中華人民共和国 |
中国では、身体障害者のリハビリテーションはまだ始まったばかりである。現在、保健部、民政部等の省庁が身体障害者問題を扱っているが、国内の正確な障害者数の把握や一定の基準を設けた障害の種類別調査はまだ行われていない。
1979年に26の省や市で行われたサンプル調査によると、人口の約0.352%の約334万人が切断者である。
湖北省の障害者数については、1983年、Yinsan CountyとYichen Countyで湖北省民政部湖北補装具研究所が行なった調査がある。それによると、手足や胴体になんらかの障害をもつ者が人口の約0.63%、5,209人であった。(表1)調査地区の総人口は797,689人である。これを男女別にみると、男性3,799人(約76.1%)女性1,410人(約23.9%)と、男性がはるかに多い。年齢別にみると15歳以下が586人(10.9%)、16歳から50歳までが3,448人(69.5%)、50歳以上が1,193人(24.6%)である。切断部位では、223人が下肢切断、781人が肢切断である(表2)。
また、下肢機能のマヒとみられるものが2,726人、上肢機能マヒが669人であった。脊髄に関係した機能不全は258人にみられ、他は(たとえば眼や耳、鼻を失った者)358人であった。(表2)
Yisan |
Yichen |
総数 |
|||||
総 人 口 |
358,236 |
(%) |
439,593 |
(%) | 797,689 | ||
上・下肢 および胴 体に障害 をもつ障 害者 |
総 数 |
2,255 | 0.063 | 2,954 | 0.063 | 5,209 | |
男女別 |
男 |
1,777 | 78.8 | 2,022 | 73.4 | 3,799 | |
女 |
478 | 21.2 | 932 | 26.6 | 1,410 | ||
年齢別 | 15歳以下 | 148 | 6.6 | 420 | 15.3 | 586 | |
16~50歳 | 1,713 | 76.0 | 1,735 | 63.0 | 3,448 | ||
50歳以上 | 394 | 17.4 | 799 | 21.7 | 1,193 |
Yinsan | Yichen |
総数 |
|||
下肢 | 切断部位 | 足 | 24 | 25 | 49 |
足首 | 6 | 3 | 9 | ||
ひざ下 | 24 | 29 | 53 | ||
ひざ | 9 | 12 | 21 | ||
ひざ上 | 53 | 61 | 84 | ||
臀部 | 5 | 2 | 7 | ||
小計 |
91 | 132 | 223 | ||
機能不全 | 異常骨折 | 479 | 281 | 750 | |
脱臼 | 54 | 49 | 103 | ||
乳幼児期脳性マヒ | 101 | 90 | 191 | ||
ポリオ | 54 | 555 | 609 | ||
対マヒ | 58 | 104 | 162 | ||
先天性内反足 | 118 | 139 | 257 | ||
先天性外反足 | 58 | 48 | 106 | ||
先天性臀部けいれん | 25 | 42 | 76 | ||
その他 | 232 | 249 | 481 | ||
小計 |
1,179 | 1,547 | 2,726 | ||
上肢 | 切断部位 | 指 | 193 | 300 | 493 |
手のひら | 28 | 26 | 54 | ||
手首 | 47 | 36 | 83 | ||
ひじ下 | 24 | 40 | 64 | ||
ひじ | 10 | 9 | 19 | ||
ひじ上 | 22 | 35 | 57 | ||
肩 | 4 | 7 | 11 | ||
小計 |
328 | 453 | 781 | ||
機能不全 | 先天性 | 84 | 52 | 136 | |
骨折 | 107 | 47 | 154 | ||
けいれん | 25 | 15 | 40 | ||
部分的神経喪失 | 61 | 65 | 126 | ||
四肢マヒ | 51 | 66 | 117 | ||
その他 | 48 | 48 | 96 | ||
小計 |
376 | 293 | 669 | ||
脊髄 | 機能不全 | 骨折 | 29 | 31 | 60 |
脱臼 | 12 | 8 | 20 | ||
結核 | 13 | 25 | 38 | ||
リウマチ | 31 | 49 | 80 | ||
脊柱側湾 | 27 | 33 | 60 | ||
小計 |
112 | 146 | 258 |
香 港 |
障害者の為のサービス、政策は、彼らを地域社会に統合することに目的をおいている。従って、リハビリテーションサービスは、障害者のもつ身体的、精神的、そして社会的な能力を最大限に引き出すことを狙いとしている。
香港におけるリハビリテーション・サービスの発展
香港では、他の諸国と同様、ボランティア組織がリハビリテーション・サービスも含めた諸社会サービス提供のパイオニアであった。リハビリテーションの分野における最も顕著な発展は第二次世界大戦後にみられる。1940年代末に理学療法・作業療法・義肢学が確立され、1950年代には授産施設、訓練施設、レクリエーションのためのクラブなどが身体障害者、精神薄弱者、視覚障害者のために設けられた。特殊教育は、1960年に教育システムの一機能として設置された。1963年と63年には、2つの医学的リハビリテーションセンターが医療・保健省によって設立された。初の社会及び職業リハビリテーションセンターは、社会・福祉省が1964年に設置し、300人の障害者サービスを提供している。
1976年7月、政府関連各省と香港社会福祉協議会の心身障害者合同協議会との協力によってつくられた作業部会は、リハビリテーション・サービス10年計画を打出した。この1976年のプログラム計画に基づき、1977年10月には「障害者の地域社会への統合」と題するリハビリテーション白書が出版された。この白書には、リハビリテーション・サービスの発展のために政府が提案した1985-86年度までの計画案が盛られている。同白書発行後、香港総督によってリハビリテーション開発調整委員会(RDCC)が指名され、リハビリテーション・サービス政策の発展のために活動している。同委員会はボランティア組織や社会福祉省、医療保健省、文部省、労働省などの官庁と密接に結びついている。
民間組織による社会サービスは香港社会福祉協議会によって管理されている。同協議会が正式に発足したのは1949年で、団体が150、個人は国内から100人、海外からは4人が加盟している。心身障害者合同協議会が1965年10月に設置され、民間団体の活動の調整を行い、さらには政府との連携により、計画や政策決定にも参加している。従って、リハビリテーション・プログラム計画の再評価は関係者の現在までの成果のまとめともなり、また政府と民間のあいだの協力体制を改善・拡大させていくための足がかりとなるであろう。
財源
香港における初めての福祉サービスは、布教団体と地元の中国の伝統的な慈善団体がその財源であった。1940年代以降は、香港の人々のニーズの増加に応えるため、海外からの寄付が基本的なサービスをまかなっていた。1948年に香港政府は社会福祉事務所を設置し、それが1958年に社会福祉省に拡張された。この頃には、政府は民間団体への補助を開始している。
推測では、リハビリテーション・サービスの提供の70%は政府からの援助を毎年受けている90のボランティア組織によるものである。1983年、社会福祉省は新しい資金援助のシステムを民間組織に対して採用し、福祉サービスの資金を2つの種類(ⅠとⅡ)に分類した。分類に相当するサービスは、標準の費用が設定できるもので、しかも次の3つの条件を充たすものを指す。
a.法によって定められたサービスで、その規定を充たしていることが明確なこと。
b.人間が基本的に必要とするものを確実に保証するサービスであること。
c.特に重要だと一般的に見られている社会問題を排除するために必要なサービスであること。
分類Ⅰに含まれるサービスに対しては、政府が設定した標準価格の100%が補助金として支給される。サービスの改善のためにその金額を超過する場合で認可のないものは、各団体の負担となる。この補助金システムは1984年度には完全実施される予定である。
障害者への民間組織によるリハビリテーション・サービスは次のように分類されている。
サービスの種類 |
分類 |
行政 | Ⅱ |
障害者のための宿泊施設 | Ⅰ |
特別児童養護センター | Ⅰ |
授産所 | Ⅰ |
障害者のためのレクリエーションクラブ | Ⅱ |
特殊学校や病院内の学校の設置は、小・中学校に適用される助成法により、文部省の管轄下にあり、資金も援助されている。この法律を定期的に再評価することは、政府と民間の協力によって行われるべきものであり、障害児の教育の質と量の向上のために重要である。
医学的リハビリテーション・サービスを政府の認可の下に提供している団体は、医療、保健省から100%の資金援助を受けている。
しかし、民間からの寄付金が得られれば、政府が設定する標準価格は引きあげられる可能性がある。香港の共同募金にはボランティアの福祉団体が所属しており、各地での募金連動を展開している。民間団体の活動を常に新しい、革新的なものに保ち、プログラムの提案、実施のために新しいアイディアと柔軟性を保つためにも、資金を集めることは必要なのである。
この他、援助を受けている民間団体は、それ以外の支出に関しては、補助金、貸付金、立替金などの形で援助を受けることができる。募金や個人的な寄付は、この場合も重要な財源となる。
1984年現在、香港における障害者の数は465,430人とされている。詳細は下記の通りである。
1.聴覚障害者 | ||
a ろ う | 4,832 |
57,672 |
b 重度聴覚障害 | 8,195 | |
c 軽度聴覚障害 | 44,645 | |
2.視覚障害者 | ||
a 全盲 | 7,671 |
9,112 |
b 弱視 | 1,441 | |
3.精神病 |
205,903 |
|
4.精神簿弱 | ||
a 重度(IQ25以下) | 3,918 | 106,870 |
b 中度(IQ25~50) | 21,674 | |
c 軽度(IQ50~70) | 81,274 | |
5.適応障害 | 7,664 | |
6.学習遅滞 | 65,289 | |
7.肢体不自由(脳性マヒ含む) | 12,920 | |
計 |
|
465,430 |
これらの数字は、1979年の人口と障害者との比率を1984年の人口に直して計算して割りだされたものである。香港の総人口は540万であり、障害者の割合はその約10%であると推測されている。
1983年に、コンピューターによる障害者の中央登録システムが発足した。これは、障害者人口のデータを系統的に把握し、長期的なサービス提供計画を可能にするためのものである。現在、6万人の障害者が、社会福祉省、文部省、労働省、ならびに28の民間団体によって提供された情報と共にコンピューターにファイルされている。今後も登録の作業が続けられる見通しである。
1.障害予防と早期発見のためのサービス
このサービスの目的:
a 障害予防の方法を一般に広く知ってもらうための、保健教育の充実
b 職業病を減らす
c 結核・ポリオなどの伝染病に対する免疫を徹底させる
d 障害予防の法的措置による実施可能性の認知
e 大気、水の汚染や騒音などの公害による慢性の病状を最小限にとどめるための計画や法的措置の実施
主な6つの原因による障害の削減のための対策
a 事故による障害の防止
―出生時のケアの提供
―家庭内の安全対策
―屋外スポーツ・レクリエーションの際に起こる事故の防止
―交通事故の防止
―職場の事故の防止
b 先失的障害の予防
―遺伝に関するカウンセリング
―出生前・後のケア
―家族計画
c 新生児の疾病による障害は、未熟児の状態体重・仮死出産・出生時の黄だん・G6PD欠先症・甲状腺機能不全症などに注意を払えば予防できる。
d ストレス、過労などの社会問題も障害の原因となりうるものである。教育・カウンセリングにより、人々の精神的負担を軽減し、障害のリスクを減らすことができる。
e 医療・保健省は、わずかな感染が一生の障害を引き起こすことを防ぐため、予防接種を行っている。
f 国立病院で治療を受けている老人を対象とした統計によると、香港の65歳以上の人口のうち20%は慢性の病気又は障害をもっている。老人のための教育や地域の介護サービスが実施されている。
リハビリテーションに関する教育のための委員会がリハビリテーション発展、調整委員会の提言により設置され、障害に関する民衆の意識の向上のための活動を行っている。
プログラムの性格 |
担当省 |
対象となる年齢層 |
1.家族健康センターでの総括的な認知 | 医療・保健省 | 出生時~5才 |
2.審査及びグループトレーニング・プログラム | 文部省 | 5才以上 |
3.総合評価センター | 医療・保健省 | 12才以下 |
4.児童評価サービス | 文部省 | 4~18才 |
2.早期訓練とケア
早い時期に治療を受けることは、障害者のリハビリテーションにとって不可欠なことである。そのため、1982年以来、政府と民間の合同による組織が政府によって任命されており、障害児の就学前のケア、トレーニングなどの問題にとりくんでいる。
現在のサービス
a 0才~6才児のためのプログラム
現在は民間の組織によって実施されている。1985年度までに早期教育トレーニングセンターを設置し、0~2才の障害児及び一般の障害児教育以外のプログラムを必要とする2~6才の障害児のためのサービスの実施の提案を目下の目標としている。
b 総合児童ケアセンターは、2才から6才までの軽度障害児と、健常児との統合のための活動を行っている。
c いくつかの特別児童ケアセンターが政府の援助のもとに、2~6才の障害児のトレーニングの為に設立されている。
d 特殊学級就学前の4才から5才11ヵ月児のためのクラスが設置され、就学のための準備を行っている。
3.特殊教育
身体障害者のための特殊学校は、小・中学校合わせて8校ある。各校共校長、教員・看護婦・理学療法±(PT)、作業療法士(OT)、言語療法士(ST)、技術士、子守、スクールバス運転手などのスタッフを揃えている。病気のため入院している障害児のために、361ヵ所で、11の病院専属の教員が指導にあたっている。
4.医学的リハビリテーション
医学的リハビリテーションは、病院での緊急治療期終了後直ちに始められなければならない。リハビリテーション・センターや総合病院においては、多方面からのアプローチがとられている。香港、九龍付近には、入院患者収容可能なリハビリテーション・センターが3、通院制のものが4、障害者のためにつくられている。1984年から87年の間に、入院可能なセンターがさらに建設される予定である。患者の中には、義肢を必要とする者もあるが、その義肢は補装具センターで支給することもできる。
5.社会復帰
障害の地域社会への統合のために、政府、民間の組織が社会復帰のためのプログラムを行っている。サービスの中には、カウンセリング、住宅の相談、収容保護、交通手段の確保、スポーツ、レクリエーションなどが含まれている。重度障害者に対しては、家族の収入に関係なく、月510香港ドルが支給されている。生活保護を受けている障害者に対しては、この金額の50%が補助金として支給されている。
a 住宅
公共住宅を必要とする人のために、住宅局は特別の考慮を払っている。アパートは、各個人の必要に応じて改良され、当局が通常その家賃も調整している。障害者のアクセスのための配慮もなされてきており、官庁の建物などに適用される障害者の建築物へのアクセスに関する法が、自主性に基づいてはいるが発効している。
b 宿泊施設
自立して生活できない障害者のために、宿泊施設が整備されている。1983年には、成人身障者のための宿泊設備を、1,159の需要に対して270しか提供することができなかった。1988年には収容定員を890に増大する予定であるが、それでも357の不足が生じる。
c 交通
1980年、障害者のための交通機関のサービス案が承認された。これに基づき、必要が生じた地域では特別の輸送サービス提供が行われている。政府の援助を得た民間組織による「リハバス」サービスは、重度障害者のための訪問サービスを行っている。また、障害者の運転免許取得、自家用車維持のための諸費免除もサービスの一環となっている。
d スポーツ・レクリエーション
健常者と同様、障害者にとってもスポーツとレクリエーションはバランスのとれた生活の為に不可欠である。政府も、障害者と健常者が共にレジャーを楽しめるイベントへの援助を送っている。
e 障害者自身による自助グループ
自助グループは、障害者自身及び一般の社交の場、レジャーの場を提供するという意味で、有意義な活動を行っている。彼らは地域社会の中での自らの権利・義務を認識している。グループの中には、政府からの援助を受けているものもある。
f リハビリテーションのための補助器具
リハビリテーション器具や環境改善などの情報提供は、リハブ・エイドセンターで行われている。障害者のための補助器具の提供またはそのための資金援助も行われてはいるが、まだ限られており、政府の援助も含めた新たな改善案が必要である。
g 障害者のためのソーシャルワーカーによるサービスは、公・私両リハビリテーション・サービスの中で行われている。
6.職業リハビリテーション
a 職業訓練
これは技術教育、産業訓練省の管轄下にある。健常者のための技術訓練所のコースのいくつかは障害者に対しても開放されている。重度の障害者は、香港の2つの特別訓練所で訓練を受ける。
b 一般雇用
労働省は、障害者のために適切な就職あっせんを行っている。民間のリハビリテーション組織も同様の努力をしている。この分野に関しては、政府によるより多くの援助が期待される。
C シェルタード・ワークショップ
シェルタード・ワークショップは、障害のために一般雇用の対象とされない障害者のために運営されている。
専門家の不足
財源の不足に加え、完全かつ包括的なリハビリテーションサービスを実施するための専門家の不足は、もうひとつの大きな限界である。香港で、リハビリテーションにたずさわっているのは、医師、整形外科医師などの専門家、精神科医、理学療法士、作業療法士、言語療法士、心理学者、ソーシャル・ワーカー、特殊教育教師、児童養護担当官等である。香港においては、専門家の訓練は精神科医と言語療法士以外はすべて受けることができる。専門家不足の最大の原因は、過去8年間のサービスの拡充にある。サービスの急速な増大に追いつく人材を確保する臨時的な手段として、学士をもたない高校卒の採用をできるかぎり促進している。
アクセスと移動における障壁
アクセスに関する障壁排除のための法があるにもかかわらず、その遵守は自主性に任されているのが現状で、香港の多くの部分はアナセシブルではない。政府は障害者の必要とする環境に関する調査を始めており、その結果が適切なサービスの提供に結びつけられることが期待される。
社会における偏見
どの地域社会にも、障害者に対する偏見は存在するであろう。1982年に、リハビリテーションに関する教育を担当する委員会が発足した。この委員会により、様々なプロジェクトが実施され、その継続が、一般市民が障害者を受け入れるようになるために役立っていくであろう。
補助と器具の供給の不足
現在、障害者向けの器具はすべて海外からの輸入である。香港では製造されていない。この現実が、多くの問題を生みだしている。
a 輸入品であるために価格が高い。
b 支店が香港に置かれているにもかかわらず発注から受け取りまでに時間がかかる。
c 欧米、オーストラリアから輸入される器具の殆んどは、サイズが大きく香港の人々の体型に合わない。
d 香港の多湿な気候のため器具の素材によってはさびやすく、寿命も短くなる。
インドネシア |
はじめに
インドネシアはおよそ13,670の島々から成る国でその広がりは東西に4千8百キロメートル、南北に2千キロメートルにもおよぶ。群島としての規模は世界一である。約6千の島に独自の社会、文化、言語をもつ300にものぼる民族、計約1億4千7百万人が生活しているのである。
障害者について
インドネシアにおける社会問題は、貧困、開発の遅れ、天災など数えきれず、障害者問題はそのひとつにすぎない。人口密集、都市化、天災、病気、戦争などが障害の発生要因としてあげられる。
1945年、この国が独立して今日に至るまで、社会サービスや社会心理的側面をも含む医療分野の進歩にともなって、障害者問題に対する関心が少しずつ高まってきた。
故スハルソ博士によって初の身体障害者リハビリテーション・センターが設立されたのは1951年のことである。医療、職業、社会心理面を扱う総合的なリハビリテーション・センターとして今日に至っている。このセンターの設立によって、インドネシアにおける障害者問題は政府とコミュニティの共通の問題として認識されるようになったといえる。それは、その後、政府と民間団体の協力の下にリハビリテーション・センターの各地に設立されていったことからもわかる。
インドネシアにおける障害者数は、3,627,523人。総人口147,460,298(1980年人口動態調査による)の約2.46%を占める。その内訳は次の通りである。
身体障害者 | 1,253,412人(0.85%) |
視力障害者 | 1,227,143人(0.90%) |
精神薄弱者 | 589,841人(0.40%) |
職覚障害者 | 457,127人(0.31%) |
計 |
3,627,523人 |
この数字の規模からも、各省庁、あるいは各分野間の協力体制のもとに総合的なリハビリテーション・プログラムが実施される必要があるといえる。
障害者人口のうち1,088,257人(約30%)は社会経済的に弱い立場にあるといわれている。大きく分けて次の三階層に分けられる。
貧しい層 370,007人(34%)
非常に貧しい層 282,947人(26%)
最も貧しい層 435,303人(40%)
総人口の約65%がジャワ島に住むということから推定すると、ジャワ島内の障害者数は2,357,885人となる。
身体障害者リハビリテーションについて
身体障害者のためのリハビリテーション・サービスは、医療、心理、社会などのさまざまな要素がからみあった複雑な仕事である。
インドネシア政府規定第36号(1980年)には、リハビリテーションとは、障害者がその社会性を十分に発揮し、地域社会で自然な形で生活できるための機能回復、あるいはその発達の過程であると述べられている。障害者リハビリテーションは、障害者がその能力、教育、経験の程度にふさわしい生活を地域社会の中でできるように、身体的、知的、社会的能力を保持し、開発していくことを目指しているのである。
障害者のすべてが利用できる施設を整備することは、インドネシアではその数から考えても不可能である。身体障害者のためのリハビリテーション・センターは前述のスハルソ博士リハビリテーション・センターが唯一のもので、定員は年500名である。3つある支部の定員はそれぞれ年200名である。つまり合計しても6年わずか1,100名しかサービスを受けられない。
リハビリテーションサービスの実施方法については、インドネシアでは次の4つの方法がとれている。(1)施設、(2)施設外、(3)LBK(ロカ・ビナ・カリヤ)、(4)MRU(移動リハビリテーション チーム)
1)施設型リハビリテーション
これは政府、あるいは民間団体によって運営される特別施設(リハビリテーション・センター)で行われるもので、リハビリテーション・プログラムの効果を十分あげるに必要な設備が整えられている。主に次の4つの機能をもつ。
(a)社会福祉サービス
(b)技術訓練
(c)経済的生産活動の開発
(d)障害者問題とその対策に関する情報提供
多くの障害者が広い地域に点在しているインドネシアでは、施設を通してすべての障害者の医療リハビリテーション・サービスを受けることは不可能なため、PRU(予防リハビリテーション・チーム)が総合病院の中へ組み込まれることとなった。試験的に中部ジャワ・スマランにあるカリヤディ病院で1973年に開始されたこのプロジェクトは非常に効果をあげている。
PRUを総合病院に組み入れるこの方法には、総合病院におけるサービスの質の向上、治療期間の短縮、そのため患者の交代が早められるなどの利点がある。このような利点を考慮し、PRUサービスは、その後10の総合病院へととり入れられた。
2)施設外リハビリテーション
施設外リハビリテーションは、地域社会が主体となって障害者のリハビリテーションを進めていく方法である。この方法の下では、障害者は村を出てリハビリテーション・センターに移り住む必要はなく、家族と共に生活していながらPSM(コミュニティ・ボランティア・ソーシャル・ワーカー)と呼ばれる人びとからサービスを受けられる。PSMは、社会省の管轄下にある社会事務所の指導のもとに、障害者に対してリハビリテーション・サービスを行うボランティアである。任務に着く前、PSMはソーシャルワークおよび障害者リハビリテーションに関する基本的な考え方や知識を得るための訓練を受けることになっている。
施設外リハビリテーションの内容は、施設で行われるものと同じであるが、施設でのリハビリテーション期間が普通6ヵ月から7ヵ月に限られるに対して、施設外リハビリテーションについては社会大臣令策55号(1981年)の中に次の項目が含まれることが規定されている。
○社会的ガイダンス
○技術訓練
○教育(知的、精神的、肉体的)
○自助具等による援助
○最低限のニーズを満たすための援助
施設外リハビリテーションでは、センターを退所した者に対するアフターケアサービスも行っている。リハビリテーション・センターを退所した後就職した者の中は、その技術をさらにみがき向上させる必要がある者が多い。この方面でPSMは手を貸すことができる。
施設外リハビリテーションを通してサービスを受けた障害者の数は次の通りである。
第二次5ヵ年計画の後半3年間(1976―1979年)―29,300人
第三次5ヵ年計画前半4年間(1979―1983年)―83,150人
つまり、施設外リハビリテーションが実施に移されてからのこの7年間に計112,400人がサービスを受けたことになる。
3)ロカ・ビナ・カリヤ(LBK)
「ロカ・ビナ・カリヤ」は、障害者に対する全国的なリハビリテーションおよび社会福祉プログラムの枠組の中で次のように定義されている。「ある一定の地域社会における障害者のための、コミュニティを主体とした社会福祉およびリハビリテーション・サービスの基点となるべースステーション」
LBKは多目的施設であり、各地域社会のニーズにあわせて下記の機能をもつものである:
a)地域社会内の障害者およびその基本的ニーズに関する調査;
b)障害者の親や家族、コミュニティ指導者を対象とした。地域社会内の障害者の保護やリハビリテーションに関する情報提供;
c)収入を上げるための、障害者を対象とした生産技術の訓練やカウンセリング;
d)LBK、あるいは授産施設または地域の個人の家で生産的活動を行う機会の提供;
e)授産施設や独立した訓練卒業生のための特に生産物の売却や資材の分配、器材購入のための貸付など、生産技術に関する助言;
f)カウンセリングや訓練を受けた者の協同組合結成の支援;
g)読み書きプログラム、成人教育、ADL、カウンセリングなど、他の関連サービス;
h)PSMや他のコミュニティ・ボランティアを対象とした、障害の予防やリハビリテーション、社会への統合等に関する基本的技術の訓練;
i)障害の予防、障害にかかわる問題あるいは地域社会におけるリハビリテーション・サービスの意義等に関する一般的、教育的情報の提供;
j)障害者やその親、コミュニティを指導、さらに一般の人々を対象とした障害に関する啓蒙活動。すなわち、適切な動機づけが行われ、技術さえ身につければ、障害者もまた地域社会において生産的な意義深い生活を送ることができるということに対し理解を求める;
4)MRU(移動リハビリテーション・チーム)
MRUはミニバスで移動する3名から4名の専門家から成るチームで、農村地区におけるLBKや他の施設外リハビリテーションを支援するものである。その具体的な目的は、
a)医療、職業、社会リハビリテーションにかかわる専門的技術的助言;
b)補装具や車イスなどの補修サービス;
c)LBKスタッフやPSM、あるいは他のコミュニティワーカーを対象とした短期訓練コース;
d)農村地区における一般向け教育プログラム
民間団体の活動
障害者に関わる民間団体の活動は、主に、あらゆる種類の障害を対象とした特殊学校という形で行われている。下記は、民間団体運営による特殊教育の状況を表わしたものである。
障害の種類 | 特殊学校数 | 定員数 |
視力障害 | 40 | 4,000 |
聴覚障害 | 71 | 10,650 |
精神薄弱 | 92 | 9,200 |
身体障害 | 16 | 4,800 |
計 |
219 | 28,650 |
これらの学校は特殊教育を主なサービスとしているが、中には医療サービス、職業訓練などを行っている学校もある。身体障害者のための医療、教育、社会、職業訓練サービスを行っている民間の団体に「インドネシア障害児協会(YPAC)」がある。1953年2月5日、ソロにおいて故スハルソ博士の夫人によって設立されたものである。
この肢体不自由児協は、現在、全国に16の支部をもち、通園者も含めると年間720名の障害児を対象にサービスを行っている。もともと児童のみを対象としていたが、現在はコミュニティ・リハビリテーションを通して児童、成人を問わずそのサービスを提供している。
問題点
インドネシアでは、身体障害者数に対して十分な数の施設がなく、年々増える障害者の問題は深刻である。したがって、施設に代るコミュニティ・リハビリテーションや移動リハビリテーション・チーム、あるいはLBKの活用は良策であるといえる。しかしながら、専門家や有資格指導者の不足、資金不足、就職先の不足など、深刻な問題は多い。問題の解決にあたっては、時間と労力が必要であるが、同時にしっかりした組織や外国を含む他との協力体制が必要である。外国との協力に関していえば、技術や知識の向上のみでなく、各国間の交流を通して理解を深めることが求められる。
韓 国 |
障害者の現状
1)障害者の数
1979年に社会保健省が行ったサンプル調査によれば、韓国の心身障害者の総数は1,086,823と推定され、これは全人口の2.9%にあたる。また1980年の別のサンプル調査によれば、901,800人であり、これは総人口の2.4%となっている。1980年12月1日現在の障害者数は表1の通りである。
障害の種類 |
% |
推定数(人) |
肢体不自由 | 66.1 | 596,000 |
視覚障害 | 4.6 | 41,400 |
聴覚障害 | 11.8 | 106,400 |
言語障害 | 4.5 | 40,300 |
精神薄弱 | 4.8 | 43,700 |
その他 | 8.2 | 73,400 |
障害者数を正確に把握することはむずかしく、とくに精神薄弱者の調査には困難が伴う。従って障害者団体等からは、これら調査の数字は実数をはるかに下回っているという批判がある。
2)障害者福祉施策の歴史的背景
韓国の長い歴史の中で、古代スパルタ人のごとく障害者を排斥したり、残忍な扱いをしたという記録はない。むしろ我々の祖先は障害をもつ人に保護を与えている。新羅(A.D.500~700)時代には、寡婦、孤児及び重度の障害者に対し食物を与え、保護した。季朝時代の1783年にはChung Zo王が、盲人のための特別施設を作り、占いを職業として教えた。韓国最初の国立リハビリテーション・センターは、1954年国連韓国再建機関と米韓基金の協力で建てられた。このセンターを通じて、リハビリテーション医学、PT、OT及び障害者職業訓練が韓国に紹介された。このセンターは1972年に閉鎖され、数年後国立リハビリテーション施設が設置された。これは大企業に働く労働災害による障害者のためのものである。
西欧におけるキリスト教と同じように、我国では仏教及び儒教が慈悲深い人道的行為を説いている。だが、総合的リハビリテーションという概念は韓国にとっては全く新しいものである。
リハビリテーション施策
1)予防と早期発見
予防そのものはリハビリテーションではないが障害の発生と深く関わっており重要なものである。予防に関する法律としては、環境保護法、伝染病予防法、母子保健法があるが、具体的施策は示されていない。
2)教育
特殊教育推進法が1977年に制定された。障害者の入学試験受験、定期健康診断及ぶ職業訓練について定めている。また1981年には教育法の中で特殊学校及び特殊クラスの設置を政府は定めた。
3)社会リハビリテーション
障害者の地域社会への統合を達成するために、様々な社会リハビリテーション・サービスが政府及び民間団体により提供されている。
生活保護法は、労働能力のない障害者に対する医療及び生活費の支給を規定している。
心身障害者福祉法は1981年に制定された。これはリハビリテーションに関する画期的法律であり、次の施策を定めている。
(1)各県におけるカウンセリング・サービス
(2)各県の国立及び地方自治体病院及び保健センターにおける医学的診断、治療及び指導
(3)施設ケア、居室ケア及びデイケアによるリハビリテーション・サービス
(4)カウンセラーによる訪問サービス
(5)貧しい障害者に対する義肢補装具の無料交付
(6)政府による障害者職業訓練、雇用及び職業開発プログラム
(7)道路、公園、公的機関の建物、交通機関、通信手段等公共施設へのアクセスの確保
(8)重度害障者介護者への特別手当
(9)障害者福祉施設建設及び運営のための支出
4)職業リハビリテーション
1982年の法改正により、戦傷による切断者の指定職業として、トークン販売が加えられた。労働災害補償法は6回の改正を経て、労働者の権利を保証するものとなった。
職業訓練基本法は、障害者の職業訓練について1981年中に考慮すべきと述べている。1982年の職業安定法は、障害者の適職52種を勧告した。障害者福祉法にも、障害者の雇用に言及している。
民間団体の活動
1982年厚生省の中にリハビリテーション部が設置されたが、地方政府には、リハビリテーション担当部はない。厚生省に登録されている民間団体は、精神薄弱者関係27、身体障害者関係26、聴覚言語障害関係12、となっている。その他未登録の団体も多数ある。我国では、リハビリテーションにおける指導的役割を果しているのは民間団体である。
問題点
1)障害者数に関する信頼できる統計資料の欠如
韓国におけるリハビリテーション・サービスの発展のための大きな問題点として、正確な障害者数が把握されていないことがあげられる。これは政策立案ばかりでなく、全面的サービス供給に対しても大きな障害となっている。
2)訓練された専門職の不足
韓国におけるリハビリテーション・サービスの総合的展開を拒んでいる最大の要困は、訓練された専門職の不足である。立派な障害者のための施設やシステムもそれらを動かす専門家がいなくては役に立たない。韓国には障害者福祉の専門家を育てる学校がない。3大学で障害児教育の専門教員を7短大で理学療法士を育成しているから職業カウンセラー、言語療法士、義肢装具技術者の養成機関はない。また、ソーシャル・ワーカー、心理専門職及び看護婦の教育カリキュラムの中には、リハビリテーションが全くないか、あっても大変貧しい内容のものであるため、卒業しても障害者リハビリテーションの分野での十分な活躍が期待できない。
リハビリテーション・ワーカーの給与問題も考慮に入れねばならない。給与が大幅に改善されない限り、ワーカーの雇用はむずかしい。
3)一般の人々の偏見
およそどこの社会にもあるように、韓国にも偏見がある。我々ははてしなき戦いを挑まねばならないのであり、障害者のかかえる問題と彼らのもつ力について一般社会の認識を高め、社会の生産的一員として受けいれるようあらゆる方法や手段を求めていかねばならない。
4)雇用
各種の訓練、機器の改良への援助、職業斡旋サービスが障害者に提供されたとしても、さらに多くの雇用主が障害者に対して働く機会を提供してくれる必要がある。
マレーシア |
はじめに
マレーシアの面積は約13万平方キロメートル。半島部の12州の他にボルネオの2州、サバとサラワクの両州に分かれる。総人口約1千3百90万人のうち42%が0歳から14歳、54%が15歳から64歳、4%が64歳以上という年齢構成を示す。
国内の障害者数については、総括的なデータはないが、1958年に社会省がサンプル調査を行なった。これによると、半島部の人口のうち、肢体不自由者、視力障害者、聴覚障害者、精神簿弱者などが約1%を占めていた。その内訳は、視力障害者0.32%、聴覚障害者0.18%、切断者0.42%精神薄弱者0.08%である。
この調査結果を1980年の推定人口1千390万人に当てはめると、上記の4種の障害をもつ人々は13万900人にのぼる。下記の表は、障害者推定人口を年齢別、障害別に示したものである。年齢区分は、就学児童および職業訓練を必要とする者の数をわかりやすくするため下記の通りとした。
年齢 | 視力障害 | 聴覚障害 | 切断 | 精薄 | 計 |
0~5歳 | 471 | 3,905 | 3,653 | 1,472 | 9,501 |
6~17歳 | 3,555 | 7,804 | 14,301 | 5,128 | 30,788 |
18~34歳 | 9,766 | 5,682 | 17,508 | 2,557 | 35,518 |
35歳以上 | 30,668 | 7,629 | 22,918 | 1,963 | 63,198 |
計 |
44,480 | 25,020 | 58,380 | 11,120 | 139,000 |
障害の予防と早期発見
保健省による保健予防・治療対策が効を奏し保健水準の向上がみられたが、その結果、平均寿命は伸び、さらに乳幼児死亡率にも低下がみられた。保健プログラムとして、障害の主要原因をとり除こうという全国的なキャンペーンも行なわれている。マラリアや結核、ハンセン病、フィラリア症、フランベジア疹など伝染病のまん延防止や根絶を目指すプログラムの実施が効果をあげ、農村地区における発生が急激に減少した。各地の保健所ネットワークを通じ農村地区の保健プログラムが4,000人の人々を対象として実施されている。一方、事故による障害を防ぐ対策としては、ヘルメットや安全ベルトの使用など、法律による規定がある。労働省工場機械局では業務上の安全・保健対策がすすめられ、工場や機械の定期的、あるいは抜き打ち検査が行なわれている。
政府はまた、交通安全委員会を通して、セミナーや交通安全キャンペーン、事故多発地点の表識掲示などによる交通事故防止強化キャンペーンを開始した。学童のためには交通安全をテーマにしたゲームもとり入れている。一方、家庭内における事故の防止は保健省母子保健サービスの業務の一部となっている。
肢体不自由、視力障害、聴覚障害、精神薄弱の4種の障害については、自発的に登録するシステムが社会福社省によって設けられた。登録した者は、治療の照会、義肢や補装具の装着、教育や職業、社会的訓練など、リハビリテーションに役立つ各自に合ったプログラムを通じてサービスが受けられる。
視力障害の早期発見を目的とする視力検査設備は病院や保健所、あるいは農村地区のクリニックにおいても整っている。学校保健プログラムでも、保健婦や医師による学童の視力検査が行われている。視力に欠陥がみられる児童については、眼科医の治療を受けるよう指導される。
政府の障害予防対策を強化するため、民間団体のマラヤ視力障害者協会は1967年に視力障害予防部門を設けた。これを通して農村地区へのサービス提供が行われ、政府の保健施設の活動の補助的役割を果すようになった。サービスの中には、視力検査、軽い眼病の治療、重症者の政府登録眼科医への紹会、視力障害予防教育等が含まれる。
聴覚障害者協会はクアラルンプールに聴覚センターを有する民間団体である。このセンターでは、聴覚障害をもつと思われる就学前児童の検査を行っている。その後、必要な児童は治療や補聴器の指導が受けられる施設へと紹介される。
リハビリテーション
マレーシアにおける障害者リハビリテーションは、主に社会福祉省によって進められてきた。マレーシアでは、総合的リハビリテーションに重点が置かれているため、部門をこえたアプローチが必要である。医学的リハビリテーション部門は整形外科、脊髄損傷科、ENTクリニック、眼科、理学療法科、作業療法科等として総合病院に設けられている。また、ハンセン病者向けリハビリテーション、ガンの治療、精神医学的治療などには専門病院がある。リハビリテーション機構の一部である整形外科四肢センターは病院内に設けられている。一方、視力障害者や聴覚障害者のための特殊教育は教育省の管轄下にある。
社会福祉省ではまた、任意登録や治療、あるいは障害者の世話、訓練、教育等を行なえる養護施設の設置を通して障害対策を進めている。授産所の運営や一般就職の斡旋、あるいは特別援助計画を進めているのもこの社会福祉省である。
職業訓練
1.肢体不自由者のためのサービス
社会福祉省は肢体不自由者のための職業訓練センターを運営している。1965年に設立されたこのセンターは、我が国における唯一のリハビリテーション・センターで治療、教育、職業訓練、ケースワーク・サービスなどを総合的に行なっている。収容定員は150名で、年齢は6歳から25歳までであるが、最高30歳までの通所訓練生が利用できる場所がごくわずかながらある。
センターにおける主なプログラムには次のものがある。
a)医学的リハビリテーション
b)職業訓練
c)初等教育
d)ケースワークとカウンセリング
2.視力障害者に対するサービス
視力障害者のための職業訓練は、主に民間機関によって行なわれている。マラヤ視力障害者協会はクアラルンプールにガーニー訓練センターと呼ばれる都市型の訓練センターを運営している。タマン・ハラパン訓練センターはパハンの、テメローに1959年に設立されたセンターで、25エーカーにおよぶ敷地の中で米や野菜の栽培、家畜の世話などの指導が行われている。
その他、サラワク視力障害者協会運営の訓練、サバのウォーレス訓練センターなどがある。
3.聴覚障害者のためのサービス
聴覚障害者のための独立した職業訓練センターというものはないが、身体障害者リハビリテーション・センターにおける各種訓練を受けることができる。
4.精神簿弱者のためのサービス
精神薄弱者のためのサービスは、政府および民間によって徐々に進められつつある。その中には、脳性マヒ児を対象としたものも含まれる。
社会福祉省管轄の精薄施設は3つあり、定員は合計すると540名である。また、ジョホール・バールにあるジュビリー・チルドレンズ・ホームとスレムバンにあるトゥンク・ナジハン・チルドレンズホームは、前者が1969年、後者が1978年に設立された養護施設で、重複障害をもつ子どもを含む重度の精神簿弱児のための養護や訓練を行なっている。入所児童の年齢は、新生児から18歳で、収容定員は2つの施設合せて300名である。
訓練可能の14歳から24歳までの精神簿弱者のためにはタマン・シナール・ハラパン(ジョホール・バール、タムポイ)で職業訓練が行なわれる。設立は1975年で、定員は240名である。また、通所訓練も、14歳から30歳を対象に行なわれている。
医療相談にはジョホール・バールの総合病院の医師やタンポイのプルマイ病院の精神科医の協力を得ている。
半島部では、精神薄弱児協会や他の民間団体が運営する6歳から18歳を対象としたデイ・ケア・センターもいくつかみられる。サバ州では、16歳以上の精薄者のためのデイ・ケアセンターが2つ、州社会福祉局の下にある。また、サバ・チェシャイヤホームでは、訓練できないとみられる児童や成人を受け入れている。
雇 用
社会福社省は、訓練を受けた障害者が、一般、あるいは授産所などにその就職先をみつける援助をするが、そのほか、補足的なものとして販売組織というものを設け、自営業者に原材料を購入して提供し、でき上った製品を販売している。この販売組織のシステムは働く能力をもちながら技術をもっていない者、障害が重度のため移動が制約されている者、年齢が高い者など様々な理由で就職できない障害者のために1967年始まった。当初、身体障害者および精神薄弱者を対象に始まったものであるが、後に社会的に不利な立場にある人々に対してもその戸口が広げられた。参加を予定している者やすでに参加した者の作業能力を改善するため再訓練も行なっている。現在、このプログラムに参加している障害者は、半島部で116人にのぼる。
このプログラムでは、主にヤシの実や、魚、スクラップ・ゴム、砂利など重い物を入れるカゴ作りを中心に進められてきたが、最近では、プラスティック製のカゴが市場に出回り、輸入籐材料の値上りなどの問題に直面している。そこで、カゴの代りに洋服の仕立てなどを行い、方向転換する動きが出てきた。
マラヤ視力障害者協会もまた、販売組織を設け、竹製品の販売を行ない訓練を受けた者に働くチャンスを与えている。本協会はペタリングジャヤに就職相談センターとホステルを運営している。この他、社会省の運営する主な授産施設はつぎのとおりである。
Bengkel Daya(スランゴール州・クラン)
Tampoi(ジョホール州・タンポイ)
Bengkel Bidaya(クランタン州コタ・バル)
Occupation Centre(ペナン)
Sri Sembilan(スグリ・スンビラン州マンバウ)
Air Keroh(ムラカ州アイル・ケロ)
Sandakan(サバ州サンダカン)
Kinta Valley(プラック州イポ)
Sarawak(サラワク州)
社会保障法
労働人材省は、1969年制定(1971年10月1日施行)の従業員社会保障法の執行の任にあたっている。本法律は、雇用傷害保険計画および障害者年金に関連したもので、マレーシア国内のあらゆる業種に適用される。ただし、適用の範囲については、5人以上の労働者を雇う雇用主および月額MS500ドル以下の収入の労働者に限る。雇用傷害保険計画の適用を受けない労働者については、1952年発布の労働者保障布告の屁護を受ける。本計画によって次のものが保障される。医療、労働災害によって保険者が死亡した場合の被扶養に対する定期的給付金、傷害による切断者への義肢装具の給付、傷害による重度障害者への定期的給付金、葬儀手当など。また、この法律には、働く障害者に対する職業訓練についても規定されている。
その他のサービス
福祉省は、以上のサービスのほかにも次のような現業サービスを行なっている。
1.自助具と補装具
障害者が用いる義肢、松葉づえ、車椅子などの自助具や補装具の購入については、福祉省が規定を設けている。
2.眼鏡援助プログラム
1977年に始まったこのプログラムは、特に農村地区を中心に、視力に欠陥がある貧しい家庭の子どもたちの視力を保護することをその目的としている。視力が低下したために学業面で落ちこぼれたり、経済的理由で眼鏡を購入できなかったりすることを防ぐとともに、失明の予防をはかるものである。
3.自営のための出資金
障害のため、あるいは移動の制約やその人が受けてきた職業訓練の内容によって、自営業を仕事として選んだ障害者は、一人当りM千ドルが社会福祉省より支給される。
奨励手当
雇用されてはいるが生活費が十分でない障害者のために、その収入を補うことを目的として、毎月、福祉省から奨励手当が支払われている。
民間団体の役割
マレーシアにおける民間組織は、障害者のためのリハビリテーション・サービスを開拓し、実施してゆくという政府の補助的役割を果している。社会福祉省は、リハビリテーション・サービスを実施している民間団体に対し助成を行ない、その参加と関与を奨励している。これは、リハビリテーション・サービスを行なう民間団体への財政面の援助を行なうというだけでなく、ケアやサービスの最低水準を確保するためでもある。これら民間団体の運営委員会には、社会福祉省を代表する委員も含まれている。
民間組織が特に活発な活動を行なっているのは、視力障害、聴覚障害、脳性マヒ、精神薄弱の分野で、主に通所センターでサービスを提供している。
調整活動
政府および民間組織のリハビリテーション・サービスの調整は、関連各省の民間組織の代表から構成される運営委員会で行なわれていたが、1973年、福祉省の指揮によりマレーシアリハビリテーション審議会が設けられた。この審議会の主たる機能は、民間団体と他機関との調整を行なうこと、また、州立リハビリテーション協会を設立、発展させることである。審議会のメンバーは、全国的なボランティア組織や関連各省の代表、あるいはリハビリテーション分野で顕著な仕事を続けている個人などである。
おわりに
我が国のリハビリテーションは様々な民間組織や宗教団体によって始められた。そして、1945年には、戦争による犠牲者を援助するために軍当局が社会福祉省を設立したのである。国内状況がある程度安定すると、社会福祉省はさらに組織化を進め、その基礎を固め、公的扶助という形で援助を必要とする人々に様々な福祉サービスを提供したり、障害者を含め不利な立場にある人々にその他のサービスを提供してきた。
独立以来、政府は障害者のためのプログラムを国家開発計画の一部として組み入れる政策を実施してきており、その結果、リハビリテーション・サービスは大きく発展した。障害者へのサービス供給と、普及への努力を続けながら、一方では民間組織が政府の補助的機関として成長することを促し、支援することが政府の方針とされている。さらに、将来の行動計画として、より多くの障害者にそのサービスがゆきわたるように、様々な種類の施設を整備することが考えられている。
フィリピン |
はじめに
フィリピン共和国憲法は、国民の一人ひとりが保健、教育、住宅、社会福祉、地域開発の分野で十分なサービスを受けることを保証している。その中には、国民の一人ひとりが威厳をもって生産的生活を送るために、必要なソーシャルサービスの開発も含まれる。障害者は、特殊なニーズをもつ他の人びとと同様に、ニーズや問題をもっているが、同時に人生に対する野心や希望をもっている。そのニーズや問題点こそがリハビリテーション・プログラムを企画、実践していく上で基礎となるべきである。
フィリピン政府は過去70年間、障害者がおかれている状況を改善すべく様々な手段を講じてきた。しかし、他の開発途上国がそうであるように、フィリピンもまた、貧困や失業という社会経済問題をかかえ、障害者が自分に適した仕事を探すことが非常に困難になっている。
歴史的背景
今日みられるリハビリテーション・プログラムが生れる以前には、フィリピンでは障害者は悪業に対する罰があたったとか、悪い運命にとりつかれたというように家族に受けとられていた。過保護にされるか隔離されるかのどちらかで、家族にまったく受け入れてもらえず道端で物乞いをさせられる障害者も多かった。障害者の福祉は、主に民間団体の手によって進められることが多く、指定の種類の障害者だけを対象とした収容保護を中心としたサービスが多くみられた。
多数の障害者が生産的な仕事につけるように援助するという考え方は、1954年の共和国法第1179号(別名職業リハビリテーション法)の制定によって全国に根づいたといえる。この法によって、現在の社会サービス開発省(MSSD)の前身である社会福祉省(SWA)に職業リハビリテーション部(OVR)が設けられ、視力障害や他の障害を対象とした職業リハビリテーション・プログラムの実施がその業務とされた。また、試験的調整訓練センター(Pilot Adjustment Training Center)もこの法律によって設立された。
また、1956年には共和国法策997号が制定され、職業リハビリテーション・プログラムはさらに拡充され、これによって、社会福祉省の地方事務所に職業リハビリテーション課が設けられた。同じ年、3月の第2週が「視力障害者とその他障害者ウィーク」と定められ、1979年には、その名も「全国障害予防リハビリテーションウィーク」と改められた。
1959年制定された共和国法第2615号では、全国に9ヵ所の地方訓練センターの設置が定められ、現在まで、それ以外に3ヵ所のセンターがセブ市第1地区、ザンボアンガ市第9区、ダグパン市第1地区にそれぞれ設置された。また、この法律によって、リハビリテーション活動全体の調整機関として全国リハビリテーション協議会が生れた。協議会は実際には機能しなかったが、現在の全国障害者委員会の前身となった。
1974年には、フィリピン労働法が制定されたが、これによって労働者の保健・安全対策や障害者の訓練、雇用、あるいは労働災害に対する障害年金などについて規定が設けられた。
1978年、マルコス大統領が大統領令1509号に署名、これによって全国障害者委員会が政策作成、調整機関と定められた、委員会のメンバーには、各省代表、障害の予防やリハビリテーションに関係した機関、民間団体や障害者自身が加っており、フィリピン全体のための総合的なリハビリテーション計画を準備し採択していくことがその主要業務のひとつとなっている。
1981年の国際障害者年には、MSSDにより、障害者自身が自分たちの福祉に関する企画や政策決定に参加することを目的とした、全国障害者会議が開かれた。
また、委員会は1981年-1991年を「障害者の10年」とすることを提案、大統領によって公式に発表された。これによって、リハビリテーション関係者が、一般の人びとの障害の予防やリハビリテーション、あるいは社会経済活動への障害者の参加などに対する関心を高めることが可能となったのである。
障害者のおかれている状況
人口の約10%が障害者と推定すると、フィリピンでは約520万人が何らかの障害をもっていると考えられる。全国障害者委員会(NCCDP)は1980年に全国障害者調査を行い、総合的な統計を得る予定であるが、現時点では結果は未発表である。いくつか小規模の調査が行われているが、いずれも障害者の教育程度の低さや自己評価の低さ、就職の難しさなどが明らかにされている。また、障害者は一般に教育、保健、社会福祉、雇用の面で基本的なサービスも受けることが少ないことを調査結果は示しており、さらに国内の社会経済的障害が追い討ちをかけているといえる。
リハビリテーション対策
1.医学的リハビリテーション
医学的リハビリテーションは、予防、早期発見、早期治療を目指し、つぎのような内容で行われている。
妊婦の出産前のケアやその夫も含めた遺伝に関するカウンセリング、プライメリーヘルスケアの実践に必要な保健サービスの開発、妊婦への放射線の影響に対する注意、子どもの鉛や一酸化炭素中毒に対する注意、家族や妊娠歴の調査による危険性の高い状況の早期発見、伝統的助産婦の再訓練など。
2.特殊教育
児童・青少年福祉法として知られる大統領令第603号には、すべての児童はその能力を伸ばす機会が与えられなければならないと定められている。また、精神薄弱児に対しては、治療およびそれぞれの児童にあったケアが与えられ、必要な場合には、教育的発達のため特殊クラスが設けられなければならないとしている。
特殊教育の管理、推進については、全レベル、教育文化スポーツ省初等教育局特殊教育課がその任にあたっている。
1983年1月現在、国内の精神薄弱特殊学校は14校、また精神薄弱をも含む特別なニーズをもった児童のための特殊教育センターは18ある。
特殊教育においては、教員養成が非常に重要な問題である。
3.職業リハビリテーション
職業リハビリテーションには、評価とガイダンス、社会適応、職業訓練、職業選択などがあり、障害者がそれぞれ適した職業につき、働き続けられるようにすることをその目的としている。
社会サービス開発省では、自営業を選んだ個人に対して1人最高500ペソ、グループに対して1,500ペソを援助する自営資金援助プログラムを行っている。
最近の経済危機の結果、障害者の一般労働市場での就職は以前にも増して難しくなってきた。その対応策として、授産施設や自営業が強調されているが、社会サービス開発省では、授産施設でつぎのような基本的考えを試験的におしすすめている。
1)障害者も適格かつ十分な訓練さえ受ければ所長や責任者を勤めることができる。プロジェクトの作業員のレベルにとどまる必要はない。
2)授産施設も、一般市場で売れる品物を扱い、従来やものばかりにこだわることはない。
3)授産施設も障害者にとって利益ある勤め先となりうる。資金援助は、開始当初のみで、その後は必要ない。
1954年から約20年間、社会サービス開発省は障害者のための職業リハビリテーション・プログラムをセンター中心に進めてきた。センターでは、訓練期間が3ヵ月から最高1年で、訓練手当が日割りで支払われる。1972年には、さらに多くの障害者に機会を与えんがため、地方レベルのコミュニティをベースとした訓練が生れた。これによって、職業訓練センターがない地域に住む障害者も、当分の住む地域内で訓練を受けることができるようになった。各障害者は、3ヵ月間の手当として60ペソを受けるが、訓練期間は最高6ヵ月までとされている。
障害の種類にあわせた特別なプログラムやサービスの開発も行われている。特に革新的で効果があげられているコミュニティプログラムに、農村地域視力障害者プロジェクト(RRB)がある。1978年に実施が開始した当時はヘレンケラー記念財団から援助を受け、その後はUSAIDの援助を受けたプロジェクトである。訓練を受けたフィールドワーカーが個別訪問によって調査を行い、それをもとにオリエンテーション、移動、日常生活に必要な技術、作業技術など視力障害者が積極的な家庭生活や地域社会での生活を送れるようにサービスが提供される。現在、国内の、特に視力障害の発生率が高い6つの地域でプロジェクトが実施中である。
また、1982年には、社会サービス開発省によって、聴覚障害者のためのコミュニティベースプロジェクトが実施された。これは主に、聴覚障害者が家庭や地域社会にうまく統合されるのに必要な、基本的なコミュニケーション技術を身につけることを目指したものである。社会サービス開発省職員が聴覚障害者とその家族を対象に行う訓練用教材として、「基本的手話のマニュアル」が作成された。視力障害プログラムと同様に、特に聴覚障害の高いとみられる6つの地域で現在、実施されている。
1983年12月、障害者のためのコミュニティベースプロジェクトがリザールのモロンで試験的に開始された。コミュニティから選ばれたボランティアの力を最大限に活用し、簡単なリハビリテーションサービスを行えるようその訓練も行った。
4)社会的リハビリテーションの目的は、障害者が家族やコミュニティから、あるいは職業面で出てくるニーズに応えるのを助け、リハビリテーションの障害となるような教育的、あるいは社会的重荷をできるだけ軽減することにある。そのために、つぎのようなことが行われる。
a 本人とその家族のカウンセリング
b ○○療法
c 社会文化的、あるいは他のレクリエーション活動
d 入所ケア
e 情報、教育、コミュニケーションサービス
議会法案第1817号「建物、公共設備等への特別な設備や器材のとりつけを義務づけることによって障害者の移動範囲を広げるための法律」が議会を通過したが、これもまた障害者が社会生活に参加し、自分が住む地域社会の発展に貢献する権利を得るためのリハビリテーション施策のひとつといえる。
全国障害者委員会を通じてフィリピン政府が始めた非常に重要な対策プログラムのひとつに、障害の予防とリハビリテーションに関する5ヵ年計画(1983年一1987年)がある。この5ヵ年計画は、障害者自身および関係機関や団体のさまざまな関心や希望の集積といえつぎの3つの柱から成り立つ。
① 障害による危険性や悪影響の軽減を目的とした活動の最大限の利用
② 障害の早期発見と処置、および予防と処置に対する対策の強化
③ 障害者がすみやかに社会の一員としてとけ込めるための援助サービス
民間団体の活動
各種民間団体や機関による、障害者のリハビリテーションの関与、活動への参加が奨励されている。活動の中には、医学的あるいは理学的リハビリテーション、職業リハビリテーション、社会的リハビリテーションなどが含まれる。
社会サービス開発省は、首都マニラにリハビリテーション対策委員会を設け障害者に対するリハビリテーション・プログラムやサービスの調整を行ない、より効果的な実施を試みた。現在対策委員会は民間団体、公立機関のメンバーから成っており、社会サービス開発省との密接な協力のもとに、より障害者関係機関団体、施設等に関する現実的かつ認可の最低基準をとりまとめることができた。
問題点
リハビリテーション・サービスをどのように広げ、進めていくかということは、依然として重要な問題として残る。貧困や失業の問題が大きく残るわが国では、限られた資源は新しい生産業、交通、あるいは歳入を高めるための設備等に集中してしまう。したがって、障害者を含むより不利な立場にある人々をとりまく状況を改善するためには、国家予算のわずかしかあてられない。ILO、UNDP、ヘレンケラー記念財団のような国際機関から政府に対し経済、技術面の援助がなされてはいるものの、補装具製造の設備や器具はまだ十分でなく、新しい技術が求められている。
障害者が一般の職業につくには、雇用主や一般の人びとの深い理解が必要である。また、実際にリハビリテーション・プログラムを進めていく有資格の、訓練を受けたコミュニティリハビリテーション・ワーカーも不足している。
障害者自身、あるいはその家族やコミュニティの否定的な姿勢も大きな障害物となっているといえる。
シンガポール |
障害者の一般的な状況
シンガポールの総人口は250万人、この内、約12,350人が社会省の障害者中央登録制度において“障害者”として登録されている。これは、総人口の約0.5%に当たる。障害種別及び年齢による障害者人口の内訳は次の表の通りである。
年齢 | 障害種別 | 計 | ||||
盲 | ろう | 整形外科 的障害 |
マヒ | 精神薄弱 | ||
0~14歳 | 78 | 546 | 12 | 407 | 1,677 | 2,720 |
15~44歳 | 413 | 1,762 | 1,191 | 734 | 3,249 | 7,349 |
45~59歳 | 197 | 285 | 289 | 13 | 19 | 803 |
60歳以上 | 617 | 532 | 334 | 2 | 0 | 1,485 |
計 | 1,305 | 3,125 | 1,826 | 1,156 | 4,945 | 12,357 |
% | 10.6 | 25.2 | 14.8 | 9.4 | 40.0 | 100.0 |
シンガポールは、好運な事に多くの障害を生み出す原因となる戦争を行なっていない。筋ジストロフィー(複数)硬化症関節ロイマチスなど、遺伝性、進行性の病気の発生は、西洋に比べると、それ程高くない。脊髄性小児マヒ(ポリオ)は、50年代に多く発生したが、先天性の障害の発生を減少させた出産前後のケアの技術の進歩と、医学の発展による、Salkワクチンの登場により、姿を消してきている。障害の新しい要因となっているのは、労働、家庭内事故、そして車の事故である。
最近の、重要かつ画期的な事件は、1983年中ばに、国内状況に見合った、障害の共通定義が採用されるに至った事である。これにより、障害を持つ人々は、「コミュニティの平等なメンバーとしての教育や訓練、雇用、レクリエーション等の場の確保が、身体的、精神的損傷の結果、実質的に制限されている人」との意見が一致した。この定義の採用は、政府が、どのカテゴリーの人々が“障害者”であり、中央登録制度に登録される必要があるかを明確にし、プログラムと、これら確認されたターゲット・グループのニーズに関連したサービスの計画に役立っている。
リハビリテーション施策
シンガポールには、障害者のための中央リハビリテーション・センターはない。我々の持つセンターというのは、特殊学校や訓練センター職業訓練作業所、居住施設、又は、病院内のリハビリテーション部門のことである。これらは主に、政府の援助と恩恵のもと、慈善福祉団体によって提供されているものである。
医学的リハビリテーション
保健省には、中途で身体障害者になった人のリハビリテーションを行なうため、リハビリテーション医療の二つの部門がある。その一つは、脊髄損傷、脳卒中、頭部損傷や神経疾患による身体障害者を扱っているタントクセン病院にある。車いすなど、適切なタイプの機器の購入についての助言もまた行なわれている。又、ここには、義肢や補助具や装具の製作修理を行ない、杖や歩行器やクラッチなどの補助具の販売を行なう義肢センターがある。もう一つの部門は、特に外来中心で、心臓疾患に対するリハビリテーション・サービスの機能を持つ、シンガポール総合病院内にある。
教 育
特殊学校及び訓練センターでは、生徒の持つ障害に従って、初等及び特殊教育を行なっている。盲・ろう学校は、普通学校と同じ教科目にそっており、生徒は健常の仲間と同じ初等学校卒業試験を受ける。それに及第した者は、普通学校で中等教育を続けることができる。脳性マヒ者、あるいは精神薄弱者については、彼らの障害の持つニーズが異なるため、普通学校と同じ教科目は行なわれない。文部省は、教師の派遣を通じて、これらの特殊学校への援助を行なってきた。これらの学校に対する指導及び監督は、文部省の特殊教育部門から派遣される検査官によって行なわれる。又一方、教育研究所では、これらの学校に選任された教師を対象とした特殊訓練コースを提供している。これらの学校の多くは民間の福祉団体によって経営されている。
職業適性評価
職業評価は、ILOの助言のもと、1983年5月にシンガポール社会サービス協議会によって設立された職業評価、紹介センターが行っている。このセンターは、既存のリハビリテーション・システムの中に統合されており、政府や民間福祉機関や病院において提供される医療的又、職業前適性評価と近密な調整を行ないつつ機能している。各患者に対して、各専門領域からの総合的なアプローチが行なわれている。適性評価の手段としては、Valpar Work Componentシリーズのワークサンプルや、職業技術をテストするモダプツシリーズのワーカビリティなどが使われている。
職業訓練
職業訓練作業所では、15才から18才までの障害者に職業前及び職業訓練を行なっている。ろう者のための職業訓練作業所は例外として、その他の障害を持つ人のための作業所では専門的な訓練は行っていない。職業訓練を立派に終了したろう学生は、地元の雇用主たちに承認されている「職業・産業訓練委員会、国内営業認定証」を受与される。ほとんどの職業訓練作業所では、木工、電気、家具製作、家政学、組立て作業や包装などのコースを提供している。
雇 用
障害者は仕事を持つように奨励されており適切な職についている者には政府及び民間団体からの援助が行なわれている。職業紹介及び就職後のフォローアップ・サービスの他に、社会省では、障害者を雇い入れている雇用主に財政的援助を行なうため、シンガポール商工会議所基金の管理をしている。これにより雇用主には、障害者に支払われる最初の1ヶ月半分の給与が払い戻される。最初の2週間は、障害を持った従業員には交通費及び食費も提供され、又一方、障害を持つ応募者が必要な技術援助や設備を整えるために1ケースにつき最高500シンガポールドルまでの援助が与えられる。この制度のねらいは、雇用主に障害者を雇い入れるように奨励し、財政的な負担なしに、障害者の仕事への適性さを評価させようというところにある。これは又、障害を持つ従業員に自身の能力を証明するチャンスを与える。
労働省は、障害者が実習訓練を通して経済的な自立を再び得ることができるよう「障害者雇用再配置計画」として知られている特に考察された制度を持っている。その訓練を終えた時点で職業紹介担当官は、訓練を終えた人をその受けた訓練に関連した職につけるよう援助を行なう。労働省はまた、仕事中にけがをした、あるいは職業病に悩まされている人に補償金を支給する資格を与える労働者補償法を監督している。現金給付の他にも雇用主は、けがをした労働者の背負いこんだ医療費を支払う責任がある。しかしこれは月収1,200シンガポールドル以下の労働者のみに適用される。障害を持つがゆえに普通より高額の社会的、医療的費用を負わねばならないということを認めて、国内税収入局は又、障害者にして、税対象となる収入から1,000ドルの税控除可能の救済を行なっている。
収容保護
シンガポールには、障害児に対し住居と保護を提供する二ケ所の収容施設がある。赤十字身体障害児ホームは、身体障害児のみを対象としている。年令12才から25才までの精神簿弱児(者)はタンパイン精神簿弱児ホームで世話をしている。12才以下の重度の精神薄弱児は、ウッドブリッジ病院の精神簿弱ユニットで治療を受けている。重度障害者のための収容施設は、シンガポール・チェシャイアホームも提供している。
ソーシャルワーク・サービス
ソーシャルワーク・サービスは、各障害別に、それぞれの機関で行なわれている。障害者やその家族を対象に、助言、カウンセリング、そして経済的援助を行なっている。社会省も様々な部門において、障害者とその家族のための福祉及びカウンセリング・サービスを提供している。19才以下の障害者は青少年サービス課において援助を求めることができるし、19才以上の者は、一般福祉課に行けばよい。個人的、結婚生活、あるいは家族関係について問題を持つ障害者は、カウンセリング/助言課に行って援助を求めることができるし、経済的援助を必要とする人は、公的扶助課で、その援助の手がかりを得ることができる。障害者課は、職業紹介サービスの提供の他に、障害者の中央登録制度を管理する責任、及び障害者にサービスを提供している政府と民間団体との連絡、諮問及び援助サービスの提供又シンガポール社会サービス協議会と協議のもと、障害者を対象とした民間福祉団体と政府のサービス調整、障害者に関する社会啓蒙、広報プログラム、そして障害者を対象とする民間福祉団体への政府補助金の提供などを行なっている。
民間団体の活動
シンガポールでは、障害者のためのサービスは、主に政府の恩恵と協力援助のもと、慈善的福祉団体によって提供されている。以下は、それらサービスを行なっている主要な団体である。
シンガポール社会サービス協議会
障害者助言クリニック
学習障害児協会
カノッシャンろう学校
障害者福祉協会
シンガポrル盲人協会
シンガポールろう者協会
シンガポール精神衛生協会
シンガポール精神薄弱児協会
シンガポール・チェシャイアホーム
シンガポールハンセン氏病救済協会
シンガポール赤十字協会
シンガポール障害者スポーツ協議会
マヒ者援護協会
シンガポール脳性マヒ児協会
問題点
シンガポールの障害者が直面している主要な問題点は次のようなものである。
アクセシビリティ
シンガポールにおいて、障害者が直面している基本的な問題点は、アナセシビリティの問題と、この問題を我々の環境の中で建物の建設にかかわる建築家、開発業者、都市計画担当者やその他のグループの人々に、広く知らしめる必要性である。生理学的な機能の欠損からくる損傷が、障害者をより社会的不利を被るものとするのは単に損傷のひどさからだけからくるのではなく、彼の生活する環境による。この問題は、我々の中の多くの障害者が、学んだり、働いたり、社会活動やレクリエーション活動を楽しむ能力が十分あるにもかかわらず、地域で得ることのできる資源をフルに利用する機会を奪われており、家の中や、彼らにとってアクセシブルな限られた場所にのみ閉じこめられているであろう事を考える時、大変重大と言える。
誰もが利用できるように、「障害者のためのデザイン」という観点でなく、「皆のためのデザイン」という点を強調して環境はデザインされるべきである。アクセシビリティの設備には費用がかかるが、もしデザインの段階を組みこまれるとしたら、総予算の1パーセント以下の額と見積られている。これらの特別な配慮は、全ての人々、特に妊婦や一時的な障害者や老人にとっても役立つものである。1981年に、国家開発省及び社会省により、研究チームが障害者のため、建物に必要とされるアナセシビリティのデザインと設備の研究を委託されている。障壁のない環境のための建築デザインにおける最少限の必要条件が採用されるまでの間、民間の開発業者は、新しい建築については、シンガポール建築家協会に相談するよう助言されている。
障害者の遭遇する最も一般的なアクセシビリティの問題は、次の様なものである。歩道の段差、長い階段の連続の歩道橋や地下道、市場や歩道橋や地下道や散歩道の入口に立つ柱、表面がギザギザだったりさけ目があったり、ツルツルしすぎている地面、一段高い所にあるエレベーターのボタンの位置は車いすの利用者には高すぎるし、中に入るには入口が狭すぎたりするかもしれない。又、公衆電話は利用するには位置が高かったり、公衆便所や洗面所は不適切だったり、公共の建物のドアは重かったりなど。
しかしながら、障壁のない環境の建設にむけて、公的及び民間の分野で良いスタートが切られている。車いす利用者の移動のために歩道には必要なスロープが計画されている。住宅開発局では、自らイニシアチブをとってアンモキオやウッドランドニュータウンなどすべての新しい住宅地において障壁のない型をとり入れている。チャンギ国際空港は、総合的なアクセシビリティの輝やかしい例である。障壁のない形は、いくつかのコミュニティセンターでも取り入れられている。ひとつの良い例は、トムソンプラザショッピングセンターである。障壁のない環境の必要性についての認識を高めるためのキャンペーンは、シンガポール社会サービス協議会やその他の団体によって行なわれている。“アクセス・シンガポール”というタイトルのガイドブックも出版されている。
交通手段
交通手段は広い意味での移動とアクセスの一部として、障害者にとって基本的に重要なものと考えられている。この問題は、以下のような観点から考察できる。すなわち障害者にとっての交通機関の必要性の認識、調整された交通制度の必要性、障害者が背負いこんでいる高額の交通費、そして交通機関の適切なデザイン。
交通の分野にかかわっている人々、当局やバス・タクシー会社、バスの運転手や車掌あるいはタクシーの運転手たちは、障害者の持つ特殊なニーズや、彼らが既存の交通機関を利用する際に遭遇する困難な点について考えなければならない。障害者関係団体、タクシー会社、そして障害者本人を含めて、より一層の社会啓蒙プログラムが必要である。政府レベルでは、国内交通システムの中で障害者と老人のための障壁のない環境について研究する委員会が、社会省の協力のもとに作られ、障害者のニーズについての調査や、バスの運転手や車掌やタクシーの運転手を対象とするプログラムについての研究を行なっている。交通当局は、通勤する障害者のため交通機関の必要性を認め、彼らに必要な部分のタクシーでの送迎を許可している。NTUCコンフォート、タクシー組合は、タクシー運転手対象の訓練プログラムの中で、障害者にはどのような援助が必要かという事について取り上げている。
今の所、障害者のニーズは、民間団体とタクシーによってのみ満たされている。ある福祉団体では、障害者の職場の送り迎えをするために、特殊な救急車を運行している。赤十字協会でも、病院や診料所で継続治療を受けるのに公共交通機関を利用できない障害者のために電話を使って呼ぶことのできる救急車を運行しているし、障害者福祉協会は、それに加えて社会的、レクリエーション的目的で使える輸送サービスを行なっている。しかしながら、これらのサービスは、限られた資源ゆえに狭い範囲でしか行なわれていない。近所に住み、同じルート又は同じ距離を通う者同士でのタクシーの合乗りや共同利用制度は、時間調整の難しさゆえにうまくいっていない。障害者のほとんどは、タクシーを使って移動しているが、それは彼らの仕事や社会的必要にかかる交通費が非常に高いということを意味している。自動車の所有は、それがほとんどの障害者の収入の水準をはるかに上回っていることから、未だ少数の人に制限されている。この問題全体についてより完全な調査が必要とされており、そして現在行なわれている各種の制度を統合した包括的な交通機関の制度が必要であろう。
様々な交通手段の技術的な側面は、障害者の直面する交通手段の問題点のひとつである。公共のバスのステップは、障害者が乗ろうとするにはあまりにも高すぎるし、それらは車いす利用者の為にデザインされていない。さらに一般大衆の主要な交通機関であるゆえに、人口の近くに障害者用の優先席がなくては利用は困難かもしれない。バス会社は、盲人の利用者のために停留所の数字を点字でふるサービスを考えている。タクシーのデザインは車いす利用者を考慮に入れていない。タクシーは彼らにとって主要な交通手段であるゆえに、障害者の移動のニーズに見合ったタクシーのデザインが考えられるべきである。
その他の問題として次のような点が挙げられている。
特殊教育における問題点
① 特殊教育教師の不足
② 特殊教育分野に対するより一層の政府の協力/かかわりの必要性
③ 教師に対する訓練プログラムの実施の必要及び免許制度の必要
④ この分野における指導・助言の部門の必要性
雇用における問題点
① 効果的な職業紹介サービスの必要性
② アクセシビリティと交通手段の解決
③ 職を得るための教育・訓練の必要性
④ 各機関の職業紹介専門官の仕事の重複をさけることによりサービスの向上を行なうこと
タ イ |
はじめに
タイでは、公民を問わず、数々の団体、機関が障害者に必要なサービスを提供しているが、そのニーズを十分に満たしているとはいえない。施設不足、資金不足、専門家不足、コミュニケーション不足、そして一般の人々の理解不足などがその理由としてあげられる。
近年、身体障害者の数は増加を続けており、精神薄弱者を合わせるとその数はさらに増える。社会が進歩すればするほど障害者が増えるとさえいえる。たしかに、医学の進歩にともなって障害者の死亡率が低下し、寿命が伸びているのである。だからこそ、障害者がよりよく生きられるようにするために、社会の責任は大きいといえる。タイでは、人口の約10%、すなわち500万人が障害をもっている。
リハビリテーション
国際障害者年を契機として、タイにおけるリハビリテーション・サービスは大きく前進した。政府は、障害者のリハビリテーションを進めるにあたり必要な様々なニーズに対し、深い理解を示している。
1.公的サービス
1)医学的リハビリテーション
国民保健省のほか、防衛省、内務省、大学総務省のもと、主に各種病院で医学的リハビリテーションが行なわれている。
国民保健省は、現在107の病院(総合病院87、専門病院20)で身体障害者および精神簿弱者の予防と治療対策の統合をはかっている。
2)教育的リハビリテーション
聴覚障害児、視力障害児、肢体不自由児、精神薄弱児のほか様々な問題をもつ児童のために、教育省により特殊教育が進められている。教育省は各種団体との協力のもと、聴覚障害特殊学校5校を設立している。また、盲学校は2校、精神簿弱児特殊学校と肢体不自由児学校がそれぞれ1校ずつある。さらに、民間の学校に対し教師の派遣や教材設備費として助成も行なっている。
3)職業リハビリテーション
職業リハビリテーションは、障害者が自立し、あるいはその家族全体の収入を増やすことができるように、様々な分野の特殊技術の修得を目指し進められている。
4)社会的リハビリテーション
社会的リハビリテーションは、経済的援助や夜食の支給、交通費の割引など、障害者の生活の様々な側面に関わるものであるが、障害者が社会で平等に扱われ、他と共に働いていけるようにという考えのもとに進められている。
社会的リハビリテーションは職業リハビリテーションとともに国民保健省と内務省の業務となっており、下記の機関を通してサービスが提供されている。
○障害者ホーム(サムプラカーン、プラプラデン地区)
○リハビリテーション訓練センター(プラプラデン地区)
○リハビリテーション訓練センター(コン・ケン州)
○その他、精神薄弱あるいは慢性病にかかった貧困者のためのホームが4つあり、衣食住に加え医療サービスを行なっている。
民間機関の活動
リハビリテーション活動を行なっている民間団体にはつぎのようなものがある。
1.タイ全国社会福祉協議会
2.タイ赤十字社
3.視力障害者福祉財団
4.ラプラチャ・サマサイ財団(ハンセン氏病患者対象)
5.肢体不自由者福祉財団
6.聴覚障害者福祉財団
7.ハンセン病患者福祉財団(ランパン州)
8.マキーン・ハンセン氏病患者コロニー(チェンマイ州付近)
9.精神簿弱者福祉財団
10.精神衛生協会
11.退役軍人協会
12.シリワタナ・チェシャイア財団
問題点および対策
1.医学的リハビリテーション
20年前の状況から比べると、タイにおけるこの分野の発展には目を見はるものがある。しかし経済面、物質面、専門家不足など問題点は多い。
理学療法に限ると、全人口に対し、有資格の理学療法士が250名である。理学療法士養成学校は、マヒドール大学附属シリライ病院(1964年設立)、チェンマイ大学(1983年設立)、ならびにコン・ケン大学(1983年設立)の3校である。第5国家経済社会開発計画(1982一1986)によって、チュラロンコン大学にも一校設立される予定である。各校とも年間25~30名の理学療法士を生み出すことになっている。
理学療法のほか、大学レベルのプログラムには、リハビリテーション医学を専攻する医学生の研修、言語治療の2年修士コース、作業療法4年コース、ソーシャルワークコース、一般開業医を対象としたリハビリテーション医学の短期コース、義肢装具コース、オーストラリア政府から派遣される理学療法専門家の協力による理学療法特別コース、ソーシャルワーカー看護婦のためのリハビリテーション医学短期コースなどがある。
リハビリテーションで使われる器材は輸入すると高価なものが多く、その分野の技術開発プログラムが企画されている。
現在、リハビリテーション医学サービスを整えている病院の数は主都にも州にも少ない。そのほとんどがP.T.科のみを有しているにすぎない。国民保健省医療サービス部は、第5国家経済社会開発計画の一部として各種センターの設置プログラムをすすめている。
開発計画によると、農村地域のとくに貧困地区に医療リハビリテーションを設置する計画がある。PHCリーダーやコミュニティリーダーが地区や州の医学リハビリテーション専門家との協力のもとすすめられる。
2.教育リハビリテーション
現在、障害児が特殊学級を終えたあと普通の児童との統合教育に力を入れられている。しかし、技術不足のため、重度の障害をもつ児童は不可能である。
3.社会的および職業リハビリテーション
タイにおいては、失業率が高く、授産所があまりないために、障害者の雇用は大きな問題である。したがって、結果として自営業をとる障害者が多くなる。
肢体不自由者財団が1983年に行った経済調査によると、障害者の収入はつぎのようである。
(1) 月43米ドル/月以下 45.6%
(2) 月43米ドル―86 26.33%
(3) 月86―129 13.00%
(4) 129ドル以上
収入なし 6.67%
不規則 6.33%
タイの一人頭平均収入 278.6米ドル
1984年にはリハビリテーション法が制定され、障害者の一般の人びとと同じ権利や特権を得られることになる。
4.自助具、住居、交通
すでに述べたように、自助具、義肢装具を電動機器など、先進国からの技術援助が望まれる。また、住居に関しても、障害者養護施設が不足している。タイでは建築の構造や交通方法によって障害者が移動するのは非常に難しい。
(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1985年2月(第47号)21頁~45頁