特集/専門職 スポーツ指導員の立場から

特集/専門職

スポーツ指導員の立場から

金田安正*

 はじめに

 障害者のスポーツというとすぐにパラリンピックや車イスのバスケットボールなどが思い浮び、リハ病院などでもスポーツによる治療が行われていることはあまり知られていない。これは単に歴史が浅いということだけではなく、障害者スポーツ指導者の地位が法的に確立されていないという制度の問題であり、医療機関におけるスポーツ訓練の領域の曖昧さからくるものでもあると考えられる。以下、リハビリテーション(以下リハという)スタッフの一員としてのスポーツ指導者が持つ問題点を指摘してみる。

 医療サイドでのスポーツ指導者の位置

 身体障害者福祉関係法令の“国立身体障害者更生援護諸施設における職員の資格基準”ではスポーツ指導員を運動療法に従事する職員と称し、“理学療法士(以下PTという)以外のもので身体障害者に対し、主としてその基本的動作能力の回復を図るため治療体操その他の運動を行わせる業務に従事する者”と職務が規定され、その資格を“大学において体育学を専修する学科を修めて卒業した者”と定められている。

 スポーツ訓練部門が医療機関に所属しているため、スポーツ訓練に来る患者は保険診療報酬が請求される。その根拠は診療報酬点数表の理学療法の中の“運動療法”である。運動療法には「複雑なもの」と「簡単なもの」があり、「簡単なもの」とは、1人のPTが複数の患者に対して訓練を行うことができる程度の症状の患者について、PTの直接的監視のもとに複数の患者に行われるものをいい、取扱い患者はPT1人当たり1日45人を限度とすることである。この条文だけではスポーツ訓練に適応できないが、“運動療法は、医師の指導監督の下に行われるものであり、医師又はPTの監視下で行われるものである”の規定でスポーツ指導者はPTの下に位置づけられて、運動療法の「簡単なもの」を行うことができる。患者がPT訓練とスポーツ訓練を受けた場合、PTのみ請求されスポーツ担当者は表面上実績を上げたことにはならない。またスポーツ指導者の訓練した数はPTの実績としてあげられてしまうという現状があり、スポーツ指導員の定員増加につながらないという結果を生み出している。

 全国に体育系大学を出て治療体操士、体育訓練士、医療体育科職員、体育指導課職員などの名でリハ関係施設に勤務している者が約100人位いるといわれている。そのほとんどは大学の正規の授業として“障害者”についての講義を受けておらず、個人で勉強をしているのが大勢である。実際に日本各地のリハ病院、福祉施設に勤務している体育系大学卒業者の話を聞くと、PTのアシスタント的立場に立たされている人が多いようである。

 PT訓練とスポーツ訓練の違い

 身体障害者福祉関係法令の肢体不自由者更生施設の項で医学的更生治療及び訓練でPTとは別に運動療法を“一般体操、遊戯、競技、自転車操行等を行い、訓練に興味を持たせるようにするとともに気分の転換、明朗化を図り、心理的更生もあわせ行うようにすること”とあるが、心理、社会面の評価がしづらく確立されてないこともあり、リハ病院等での医師をはじめ治療関係者、患者からのスポーツ訓練に対する認識はうすい。

 スポーツ訓練は医学的配慮の下に患者の機能回復、増強を個々の症例に応じて行うのはもちろんのこと、PT訓練に比べ障害部位など部分的な訓練だけではなく全身運動によるダイナミックな活動である。患者自身に何を為すべきかを知らせ、具体的な訓練方法を指導した後、指導者の指示を受動的に待つのではなく自発的にいろいろのスポーツ種目を試みるようにしむけ、集団の中でも行い教育的管理もなされるものである。またPT訓練では成果が上がるとプラトーに達したとして訓練を停止するが、スポーツ訓練は機能回復、増強を図ることを目的としながらもスポーツ種目の獲得、スポーツ場面での行動の仕方や態度の発達を促す、すなわち社会的態度の育成、心理的対応の向上もめざし、社会に出てから自己の障害を考慮しつつ身体的、心理的、社会的な健康を維持するために市民スポーツ、競技スポーツに取り組む手立てをし、生涯にわたりスポーツをしてもらおうというものである。

 市民スポーツの指導

 東京オリンピックのあとパラリンピック大会が開催された後、毎年国体後全国身体障害者スポーツ大会が開かれている。各都道府県の民生主管部が中心となり選手を選考し派遣している。また最近ではほとんどの都道府県や指定都市で独自の身体障害者スポーツ大会が実施されている。これらは障害者の自立更生を促進し、一般に障害者に対する関心と理解を深めることには役立ったが、あまりにも行政指導型の普及であったように思う。

 最近になってようやく障害者自らがグループを作り、いろいろのスポーツを行う動きがみられるようになった。その際の指導は施設職員、PT、看護学生、各種セラピスト、ボランティアなどであり、系統的に勉強した人達ではなく経験的に知識を持ち、自ら勉強した人達が行っている。

 “身体障害者スポーツは、健常者のスポーツに比し、身体障害者に対する医学的及び心理学的効果との関連性又は事故防止の方法等について特別の配慮を必要とすることにかんがみ、身体障害者スポーツの指導に習熟した指導員の育成に努める必要がある”ため、(財)日本身体障害者スポーツ協会は昭和41年より身体障害者スポーツ指導者研修会を実施している。研修内容はリハ概論、身体障害者スポーツ概論などの講義や陸上競技、水泳、洋弓、バスケットボールなどの実技からなっている。研修期間は前後期各6日間、計12日で今まで(昭和56年9月現在)608名が修了している。受講者の所属は公・私立更生施設、更生指導所が多く、そのほか都道府県民生・社会部、病院、養護・盲・ろう学校などである。

 視覚・聴覚・肢体の各障害についての医学的知識を得て、各々の障害に対するスポーツの指導法、注意点、競技の運営、審判法、地域でのスポーツ振興の仕方など理論、実技を学ぶわけだが、これらの内容のものを十分に修得するには2週間という期間ではあまりにも不十分である。また受講者の所属により興味、受講希望課目の違いがあるが、それぞれの希望を十分に満たしていないことも事実である。

 おわりに

 医療関係者の中ではスポーツ訓練の治療効果についての客観的評価法が確立されていないことにもより、スポーツ訓練が治療に寄与するという認識は残念ながら今だ低い。スポーツ指導者は学校体育の中では指導法、評価法を確立しているが、医療機関ではPTとの仕事の分担が不明瞭なこともありスポーツ訓練独自の評価方法を確立していない。リハ機関でのスポーツ訓練の位置づけのためにもスポーツ指導に携わる人達の今後の一層の活躍が期待される。それがひいてはリハ機関におけるスポーツ指導者の制度化にもつながるものであると確信する。

*国立身体障害者リハビリテーションセンター 運動療法士


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1981年11月(第38号)32頁~33頁

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