特集/アジア・太平洋地域のリハビリテーション インド

特集/アジア・太平洋地域のリハビリテーション

インド

S. N. Gajendragadker*

はじめに

 国際障害者年として、1981年に提唱された国連決議は、単なる儀式ではなかった。それは、我々の関心を障害者の問題に集中させる事を狙い、また、政府、ボランティア団体、その他の社会的組織に対して、障害者救援のプログラムを促進するように勧告することを狙っていた。結局、障害者の問題は、障害者だけの問題ではない。社会と緊密に関連しているのである。もし、障害者の権利が認められ、適切な手段がとられれば、社会も利益を受ける事になるのである。これらの背景のもとに、インドの実情を調査してみると、1981年の宣言が、障害者の諸条件を改善すべく、また、障害者の教育、治療、リハビリテーションのための科学的方向付けの手段を発見すべく、政府や民間団体へ刺激を与えたことがわかるだろう。

 障害者として取り残された人達のための全体的改革として、

(i)経済的機会を得るための自由なアクセス

(ii)障害者と健常者間の、自由で友好的な交流

(iii)効果的なリハビリテーション

(iv)障害者を助けるためという恩着せがましい態度をやめる

などがある。このうち、(i)は、経済的損失に関するもの。(ii)と(iv)は、社会的拒絶と心理的挫折に関するもの。(iii)は純粋にリハビリテーションの問題である。

ナショナル・プラン

 これらの分野において、政府、及びボランティア団体によってなされた仕事の記録は意味深い。しかし、問題の取り扱い方のバランスは、確かに適切とは言えない。医療面、社会面のリハビリテーションは、経済面のリハビリテーションに比べると、大きな取り扱いを受けている。人工の手足を作る企業の設立、及び義足義手のための国立の協会は、ある程度まで人工肢の要求を満たしている。これと平行して、車イス、補聴器、オーディオメーター、その他障害者から要求されるいろいろの装置が、公的、私的機関で作られている。IYDPの間に、政府は下記の活動をナショナルプランとして展開させた。

(i)障害者の特定の診断を実施するために、少なくとも6か所のセンターを設立すること。

(ii)障害児教育の基準を改善する目的で、教師の訓練のためのプログラムをつくる。

(iii)色々な障害者を雇用するシェルタードワークショップの建設。

(iv)障害者の特権を大幅に確保する。

具体的展開

 これらの点において、いくらかの行動は、関係部門によってとられてはいる。しかし、強い影響を及ぼすまでには至っていない。900の特殊学校が州レベルで設立され、障害者に教育を提供している。マハラシュトラ(Maharashtra)州には18の特殊雇用の紹介所と、11の職業リハビリテーションセンターがある。ここでは、2万5,000人の人々に各人に応じた様々の種類の仕事を供給してきた。また、マハラシュトラ州庁及びボンベイ市庁は、免疫問題に特別の努力を行い、大ボンベイのスラム街に、小児マヒ用の薬、三種ワクチンを手配した。マハラシュトラ鉄道道路局が決定した、障害者と付き添い人の運賃の50~75%割引き、並びに盲人と整形外科障害者への毎月50ルピーを限度とした基本料金の10%の特別手当の支給は、かなり助けになっている。これらはほんの第一歩であり、救済の道は、さらに遠く険しい。新しいビルの建設には、必ず障害者のための補助装置を付けなくてはならないとした大ボンベイ市庁の決定も、同様に歓迎すべき一歩である。

 障害者の教育、訓練、リハビリテーションを促進するためにインド政府から与えられた年間の援助金は1,000万ルピーに達している。これは、ボランティア組織への財政援助となり、障害者のためのプロジェクトやプログラムに必要な費用の90%を賄った。この事は、400余りのボランティア団体を活気づけ、障害者の幸福のために良い仕事を続けていく活力ともなった。実際のところ、ボランティア団体の行動と政府の行動とは、かなり対照的である。ボランティア団体が、政府に対抗して働くような状況下では、特にその傾向は強い。多数のボランティア団体は、熟練職員や財政に制限があるにもかかわらず、リハビリテーションの分野で重要な貢献をしている。直ぐに名前のあがる団体だけでも障害者機会均等団体(NASEOH)国立盲人協会(NAB)、身体障害者フォローシップ(FPH)、Apang Maitri、インドマヒ協会(Spastic Society of India)、対麻痺者基金(Paraplegic Foundation)、インドガン協会(Indian Cancer Society)等がある。

 これらの団体は、ゼミナール、職場、スポーツ、競技会、展示会等の活動を、手配、組織してきた。ボンベイ精神障害者福祉協会とライオンズクラブ323A支部の共同で組織された、知恵遅れのためのスペシャル・オリンピックの事は、特筆すべきである。それは、運動場に、6,000人以上の知恵遅れの子供達を集めて行われた。参加する事の意義、子供達の顔に表れた幸福感に満ちた輝きは、実に貴重な素晴しいものであった。その他にも、障害者のためのスクーターラリー、NASEOHとの共同で、ボンベイの7つのライオンズクラブが組織した、全インド技能技術競技会なども賞賛に値する。また、あるライオンズクラブが貧しい障害者に無料で器具や装置を提供するために、全インドリハビリテーション協会ボンベイ支部に贈った、10万ルピーの献金、ボンベイのサンタクルズ(Santacruz)にあるS.N.D.T.大学に障害者教育の教師訓練センターを設立するための8万ルピーの献金等も、実に輝かしい仕事である。ボンベイのライオンズクラブから提供された援助によって、年間3,257人の患者が白内障の手術を受け、7,884個のメガネがアイチェック・キャンプで無料で配布された。これらすべての活動は、障害者に対するライオンズの純粋な関心を、見事に物語っており、他の社会的団体も見ならうべき価値があると言えよう。障害者のためのダンスプログラムは、明らかに創造力を示す機会にもなったし、歓びの源泉ともなった。現在も継続中の主な活動のうち、FPHによる障害者訓練のための事業、全インド医療リハビリテーション協会ボンベイ支部が進めている、ソーシャルワーカー、ボランティアワーカーのためのリハビリテーション訓練は記述に値する。農村の障害者に社会的、経済的機会をより多く与えるための行動計画は、NASEOHによってすすめられている。肉体的障害者と精神的障害者を対象とした、複合ワークショップとなるナショナルセンターの建設は、NASEOHの壮大なプロジェクトであるが、完成すれば、障害者のリハビリテーションのための息の長い歩みとなるだろう。FPHは、障害者が職場へ移動する際の特別の運搬サービスを提供しているが、なかなか良いサービスと言える。プーン(Pune)にある、ハスティマル・サンチェティ・メモリアルトラスト(Hastimal Sancheti Memorial Trust)は、奥地農村の障害者の発見、確認、治療のプログラムを実践した。また、多くの村々で医療キャンプも組織した。このプログラムの特徴は、医療救援が各戸口で行われる事である。プーナ・トラスト病院(Poona Trust Hospital)では、特別の注意と矯正の必要な医療を行った。ヒンダスタン有機化学(Hindustan Organic Chemicals)の協力を得てCASPが始めた、農村障害者のためのリハビリテーションセンターは、立派な努力の結果である。このセンターでは、臨床医と言語セラピストが治療面を担当し、訓練を受けたソーシャルワーカーが活動面を担当している。この組織によって、4,000人以上の障害者が救援され、子供達の教育上、医療上にも大きな助けとなった。知恵遅れの福祉連合会は、2つのパンフレットを発行している。“知識を得る事は救いである”と“母親としてなすべき事となすべからざる事”の2種が10の方言で書かれている。これは、知恵遅れの治療に大きな助けとなるであろう。

 社会福祉の分野のいろいろなボランティア団体は、これまで独自の活動をしてきた。このため、ある程度の重複は避けられず、各団体の経験と労力を共通の場で討論するような有役な公開討論会も行われなかった。先頃設立された、インド・リハビリテーション連絡会(Rehabilitation Coordination India)と呼ばれる全国調整機関は、各団体間の調整をはかるサービス機関として作動する事になるだろう。そのねらいは、次の通りである。

 (i)インドの色々な団体によってなされた障害者リハビリテーションに関する仕事を調整し、強化する事。

 (ii)障害者の問題に関する調査の補助、奨励を行う事。

 (iii)障害者問題の資料収集、データバンク業務を支援、奨励する事。

 (iv)障害者のリハビリテーションに関して、RI、国連、その他の国際組織の事務所との連絡業務を行う事。インド・リハビリテーション協会を、インドとその他の国際団体とを結ぶ絆として機能させる事。

 (v)インド・リハビリテーション協会のメンバーに低料金で技術的、その他のサービスを行う事。

 もし、リハビリテーションの問題が解決しなくても、あせらず、長い道のりを歩むのが望ましい。

おわりに

 政府、並びに特に、ボランティア団体によってなされたこれらの仕事は、すべて正当に誇りうるものである。しかし、問題の大きさ、奥ゆきの深さも、再認識する必要がある。これは、大海の中の一滴、というより、一打くらいにはなるだろう。問題は、複雑かつ大きい。その解決のためには、あらゆる部門の協力的努力が必要である。特に、政府とボランティア団体の協力が必要である。政府の回転は極端にゆっくりである。そしてその回転を促がす潤滑油となるのは、社会福祉学者の率先力、企業の経済発展度、そして社会の良心であろう。

 社会福祉ワーカーの福祉活動への参加が、純粋で奥深いものならば、その活動は中心的な役割を果たしていると言って良い。もし彼らが、仕事への忠誠や信頼感を失なったとしたら、それは、構造的、財政的な圧迫が、彼らの独創的能力や活力を失なわせてしまったためである。正直でひたむきなワーカーを現場に登用したいと思うなら、当局は圧迫の原因を再調査し、仕事を妨げているものを除去しなければならない。ワーカーに発展的機会を与え、新しいアプローチを試みるように励まさなければならない。そうすれば、ワーカーも仕事の満足感を得て、流動の問題もある程度までは改善するであろう。

 本論を終わるにあたって、現在必要な事は、以上述べたような様々の援助に支えられている障害者に、心からの関心を持つ事、それも個別にではなく、関連する分野すべてが協力して行う事である。そうした社会のバックボーンが整ってのち、初めて、障害者は自分の権利について、さらに期待をかけることができるようになるのである。

 IYDPは越えるべきもので、到達目標なのではないのである。

(武田直子訳)

* インド・リハビリテーション連絡会名誉事務局長

 


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1983年11月(第44号)26頁~28頁

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