特集/専門職 義肢適合士の養成課程の発足

特集/専門職

義肢適合士の養成課程の発足

加倉井 周一*

 はじめに

 切断者・機能障害者のサービス向上にとって義肢・装具は欠かすことのできない重要な位置を占めている。義肢・装具は医師をリーダーとし、PT・OT・製作技術者・心理判定員・ケースワーカー等で構成される切断クリニックの中で、個々の障害者に適した義肢・装具の処方・適合判定・装着訓練が行われるべきであり、この点からも製作技術者の教育・資格制度の導入はきわめて重要である。これまで日本リハビリテーション医学会を中心に義肢・装具製作技術者の教育・資格制度を早急に確立すべきであるとの要望が再三なされてきたが、厚生省の中でも特に医務局医事課は義肢協会(民間製作所の経営者の集まり、約250社が加入)の消極的な態度を理由にして、一向に前進の機運がみられなかったことは残念である。この間、義肢装具技術者協会の設立(昭和50年5月)、労働省による義肢・装具製作技能検定制度の発足(昭和50年)などの動きがみられ、この程ようやく国立身体障害者リハビリテーションセンター(以下国立所沢リハセンターと略)内に義肢適合士の養成課程が発足することになったのでその概要を紹介するとともに、あわせて今後の問題点にも触れてみたい。

1.義肢適合士の定義と他職種との関連

 義肢・装具の製作過程において、リハビリテーションメンバーの一員として他領域の専門職員と協力し、義肢・装具に関する情報を医師に提供してその処方に寄与するとともに、義肢・装具の採型から適合に至るまでの業務に責任をもつ専門職と定義する。すでに欧米をはじめ、香港・インドを含めた先進国では prosthetist/orthotist として社会的・経済的にふさわしい処遇を受けている。これに対して製作技能者(prosthetic and orthotic technician)は適合士の監督の下に主として工場内での製作に専念する。各職種の業務における責任分担は表1に示す通りである。

表1 患者・障害者に対する義肢装具の評価・処方より装着までの過程と、そのチームにおける各職種の責任分担
    職 種
業 務
医師

義肢装具適合士
(仮称)

義肢装具技能士(労働省) セラピスト
(厚生省) (現行)
障害の評価 ○△
義肢装具の処方 ○△  
採型・採寸 ◎△    
モデル修正  
製作① ○   
初期適合調整 ◎△    
製作②
(仕上げ)
 
最終適合判定 ○△    
装着訓練 ○△

◎最も責任をもつ職種 △義肢装具士が患者と接する業務
○関与する職種

 2.義肢適合士に必要な知識の範囲と教育制度

 近年障害の原因となる疾患の重度化に伴ない、疾病や障害の身体的特性を十分理解するためには解剖・生理・人体運動学・臨床医学の基礎知識はもとより、義肢装具製作のためには各種材料の特性を理解するとともに、加工法に関する基礎知識、さらには電動義手に代表されるような高度の義肢・装具を理解するためにも材料工学・機械工学・電子工学などの知識が必要となる。

表2 義肢装具適合士養成教科カリキュラム配当計画(案)-(1)
履修分類 科目分類 履修科目 履修時間 1年 2年 3年 備考
講義 実習 合計 講義 実習 合計 講義 実習 合計 講義 実習 合計
基礎科目 人文社会学 人間発達学 30   30 30   30
福祉学 30   30 30   30
(小計) 60   60 60   60
自然科学 応用物理学 30 45 75 30 45 75
応用化学 30 45 75 30 45 75
応用数学 45   45 45   45 演習含む
(小計) 105 90 195 105 90 195
その他 外国語 135   135 45   45 45   45 45   45
保健・体育 15 90 105 15 30 45   30 30   30 30
(小計) 150 90 240 60 30 90 45 30 75 45 30 75
小計 315 180 495 225 120 345 45 30 75 45 30 75  

 

表2 続き-(2)
履修分類 科目分類 履修科目 履修時間 1年 2年 3年 備考
講義 実習 合計 講義 実習 合計 講義 実習 合計 講義 実習 合計

専門課目(1)

医学系

解剖学 45 60 105 45 60 105      
運動学 60 90 150 60 90 150      
生理学 45 30 75 45 30 75       生物学含む
臨床医学 60 30 90 30   30 30 30 60 リハ医学総論含む
整形外科学 60 30 90 30   30 30 30 60
臨床心理学 30   30       30   30
(小計) 300 240 540 210 180 390 90 60 150

工学系

機械学 60 45 105 30 15 45 30 30 60       製図含む
材料学 60 45 105       60 45 105      
工学特論 30 30 60             30 30 60
(小計) 150 120 270 30 15 45 90 75 165 30 30 60

小計
(基礎科目+専門科目(1))

765 540 1,305 465 315 780 225 165 390 75 60 135

 

表2 続き-(3)
履修分類 科目分類 履修科目 履修時間 1年 2年 3年 備考
講義 実習 合計 講義 実習 合計 講義 実習 合計 講義 実習 合計
専門課目(2) 専門教科 義肢装具学総論 30 300 330 30 300 330            
下腿義足 45 270 315 30 90 120 15 180 195      
大腿義足 45 270 315 15 45 60 30 135 165   90 90
股義足 30 180 210       30 90 120   90 90
特殊義足 45 180 225       30 90 120 15 90 105 (膝・サイム足部切断)
義手 30 180 210        30 90 120   90 90
上肢装具 30 135 165       30 90 120   45 45
下肢装具 45 270 315 30 90 120 15 90 105   90 90
体幹装具 30 180 210 15 45 60 15 90 105   45 45  
特殊装具 30 180 210             30 180 210  
臨床実習 570 570               570 570
  (小計) 360 2,715 3,075 120 570 690 195 855 1,050 45 1,290 1,335

(1)+(2)+(3)
合計

1,125 3,255 4,380 585 885 1,470 420 1,020 1,440 120 1,350 1,470

 これらの専門的知識を理解し、かつ各種義肢・装具の製作適合を経験するためには効率的な教育プログラムを組まねばならない。理想的にはI.S.P.O(国際義肢装具連盟)が勧告するように義肢適合士の教育は学校教育法にもとづく4年制大学、または3年制短期大学で行われるべきであるが、しかし身分法の制定(厚生省)が優先し、文部省が消極的なわが国の現状を考えると、まず厚生省側においてPT・OTと同じように3年制各種学校からまず発足することが現実への近道であろう。

 3.国立所沢リハセンターにおける養成課程の内容

 この程国立所沢リハセンター総長の諮問を受けて義肢装具専門職員養成課程運営検討委員会でまとまった内容は以下の通りである。

○養成期間……3年

○1学年募集人員……10名

○応募資格……高卒またはこれと同等以上の学力があると認められたもの

○年齢制限……30歳未満の者

○入学試験……一次試験(学科および小論文の筆記)、二次試験(面接考査および身体検査)

○教科科目……表2

○開校予定……昭和57年4月

 この養成課程のカリキュラムの特徴は、義肢学および装具学の基本となる製作実習および各論の実習時間、更には臨床実習の時間を多くとったことで、3年間のうちに系統的に現在用いられている代表的な義肢・装具について一通りの経験が得られることをはかったことにある。実際にこのような多くの内容をこなしていくためにも専任教官の確保は極めて大切であるが、答申では各科目の専門性を考慮して、義肢・装具学概論、下腿義足、大腿義足、股義足および特殊義足、義手、下肢装具および上肢装具、体幹装具および特殊装具に各々1人ずつ最低7人の専任教官を必要とし、また実習についても2グループで行うため実習助手7人を要するとしている。また専任教官の質についてもでき得れば大学院修士課程を卒業した者またはこれと同等以上の学力を有し、義肢・装具の製作技術と理論をあわせもつ人材を得るように勧告している。

 リハビリテーションにたずさわる関連職種の教育はいわゆるマスプロダクションができない点が特徴であるが、義肢適合士の養成はいわばマン・ツー・マン・システムの最たるものといえよう。

 4.今後の問題点

 パラメジカルスタッフの教育・資格制度の特徴として、国による新しい学校の開設をまってはじめて資格制度が発足することはわが国でもPT・OTの養成制度の歴史に示す通りである。ところで新しい義肢適合士が発足するにあたり、その身分は具体的にどのようになるのだろうか? 上記の運営検討委員会の答申では、第1回の卒業生がでる昭和60年3月までに身分法が成立するよう関係省庁および関連団体が委員会を設け積極的に推進するように述べている。このことは、義肢適合士の養成課程と身分法とは必然的に切り離すことはできないにしても、身分法について関係者の合意が得られるまでには若干の時間がかかるのでとりあえず教育から発足しようという現実路線をふまえたものと解釈できよう。

 医学会をはじめ関係者の永年の願望であった義肢適合士の養成がようやく実現しようとする時にあたり、昨今の国の財政状態の影響を直接受けはしないかという懸念を感ぜざるを得ない。専任教官の確保、教材の用意、講義および実習内容のつめなど早急に解決しなければならないことが山積しているが、皆様方の暖かい御理解とはげましが得られることを期待したい。

文献 略

*東京都補装具研究所所長


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1981年11月(第38号)29頁~31頁

menu