に2回は機能訓練を受けるための2時間の昼休みをもらえる職場であることが必要であった。彼女は、多くの雇用主も、またいくつかのリハビリテーション機関でさえも、彼女に対しては親切であるかのように対応しているだけだと感じていた。それは、動作のちょっとした制限、勤務時間に対するちょっとした注文について触れると、きまって嫌疑、否定的態度、融通性の欠如にそう遇したからである。

 そんなサンドラー夫人も、ある職業紹介所を通じてようやく仕事を見つけることができた。彼女の事例は、障害者の職探し行動の調査で回答を寄せた75%のうちのひとつの成功例である。

調査の理由

 以下に述べるのは、この調査の方法、主な結果、そこから導かれる施策への勧告の報告である。この調査は、職業紹介のプロセスを調べ、そこにおける重要な要因を見定めるために行ったものである。調査は、クライエントが就職の準備ができ、仕事を探し始めたときに何が起こるかを明らかにするための質問項目を中心に構成され、職を探している人のうち何人が就職したか、そして成功した人にはどんな特徴があるか、どうやって職を見つけたか、その場合、どんな情報源、仲介者が最も効果的か、職を見つけた者の定着性はどうか、仕事に満足している人にはどんな要因が伴っているか、を主要問題としている。

 この調査は、健常者に関しての職探し戦略、彼らが用いる情報源、対象者群の違いに応じた効果的情報源についてはかなり研究されているのに、障害者に関しての職探し行動とその結果に関しては何も研究されていないという認識から出発している。従ってこの調査は、ZadnyとJamesが、職業紹介の技法の状況を評価して、「我々が職業紹介について知り得るのは、少数の実践家や教育担当者の経験を通じて引き出されたものでしかない。彼らが勧告している主観的主張であって、様々な対象者の状況に関しての比較研究に基づくものではない、」と述べている批判にこたえようという意図のものである。

 障害者の職探し技法とその結果に関する情報は不足しているが、そのひとつの理由としては、従来、職探しの労力がクライエントよりもリハビリテーション・カウンセラーの方に依存する選択方式職業紹介が優先されてきた結果であるということがあげられる。一方、諸調査の結果はすべて、障害者で不就業か能力以下の就業かの状態のものの数は、全人口中から予測される数よりもはるかに大きいことを示している。我々は、もし別の職業紹介プロセスについてもっと研究され考慮が払われるならば、この数字のバランスを変えることができると考えた。例えば、障害のない人にとっての最大の職業情報源は、友人からのインフォーマルなものであることが常に示されているが、健常者の求職者にとって最も効果的であるからといって、その情報源が障害者にも効果的であるといえるのかという疑問が生ずる。そうなると、もっとよい職探しの方法は何か調べてみることが必須となってくるのである。

 最近は、クライエントに職探しの技法を訓練するという、クライエント中心の方式に関心が集まり、また、障害者のためのアファーマティブ・アクション策の結果、障害者の雇用候補者への新しい力点が生じてきているが、いずれもが、職探しについてもっと精緻な理解をすべき時がきていることを示唆している。障害者の求職者でも、異なるグループ(例えば、最近受傷した人と長い障害歴の人、あるいは、専門的職業の人とホワイトカラーの人)間では、必要とする職業紹介サービスも異なるであろう。もし、職業紹介サービスとして可能な種々のモデルが列挙され、求職活動への効果に関しての詳細がわかるならば、リハビリテーション機関が障害者のタイプに応じて適切な職業紹介サービスを行うのに役立つことであろう。我々はここでは、職探しの結果(就業か失業か)に影響する要因を明らかにし、種々の情報源の役割と求職活動の技法水準、経済状態が求職活動におよぼす誘因性を調べようとした。これらの結果から、職業紹介を計画するのに重要な知見が得られると考えたのである。

調査における共同

 この調査は共同研究である。費用とスタッフは、主にコロンビア大学社会事業校の産業社会福祉センターに置かれているリハビリテーション調査研究所が分担しているが、当初の構想の段階では、リハビリテーション医学研究所の職業サービス部と協議している。両研究所の共通関心事は、障害者の職探しにおける種々の差異についてもっと調べること、その結果どんなプログラムや方策が必要となるかを知ることであった。

 調査は、ニューヨーク市内にある10箇所の民間リハビリテーション・職業紹介機関2、および、3箇所の州機関(ニューヨーク州視覚障害者コミッション、ニューヨーク州職業リハビリテーション事務所、ニューヨーク州労働局)で構成する諮問委員会の指揮のもとに行われた。また、いくつかの障害者団体の協力も得ている3

 この諮問委員会は、調査の枠組決定、結果の分析、勧告の作成の各段階に常時かかわった。この調査では、種々の機関にいる障害者の経験を調査することができたため、機関名や氏名は匿名にしてあっても、比較検討やプロセスの評価という視点を加えることができ、革新的な調査プロジェクトにすることができた。調査の内容は、読者に最高の情報源を提供しようとするものであり、また個人や機関単位で行う調査の場合に伴いやすい防衛的姿勢を取り除いた評価が可能なものとなっている。

方法

 調査対象者は、1975年の当初3か月間に、前記13機関において職業紹介の準備ができているとされた者全員の中から、無作為に抽出した200人である。各対象者へは、機関の名簿にある住所に従って手紙が送り届けられ、この調査の説明と協力依頼がなされた。これで返事を得られなかった場合は、さらに、各機関とコンタクトをとってくれるよう依頼する手紙が2回送られた。最終的に、住所が明らかとなった193名のうち、106名が面接調査の対象者となり、55パーセントの回答率となった。

 面接調査は、1976年12月から1977年5月までの間に、対象者の都合のよい時間と場所を選んで行われた。面接調査では、あらかじめ予備テストをしてある質問紙が用いられ、訓練された8人の面接調査員が調査に当たった。この中には、ろう者と車いす使用者が各1名含まれている4。面接は、主として昼食時や夕刻に行われ、週末に行われたことも少数ある。面接場所は、職場、紹介した機関の事務所、各自の家庭などであった。調査の結果は、コード化して整理され、種々の特性、経験と、結果との関係を調べるために、反応頻数、カイ二乗検定による相関を調べるためのクロス集計、重回帰分析が行われた。

回答者

 人口統計的特性には非常に大きなちらばりがあった。51パーセントは身体的障害、23パーセントが聴覚障害、16パーセントは精神科的障害、10パーセントが視覚障害となっている。ほぼ三分の二は障害者になってから10年以上経ている。年齢は比較的若く、21歳から34歳のものが60パーセントである。51パーセントが男子。人種、民族面の構成では、白人58パーセント、黒人29パーセントで、残りはスペイン語系かアジア系アメリカ人であった。

 三分の一以上の者は高校を卒業していなかったが、他の三分の一の者は大学教育を受けていた。そのため、彼らの中には、専門職教育を受けた者も、全く未熟練の者も含まれていた。彼らの職業参加経歴にも差がある。あるものは労働市場に入るのは今回が初めてであったが、そのほかに、障害者となってから初めて再就労する者、水平方向、垂直方向への転職を企てようとしている者、解雇、レイオフされたために職を探そうとしている者などがあった。

結果

 〈職を探し当てた者〉 約四分の三は職を探し当てた(106人中78人)。事務職を探した者が人数では一番多く(63パーセント)、1時間当たりの賃金は、3.50ドルかそれ以下の者が多い(60パーセント)。障害の種類間では、就職率に統計的有意差はなかったが、視覚障害者が最も職を探しにくかったようである。「職を探し当てたこと」を従属変数とし、背景、障害の種類、探す過程の特性を独立変数として重回帰分析を行った。その結果、主要説明変数は表1のとおりとなった。これらの要因をすべて集めても、分散の三分の一以下にしかならないが、個々の要因別にデータを調べた場合に観察される、職を探し当てた率は人種、年齢、性別、障害の種類によって異なっている、という現象は分析の結果からも確かめられた。

表1
求職者の特性 分散の説明パーセント
人種 6
年齢 4
性別 3
受傷後の就労経験 3
受傷前の就労経験 2.5

 職を探し当てた者では、白人の男子で、精神科的障害あるいは聴覚障害の者が一番多い。この資料では、黒人障害者は白人障害者よりも長い障害歴を持ち、職業経験は短く、彼らの入れる職位は希薄であるという、差別が重なった状況があることが示されている。黒人女性群の職を探し当てた率は、人種と性別を組み合わせた他のどの群よりも低く(39パーセント)、このことは、彼らに対する技能の向上、求職経験の精練両面について特別のニードがあり、それに焦点を当てたサービスの必要性を示唆している。一方、年齢について見ると、55歳以上の場合を除いては、就職率に影響はないようである。

 

 〈就職者はどのようにして雇用を確保したか〉 対象者には、21箇の考え得る情報源のリストが提示され、用いたものすべてと、雇用に結びついたものとを答えるように求められた。そして、それぞれの情報源について、職に結びついた数をその情報源を用いた数で割って有効率を算出した。表2に、最も有効な情報源はリハビリテーション・職業紹介機関で、次いで健常者の友人であることが示されている。

表2 情報源の有効率
情報源 利用した求職者数 就職決定数 有効率
リハビリテーション・職業紹介機関 106 37 .35
健常者の友人(親類) 45 15 .33
労働組合 3 1 .33
医療機関または人 9 1 .11
人事委員会 31 4 .13
州の職業紹介機関 41 5 .12
民営職業紹介機関 38 4 .11
直接応募 36 3 .08
各種学校 12 1 .08
障害者の友人 12 1 .08
新聞 58 3 .05
大学紹介 10 0
宗教団体 4 0
政治団体 3 0
市民団体 2 0
障害者団体 1 0
前の雇用主 3 0

 前に述べたとおり、健常者の労働市場に関する文献からは、最も有意な情報源は友人からのものであることが知られている。このことから、障害者の職探しに関する文献は少ないが、類似の仮説を立てることが自然であろう。しかし本調査の結果では、驚くべきことに、リハビリテーション・職業紹介機関がはるかに他を抜いて最も重要な情報源となっていた。しかしながら、文献をさらに詳しく調べ、本調査の対象者の特性を考慮すると、以下のような解釈もできる。

 最も興味深いもののひとつは、「情報源」と「障害者となってからの期間」との関係である。障害者となって10年以上の者は主にリハビリテーション機関を通じて就職しているが、期間の短い者の場合は友人を通じてである。本調査の対象者と他の研究の者とを比較した場合の主な違いは、障害者となってからの期間の長さである。本調査の対象者の三分の二以上は障害者となって10年以上であるが、前の雇用主のところへ戻るのが最も効率的であるとしたJaffeや、同様の結果を得ているMagunとGlenn(この場合、方法不詳の自己就職はもっと高率)は、新しく障害者となった者を調べており、他の類似研究は健常者だけに関してのものである。もしきちんとしたきずながある場合は、インフォーマルな情報源が最良であるが、障害者となってからの期間が長くなればなるほど、労働市場とのインフォーマルなつながりから孤立してしまうために、期間の長い者はリハビリテーション機関のような公的な情報源に頼るようになっている、といえるようである。

 本調査で、リハビリテーション機関の成績のよいことは理解できるし(予測はされなかったが)、確かに参加した機関にとって喜ばしいことではあるが、この結果は、一般的な障害者の実際の経験よりも高い数字になっていると考えられる。この調査の対象者の枠は、すべて何らかの機関のクライエントであり、そのうちの何人かは、職探しの過程で複数の機関を利用している。このことは、公式な情報源に有利となる重みづけになっている。さらに、参加している機関はすべてが、雇用主と強力な接触手段を持っており、就職をさせやすい性格のものであった。また、これらの機関は、手持の求人にすべてのクライエントを紹介するわけではなく、対象者のたった59パーセントだけしか紹介していない。このように、機関は人を選択して紹介を行うが、これは確実に有効率を高めている。これらポジティブな影響要因に加えて、他の情報源にとってはネガティブな働きをする要因として、この調査時点でニューヨークは深刻な不況下にあったことがあげられる。これのため、友人などの情報源を通じて就職できる口は減少していたといえる。

 情報源間の有効率の差は、これら以外にも、求職者の特性、確保した職の種類によっても生ずる。全体の有効率に比した場合、リハビリテーション機関は大学教育を受けた者に対して率が高く、友人は、白人、聴覚障害者、サービス職種志望者の場合に高率であった。情報源の利用については二つの傾向に分かれる。回答者の53パーセントは3種以下の情報源を利用しており、一方、30パーセントのものは5種以上用いている。また、ほとんどの求職者は比較的少ない面接回数であり、ほぼ半分(48パーセント)のものは4回以下と答えている。一方、もうひとつの山として、25パーセントのものは15回以上の面接をしたと報告している。

 就職後の収入の分散をよく説明する要因として、職探しの強さが教育などの他の要因よりも上位となっていたことは興味深い(3表の、時間単価を従属変数として重回帰分析した結果を参照)。これらの結果からは、一般論として、障害の種類別に見た場合に、すべての群に有効な特別な方式はないということが示唆されている。この結論についての説明は後で考察する。

表3 時間賃金の重回帰分析
特性 分散のパーセント
強さ(+)* 12%
精神科的障害(-)** 6%
教育(+) 6%
愛傷前就労経験(+) 6%
人種─黒人(-) 5%

 

*(+)はこの特性と時間賃金との間に直接的正の関係のあることを示す。数字の大きい程、賃金も高いことになる。
**(-)は、この特性と時間賃金との間に直接的負の関係のあることを示す。特性の得点が低い程(あるいは黒人女性の場合はこの特性があると)時間賃金は低い。

 〈どんな人が職を探せなかったか〉 1975年に始めた職探しによって見つけられなかった28人は、すべて、1976年~77年の面接前に職探しを止めていた。あるものは、仕事に要求されることがらを正しく理解していないためと思われる理由で職を獲得できないでいた。ロバート・サクソン氏はその典型例である。サクソン氏は55歳の大卒者で、コンピュータープログラミングの大学院コースも取っていた。彼は法定盲人で、視力の悪化のために仕事を失ってから5年半になる。彼は、プログラム開発者になるという目標を固く心に決めていたのであるが、視力の制約があるために展望を持てないようであった。

 身体的障害のある黒人女性群というのが最大の群であった。28歳で子供づれのシアリィ・バクスター嬢が典型例である。彼女は重度の先天性心臓障害を持っていた。彼女は高卒で、商業分野の中で、訓練期間と就職期間と合わせて2年間の経験を持っていたが、仕事を維持していく能力に不安があった。そのため、幼い子供にとっての必要性を考えた場合に、うまくいかないかも知れない仕事に就いてしまい、医療扶助と生活扶助を失ったら困るということを大変気にしていた。幼い扶養家族をかかえた片親の場合、また、扶助を一度手離したら再度受けられないという危険性を感じて大変心配しているような人の場合は、経済的な面から、職探しの努力への意欲低下が生じている。

 このような人に対するカウンセリングの場合、経済的意欲低下因が消極的作用をすることに対して現実的な検討をしないままに、就職準備ができているとしてしまいやすい問題がある。意欲低下因を軽減するように助言したり、もし職を失ったときには、機関が強力にバックアップして医療扶助も生活扶助も再開されるように援助することを約束したり、といった経過をふまなければ、就職準備がよくできていると考えることはできない。この点は、機関がクライエントを就職準備されていると分類する時点で、厳重に配慮すべきことだといいたい。

 

 〈職の維持〉 この調査の対象者は、前にも述べたとおり、彼らの持っている能力を十分に活用しないような職に就いていることが多く、賃金は比較的低いものであって、障害者の就労経験の調査のほとんどが指摘している、能力以下の就業であった。従って、就職者のうち、同じ仕事を続けていたものはたった4パーセント(32人)であった(面接時には49パーセントが就労していたが)ことも驚くには当たらない。継続期間と障害とには深い関係がある。精神科的障害者は最も低い定着率であった。職を失った者(あるいは転職した者)の中の黒人と長期間障害者は、全体の構成比よりも多い。仕事を続けている者は、予想されないことではなかったが、仕事に満足している者(賃金、時間、労働条件、達成感、昇進の機会、アイディアの活用、技能に関しての満足感を調べるために作った7項目の質問に対する回答に基づいて分類)であった。しかし、これら満足している者でも、昇進の機会に関しては不満の者が多い。障害者のために、機会を拡大する何らかの措置の必要性が指摘されるところである。

 不満足と並ぶ問題として、健康状態の変化が、22人もの「辞職」者から出されている。一方、解雇の理由としては、経済性の問題、職業準備性の欠如(遅刻の頻発、仕事場での人間関係等)があった。就労を継続できないものが多数あったことは、解雇されそうな者への適応指導、不満があって継続しそうもない場合の転職指導といった、就職後のサービスの必要性を示唆している。

考察

 まず最初に、本調査における制約に注意しておかなければならない。サンプル数の小さいこと、調査対象者間の差異が大きいこと、回答は最低1年前までにあった職探し経験を思い出してもらったものであること、全対象者はリハビリテーションセンター、それもニューヨーク市内のものが選定したものであること、である。これらの条件は、結果の一般化に一定の制限を与えるものである。しかしそれでも、ある傾向は見い出されるのである。

 106人の、就職準備のできている障害者の職探しに関して体系的に情報を集めてみると、障害者のための職業紹介のニードと、それに対するサービスの実情が明らかとなった。調査結果はまた、今後の方向を計画する基礎として用い得る事実をも提示している。将来計画の必要な領域は三つになる。第一は、一度も就職できなかった者への配慮、第二は、多くの人が満足していないと報告していることへの注目、第三は、就職した者の定着率が低いことに対する計画的対策の必要性である。

 

 〈一度も就職できなかった者〉 就職できなかった者の多くの者が、就職の口があっても断った理由として、経済的な負の誘引性を認めている。頼りになる収入を失うこと、あるいはさらに、医療扶助を失う危険を冒すことは、障害者のうちの一部の人にとっては負の誘引性以上のものである。当面の策としては、カウンセリングの過程で、負の経済的誘引性について早い時期に取り上げ、「意欲的でない」クライエントが、彼らの不安定感を否定したり、隠したりして、「いかにも」就職したいと振る舞うようなことをなくすべきである。これらのことは、いずれはそれぞれの機関でわかることであるし、失望を呼ぶだけのものである。

 障害者の職業紹介において、リハビリテーション機関は価値ある有意義な存在であることが示されたが、このことはまた、これらの機関は就職できなかった者に対しても特別の責任ある位置づけにあることをも意味している。ほとんどの機関で用いている特別な職業紹介モデルは、カウンセラーがクライエントを選別し、求人に適すると思われる人を選別し、その上で、クライエントの人柄、技能、職歴、障害の状況、就職意志について求人者と話し合うというものであるが、多くのクライエントにとっては妥当なものである。しかし、仕事に合うクライエントを選別するという過程は、雇用主との関係を樹立するのには役立つかもしれないが、同時に、職探しに最も援助を必要としている人を除外してしまうことにもなる。回答者の何人かからは、リハビリテーション機関から「一度も」紹介されなかったという報告がされているのである。これらの機関は、この調査を通じて、障害者にとっては最も有効な情報源だということがわかったのであるから、雇用主もクライエントも両方にサービスするという目的からいっても、求職者の一部に対してはサービスしないということにならないように気をつけるべきである。

 

 〈満足していないという報告をしている者〉 技能と職務上の要求がマッチすること、また、経済的欲求、期待と報酬とがマッチすることが、仕事への満足度の鍵となっていた。従って、仕事への満足を得るためには、障害労働者のニードとして、他の労働者と同様に賃金のよい仕事への機会が幅広く用意されることが必要である。調査対象者はそのような労働市場は経験しておらず、そのことから、障害者に対しての機会の拡大のニードが示されているといえる。障害者が接する労働市場における、需要側の改善を画するひとつの道は筋、アファーマティブ・アクション法規による諸施策を、もっと活用することである。この法規は、リハビリテーションの世界に、障害者を一般労働者にとけこまそうと考える雇用主からの求人を拡大するという機会を与えているのである。この施策と、女性や弱小グループに対する雇用機会の均等策プログラムとを結びつければ、さらに有用であろう。というのは、この調査対象者中の、賃金の最も低い仕事に就いていた障害者は「合成差別(compound discrimination)」に悩んでいるからである。ここの対象者の職探しは、アファーマティブ・アクションが発効してから行われたものであるのに、この法規によって定められた援護の機会を知っていたのは、たった29パーセントであったことは興味深い。

 求職者側への働きかけも、仕事への満足を増すもうひとつの道である。例えば、障害者が労働市場へ提示する技能を向上すれば、それによって、彼らに提示される仕事もよいものになるのである。職探しの技量を訓練するといったような、別種の訓練を加えることによって、訓練の幅は広がり、職業生活の幅も広がるのである。このことは、選択方式職業紹介とは別のモデルであって、求職者が獲得する仕事の質を向上させるのに役立つという報告例もある。クライエント中心の職業紹介モデルを推進することにもなるのである。

 

 〈職を失った者〉 精神科的障害者の雇用定着性は特に低く、就職率は一番高いのに維持率は最も低かった。定着を確実なものにするための就職後のサービスが必須であるように思われるのである。精神科的障害者に対しては、支持的カウンセリングと職務適応サービスが指標となろう。一方、身体障害者の場合は、就労の継続を確保するためには、治療的・医療的サービス、また、通勤サービスが指標となる。1973年までは、就職後のクライエントのためにサービスするという行政的要求も、また使える基金類もなかった。現在ではそのようなプログラムが使えるようになっているのであるが、ここで見い出されたような、就職後1年の間にほとんど半数もの障害者は再度失業するという状態を変えようとするならば、もっとこれに優先権を与え、資金をもっと投入する必要がある。

 この研究では、リハビリテーション・職業紹介機関は、職業準備のできたクライエントの多数の者に対して職探しの効果をあげていることが示された。しかし、改善すべき余地が相当にあることも明らかである。職種がクライエントに適合するものであったかどうかにも疑問が残る。多くのクライエント、特に精神科的障害者の場合には、雇用を続けることができなかった。その他のクライエントの場合も、多くの者が、経済的な負の誘引性があるという理由だけで、就職できる職種にも就けないでいた。

 この研究で対象としたようなクライエントのために仕事をしている諸機関は、今や、よりクライエント中心のもの、職探しの技法に力点を置くもの、アファーマティブ・アクションの下に設定された権利をクライエントに教えること、負の誘引性に対処すること、といった問題を解決する方向で職業紹介プログラムを改善させつつある。諸機関はまた、リハビリテーションは、職を探し当てたときに終わるのでなく、多くの人の場合には、適応を確実にするために続けてサービスする必要があること、また、職業紹介は、クライエントも雇用主も相互に満足させるためのものであることを認識する必要があると認め始めている。

 この研究が、これらの変化を呼び起こし、障害者のための職探しがますます良い結果を生むようになることを望むものである。


1)すべての氏名は、プライバシーを守るため仮名にしている。
2)リハビリテーション医学研究所以外の協力機関は以下のものである。アルトロ・ワークショップ。
  Federation Employment and Guidance Service ; Federation of the Handicapped ; Fountain House ; Human Resources and Abilities, Inc. ; Institute for the Crippled and Disabled ; Jewish Guild for the Blind ; Just One Break ; New York League for the Hard of Hearing ; and New York Society for the Deaf.
3)関与した障害者団体は以下のものである。
  The New York City Chapter of the National Paraplegia Foundation, New York City Council of Organizations Serving the Deaf, and New York City Capter of the National Federation of the Blind.
4)障害者が障害のない人に対しては情報を隠す場合でも、障害のある人に対しては隠さないという調査結果を考慮した。本調査においては、面接調査者間の比較をしてみた場合、障害者の場合もそうでない場合も影響なかったようである。しかし、多数の聴覚障害者とのコミュニケーションをする際、手話のできる者がいたことは役に立った。

文献 略

*Dr. Akabasは、コロンビア大学社会事業校産業社会福祉センター所長、Mr. Medeveneは講師、Dr. Victorは研究室長である。ここで報告した調査研究費用の一部として、RSAの調査デモンストレーション奨励金15-P-57807/2-04を受けている。
**国立職業リハビリテーションセンター、職能評価課長


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1979年7月(第31号)28頁~35頁

menu