特集/アジア・太平洋地域のリハビリテーション 韓国

特集/アジア・太平洋地域のリハビリテーション

韓国

Eu Sik Min *

Ⅰ.障害者の現状

1.障害者の人数と状況

 保健・社会省は1980年に韓国人口・保健研究所の協力を得て標本調査を行った。その調査結果によると、障害者の総数は国の総人口の2.37%にあたる901,800人と推計される。障害者の中で、身体障害者が全体の66.1%(596,600人)を占め、聴覚言語障害者が16.3%(146,700人)、精神病者が4.9%(44,000人)、視力障害者が4.6%(41,400人)、精神薄弱者が4.8%(40,700人)、てんかんが2.2%(19,700人)、重度障害者その他が1.1% (9,700人)となっている。

 障害者の内、年齢19歳以下の子供の数は216,432人(全体の24%)で、60歳以上の人は190,279人(同21%)である。このことから障害者人口の約65%が勤労年齢層であるということができるが、実際職業に就いている障害者は全体の32.2%に過ぎない。

 年齢6歳~16歳の障害児の中の24%が、重度の障害や経済的問題のために全く教育を受けていない。

2.行政制度

 1982年、保健・社会省に、韓国の歴史上初めてリハビリテーション課が設置された。しかし地方行政レベルでは未だ障害者のための特別な課は見られない。コミュニティーレベルにおいても、心身障害者のための福祉法(1981年)による各種サービスの規定にもかかわらず、障害者のためのカウンセリング、評価、委託紹介サービスのための公の機関はない。

 労働中に傷害を受けた人のために、労働災害補償法がある(1963年)。この法律の下に、産業リハビリテーションセンターが従業者に医療、職業及び心理-社会的リハビリテーションのサービスを提供している。

 退役傷痍軍人のためには、復員軍人局が医療、職業訓練、優先的な雇用その他の特別救済対策を行っている。

 障害をもつ学童に対しては、特殊教育促進法(1977年)があり、教育省が小学校レベルの障害児に無償で教育を行っており、また能力に応じて上級の教育を受ける権利を保障している。しかし教育省には未だ特殊教育を専門とする課はない。また各地方にある特殊児童のための評価委員会は、予算と専門職員の不足のために期待通りには機能していない。

3.サービス

 韓国には97か所の社会福祉施設があり、約13,000人の障害者が何らかのリハビリテーションあるいは保護のサービスを受けている。ここ数年間、韓国政府はこれらの施設を単なる収容保護施設から、特に医療職業リハビリテーションに重点を置いたリハビリテーション施設に転換することに努めている。その例のひとつとして、国立多目的リハビリテーションセンターを4,500万USドルの予算をかけて、現在建設中である。完成後は、リハビリテーション職員の養成と並んで医療、職業、教育及び心理・社会的リハビリテーションサービスが行われる。

 韓国では、障害者のための職業訓練と雇用サービスの分野が最も遅れている。韓国障害者リハビリテーション協会は1982年以来、保健・社会省より障害者の雇用促進特別プログラムの実施を委託されており、カウンセリング、評価、職業適応訓練、及び就職あっ旋のサービスを行っている。同協会はこのプログラムを支援するために、韓国商工会議所のような各種地域団体からの25名のメンバーで構成されている障害者雇用促進委員会を組織した。協会は近い将来、各地方に支部を設立する予定である。

 障害児の教育に関しては、特殊教育促進法(1977年)のおかげで、韓国の特殊教育は過去数年の間に目覚ましい発展を遂げている。68の特殊学校と721の普通校の中の特殊学級があり、21,500人の学童が通っている。特殊教育の運営費の大部分は政府が負担している。

 1981年以来、保健・社会省が援助を必要とする障害者に無料で車イス、義肢補装具、補聴器などを供給している。このプロジェクトに伴い、およそ100か所の義肢補装具の製作所がその技術を高め、また設備を改善した。

 障害者のための情報サービスは韓国放送局が行っており、毎日定期的な30分番組が設けられ、障害者に予防とリハビリテーションについての情報を提供している。

4.法制

 保健・社会省は、障害者の雇用や教育の機会を規制している7項目の条例の撤廃または改正を押し進めている。現行の条例は障害者が、政府の役職の他に、州が行っている医師、薬剤師、獣医、美容師、理容師、毒物取扱い者の資格試験に申し込みをすることを規制している。1982年、障害者に関連した法律がいくつか修正された。道路交通法が修正され、身体障害者が運転免許を取得することが認められるようになった。職業保障法は障害者の雇用を促進するように修正された。この修正により、52種の職業が選定されて障害者に雇用の優先権が与えられた。相続税法の修正によって、障害者に対する相続税の控除は2,400ドルから10,700ドルへ引き上げられた。移民法が修正されて、聴覚及び視覚障害者の他国への移住が認められた。

Ⅱ.予防とリハビリテーションの課題

 発展途上国における社会福祉の向上はその国の経済の発展と深いかかわりがあることは否定できない。韓国は過去20年間に著しい経済の発展を遂げたおかげで、“福祉社会の形成”が国家の発展の主な目標のひとつとして取り上げられるようになってきた。しかし、予防とリハビリテーションの分野における目標達成の理想はまだ程遠い。

 予防対策としては、障害の早期発見の点からプライマリー・ヘルスケアにおける母子のための保健プログラムをもっと積極的に発展させるべきである。韓国には217か所のヘルスセンターと1,321か所のヘルスセンターに準ずる設備がある。これらのセンターは予防機関として活用できるのであるが、公衆衛生の職員は障害の早期発見のための指導員、カウンセラー、評価あるいは教育する人としての責任があることを教えられていない。医科大学や医学に関連した学校はカリキュラムの中に予防とリハビリテーションの紹介をとり入れるべきである。政府による予防接種の運動は大変成功で、1981年のポリオ患者はわずか2人であった。しかし産業、交通その他の事故は減りそうにない。労働省が強硬な安全対策を実施しているにもかかわらず、1981年度の労働災害の発生率は全労働人口の3.4%であった。一般の人々に対する安全教育と共に、より多くの安全対策を講じる必要がある。

 リハビリテーション・サービスには、早期発見と早期治療が必要である。早期発見と適切な治療を行うためにはコミュニティーレベルの適切なカウンセリング及び委託紹介の制度がなくてはならない。韓国にはこのようなサービスを行う一般の人々のためのコミュニティー機関といったものはない。ヘルスセンターのような地域の福祉センターを設けるべきである。私の意見では、最少限の国家的投資で、ヘルスセンターを部分的に改修し、保健衛生及び福祉のコミュニティーセンターとしてその機能を広げることができると思う。

 医療リハビリテーション・サービスは、韓国の医療保険制度や医療保護プログラムが6か月以上の治療を必要とする長期の患者を認めるならば、一般の病院でも行うことができる。総人口の47%をカバーしているわが国の医療保険制度や医療保護プログラムは長期の治療を必要とする障害者のための医療リハビリテーション・サービスも含めるべきである。

 職業リハビリテーションには、評価、訓練及び就職あっ旋のサービスが必要である。韓国には障害者のための職業訓練施設は数少ないが、労働省の認可を受けた職業訓練施設は392か所あり、これらの施設が障害者にも門戸を開放するべきである。訓練のための収容人数は全部で68,325人である。各地域(郡)の労働局は登録制度、評価プログラム、訓練の委託紹介のサービスを含む職業あっ旋のサービスを設けるとよい。各地域の労働局に職業リハビリテーション・カウンセラーがいれば、ある程度の政府の援助を得て“職業適応訓練”のプログラムも行うことができる。職業適応訓練が障害者のための最も経済的且つ効果的な訓練方法であると思う。政府は障害者のために訓練施設におけるバリアフリーの環境と移動のサービスを整えるための援助をすべきである。韓国には4,000人以上のソーシャルワーカーがいるが、リハビリテーション・カウンセラー、作業評価あるいは職業あっ旋の専門家としての資格はない。職業リハビリテーションの分野で働く人は徐々に増えているが、韓国の社会福祉の学校は職業リハビリテーションの分野に関心を寄せていない。社会福祉の学校は職業リハビリテーションのソーシャルワーカーを養成するためのカリキュラムを開発するべきである。

 韓国の特殊教育には今二つの課題がある。ひとつは障害児のためのカリキュラムを開発することであり、もうひとつは特殊教育において正常化の哲学を実現することである。普通の学校には施設に多くの物理的障壁があり、多くの障害児の通学の妨げとなっている。また多くの学校にはその他の障壁もある。学問的レベルのためではなく、身体的な障害を理由に、いくつかの学部に障害者の入学を許可していない大学も数多い。学校における環境と態度の障壁は父兄、学生及びリハビリテーションの専門家が社会的な運動を行って取り除いていかなくてはならない。

Ⅲ.結論

 予防及びリハビリテーションには政治的決定が必要である。それ故に、父兄、障害者及びリハビリテーション・ワーカーらは団結して政治的圧力団体となるべきである。また、予防とリハビリテーションに対する一般大衆の意見を喚起するためにマス・メディアを積極的に活用するべきである。

 予防及びリハビリテーションにはシステムを適切に選定することが必要である。カウンセリング、評価及び委託紹介のサービスはコミュニティー・レベルで行うべきである。そのために、障害者のための福祉事務所あるいはコミュニティーセンターをコミュニティー・レベルで設立するとよい。

 現存の障害者のための福祉施設は、リハビリテーション施設としてのみならず、障害者のためのコミュニティーセンターとして発展していくことが望まれる。

 予防とリハビリテーションには専門のワーカーが必要である。そのようなワーカーを養成するために、社会福祉や公衆衛生の学校は予防とリハビリテーションの特別コースを設けるべきである。

 地域にある資源を活用するために、地域を基盤としたサービスのシステムを打ち立てるべきである。

 障害者に均等の機会と平等を供与するために、リハビリテーション分野にいる人々は絶えず努力をして心理・社会的、物理的、法的障壁を見つけ、取り除いていかなくてはならない。

(新井由紀訳)

*韓国障害者リハビリテーション協会事務局長


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1983年11月(第44号)2頁~4頁

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