特集/専門職 職業評価員について

特集/専門職

職業評価員について

西川実弥 *

 我が国の現状では、専門職化された形での「職業評価員」の存在の有無は別としても、職業リハビリテーションの実践過程において、各種の手段を通じて、障害者の人々の職業的可能性を発見したり、その可能性を現実に、最大限度具体化するための方途を探索すると言うような「評価」のこころみは必須であり、そのこころみの実践にかかわりを持つ人々のいることには、異論はなかろうと思う。職業評価と呼ばれる、この種の一連のこころみは、主としてリハビリテーション特有の概念である。職業評価の動向の先駆国である米国での発展経過からみれば、障害者の人々のための職業ガイダンスは、職業的ハンデの重度な人々の顕在に伴い、伝統的に用いられて来た「心理学的テスト+言語的カウンセリング」のモデルから脱却をし、そして構造化された色々な形での作業体験そのものを利用した「職業評価+作業適応訓練」が重要視されて来た事実がみられる。

 職業評価(Vocational Evaluation)、作業評価(Work Evaluation)、そして職業前評価(PreVocational Evaluation)等の内容は、その職業を分担する評価員と共に、ほぼ同意義に混用されて来ており(McGowan, J.F. 1967, Salmon, F.S. 1958)、「他の専門分野からの色々の資料、すなわち医学的、社会的、教育的、心理学的データで補足しながら、実地の、あるいは模式化した色々の作業過程を通じて、障害者の人々の職業的可能性を探索したり、職業への探求の機会を提供すること」(Pruitt, W.A. 1977)が、大勢的な理解であった。たしかに、ともすれば職業発達が未熟になりがちな職業リハビリテーションの対象者に対して、職場再現法やワークサンプル法のような構造化された体験的作業プログラムを通じての、自己の職業成熟への学習機会が含まれることが強調されるのは、紙筆テストや器具テストによる職業特性の測定のみを目ざすこころみ以上の意義を認めないわけにはゆかない。ただし用語の定義づけのみからみれば異なる見解がないわけではない。何らかの作業形式を利用する方法を、特に作業評価と呼び、職業評価は作業評価やその他の技法を含む上位概念として、より包括的な過程であるとする見解(Hoffman, P.R. 1969)やまた、そのような実態も認められる(Sankovsky, R. 1969)。この両者の見解の差は、作業評価以外の手段を補足的にみるか、同位手段と見るかによって異なるのであろうが、筆者は我が国の現状の種々相をさらにふまえて、職業リハビリテーションにおける評価を図1のとおり、試案として整理してみた。

 

図1 職業評価について(西川実弥 1977)

図1 職業評価について(西川実弥 1977)

 職業評価を担当する職業評価員の専門職化の動向は、米国においてもそんなに古いものではない。職業評価にかかわる人々の実態は、各所に各様にかなり早くから存在していたのであろうが、正規に専門職域の団体組織として、「職業評価と作業適応協会(Vocational Evaluation and Work Adjustment Association、 略称 VEWAA)」と言う名称で結成され、全米リハビリテーション協会の専門部会として認められたのは1967年であった。もっともそれ以前の1965年に Georgia 州辺を中心に「全米職業評価協会」の名による少人数の研究グループが生まれており、VEWAAへの核となったのであるが、米国初の職業評価員の団体であったことが認められている。

 1971年の実状では、VEWAAの会員は全米、カナダ、グアム自治領等から、正会員870名、準会員92名、学生会員37名が加入し、急速に拡張されている。VEWAAの正会員は当初から教育的背景を問わず、実地の関連業務従事者が加入した。事実、1969年当時の職業評価員の教育的背景は、75%がリハビリテーションカウンセリング、心理学、教育学等の学士号、修士号の取得者で占められ、残余は工業技術、作業療法、社会学、その他の専攻者であった。

 VEWAAの目標は、会員の現任訓練、資格規準、職業評価の意義、規準、用語の標準化、研究開発、他分野との連係、研究誌の発行、社会的啓発、会員の倫理、大学での養成コースの設置促進等を掲げ、研究誌第1号が1968年に刊行された。(Hoffman, P.R. 1971)

 職業評価員の職業については、かなり議論が尽されたが、要約的に示すと、1.評価法の実施(ワークサンプル法、職場条件再現法、心理学的測定法、その他)2.面接、3.作業適応訓練や指導、4.研究、5.管理、6.職務分析、7.他分野との会議、8.報告書、勧告書の作製、等であるが、いずれがその重点項目になるかは、従事機関の性格による(Hoffman, P.R. 1971, Pruitt, W.A. 1977)。また、職業評価員自身によるワークショップで、職務遂行に必要な資質や知識として挙げられたのは、1.手指の巧緻性と正確性、2.生産機械、道具、設備等の知識、3.管理能力、4.指導力、5.組織力、6.対人能力、7.コミュニケーション能力、8.研究法、9.職務分析法、10.人的資源情報、11.産業工学、12.人格理論、13.発達心理学、14.学習理論、等であった。(Hoffman P.R. 1969)

 職業評価員の訓練や養成については、政府の後援により、I.C.D.リハビリテーション研究センターが1957年に手をつけたTOWER法を中心とする短期コースは、この程のこころみの先駆として知られているが、大学院レベルでの12か月コースが、政府の援助のもとで、1966年に Stout 大学で初めて着手され、1976年までに約300名の卒業生を出している。1968年には Arizona 大学が、さらに1967年には Auburn 大学が、それぞれ短期コースを開いた。また San Francisco、 Maryland、 Wisconsin-Madison の各大学が、ワークショップ管理学の講座に、職業評価コースを設けたり、各地の諸大学が、既存のリハビリテーションカウンセリング講座に職業評価コースを附設したりした。(Pruitt, W.A. 1977)

 ひるがえって、我が国の職業評価やその担当者の現状を見れば、端的に言えば、十分に分化した状態とは言えない。職業評価に属するこころみは、1950年代から心理学的測定法を用いた「職能判定員」や、作業評価としては、一部の施設で用いられた「職能訓練」の中に、多分に類似の事実が見出される。しかし職業評価が、関係者間で強い関心を集め始めたのは、やはり重度な職業的ハンデを持つ人々の顕在し始めた1960年代であった。以来、TOWER法が翻訳紹介され(岩崎克徳 1969)、その伝達講習会が数回にわたっておこなわれたり、産業工学畑からはMODAPTS法が、作業動作の分析と測定の技法として翻案され(横溝克巳 1973)、器具セットが発売されたり、また研究者や関連実践家、すなわち職能判定員、職業カウンセラー作業療法士、職業技能指導員、ケースワーカー、教員、その他の人々の手で、「その人なり」の取組みが、年々活発化している動向がみられる。しかし一個の専門職としての職業評価員に関しては、意義、資質、訓練、養成、技法、啓発の各面にわたり画然とした認識と実態は得られておらず、これ等の諸問題が、我が国特有の職業事情や雇用慣行あるいは障害者の実態に照らして検討されるのは、今後の課題であろう。

参考文献 略

*東大阪児童相談所長


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1981年11月(第38号)34頁~35頁

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