特集/障害者の10年にむけて 国内長期行動計画の在り方

特集/障害者の10年にむけて

国内長期行動計画の在り方

―障害者対策、10年の方向と目標―

丸山一郎

 「完全参加と平等」をテーマに掲げ、障害をもつ人々の現状と社会の対応の実情を見直して、問題解決のための国際的行動を起こすという歴史上初めての試みであった「国際障害者年(1981年)」は、その行動計画(1979年国連総会決議)において、各国に障害者対策に関する「長期的国家計画」の策定を勧告した。

 また国際障害者年の諸活動の計画、調整、執行または執行の促進を行うための「国内委員会」の設立に関して、「政府各省の代表、民間団体、企業団体等を含む有志団体の他、障害者または、障害者のための団体の代表の参加は優先的に認められなければならない」と提言したのである。

 国際障害者年の最も大切な点は、障害者問題の認識とその解決に向けての長期的なとりくみを開始することにあるのであったが、国連自体は当初の予定より遅れて、第37回総会(1982年秋)において、障害者に関する「世界行動計画」を採択する予定となっている。

 わが国の場合は国内委員会の役割を果たすものとして中央心身障害者対策協議会(以下中心協とする)がこれに当たることとなり、中心協内に国際障害者年特別委員会を設置して、約2年間にわたる検討をすすめたが、昭和57年1月22日、今後10年間にわたる「国内長期行動計画の在り方」についてまとめ、内閣総理大臣に意見具申がなされた。政府はこれを受けて、国際障害者年推進本部(昭和55年3月25日閣議決定により設置、本部長は内閣総理大臣)において、関係行政機関の連携を一層密にし、施策の総合的かつ効果的な推進を図るものとして「障害者対策に関する長期計画」を策定し、昭和57年3月これを公表した。

 中心協の提言は国際障害者年を契機として、わが国の障害者対策の一層の進展を期したものであり、10年後における障害者福祉の展望と目標を示す重要な意味をもつものであるが、提言までの経緯と内容について紹介するものである。

 提言のとりまとめまでの経緯

 心身障害者対策基本法(法律第84号 昭和45年5月)により、総理府の付属機関として設置された中央心身障害者対策協議会(山田雄三会長)は①心身障害者に関する基本的かつ総合的な施策の樹立について必要な事項を調査審議すること、および②心身障害者に関する施策の推進について必要な関係行政機関相互の連絡調整を要するものに関する基本的事項を調査審議することを目的としており、上記に関して内閣総理大臣、又は関係各大臣に意見を述べることができるとされている。中心協の委員は、関係行政機関の職員(現在は7省の事務次官)および学識経験者の20人以内を内閣総理大臣が任命することになっており、この他に専門委員をおくことができる。

 第15回中心協総会(昭和55年3月)は、国連のいう国際障害者年国内委員会として、

 ①昭和56年における国際障害者年事業の在り方

 ②国内長期行動計画の在り方

 ③国際障害者年事業の実施状況

 ④その他必要な事項

について調査審議し、内閣総理大臣に意見を述べることとする旨を決め、「国際障害者年特別委員会」(以下、特別委員会)を中心協に設置することを決定した。

 特別委員会([葛]西嘉資委員長)は、中心協の委員および専門委員の60人により構成され、国民各層を代表する医療、教育、労働、経済、福祉、自治体、マスコミ、婦人等の全国規模の団体から委員を選任した。障害者および障害のための団体の代表としては、身体、精神薄弱、精神の3障害を中心に全国規模の団体より15人の委員が選ばれたが、このうち障害者自身である委員は6人であった。

 第1回特別委員会は、昭和55年5月13日総理大臣官邸において開催され、同年8月には「国際障害者年事業の在り方」についてまとめ、総理大臣に意見具申するとともに国民に公表した。

 次いで「国内長期行動計画の在り方」の審議をするため、保健医療、教育・育成、雇用・就業、福祉・生活環境の4プロジェクトチーム(部会)を設け、60人の委員は、いずれかの部会に所属して、検討を重ねることとなった。また企画部会を設けて、啓発広報に関する調査審議を行うとともに、各部会の検討結果のとりまとめをすることとなった。各部会は55年12月から56年10月までそれぞれ10回前後の審議を行い報告をまとめた。企画部会における提言のとりまとめ作業において、いくつかの調整課題をまとめたのち、第8回特別委員会(57年1月)において、「今後10年間にわたり、わが国の障害者福祉の実現をめざして遂行される行動の基本的方向と目標を示すものである」とする5部16章からなる「国内長期行動計画の在り方」がまとめられたのである。

 提言の内容

 中心協の提言は①総論、②保健医療の在り方について、③教育・育成の在り方について、④雇用・就業の在り方について、⑤福祉・生活環境の在り方について、の5部16章とはしがき、結語によって構成されている。

 第1部「総論」においては、障害者の概念や障害者福祉の理念にふれ、障害者が社会において一般市民と同等に生活し活動することの保障やノーマライゼイションの考え方に対応する障害者福祉の方向を示している。「障害者個人に対する施策とともに、障害者を取り巻く社会的諸条件の整備を併せて行われてはじめて、障害者福祉の実現への道が開かれてくる」とし、長期計画を策定する意義は「障害者福祉の理念を国民全体が理解し、これを契機にその実現へ向かってたゆみない努力が継続的になされることにある」としている。また「本計画の実効性を確保するためには、国はもとより地方公共団体、地域社会、家庭等社会のすべての分野が、その責任と機能に応じて参加する必要がある。同時に、障害者自身もその持てる能力を最大限に発揮する努力を払い、自立への強い意識を持つことが重要である」と指摘している。

 また行動計画のフォローアップを行う等のための中心協の充実と、各施策の有機的連携を図るための総合的な推進体制の整備も求めている。

 更に、啓発広報活動の重要性について言及し、いまだに根強く残存している歴史的・伝統的偏見や医学的無知に基づくものがあり、「その結果として障害者の社会参加を阻み、一般市民が通常受けている諸権利、諸サービスを十分に享受できないという事態も現実に生じている」と指摘している。「障害」という概念を単に障害者個人の問題としてとらえるのではなく、個人とその環境との関係において生じている社会全般にかかる基本的問題としてとらえようとする障害者観の是正をはかるために、長期にわたる啓発活動をすすめる必要を述べている。このため当面「障害者の日」を12月9日(国連・障害者権利宣言の日)に定めて、国民の理解と認識を深めることの他、行政機関や報道機関、障害者団体等による啓発広報活動の在り方にふれている。

 第2部「保健医療の在り方について」では、

第1章 心身障害の発生予防

第2章 早期発見・早期療育

第3章 医療及び研究

第4章 専門従事者の養成確保

第5章 補装具・福祉機器の開発等

第6章 国際医療協力

について述べている。

 1章では先天性異常及び周産期における発生予防の方向を示唆するとともに後天的障害の予防について、人口の老齢化、社会構造の複雑化への対応の方向を示している。2章では先天性代謝異常対策、乳幼児検診の励行を含む有機的連携体制の確立、特に療育施設等のネットワークシステム、養育者等に対する助言指導体制づくりが示唆されている。3章においては、障害者のライフサイクルに対応するサービス供給体制の整備、医療と福祉の連携、精神障害者の社会復帰対策の充実、受療困難な歯科診療等への対応が指摘されている。また研究活動の重要性が強調され、一層の推進を図るとともに、各種の研究活動の緊密な連携も求めている。4章では専門従事者の養成確保対策の強化を述ベると同時に、医学教育の改善と聴能・言語療法士や義肢装具士、医療福祉司等の専門従事者の資格制度の検討を提言している。5章では、障害者の立場にたった機器の研究開発、支給システム、品質管理、情報提供の必要性が説かれている。6章では開発途上国の人々の基本的要請を満たす医療協力について、相手国のニーズに応ずる2国間協力と国連を介しての協力の充実につとめることが要請されている。

 第3部「教育・育成の在り方について」では、

第1章 心身障害児に係る教育施策の充実

第2章 心身障害児に係る育成施策の充実

第3章 心身障害児に係る教育・育成施策の連携

について述べられている。

 心身障害児に対して、その障害の種類、程度、能力、適性等に応じて適切な教育を行い、その可能性を最大限に伸ばし、可能な限り社会自立の達成を図るとともに、障害をもたない者も幼少時代から障害者に対する正しい理解と認識を深めることが基本であるとし、特殊教育振興のための諸施策の充実と、交流教育機会の拡大、受験機会の確保、教育研究条件の整備、視聴覚障害者むけの短期大学構想の推進について述べられている。

 いわゆる統合教育については、その方向を打出すべきであるか否かを巡って議論は白熱し、意見を集約することは出来なかったとしており、今後の検討課題として残った。

 育成施策については、可能な限り、乳幼児期に早期発見し早期に療育することを第一義とし、施設対策、在宅対策およびそれらの統合化を一層強化すること、そのための研究の推進と地域療育事業の拡充の必要性が強調されている。また特に教育、福祉、医療、雇用等の諸機関の連携協力の必要性が強調されている。

 第4部「雇用の就業の在り方について」では、

第1章 障害者の雇用・就業についての基本的考え方

第2章 雇用・就業対策の在り方

について述べられている。

 職業的自立は障害者にとって基本的かつ根本的な問題であるとし、重度な障害であっても働く意欲と能力のある者については可能な限り、一般雇用に就けるように努めなければならないとしている。一方、自営業、内職、福祉的就労等多様な就労形態による対応も考慮されるべきであるとして、労働行政と福祉行政等の連携の強化が望まれるともしている。更に職域の拡大開発、作業用自助具や訓練技法の研究の重要性が指摘され、精神薄弱者の雇用率制度の適用の検討や、精神障害者の就業対策の検討が述べられている。

 現状では直ちに一般雇用に就くことの困難な者に対しては、欧米で実施されている保護雇用制度を採用することより、わが国独自の対策を検討すベきであるとして、第3セクター方式による多数雇用事業所を例示している。

 第5部「福祉・生活環境の在り方について」では、

第1章 福祉サービス及び生活環境改善についての基本的考え方

第2章 福祉サービスの在り方

第3章 生活環境改善の在り方

について述べている。

 基本的には一般市民が受ける諸サービスと等しい利益を障害者にも保障するとともに、障害別のニーズの多様性と地域性等に着目して対応する総合的な推進体制の重要性が指摘されている。

 福祉サービスについては、均衡のとれた方式や水準とすることや、自助努力、応能負担の必要性が指摘されるとともに、「障害者の自立生活の基盤を確保できる所得保障の確立に努める必要がある」とした。当面は、年金・手当等の改善、税制上の措置について述べられている。

 在宅サービスについては、障害者の在宅志向や自活などのニーズに即した長期的・総合的体系の確立と共通的対策と個別の対策とをキメ細かく配慮することが強調されている。

 施設利用サービスについては、地域に開かれた施設の整備、運営に努め、広域的には総合センター方式を、地域的には利用・通所施設の充実が述ベられている。障害別には、精神薄弱者施設の機能を強化して重度化・老齢化に対応することや、精神障害者のための病院、精神衛生センター、社会復帰施設等の整備が指摘されている。

 生活環境改善では、障害者の利用を考慮した生活環境の整備改善は、子供や老人、病人や妊婦等にとっても利用し易いものへと改善してゆくことであるとして、物的環境の対応とともに、障害者の自助努力、福祉機器の開発、介護サービスの充実、更には一般市民の啓発等の人的環境の改善も指摘している。

 住宅、公共建築物等については、公的住宅の整備、改造の推進、公共建築物および公共性の強い民間建築物の設計標準の確立が求められている。

 移動・交通対策では、駅舎、車[輌]等の整備、道路、信号、駐車等の改善、近距離移動手段、サービスの普及充実、移動経費の負担軽減等が指摘されている。

 情報・文化面では、テレビ放送、出版物、通信手段等について、障害者の利用を配慮した改善を行うべきであるとし、また文化活動等についても、障害者が一般市民とともに能動的参加ができるような機会を大いに設けるべきであるとして、具体的提言を行っている。

 「結語」においては「以上、今後10年間にわたる国内長期行動計画の基本的方向と目標を中心として、その在り方について意見をとりまとめたものであるが、国内長期行動計画を策定するに当たっては、当委員会の意見を十分に尊重するとともに、速やかに関係各省庁、各審議会等で、その具体的実行について検討するよう要望する。また国民各位においても、本計画の趣旨を十分に理解し、障害者福祉の実現に向かって、積極的に行動及び協力されることを期待するものであると結んでいる。(中心協特別委員会名簿別添)

国際障害者年特別委員会委員名簿(60名)
(アイウエオ順)

氏 名

役   職

氏 名

役   職

秋山ちえ子 身体障害者自立情報センター常務理事 高瀬安貞 元淑徳大学教授
浅野賢澄 日本民間放送連盟会長 高野啓吾 日本労働組合総評議会生活局福祉事業対策部長
天野要 日本身体障害者団体連合会副会長 竹島昭三郎 全日本聾[唖]連盟副連盟長
有馬眞喜子 中央心身協委員(フジテレビニュースキャスター) 太宰博邦 中央心身協委員(全国社会福祉協議会副会長)
稲田裕 中央心身協委員(建設事務次官) 谷藤正三 都市計画協会常務理事
飯田進 心身障害児福祉協議会総合対策委員長 津田文吾 中央心身協委員(㈱テレビ神奈川取締役会長)
磯部清 中央心身協委員(身体障害者雇用促進協会副会長) 登丸福寿 中央心身協委員(日本精神薄弱者愛護協会評議員)
伊丹川善通 日本傷痍軍人会専務理事 冨田武忠 前全日本中学校長会会長
江尻進 日本新聞協会専務理事 高橋 元 中央心身協委員(大蔵事務次官)
大友よふ 全国地域婦人団体連絡協議会会長 中西陽一 全国知事会副会長
岡崎平夫 全国市長会会長 仲野好雄 全日本精神薄弱者育成会理事長
小川勇 前全国連合小学校長会会長 中村四郎 中央心身協委員(運輸事務次官)
尾村偉久 国立小児病院名誉院長 新田輝一 全国脊髄損傷者連合会顧問
[葛]西嘉資 中央心身協委員(身体障害者福祉審議会会長) 深草克己 日本民営鉄道協会理事長
河端二男 全国心身障害児福祉財団常務理事 藤原正人 国立久里浜養護学校長
川村伊久 全国精神障害者家族連合会理事長 古垣鐵郎 日本ユニセフ協会会長
川村皓章 中央心身協委員(総理府総務副長官) 堀口申作 東京医科歯科大学名誉教授
木下茂徳 日本建築学会副会長 松島静雄 中央心身協委員(東京大学教授)
細野 正 中央心身協委員(労働事務次官) 三木安正 中央心身協委員(東京大学名誉教授)
小池欣一 日本赤十字社副社長 宮尾 修 障害者の生活保障を要求する連絡会議代表委員
五島貞次 中央心身協委員(東洋大学教授) 村谷昌弘 日本盲人会連合会長
小宮山倭 武蔵野音楽大学名誉教授 諸澤正道 中央心身協委員(文部事務次官)
斉藤勇一 日本国際連合協会常務理事 石野清治 中央心身協委員(厚生事務次官)
坂本常蔵 全国町村会会長 矢島せい子 障害者の生活と権利を守る全国連絡協議会会長
坂本朝一 日本放送協会会長 山口 薫 中央心身協委員(東京学芸大学教授)
重田喜孝 全日本労働総同盟生活福祉局次長 山田雄三 中央心身協委員:会長(一橋大学名誉教授)
下川常雄 日本経営者団体連盟常任理事 橋元雅司 日本国有鉄道常務理事
下田 巧 全国特殊教育推進連盟理事長 吉武泰水 中央心身協委員(九州芸術工科大学学長)
関 成一 経済団体連合会専務理事 若松榮一 国立身体障害者リハビリテーションセンター総長
妹尾 正 国立秩父学園長 和田勝美 中央心身協委員(全国勤労青少年会館館長)

厚生省社会局更正課身体障害者専門官


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
リハビリテーション研究」
1982年3月(第39号)8頁~12頁

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