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国際障害者年と私

ヨーロッパにおける研修を通して

三平 勇

 はじめに

 1981年は「国際障害者年」という事で、一般社会に対する啓蒙と障害者自身の意識を高揚させる為の各種の活動が活発に行われ、それなりの成果を挙げる事が出来たと思われます。

 しかし、障害者が平等な立場の下に社会参加を果たす事は、過去の長い歴史の中で取り上げられて来たにも拘らず、その実現には程遠いものがあっただけに、一挙にこれを解決し実現させる事はかなり困難な事ではないかと思われます。この事は障害者年を契機として、今後実践しようとしている長期行動計画の中で推進されて行かなければならない事になりますが、恐らく多くの壁に突き当たるものと思われます。

 私も一人の障害者として40年にわたる生活の中で、改めて自己の障害を認識すると共に、社会参加がどのように為されて来たかを顧みる良い機会でありました。特に視覚障害者のリハビリテーション業務の一端を担う立場にありますだけに、その感を強くした次第です。

 とかく障害者は狭い殻の中に閉じ込もりがちであり、広い視野で世界を観る事が出来ないという傾向にある事も自覚しておりましたので、障害者年という機会に少しでもそれを解消し、今後の生き方に軌道修正を図る必要もあると感じ、機会を得てヨーロッパ特にフランス・イギリスの視覚障害者の現状を見聞して参りました。しかし短期間であった為、十分な研修を積む事は出来ませんでしたが、やはり「百聞は一見にしかず」という言葉を身を以て味わう結果となりました。

 このたび執筆の依頼を受けましたので、研修報告を兼ねその一部を報告し、併せて私の感想を述べさせていただく事に致します。

 フランス及びイギリスにおける視覚障害者の職業について

 両国とも高等教育を受ける事の出来る能力を持った視覚障害者の職種については、我が国と比べてみて確かに豊富で、歴史的な実績があるため社会への受け入れも円滑に行われているという印象を受けました。例えば、盲学校に限らず一般学校の教師、法律家、企業経営者、管理オフィサー、速記秘書、電話交換手、社会福祉施設職員、ソーシャルワーカー、コンピュータープログラマー、マッサージ師や理学療法士、その他多種多彩で、これらは我が国に於ける一般大学卒業者の現実にはかなり限定されてしまう進路の状況から見ると大きな差があるように思われます。その理由の1つには、盲学校から一般上級学校への門戸が開放されており、自分の希望を生かす環境に恵まれている事にあると思います。その点、遅々として進まない我が国の現状に対し、早急な改善を図る必要があると痛感致します。

 一方、それらエリート以外の一般視覚障害者に対しては、それほど職種があるとは感じられませんでした。即ちほとんどが簡易な手作業のたぐいですが、社会の理解によってその製品の販路が十分確立されており、安心して業を営めるという点は我が国と異なる事情ではないかと思われます。

 就業率の面から見ますと、フランス(人口約5300万人のうち視覚障害者約9万人で全盲者は約4万人)では全視覚障害者の15%程度であり、イギリス(人口約5600万人のうち約10万人)でもほぼ同程度との事ですが、老齢者率がフランス55%でイギリス60%、それに対し幼児は15%という数字を見てもわかりますように、高齢化社会を迎えて視覚障害者対策も当然その方面にウェイトがかかる事となり、その分だけ職種開拓への施策が力を削がれているように思われます。職種開拓の方面に関しては、我が国の場合もフランスやイギリスと大差なく、視覚障害者に可能な一般職種への幅広い進出が望まれるわけですが、企業の雇用率はまだ低く、受け入れがスムーズに行われない点がフランスやイギリスの場合と異なり、その点が今後の問題でもあります。

 ただし我が国においては視覚障害者の就業者のうち約半数が従事している「あん摩マッサージ指圧・はり・きゅう」という昔からの職業の存在が、諸外国には見られない極めて大きな特色といえます。視覚障害者の職業的な更生施策がヨーロッパにおいてすら全く顧みられていなかった17世紀の頃に、我が国においては当時の幕府が盲人の職業教育のために全盲の奥医師杉山和一を指導者として全国に鍼治講習所を設置させている事は、正に世界における視覚障害者の職業リハビリテーションの先駆として誇りうる事であり、その伝統が今日全国の盲学校・視力障害センター並びに私共の国立リハセンター理療教育部に引き継がれ、前述のとおり世界に類を見ない特色ある存在となっている事を思います時、この伝統ある職業を将来とも視覚障害者の手から離れないよう維持してゆくために、皆が新たな自覚と認識とを持たなければならないと痛感致します。もっとも、これのみを金科玉条の如く評価し、能力や適性の有無を無視して総ての視覚障害者をこの業に就かせればよいとする安易な考え方は問題です。イギリスには今日視覚障害者で医療に携わろうとする者のために王立全国盲人協会(RNIB)が経営する「北ロンドン理学療法学校」があり、同校出身の理学療法士は英国内では高い評価を得て睛眼者に互して活躍しており、病院のみならず独立開業も可能になっております。私は同校卒業生で開業している全盲の理学療法士を紹介されて訪問し、有益な意見交換を行って参りました。その中でも、同校及び同校卒業生が今日の高い位置付けを得ているのは、長い歴史を通して能力と適性のある者のみを厳選してきた事が大きな理由である事を伺い知る事が出来ます。従って、我が国の視覚障害者のあん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師においても、その存続と発展のためには同じ理念の下に能力と適性を重視されねばならないと考えられますが、その厳選主義の結果、当然はみ出される能力や適性の無い者も居るわけですが、その人達のための対策を講ずる必要性も生じてきます。そのためにも先に述べた新しい職種の開拓が急務となってくるわけです。

 おわりに

 以上の報告は極めて小範囲にすぎないものですが、これらの事実を通して受けた印象は、フランス及びイギリスにおいては障害の有無にかかわらず「人間尊重」という思想が貫かれている事です。従って障害者個人のニードをとらえ、それに基づいた職業的リハビリテーションが綿密なプログラムの下になされているという事が解りました。

 我が国においては、この点は一部障害者の職業訓練の中で取り上げられている事はありますが、特に視覚障害者においては極めて乏しいものがあるように思います。あん摩マッサージ指圧・はり・きゅう以外の職業を希望するものに対し、いわゆる「ワークショップ」的なものさえも確立されておらず、更にそれ以前の問題として、可能な職種の研究ですら遅々として進んでいない状況であります。今後、視覚障害者の職業的リハビリテーションを推進してゆくにあたり、この点から早急に手をつけて一日も早くその体制作りに着手しなければならない事を強調したいものであります。

国立身体障害者リハビリテーションセンター理療教育部長


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1982年3月(第39号)24頁~25頁