〈職業〉 リハビリテーション・クライエントの職業評価と訓練成果及び雇用との関係

〈職業〉

リハビリテーション・クライエントの職業評価と訓練成果及び雇用との関係

The Relationship of Rehabilitation Client vocational Appraisal to training Outcome and Employment

Daniel W.Cook,Ph.D.*

Jeff B.Brookings,Ph.D.**

 この研究は、ある総合リハビリテーション・センターに登録された職業リハビリテーション・クライエントの例における、作業評価勧告とクライエントの訓練成果との関係を調べたものである。人口統計学、心理学、及び職業についての抜枠資料を分析した結果、評価勧告の型と、センターの訓練プログラム修了との間には何の関係も認められなかった。しかし、センターの訓練プログラム修了はリハビリテーション終結ステイタス26(成功)とは明白な関連があると認められた。訓練修了後に就職したクライエントについては、受けた職業訓練の内容と、その終結直後の就職内容と一致したものはわずか23%であった。今回の調査結果は以前の研究を裏付けるもので、訓練継続期間の予測と、訓練後の雇用の予測とは別問題であることを示した。評価方法の改善についても、いくつかの考察を行った。

 職業リハビリテーション・モデルの目的は、職業復帰に関する診断と治療であり、これらの目的は総合リハビリテーション・センターに具現されている。センターは医学的及び心理・社会的治療によって、リハビリテーション・クライエントが効果的に機能回復できるように計画されている(Spreizer,1975)。職業リハビリテーション・センターにおいては、リハビリテーションの専門家グループによるチーム指導が行われているが、これはチームの力を結集させた指導がリハビリテーションの過程をより促進させるという考えに基づいている。リハビリテーション・チームの構成員である作業評価の専門家は、就業能力の正確な評価に必要な職業上及び心理測定上のデータを集めて分析する責任を負う。リハビリテーションにおいて就業能力を評価することの重要性は十分に認識されている。(Gellman,1968;Neff,1966)。クライエントの有する就業能力を最大限に引き出し、又、機関の資源を公正に割当るためには、評価過程が非常に重要となることは自明である。しかし、作業評価の過程と、クライエントの成果との関連についての研究が欠如していることが指摘されている(Barad、1972;Spergel,1970)。

 作業評価者による就業能力の評価の有効性について調査した数少ない研究のほとんどすべてが、作業評価者の勧告とクライエントの成果との間の好ましい関連性を認めている。例えばハンデルスマンとウルツ(Handelsman, Wurtz;1971)の報告によれば、評価者は精神薄弱のクライエントのグループの「失敗」を間違いなく予測することができたし、ローゼンバーグとアスデイン(Rosenberg, Usdane,1963)は評価者によるクライエントの成果の予測が85%正確であったことを見い出した。クック(Cook,1978)は大規模な総合リハビリテーション・センターの職員による作業評価勧告の有効性を分析した。クックの研究(1978)は、1974年中にセンターの指導を受けた無作為抽出の100名のクライエントについて、出された作業評価勧告の型、センターでの成果、及び雇用の面から分析を行ったものである。その研究においては、センターでの成果と勧告の型との間には有意の関連性は認められなかった。しかし、センターの訓練プログラムを修了することと、その後の雇用との間には明白な関連性を見い出した。

 この研究の目的は、前のクックの研究(1978)を部分的には反復し、又それを敷えんすることである。この研究は特に次のような評価項目を考察している―センター訓練を目的とする評価ユニット勧告とセンター訓練成果との間にどんな関係があるか、訓練修了後の就職についてクライエントはどんな期待を抱いているか、希望する職業と受ける訓練内容と実際の就職内容とは一致するか、センターにおける職業訓練及びその成果と、リハビリテーション機関の事例終結ステイタスとの間に関連があるか、を分析調査し、こりらの調査結果と、クックの検査結果(1978)とを比較する。

方法

 調査したリハビリテーション・センターは田園地域に位置し、47の建物の集合から成り立っている。このセンターは在住のクライエントにサービスを提供をしている。このセンターは設備の整った物療部門を持っているが、職業的及び心理・社会的リハビリテーションに重点を置いている。作業療法、リハビリテーション・カウンセリング、物理療法、作業調整、レクリエーション、及び社会奉仕のサービスが用意されている。職業訓練は38の職業分野にわたって提供されており、その中には機械工、電気修理、織物、印刷、サービス関連分野も含まれている。

 登録に際してすべてのクライエントは2週間の職業評価を受ける。この評価期間中に、クライエントは広範囲能力テスト(Wide Range Ability Test)のような標準心理測定法を終了し、又、健康診断も受ける。作業評価者は、センターの職員が開発した多様な作業サンプルをクライエントが行うのを観察して職業診断を下すが、これは本質的には主観的なものである。その評価に従って、クライエントは38の職業訓練分野のどれかに直接登録されるか、あるいは更に長期間の評価(別の訓練分野の適性試験)を受けるか、または作業調整訓練を受けるか、あるいはセンターから放免されるかの配置勧告が行われるのである。

 〔データの取得〕

 センターおよび職業リハビリテーション機関の記録により、評価ユニット勧告の型、受けた訓練の型、訓練の成果、機関のリハビリテーション終結状況、心理学上の(つまりWRAT、B式知能指数)および基礎的な人口統計学上の情報が得られた。それに加えて、クライエントは慣例の心理学テストのあい間に、最近就いていた三つの職業の種類、週給、今後の希望の職業、希望職業につけるか否かの見込み(機会なしを0とし、就職できるを100とし、11段階に分けて)を質問表に記入させられた。それにより、希望職業(例えば溶接工)と受ける職業訓練(つまり溶接)とを一致させることは可能であった。

〔サンプル〕

 21か月間(1977年1月から1978年10月)に245名のクライエントが、記入した質問票を残してセンターを退所していった。このサンプルは、65%が男性、73%が独身、46%が12学年あるいはそれ以上の学歴を有し、61%が身体上の障害をもち、39%が行動上の障害を有していた。B式知能指数の平均は97で(67から120にわたる)、広範囲能力テスト(WRAT)の平均は9.8年生あるいはそれと同時の水準(4.6年生から18.3年生にわたる)で、平均年齢は28歳(16歳から62歳にわたる)であった。センター登録以前にパートタイムの職にもついていなかった者はわずか9%であった。50%の人々が3ないしそれ以上の職についたことがあった。サンプルの半分は、どの職にも1年半以内しか就いていなかった。

〔分析〕

 この研究では、センターのクライエントをその成果によって三つの型に分けた。センターの記録から、クライエントの成果がどうであったか知ることができたが、それは―プログラム修了者(職業訓練プログラムを完了したクライエント)、自発的中退社(自分の意志でセンターを去った者)、及び就職のための中退者と退所処分者(センターに不適当、あるいは規律上の理由から退所させられた者)である。リハビリテーション機関の終結状況(つまり「26」あるいは「26」以外の終結)および終結時における賃金は政府のR-300のファイルから入手することができた。評価ユニット勧告の型、センターの成果、および終結ステイタスとの間の関係は分割表の分析により調査した。年齢、知能指数、教育等の平均差を、異なる評価勧告を受けた人々および異なる型の成果に分類された人々につき、tテストを用いて求めた。これらのデータは非常に広範にわたるので、関係のある統計の概要についてのみ記する2)

結果

〔評価勧告及びセンター成果〕

 作業評価を受けた245名のクライエントのうち、81名(33%)は直ちに訓練分野に配属され、138名(56%)は長期間の評価へ、19名(8%)は作業調整へ、又、7名(3%)が退所を勧告された。評価勧告に続き、センターでは実際の課題が各クライエントに割当てられた。センターの課題を与えられた233名のうち、勧告と異なる課題を与えられたのはわずか4名であった。センターの記録によれば、これらのクライエントの91名がプログラムを修了し、96名が自発的に中退し、15名が就職のために中退し、43名がセンターから退所させられた。

 評価勧告の有効性については、出された勧告の型と、観察されたセンターの成果の種類との比較によって分析された。例えば、直ちに訓練にまわされたクライエントは、恐らくすぐに訓練を受けるに必要な心構えと関心を持っており、作業調整のような矯正処置は不必要であり、それ故に訓練プログラムを修了する者が一番多いことが予測される。直ちに職業訓練に行くよう勧告されたクライエントのうち約半数(44%)が訓練プログラムを修了し、長期評価を勧告された者の35%、作業調整を勧告された者の37%が訓練プログラムを修了した。出された勧告の型とセンターでの成果との間には有意の関連性は認められなかったといえる。

 この人々をセンターでの成果によって四つのグループに分けてみても、その年齢、教育、たずさわった職の数、入所以前の職の持続期間、配偶者の有無、損傷の程度、障害の種類、B式知能指数、広範囲能力テスト(WRAT)の指数に有意の差異は認められなかった。センターのプログラム修了者は、入所以前の収入が週給50ドル以下だった者が一番多い(X(3)=36.73,…01)。クライエントの将来の雇用に対する希望の相違についてこれらのグループの平均値を比較すると、就職が決まって中退した者は、自発的中退者よりも有意の高い期待をいだいていることが分かった。(雇用の「機会」に対しての平均期待度83%対70%、t(109)=2.05、P.05)。訓練後の希望職業と実際受けた訓練の一致はセンター成果と関連があり(X(3)=9.67、P.05)、一致の割合の最高は訓練修了者(46%)と就職のための中退者(47%)にあった。

〔リハビリテーション・センターの成果と雇用〕

 リハビリテーションの過程において、職業訓練プログラムの修了は価値はあるが、中間目標でしかない。職業リハビリテーション・プログラムにおいては、クライエントの最終的な成功度を測るのは就職である。このリハビリテーション・センターのサービスを受けた245名のクライエントのうち、最後の1名がセンターを退所してから5か月たつまでに、105名が政府のリハビリテーション機関によって終結とされた。人口統計学上の変数では、継続ケースと、終結ケースとの間に有意な違いが認められないし、センターの成果からも違いは認められない。しかし、損傷の程度が非常にひどい場合は、継続ケースとなることが多い(X(1)=11.80,P.001)。

 政府のリハビリテーション機関の記録によると、105の終結ケースの75%が回復、つまりステイタス26の終結と認められた。これらリハビリテーション終結者のうちの86%は、一般と同等に就職できる状況にあった。表1はセンターの成果の型によって分類した、リハビリテーションの修了、あるいは未修了のクライエントの数及び割合を示す。センターの訓練プログラムを修了すること(もちろん、就職のために中退することも含めて)と、政府機関によるリハビリテーション修了との間には有意かつ明白な関係があることが認められた(X(3)=8.71, P.03)。センターのプログラム修了者の週給(X=$113)は自発的中退者の週給(X=$73)より有意に高い(t(59.1)=2.41,P.01)。又、それは、センターを放免された者の週給(Z=$76)に比べても有意に高い(t(46)=2.45,P.01)。他のグループとの週給の比較には有意性は見られなかった。注目すべきことには、クライエントの受けた職業訓練の型と、実際の就職口との一致があったのはわずかに23%であった。これは訓練と職業とをコードで分類した「職業タイトル便覧」の最初の2桁で比較したものである。

表1 終結ステイタス及び、センター成果によるクライエントの分類     センター成果(数=105)

リハビリテーション機関の終結システム

修了者

自発的中退者

就職による中退者

中退処分者

総数

回復した者

32(42%)

27(34%)

9(11%)

11(14%)

79(100%)

回復しない者

4(15%)

16(52%)

1(4%)

5(19%)

26(100%)

〔1974年と1977―1978年のサンプルの比較〕

 統計上の比較を行ったところを要約すると、クック(1978)の報告をした1974年のサンプル(N=100)と、今回のサンプル(N=245)との間には、年齢、性別、配偶者の有無、以前の職歴、障害の型の点では有意的相違はなかった。しかし今回のサンプルの方が、B式知能指数(t(374)=2.55, P.01)及び職字指数(reading scores)(t(384)=6.11,P.01)において非常に高く、又、学歴も高かった(X(1)=14.03, P.01)。サンプル抽出に何らかのふれは存在するであろうが、しかし、この二つのサンプルの能力の変数にこのような差異があることは、これらが二つの異なった母集団を代表しているからかもしれない。

 今回の研究と同様にクック(1978)は、前回にも出された勧告の型と、センター成果との間に有意的関連性を見い出さなかった。しかし、前回の研究においては、長期評価の勧告は予測の点からみると最も効果のある勧告であったといえる。というのは、この勧告を受けた者の38%がセンターのプログラムを修了したが、他方、直ちに訓練を受けるよう勧告された者の28%、作業調整の勧告を受けた者14%がプログラムを修了したに過ぎなかったからである。今回の研究においては、直ちに訓練の登録をするようにとの勧告の予測制度は一番高く、44%であったが、それでも五分五分の確率に近いというに過ぎなかった。今回のサンプルの、プログラム修了者49%、未修了者51%という率は、1974年のサンプル(X(1)=7.55.P.01)の修了者30%、未修了者70%という率とは有意に異なる。又、今回のリハビリテーション事例終結75%という率は、1974年のサンプル(X(1)=33.89、P.001)の34%に比べて有意に高い。最後に、1974年のサンプルにおいてセンターでの訓練と職業との一致が26.5%であったのは、今回の研究の23%に近似の数値である。

考察

 職業の査定、クライエントの職業の潜在能力に関する情報の収集、分析、統合がリハビリテーション・カウンセラーの役割の大きな部分を占める。これらの活動の最終結果が、職業の目標に関する意思決定である。意思決定は予測に関係があり、予測が職業査定の目標であるとみなされる(Nadol-sky,1972,Sankovsky,1970)のであるが、この意思決定の過程の有効性、能率を確かめようとする研究はほとんどされていない。

 この研究においては、訓練の修了及び雇用に関して、訓練勧告の有効性を留意することによって、職業査定の過程を評価した。訓練に適さない、あるいは規律上の問題から中退させられた者、及び雇用のために中退した者を除いて、この研究期間中に登録した者の49%が職業訓練プログラムを修了した。理論の上からは、訓練不可能として中退させられた者及び就職が決まって訓練をやめた者以外は全員が訓練を修了すると期待されよう。しかし、実際には、訓練の場に受け入れられた人の全部が訓練を終わりまでやりとげることはないであろう。この研究における49%の修了率は、クック(1978,年)の報告する30%、又、他の類似の総合リハビリテーション・センターについての66%(Perlman & Hylbert,1969)および40%(Tseng, 1972)の修了率と比肩しうる。

 特に重要な点は、訓練勧告の型と訓練成果には関連がないが、訓練プログラムの修了と雇用及び雇用の質には関連があり、又、受けた訓練の型と獲得した職の型とは一致しないことが、どの研究においても繰り返し明らかにされたことである。出された勧告は、表面上は価値がありと思われるものなので、勧告の型と、センター成果との間に一致が見られないことには当惑させられる。例えば、直ちに訓練に回された者は、長期の評価へと回された者よりも有意に能力が高く、又後者も、作業調整に回された者より有意に高度の能力を有していたからである。又、センター成果によって分けた四つのグループ間には目立った違いはほとんどなかった。訓練の勧告の型、あるいは受けた訓練さえもが、それに続く就職に対してほとんど影響がないように見える。むしろセンター在所期間が就職、特に就職の質を決める最も重要な決定要因であった。

 ゲルマン(1968)はこれらの調査結果についての説明を試み、職業評価は少なくとも訓練内容と就職可能性の二つに対応した全般的な予測に到達すべきであると指摘した。ハレンベックとキャンベル(Hallenbeck & Campbell,1175)は、作業評価者は就職できる者とできない者を極めて正確に区別することができるが、訓練期間の予測はかなり不正確であることをデータによって示した。従って、就業能力を評価する際には、訓練と就職の同質異形の関係を排除し、センター修了者の失業率などの外的要因の重要性を認め、全般的な予測の分類から個々の分類へ移行するの現実に合うと考えるのが妥当であろう。職業の査定にあたり、プログラム修了者、自発的中退者、就職による中退者、訓練上の問題のある者を予測して分類すれば、この研究対象としたセンターでの職業の診断を改善することができるかもしれない。ゲルマン(1968)は四つの予測要因の型を提起したが、それは、対処する態度、訓練の受容力、作業パターンの変更能力、就職口の型であり、これはクライエントを異なった分類方法で分けることに使えるであろう。ここに示した結果によれば、少なくともこのリハビリテーション・センターでは、登録時における、入所前の低い給料や、雇用に対する期待などの要素も、分類上の問題を解決するのに役立つであろう。一度分類しておけば、例えば、自発的退所者になる可能性の者には訓練の早い時期に仕事を見つけたり、仕事を維持する術を教えたりなどの、特別のプログラムを適用することができよう。

結論―ある総合リハビリテーション・センターにおける職業診断では、センター勧告とセンター成果を一致させる点で五分五分の確率以下の予測しか行い得ず、職業訓練の型と就職口との一致の予測ではわずか23%の一致が見られたに過ぎなかった。有効な予測が得られなかったのは、センターでの個々人に適したきめの細かい対応が欠如していたことがその理由の一つとしてあげられよう。その結果誤った予測要因に注意が払われ、予測と異なる成果を明記することには注意が払われなかった。

注1)この研究は、部分的には、Rehabilitation Services Administration Office of Human Development及び Department of Health, Education & Welfareの調査及び訓練センターの補助金(16―P―56812,RT―13)に支えられた。

注2)未加工データの図表希望者はDaniel W. Cookに連絡されたい。

University of Arkansas,Fayetteville,Arkansas,72701

(ミネルバァ翻訳グループ)

参考文献 略

*アーカンソー大学リハビリテーション教育准教授、アーカンソー・リハビリテーション研究訓練センター主任研究員
**元アーカンソー・リハビリテーション研究訓練センター研究助手、現ウィッテンバーグ大学心理学助教授


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1980年12月(第35号)28頁~33頁

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