特集/専門職 心身障害者職業センターのカウンセラーについて

特集/専門職

心身障害者職業センターのカウンセラーについて

谷素子 *

 心身障害者の雇用に対する社会の関心は年々高まり、国の施策も、昭和45年心身障害者対策基本法制定以来、積極的に推進されてきた。従来、心身障害者の職業紹介は公共職業安定所が担当しており、各担当官の努力により、かなり重度の障害者でも就職に至る事例も増え、障害者に理解を示す事業所も増加してきた。しかし重度、多様化してゆく障害者の雇用をおし進めてゆくには、心身障害者の職業能力判定を充実することにより、公共職業安定所の機能を強化してゆくことが急務と考えられた。このような背景の下に、昭和47年3月、心身障害者職業センター(以下職業センターと記す)第1号が、労働省と雇用促進事業団により、東京上野に開設されたのである。

 開設以来10年目を迎え、56年9月1日現在、全国41か所に設置され、57年3月末までには、全国各都道府県に1か所ずつ設置されることになっている。筆者は東京心身障害者職業センター開設以来5年間、神奈川心身障害者職業センター開設以来1年半、心身障害者の職業能力判定を行ってきた。2つの職業センターでの現場経験を通して、職業センターのカウンセラーの現状、今後のあり方等について述べてみたい。

 カウンセラーの必要条件

 職業センターのカウンセラーは、来所した障害者の職業能力を、医学的側面、生理学的側面、身体的側面、心理学的側面、職業的側面等から総合的に把握することが必要である。例えば、来所した精神薄弱者A君の職業能力を判定するには、彼の知能程度を知るだけでなく、次のような観点からとらえてゆくことが重要である。

 ○てんかん発作、脳性小児マヒ等の重複障害の有無及びその程度

 ○体力、健康状態

 ○作業を行う場合のスピード、持続力、正確性、両手共応、巧緻性

 ○性格の特徴、労働習慣、移動能力、意志交換能力等

 ○興味、適性、知能の状況

 ○家庭環境

 これらにより対象者の全体像、問題点を浮きぼりにし、次のような事柄を明らかにすることが、職業センターにおける職業能力判定の目標といえよう。

 ○一般雇用が可能か否か。

 ○一般雇用が可能である場合には、どのような作業が可能であるか。一般雇用において留意することはどんな点か。

 ○一般雇用が不可能である場合には、どのような理由によるのか。一般雇用を可能にするためには、どのような援助が必要であるか。

 ○援助によっても一般雇用が不可能である場合には、どのような就労の形態が可能であるか。(保護雇用、施設就労等の検討)

 職業センターのカウンセラーの役割は、以上述べた目標、観点から障害者の職業能力判定を行い、判定結果に基づき、公共職業安定所、福祉事務所、学校、リハビリテーション関係機関等との連携により、障害者の職業自立を援助してゆくことである。従って、カウンセラーには医学・心理学・社会福祉等の専門知識、面接技法、職業能力評価技法、更には現実の労働市場、地域の関係機関等についての知識が要求される。これらは一朝一夕に身につくものではなく、専門的素地の上に、日常業務及び常日頃の自己研さんの積み重ねにより習得されてゆくものといえよう。

 カウンセラーの現状と今後のあり方

 現在、多くの職業センターにおいて、現場にあたるのは、主任カウンセラーとカウンセラーの2名である。主任カウンセラーは多くの場合、地元の職業安定所からの出向者で、地域の労働市場に詳しく、職業安定所との連携の潤滑油となっている。カウンセラーは新規大学卒業者で、心理学、社会福祉学の専攻者が多く、障害者の職業評価一筋にやってゆこうという熱意にあふれている。各職業センター共、専門家としてはまだ未完成の者が多いが、先陣の職業センターを参考に、地域の特性を考慮して、熱意と努力により新開地を切りひらいているのが実状である。

 今後、職業センターにおける業務をより綿密かつ強力に進めてゆくには、カウンセラーの量と質を高めることが必要と思う。量とは人数のことであり、2名というのはいかにも小規模で、業務の限界があり、筆者の経験からもカウンセラーの数は最低3名は必要と思われる。カウンセラーの質を高めるためには、新任カウンセラーの研修の充実、職業センター間の業務研究会の活発化等により全国的にもおし進められているが、それと同時に、各職業センターにおいても、カウンセラー各人が自己研さんしやすいよう配慮することが重要と考えられる。業務多忙の職業センターもあろうが、週1回は、事業所、学校、関係施設等に出かけ、見学、交流する機会に恵まれれば、カウンセラーは身をもって知識を吸収し、深めることができる。このことが日常業務の内容を深め、適切な職業能力判定につながるものと考えられる。重度障害者の職業能力判定は、業務内容を深めることによってのみ達成されるといっても過言ではなく、その意味からもカウンセラーの質の向上への努力は、休みなく際限のないものである。

 カウンセラーの今後の活動分野

 養護学校の義務制、重度障害者の就職に対する本人及び社会の関心の高まり等を背景に、重度化の傾向は、今後ますます強まるものと考えられる。このような時期に重度障害者の職業能力判定の専門機関である職業センターが設立10年目を迎え、業務も軌道に乗り、一大勢力になりつつあることは喜ばしい限りである。職業センターの業務をおし進めてゆくにあたり、カウンセラーの今後の活動分野として、次の三点を強調したい。

 第一に、職業能力評価法の充実があげられる。重度障害者の職業能力判定においては、既存の職業能力評価の方法だけでは不十分であり、より有効な評価法が必要と思われる。職業センターにおいても独自の試みがなされ、新しいワークサンプルによる評価法も開発されたが、今後共各職業センターにおいて、種々の試みを積極的に進め、職業能力評価法を充実してゆくことが肝要と思う。

 第二に、事業所に対する具体的技術援助により、障害者の一般雇用の枠を広げてゆくことも、今後の重要な活動分野であろう。重度障害者の就職にあたっては、仕事に合う人の配置から、人に合わせた仕事という発想の転換に立ち、仕事を見直してゆくことも大切である。作業の分割、再編成、あるいは作業設備を変えることにより、就職が可能になる場合もあるはずである。

 第三に、障害者の職業自立を進めるために、社会の人々の障害者に対する無理解、無関心をなくしてゆくよう、機会あるごとに働きかけてゆくことが重要と思う。職業センターの相談事例の中にも、能力があるにもかかわらず、事業所の理解が得られず就職できない事例、家庭や学校の無理解のために正しいしつけや教育が行われず、能力を十分伸ばしきれなかった事例、周囲の無理解のために、障害者本人が性格的にゆがみ、社会不適応になった事例等、数多いのが実状である。折りしも今年は国際障害者年である。これを契機に障害者に対する社会の無理解、無関心の解消が進むことを望む次第である。

*労働省職業安定局


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1981年11月(第38号)38頁~39頁

menu