特集/アジア・太平洋地域のリハビリテーション パキスタン

特集/アジア・太平洋地域のリハビリテーション

パキスタン

Nusrat Akram*

 パキスタンには、少なくとも825万人の障害者がいると推定されている。その内、少なくとも236万5,000人が整形外科的障害者、257万5,000人が視覚障害者、179万8,000人が聴覚障害者、そして、151万2,000人が精神障害者及び知恵遅れである。これらの人々は、我が国の人的資源のかなりの部分を占めており、パキスタンの生産力を最大限に拡大させるためには、無駄に出来ない、フルに活用すべき人的資源と言える。

 現在、パキスタンの障害者リハビリテーションの概念は、幼児期についてのものであるため、今後さらに年齢の枠を広げ、現在、厚意や誠意に頼っている奉仕活動や労力提供を、可能な限り生かしながら、科学的な方向へと発展させて行くことが必要である。これらの事を実行するためには、国単位、地域単位でリハビリテーション活動をするのに必要な法律、障害者自身のニーズに応じた法律を発布、遂行し、また、1)アクセシビリティ、2)教育、訓練、職業、3)啓蒙、情報、宣伝、4)計画、調査、発展、の各分野の専門委員会を作っていくことになろう。

 職業訓練を念頭においたリハビリテーションでは、医療面と職業面の両面からの訓練が必要となる。どちらにも良い結果を得るためには、互いに関連付けて行うのが良い。医学的リハビリテーションは、段階的プロセスを経るもので、まず、病気やけがが発端となり、第一段階では、病気の間に、肉体的、精神的機能を喪失させないようにあらゆる努力を行う。次には、快方に向かった患者が機能を十分に回復して普通の生活を送れるように助けてやる。さらに第三段階として、治癒することのない障害を負った患者が、残った機能を最大限に活用して、精神的、肉体的機能を回復し、一番ふさわしい状態で働き、生きていけるように、手段を講じることである。一方、職業リハビリテーションの方はまた別で、継続的、総合的なものであり、内容は、労働可能性の評価、職業指導、障害者に適した職業訓練及び斡旋等である。

 職業リハビリテーションの目的とは、上記のような、評価、指導、訓練、職業斡旋、雇用、フォローアップと、一連のプロセスを経たのち、障害者向けの、あるいは一般向けの職に就いて、再び安定した生活を送れるようにすることなのである。

 障害の原因が病気によるものか、生まれつきか、事故によるものかを論じるよりも、最も重要なことは障害者が自分の能力をべースにして、いかにして食べていくかを見つけ、職に就くにあたって、自分の障害が妨げとならないかどうか、見極めることである。ILO第99号勧告によれば、職業リハビリテーションは、あらゆる障害者に役立つものであるべきで、職に就く心構えと、続けていける見込みさえたてば、障害の原因や年齢には関係なく行われるべきとされている。

 職に就く際の査定は、紹介サービスを行うリハビリテーションセンターで受け持つことになる。そのセンターは、近代的、能率的環境でなければならない。リハビリテーションのコースは、各自のニーズに応じたものでなければならない。さらに医療管理、運動治療、職業査定テスト、及び各人の機能に応じた職業斡旋などのサービスも、ここで行われる。このような査定と準備のリハビリテーションを受け、肉体的にも精神的にも、十分に仕事をやっていける見通しがつけば、コース終了時に職に就くことも可能である。障害者が再び安定した生活を送れるように就職の斡旋をする場合には、気をつけなければならない点が幾つかある。まず、スタッフや家族、他の障害者との人間関係はどうか、身の回りのことは自分で出来るか、他人からの援助を受け入れられるか、指導をよくきけるか、忍耐強いか、人生を肯定的に見ているか、等である。そして、どの場合も、まず最初に医師、心理学者、運動治療のインストラクター、物理療法士、職業指導者、職場の上司、ソーシャルワーカー、などによく相談することである。

 査定を受けた後、次のステップが職業指導である。ここでは、障害者の雇用価値について、あらゆる角度から検討し、適切な仕事の情報を与え、職種を決めて落ち着くまでのアドバイスを授けるものである。重要なことは、志望者と面会の機会を持つことで、これによって、指導員チームと志望者が互いに情報を取り交すことが出来て、その後のコースをフォローする時にもプラスになる。面接の場所は、リハビリテーションセンターでも良いし、候補者の家、病院等、適当な所で行う。この面接を通して、障害者に現在の状況をしっかり把握させた上で、将来の計画に対する青写真を描かせるように指導していく。

 第3のステップでは、実際の職業訓練を行う。適切な職を得て、安定した生活を営む一助となるものである。直ぐに適切な職が得られる場合は、この訓練コースは受ける必要はない。医学上でも職業教育上でも、健常者に適用する方策やメソードは、原則として、障害者にも適用できる。しかし、重度の障害者には、特別の訓練が必要なこともある。必要な技術を身に付け、適当な職に付くまでは、訓練は続けられるべきである。

 訓練の方針としては、工業界の需要に応えて、障害者も工業化社会に適応していけるような方向にもっていくべきであろう。計画をたてるにあたっては、現在の雇用動向をよく勉強して、情報収集にも努めなければならない。方針は、雇い主側や職場グループに相談した上で決定されるものであり、実施にあたっては、医療機関、社会保障組織、職業訓練サービス機関等の協力の上でなうべきである。障害者の若者や子供に有効な訓練は、本来、健常者の若者や子供にも通じるものであるべきで、期間も長い。もっと年長の者のための訓練は、期間も短かく、個人のニーズや職種に合わせたものとなる。訓練に要する時間は、例外もあるが、普通1か年である。

 訓練には、一般職向け、自営向け、手工芸やシェルタード職種のような共同作業向け等があり、本来の職場同様の効率的環境で、本来の労働時間と同じくして行われる。訓練のプログラムの詳細は、雇用者側や労働者側の協力の下に、綿密に計画し、安全対策や技術面でも、組織的な運営が行われなければならない。訓練期間は、実際の労働者として技術を習得できるまでの最短期間を設定する。訓練コースへの入会は、個人でもグループでも良いが、入会後に、医学的、職業的指導のもとに適切な配慮がなされる。

 障害者の就職斡旋において、重要な事は、労働志願者の事も仕事の事もよく知り抜いた上で、本人に適した職種を選択させる事である。障害を持つ労働者を、特別な人種とみなしてはいけない。障害があるということは、仕事を選択する際に、誰もが考えなくてはならない様々な要因の1つにすぎない。障害者の就職斡旋の際に必要とされる情報としては、その人の教育背景、労働経験、性格、その他に何か就業の妨げとなるような問題がないかどうか、訓練段階での評定、障害の程度に対する医学的見解と労働に及ぼす影響、等であるが、これらは多かれ少なかれ、健常者の場合にも求められる情報である。就職斡旋所の指導員の用いるメソードも、基本的には、障害者向けも健常者向けも変わりはない。

 就職斡旋がうまくいくかどうかには、適性の他に、心構え、能力、経験、等がかかわってくる。これは、健常者も同じことである。仕事の大部分は、障害者でも十分持ち合わせている才能いかんの問題であり、障害者が制限を受ける体の機能は、さほど問題にならない。職種は、障害者自身にも、また、周りの人にも、危険要素のないものを選ばなければならない。職場環境も、十分考慮しなければならない問題である。障害者を他の人と隔離することは良くない。職に就かせるのは、適性があるからで、同情心からだけではないはずである。障害者の肉体的限界については内密にしておかなければならない。雇用者といえども、その点については、ごくひととおりの知識しか与えられない方が良い。障害者に就職斡旋をする指導員の役割は、各々に適した仕事が捜せるように、欠員者の公開リストを手に入れる事、地域の就職情報をつかむ事、広告を出して地域の就職の機会をとらえる事、ボランティア団体での就職を確保する事、個人の雇い主や商工会議所、労働組合等からの就職の機会をつかむ事、等の全般的な就職活動サービスを行うことである。指導員は斡旋後のアフターケアまで面倒をみなければならない。そして、一旦斡旋したものの、うまくいかなかった場合は、代わりの職を見つけたり、そのための情報を集めたりの運動も欠かすことができない。

 就職の妨げとなるものは、地域の人々の悪意ある態度、雇用側や労働組合の抵抗、それに障害者自身の拒絶的な態度である。偏見や差別を撤廃するためにも、障害者も健常者と同じくらい、仕事を遂行するチャンスが与えられるべきである。強調されるべき事は、障害者の持つ能力なのであって、能力不全の面ではない。障害者の就職分野として次の4つが考えられる。すなわち、第1にいわゆる一般の職場、第2に自営業、第3に手工芸等の共同事業、第4に保護雇用である。一般職とは、役所、工場、町の商店や事務所、地方の手工芸、農村での農作業等である。自営業を障害者自身の力で成功させるには、事業力、知識、十分な財力、体力、営業的手腕、信用などの要因がかかわってくる。共同事業について考えると、障害者だけで運営し、他とは分離した形体をとることも可能であるが、健常者が運営する他の共同体と関連を持っていた方が良い。政府の技術面、財政面での援助も望まれる。保護職については、科学技術を取り入れた、組織的なやり方で、専用の職場を建設すべきである。こうした職場は、一般の職場で他の労働者と競合して働く事のできない障害者に、生涯の仕事を提供する事になる。これに関連して、定期的に職場に通えない重度障害者に対しては、在宅労働の計画もたてられて良い。このようなシェルタード・ワークショップには、医療管理、社会福祉、評定等の設備、職業指導、訓練のサービス、一般の労働市場に進出するための労働力改善コース、等々が設けられなければならない。

 政府が立法化し、障害者を一定のポストに雇い入れるよう義務付けた法案は、むしろまだ行使すべきではない。というのは、この法案は、各障害者に適した職業を選択して就職の斡旋をする、という大原則をくずしてしまう恐れがあるからである。この法案の本来の目的は、障害者にも就職の機会を均等に与えようというものであった。一方、選択した上で就職の斡旋をする場合は、その人の長所を念頭に置くので、その限りでは、障害者も健常者と対等であると言える。これによって、障害者も競争社会で懸命に働けば、健常者と対等の労働者としての価値がある、という事を示すことになるのである。

(武田直子訳)

* パキスタン障害者リハビリテーション協会前事務局長


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1983年11月(第44号)29頁~31頁

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