小鴨英夫*
イギリスでは1978年5月にウォーノック委員会報告が教育科学大臣に提出され、今後の心身障害児童・青少年の特殊教育のあり方が答申された。政府はこれにこたえて今後の特殊教育に関する政策、立法の方向を示した政府白書「教育における特別なニーズ」(Special Needs in Education)を1980年8月に公表した。そしてこの政府白書の提言は、今回1981年10月30日に成立した新法、「1981年教育法」に盛り込まれている。
そこで本稿では、政府白書を中心にして、新法成立までの経過をたどり、この法律の中に含まれている考え方をとらえてみたい。
白書はまずイギリスの障害児教育の現状を、「現在の法的状況」および「現在現われてきている傾向」として次の諸点から把握している。
(1)障害の範囲、複雑化
障害児教育の現行制度の枠組は、1944年教育法が基盤となっているが、この法が制定されてから既に35年以上経過しており、その間障害の範囲がかなり変化を示している。医療、経済および社会の変化の結果、ある種の障害、例えば、くる病による奇型などは減少してきたが、他方適応上の障害などがかなり一般的なものとなっている。
こうした障害の型の変化とともに、障害の複維化も顕著となり重複障害児の増加を示している。身体障害児の中には感覚的な損失を伴うものがあり、その結果、その子どもの学習上の障害が複維化してきている。このような事例は、個々の障害に基づいたカテゴリー区分に合わせるのは、困難なものであり、何れか一つのカテゴリーを超えた教育的取り扱いを必要としている。例えば、中度精神薄弱児に言語治療や理学療法や聴覚障害のための特別サービスを提供し、効果をあげている実践例もある。そして障害の分析評価に当たっては、教師、心理学者、ソーシャルワーカー、医師、看護婦といった多方面の専門的分析評価がなされている。また非常に早い時期から障害児の変遷するニーズに対し、継続的に注意が払われ、その重要性についてますます認識が高まってきていること、このことは幼児の家庭を訪問し両親を援助し助言を与えるばかりでなく、例えば聴覚障害児について親がその子を教えることができるよう援助することにつながっている。結果的には親は、その子のニーズの評価分析や現実の子どもの教育に、ますます密接にかかわるようになってきている。学校においても障害児の発達を継続的に観察し、定期的に分析的評価を実施している。
(2)統合教育
障害児のための分離措置に対する社会の人々の態度に顕著な変化がおこっている。教育については統合教育を促す方向に進んでいる。多くの地方教育当局や教員が一般の学校であらゆる年齢層のとりわけ身体及び感覚障害の生徒の統合教育に取り組んでいる。これらの児童生徒は初等、中等学校の普通学級、特殊学級あるいはユニットにおかれており、多くの学校やカレッジの建物は、よりよいアクセスや便宜を与えるよう改造されている。そして多くの地方教育当局は一般校の中に、広い範囲にわたる特別なニーズをもつ児童のための専門家の指導および援助を提供するリソース・援助ユニットを設けようとしている。
(3)特殊教育の概念
多くの教育上の意見として、今や特別な教育上の取り決めは、ずっと広い範囲の子どもたちにまで広げられるべきであるという考えを受け入れている。ウォーノック委員会は将来の施策の基礎として、子どもの特別な教育上のニーズに焦点を当てて、障害を身体的、知的、もしくは情緒的な障害の原因よりも広い概念を提言した。
(4)親の影響力
親の影響力は、多くの親が学校の支配者となるように増大していくであろうと考えている。
(5)障害児の減少
障害児の教育は人口減少の影響を少なからず受けるであろうとみている。イギリスでは最近、子どもの出生率が低下し、現在、全学齢児童生徒数は900万人であるが、1980年代はその傾向を持続するとしても、10年後には、およそ150万ないし、200万人は減少することが考えられている。また、医学の進歩、早期発見が徹底することで障害児の出現率も低くなると予想される。
次表は、1979年1月現在のイングランド、ウェールズにおける特別な教育上の取り扱いを必要とする児童の数である。この数には、一般の学校に通学している障害児は含まれていない。
盲 | 1,168 |
弱視 | 2,819 |
ろう | 4,115 |
難聴 | 7,256 |
肢体不自由 | 16,677 |
身体虚弱 | 6,893 |
不適応 | 22,402 |
教育的遅滞(ESN) | 119,005 |
てんかん | 1,689 |
言語障害 | 2,972 |
合計 | 184,996 |
人口動態統計の傾向から一般校も特殊学校も共に特別なニーズをもった児童生徒数が減少することは、明らかである。結果として、特殊学校は次第に役割を減じていくことに関連した問題に直面するであろうとみている。しかしウォーノック報告では、特殊学校の役割を強化し、廃止したり縮小すべきではないこと、特殊学校の施設および教育技術は、短期間集中的な特別の援助を用意し、より広く活用されること、また近隣の一般学校に対しては、リソース・センターとして活用されるといった機能を果たすなど質的な転換をなしとげ、その役割を担うよう提案している。
以上のようなイギリスの障害児教育の現状に対し、次に政府の考え方、提言について述べてみよう。
(1)特別な教育ニーズの概念
障害のカテゴリー区分は、現在、盲、ろう、教育遅滞、不適応などに分類され、すべての障害児は、ただ一つの障害を有していることが仮定されているが、現実には多くの児童は複数の障害を有しており、単一の分類では児童生徒のニーズの医学的、心理学的、教育的および社会的側面を一斉に記述することはできないことを指摘し、ウォーノック報告で提言されたように、身体的、感覚的、知的障害もしくは情緒障害あるいは行動上の障害によって引き起こされるニーズを包括するところの、より広い概念を提言している。
従前は特別の教育的取り扱いを必要とする障害児童生徒の範囲は、「1959年障害児童生徒および特殊学校規則」で定められ、10の障害カテゴリーに分類されていた。ウォーノック報告では、特別な教育方法が確立している盲とろうを除いては、こうした分類は役に立たないこと、障害の分類を超えて具体的ニーズに応じた特別な教育措置を要する子どもは多く、特殊教育の範囲は障害の別を離れて、より広いものに構成されなければならないとしている。そして現在教育的遅滞(ESN)と分類される子どもと、治療教育の対象となっている子どもを包括した「学習上の障害をもつ児童」(Children with learning difficulties)という概念や、情緒あるいは行動的問題をもつ者を包括するより広い概念が必要であることを提案している。これまで行われてきた各種の調査結果を分析すると、6人に1人の割合で何らかの特別な教育措置を要する子どもがいると想定されている。
(2)記録システム、親の不服申立て
政府白書では、重度・重複障害児を主とし、その児童生徒のニーズを確認し、そのニーズを満たす方法を確定するために、「記録するシステム」(System of recording)を提言している。
地方教育当局はその子どもを記録すべきか否かを決定し、当該児童生徒の親は、判定について質問する権利、そして当局が親の希望に応じなかった場合の不服申立ての権利を有することになっている。
この記録は、二つの部分からなっている。一つは多専門分野にわたる専門家の評価で、特殊教育のニーズについて記述したものであり、他は地方教育当局がこれらのニーズを満たすために行うべきであると提言する教育上の取り決めを設定するものである。
親は自分の子は記録されるべきではないと主張し、地方教育当局がこれを受け入れない場合、その親は不服審査委員会(Appeals committee)に訴える権利をもつ。この不服審査委員会は1980年教育法で設けられたところの全般的な不服申立てを処理する委員会であるが、同白書は、特に、障害児の特別な教育措置にかかわるものについて述べている。すなわち地方教育当局は、記録を作成すると、その記録に述べられた特別な教育上の取り扱いを実施する責務をもつが、この責務は当該児童を普通学校(その学校の特殊学級を含む)や特殊学校のうちから特定する学校に就学させることから遂行される。親はその指定された学校(または学級)に異議がある場合、1980年教育法の定める不服審査委員会に訴えることができる。ただし、状況が極めて特殊で、かつその決定には、財源等との絡みが強くある場合、同委員会の審査結果は、地方教育当局を拘束するものではなく、同当局への提言という性格をもつものとされている。
(3)インテグレーション
インテグレーションについても新たな提言がなされ、すべての記録されない児童生徒(non-recorded children)は、一般学校で教育を受けることとした。
そして記録されている児童生徒も、普通学校の施設が適切なものであり、他の児童生徒の十分な教育や公共資源の使用と両立するならば、そして両親の希望が適切と考えられるならば、一般学校で教育を受けるべきであるとしている。
政府は先の白書の中で、障害児を普通の学校に統合するという計画や賢明な統合のプロセスは継続するつもりであるが、重度障害児はこれらが完全にそのニーズのために用意できなければ普通学校に就学を強制させてはならないこと、更に政府の見解として、特殊学校や学級に場所を用意する必要が今後もあること、そして他の特殊な取り決めをすること、例えば非常に重度な障害児のためには、家庭や病院での教育を通して行うことの必要が続いてあることとしている。
この法律は、前に述べたウォーノック報告で提示された数多くの勧告のうち実現に当たって立法措置が必要なものについて定めたものである。
本文は以下の通りである。
特別な教育ニーズをもつ児童に関する規定を定める法律 〔1981年10月30日裁可〕
序文 |
第1条 「特別な教育ニーズ」および「特別な教育措置」の意味
(1) この法律の目的のために、特別な教育措置を要する学習上の障害をもつ児童は、「特別な教育ニーズ」をもつという。
(2) 第(4)項に従い、以下の場合、その児童は、「学習上の障害」をもつという。
(a) 同年齢の大多数の児童よりも、学習上、著しく大きな障害をもつ場合
(b) 当該地方当局の管轄区域内で、同年齢の児童のために学校で一般に用意されている種類の教育施設設備の使用を妨げるような能力上の障害をもつ場合
(c) 現在5歳未満であって、それ以上の年齢になったときに、前(a)、(b)の何れかに含まれる可能性があり、または特別な教育措置が講ぜられなければ、そのようになると思われる場合
(3) 「特別な教育措置」とは
(a) 2歳以上の児童に関しては、当該地方教育当局が維持する学校で、一般に同年齢の児童のために講ぜられている教育措置に追加してとられる教育措置、またはそれとは異なる教育措置、および
(b) 2歳未満の児童に関しては、あらゆる種類の教育措置をいう。
(4) 児童が教育を受ける際に現在用いられている言語、または将来、用いられる言語(または、言語の表現形式)が、家庭でいつでも話されてきた言語(または言語の表現形式)と異なるという理由からだけでは、学習上の障害をもつとはみなされない。
特別な教育の提供 |
第2条 特別な教育の提供:地方教育当局等の義務
(1) 1944年教育法第8条第(2)項(初等および中等学校の設置を確保する義務を履行するにあたり地方教育当局が一定の事項に考慮するよう求める項)(c)号を次の号に置き換えるものとする。
「(c) 特別な教育ニーズをもつ生徒のために特別な教育措置が講ぜられるよう保障する必要性に;および」
(2) 地方教育当局がこの法律の第7条に基づき判定書を維持している児童のために特別な教育措置を取り決める場合、次項(3)にあげた条件が満たされたとき、その児童が通常の学校で教育を受けることを保障することは同当局の責務とする。
(3) 前項の条件とは、第7条に従い、その児童の親の見解をしんしゃくしたこと、および通常の学校でその児童を教育することが、
(a) その児童が必要とする特別な教育措置を受けること、
(b) その児童と一緒に教育を受けることになる児童のための効果的な教育の提供、および
(c) 財源の有効な利用
と両立するものであることである。
(4) 特別な教育措置のために地方教育当局が行った取り決めを継続して検討することは同当局の責務とする。
(5) (a) 学校に関連した職務を遂行するにあたり、同校在籍生徒のうち、特別な教育ニーズをもっている者がいるとき、その生徒のために必要とされる特別な教育措置が講ぜられることを保障するために、最善の努力をすること、
(b) 責任ある者が、ある在籍生徒が特別な教育ニーズをもつ旨を地方教育当局から通知された場合、そのニーズがその生徒の指導にあたると思われるすべての者に知らされることを保障すること、および、
(c) 学校の教員が特別な教育ニーズをもつ在籍生徒を確認し、その者のための措置をとることの重要性を認識することを保障すること、
は、県立学校または有志立学校にあっては、理事者の、また、地方教育当局が維持する保育学校にあっては、同学校を維持する当該当局の責務とする。
(6) 前項(5)(b)の「責任ある者」とは、
(a) 県立学校または有志立学校にあっては、校長または特定の理事(すなわち、理事長、または、理事会がこの号の目的のために他の理事を指定した場合はその理事)および、
(b) 保育学校にあっては校長である。
(7) 特別な教育ニーズをもつ児童が、地方教育当局の維持する通常の学校で教育を受けている場合、第(3)項の各号に掲げる事項と両立し、かつ、合理的に実行可能である限り、その児童が特別な教育ニーズをもたない児童と一緒にその学校の諸活動に加わることを保障することは、その児童のために特別な教育措置を講ずる関係者の責務とする。
第3条 学校以外での特別な教育措置
地方教育当局が管轄区域内の特別な教育ニーズをもつ児童に関連して、その児童のために必要とされる特別な教育措置の全部または一部が、学校で講ぜられることは適当でないことを納得したとき、同当局は、児童の親の意見を聞いた後、その全部または一部が学校以外で講ぜられるよう措置することができる。
特別な教育ニーズをもつ児童の発見確認および分析評価 |
第4条 地方教育当局が責任を負う児童に対する同当局の一般的責務
(1) 地方教育当局が責務を負う児童のうち、特別な教育ニーズをもつため、その者のために講ぜられるべき特別な教育措置を決定することを要する児童が当局によって発見確認されることを保障することを目的として、この法律に基づく地方教育当局の権限を行使することは、すべての当局の責務とする。
(2) この法律の目的のために、地方教育当局は管轄区域内におり、かつ、
(a) 同当局が維持する学校の生徒として在籍し、または1953年教育(雑則)法第6条に基づき、同当局が行った取り決めに従って同当局または別の地方教育当局が維持していない学校の生徒として在籍する児童、または、
(b) 特別な教育ニーズをもっている、またはその可能性があるものとして同当局が注意を喚起されており、かつ、
(i) ある学校の生徒として在籍するが前項(a)には該当しない、または、
(ii) 学校の生徒として在籍せず、かつ2歳未満でない、もしくは義務教育年齢を超えていない
児童に責任を負う。
第5条 特別な教育ニーズの分析評価
(1) 地方教育当局が責任を負う児童について、同当局が、
(a) その児童が特別な教育ニーズをもち、そのため同当局がその者のために講ぜられるべき特別な教育措置を決定しなければならない、または、
(b) その児童が前項の種類の特別な教育ニーズをもつ可能性がある、
と考える場合、同当局は、本条に基づき、その教育ニーズの分析評価を行わなければならない。
(2) 本条に基づく分析評価は、この法律の以下の規定に従い行われるものとする。
(3) 地方教育当局が本条に基づく児童の教育ニーズの分析評価を行う旨の提議をするとき、同当局は、その前にその児童の親に通知を送達し、
(a) 同当局が分析評価を行う旨の提議をすること、
(b) その分析評価を行うに当たり、とられる手続、
(c) 追加の情報を求めることができる当局職員の氏名、および、
(d) 同当局に対し、通知に定める期間内(この期間は、通知が送付された日から起算して29日を下回ってはならない)に異議を申し立て、また文書による証拠を提出することができる親の権利、
を告知しなければならない。
(4) 地方教育当局が前項(3)に基づく通知を送達し、同項(d)号に従い、同通知で定める期間が経過した時に、通知に応えてなされた異議申立て、および提出された証拠をしんしゃくした後、適当であると考えたとき、同当局は当該児童の教育ニーズを分析評価しなければならない。
(5) 地方教育当局が本条に基づく分析評価を行うことを決定した場合、同当局は、児童の親に書面をもってその決定および分析評価を行う理由を通知しなければならない。
(6) 本条に基づく児童の教育ニーズの分析評価を行った後に、地方教育当局がその児童のために講ぜられるべき特別な教育措置を決定する必要はないと決定したとき、親は大臣に書面で不服申立てをすることができる。
(7) 前項(6)に該当する場合、地方教育当局は親に書面で同項に基づく不服申立て権のあることを知らせなければならない。
(8) 第(6)項に基づく不服申立てについて、大臣は適当と考えたとき、地方教育当局にその決定を再検討するよう命ずることができる。
(9) この法律の附則1第Ⅰ節の規定は、本条に基づく分析評価に関して効力を有する。
(10) 第(3)項に基づく通知を送達した後に、地方教育当局が、当該児童の教育ニーズを分析評価しないと決定した場合は、いつでも同当局は親に書面でその決定を通知しなければならない。
第6条 2歳未満の児童の特別な教育ニーズの分析評価
(1) 地方教育当局が管轄区域内の2歳未満の児童について
(a) その児童が特別な教育ニーズをもち、そのため同当局がその者のために講ぜられるべき特別な教育措置を決定しなければならない、または、
(b) 前項の種類の特別な教育ニーズをもっている可能性がある、
と考える場合、同当局はその児童の親の同意を得て教育ニーズの分析評価を行うことができ、また親の要請によりこれを行わなければならない。
(2) 本条に基づく分析評価は、地方教育当局が適当と考える方法で行うものとする。上記の分析評価を行った後、同当局は適当と考える方法で、その児童の特別な教育ニーズについての判定書を作成し、これを維持保管することができる。
第7条 児童の特別な教育ニーズの判定書
(1) 第5条に基づき、ある児童に関した分析評価が行われた場合、その児童に責任を負う地方教育当局は、その者のために講ぜられるべき特別な教育措置を決定すべきであると考えるとき、この法律の以下の規定に従い、その特別な教育ニーズについての判定書を作成し、これを維持保管するものとする。
(2) 地方教育当局が本条に基づき、児童に関する判定書を維持保管する場合はいつでも、その児童の親が適切な用意をしていない限り、その判定書で特定された特別な教育措置がその児童のために講ぜられるように取り決めることは、同当局の責務とする。
(3) 前項にいう判定書を作成する前に、地方教育当局は当該児童の親に、
(a) 判定書案の写し、および
(b) 第(4)項から第(7)項までの効力についての解説書
を送付しなければならない。
(4) 前項(3)(a)に基づき判定書案の写しが送付された親が、その判定書案の何れかの部分に異議のあるとき、その親は相当な期間が経過する前に
(a) 当局に対し、判定書案の内容について異議申立て(または、追加の異議申立て)を行うこと、
(b) 当局に親と当局担当官との間で判定書案を討議することができるような会議を設定するよう要求すること、
ができる。
(5) 前項(4)(b)に基づき、地方教育当局によって設定された会議に出席した親が、当該分析評価の何れかの部分に異議がある場合、その親は、相当な期間の経過前に、同当局に次項に基づく会議を設定するよう要求することができる。
(6) 地方教育当局が前項に基づき正当になされた要請を受理した場合、同当局はその判断で親が適切な助言を適当な者と討議することができると思われる会議を設定しなければならない。
この項において、「適切な助言」とは、分析評価に関連して同当局に与えられた助言で、その分析評価のうちの親が異議を唱える部分に適切であると当局が判断するような助言をいう。
「適当な者」とは、適切な助言を与えた者、または、親と適切な助言を討議するのに適当な者であると当局が考える他の者をいう。
(7) 本条において「相当期間」とは、
(a) 第(4)項(b)に基づく要請の場合、第(3)項(b)でいう判定書が親に送付された日から、
(b) 第(5)項に基づく要請の場合、第(4)項(b)に基づき設定された会議のために定められた日から、
(c) 第(4)項(a)に基づく異議申立て、または追加の異議申立ての場合、
(i) (a)にいう日から、または、
(ii) 会議が前項までの規定に基づき設定されたときは、最後の会議のために定められた日から、
起算して15日の期間をいう。
(8) 地方教育当局に前項の種類の異議申立てがなされた場合、同当局はその異議申立てをしんしゃくした後、
(a) 初めに提案した形で判定書を作成する、
(b) 修正した形で判定書を作成する、または
(c) 判定書を作成しないこととする
ことができ、その決定は親に書面で通知されるものとする。
(9) 本条に基づき判定書を作成したとき、地方教育当局は、当該児童に、
(a) 判定書の写し
(b) 判定書に特定されている特別な教育措置に対して、この法律の第8条第(1)項に基づき不服を申し立てることができる親の権利に関する通知書、および
(c) 親が児童の特別な教育ニーズについての情報および助言の提供を求めることができる者の氏名についての通知書
を送付しなければならない。
(10) 大臣は、本条に基づき判定書が維持保管されている児童に関し、分析評価を反復実施する頻度を規則で定めることができる。
(11) この法律の附則1第Ⅱ節の規定は、本条に基づき作成された判定書に関して効力を有する。
第8条 判定書に対する不服申立て
(1) 地方教育当局は、前第7条に基づき同当局が判定書を維持保管している児童の親が第5条に基づく児童の教育ニーズの最初の分析評価、または、その後に行われた分析評価の結果を受けて、判定書で特定されている特別な教育措置に対し不服申立てをすることができるように手配するものとする。
(2) 本条によるいかなる不服申立ても、1980年教育法附則2第1節第1条に従い、不服審査委員会に付託される。
(3) 1980年教育法附則2の第2節は、本条の不服申立てに関して効力を有する。但し、次の修正を加えるものとする。
(a) 第7条(不服審査委員会がしんしゃくすべき事項)は、(a)項および(b)項を「1981年教育法第7条に基づき不服申立て人によってなされた異議申立て」と読み替えて適用するものとする。
(b) 第9条(b)項(学校理事者に通告されるべき裁定)は適用しない。
(c) 1980年法第7条への論及は、本条への論及に置き換えるものとする。
(4) 本条による不服申立ての陳述を聴取した不服審査委員会は、
(a) 判定書で特定されている特別な教育措置を追認する、または、
(b) 事件を地方教育当局に差し戻し、委員会の所見に照した再審査を求める、
ことができる。
(5) 不服審査委員会が事件を地方教育当局に差し戻した場合、同当局は、委員会の所見に照して再審査し、その決定を書面で不服申立て人に通知するものとする。
(6) (a) 不服審査委員会が、児童のために講ぜられるべき特別な教育措置に関する地方教育当局の決定を追認した場合、または、
(b) 地方教育当局が第4項(b)に基づき差し戻された事件での同当局の決定を不服申立て人に通知した場合
においては、不服申立て人は書面で大臣に異議を申し立てることができる。
(7) 前項(6)に基づく異議申立てについて、大臣は当該地方教育当局の意見を聴取した後
(a) 判定書で特定されている特別教育措置を追認する、
(b) 判定書を、特定された特別な教育措置の部分に限って修正し、かつ、大臣が適当と考える派生的なその他の修正を施す、または、
(c) 地方教育当局に判定書の維持保管をやめるよう命ずる、
ことができる。
第9条 分析評価の要請
(1) 地方教育当局が責任を負うが、第7条に基づく判定書が同当局により維持保管されていない児童の親が、同当局に児童の教育ニーズについて分析評価を行うよう手配をすることを要請したとき、同当局はその要請が不当であると考えない限り、これに従わなければならない。
(2) 地方教育当局が第7条に基づき判定書を維持保管している児童の親が、同当局に第5条に基づく教育ニーズの分析評価の手配を要請し、かつ、その要請のあった日からさかのぼって6か月以内に上記の種類の分析評価が適当でないと納得しない限り、その要請に従わなければならない。
第10条 保健当局の親への告知義務
(1) 地域保健当局または地区保健当局が5歳未満の児童に関する職務を遂行する過程で、その児童が特別な教育ニーズをもっている、またはその可能性があると考えるに至ったとき、同当局は、
(a) その親に、同当局の意見および本条に基づく同当局の義務を通知し、
(b) 当局担当の職員とその意見について討議する機会を親に与えた後、適当な地方教育当局の注意を喚起しなければならない。
(2) 前項に該当する場合、特定の有志団体が、児童がもっていると思われる特別な教育ニーズに関連した助言または援助を親に与えることができる見込みがあると保健当局が考えたとき、同当局は親に相応の教示をしなければならない。
特殊学校および認可された独立学校 |
第11条 特殊学校および認可された独立学校
(1) 1944年教育法第9条(県立学校、有志立学校、保育学校および特殊学校)第(5)項を次のように改める。
「(5) 特別な教育ニーズをもつ生徒のための特別な教育措置を講ずるために特別に組織された学校および大臣により当分の間、特殊学校として認可されている学校は、特殊学校として周知せしめられるものとする。」
(2) 義務教育年齢にあり、かつ、地方教育当局によりなされた取り決めに従って特殊学校の生徒としての学籍が与えられている児童の親は、その地方教育当局の同意なくして児童を退学させてはならない。但し、同当局が同意を拒否したことに不服な上記の親は、大臣にその問題についての判断を求めることができ、大臣はこれに適当と考える指示を与えるものとする。
(3) 地方教育当局が第7条に基づき、児童のために判定書を維持保管する場合、同当局は独立学校においては、
(a) その学校が当分の間、第7条に基づき、判定書が維持されている児童の入学に適切であると大臣により認可されている、または、
(b) 大臣が同校でその児童が教育を受けることに同意している、
のでない限り、その児童の教育措置のための手配をすることはできない。
第12条 特殊学校の認可(省略)
第13条 独立学校の認可(省略)
第14条 地方教育当局の維持する特殊学校の閉鎖(省略)
就学命令 |
第15条 就学命令案;学校の選択
(1) 本条は、
(a) 地方教育当局が、1944年教育法第37条に基づき児童の親に就学命令を送達することを提議する場合、および、
(b) 同当局が第7条に基づき、その児童の判定書を維持保管する場合、
に適用する。
(2) 就学命令は、親に次の事項を書面で通知した日から起算して15日を経過するまでは送達されないものとする。
(a) その命令を送達する意思のあること、
(b) 上記の期間内に親がその児童を在籍させたいと希望する学校を選択するときは、大臣が別段の指示をしない限り、その学校が命令で指定されること、
(3) 前項の期間経過前に親が学校を選択する場合、その学校は大臣が別段の指示をしない限り、就学命令で指定されるものとする。
(4) 地方教育当局が、
(a) 就学命令で指定されるべき学校として親の選択した学校が児童の年齢、能力、適性または特別な教育ニーズにふさわしくない、または、
(b) 選択された学校への児童の就学が、効果的な教育の提供または財源の有効な利用を妨げる、
と考えるとき、同当局は、親にその意図を通告した後、大臣に就学命令で指定されるべき学校を確定する指示を求めることができる。
(5) 前項に基づくいかなる指示も、大臣がその決定の結果から必要または適当であると考える修正を当該児童の判定書に施すよう地方教育当局に命ずることができる。
(6) 本条に基づき、大臣が与えた指示に従って就学命令で指定されることになった学校が地方教育当局の維持する学校である場合、その学校にその児童を入学させることは同当局および同校の理事者の責任とする。
第16条 就学命令の修正および取消し
(1) 本法は、
(a) 地方教育当局が1944年教育法第37条に基づき児童の親に就学命令を送達した場合、および
(b) 同当局が第7条に基づき、その児童のために判定書を維持保管する場合、
に適用される。
(2) 就学命令が有効である間に、親が地方教育当局に、
(a) 就学命令で指定された学校を別の学校に替えること、または、
(b) 児童が学校以外で、その年齢、能力、適性および特別な教育ニーズにふさわしい効果的な全日教育を受けられるように既に措置がなされているという理由により、その就学命令を取消すことを求める申請をしたとき、同当局は、
(i) 就学命令で指定されるべき学校として親の選択した学校が児童の年齢、能力、適性または特別な教育ニーズにふさわしくない、または提議された学校の変更が児童の利益に反する、
(ii) その選択された学校に児童が就学することが効果的な教育の提供または財源の有効な利用を侵害する、または、
(iii) 学校以外では、その児童の教育のために十分な措置がなされていない、
と考えるのでない限り、その要請に従って、その就学命令を修正し、または取消さなければならない。
(3) 前項に基づいてなされた要請に従うことを当局が拒否したことに不服な親は、大臣にその問題についての判断を求めることができ、大臣はこれについて適当と考える指示を与えるものとする。
(4) 前項に基づく指示は、その決定の結果、必要または適当であると大臣が考える修正を当該児童の判定書に施すよう地方教育当局に命ずることができる。
(5) 本条に基づき、大臣によって与えられた指示に従い、就学命令で指定されていた学校に取り替わる学校が、地方教育当局の維持する学校である場合、同校にその児童を入学させることは、同当局および同校の理事者の責務とする。
雑則 |
(省略)
第17条 親の義務
第18条 医学的診察およびその他の診察に関する大臣の権限
第19条 規則
第20条 解釈および施行日
第21条 略称その他
附則 |
附則 1 特別な教育ニーズの分析評価および判定書
第Ⅰ節 分析評価
規則
第1条
(1) 大臣は、地方教育当局が分析評価にあたり求めるべき助言に関する規定を規則で定めるものとする。
(2) 前項に基づき定められた規則は、同項の通則を侵害することなく、地方教育当局に、医学、心理学ならびに教育上の助言および同規則で定めることができるその他の助言を求めるよう命ずるものとする。
(3) 大臣は、
(a) 分析評価の実施要領に関する、および
(b) 分析評価の実施に関して大臣が適当と考えるその他の事項に関する、
規定を規則で定めることができる。
受診
第2条
(1) 地方教育当局が分析評価を行う提議をする場合、同当局は、分析評価を受けるべき児童の親に通知を送達し、その通知で定めるところに従い児童を受診させるよう命ずることができる。
(2) 本条に基づき診察を受ける児童の親は、希望により、その診察に立会う権利がある。
(3) 本条に基づく通知は、
(a) 診察の目的を述べ、
(b) 診察が行われる時、および場所を定め、
(c) 追加の情報を得ることができる当局担当官を指名し、
(d) 親に、その希望する情報を当局に提出することができる旨を告知し、そして、
(e) 親に、診察に立会う権利について告知する、
ものとする。
(4) 本条に基づき通知が送達されたが、正当な理由がなく、この通知の求めていることに従わない親は、診察を行う時としてその通知で定められた時点において義務教育年齢を過ぎていない児童に関する通知であるときは、法令違反であるとして、即決判決により50ポンドを超えない罰金を科せられるものとする。
第Ⅱ節 判定書
判定書の様式
第3条
判定書は所定の様式により、かつ、所定の情報を内容とし、特に、
(a) 児童の特別な教育ニーズに関する当局の分析評価の詳細を記載し、
(b) そのニーズを満たす目的で講ぜられる特別な教育措置を特定する、
ものとする。
判定書の保存および公開
第4条
大臣は、判定書の保存、公開および移管に関する規定を規則で定めることができる。
判定書の再審査
第5条
この法律の第5条に基づく当該児童の教育ニーズの分析評価が行われたとき、判定書はすべて地方教育当局により、判定書の作成の時または先に行われた再審査の時から起算して12か月以内に、いかなることがあっても再審査されなければならない。
判定書の修正、その他
第6条
(1) 地方教育当局が判定書の修正または維持保管の中止を提議するとき、同当局は、その前に、当該児童の親に書面で、その提議の内容および本条に基づく親の異議申立て権に関する通知を送達しなければならない。
(2) 本条に基づいて通知が送達されたいかなる親も、その通知が送達された日から起算して15日以内に、当局に対し、その提議について異議を申し立てることができる。
(3) 地方教育当局は、本条に基づき申し立てられたいかなる異議も考慮しなければならず、またその異議申立てにかかわる提議について決定を下したときは、その決定を書面で親に通知しなければならない。
第7条
前条の規定は、地方教育当局が、その責任ではなくなった児童の判定書を維持保管しなくなる場合、または、判定書に施された修正が就学命令の作成、修正または取消しの結果として行われたものである場合には適用されない。
附則 2 経過規定
附則 3 小さな、結果として生じた修正
附則 4 廃止条項(以上、省略)
〔参考・引用文献〕略
*淑徳大学教授
(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1982年7月(第40号)11頁~21頁