特集/第14回世界リハビリテーション会議 リハビリテーション工学セミナー

特集/第14回世界リハビリテーション会議

専門別セミナー

リハビリテーション工学セミナー

岩倉博光*

 リハビリテーション工学セミナーは、1980年6月16日より5日間トロントのシェラトンセンターにおいて開催された。会場は国際会議場として地理的条件や設備において申し分なく、各国からの参加者は登録人数650名に加えて家族などを含めると相当の数にのぼったが、同ホテルに宿泊した人が多いようで、朝早くからInstructional Courseに出席する人が少なくない。

 リハビリテーション工学に関係している人々にとっては、この国際学会が唯一といえるほどのものらしく、たとえばアメリカ各地のリハビリテーション工学センターの業績はこの日の発表を大きな目標として努力されるという。

 本学会を企画した側からすると、したがってまず各センターの業績を示す「提示」が最大の出しものといえるであろう。ここには63の施設から発表があり、世界各地からといってもカナダとアメリカが圧倒的に多いが、わが国では東大工学部の舟久保研究室より音声制御義手とコミュニケーション・システムが提示されていた。今回目立ったのはコンピューター・システムを用いたコミュニケーション・エイドや環境制御装置(Environmental control system)が実用になっていることで、肢体不自由のみならず聴力障害や言語障害者に使用されているこれらの装置が、今後どのように拡大されるかはなお利用者の側にたった各方面の努力が必要とされるであろう。各国の事情が異なるし、デンマークやスウェーデンのようにむしろ国の方針を展示の中に示して、リハビリテーション工学を着実に地味に生かすことを知らせるのは意義が大きいと思われる。

 次は毎朝8時から始まる教育研修(Instructional Course)である。ここには八つの項目があげられており、1.リハビリテーション工学における心理、2.コミュニケーション・システム、3.義肢と装具、4.動力補装具、5.介助を要しない生活、6.バイオフィードバックと神経コントロール、7.座位と姿勢に関する問題、8.職業リハビリテーション及び教育リハビリテーションにおけるリハビリテーション工学、について各2時間、3~4人の講師によって講義中心に実施される。これに参加するには1項目12ドル50セントを別に支払うが、朝の簡単な食事が含まれていた。

講義の内容は基礎的なものが多く、程々の試験的調査や研究結果、それに現在の実情が話されたが、すでに長期にわたる経験を有する講師の話はリハビリテーション工学がそれ自体独立した科学になりうることを明らかに示しているのであるが、そこに常時リハビリテーション医学を内臓しているか、さもなければ常にリハビリテーション医学のチェックがなければならないことを強調 する内容が多かった。

 ワークショップは最初10題企画されたが、第2と第8が欠演となったので合計8部が実施され、6月17日と18日に集中して午前と午後にわたり、それぞれが分かれて行われたので参加できるものが限られたが、最終日に各部の座長がまとめを全員に発表したので、その雰囲気はある程度理解できる。かいつまんでそれを述べる。

 第1部は基礎工学である。リハビリテーション工学への期待と現実、国際間の協力の問題が論じられたが、とくに義肢と装具などは論じやすいもであろう。第2部は欠。

 第3部はリハビリテーション工学の倫理である。1980年代におけるリハビリテーション工学の教育目的、障害者のリハビリテーション過程とその決定のあり方などは極めて重要な問題を多く含んでおり、アメリカやカナダなどに見られる費用と利益のバランスを重視する意見に対し、ヨーロッパ各国の反論がここにも見られた。

 第4部は二つに分かれ、4Aでは障害者の移動(Transportation)の問題が論じられ、4Bではとくに航空機における障害者の車いすの扱い方が論じられた。

 第5部は老化と貧困の議題である。カナダやアメリカにおいても人工の老齢化は進行しており、リハビリテーション工学としてはそのサービスをどのように供給するか、家の構造、安全、デザインなどについても研究する必要がある。そこには当然老人の生理学的運動能力に関する基礎的裏付けがなければならない。

 第6部では国際間の諸問題が論じられた。社会的環境、性、財政的責任やマーケットなどにつきくりかえし述べられたが、結局は利用者(医師や理学療法士などを含めて)と工学側との話し合いが基礎になることが結論とされたようである。

 第7部はコミュニケーション・エイドについて約60人が参加して論じられた。もちろん前にも述べたとおり技術的には進歩の著しい分野であるが、障害内容に見合ったものを作れば、その数は単一のものとして使用される数がそれほど多いものではない。言語の異なる国々の問題もある。一部ではテレビの利用も提案された。第8部は欠。

 第9部は情報システムという興味ある題がとりあげられた。ここでは利用者から見た情報が中心であるが、本来情報とは大きな力を持つが、それはフィードバックされるものでなければならないのであって、利用者からの回答を必要とする。情報それ自体の評価も必要であって、その内容が利点のみならず欠点をも指摘したものであることがのぞまれる。国際間の評価を得ることもよく、こうしてみると情報技術も今後一層レベルの高いものが要求されることになる。

 第10部は工学技術の企業や臨床への移行。現在のところ工学技術が健康の面に使われることはまだ極めて少ない。それは障害者の実情が工学側に伝わっていないことが原因のひとつとなっているので、全世界の障害者の内容を知ることが今後のマーケットとしても必要であるという意見が出た。新しい技術が生まれてもそれが製品として高価になることは数量が限られるからで、これらが広く利用されるには政府の協力が必要であるということにもなる。

 さてこうして残った時間が一般演題に割り当てされるので、その比重は比較的重いものでない。それでも演題は重点的に分類されており、車いすと座位姿勢、褥瘡と皮膚の圧迫、バイオフィードバック、神経筋機能不全、視力障害とその援助、側彎症、環境制御とコンピューター、義肢、人工関節、電気刺激、歩行解析と運動解析、リハビリテーション工学と社会、などにまとめられた。中にはアメリカの研究所からの発表として日本の障害者雇用促進法に関する研究が一題見られる。このような研究もリハビリテーション工学の未来予測に関するテーマのひとつになりうるのであろう。

 カナダは工学自体の進歩だけでなく、その技術の供給についても最も前進している国と思われる。障害者の内容がよく把握されており、研究システムが整備されているように見える。たとえばここのオンタリオ州はその代表と考えられるが、重度障害児の研究はトロント郊外のオンタリオ障害児センター(Ontario Crippled Children’s Centre,OCCC)に統一されてリハビリテーション医学と工学の中心になっている。このセンターはすでに世界的に有名であるが、今回の参会者の中にも多くここを訪問する人々が見られた。

 最後になったが参会者の印象として一言。リハビリテーション医学セミナーなどに比してあまりにも華やかではないか、という感想がそれである。

*帝京大学リハビリテーション部


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1980年12月(第35号)5頁~6頁

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