特集/アジア・太平洋地域のリハビリテーション オーストラリア

特集/アジア・太平洋地域のリハビリテーション

オーストラリア

Denys Correll*

 各国が「リハビリテーション、我々の課題と提案された解決法」について論じるように求められた議題は、オーストラリアの背景では、あまりにも狭すぎる。この論文を書くにあたり、障害を持つオーストラリア人の広い視野でのニーズをもり込むことに、特別の配慮を払った。「リハビリテーション」ということばは、定義では、先天的に障害を持った人は含まない。この論文の中では、ハビリテーション(すなわち、先天的に障害を持った人々のための)と、後天的に障害者となり社会復帰しなければならない人々に対して適用されるリハビリテーションとが考慮される。

 自立生活

 国際障害者年にもたらされたすべての課題の中で、自立生活ということが最も注目を集めた。この関心は、身体障害を持つ人々だけでなく、知的障害を持つ人々にも関係していた。

 介助

 1982年8月に、社会保障大臣(the Federal Minister for Social Security)は、政府は介助についてのパイロットプロジェクトに助成することを発表した。この企画の目的は次の通りである。

1 介助が重度身体障害者の自立を可能にするものか調査すること。

2 介護の最も効果的な提供方法を明らかにする。

3 介助サービスは、重度身体障害者により質の高い生活をもたらし、また現在あるコミュニティサービスとともに、それにとって代わるのではなく、それを補いながら、今ある形の施設の設備よりも少ない費用ですむ適切なシステムの援助サービスをすることができるという主張の有効性を確かめる。

 パイロットプロジェクトは、洗濯、着替え、身づくろい、食事などの日常生活の活動を含む。

 移動手当

 長年の間、多くの組織が、政府に移動手当を導入するように要求してきた。1982年8月に、社会保障大臣が、移動手当の1983年はじめの導入を発表した。手当は10ドルで、就職しているか職業訓練を受けている重度障害者に対してのみ、支払われる。オーストラリア障害者リハビリテーション協会(ACROD)や他の組織は、政府に、手当の増額と最も必要としている人々、すなわち、職に就いていない人々にまで、拡張することを求めている。

 在宅サービス

 あらゆる障害において、在宅サービスを強化する必要性に、かなりの重点が置かれてきた。このサービスは、次のようなものを含む。

・家庭又は近隣のデイ・ホスピタルで提供される医療、看護及び準医療サービス

・給食サービス

・一般的な家事援助サービス、例えば、家事、洗濯物及び住居維持、修繕及び改修。

・福祉サービスとカウンセリング

・緊急用宿舎

 残念ながら、これらの基本的なサービスは、人人が地域社会で自立して生活するさいの必要を満たすほど有効に働いておらず、十分な資金もないことが、多くのレポートの中で述べられてきた。国・州及び地方自治体からの、これらのサービスに対するよりいっそうの援助が必要とされている。

 特別生活費

 障害者が支払わなければならない多くの否定できない特別な生活費がある。このほとんどは、オーストラリア連邦政府の障害者援助計画の中で賄われている。

 医療保険

 オーストラリアには、年金受給者に対するかなり有効な医療・病院サービスシステムはある。しかしながら、低収入の障害者には、頼るべき施策がない。多くの障害者は、障害のない者よりも、頻繁に医療サービスを受けなければならない。しかし、低収入者に医療サービスを提供する現在のシステムは有効でない。障害をもつ低収入者が十分な保健サービスを受けるためには、1976年まで存在した国民健康保険の復活が必要である。この施策は、前労働党によって導入され、現在の自由党によって廃止された。

 補助具

 障害者に対する補助具の支給

 連邦政府が、1981年に障害者に対する補助具供給事業を導入したことにより、大きな進歩をとげた。この事業は、障害者に対する補助具の無料支給を規定している。州政府によって運営されているが、いくつかの州では、例外を設けており、分配が不公平になるという結果も生まれている。現在ACRODは、連邦政府に改善を勧告するために、その施策の完全な見直しを行っている。ACRODはまた、現在扱われていない補助具も含むように事業の拡大も要求している。主として聴覚障害者、視覚障害者、またコミュニケーションのための精巧なエレクトロニクスを利用した補助具を必要とする人々のための高価な補助具である。

 物品税

 ある程度の移動困難を持つ障害者が物品税を払わずに新しい自動車を買うことができるような規定が、物品税類別及び免除法(the Sales Tax Classifications and Exemptions Act)の中に設けられて久しい。これには制限があり、有給雇用にある人のみが対象とされる。物品税免除規定が、移動困難があるために、交通手段として自動車しか使用できないすべての障害者にまで拡張されることが、障害者のためのすべての主要団体の願いである。

 輸入補助具への関税

 政府の保護貿易政策が障害者にとって不利であることは明らかである。車イスのような輸入補助具は、25%の関税がかかる。オーストラリアは年間200万ドル以下のマーケットに対して、少なくとも14の車イス製造会社があるというばかげた状態にある。障害者によって用いられる補助具には輸入関税をかけるべきでないというのが、多くの組織の方針である。

 補助具の研究開発

 他の先進国と比べて、オーストラリアは、補助具の研究や開発にかけられる費用が大へん少ない。全国障害者諮問委員会(the National Advisory Council for the Handicapped)のような団体は、政府に資金の助成をするように主張してきた。全国婦人諮問委員会は、女性に適した補助具をもっと開発するための資金助成を行うよう政府に求めている。

 リハビリテーション工学

 わずかではあるが、オーストラリアには、リハビリテーション工学部門がある。リハビリテーション病院にあるもの、非政府団体(民間団体)の組織にあるものもある。さらに多く必要とされる。

 補助具展示センター

 自立生活センター、あるいは補助具展示センターが1州を除いたすべての州にあるが、ほとんどが財政的に悪戦苦闘している。少数の州政府が援助してきたが、一般に、障害者にとって不可欠なよりどころであるものの、これら機関の基礎は軟弱である。補助具の情報が、入りにくい地方や孤立した地域における問題もある。移動補助具部門を設立しようという提案もなされている。

 障害者のための補助具制作ボランティア(TAD)

 TAD(Technical Aids for the Disabled)は、市販の補助具では間に合わない人のために、専用補助具をつくる、大へん実績をあげているボランティアのグループである。

 輸送

 ACRODは、公共の輸送機関を完全に利用できるものとするのは実行不可能であり、賢いやり方ではないという見解をとってきた。利用できる代替交通機関を用意すべきであるというのがACRODの政策方針である。ニューサウスウェールズやビクトリアの2大州において、政府は、自由に身動きがとれない人々がタクシー料金に50%の補助金を受けることができる補助金対策を導入してきた。タクシー会社は車イスが出入りできるようにするため、水力リフトのついたダットサンバンの形をした利用しやすいタクシーを導入した。これらの施策は障害者の間で人気があることがわかり、似たような施策が他の州で始められるだろうと思われる。

 統合

 この論文に盛り込まれているすべての考えをつなげると“integration-統合”ということばで言い表わせる。統合は、これまで、物理的また心理的障壁のために実現できなかった。すべての活動の焦点は、障害者が社会に完全に参加する機会をもてるように、これらの壁を取り除くということである。

 広報

 すべての諮問機関は、障害者にとって役に立つ情報が不足していることに、連邦・州・地方政府の注意を向けさせた。ローカルレベルで存在している多くのプログラムについての広報が不十分であるように、障害者への補助具対策(the Provision of Aids to Disabled Persons Scheme)などのプログラムに関する広報も、十分でない。「要求に答えられないかもしれないから広報を行わないのだ」という弁解がしばしば聞かれる。被害者はもちろん障害者や、可能な救済策を知らないその家族たちである。もっと多くの資金が次のようなために必要とされている。

1 存在するプログラム、利益、サービスを宣伝する。

2 障害者のニーズと権利について、一般市民を教育する。

 アクセス

 オーストラリアにおけるアクセスキャンペーンは大へん成功している。1州を除いてすべての州に、新しい建物を出入りしやすいものにするよう要請する法令がある。法令の頻繁な監視が、ACRODのNational Committee on Acces and Mobilityを通しておこなわれており、すでに、現在ある法令に対して改善が行われている。また、政府所有の建物のすべてが出入りしやすくすること、さらに、政府が出入りしやすい建物を賃貸借することを確実にするよう圧力がかけられている。民間の建物所有者に対し、彼らの建物を出入りしやすくするために、連邦政府に奨励金を出させるというキャンペーンもある。(これは、一般市民が利用し、訪問する建物に適用される。)

 施設と住宅

 障害者のための宿泊施設に関して、ここ数年、主要な革命が起こってきている。障害者や彼らの組織、諮問機関は、「すべての人々は少しでも制限の少ない環境で生活すべきである」ことを強調してきた。連邦政府は、施設に対してはそれほどでないが、個人の家に対する補助金には制限を設けていた。1974年に、障害者援助法が導入された。しかし、それには、施設にしか資金を出さないという偏りがあるために、批判が高まってきている。この法律には、地域社会での生活を奨励するような柔軟性がほとんどない。Don Grimes上院議員は、この法律の融通性のなさについて最も批判的である。ACRODは、自立生活をする機会をもっと与えられるような改正ができるよう、この法律の見直しを求めてきた。

 プライバシーと施設

 全国婦人諮問委員会(The National Women's Advisory Council)は、施設にいる住民のプライバシーがどうしたら保証されるかについてのパイロットプロジェクトに資金を出すよう要求している。

 国及び州の住宅当局

 新政府住宅プロジェクトの中には、完全に出入りしやすい住居の建設に向かう動きがある。これは、障害者が、他の障害者のゲットーに無理やり入れられるのではなく、地域社会の中で生活できるようにするものである。この傾向は、国の諮問機関の支持も得ており、これら機関は、統合された住宅を確実のものにすることに、よりいっそう努力するようすすめている。

 教育

 初期介入

 学習困難をもっているかもしれない子どもたちの初期判定に関してより多くの資源が必要とされている。この初期の判定は、効果的な介入プログラムや、家族に対する助言サービスなどと関連して行われるべきである。このいずれをも価値あるものにするために、親たちがありうる教育上の困難を理解することを援助し、彼らに利用できるサービスについて知らせるための、啓蒙プログラム (Public awareness programs)が必要とされている。特に、移住者やオーストラリア原住民を含む様々な不利な立場にある人々に注意が注がれるべきである。

 施設の子どもたち

 最近、政府の長期収容施設において、青少年の教育の機会が不足しているという批判がなされてきた。NACHは、次のような勧告をした。すなわち「国及び州の教育当局は、長期収容施設にいるすべての青少年、特に現在教育サービスをうけていない子どもたちのために、適切な教育サービスが与えられることを保証するよう、緊急処置をとるべきである」さらに、NACHは、次のように述べている。「適切な教育サービスを与えるにあたり、国及び州の教育・保健・社会福祉当局は、子どもたちに定期的判定も含めた、医療・訓練・社会・教育サービスのすべての領域を保証すべきである」

 専門家の教育

 障害者にサービスを提供する専門家のための、教育・訓練プログラムをつくるべきだという要求がずっとなされている。関連するプログラムはいろいろな学科の中にあるが、これらはしばしば、障害者が他の者のように生活したり働いたりする可能性をではなく、むしろ障害の持つ限界を強調するものである。

 性教育

 全国婦人諮問委員会は、障害をもつ婦人や女子に対して、性教育や家族計画指導を行うことの必要性に注目してきた。

 学校卒業者

 現在の経済の景気後退の中で、障害者が一般雇用を得るのはますます難しくなっている。障害をもつ学校卒業者に対して選択の範囲を増やすよう、学校で職業実習プログラムにもっと力を入れる必要がある。さらに、学校組織の中のいろいろな職業を選択できるシステムに力を入れる必要がある。

 雇用

 一般雇用

 雇用産業省(The Federal Department of Employment and Industrial Relations)には、「障害者雇用政策」(National Employment Strategy for the Handicapped)の中に具現された多くのプログラムがある。すべての諮問委員会や連邦野党は、障害者が一般雇用に入るにあたり援助をうけられるよう保証するよう、これらのプログラムを維持し、さらに拡大するよう政府に働きかけている。

 保護雇用

 1万人の障害者が保護雇用サービスの中で働いている。これらの人々の大多数は、知能障害をもっている。

 最も一般的な問題は、低賃金である。これは、工場に対して年金を支払う際の収入調査にも一部原因している。賃金制限は、1982年8月に、20ドルから30ドルに増大された。これにより、障害を持つ労働者に対して、より高い賃金が支払われることが期待される。ACRODは、保護雇用の有用性、生産性と収入をあげるために、オーストラリア経営協会(the Australian Institute of Management)とともに働いてきた。工場は、経済の景気後退の時期を生き抜かねばならない。保護雇用についての実質的なレポートが、この程、ACRODによって完成された。

 障害の予防

 自動車事故

 交通事故による障害を減らすために、多くの手段がとられてきた。これらには、全州におけるシートベルトの着用義務や飲酒運転による事故を減らすための任意のブレステストがある。両方の手段とも、道路での死亡や負傷を減少させるのに大へん効果的であることがわかっている。

 予防接種

 人々やその子どもたちが、予防できる病気で障害を受けることのないように、継続的な大衆教育が必要である。百日ぜきや風疹、ポリオ等の予防接種対策がある。

 全国キャンペーン

 ACRODは、障害予防のキャンペーンを行っている。

 医療サービス(Health Service)は、資金の倍増を主張した。次のようなもののために資金が必要とされている。

・子どもたちの初期診断・介入・治療

・大人や老人の障害者のための判定サービス

・地方や孤立した地域の移動リハビリテーションサービス

 前述のように、リハビリテーションについての研究が必要とされているが、現在のところ、たいへん資金が不足している。痛みのような分野では痛みを柔らげるよりよい処置を可能にするためにさらに多くの研究が必要である。

 風土病についてもよく言われるが、トラコーマによる失明のような、予防できる障害があまりにもたくさんあるということを示す十分な統計資料がある。

 サービスにおける基準

 ACRODは、長年の間、サービスが質の面で改善されることに関心を払ってきた。障害者にサービスを提供する施設の有用性を認めさせるようなパイロットプロジェクトに資金を出すよう、連邦政府に対し、申請がなされている。

 対外援助

 オーストラリア政府は、オーストラリア開発援助局を通して、発展途上国の障害者に対する援助を増進させてきた。この援助は、ACRODや視覚障害者のためのオーストラリア国内協議会のような民間団体を通して送られている。ACRODは、2つの主なプロジェクトを行っている。1つは、発展途上国に適する補助具や器具(設備)についての情報収集と普及である。2番めのプロジェクトは、職業プログラムを運営する人材の訓練である。1984年1月には、マニラを中心にコースが設けられる予定である。

 労働災害

 オーストラリア国民は毎年、労働災害に対し、何百万ドルも負担している。NACHは、事故防止法によって、労働災害保険料の割合を定めるよう勧告している。さらに、NACHは州が労働災害の統計を収集することを主張している。保険会社はこれまで、事故防止や研究にほとんど力を注いでこなかった。ACRODやNACHは、この状態を改善しようとして、保険会社とともに、はたらいている。

 レクリエーションとスポーツ

 多くの障害者が、グループ活動を通じてスポーツやレクリエーションを楽しんでいるが、連邦政府はこのような活動を援助するためのいくらかの資金援助をしている。アクセスキャンペーンの結果、新しいスポーツやレクリエーション施設も、身体障害者にとって出入りしやすいものであるようになってきている。障害者のレクリエーションやスポーツのニーズに関する調査は、まだ初期の段階にあるが、さらに多くの資金が必要であることは明らかである。

 障害についての統計

 1981年に調査が行われ、オーストラリアにおける障害に関する漠大なデータが提供された。

 個々の障害者グループ

 知能障害

 精神薄弱者が地域社会でもっと生活できるように、知能障害の分野で運動が起こっている。グループホームに対する支持が高まっているが、これは、確実に十分なサポートを得るためには、コミュニティサービスの開発と結びつけて考えられなければならない。主なニーズの1つは、臨時のケアによって、身内の者たちが自分たち自身の時間をきちんと持てるようにすることである。

 聴覚障害

 地域社会における重大な聴力損失の広まりが、ますます顕著になってきている。聴覚障害者のための機会は、他の障害者よりも限られていることが多い。限られた教育の機会がその一例である。連邦政府は、テレビ番組の字幕スーパーを製作しているオーストラリア字幕センターの設立に援助をしてきた。字幕は、自動解読装置(ディコーダー)の助けをかりてはじめて見ることができるだろう。この革新は、深刻な聴覚損失をもつ人々にとって、大へん価値あるものである。

 図書館サービス

 文字に対する障害者(Print handicapped people)のための図書館サービスや資金が、不適切で不完全であることが認識されている。この状態を矯正しようという試みが、障害者のための図書館サービス諮問委員会によって成されている。

 放送サービス

 文字に対する障害を持つ者や知能障害者のニーズを満たすために、ラジオや特殊テレビのサービスを中心とした、地域社会のための援助が、さらに必要である。

 医学的リハビリテーション

 現在のところ、オーストラリアでは、リハビリテーション医学の講座はたった1つしかない。NACHやACRODは、高等教育委員会が、大学レベルの医学教育及びリハビリテーションについての研究を行うためにさらに講座を増やすよう要求している。多くの報告から保健サービスにおけるリハビリテーションに対して、ほとんどすずめの涙ほどの資金しか出されていないということが明らかである。

(山川久美子訳)

* 国際リハビリテーション協会・オーストラリア国内事務局長


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1983年11月(第44号)32頁~38頁

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