〈教育〉 二分脊椎児の教育措置

〈教育〉

二分脊椎児の教育措置

山田欣徳

Ⅰ はじめに

 二分脊椎(spina bifida)児は、胎生初期に何らかの原因によって脊椎が形成不全に陥り、左右に二分したままにとどまったもので、運動障害、拘縮と変形、知覚障害、脳水腫、膀胱・直腸障害を呈することがある。昭和51年度の肢体不自由児施設の全国調査では、二分脊椎児の出現率は、脳性マヒ、ペルテス病、先天性股関節脱臼に次いで、第4位であった。

 このような障害を有する二分脊椎児のわが国における教育措置は、原則として肢体不自由養護学校、軽度な者の場合は特殊学級、重度な者については、訪問教育が考慮されている。

 しかし、その教育措置が適正か否か、普通学級を二分脊椎児の教育の場として想定しうるか否かについては、いまだ十分な論議がなされていない。

 本稿の目的は、Lauder,C.E.et al.(1979)の調査研究、ヘアストン判例及び現行法制を概観しながら、米国における二分脊椎児の教育措置の実態と理念を明らかにすること、並びにわが国の二分脊椎児の教育措置を検討する際の資料を提供することにある。

Ⅱ Lauder,C.E.et al.(1979)の調査研究

Lauder,C.E.et al.は、学区の教育行政者、保護者、教師を対象に、ニューヨーク州ロチェスターにおける二分脊椎児の教育措置の実態調査(1974―75年度)を実施した。その結果、表1に示したように、普通学級に通学する者が24名(63%)、特殊学級が5名(13%)、特殊学校7名(18%)、在宅指導2名(5%)であった。

表1 ニューヨーク州ロチェスターにおける二分脊椎児の教育措置

教育措置

措置数

率(%)

1.普通学校,普通学級**,居住の学区

13

34

2.普通学校,普通学級,他学区

2

5

3.普通学校,普通学級,リソース方式

8

21

4.普通学校,特殊学級,パート・タイム

3

8

5.普通学校,特殊学級,フル・タイム

2

5

6.普通学校,普通学級,2時間/日

1

3

7.在宅指導

2

5

8.通学制特殊学校

6

16

9.寄宿制学校

1

3

合計

38

100

 *原語は、regular school
**原語は、regular class

 また、居住している学区内で教育を受けている者が、27名(71%)おり、家庭に近接する教育の場に措置する傾向があった。

 この38名の二分脊椎児の障害の程度は、それぞれ表2の通りである。学習障害に比べて、運動、膀胱、直腸障害が顕著であり、特に膀胱障害は全員に見られた。

表2 障害の程度
障害 率(%) 中度 率(%) 重度 率(%)
学習

27

71

8

21

3

8

運動

2

5

12

3

24

63

膀胱

0

0

13

34

25

66

直腸

4

10

20

53

14

37

ここで、重度(severe)とは、IQ50以下、複雑な補装具または車イスを必要とし、2時間以内の排尿、持続的な排便のある場合をいう。 

 そして、このような障害の状況に応じて、施設・設備、指導、介助等のサービスの実態は、表3に示されている。

表3 サービスの実施状況

サービス

児童・生徒数

率(%)

通学機関

32

84

排泄

30

79

バス介助

29

76

物理的な条件整備

24

63

補習指導

22

58

理学療法

19

50

カウンセリング

11

29

言語治療

5

13

 以上をまとめると、ニューヨーク州ロチェスターの二分脊椎児は、障害の程度に応じて、普通学級を主流とした多様な教育措置を受けており、それを支持するサービス、すなわち受け入れ態勢をかなり保障されていると言える。

Ⅲ ヘアストン判例

 トリナ・エヴェット・ヘアストンは、二分脊椎児で、排泄の障害と肢体不自由を有していたが、知的に正常であった。彼女は、1974―75年度後期に、公立学校(Gary Grade School)の普通学級に通っていたが、1975年9月、担任教師の電話で通学を拒否された。その後学校当局は、母親の毎日の付き添いを条件に、通学を許可した。ところが母親は、(1)トリナのほかに養育すべき子がいる、(2)家業の手伝いをしなければならない、(3)寝たきり老人の世話がある、(4)自動車免許がない、という理由で、トリナに付き添うことが不可能であった。

 父親が郡(McDdowell County)の教育長と会見し、普通学級への統合を要請したが、特殊学級に通うか、在宅指導を受けるように指示された。

 原告ヘアストン夫妻とその子トリナは、被告郡教育長等に対し、トリナ及びトリナと同じ境遇にある二分脊椎児の普通学級への統合拒否は、連邦政府の財政援助を受けている事業における障害者差別を禁止したリハビリテーション法第504条違反であり、このような排除を告知ないし手続き上の保護を配慮しないで行うのは、連邦憲法修正第14条違反であるという理由で、連邦地方裁判所に提訴した。

 これに対し、被告は、(1)付き添いを条件とした普通学級、(2)特殊学級、(3)在宅指導のいずれかを選択するように指示しており、教育権を否定しているわけではないと反論した。

 1976年1月、ホール判事は、「教育課程の大きな目標は、普通学級で生じる社会化の過程である…それゆえ、子どもは各々できるだけ仲間とともに教育を受けることが不可欠である」と認識して、無条件でトリナの統合教育を認容した。そらに、書面による告知及び聴聞の機会等の手続きを保障しないで原告を普通学級から排除した被告の行為は、連邦憲法修正第14条の適正手続き条項違反であるという判決を下した。

Ⅳ 統合教育の法的根拠

 1970年代に、障害児に関する重要な連邦法が二つ制定された。それらは、ヘアストン判例の法的根拠となった1973年のリハビリテーション法第504条(以下第504条と略)と1975年の全障害児教育法である。

 第504条は、「米国の適格障害者は何人も、連邦政府の財政援助を受けるいかなる事業においても、単にその障害の故をもって、参加を除外され恩恵を拒否され、差別されてはならない」という漠然とした条文であったが、1977年に実施された執行規則では、連邦政府の財政援助を受けている教育機関は、「各適格障害者を、最大限、障害者に応じて、普通教育の場で、健常者とともに教育しなければならない」と、統合教育の在り方が明確に規定された。

 また、全障害児教育法・同執行規則においても、「障害児は、最大限適切に、健常児とともに教育を受けること。特殊学級、分離したスクーリング、または普通教育の場から障害児を除外するのは、障害の性質・重度性の故に、普通学級の教育を十分に遂行しえない場合に限る」と、明記されている。

 これらは、単に二分脊椎児に限らず、一般に障害児の統合教育の正当性を標榜した法規として、重要な意義を有している。

Ⅴ おわりに

 二分脊椎児の多くが、普通学級における統合教育を受けているという実態が、調査によって明らかになり、連邦地方裁判所においてもその正当性が認容された。さらに、連邦法は、その理念を条文化した。

 このような米国の動向を他国の話題として感心することは容易であるが、わが国にも二分脊椎児が存在し、他国の二分脊椎児と同じ「適切な教育」要求を有している以上、看過すべきではない。

 1978年10月6日付けの文部省初等中等教育局長通達「教育上特別な取扱いを要する児童・生徒の教育措置について」に、肢体不自由者の教育措置として、通常の学級が掲げられている。今後、わが国でも、二分脊椎児の教育の場として、通常の学級を配慮するように切望する。

引用文献 略

*筑波大学心身障害学研究科大学院博士課程


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1980年12月(第35号)34頁~36頁

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