特集/重度障害者の職業リハビリテーション 労働政策と障害者─国際的展望

特集/重度障害者の職業リハビリテーション

労働政策と障害者─国際的展望

Manpower Policy and the Disadled Person:An International Perspective

Luca E. Conte*

中 島   和**

 アメリカのリハビリテーション専門家は、障害をもつ人々の多くが正規雇用でなかったり、失業しているのは、主として個人的問題として、すなわち、競争的労働市場で職業に就き、その職業を続けていくために必要な技術や技能を持たないため、と捉えてきた。従って、職業リハビリテーション・プログラムは、失われた機能を回復し、技術を習得すれば職業が得られるという仮定のもとに、労働市場に対する留意は従来あまり払われなかった。その結果、今日では労働専門家とリハビリテーション専門家は、経済社会問題が大きくなっても、リハビリテーション・ゴールは達成できるという仮説に挑戦しているわけである。リハビリテーションの成果に直接影響を及ぼしている問題のうちでも最大の難関は、今日のアメリカ経済の特徴ともなっている永続的な高い失業率である。失業の公式指標は、総労働力に対する求職者の比率をパーセントで表わす失業率である。現在、失業率は7パーセントから9パーセントの間を上下している。すなわち、約1億人の労働人口をかかえるアメリカでは7百万人から6百万人の労働者が現在失業しているわけである。

 アメリカ経済の特徴となっている恒常的高失業率は、すべての失業者に基本的に二つの問題をもたらしている。1)常に求人を上回る数の求職者が存在する。2)高い技術を持つ人ほど、そして障害のない人ほど、限られた数の就職口に対するチャンスが大きい。

 このように、障害をもつ人々は労働市場で健常者と競争し、なお時には熟練労働者とも競わねばならず、大変不利な立場にある。更に、障害をもつ人々はすでに限られた数の求人に対して他のいわゆるマージナル・グループ、すなわち、若者、少数グループ、歴史的に虐待されてきた人々、前科者、女性とも競争せねばならない。

 アメリカ経済及び労働力の構造のこのような特質は、マージナル・グループの労働者にみられる半失業と失業のサイクルを導いた。マージナル・グループの人々は「雇われるのは最後で、首になるのは最初」という労働市場での不安定さのため二次的な、労働者として欠格というレッテルを多く貼られてきた。たとえば、これらの人々は、a)長い失業やたび重なる転職のために職歴が貧弱である。b)どんな職でも、あれば就かねばならなかったため、特定の技術、売れる技術がない。c)臨時雇用、試験雇用のため労働組合に入れず、組合員の資格がなく、組合の恩典や保護がない。d)転職率が高いことが多く、健康保険、退職年金、生命保険等の長期の労働給付が得られない。このように、各個人の障害や労働技術の欠如が労働市場へ加わることを困難にし、経済の特性は、長期失業をもたらすさらに大きな要因となっている。

 他の国々では、一般的問題としての失業と障害をもつ人々の失業問題の両者に対し、如何に取組んでいるのであろうか。他の国々の有効な政策を明らかにし、アメリカの多くの障害者が直面している広がる失業問題解決の一助に役立てることが本論文の目的である。

労 働 市 場

 労働政策を主題とした刊行物の殆どは、西ヨーロッパ諸国で発刊されている。西欧の国々が経済・社会改革の長い歴史を持つことを考えれば、これは驚くにはあたらないことである。ここで、ヨーロッパの労働市場の現状について詳しく論ずる前に、アメリカとヨーロッパの労働市場をとりまく環境の基本的相違点について述べる必要があろう。

 1.アメリカ合衆国の人口は、ヨーロッパのどの国よりもはるかに多い。

 2.ヨーロッパに比べアメリカの人口構成は多様性に富んでおり、特に人種的民族的に多様である。

 3.アメリカの失業率は恒常的に高く、西欧の約3倍である。

 4.文盲者及び半文盲者の占める率はアメリカの方が高い。

 5.働かずに扶助を受けるよりも何か仕事をした方が良いという考え方が西ヨーロッパの方が強い。

 6.西ヨーロッパ各国の労働政策は、はるかに精巧で完成度が高い。

 7.経済政策と労働政策の調整は、政策立案及び行政運営に果たす中央政府の役割が大きい西ヨーロッパの方が、ずっと容易である。

 次に、西ヨーロッパにおける労働政策の概要をポーランドとスウェーデン、オランダを中心にまとめてみたい。

ヨーロッパの労働政策

 Reubensは、ヨーロッパにおける雇用が困難な人々に対する政策に関する研究報告のなかで、四つの分類を挙げている。1)割当雇用制度──雇用主に一定率の障害者の雇用を求めるもの、2)雇用の開発──政府が公共部分に職を生み出すもの、3)雇用補助金──このグループには、労働者の賃金を(通常)政府が補助するものが含まれる(保護雇用及び保護工場はここに属する)、4)職業再訓練──技術を持たない労働者の技術訓練、及びオートメ化、労働力過剰等で職業が無くなった人の再訓練を目的とするもの。

 各々について詳しく見ていきたい。

割当雇用制度

 ヨーロッパの障害者雇用法に多くみられるように、この制度は最初、戦争による障害者に対する国民の義務感から生まれた。ヨーロッパ諸国の約半数が割当雇用制度を採用している。このデータは表1にまとめた。

表1 ヨーロッパ諸国の割当雇用
雇用率 最小規模
(被用者数)
イギリス 3% 20人
ベルギー 変動する 20
フランス 3~10
イタリア 15 35
ルクセンブルグ 50
オランダ 25
西ドイツ 2~24

 しかしながら、この制度は普及している割に、障害者の雇用率を上昇させる効果はあまり無いことが広く認められている。割当雇用制度を検討したGreenleigh Associates(1975)は、次のような結論を出している。

「割当雇用制度の実質的効果を評価している報告はなく、また強い効力があるという実証もない。せいぜい雇用主に道義的基準を示し、社会的義務を喚起する程度のものと言われており、また、雇用主から課徴金を徴収すれば、リハビリテーションに使うことができるだろうと考えられている程度である。」

雇用の開発

 雇用開発は、不景気や失業率の高い時期に政府が雇用を創り出すもので、スウェーデン及びオランダで盛んに行われている。オランダの「社会雇用」は1950年以来であり、歴史が最も古く、規模(総労働力に占める割合)も最大である。この社会雇用の目的は「社会的自立を回復し、一般雇用の量を増加、または維持回復するために、特定の企業に収入を伴う生産的職業を開発することである。」

 社会雇用に対するオランダの強い力の入れ方は明らかに、オランダ人が働くことを重視しているからにほかならない。オランダ人の職業観は次のオランダの文献にもみられる。

「……我々の西洋文明では、労働は社会的地位と人間としての幸せの条件として評価されている。自ら稼ぐことができない人は、地域社会に、家族に、妻に、子供に、価値のない人間と写る。今日、社会的地位なくして品位ある生き方をすることはまず不可能であり、従って私達の築いて来たこの社会において、社会的地位を誰の手にも、障害者にも届くものにすることは、私達の責務である。」

 スウェーデンの雇用開発プロジェクトは1960年代初めに始まったもので、オランダと同様、一般市場での雇用の準備としての職業に焦点があてられていた。そして、多数の障害者が長期的雇用を必要としていることを知ったスウェーデン人は、この方向に力を注いでいる。

「近年の進展から、障害者は急速な経済変化の時に特に困難に直面することが明らかとなった。労働力に対する要請が減少すると、障害者の困難は増大する。完全雇用はすべての人を含むのであり、社会は保護雇用及び準保護雇用ばかりでなく救済事業にも力を入れねばならない。」

 オランダでもスウェーデンでも保護工場の拡大が、障害者雇用を増大させる合理的手段であるとの考えから、オランダでは1970年に雇用開発プログラムの約43,000人中29,000人が保護工場に雇用されている。同じく、スウェーデンでは、同年に28,000人中9,000人が保護工場で働いている。(この数字は、オランダでは保護工場の利用率が高いのに対し、スウェーデンでは保護工場の外、公共事業への雇用や戸外プロジェクトが利用されていることを示している)

雇用補助金

 雇用補助金制度は、障害者及びその他の就職困難者の雇用を創出し維持していく方法としては最も広く使われているものである。西ヨーロッパ各国によって補助金の額も支給システムも様々であり、一般産業で働く障害者への特別補助金、労働者協同組合への補助金、保護工場、一般産業における保護雇用などがある。例えば、スウェーデンでは「雇われるのは最後で、最初に首になる」現実に直面している老人や障害者を対象とした「雇用保障法」を1974年に可決している。同法では不況期にこのような人々のレイオフを禁止し、仕事のない被雇用者の訓練のための費用を雇用主に対し政府補助金として支出している。

 雇用補助金の第2の型として多くの国々で行われている方法は、保護工場や協同組合に対する税の特別減免措置や税の払い戻し制度である。たとえば、ポーランドでは約436の協同組合があり、20万人以上の障害者が雇用されている。協同組合に対し、建設・増築費に対する政府補助金、税の還付及び種々の工業製品について生産の独占が認められている。その結果、ポーランドの協同組合は、企業として大いに成功しており、障害をもつ従業員に一般と同等の賃金を支払っている。同じくハンガリーの保護工場もかなりの額の税控除を受け、年推定10~25%の利益をあげている。

職業再訓練

 職業再訓練は多くの障害者及び雇用の困難な人の雇用の可能性を高める方法として、最も多く利用されている方法のひとつである。前述のようにスウェーデン及びオランダ両国の雇用開発プログラムは、補助金を受けた労働者が一般競争市場において競争できる技術を身につけることを前提としている。さらにヨーロッパのほとんどの国々は職業訓練のため一連の雇用対策を持っており、職業評価、職業訓練、及び(限定された)就労体験を行っている。しかし、冒頭で述べたように職業訓練のみでは、障害者の雇用レべルを実質的に高めるためには十分でない。

各国の実情

 その内容は様々ながら、ほとんどの国でこの四つの雇用対策を実施しているが、成功を収めている分野、革新的分野はそれぞれの国によって特徴がある。従って各国の成功面及び弱点について個別に検討したい。

ポーランド

 ポーランドの障害者協同組合組織は、多くの国々や国際労働団体の賞賛を受けている。労働者協同組合という考え方は、ポーランド人にとって新しいものではなかった。1919年に最初のものができて以来、1万人以上の協同組合ができている。しかし、障害者の協同組合は比較的新しい現象で、ほとんどは1940年代後半から1950年代初めにかけて、第二次大戦の戦傷者によって始められた。この頃は、職もなく、人々は小さなグループを作り道具や経験をよせ集め、お互いに助け合って生きていくしかなかった。初期の頃は、もっぱら技術的手仕事(靴修理、家具修理など)が多かったが、復興が進むにつれて、工業生産能力への要請が高まり、協同組合も産業活動に参加し利益を得ることとなった。さらに政府補助金、税免除及び独占生産権が与えられ、躍進への強力な経済的刺激となった。このような状況が、協同組合の成長に貢献し、ポーランドにおける障害者の長期雇用機関としての経済力をもたらした。全障害者人口150万人のうち、60万人が就労しており、そのうち20万人が協同組合で働いている。これに比べ、アメリカでは1,200万障害者のうち560万人が就労しているが、そのうち保護工場に働いているのは、ほんの17万5千人である。ポーランドでは協同組合が、雇用されている障害者の約30%に働く場を提供している。

 ポーランドの協同組合方式には多くの長所がある。まず第一に、協同組合は多くの障害者に一般並の賃金で長期雇用を提供することに成功した。第二に、協同組合は被用者に対しその他の種々の恩典を提供している。保健ケア、退職給付金、休暇、レクリエーション施設、及び必要な各種リハビリテーション・サービス及び社会サービスがある。第三に、協同組合は、統合に準ずる状態を達成している。法律の規定により、約30%の健常者も雇用している。第四に、協同組合は、通勤が困難な重度の障害者に対し、在宅の仕事を提供するよう要請されている。最後は、協同組合は、より重度な障害者に、特に精神障害者に雇用の機会を提供する責任をもっていることである。

 ポーランドの協同組合制度には欠陥も二点ある。第一に、協同組合が軽度の障害者を一般労働市場から隔離する機能を果たしていることもありうる点である。実際、協同組合の労働者の大半は身体障害をもつ人々であり、そのうちでも数は不明ながらろうあ者が多く、一方、精神障害者はたった10%と述べられている。この点で、完全に分離した「障害者協同組合」は本当に必要かという疑問につきあたる。第二に、協同組合は競争企業体であるため、生産性の低いもっと重度な障害をもつ人々の雇用拡大にはあまり役立たない。協同組合の中に保護工場を作っているところもあるが、これも激増する精神障害を伴う人々のニードに呼応するものでないことは明らかである。

 上記のような弱点にもかかわらず、労働者協同組合は、多くの障害者が社会的支えがあれば自活できることを示した。アメリカ経済の中でこのような方式を実現しうるかどうか将来検討してみることは意義のあることであろう。

オランダ

 オランダの労働政策の一番の特徴は、保護工場の利用であろう。1969年社会雇用法の中で、保護工場は、できるかぎり一般企業に近いものとするよう求められている。その結果、オランダの保護工場は、1)他の多くの国のものよりはるかに規模が大きい──65%が100人以上の労働者をかかえており、Dordrect工場は1,300人の労働者がいる。2)近代的機械・設備を用いている。3)一般産業生産の約40%を生産している。4)労働者に最低賃金額または近い額を払っている。

 オランダの保護工場及び労働者には、中央政府から補助金が支払われているが、国家予算の推定1.2%が雇用補助金に向けられている。1971年に保護工場で雇用されていた労働者はおよそ44,000人であった。

 オランダの第二のユニークな特徴は、精巧な特別手当システムの活用である。労働者一人ひとりについて二人の上司が次の5点から判定する1)仕事量、2)仕事の質、3)仕事への熱意と関心度、4)同僚、経営、労働規則等への態度、及び5)材料、機械工具及び建物への配慮。これは一般企業で用いられている基準で、給料を5パーセント上げることができ、一つの仕事については合計20パーセントまで上げられる。これは、それぞれの労働者にとっては、生産性を上げ、労働の技術及び態度を向上させる刺激となる。

スウェーデン

 オランダの保護工場に対し、スウェーデンでは保護雇用が中心である。1970年を例にとると、保護雇用の適用を受けている28,000人のうち、保護工場で働いていたのは9,000人であった。今日では、50,000人が保護雇用にあると推定される。職場の多くは公的機関であり、既述のように雇用開発プロジェクトの結果創設された。

 スウェーデンの保護工場は、アメリカのものよりずっと近代的であり、労働者には一般企業と同じ賃金を支払っているのだが、スウェーデン当局は、この保護工場方式の採用には消極的であるようだ。Kimberlyは、消極的なのは保護工場というもののもつ隔離的性格に対する議論があるためと述べ、スウェーデン人は、障害をもつ人々に対しても社会的に統合された労働の機会を与えることを望んでいると言っている。

イギリス

 イギリスは、障害者の保護雇用制を確立したパイオニア国の一つである。Remployという名をもつ組織は1945年に中央政府の出資でつくられた非営利企業である。1970年現在、90を越える工場を運営し7,500人に保護雇用を提供している。この数字は保護雇用に対する現存のニードに対し極端に少ない数だが、英国ではこのサービスは最重度障害者のみを対象としているのである。かくしてイギリスには、民間団体の運営する保護工場の他は、補助金の出ている職場は大変少ない。

ハンガリー

 ハンガリーの保護工場は、本文で扱ったものの中で一番矛盾しているだろう。西側諸国と反対に、ハンガリーの保護工場は、利益を求める企業として運営されている。Hamptonは「利潤は、障害者のニードに応じるプログラム全体の中で欠かせない部分と考えられている。非難すべきことではないのである」と述べている。さらに、ハンガリーの保護工場はサービスよりも仕事に焦点をあて、障害者にとって仕事は保護工場における職業リハビリテーションサービスの主たる手段と考えられている。

 企業哲学をとりいれたハンガリーの保護工場は企業と同じやり方で運営されている。工場は下請けから10%から25%の利潤をあげるが、これは他国とだいたい同じである。労働者は生産額の60%を受けとり、40%は間接費として残す。ハンガリーの工場は政府補助金はほとんど得てないが、税金面で大変有利に扱われている。しかしながら、保護工場で働く障害者数や賃金のレベルについては情報は無い。

結 論

 他国の障害者雇用についての短いレポートからアメリカの雇用慣習との大きな相違点を七つ挙げることができよう。違いは哲学的前提の違いから実際的問題までにわたる。

 1.ヨーロッパ諸国は、労働の倫理に深い関心を持ち、特に働きたいという意志のある人は誰でも働く機会を与えられるべきという考え方が強い。ポーランド人民共和国憲法第19条は「労働は、すべての市民の権利、義務であり名誉の問題である」とうたっている。

 2.ヨーロッパの国の多くは、完全雇用の実現を強く目指している。例えば、スウェーデンは、雇用の開発、労働者補助金及び税金免除等を用い、失業率を2%に維持してきた。さらに他国においても、完全雇用を国家目標として重視している。デンマークの雇用担当長官は、障害をもつ人々の雇用政策を論じて、「最も障害者に友好的な政策は、(完全)雇用政策をたてることである」と述べている。

 3.ヨーロッパ諸国の政府の中には、特に経済不況期を中心に、障害者やその他のマージナル・グループの人々の雇用開発や雇用への補助に積極的役割を果たしている国も多い。例えば、Eliassonは、スウェーデンの410万人労働者のうち、5%は、政府の労働市場政策に支えられていると推計している。5%の労働者に加え、25~50%の人々が「労働者としてハンディをもっている」と定義されている。

 4.ヨーロッパ諸国のほとんどが、障害者の失業は主として労働問題とみなしており、アメリカのように社会福祉やリハビリテーションの問題とは考えていない。この考え方は、法律にも、実際のサービスにも各所に明白である。例えば、失業中の障害者は給付金を、社会福社機関からでなく、地方労働事務所から受ける。同じく、以下に論じるように、保護工場もリハビリテーションあるいは社会福祉設というよりも、働く場として考えられている。Westergardは、障害者雇用対策をリハビリテーション哲学でなく、労働哲学でとらえる利点を次のように述べている。

「デンマークでは、すべての法律からリハビリテーションということばを取り除いた。なぜなら、このことばは、しばしば無意味であり、誤って理解されることもあるからである。リハビリテーションということばを用いれば、確かにリハビリテーションに注目できる。だがもし他のことば、例えば経済活動の動きへの適応とか、労働市場への適応などを代わりに用いれば、二つの分野に焦点をあてることができ、障害者に労働市場でふさわしいチャンスを与えたいと思うなら、このことばを用いた方が有利に違いない」

 5.ほとんどの国で保護工場よりも、健常者と一緒の場での保護雇用の方が多く利用されている。ポーランドでは障害者協同組合の統合化を法律で定めており、30%は健常者を入れるよう決められている。さらにポーランドでは60万人の障害者のうち40万人は、完全に健常者と同じ場で雇用されており、障害者協同組合に雇用されているのは20万人だけである。同じように、スウェーデンでも保護工場に雇用されているのは働いている障害者の3分の1以下である。

 6.保護工場は主として雇用の場とみなされており、その結果、社会福祉機関というよりも企業として運営されている。保護工場に対する考え方の違いは、ヨーロッパとアメリカの工場にいくつかの大きな相異をもたらしている。ヨーロッパの保護工場は、a)アメリカのものより規模が大きく、経営効率のあがる大きさを重視する傾向があり、b)近代的な機械、道具、設備を用い、c)労働者に一般労働者賃金額またはそれに近い額を支払い、d)一般労働者に対するのと同じ休暇、保険等の給付を行い、そしてe)一時的雇用よりも長期雇用に重点を置いている。

 7.ヨーロッパの国々の多くは、官民両方の雇用に対し、障害者雇用割当を法律化している。前に述べたように、割当雇用制度の効果は様々だが、障害者雇用に対する政府の関心のバロメーターとなり、雇用主に対しては障害者雇用に対する圧力となり、また他の雇用対策の資金源となる。

 ヨーロッパ各国がとってきた障害者雇用促進のための諸政策から学ぶベき点は多い。様々な点におけるアメリカとヨーロッパの方法の違いは、顕著である。しかし、違っているからこそ、アメリカの実践家にとっては希望がもてるのである。違うということは、未来の成長と開拓に新しい方向をもたらしてくれるからである。一人ひとりが、障害の本質及び障害が雇用にもたらす結果について自己の見方を再吟味する必要がある。なぜなら、ヨーロッパの同僚が我々に障害の存在そのものは、障害者の高い失業の主たる要因ではないことを教えてくれたのであるから。

Rehabilitation Litenature, May-June 1981, Vol. 42. No. 5-6

参考文献 略

*Syracuse 大学教員、リハビリテーション・カウンセラー

**日本障害者リハビリテーション協会


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1983年3月(第42号)14頁~20頁

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