特集/専門職 準専門職の起用による重度障害者の自立生活援助

特集/専門職

準専門職の起用による重度障害者の自立生活援助

The Use of Paraprofessionals in Achieving Independent Living for Severely Handicapped Persons

Greg H.Frith *

斉藤加余子 訳

 近年のリハビリテーション分野における2大進歩は、多くの重度障害者の自立生活を実現させる重要なカギとなっている。その1つが公法95-602(1973年職業リハビリテーション法の1978年改正法)の制定で、職業リハビリテーション制度の適用を重度障害者にまで拡大したことにある(第701項)。この第701項は簡単に「自立生活総合サービス」とよばれ、自立生活の実現に関連するいくつかの事業領域(保健、レクリエーション、介助など)を規定している。すなわち、ここでは自立生活に、これまで求められてきた職業上の自立以外の広い意味合いがこめられている。

 2大進歩のもう1つは、準専門職の役割が拡大されたことで,職業リハビリテーション分野ばかりでなく特殊教育、精神衛生をはじめとするさまざまな分野で準専門職の役割が拡大されている。準専門職を起用すれば比較的低い経費ですむうえ、これまで専門家が行ってきた各種の仕事を肩代りして効果が上がるとすれば、重度障害者の自立生活の実現に準専門職を起用すべきであるという意見はさらに説得力を増す。重度障害者のために準専門職を起用した成功例は専門文献に詳しく報告されている。

 ここでは重度障害者の自立生活に必要な総合サービスを提供するうえで準専門職に任せられる役割について特に述べたい。これをお読みいただければ、準専門職一人一人の技術は正規の準備プログラムの質、スタッフの能力開発活動の質、責任者であるリハビリテーションカウンセラーの管理能力そして準専門職本人の経験、心構え、対人関係能力に大きく左右されることが、おわかりいただけるはずである。これから述べる総合的サービスは第701項に示されている順番に従って項目を上げてある。

カウンセリング

 リハビリテーションカウンセリングの大半は専門スタッフが受け持つが、準専門職に任せられるものもいくつかある。たとえば重度障害者は他機関にも所属していることが多いが(公立学校とか障害児サービスなど)、これらの機関からの情報入手といった簡単な仕事は準専門職でもできる。その他にも準専門職にできるカウンセリングに関連した仕事としては、1)両親と共に仲介者の役割を果たす、2)カウンセラーの指示に従って訪問を継続したり、任務を果たす、3)スタッフの能力開発プログラムを手伝う(患者もしくは親の役割を演じる:スケジュール作り、設備の確保と清掃など)。準専門職が患者と直接接する場合は特に、準専門職のカウンセリングに関連する仕事をはっきり定義づける必要がある。

住 宅

 重度障害者に適した住宅を提供する際にも、準専門職の役割ははっきり定義づける必要がある。公法では設備設置や改善は自立生活を促がすものであることと規定している。カウンセラーが特殊な改善が必要であると判断を下せば、それ以後は準専門職に装置の注文や改良、工学的な特殊補助具の取付け、特殊装置や家具に障害者を慣れさせることなどを任せることができ、また障害者が住宅改善に満足しているかを調べるため定期的に訪問する仕事も任せることができる。

職業紹介

 重度障害者の就業は自立生活の実現の大きな要素となる。これまで重度障害者への職業紹介はリハビリテーションカウンセラーの仕事とされてきたので、その手助けとして準専門職を起用することは比較的新しい動きといえる。しかし準専門職に任せたい仕事はたくさんある。たとえばカウンセラーが雇用者と接触し、見込みありと判断すればその後は準専門職がその雇用者に対し必要な改善方法や工学的装置について詳しく説明してもよい。あるいは障害者が実際に職につく前に、自宅で指導することを準専門職に肩代わりさせるのは簡単だ。その他にも障害者の職場への送迎など、準専門職にできることは数限りなくある。

輸 送

 重度障害者の輸送は従来から準専門職が行ってきたもので、準専門職の主な仕事となっている。輸送とはすなわち車の運転、行動管理、乗降の手助け、安全規則の指導と実践をさす。準専門職は障害者を家、学校、リハビリテーションセンター、職場へと移動させるだけでなく、これらの施設内での移動も行う。したがって輸送に関連する特殊装置(スロープ、リフト、特殊バスなど)の取扱い方法を知ることも、準専門職養成の重要な課目となっている。

介 助

 介助は準専門職に任されたすばらしい仕事である。もし専門カウンセラーが介助するとなれば非常に高い経費がかかることになる。介助の仕事としては入浴、トイレ、人工肛門バッグの交換、書類整理、医療関連行動の観察と記録(けいれんの回数など)、救急処置とその指導、血圧と熱の測定、レクリエーションや娯楽の提供、食事の世話、輸送、連絡、問題点を家族や公の場へ説明することなど、さまざまである。これらの介助は長年の間、教育分野及び精神衛生分野の準専門職が行い、効果を上げてきた。

身体的リハビリテーションと療法

 身体障害者(脊髄損傷、重度脳性マヒ、進行性多発性硬化症など)を扱う場合は時間と経費がかかる。そこで準専門職は障害者の担当医、作業療法士、言語療法士、理学療法士などの専門家の指示に従って患者が行う日課を手助けする。たとえば特殊運動を実行したり、状況に応じて適切な専門スタッフに再検討を促がしたりする。その他療法に関する仕事としては、治療場所の清掃、特別の連絡簿を作る、練習のポイントを決め、積み重ねるようにして繰り返す、書類整理、特殊装置を使って補助することなどがあげられる。

 専門家の多くは受持ち患者をたくさんかかえているのが実情で、実際には準専門職の協力を得て特定の療法プログラムを行ってもよいことになっている。特に患者の行うプログラムが普通では危険性のない運動であった場合に適用され、患者をうつぶせ台や起立訓練台に乗せたりする。療法を行う準専門職の仕事に関して現在、問題となっているのは法的責任について定義がなされていないことにある。準専門職が行った特定の運動で患者が傷をおった場合、準専門職の責任となるのか、それともその療法を指示した専門家の責任となるのか、はっきりしていない。

補装具

 身体的リハビリテーションや理学療法では補装具や特殊装置(松葉杖、装具、起立訓練台、特殊ぐつなど)の使い方を指導することも多い。これらの装置を受け入れ、正しく使う練習をすることは患者にとって大変なことであろう。そこで医師や療法士が一通り方向付けをしたのち、準専門職が同様の補装具を使う別の障害者を紹介してあげればよいだろう。そのあとの補装具の使用訓練期間も準専門職に任せてもよい。その他としては補装具の注文、入手、判断、評価などと準専門職に任せることができる。

健康維持

 先に介助の項でとりあげた準専門職の仕事は、この項目に入れてよいものも多い。また療法やリハビリテーションに関する準専門職の仕事も健康維持につながる。その他にもある。たとえば吸入療法を行う、基礎運動をさせる、マッサージをする(床ずれを防ぎ、血行をよくするため)、薬物治療を行う、安全教育と救急処置法を教える、健康維持のための習慣をつけさせる、などがある。もちろんこれらの仕事は担当医や療法士の指示を必要とすることが多い。

レクリエーションサービス

 準専門職の重要な仕事としては他にレクリエーションサービスがある。専門家の多くは重度障害者が余暇の上手な使い方を知ることは大切なことであり、建設的な目標となることを認めている。準専門職に正しい指導がなされ、仕事の内容が明確に示されれば、この分野の仕事の大半は準専門職に任せられる。たとえば障害者の行動管理、スケジュール調整、レクリエーション道具の作成、時間測定、装置の準備と操作、音楽や美術の指導、興味のある場所への訪問を助けることなどがある。

就学前サービス

 職業リハビリテーション制度が就学前の重度障害児にもサービスを行うようになるにつれ、準専門職の起用を適切に行う必要性も高まってきている。この年齢の障害児に自立生活に必要な技術を教える準専門職の役割は非常に重要である。仕事の内容は、最初のスクリーニング、診断テストの採点、サービスを受けている子供の兄弟についてファイルを調べる、障害児に早くから接している地域の機関に照会を求める、などがあげられる。この論文でとりあげた各種のサービスはいずれも確実に提供されるべきものであるが、さらに公法では就学前の障害児のために理学療法、言語と意志疎通の技術、及び子供の発育をうながす活動を適切に行うことを特に規定している。これらのサービスを行う場合は、公立学校と連絡を取り合っていくことが特に重要となろう。

予防サービス

 法律に規定があるように予防サービスの目的は現在サービスを受けている障害者が将来さらに多くのサービスを受ける必要がでることを防ぐことにある。この目標は理論的な経済上の観点からみれば当然のことといえるが、実際には多くの重度障害者が達成できない目標であるといえよう。この目標が達成できるか否かは障害の内容によって異なる。例をあげれば、重度精神障害者に自立生活は無理であるが、脳性マヒによる重度の四肢マヒ者はある程度まで自立生活ができるようになる。

 予防サービスの内容は定期的に患者と接触して患者が直面している困難な問題点を知ったり、新しく開発された工学的装置の使用に興味をもっているかを確かめることである。このような患者との接触は準専門職に適した仕事であろう。

結 論

 この論文では重度障害者の自立生活を達成するうえで準専門職が果たす役割について述べてきた。準専門職に任せられる仕事すべてを網羅したとはいえないが、ここにとりあげた準専門職の役割をみれば、さまざまにある仕事の内容を定義する糸口となろう。準専門職を正しく起用すれば経費は比較的少なくすみ、しかも効果は上がり、重度障害者にリハビリテーション関連サービスを提供できる。

参考文献 略

*教育学博士。1973年から現在に至るまでジャクソン州立大学特殊教育学部の部長をつとめるかたわら、Project Outreach の責任者もつとめている。このプロジェクトはアラバマ州北東部にある15校の学校に設置されている特殊教育学級の現職者に対する継続教育プロジェクトで、その財源は連邦政府から供給されている。博士は特殊児童に関する文献にも毎回論文を発表しており、特殊児童評議会アラバマ州連合の前会長でもある。


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1981年11月(第38号)25頁~28頁

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