特集/第14回世界リハビリテーション会議 職業セミナー

特集/第14回世界リハビリテーション会議

専門別セミナー

職業セミナー

高木美子*

 第14回世界リハビリテーション会議に先立って専門別セミナーが、カナダの各地で開催されたがそのひとつである職業セミナーは、トロントで6月15日から18日まで開催された。

 参加者は37か国から185人とのことであった。日本からは6人の参加で、この種のセミナーでは最高の参加であった。

 セミナーのメインテーマは、第14回世界会議のテーマ「予防と統合」をうけて、「障害者の雇用―統合のゴールと職場の安全」であった。そして、はじめの2日間は、ILOの職業リハビリテーション部のブラウン氏による基調演説と、五つのトピックスについての発表とワークショップが行われ、3日目には、カナダの労働者災害補償委員会のリハビリテーションセンターの見学というスケジュールであった。

 まず、第1日目の冒頭に行われた基調演説は、「雇用における障害者の統合に関する世界的展望」と題するもので、ILOが過去60年にわたって推進してきた職業リハビリテーションの分野における活動により、先進国においてはすでに各国独自の活動が行われるようになっているとし、現在ILOが力を入れているのは、発展途上国の指導であり、力ある国々の援助が必要であることが強く訴えられた。

 五つのトピックスは以下に述べるとおりであるが、各トピックスとも、2~4か国からの発表があり、その後、質疑応答が行われたほか、四つの分科会に分かれてのワークショップも2回もたれ、活発な意見交換が行われた。その中でとりわけ、発展途上国の代表は積極的で、自国のおかれている困難な国情の中で、いかに職業リハビリテーション・サービスを充実することができるのか、どうしたら雇用への障害者の統合が図れるのか、といった問題解決の糸口を見い出そうとする必死の姿が非常に印象的であった。 

 トピックスの第1は、「法律は障害者雇用促進の答えか」で、オーストラリア、アメリカ、日本、イギリスの4か国から発表があったが、その中では、日本をはじめ、イギリス、西ドイツ等で行われている割当雇用制度について議論がわいた。一定率の障害者の雇用を法律で義務づけることに対しては賛否両論があったが、イギリスのように登録障害者が全部雇用されても、法定雇用率に達しないという矛盾が生じ、再検討中という国も含めて、割当雇用制を実施している国々でのこの制度に対する評価は、障害者の働く場を確保し、雇用促進のきっかけを作った点で効果があったとし、様々の矛盾は運用上解決できるであろうとしているのに対し、反対意見としては、法の強制で果たして障害者にとって満足すべき職業自立が得られるか、法律によって人の心は変えられないなどが主なものであった。

 オイルショック以来の世界的景気後退、深刻な失業問題の中で、障害者の雇用促進を進めていくためには、法律さえ作れば解決するということではないとしても、何らかの強力なコントロールときびしい法律を媒介として進めることが必要ではないかというのが、全体から受けた印象である。

 第2のトピックスは、「職場における安全」で西ドイツとカナダから発表が行われた。職業リハビリテーションが障害をもつ人々の職業自立のためのサービスだけにとどまらず、職場における安全対策、健康管理の指導等、障害を予防するための活動にまで広がってきているようである。3日目に見学したオンタリオ労働災害補償委員会のリハビリテーション・センターでも、職場における安全のひとつとして、脊椎の損傷をいかに防ぐかといったフィルム、スライドを作成しており、各工場の委員会がこれらの上映や実演を職場の労働者に対して提供するプログラムが重視されていた。

 「雇用における統合達成のための諸対策」のトピックスでは、スウェーデン、フィリピンおよびインドネシアから発言があり、スウェーデンでの取り組みが特に注目された。すなわち、スウェーデンでは、雇用主、労働組合および雇用サービス機関(行政)の三者から成る調整グループが現在5,000作られており、ここで個々の障害者に合わせて作業方法や作業環境を調整したり、必要な治工具、設備を提供したり、必要な補助者をつけるなど、障害者が一般企業で働けるための諸対策を検討し、解決案を勧告しているという。三者の合意に達した解決案の実行に必要な諸経費は国から補助金が出ることになっている。さらに、このグループは、雇用主や一般労働者の障害者に対する否定的な態度を是正するためのキャンペーンや、障害者の解雇防止などの役割ももっており、深刻な失業情勢の中で、障害者の雇用の場を確保するのに大いに効果を挙げていることが指摘された。

 さらに、準保護雇用制度も一般雇用への統合という意味ですぐれていると思われた。これは一般的で働く生産性の低い人に対して、国が賃金補てんをする制度で、いわゆる保護工場を新たに作るよりも経済的に少ない金額で可能であり、国にとっても、雇用主にとっても、障害者にとっても有利な制度といわれ、わが国における重度障害者対策を考える上でも参考になるもののひとつであろう。

 フィリピンからは、障害者リハビリテーション協会その他の機関が中心になって企業の協力により障害者の職業訓練を行い、一般雇用への就職に効果を挙げているとの報告があった。この訓練は協力企業の製品を生産する中でのオン・ザ・ジョブ・トレーニング方式で行われ、IE(Industrial Engineering)の技術により生産工程を合理化し、障害者に合わせてポストを創出するといった研究的活動も行われている。また、一般市民や雇用主に対して、障害者が働けることを示すデモンストレーションの場として、あらゆる媒体を用いて公報活動が行われているという。

 第4、第5のトピックスは、特に重度の障害者の問題といえる。すなわち、「収容施設からの脱出」および「発展途上国における保護雇用」で、前者ではイスラエルとアメリカが、後者ではバハマ、フィンランドおよびホンコンがそれぞれ発表を行った。この中で特に注目されたのは、アメリカの自立生活が営めるようにするための総合的援助である。これは、職業自立の困難な重度の障害者で、施設や病院に収容されていた人々が、コミュニティに戻り、自立生活ができるよう、住宅、家事、家計、交通、介助者の管理、法的権利等の指導、訓練、相談等を行うものである。介助者を必要とする重度の障害者が対象であるが、介助者の募集、採用、訓練、解雇を自らの責任で行い、その経費は一定額までは州の医療扶助から還元されるという。現在、10州、約90のセンターでこの活動が展開されており、収容施設からの脱出、さらには職業的自立にまで効果を挙げているという。

 以上、職業セミナーの概略を述べたが、全体を通して感じられたことは、障害者の職業リハビリテーションあるいは雇用対策は各国の情勢に合わせて検討されるべきであること、そしてその中心になるのは障害者自身であり、障害者自身の活動運動を跳躍台にして発展していくべきではないかということであった。

*雇用促進事業団職業研究所第2研究部第2研究室長


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1980年12月(第35号)10頁~11頁

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