調 一興*
本年1月、労働省職業安定局から発表された「重度障害者特別雇用対策研究会報告書」は、雇用対象として考えられる重度障害者は、少なくとも職場における日常生活動作は自立していることが前提である、としている。ここで注目していただきたい点は、“職場における日常生活動作”という表現である。単に日常生活動作という場合は、例えば衣服の着脱、補装具等の着脱、移動、食事、排尿・排便、入浴、書字等多様な側面がある。ところが、補装具の着脱や入浴等は家庭では介助または介護を要しても、職場では直接関係がない。また、移動の問題は多分に通勤手段や仕事場の環境の状況と相対関係で処理できる。以上の点をまず念頭にいれておいていただきたい。
ところで、本稿は雇用という限定された範囲ではなく、就労という中で介助(介護と介助という語には専門的な意味があるようだが、ここでは介助という表現で進めさせていただく)を要する重度障害者の就業の問題を検討することが主題である。私にこのテーマを与えた本誌の編集者の申し出に、私はいささかのとまどいを感じながらも「プログラマーの在宅就労などの仕事をやっているのだから、とにかく書け」という叱咤に負けて引きうけてしまい、後悔先に立たずと悔みながら筆をとっていることを正直に申し上げておきたい。このテーマは簡単なようで意外にむずかしいのである。
ひとくちに介助といっても、その内容は、たとえば寝たきりから一部介助まであって、どのあたりに焦点をおいて考えてみたらよいのか、よく考えてみると焦点のおきようはないのである。また障害者という場合は、心身の重複障害や精神薄弱なども含まれる。この点は私の一人角力のようであるから、ここではこれを除外して、重度身体障害者に限定させていただくことにした。さらにいえば、就労という言葉の意味がもうひとつ明確でないように思えてくる。国語辞典では、就労は「仕事につくこと」とあり、就業は「仕事を始めること」とある。ちょっと変な感じもするが、どちらも似たようなことである。そこで、ここは私なりに整理して、いわゆる作業活動的なものは除くこととした。以上、多少泣きごとめいたことを申し述べて本題に入ることにする。
私の所属する東京コロニーでは、在宅就労の問題を考えるために、昭和55年に在宅未就労者126人、在宅就労者50人の調査(人数はいずれも有効回答数)を行った。これは「在宅就労システムの実験的研究に関する報告書」として発表しているが、この中から就労者と未就労者の介護の関係を中心にとり出して紹介してみたい。在宅就労者と未就労者の障害分類をみると表1、表2のごとくである。なお、頸損者の比率がやや高いのは、全国頸損連絡会の協力をえて行った経緯からの結果である。次にそれぞれの日常生活動作の状況は表3、表4のとおりである。
障害名 年齢 |
脊髄 | 頸損 | ポリオ | 脊髄炎 | 脳性マヒ | 筋ジス | ※その他 | 不明 | 合計 | % | ||
20~39才 | 男 | 5 | 2 | 2 | 1 | 1 | 1 | 12 | 24.0 | 28.0 | ||
女 | 1 | 1 | 2 | 4.0 | ||||||||
30~39才 | 男 | 12 | 5 | 1 | 1 | 1 | 20 | 40.0 | 44.0 | |||
女 | 1 | 1 | 2 | 4.0 | ||||||||
40~49才 | 男 | 8 | 2 | 10 | 20.0 | 26.0 | ||||||
女 | 1 | 2 | 3 | 6.0 | ||||||||
年齢不明 | 男 | 1 | 1 | 2.0 | 2.0 | |||||||
小計 | 男 | 26 | 9 | 2 | 2 | 1 | 1 | 1 | 1 | 43 | 86.0 | |
女 | 2 | 1 | 4 | 7 | 14.0 | |||||||
合計 | 28 | 10 | 2 | 2 | 1 | 1 | 5 | 1 | 50 | |||
% | 56.0 | 20.0 | 4.0 | 4.0 | 2.0 | 2.0 | 10.0 | 2.0 |
100% |
※その他―右上腕切断・脊髄性小児マヒ・脊髄破裂・胸椎カリエス・先天性体幹機能障害
障害名 年齢・性別 |
頸損 | 脊損 | 脳性マヒ | 脊髄炎 | 脊 髄 カリエス |
ポリオ | その他 | (小計) | 不明 | 合計 |
% |
|
19才以下 | 男 | 2 | 1 | 3 |
2 |
|||||||
女 | ||||||||||||
20~29才 | 男 | 33 | 2 | 3 | 1 | 6 | 2 | 41 |
41 |
|||
女 | 4 | 1 | 2 | 1 | 4 | 2 | 10 | |||||
30~39才 | 男 | 23 | 1 | 1 | 2 | 2 | 27 |
30 |
||||
女 | 2 | 1 | 1 | 1 | 1 | 3 | 7 | 2 | 11 | |||
40~49才 | 男 | 5 | 1 | 2 | 3 | 1 | 9 |
16 |
||||
女 | 4 | 3 | 1 | 3 | 7 | 11 | ||||||
50才以上 | 男 | 9 | 1 | 1 | 10 |
11 |
||||||
女 | 1 | 1 | 2 | 3 | 4 | |||||||
小計 | 男 | 72 | 4 | 4 | 4 | 12 | 6 | 90 |
100 |
|||
女 | 11 | 3 | 3 | 3 | 2 | 2 | 8 | 21 | 4 | 36 | ||
合計 | ― | 83 | 7 | 7 | 3 | 2 | 2 | 12 | 33 | 10 | 126 | |
% | 66 | 6 | 6 | 2 | 1 | 1 | 10 | 26 | 8 | 100 |
自力 | 一部介助 | 全介助 | |
衣服の着脱 | 43名 | 5 | 2 |
ト イ レ | 44名 | 2 | 4 |
入 浴 | 43名 | 3 | 4 |
ベッド⇔車イス | 47名 | 1 | 2 |
室内移動 | 車イス42,はい歩き3,つたい 歩き2,松葉杖1,支障ナシ2 |
自力 | 一部介助 | 全介助 | 不明 | |
衣服の着脱 | 60名 | 29 | 37 | 0 |
食 事 | 103名 | 10 | 13 | 0 |
ト イ レ | 49名 | 25 | 52 | 0 |
入 浴 | 42名 | 29 | 55 | 0 |
ベッド⇔車イス | 70名 | 13 | 36 | 3 |
備考 3名は車イス必要なし
みられるように、就労者の80%強が車イス使用者であるが、50人中一部介助と全介助が6~7人にすぎない。それに比べて未就労者は、衣服の着脱・トイレ・入浴で介助を要する者が過半数を越え、とくにトイレは61%が介助を必要としている。
参考のために介助者の状況をみると表5のように家族による介助が圧倒的に多く、介助システムと量の問題の立ち遅れが目立つ。
配偶者 | 親 | 兄弟 | 子 | 家政婦 | アルバイト | 公的ヘルパー | ボランティア |
21名 |
38 |
12 |
2 | 2 | 1 | 6 | 2 |
また、健康状態を聞いてみると、表6のように不良と答えたのはわずか13人にすぎない。
良 |
普 通 | 不 良 |
26名 |
87 | 13 |
しかし、医療機関にかかっている者は比較的多いがその頻度をみると、表7にみられるように、就労に差し支えると思われる者は少数(毎日18人、週3回1人)である。
毎日 |
週 | 月 | 年 | なし | 無回答 | ||||||||
1回 | 2回 | 3回 | 1回 | 2回 | 1回 | 2回 | 3回 | 4回 | 5回 | 6回 | |||
18名 |
5 | 5 | 1 | 23 | 5 | 16 | 14 | 6 | 3 | 1 | 4 | 5 | 20 |
次に未就労者の就労意志とその理由をみると表8~10のようである。
20歳未満 | 20~29歳 | 30~39歳 | 40~49歳 | 50歳以上 |
合 計 |
|
は い | 2名(67)% | 36(72) | 31(82) | 10(50) | 5(45) | 84(69) |
いいえ |
1名(33) |
14(28) | 7 (18) | 10(50) | 6(55) | 38(31) |
合 計 |
3名(100) |
50(100) | 38(100) | 20(100) | 11(100) | 122(100) |
(無回答者4名を除く)
生活費が不足 しているから |
自立したい から |
小遣いがほ しい |
働くのは当 り前だから |
生きがいと して |
人との対話 を求めて |
人間形成の ため |
その他 | 無回答 |
25名 | 36 | 12 | 13 | 41 | 23 | 12 | 1 | 1 |
機能的に無理 | 健康状態が 悪い |
適した職場 がない |
経済的に困っ ていない |
働いても収入 が少ない |
労働は苦痛 だから |
他にやりた いことあり |
その他 |
27名 | 5 | 3 | 2 | 4 | 1 | 2 | 1 |
働きたいと考えている者が69%で、とくに20代、30代が高い率を示している。
なぜ働きたくないかについては、機能的に無理と答えた者が27人(71%)であり、これを介助との関係でみると、一部介助、全介助を必要とする者が殆んどで、機能面と健康上の理由につきるといえる。
働きたいと答えた者のうち、職業訓練を受けた者は15人にすぎない。また、求職活動をした者は30人、しなかった者44人、無回答10人となっている。
最後に、重度障害者の雇用と就労をすすめるための障害者自身の意見を集約してみると、表11、表12のような答えがよせられた。
項 目 |
人数 |
移動手段 | 22名 |
営業を代行してくれる機関 | 6名 |
仕事の介助者 | 23名 |
共に働く人 | 7名 |
得意先の斡旋 | 17名 |
仕事の搬入搬出 | 20名 |
公的な資金援助 | 8名 |
仕事場の新・改築費の助成 | 8名 |
住居の近くに職場のあること | 20名 |
その他 | 3名 |
無回答 | 29名 |
その他では公務員試験の年齢制限緩和を求める者が2名いる。
項 目 |
人数 |
障害者の自覚 | 29名 |
雇用促進法の完全実施 | 31名 |
障害者に対する公的職業訓練校の整備 | 27名 |
学校教育における職業訓練制度の充実 | 12名 |
企業に対するPR | 15名 |
在宅雇用の制度化 | 45名 |
保護雇用制度の導入 | 32名 |
無回答 | 32名 |
この中で特に目立つのは、在宅雇用の制度化と保護雇用制度の導入である。また、障害者の自覚をあげた者が29人もおり、意識の高さの一面をみせている。
私は全介助を必要とする寝たきりの障害者であっても就労は可能であると考える者の1人である。また、そのような実例も現実に存在している。問題は障害者自身のパーソナリティと条件整備にあると言いきってよい。条件整備については、表11、表12に示した障害者自身の意見の中に、ほぼ言いつくされている。
わが国には、一部介助を要する障害者の就労場所として、重度身体障害者授産施設がある。しかし、ここはあくまで一部介助である。全介助と医療ケアを必要とする重度身体障害者の生活施設として療護施設があるが、この施設にはリハビリテーション機能をもたされていない。地方に行ってみると、家庭から施設に入所し、集団生活の中で日常生活動作の自立度が高まっていく障害者も多くみられ、また、最初から一部介助を必要とする程度の障害者も入所している。
一方では、重要身体障害者授産施設や重度といわれない身体障害者授産施設等では重度化がすすんでおり、一定の介助体制があれば就労は可能であるにもかかわらず、療護施設におくりこむという現象が生まれている。
このように、わが国の現状は、日常生活動作の自立していない身体障害者は、職業訓練を受けることはもとより、授産施設等への入所もままならない、というのが実情である。重度身体障害者更生援護施設という制度もありはするが、そこでの職業リハビリテーションはまことにお粗末である。
一例をあげてみよう。そこは国立の重度更生援護施設であるが、入所者のうち70%が頸髄損傷であり、その他の障害者も介助なしには生活できない人たちである。私の所属する法人が行った前記の「重度障害者のコンピュータ・プログラマーの養成と在宅就労システムの実験的研究事業」の過程で、その施設にオフィスコンピュータを持ち込み、10人の障害者を対象に1週間の研修を行った。障害は重いが、学歴等をみると比較的高いし、受傷時期も高校、大学(含短大)在学中もしくは卒業直後で、比較的年齢も若い層が多いことに着目したのである。研修の結果、プログラマーとしての適性ありと判断された者は8人で、2人は?という結果であった。なにしろ研修期間が短いので、正確な結論というわけにはいかなかったという一面があることはやむをえない。
私はこの結果にもとづいて、その施設の所長に次のような提言をしてみた。
「こういう機能上の重度障害者の職業リハは、手を使うような職種ではなく、頭脳を使う職種を選ぶことが必要不可欠なはずだから、オフコンやパソコンを設置して、訓練課目に入れたらどうですか。養成したあとの受け皿は私の方で考えましょう。」
それに対する答えは、「よくわかるが、あんたも知っているように、国はそんな設備などとてもやってはくれんからなあ」という素気ないものであった。私はそのあとで、厚生省へも行って話してみたが、とてもそんな陽気ではないといった受けとめ方で、これはとても歯がたたんなあという感じを強くしたものである。
あとで聞いた話であるが、研修を受けた10人の障害者は、このままでは残念だから自分たちで1人10万円ずつ出して、パソコンをいれて勉強したいと言ってきたがどうしたものだろうか、とその施設の職員から当法人のオフコン事業部責任者に相談があったという。そのあとのことは聞いていない。おそらく講師などの問題もあって立ち消えになったのだろうと思う。
私に言わせれば、国公立こそ、そうした先験的な実験を行うべきだと主張したいが、壁は厚いようである。
その原因のひとつは、職業問題を厚生省が福祉というサイドで行うこと自体に問題があるといえるように思う。福祉工場や授産施設などが、金をかけている割合には低いレベルにあることも、このことに起因すると私には思えてしかたがない。
国立職業リハビリテーションセンターなどの対応と比較してみると、それが理解できるはずである。ただ、労働省サイドは一般雇用に結びつく可能性のない人は入口で落とされる―最近は多少幅をひろげて試行する方向が出されてはきたようだが―という問題がある。職業訓練、職業リハビリテーションについては、厚生と労働の両サイドの接近が待望されるところである。
全介助を必要とする重度障害者でも就労は可能という私の所論からすれば、そのための方策まで提起しなければ責任を果たすことにはならないと言われるであろう。だが、私はここで処方箋を書くだけの能力をもたない。
私の所属する法人で行っているオフィスコンピュータ・プログラマーの養成と在宅就労の事業は、大手商社の援助と東京都の補助、これにとり組む重度障害者自身の“これしか生きる道はない”という高い情熱に支えられて、どうにか成功しそうである。しかし全体からみればきわめてささやかな実践にすぎない。しかも、これだけの好条件にめぐまれているということは一般的とはいいがたい。支えがひとつでもはずされたら崩壊の危機に見舞われるであろうという心配がつきまとっている。
国の政策として早く制度化されないと危いのであり、また一般化することも困難である。
そういうことを念頭におきながら、若干の問題提起をしておきたい。
その第一は、介助体制の問題である。前述の調査結果でもみられたように、現在の介助は殆んど家族が行っている。家族が介助できなくなったらどうすればよいか。現状では療護施設行きである。就労能力はありながら就労できなくなる。東京都八王子自立ホームのような介助付住宅と併設された職場、そうしたものが現状では理想型かもしれない。また、所得保障の充実と関連した介助手当制度、必要に応じて障害者が介助者を雇うシステムと、公的なヘルパー制度の拡充が必要である。
その二は、在宅雇用・就労システムの確立である。労働省は保護雇用とその一形態としての在宅雇用を否定した。これとは闘わなければならないが、当面は授産施設の機能を充実し、より重度者を受け入れられるようにすること。ブランチ(分室)のシステムを作り上げること。また、在宅就労の制度は授産施設の弾力的な運用というかたちが一応できたので、当面は在宅就労への対応を強めることであろう。
第三には、介助を要する重度障害者であることから、健康管理が重要になってくるので、医療ケアについても一定の配慮が必要になってくると思われる。
第四には、、働く意志をもちながらも求職活動さえしていない障害者が多数存在しており、求職活動をしても職を得られていない者も多いことに着目して、なかば諦めているこれらの人々のニーズを発掘し、地域ごとの就労システムをつくり、これと広地域単位に存在または偏在する授産施設にセンター的機能をもたせて、連携をとりつつ、就労への条件を整備していくことが必要である。
以上、順不同で思いつくままを、いささか舌足らずで述べたが、ここまで書いて、なるほど、このテーマはいま必要な課題なのだという思いを強くしたのは、私にとっても収穫であった。関係者と議論をしていく中で良い方策を見出していきたいものである。
*社会福祉法人東京コロニー常務理事
(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1982年11月(第41号)11頁~16頁