特集/専門職 専門職の協力体制

特集/専門職

専門職の協力体制

芳賀敏彦 *

 はじめに

 私に与えられましたテーマは専門職特集の中の専門職の協力体制です。この問題は実は多くの重大な問題を含んでいます。その第1はこのテーマは本雑誌の題名が示し、又その発行団体である日本障害者リハビリテーション協会が示すようにリハビリテーションの中におけるものであること、第2は一体ここでいう専門職とはどういう意味であるかということ、具体的に特定のものを指し示すのか、若しそれならそれは何と何なのか、具体的に指定し得る職業なのかどうか、一体それだけでリハビリテーションが出来るのかどうか、このように専門職をとりまく問題がある。もう1つは協力体制という一見簡単な言葉であるが、これも何を目的にどの場所でどのようにして、そしてその効果をふまえての方法の確立まで話は進まねばならないだろう。このようにしてここで述べなければならないのは単なる専門職の協力体制というのでなく、この背景にある1つ1つの問題を整理して行かねばならないのでこの問題をふまえてまずここでいうリハビリテーションとは何かをしっかり認識しておかないと話が進まない。次に専門職とは何かも明確に決め、その職種と業務内容、責任について述べる。それから協力体制ということについてはどのレベルにおいてどうするのかということについて述べ、最後にこの3つの問題を統合して本誌の特集にお役に立てたいと思う。

 リハビリテーションについて

 本誌の読者にいまさらリハビリテーションの何ものかを書くのは失礼かも知れないが案外紺屋の白袴ということもあるのでこのことにまずふれておく。リハビリテーションの前に、または後に何もつかない時にはこの言葉はその歴史が示すように何も医学とか医療のように個々の人間の身体、精神状態に直接連なりあることに用いられるものでない。個人の場合はむしろ社会的な地位であるとか人権の問題が中心になる。貴族社会からなんらかの原因で追放されていた者が元の社会に帰属し特権を得ることもリハビリテーションといわれ、これについて有名な話ではジャンヌダークが罪のため火炙の刑にあったが死後100年余たって罪が晴れて彼女の正当性が認められたのをジャンヌダークのリハビリテーションといわれている。このような個人にかかわるものでなくても例えば米中関係が正常化した時点の米大統領のメッセージの中に中国の経済復興を1つの目標にしていたが、この復興にあたるのにリハビリテーションという言葉を用いていた。このような一般的使用はそれとしても医学に用いる時においてもこの言葉の持つ意味は深く、深いが故にあいまいさと混乱がある。このことはWHOの障害の予防とリハビリテーションの専門技術委員会の報告(Reports on Specific Technical Matters──Disability Prevention and Rehabilitation Twenty-Ninth World Health Assembly, Provisional agenda item 2.5,16 28 April 1976)をみてもまず冒頭に impairment, handicap, disability, prevention と共にリハビリテーションという用語はしばしば混乱して用いられていることを指摘している。我が国においてもどれだけ正確に理解されているかそれは一般社会においてもまた医学や社会学の範疇においてもしかりである。かつてリハビリテーションが華やかに出発した時はゴルフの帰りに一風呂あびてマッサージを受ける所もリハビリテーションの名を付けていたし、これ程非常識でないにしても私の属しているリハビリテーション学院もこれまたはなはだ理解に苦しむ言葉で、もし直訳して英文で School of Rehabilitation とすると外人の誰一人としてこれが理学療法士(Physical Therapist, Physiotherapist 以後PTと略記)や作業療法士(Occupational Therapist 以後OTと略記)養成の学校とは思わない。外人からよく聞かれるのは貴方の学校はどんな障害児(者)のための学校ですかという質問である。

 さてこのような混乱を少しでもさけるために私なりに1つの整理をしてみたいと思う。そうでないとそこにかかわる人々はあまりに多いので次の専門職を規定するのに困難を感じるからである。さて医療、医学、または心身に障害を持つ人を対象とした社会学(含職業的)なものを含め、更に初めに述べた個人の人権の問題も含めるとこれは何も前後につけないリハビリテーションでよいと思う。ただしWHOの定義では前後に何もつけないリハビリテーションの定義を disability(これを何の disability とするかはむずかしいが)に応用するものに限って用いている。さて私共はこのリハビリテーションの中からその原因が身体的または精神的なものに関係しているものを“医学的リハビリテーション”としたい。もちろんこの段階でWHOは医学、社会、職業と分けているがこれはWHOのいうリハビリテーションが私の示した医学的リハビリテーションに近いためである。さて医学的リハビリテーションはそのアプローチする方法として医学的なもの(病気や障害の種類によってリハビリテーション医学ⅠとⅡに分けてみた)と身体的または精神的原因を持つ者に対する社会的または職業的リハビリテーションがこれと平列して行われるのは当然である。さてここでリハビリテーション医学をわざわざⅠとⅡにその対象別に分けたことについて言及したい。我が国のリハビリテーション医学はまだ若く、やっと10数年の歴史しかない。しかしこの短い間にあってもその進歩は著しい。しかし日本の他の医療分野と同様になかなかその専門性を確立することは困難であった。しかし昭和56年度より我々はまずリハビリテーションの専門医制をスタートさせた。米国における Physiatrist や欧州におけるいわゆるリハビリテーション専門医のことである。この制度設立にあたってその主な作業はどのような疾患、障害に共通してその知識と技術と学理を持つ専門医(スペシャリスト)をどう資格付けるかであった。何年間かの討議の末表1の6つの疾患、障害にまんべんなくリハビリ専門医としての素養を持つ者とした。この中には感覚器の障害、精神障害は含まれず、また呼吸、循環に関しては望ましいが必修とはしていない。そしてこれをリハビリテーション医学Ⅰの分野としてみた。それではこれら以外の他の障害に対してはリハビリテーションの医学の立場から専門性はないのかということになるが、これはそうではなく例えば聴力、言語関係のリハビリテーション医師として積極的にアプローチすることも必要なのでこれらはひとまとめにして一応リハビリテーション医学Ⅱとし、ここかまたはリハビリテーション医学Ⅰの個々の分野のリハビリテーションに興味を持ち精通している医師もまた一定の条件下で認定医(expert)と呼ぶことにした。ただし精神障害については色々な事情で除外した。

表1 専門医が全部カバーすべき疾患、障害

1) 脳卒中、脳外傷、その他脳疾患

2) 脊髄損傷その他の脊髄疾患
3) リュウマチを含む骨、関節疾患
4) 脳性マヒを含む小児疾患
5) 神経、筋疾患
6) 切断
7) (呼吸器疾患)
8) (循環器疾患)

 さて社会的リハビリテーションはWHOのいうごとく家庭、社会、職場にかかわるものと同じであり、また職業的リハビリテーションは就業に関するすべてのものを含むが、我が国は教育国であり、また本年度より完全就学(義務教育免除の制度の撤廃)があるので義務教育期間は当然のこと、更に後期中等教育から高等教育まで教育に関するリハビリテーションは大切である。

 以上で大体いくらかの整理が出来たと思うが、これを表2に示しておいた。

表2
リハビリテーション 個人の人権の不利に関するもの、人間個人に関係ないもの (広く経済のリハビリ等)
1)

医学的リハビリテーション

リハビリテーション医学Ⅰ 学会認定の専門医の取り扱うもの、主として運動器系障害 (脳卒中等の片マヒ、リュウマチを主とする関節障害、神経・筋疾患、切断、脳性マヒ(小児)、脊髄損傷等による対マヒ)
リハビリテーション医学Ⅱ 精神障害、感覚障害、内臓障害 (呼吸・循環排泄―主として腎―)
社会的リハビリテーション
職業的リハビリテーション (教育的リハビリテーション)
2)リハビリテーション 医学的リハビリテーション 身体障害と精神障害は同じ思想で平等に行われるべきである
社会的リハビリテーション 家庭、社会、職場への適合
職業的リハビリテーション 就業に関する諸問題

1) 直接医療にある対象をいうのでなく、その原因が身体的・精神的なものにあるもの全部を含む
2) WHO (Disabilityに応用とある)

 さてこのようにリハビリテーションにもいくつかの分類が出来るが次のステップに進む時、この中でどれを取るかはWHOでいえばリハビリテーションを私流にいえば医学的リハビリテーションを(リハビリテーション医学の持つ狭い範囲でないことを再確認したい)対象としたものとした。

 専門職について

 専門職といってもきわめて理解するのに困難な言葉である。即ち一体専門職とは何を指すかである。これにはいくつかの考え方がある。一つはその職業そのものがその人の糧を得る主な職業であること、日本語的英語にプロ野球というのがある。外国では何も野球に限ったことではなくプロサッカーもあればプロバスケットもある。これは何も野球やサッカーやバスケットをやる人が専門職というのではなくその中でこれを行うことによって糧を得てるからこう呼ぶのである。同じ野球をやる人でも社会人野球や学生野球をやる人はプロとは呼ばれない。むしろ糧を得ることは禁止されているのである。これも1つの専門職の考え方である。もう1つは何か特別の免許があるためにその行為を行う資格を持たないと出来ない職業をいう時である。医師もそうであるし、学校の教師もそうであろう。しかしこの資格、免許とは何かということが問題になる。同じ免許でも運転免許を持ってるだけの人(この人でないと車を運転する資格はない)は専門職とはいわれないだろう。でも業務用の2種を持ってる人は専門職といわれるかもしれない。

 もう1つの考え方がある。それは免許や資格に制限され、またそれを行うことがその人の職業(糧を得るという意味で)であってもそのような人全部を専門職と呼ぶかどうかということである。ある職種が専門職といえるには一定の条件があるといわれている。これは社会学的に定義されたものであるが次の各条件を満たすものである。

 1)資格制度(免許制度)が明確であるもの。

 我が国においてはほとんど国が認定する身分を有すること。

 2)その専門職にかかわる学術または利益代表団体を持っていること、これは出来れば認定された、すなわち法人格を持った団体であること。

 3)この団体に属し常に社会に貢献すると共に専門職業人としての学理、技術の向上に努めること。

 このような条件にある職のみを専門職と呼ぶという考えもある。

 さてひるがえって医学的リハビリテーションの分野でこの事を考えてみると今の所きわめて限られた職種しか専門職といい切れない。例えば言語療法士は資格もない、義肢装具士もしかりである。しかし本論のテーマが協力体制ということであれば限られた少数の専門職だけについて論じても幅広い医学的リハビリテーションの展開に役立たないので我が国ではまだ免許制度なども確立していないが実際に医学的リハビリテーション分野で働いておられる職種を含めて話を進めたいと思う。

 さてこの論文をお引受けするにあたってこの特集号の他のところでどのような専門職について執筆されるのかをうかがったところリハビリテーション医学の範疇での職種が少ないのでどちらかというとそちらに重点を置きながら述べる。またこの論文を書くにあたって私が今から約15年前に看護婦関係の雑誌にこの問題を論じたがその時と今とあまり変わっていないのには一寸驚かされたが、一方そんなに多くの職種が次から次へと出てくるものでなく、その時取り上げた職種でも現在なお不完全なものもあるのでそれらを補い完全なものにするのが現在の問題点であろう。それから同じ職種でも医療の中(リハビリテーション医学Ⅰ、Ⅱ)のみでなく、社会、職業の両方に関係している職種も多いが私の立場として社会、職業面での専門職の事はそれこそ私の専門でもない分野もあるので他におゆずりしてどちらかというとリハビリテーション医学の中の専門職人に焦点をあてた。

 医師

 医師自身はまぎれもない専門職であるが、その中でリハビリテーション医学に直接連なっているのは先に述べたリハビリテーション専門医と認定医である。専門医(specialist)は先に述べた6つの対象分野のいずれにも精通していなければいけないし当然これらの分野の障害は他の分野の障害も巻き込んでいるのでその関連分野の中でリハビリテーションにかかわる部分についてはかなりの知識と技能を持っていなければならない。例えば脳卒中を取り上げても当然失語症の問題が起こるのでその方面の専門知識も必要であり、また、リスク因子等循環器疾患(動脈硬化、高血圧等)についての知識も必要であるし、脊損患者のリハビリテーションには泌尿科の知識がないと出来ない。しかしリハビリテーション医学専門医が取り扱うのは主として運動障害を中心とする臨床医学であることは間違いない。さてリハビリテーション医学は何も運動障害を対象とするにとどまるわけでない。そこでその他の分野でその分野でのリハビリテーションに深い知識と経験をもつ医師を認定医(expert)としている。精神障害についてであれば精神科医の中から出るであろうし、感覚器特に聴力、言語に対するリハビリテーションの認定医は耳鼻科医の中から出るであろうし、循環器特に心筋梗塞のリハビリテーションに造詣深い認定医は循環器専門医から出てくるし、慢性的な呼吸不全特に最近公害、老人医療で問題になっている慢性閉塞性肺疾患(肺気腫、喘息、慢性気管支炎等)のリハビリテーションは大切でこれには当然私ども呼吸器専門医が参画する。さて日本リハビリテーション医学会ではこの専門医、認定医の認定基準(臨床経験、研修、研究、試験、認定委員会等)がすでにスタートしている。ちなみに第1回の専門医、認定医を審査、試験する委員会が出来たがこれが我が国初めてのリハビリテーション専門医となるが今のところ18名にすぎない。

 看護婦

 看護婦もまた我が国においては助産婦、保健婦、準看護婦を含めて法的に確立した身分を持つ専門職である。問題はこの看護婦がリハビリテーション医学にどうかかわり、特別の専門看護婦となり得るかということである。正確には我が国においては助産婦、保健婦以外の専門看護婦制度はない。だからリハビリテーション医学分野においてもちゃんと認定されたいわゆるリハビリテーション看護婦はいないといってよい。しかしリハビリテーション病院、病棟の婦長はそれなりに勉学し、また講習会に出席しかなりまとまった知識と看護上の技術は持っている。しかし広い分野をすべてカバーしている人は少なく、多くは脳卒中とか脳性小児マヒとか脊損とか限られた分野の中にいる例が多い。いずれにしても看護婦は医師と共に医療にかかわるあらゆる分野に参画出来るので一見狭い専門制があるようにみえるがやや取り扱う内容があいまいになる。私が考えているリハビリテーションにかかわる看護婦に課せられている業務を表3に示す。

表3 リハビリテーション看護婦の業務
1) 患者の身体的機能の把握、基本的なものとしての関節可動域、筋力テストの程度、応用的なものとして日常生活動作 (ADL) の把握
2) 患者の精神的機能の把握、患者のリハビリテーションに対する意欲づけ (精神看護の応用)
3) 患者の社会的背景 (学歴、職歴) 及び患者家族に対する理解の把握
4) 必要看護、及び治療 (内科的、外科的、リハビリ医学的) を介助し関連専門職 (PT、OT、ST、AT、MSWその他) との連絡およびその効果の把握
5) 患者の将来に対する評価の把握 (直接現職復帰か、職業訓練が必要なのか)
6) 教育への参画 
 病棟看護婦、看護助手、看護学生に対する教育、患者自身及びその家族へのリハビリテーションの理解と協力の教育

 理学療法士

 理学療法士及び次に述べる作業療法士ともども我が国においては免許、業務内容の明確であり法人格の協会を持つ専門職である。そしてこの2つの職種は一般的にリハビリテーション医学にかかせない職種であることもよく知られている。しかし理学療法そのものはリハビリテーション医学の範疇だけに応用されるものではない。例えば心臓手術やショックその他いわゆるICU(Intensive Care Unit 集中治療室)中における業務もあるし、最近では Terminal Care(末期医療、死の臨床)といわれる分野でも主として疼みの対策に活躍する場がある。私がいいたいのは何もリハビリテーション病院や病棟だけが彼等の職場でないということである。また我が国においてこの制度が確立されてから15年が経過するがその内容は著しく進歩した。すなわち脳卒中を例にとっても機械的、運動力学的手技にとどまらず、固有受容器神経・筋促通法(PNF)とか Rood、 Brunstrome 法、 Tray から Bobath に至る複雑なものも行われ、また脳性小児マヒにおける Vojta 法のようにいずれにしても単純な技術的手法に習熟すればよいというものでなく、神経生理学に十分の理解を示さないと出来ないし、更に診断評価にしてもコンピューターによる歩行分析や Biofeedback 法などますます工学的なものにも習熟せねばならない。

 作業療法士

 理学療法と共にもう身分が確立して15年余が経過している。我が国において当初作業療法は精神科や慢性疾患(肺結核、らい等)における作業(農耕、園芸等)を通しての Divertional therapy または運動負荷としてのものから、法制定と共にこれに身体的障害の機械的、力学的アプローチが加わり完成されたものになった。しかし最近は理学療法と同じく神経生理学的背景を持った理論、手技が応用され、また日常生活動作の向上や前職業評価にも多くの工学的手法が用いられて来ている。また職場も単なるリハビリ病棟よりPTと同じく Terminal Care における精神的サポートにまた地域社会における老人の保健にも連なって幅広いものになっている。

 言語療法士

 我が国においてはまだ医療法上の身分はない。実は過去2か年にわたって言語療法の医療面における業務内容、必要度、教育につき関連4団体(日本耳鼻科学会、日本音声言語学会、日本リハビリテーション医学会、日本聴能言語士協会)が慎重協議し医療畑における身分法確立に努力し、厚生省はこれをふまえ身分法の調査検討会を持った。しかし法案作製の可能性を目前にして日本聴能言語士協会が意見を異にして検討中断のやむなきに至った。これは我が国の医療面の中で言語療法(治療)を遂行する上でまことに残念なことである。内容は簡単に言うと必要教育体系における見解の差であるが実はやはり業務の内容も強くかかわっている。言語療法はWHOの定義では“音声、言語、話しまた書く言葉の障害の研究、検査、評価、治療とこれに対応する補助具や治療手技の利用を含む”となっている。問題を提起した人々の考えは更に広範な米国でいう Speech Pathology または pathologist であり、その業務は Speech therapyを拡大したものであろう。いずれにしても臨床医学の場で行われる言語療法(士)が1日も早く認められることはこれを受ける障害者の立場からも必要であろう。また我が国においては言語療法の中に言語療法に必要な聴能の検査を含んでいるが聴能力の治療または補助器(補聴器等)の使用は明白でない。WHOはこのために Audiology(聴能学)を別にしており、これは“聴力障害の研究、検査、評価、治療を行い、また補聴具や治療手段も含む”としている。我が国においては今のところ耳鼻科医と法的免許のない聴能士協会のメンバーがあたっている。

 義肢装具士

 我が国においては長い歴史を持ちながらまだ正規の教育(身分に連なる)も行われていないし、免許もない。しかし今年ないしは来年度中にはなんとかなりそうである。これは1つには義肢や装具を実際製作すること(製作者)とそれを適合させること(適合士)とそれを実際に装着して歩行や動作を訓練する人(理学療法士、作業療法士)及び処方に主として責任持つ者(医師)との間の業務が一部重複したりして義肢装具士としての単独の職種をきめかねたのではないかと思う。この中で製作者に関しては労働省が認定している。この辺の関係は沢村の論文が表4の如くうまくまとめ、よく整理されているので借用してのせる。いずれにしても来年度より正規の(高卒3年)が国立身体障害者リハビリテーションセンターで始まろうとしているし卒業生が出るまでには身分法も出来るだろう。

表4
職 種
業 務
医師 義肢装具士(仮称)
(厚生省) (現行)
義肢・装具技能士 (労働省) PT
OT
障害の評価 ○ △    
義肢・装具の処方 ○ △    
採型・採寸   ◎ △    
モデル修正    
製 作①    
初期適合調整 ◎ △    
製 作②
(仕上げ)
   
最終適合判定 ○ △    
装着訓練 ○ △    

◎最も責任持つ職種 ○関与する職種
△義肢装具士が患者と直接接触する業務
(澤村誠司「義肢装具士の教育と展望」『総合リハビリ』9-5.1981より)

 この外臨床心理士(身分は明確でないが学会もあり障害者のリハビリテーションには是非必要な職種)、医療社会事業担当者 Medical Social Worker(MSW)、リハビリワーカー(RSW)、単に Case Worker 等々いろいろな呼び名がある。またPSWと精神障害を対象とする人達を別にしている時もある。いずれにしても社会的リハビリテーションにとどまらずリハビリテーション医学の中においてもその参画と業務は必要である。この職種もその活躍方面が多岐にわたるのでまだ資格制度(免許)は明確でない。この外職業的リハビリテーションの分野では職業指導員(Vocational Trainer)(作業療法の中で行われる前職業評価及びそのための訓練後現実の職業について障害者に教えるので単なる健常者への職業指導と異なりその障害に応じた訓練方法(訓練内容ではない)をせねばならない。また職業更生カウンセラー(Vocational Councelor)(職業更生の可能性の助長、開発、すなわち障害者が就業する時の各専門職の間の相互連絡、調整、職業能力の評価、雇用計画の立案そのアフターケアなどを含む一連の専門職で一部MSWや作業療法士と重複するところもある)、職業斡旋官(Disabled Resettlement Officer)(これは前述の職業カウンセラーの中にどれだけ入るかは各国の事情によるだろうが、我が国では公共安定所の中の身体障害者特別職業紹介官がこれにあたる)などの専門職がいる。これらの詳しい説明は別に行われる。

 教育も職業と並んで我が国では大切な専門職種である。盲、ろう、身体不自由児、精薄児等にそれぞれ専門の特殊教育科卒の教師がいるし、義務教育のみならずそれ以上の教育の場にも(高校)また高等教育(大学)には障害者専門の教師がいるかまた障害者が勉学出来る system が出来ている。

 先進国では教師の地域社会教育への参画が大で障害者の予防とリハビリへの教育に大いにあづかっている。

 この外特別に項を改めなかったが法的身分の確立している視能訓練士も専門分野を通してリハビリテーション医学に連なっているし、その他の医療専門職種(臨床検査技士、臨床放射線技士等)もどこかで障害者のリハビリテーションに連なっている。

 またスポーツ、音楽、絵画、遊技を通して専門的立場からまたボランティアとしまた一部専門職として(外国には音楽治療 Music Therapy)もかかわっていることは間違いない事実である。

 さてこれらリハビリテーションに直接、間接に連なる者の外にリハビリテーションを障害者が多くの訓練を受けて(当然専門職の参加を必要とする)社会へ復帰するというのとやや趣をことにし重度障害者でもそのままの姿で社会生活への参画をむねとするIL運動(Independent Living)が脱病院、脱施設運動を通し正常化(Normalization)を旗頭に進められている。本来は障害者側からの自立の運動で他の援助を行わないのが原則かも知れないが、最近はこの分野での専門職の養成が進められ、IL専門家といわれ、またILリハビリ専門職として再びリハビリに後戻りしながらの行き過ぎを取り、そこで必要な専門職の養成をはかっている。これには米国の Arkansas 大学の修士課程コースにIL Rehabilitation Specialist のためのものがある。内容を検討してみると多くは社会的、職業的リハビリに近くまた特殊教育を基盤にしているようにも思われ、ILが登場した趣旨にいくらかそぐわないような気もしないではない。

 さて今まで述べた多くの専門職種がどう協力するかが本論の主旨であるので次にそれについて述べる。

 協力体制

 障害者のリハビリテーションには多くの専門職がかかわっていることはお分りになったと思う。問題はどう協力してかかわるかである。しかしそれに移る前に少しもっと広い視野からこの問題をながめてみよう。

 1)国際レベル:先程からWHOのいろいろなステートメントを利用したが、WHOは例えば職業的リハビリテーションについてはその定義にはILO(International Labour Organization)の第38回 International Labour Conference の中の Recommendation No.99, Vocational Rehabilitation of the Disabled のを用いているし、児童の問題UNICEF(United Nations International Children's Emergency Fund 国連国際児童復興機関)も強く関係している。その他多くのリハビリテーションに関する国際学会もその開催には協力体制をとっている。

 2)国内レベル:行政面をみてもリハビリテーション医学に関しては厚生省の医務局が、社会的リハビリテーションに関しては同じ厚生省の社会局が関与しており、職業的リハビリテーションに関しては労働省がその責任を持ち、障害者の教育問題に関しては当然文部省が、またリハビリテーション医学の各分野で使用する機器、車椅子などの規格はJIS(日本工業規格)にのっとらねばならないがそうすると当然通産省がかかわってくるし、障害者の旅行や自動車免許などは警視庁、障害者用の列車、自動車そのものに関しては運輸省の管轄となろう。国のレベルにおいてもこのように多くの省庁、局にまたがっている。これらはお互いに協力し合うべきだがなかなか個々に分かれているとうまく行かないことがある。そこで例えば障害者年の問題などは総理府がまとめ役となっている。心身障害庁なども考えられなくもないが、今のところそれぞれの省庁の専門分野で個々に取りあつかっていても、そんなに不便はないようでこれは協力がとれている証拠であろう。また学会レベルにおいても先の言語療法士の問題など何もリハビリテーション医学会だけの問題とせず、関連各学会協力し問題の処理にあたっている。

 3)地方自治体レベル:国のレベルと同じく衛生局、民生局、または福祉局等とから始まり末端の市、町、村役場に到るまでお互いに関連を取り合って対処すべきでその間をつなげるものとして障害者協議会等がある。

 4)縦割の協力:リハビリテーション医療は小病院においてもまたは診療所においてさえ必要であり、そのすべてが先に述べた専門職全員をそなえているわけではない。必要に順じて中病院、大病院のリハビリテーション科(日本ではまだ正式な診療科名でなく、理学診療科となっている)との連絡、またもしあればリハビリテーション専門病院との連絡、移送を、また更に医療施設から社会的なリハビリ関係の施設へと地域社会の中における各個人のリハビリテーションを縦割でどう協力するのかネットワークは立てておかねばなるまい。このことは我が国では極めて不得意とするところでありこの間を調整する団体は少なく、各人がお互いに努力し合っているのでこの地域社会における協力は今後の問題である。

 5)施設内の横割の協力:同一職場内において1人の障害者をめぐっての協力体制は最も大切なもので障害者のリハビリテーションがうまく行くかどうかにかかっている。これにはまず次の事が大切である。

 1)お互いがお互いの職種の内容と関連をよく理解していること。

 2)リハビリテーション医療はチーム医療であって(チームに参加する専門職の数と種類は各障害者の種類と程度による)お互いの協力が必要であることを認識すること。

 3)それをスムースに行うには症例検討会(ケーススタディまたはカンファレンス)を開いてそこで十分お互いに連絡、調整、協力すること。

 4)まとめ役として信頼し得る人を置くこと、医療の場では医師がその責任をとること、社会、職業的なものでは学識、人格共に信頼されている人がなること。

 このようなことがうまく行っていれば協力体制は自からとれるものである。あくまで中心になっているのは専門職の人でなく障害をもった人であることを忘れてはならない。(図1)

図1

専門職の協力体制の図1

○印=我国において免許が国レベルで発行されているもの

 おわりに

 各項についてすこしくわしく述べて来たのでもう一度くり返してまとめにすることはしないで、もう1つの障害者の問題である予防について一言触れておわりにかえたい。WHOが国際障害者年に行う行事の1つに発展途上国の障害者の問題がある。それは2つの大きな部分からなっており1つはリハビリテーションであるがそれと同じ程度に障害の予防の問題を取り上げている。第1レベルは発生を少なくする努力で感染症の予防から交通事故の防止、子供の躾まで含まれている。第2レベルは何か起こった時それが障害へ発展しないか、最少にくい止める予防である。最新の早期治療やトラホームの早期治療による盲の予防などである。第3のレベルではたとえ障害が残ってもそのために能力不全(何も出来なくなる状態)にならないための予防で、例えば適切な訓練(理学・作業療法等)や、義肢装具の適切な使用などまた教育や社会、職業カウンセリングまで含んでいる。こうしてみるとリハビリテーションも障害の予防に役立っておりリハビリテーション医学の障害予防への協力体制もまた大きな意味を持っている。

文献 略

*国立療養所東京病院(呼吸器科医長)
付属リハビリテーション学院副学院長
WHO専門家諮問委員会委員(リハビリテーション)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1981年11月(第38号)2頁~10頁

menu