論説 義肢装具支給サービスにおける問題点

論説

義肢装具支給サービスにおける問題点

兵庫県リハビリテーションセンター長 澤村誠志

 外傷、疾病などによる切断や、種々のマヒ・変形疾患などに対し処方、支給される義肢装具は、患者、障害者に対するリハビリテーション技術上きわめて重要な位置を占めている。とくに、最近の切断術直後または早期の義肢装着法の導入、あるいは頸髄損傷に対する動力装具、生活環境コントロールシステムの導入のように、障害の重度化と、それに対する早期リハビリテーションの重要性が認識されつつある現在、それに対応できるサービスの拡充が必要である。

 義肢装具に関する諸問題については、すでに昭和47年に、日本リハビリテーション医学会義肢装具委員会が将来計画を作成し、多くの提言を行っている。とくにその中で、今日のわが国における義肢装具支給サービスの改善に対して問題となった点をあげてみると、a医師の義肢装具に対する卒前卒後教育の不足とチームに対するリーダーシップの欠如、b義肢装具士の身分制度、養成施設が皆無であること、c義肢装具の処方、判定、訓練などを行う施設とマンパワーの不足、d義肢装具研究開発、規格に関するシステムが存在しないこと、e義肢装具の受託価格が先進諸外国に比較してきわめて安価に制限されていることが、その改良を阻害したこと、f義肢装具支給の基礎となる身体障害者福祉法、労働者災害補償保険法、厚生年金保険法などが縦割支給体系となっており、患者、障害者の立場に立っていないこと、などがあげられる。

 現在に至るまで医学会の重なる要望により、行政側において、厚生省においては身体障害者福祉審議会に補装具小委員会が、労働省においては義肢装具協議会が設置され、また、部品及び用語の規格化、価格の是正などの施策がなされ、10年前を振り返ると隔世の感がある。しかしながら、この義肢装具の周辺には、なお、縦割行政の壁を主な阻害因子とする多くの問題が残されている。

 そこで今回は、現在日本において残された義肢装具の周辺にある問題をさぐり、若干の提言を加えてみたい。

(1) 義肢、装具に関する情報把握の不足

 現在、身体障害者に関する情報は、福祉法に従い、各都道府県より厚生省に対して報告されるものが最も信頼すべきものといえる。しかし、この中に記録される情報は、たとえば、切断では上肢と下肢に分類されるが、肩関節より離断したものと、指の切断が同一項目に含まれ、また、義肢の交付内容にしても、義足、義手の区分があったとしても、股義足と、足根中足義足が同じ分類の中で取り扱われる。多くのマヒ患者を対象として支給される装具も、その原因疾患の分類は皆無であり、また、装具の種類の情報は得られない。したがって、残念ながら、これらの情報から、現在どのような義肢装具のパーツに問題があり、今後解決がされねばならぬかという国の施策の基本となる情報に欠けていることになる。これは恐らく、各都道府県における情報処理の対応にきわめて大きな差異があるため、最低限の情報を国から要求されたためであろう。この情報の細部までを国から各都道府県に要求することは各県間のレベルの格差が大きいため不可能に近い。この解決の一つとして、日本リハビリテーション医学会では、通産省、厚生省の協力のもとに、昭和52年度に切断者の実態調査を行い、54年度において下肢装具を中心とする実態調査を行っているが、これが今後の行政に、また、研究に大きな基礎となろうかと思われる。

 しかし、これらの情報は、一次的なものであって、決して障害の年次的な動態をしめすものではない。国は、5年ごとの実態調査を基礎データとして利用しようとし、54年度末に実施予定であるときくが、筆者は、手帳交付、義肢装具交付の際の情報を各都道府県レベルで適確に入手し、これをコンピュータにて分析する方法が最も望まれるべき姿と思われる。このためにも義肢装具に関する情報を再整理する必要があることを提言しておきたい。

(2) 義肢装具に関する卒前卒後教育

 義肢装具が治療上の重要な位置をしめるため、欧米を初めとする諸外国では、大学及び一般病院内にこのsectionがあり、治療及び医療教育の場を提供している。わが国では、後述するごとく、義肢装具に関する教育の重要性は一般に不足しており、特に大学病院でこのsectionを設置している所は皆無に近い。また、専門医制度の発達していないことが、義肢装具の卒前卒後教育の中に義肢装具の知識を要求することを少なくし、むしろ国家試験の中で重要なパートとなっているセラピストの教育の方が充実したカリキュラムをもっているといえよう。基本的には、卒前教育としては、大学にリハビリテーション科の講座と義肢装具科を設置し、卒後教育としては、専門医制度の中にカリキュラムを設けるのが最も理想的で重要な解決方法である。このように医師の義肢装具に関する知識の低さに少なからぬ批判があって、厚生省の主催下で、毎年40~50名の医師が義肢装具に関する教育(昭和53年で312名が参加)を2週間にわたりうけている。将来、これらの医師に、身体障害者更生相談所判定医師としての資格等を与え、地域における義肢装具の支給サービスに役立たせるような施策が必要となるであろ う。

(3) 義肢装具製作技術者の養成と身分制度

 義肢装具は、切断肢とかマヒ肢に適合させ、失った身体機能を補うことが目的であるためその製作には医学的知識が必要であって、医療職としての位置づけが必要であることはいうまでもない。とくにセラピスト、ケースワーカー等とのチーム医療を必要とし、患者、障害者と接してサービスを提供することが重要である。しかし、一方、この義肢装具製作者を製作技術面からみると長年の徒弟制度の中で育成された熟練技術が必要であると同様に、最近のように、電動義手、油圧または空気圧制御膝継手のように高度のリハビリテーション工学的知識を要求される時代となっている。この義肢装具の支給サービスを患者、障害者の立場にたって向上させる最も大きな鍵は、何といっても、実際にこれを製作する技術者の技術の向上にあることは自明の理である。このためには、諸外国ですでに実施されているような養成施設の整備と、身分制度の確立による社会的な地位の向上を図ることが大切である。医学会及び日本学術会議では、過去長年にわたり、この義肢装具製作技術者の身分制度を医療職として位置づけ、具体的実施案を作成して行政側(厚生省医務局医事課)にしめし、この実現を要望してきた。医務 局においては、医療と製作の両面にまたがるこの職種の真の理解が得られぬまま業界には受け入れられ難い条件を提示し、その実現の見通しを暗くしていることはきわめて大きな問題といえる。

 先日も、義足歩行訓練を行っていた治療中の患者が義足の製作手技が原因で転倒し、骨折をおこし訴訟問題となったことがあった。果たしてこれが何ら資格をもたぬ製作技術者に責任があるのか、これに処方した医師に責任があるのか、また、資格制度確立の必然性を無視した行政に責任があるのか真剣に考えるべき時代にきている。ここまで実施が長びいたもう一つの因子として、この業界の古い体質と目先の利益のみを追究し、将来の方向に対してきわめて消極的であったことも大きな原因としてあげねばならない。いずれにしても、すでに世界で1-4年制のコースをもつ教育システムが21か所で行われている現状の中で、直接障害者、患者のサービスに関与するこの職種の資格制度を早期にとり上げるのが行政の急務と考える。この職種の現状をよく把握され、日本がこれ以上国際的にとり残されぬようにされることを行政側に望みたい。

(4) 義肢装具支給サービスにおける問題点

 a) 義肢装具支給サービスのあり方と現状

 義肢装具の支給サービスの目的は、あくまで、患者、障害者の側に立ち、傷病後できるだけ早期に最適な義肢装具を支給することにある。このためには、第一次ケアを担当する開業医、救急病院と、二次的にこれらの患者を専門的な立場にたって治療を行う専門的なクリニックが地域ごとに必要である。当然このクリニックには、義肢装具に対して十分な知識と経験をもつ医師を中心とする義肢装具士、理学療法士、作業療法士、ケースワーカー、エンジニアなどのチームアプローチが必要なことはいうまでもない。

 この義肢装具支給サービスの場となるクリニックの機能は、理想的には、次のような姿をもつべきであろう 。

 ① 新しい患者、障害者の受け入れ(intake)と評価

 ② 最適な義肢装具の処方と迅速な供給

 ③ 義肢装着訓練とその評価

 ④ 義肢装具の研究開発、新しく開発されたパーツの実用試験(フィールドテスト)への参加と評価

 ⑤ 義肢装具士、技術者、研修医、医学生などに対する教育・研修の場の提供

 ⑥ 切断者同士のグループとしての情報交換の場

 ⑦ 巡回相談、その他、地域活動の場を通じての義肢装具の支給サービスと追跡評価

 ⑧ 縦割り行政下の支給体系において切断者の立場に立つ義肢装具処方判定業務の一本化

などがあげられる。

 さて、この義肢装具クリニックを、海外の現状からみると、米国では、1949年に退役軍人庁(Veterans Administration)の組織のもとに、30か所の義肢装具クリニックができ、英国でも32か所に義肢適合センター(limb fitting centre)が設立された。1971年には米国およびカナダにおける切断クリニックは440をかぞえ、その80%は教育的なものである。一方、小児をとりまく環境の特殊性が認識され、米国、西ドイツ、カナダなどの諸外国で小児切断に対する専門プロジェクトが設置され、定着した活動が行われている。一方、これに対して、わが国の義肢装具クリニックの現状は、われわれが昭和50年に行った全国的アンケート調査(兵庫県リハビリテーションセンターによる。回答施設182か所)によれば次のとおりである。

 ①クリニックの分布は、人口密度と並行する傾向がある一方、かなり地域格差があり、中にはまったくクリニックのない県もある。

 ②クリニックおよび製作工房の有無を病院施設別にみると、クリニックは半数以上の病院でいろいろな形で存在する反面、義肢製作修理サービス部門は、特殊な病院を除いてほとんどない。

 ③義肢装具クリニックへの参加職種は理学療法士がもっとも多く、次いで医師、義肢装具製作者、看護婦、ソーシャルワーカーの順となっている。

 b) 縦割行政下における義肢装具支給体系上の問題点

 現行法による義肢装具の支給体系は、表1にしめすように色々のファンドからなりたち、実際上障害者、患者がこれらの体系により義肢装具の支給をうける上で問題点はきわめて多い。まず切断者は、自分がどの法律によって義肢の給付をうけることができるかを知って、それぞれに適した窓口に申請しなければならない。その上、各法律によって、窓口、措置権者の切断者に対する意識の差、医学的判定の水準、地域差がはげしく、結果としてサービスの差も著しい。また、もし、切断者が法の運用を熟知していれば、二重に支給をうけることは容易であり、しかも、現在の支給体系ではそれをチェックすることは不可能である。代表的な支給体系における問題点を次にのべる。

表1 わが国における義肢支給体系
  年金ファンド 年金・労災ファンド 労災ファンド 社会福祉ファンド
制度 厚生年金保険 農林漁業団体職員組合 船員保険 労災保険 公務員災害 戦傷病者援護 身障 児童福祉
法律 厚生年金保険法(昭17) 農林漁業団体職員組合法(昭34) 船員保険法(昭15) 労働者災害補償保険法(昭22) 国家公務員災害補償法(昭26)
地方公務員災害補償法(昭42)
戦傷病者特別援護法(昭38) 身体障害者福祉法(昭25) 児童福祉法(昭23)
窓口 社会保険事務所 農業年金本部 都道府県保険課 労働基準監督署 人事担当部局 福祉事務所 福祉事務所 療育保健所
措置権者 社会保険事務所 農林漁業団体職員組合 船員保険会 労働基準局 人事院地方自治体 都道府県市 都道府県市 都道府県市
医学的判定 厚生年金病院 厚生年金病院労災病院 船員保険社会保険病院 労災義肢採型指導医 実施機関に委任 身障相談所 身障相談所 療育保険所育成医療機関
製作修理 厚生年金病院義肢課指定製作所 厚生団指定 なし なし 実施機関に委任 都道府県指定 都道府県指定 都道府県指定

 (1) 厚生年金保険法による義肢装具支給制度

 厚生年金保険法による義肢装具の支給制度は、財団法人厚生団が政府(保険庁)の委託を受けて実施している。とくに切断患者に対する義肢の支給と修理は、患者の労働能力の回復と原職復帰をはかるうえにきわめて重要な事業として、全国6か所(登別、東京、湯河原、大阪、玉造、九州)の厚生年金病院に直営の義肢製作施設を持ち、整形外科医の指導のもとに、義肢の製作、修理が行われている。しかしながら、厚生年金による支給制度にはまだかなりの問題点が残されており、その解決に迫られている点が少なくない。

 問題点としては、a全国を6地区に分ける現在の方式は、処方、適合判定などを行うには、物理的に、とくにマンパワーの面で不可能に近い、b身体障害者福祉法、労働者災害補償保険法などの給付と重なった給付体制をとらざるをえない、c義肢を支給するまでの手順にむだが多い、d広域でありすぎるために、患者、障害者の立場に立つサービス体系とはいえない。とくに、急を要する修理に応じえない、などがあげられる。

 (2) 労災法による義肢装具支給制度

 全国の労災病院は、ほとんどが労働災害補償保険法(労災法)によるリハビリテーション・実施指定施設、義肢採型指導指定医療機関となっており、地域の義肢装具の支給サービスの中心としての役割を果たすべきであるが、実際には、開業医を主体とする採型指導医により義肢装具の支給サービスが行われている。現行の労災法による義肢装具サービスには、次のような問題がある。

 ①労災法による永久義肢の療養中の支給は一部を除いて認められていないから、治療打ち切りの必要があるうえ手続きに平均2.7か月を要し、切断者のリハビリテーション過程を阻害する大きな因子となっている。

 ②地域的に、必ずしもすべての労災医療施設に十分な知識をもつ医師ならびにセラピストがおらず、一方、二次的な労災リハビリテーション指定施設との連携が不十分である。

 ③採型指導医、労災リハビリテーション指定施設のスタッフの資格規準がなく、形式的な採型指導に終わっている場合が少なくない。処方、適合判定など医学的判定などが内容的に乏しいことが多い。

 ④身体障害者福祉法、厚生年金保険法との協調が不十分のために、手続きが困難であり、受益者に対する知識普及の不足、事業主の証明の得られないことなどによる支給の困難、採型指導が現実には十分行われていないなどの問題がある。

 (3) 身体障害者福祉法・児童福祉法による義肢装具支給サービス

 昭和25年4月に施行された身体障害者福祉法は当時としてはすぐれたものであったと思われるが、その裏づけとなる上記の基本的な必要条件の整備がなされなかったために、現実的には身体障害者に満足した姿で義肢装具が給付できず抜本的な改正が必要な段階となってきている。そこで、この現実の姿から身体障害者福祉法および児童福祉法による義肢装具交付上の問題点をのべてみたい。なお、この実態の把握には、全国52か所の身体障害者更生相談所のアンケートの協力を基にした。

 1) 身体障害者(児)および補装具に関する適確な情報の把握とこれにもとづく対策

 2) 身体障害者更生相談所における義肢装具の判定機能の充実

 ①義肢装具の判定専門医の認定

 義肢装具の処方、適応判定の義務は、医師にとってかなり長期にわたる経験と高度の知識を必要とする。しかしこの判定医師に対する認定制度は、身体障害者福祉法、児童福祉法に要求されていない。従って、技術的な知識をもたない医師により障害者が処方、判定をうけた場合、仕事を休み、交通費を払って相談所の判定をうけるメリットはなく、極端には、相談所が単なる書類の通過機関として事務手続きを遅らせる弊害もありうる。このため、身体障害者福祉法による判定医師には、思い切った優遇措置をしない限り、実際には、すぐれた医師の協力はえられず、実際の行政効果を生み出すことは困難で、地域格差はうずまらない。

 ②児童福祉法による義肢装具交付との統合

 児童福祉法による補装具交付における保健所の役割は、単に書類の通過機関にすぎない。このことは、全国のほとんどの相談所が、18歳の年齢を境にして異なる体系の中で補装具の交付を行っている矛盾を感じており、一本化を行って相談所にその機能をもたせるべきである。

 ③福祉事務所身体障害者福祉司の定着と教育

 補装具が真に障害者に役立つかどうかは、現場の福祉司の人材による点がきわめて高い。とくに補装具交付には少なくとも数年の経験を必要とすることから、その専門化への教育体制と定着化を図るよう指導の必要がある。

 3) 義肢装具の交付、適合判定業務の改善

 義肢装具の新規交付、再交付、適合判定の現状を示した。これによると、法的に医師の判定を義務づけられている義肢装具の新規交付の場合でも、7.7%がソーシャルワーカーの判断に任せており、再交付の場合には48.1%がソーシャルワーカーの手にゆだねられている点に大きな問題がある。多くの都道府県で、ソーシャルワーカーは2~3年のサイクルで勤務が変わり、義肢装具に関する研修が追いつけぬ現状からみても、行政側の反省が必要であろう。

 適合判定については、34.6%は適合判定を義務づけていない。判定を受けていない義肢装具の中には、製作者側の技術的な問題などがあって実際に装着使用されていないものが少なからずあると考えられるので、判定は必ず義務づけられるべきであろう。ただしこれには、この判定を行う場所と障害者の住居地との地理的関係を考慮すべきであり、この点から、厚生省主催の補装具判定医師講習会終了者に対し積極的に判定義務の依頼を行うべきであろう。

 4) 補装具の給付範囲の拡大

 補装具の予算の枠が乏しいために先進諸外国に比較して、給付される補装具の種類が少なく、しかも重度障害者程問題が多くなっている。また、身体障害者福祉法に比較して児童福祉法による補装具給付の枠がせまく、保護者にあたえる経済的負担は無視できない。そこで日常生活用具、特に自助具、電動車いす、電動その他体外力源による義肢および装具、オーディオ製品(補聴器、テープレコーダー)、盲人用・脳性マヒ用タイプライター、自動車等、給付範囲の拡大がなされてもいい時代ではなかろうか。

 c) 縦割行政下での支給体系の改善策

 -義肢装具適合センターの設置-

 上記の縦割支給体系を改善するために、日本リハビリテーション医学会、日本整形外科学会では、プロジェクト委員会を作り、その抜本的解決として、地域における義肢装具適合センターの設置の必要性をのべ、各行政機関への要望を続けている。この義肢装具適合センターを設置するためには、

 1)義肢装具ファンドが種々あるが、この措置権を一定のスタッフ、設備のととのった施設に委託する。とくに望みたい点は、現行の縦割行政の枠の中で矛盾の多い支給システムを、患者、障害者の側に立って整理、統合することである。当面、少なくとも義肢手帳、処方箋などは支給体系のいかんをとわず統一し、合理的に、早期に高度な技術が提供されるような体系づくりが必要である。

 2)対象人口150万人~200万人ごとの地域的にセンターをもうける。それには種々の型があってもよく、中核医療機関としては、労災リハビリテーション医療施設、健保身障運動療法指定医療機関、更生・育成医療指定医療機関などが考えられよう。また地域的にみて義肢支給サービスの良くない地方では、新しく義肢装具適合センターをもうけるべきであろう。

 3)義肢装具適合センターには、人的条件として、医師、理学療法士、作業療法士、義肢装具士、心理士、エンジニアなどによるチームアプローチが必要であり、また、物理的条件として外来診療・訓練施設、製作施設などが必要である。

 4) 義肢の価格体系に関する問題

 義肢の価格は、身体障害者福祉法の施行以来、交付基準における受託報酬額として規定されてきた。しかし、過去において長年この基準が低価格に抑えられてきたことと、義肢の種目、形式のみが分類され、パーツごとの価格の積算方式がとられていないまま現在に及んでいることに大きな問題がある。このため利潤のきわめて薄い義肢のパーツは、安価に抑えられたことにより粗悪なパーツを製作せざるをえない現状がパーツメーカーに認められる。次にのべるパーツの規格が皆無であったこととも関連し、義手の肘、手継子、義足の膝、足継手を例にあげるまでもなく、いまだに良質のものが入手できない現状にある。現在において次のような改正が必要であると考えられる。

 ①義肢の価格は基本型を標準とし、パーツごとに材料ならびに作業内容を加算して決定されるシステムをとるべきである。

 ②基本的にこの価格は、製作業者の生活権と関連する問題であり、良心的にすぐれた技術者を育成する価格体系をとることが大切である。このために、現行の義肢装具、車いすの品目間の価格の再検討が必要であり、とくに、問題となっている軟性コルセットは、大幅な価格の引き下げをする必要があろう。

 ③パーツメーカーと合議のうえ、製作能力を超えるパーツについては積極的に外国製パーツを採用すべきである。

 現在、厚生省身体障害者福祉審議会補装具小委員会に価格検討分科会が設置され、また、53年より3年間にわたり、社会局更生課の協力により委員会を設置し検討中であり、大きな前進としてうけとめている。

 5) 義肢装具部品の規格管理

 義肢装具のように、公共的な機関が、患者、障害者に支給するものの場合には、少なくともその品質が管理されていないと、公費の有効な使用が確認できず、サービスの現状も把握できない。わが国において、障害者、患者の側から義肢装具の構造、材料、互換性を含む保守サービスなどに不満があるのは、すべての義肢とその部品の品質を管理し支給するシステムがわが国に欠如していることに起因している。つまり、現在わが国での支給義肢の部品は、メーカーが、地域での業者の要望をもとに、外国製パーツに類似のものを、上述した低価格の中で製作し、公的な品質管理がまったくないまま公費の枠の中で身体障害者に支給されている。これに対して諸外国においてはすでに義肢部品の品質管理はきわめて厳重なシステムの下にある。

 日本でも、この規格についての活動は、昭和50年より東京都補装具研究所の主催のもとに自立的に行われ、それが昭和51年度から通産省工業技術院で予算化され、日本リハビリテーション医学会に「福祉関連機器の標準化推進のための調査研究」として委託された。すでに、昭和51年には、全国の切断者の実態調査、義足足部の現在機器分析が行われ、昭和52年には、足継手試験材の試作、膝関節機構の分析などが、昭和54年には下肢装具の調査などが行われている。今後は、国政レベルでの恒久的な品質管理制度の確立が急務であろう。

 6) 義肢装具の研究開発

 本来、義肢装具の研究開発のあるべき姿は、リハビリテーション医学と工学との研究協力をベースとして、国家的レベルで計画され、研究活動の調整、目標管理、追跡調査、評価などが行われるべきものであろう。しかしわが国での研究計画は、縦割行政機構上の問題もあって、研究予算が別々に流れて、計画性のない、散発的な報告書の作成に終始しているのが現状といっても過言ではない。

 研究開発は、まず、切断者のニーズの分析把握から研究計画が始まり、最後には単に研究にとどまらず、何らかの形で障害者の側にフィードバックできる形をとるべきである。しかし、現状では、厚生省側には予算は皆無に近いために、障害者のニーズとは別に、主として科学技術庁、通産省を通じて工学主導型の予算が組まれ、決定後にはじめて医学側に協力が求められることが多い。しかも、その予算の大半は、現在はもちろんのこと将来も義肢装具支給サービスと関連のない大企業に流れ、これまで実際に義肢装具の部品支給を行ってきたささやかな小企業のパーツメーカーには流れないようなシステムとなっている。その結果は、研究論文の作成は行われるが、予算の切れ目が縁の切れ目となり、実際に障害者に益する開発には至らないのが現状である。

 今後の研究開発は、各行政機関間の委員会の設置による調整と、障害者の側に立つ研究テーマの設定、実用化と追跡調査にまで及ぶ現実に役立つ開発研究が重要であろう。

 

 以上、現在わが国における義肢装具の周辺にある問題をのべた。今後に残された課題としては、義肢装具の支給体系の統合整理化、障害者、患者の立場にたつ義肢装具研究開発、義肢装具製作技術者の養成と身分制度など、いずれも縦割行政の壁が大きな障害となっている。このような義肢装具の諸問題を、表2にしめすように国レベルで統一した形で解決しうることができればと念願してやまない。

表2 義肢開発給付システムを中心としたリハビリテーション医療・技術の推進体制案(土屋和夫)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1979年11月(第32号)2頁~9頁

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