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特集/第14回世界リハビリテーション会議

専門別セミナー

教育セミナー

Stanley Perkins*

斉藤加余子**

 6月15日から19日にかけて第7回特殊教育国際セミナーがカナダのバンクーバーにあるブリティッシュコロンビア大学で開かれた。会議の出席者は140人にのぼり、そのほとんどが海外から訪れた人たちであった。Dr.Stanley PerkinsとDr.Leo Marshallの二人が会議の議長をつとめた。

 6月22日から26日にかけてカナダのウイニペッグで開かれる国際協会世界会議のテーマが「予防と統合:80年代の優先課題」となっていたので、教育セミナーでもこのテーマをとりあげることにした。プログラムはあらかじめ用意それ、当日はその日のテーマのパネルディスカッションに始まり、そのあとで共同セッションが開かれた。第1日目のテーマは予防について、2日目が統合について、3日目は関連施設訪問と文化施設訪問にあてられ、4日目はサービスの分配方法について討議した。

 「予防」についてのパネルディスカッションでは、デンマークのコペンハーゲン大学のDr.Bengt Zachan Christiansenが「出産時異常児の追跡研究」について、米国ワシントン大学のDr.Valentine Dmitrievが「ダウン症候群児のための教育的介入」について、ブリティッシュコロンビア大学のDr.Barbara,McGillivrayが「80年代の計画妊娠」について発表した。

 Dr.Christiansenの論文では9,006人の妊婦から生まれた子供たちの追跡が報告され、低体重出生児は普通体重児の3倍の割合で異常がみられ、呼吸器系疾患や心臓病や胃腸疾患についても両者に重大な相違がみられたと述べた。

 就学児についての調査でも、低体重出生児は類似形集めや絵合わせや組み立てや記号合わせ(coding)に関してWISCの結果が思わしくないが、知能についてあまり差がみられない。また学習遅滞児の割合も普通体重出生児が1.4パーセントであるのに対し、低体重児は12.9パーセントと高く、特殊教育が必要であるとされた児童の割合も、普通体重出生児が24.8パーセントであるのに対し、低体重児は41.5パーセントにのぼっている。さらに低体重出生児を持つ母親の中には離婚して母子家庭の者も多く、またイギリス式階級制度を基にした社会階級制度の階級差にかかわりなく、低体重出生児は普通体重児に比べて特殊教育を必要とする者の数も多く、低体重児のニーズに答えるにあたり、社会環境の果たす役割は大きい。

 Dr.Dmitrievは早期の特に誕生から2歳までの間に教育的介入を必要とする根拠を述べ、米国のシアトルにあるワシントン大学におけるダウン症候群児のためのモデルプログラムを紹介して、そのプログラムで集めたデータ結果を明らかにした。Dr.Dmitrievは「依存的な新生児も生後24時間以内に歩行や発声や機能運動に必要な技術を体得し、徐々にその効果があらわれて、自立していく」と書いているDicks-Mireauxの研究報告によれば、「ダウン症候群児は生後3か月にしてすでに知能の発達は平均をかなり下回り、その発達速度が正常児と比べて遅れているだけでなく悪化傾向もみられる」ということである。

 第二次大戦後、障害者に対する姿勢が変化し、科学技術や行動心理学も発達した結果、すべての子供たちの潜在能力を最大限に活かすプログラムが作られるようになった。

 1971年1月にワシントン大学で始められたダウン症候群児のためのプログラムは1968年に始まった実験プログラムを一歩進めたもので、発達は連続して起こるという前提にたって作られている。つまりすでに修得した技術が前提となって、次の新しい技術が体得できるというものである。

 このプログラムにはいくつかの目標があり、1)生後すぐから幼稚園、小学校までに早期継続教育を行う、2)両親も教育プロセスに参加させる、3)大学生、教師、準専門職(paraprofessional)の指導、4)処置方法の普及に努力、5)ダウン症候群児が社会の中でできうる限り自立し自活して働けるようにすることの五つである。

 このプログラムで採用された処置方法について説明があり、実例としてあげた資料によればダウン症候群児はデンバー発達調査テストでは正常児に近い知能水準があり、ワシントンプログラム修了者は早期教育を受けなかったダウン症候群児より進歩が大きかったとのことである。つまりワシントン大学のプロジェクトは早期継続教育が発達の持続に効果があり、教育効果もあがることを証明している。

 Dr.McGillivrayは「80年代の計画妊娠」という論文の中で正常健康出産を阻む出産時異常について論述している。5年ほど前から飲酒と喫煙が胎児の成長発達に大きな影響を与えているとして注目されるようになったが、まだ飲酒と喫煙のいずれが危険で、なぜ危険なのかは解明されていない。「栄養や栄養不良とも関連性があるのではないだろうか?」

 超音波機器の使用により重症の骨の異常の発見が可能となり、また胎児や必要によっては血液組織も見ることのできるfetoscopyの進歩も大きくこれまでの研究レベルをはるかにしのぐものである。

 第2日目の「統合」をテーマとしたパネルディスカッションではインドネシアの教育大臣であるDr. Conny Semiawan「限られた財源の中での統合実施」について、デンマークの教育省特殊教育調査官のSkov Jorgensen氏が「総合教育制度」について、ミネソタ大学心理教育学教授のDr. Maynard Reynoldsが「公法94条142項:教師と教員養成者への統合運動の呼びかけ」について発表した。

 Dr.Semiawanは人口1億4千万人、方言200種類、数千の島々からなる国内の障害者に統合教育を実施する上での問題点を述べた。インドネシア文化のうちでも特に村々に深く根をおろしている「相互扶助」(gaton rayong)の習慣によりインドネシアでは統合が比較的簡単に実施された。

 都市では政府機関と私的機関が協力して統合の実施にあたった。視覚障害者や精神障害者や身体障害者との統合の実例を示すため、インドネシア全士で実験プロジェクトがすすめられた。人口の80パーセントが農村地帯に住んでおり、リハビリテーション・サービスは都市のようにスムーズに行われていない。

 プログラムはすべてそれぞれの地域に特有のニーズに合わせた融通性のある方法をとるように指導している。

 Skov Jorgensen氏はデンマークで行われた障害児の教育制度内での統合方法について論述した。デンマークでは義務教育年齢児の約15パーセントが特殊教育を受けているが、そのうち75%パーセントは統合されて普通クラスに入っている。あとの15パーセントは普通クラスには入れてもらえず、普通学校の特殊クラスに入り、残り10パーセントの障害児は特殊学校や治療施設に入っている。

 教育制度内で障害児の統合をはかる一連のサービスを行うには次のような条件が必要となる。それは、1)有資格の教師、2)有能な助言スタッフ、3)適当な教室と技術援助と輸送と特別スタッフ、4)障害者問題に関しての親たちの影響力である。デンマークでは教師はすべて、障害児と異常児についての150時間の講義を受けている。特殊教育教師は基礎的な教員養成訓練を受けたうえ、更に最低1年の専門訓練を受けることになっている。

 Dr.Maynard Reynoldsはアメリカの教員養成教育はこれまでずっと最小限に行われているだけで、決して望ましいものではない点と、教師は統合普通学校における指導訓練を受けていないし、そのレベルに達していないという点に焦点を絞って論じた。彼の意見によれば、公法94条142項は統合に関連してすべての子供は3歳から21歳までの長期間にわたり教育を受ける権利を法的に認めているが、その目標を実現するには教員養成の内容を改め、学校内での専門的サービスの内容を改めることが先決であるとしている。障害児というと慈善シールにみられる子供をイメージに描く人も多いが、そのような子供は障害者のうちのほんの3~4パーセントにすぎず、ほとんどの人は機能上に問題があるだけで、慢性的な病気は少ない。このような人々が人口の7~8パーセントを占めており、「学習障害者」「軽度障害者」、情緒不安定、行動変調者などと呼ばれているのである。Dr. Reynoldsはさらに障害児統合のため新たに生じた条件を満たすための教員訓練プログラム実施についての幅広い討議と経験をもとに、10項目の提案を行った。この10項目はすべての専門分野に及ぶものであり、統合教育計画やその実施にたずさわる教師はだれもが念頭においておくべきものである。その10項目とは、1)カリキュラム、2)基本的な指導技術、3)学級運営、4)専門家による諮問と意見交換、5)教師と親と生徒との関係、6)生徒と教師の関係、7)異常児の問題、8)委託、9)個別指導、そして10)専門的意義である。

 障害児や人種・文化の違う子供や指導困難な子供の教育の機会均等を多くの学校に呼びかけているところである。

 会議3日目は障害者関係の学校や施設の見学や観光地の見学にあてられ、バンクーバー島のビクトリア市に観光フェリーで渡った人もいた。

 4日目のパネルディスカッションでは台湾の国立台湾普通大学教授のDr.Wei Fum kuoとオーストラリアのBurwood州立大学学部長であるDr.Simon Haskell、それに米国特殊教育局改革開発部のDr.James Buttonが発表し、テーマはサービスの分配についてであった。

 Dr.kuoの論題は「人間的配慮のあるサービス分配」についてであり、氏は自己概念(self-Concept)の重要性を主張するDembo、Cooley、Rogers3氏の人間心理学の学問的見解を説明したあと、障害者サービスの分配に際しての人間的配慮の意味について述べた。

 氏は一部関係者の間で診断評価と分類結果の利用方法に誤まりがあると主張している。学校の指定にあたっては両親の同意が得られることが規定されており、現在では広く実施されているが、その際には当の障害児の利益を優先させて、選択の道を作っておくべきである。障害者の環境整備には力を入れるべきで、社会の偏見や障害者を阻む建築構造を教育の場と人間交流の場から取り除かなければならない。

 Dr. Haskellの論文については残念なことに、そのコピーが手元にないのでコメントできないが氏はすべての子供は同一の哲学基盤のもとで教育されなければならないと述べている。

 Dr. ButtonはDr. Sontag との共著「教育社会サービスの分配」について発表し、重度障害者のための教育サービスは単に教育を目的とするのではなく、まず社会との交流を通じて行われるべきものであると主張した。つまり障害者へのサービスの分配に際しては教育的介入と社会交流との兼ね合いを大事にすべきだと述べている。さらに、障害者サービスの分配を推進するには行政による援助と確固たる信念に基づいた幅広い修正が不可欠であると述べている。

 サービス分配制度は教育方法論と科学技術と社会の姿勢と信念とが複雑にからみあって決まっていくと言えよう。したがって、今後の障害者サービス計画は理想の教育実践とは何かを考え、社会の善意を持続させることによって進展していくであろう。    

*ブリティッシュコロンビア大学
**身障雇用経営研究所嘱託


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1980年12月(第35号)7頁~9頁