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特集/世界のリハビリテーション

オランダ

奥野英子*

 オランダは約4万キロ平方メートルの土地に約1,430万人の人口を擁し、人口密度では世界の首位を競っている。九州位の土地に日本の人口の約12%の人々が住んでいることになる。しかしオランダは全国的に平坦な地形であるせいか、アムステルダムのような大都市以外は、のどかな田園風景となり、人口密度の高さを感じさせない。

 1972年と1984年にオランダを訪問したが、障害者福祉とリハビリテーションを支える社会保障制度がしっかりしているとの印象を受けた。

 この度、オランダのリハビリテーションの全貌を把えるべく、文献を収集し研究してみた。幸運なことに沢山の資料を手に入れることができたが、英語の文献はオランダ語からの翻訳であり、省名や法律名ですらその訳語が文献によって異なっており、判読が難しかった。限られた紙面に全貌を表わすのは不可能であり、また準備も不十分であるが、一応ここに紹介させていただく。

Ⅰ 障害者の概況

 オランダの障害者は表1のように分類されている。身体障害者については、日本の「身体障害者福祉法」の対象と似ている。しかし日本では、排泄機能障害者が昨年対象者に追加されたが、喘息、糖尿病は疾病そのものが対象に規定されていないので、オランダの方が対象範囲が広いと言えよう。

表1 オランダの障害者

表1 オランダの障害者

 

 身体障害者の実態調査は1971/1972年に実施され、その後の身体障害者数はこの調査結果から推定されている。実態調査における身体障害者の定義は「何らかの機能障害をある程度有する者」と非常に簡単であり、この機能障害(functional disorder)を、下肢、上肢・手、視覚、言語、耐久性、排泄、平衡機能、その他に、分けている。(表2)

表2 機能障害別身体障害者構成比
機能障害 男女 人口千対出現率
下肢障害 38.1 46.1 42.2 37
上肢障害 14.1 19.3 16.8 15
視覚障害 6.2 10.3 8.3 7
聴覚障害 18.4 14.3 16.3 14
言語障害 5.2 3.1 4.1 4
耐久性 49.4 41.5 45.3 39
排尿・排便 6.3 6.7 6.5 6
平衡感覚 12.9 19.0 16.1 12
その他の障害 1.7 1.5 1.6 1

合計

100.0 100.0 100.0 87

 機能障害の程度等級は1~5級に分けられ、5級が最重度である。

 この実態調査の結果、1971年現在、身体障害者(5歳以上)は人口の8.7%、1,032,900人おり(表3)、そのほとんどは家族と生活している。身体障害者およびその家族を含めると、オランダの総人口の約25%が障害と係わりがあると発表された。8.7%という比率は1980年の日本の調査結果の2.3%と比較すると3倍以上の割合となり、オランダでは軽い障害者や慢性疾患患者も含まれている。機能障害では下肢と耐久性に障害のある者の割合が高い。原因別では「疾患または老齢」による者が80%以上を占めており、事故においては交通事故、労災、家庭内事故の順になっている。その他の特徴としては、障害をもつ女性の離婚率が高いこと、教育、所得、就労率、レジャーを楽しむ機会が、一般市民より低いことなどがあげられた。

表3 原因別身体障害者数(1971/1972)
   先天性 疾患・老齢 事故 合計
合計
実数(人) 31,200 37,900 417,000 473,000 76,300 6,140 496,100 536,800 1,032,900
人口千対(人) 5.3 6.3 70.2 79.0 12.8 10.2 83.5 89.6 86.6
構成比(%) 6.3 7.1 84.1 88.1 15.4 11.1 100 100  

 厚生・文化省の1983年版資料によると現在約120万人(人口の8.7%相当)が身体障害者であり、そのうちの38%、約46万人は65歳以上の老齢者である。1974年に実施された精神障害者(精神薄弱者も含む)の実態調査では、軽度精神障害者は人口の1.8%、約25万人、重度精神障害者は0.7、約10万人と推定されている。

 なお、今後、身体障害者の統計を作成する際には、WHOの障害分類を取り入れることが検討されている。

Ⅱ 歴史

 オランダでは18世紀末まで障害者のための援護措置は何もなく、1854年の「救貧法」によって貧困対策として物的援助がなされたのみであった。1880年代に初めて、宗教法人によって「ろう児施設」がグロニンゲンに設立された。「オランダ肢体不自由児協会」が設立されたのが1899年である。

 現在、総合的肢体不自由児施設と重度障害者の居住施設「ヘットドルプ」があるアーヘム市に「ヨハンナ財団」(1900)、ロッテルダムに「アドリアン財団」(1914)、ビーツターワグに「コルネリア財団」(1915)等、宗教法人による財団が次々と生まれ、これらが、運動機能障害をもつ肢体不自由児施設を設立し、医療とともに教育を提供した。また成人障害者のためには、1927年に「AVOオランダ協会」が設立され、就労の場を提供した。

 オランダでリハビリテーションが本格的に発展したのは第2次世界大戦後であるが、これは急速な経済成長とも関係があり、また英国の影響もかなり受けた。名実共にオランダにおける初めてのリハビリテーションセンターは、1946年にドルンに開設された。これは当初、戦傷病者のための訓練センターであったものが、リハセンターに発展したものである。1948年に設立された「戦傷病者協議会」が、数多くのリハセンターを設立するよう提言した。その第1号はニーメーヘンにある「セント・マーチンズ・クリニック(St.Maarten's Clinic)」である。1972年に当センターを訪問したが、大規模なもので、リハビリテーション部、整形外科部、リウマチ部があり、児童と成人を対象とし、養護学校も併設されていた。

 各州のリハビリテーション事業の推進を目的として、1950年代に、各州にリハビリテーション協会が結成され、相談部門を設けたり、専門家による助言サービスが実施された。また1956年にポリオが大流行し、その影響で1950年代後半に数多くのリハセンターが増設された。

 その後、中央民間機関として「オランダリハビリテーション協会、NVR」が設立された。NVRには現在、施設、専門職団体、当事者団体など約150の団体が加盟している。また1967年9月には、リハセンターの連絡調整機関として「オランダリハビリテーションセンター協会、VRIN」が設立され、現在は26のリハセンターが加盟している。

 1968年には、リハビリテーションに関係する省の連絡調整機関として「省間リハビリテーション政策委員会、The Interministry Steering Committee on Rehabilitation Policy」が設置された。

 また前述の、民間の調整・事業機関である「オランダリハビリテーション協会」から、1977年に当事者団体がこぞって脱退し、新たに当事者団体調整機関「オランダ障害者協議会、GR」を結成した。ここにサービス実施機関・専門職集団と障害者グループとの対立を見ることができる。このGRには37の当事者団体が加入したが、その後、両者が歩み寄り、NVRとGRが同じ力関係で合流するという条件で、新たな機関「オランダ障害者政策協会、Netherlands Society for Handicapped Policy, NOG)」が1981年に結成された。従って現在は民間の中央機関としてNVR、GR、NOGが併存している。しかしNVRとRGの対立が全くなくなったわけではなく、GRは、「当団体がオランダのリハ政策について唯一の諮問機関であり、NVRは助言機関にすぎない」と主張し続けている。

Ⅲ 法・行政

(1)法制面

 オランダには総合的なリハビリテーション法はない。20世紀初頭に労働災害法、障害者廃疾法、疾病給付法などが制定され、それぞれの事由に応じた金銭給付が規定されたが、治療、リハビリテーションサービス、介助サービスなどは規定されていなかった。職業リハビリテーション関係では、1947年に障害者の割当雇用率(2%)を規定した「障害労働者法」が制定された。また、一般企業での就労が困難な障害者のために労働権を保障するシステムとして、1969年に「社会雇用法」が制定された。

 社会保障制度がかなり充実しているが、その中には社会保険、公的扶助、社会援助がある。オランダは社会保険制度が高度に発達しており、国民による高率の保険料負担により、金銭給付とサービス給付が諸法毎に規定されている。これらの法については、後述の医療、所得保障の項において述べたい。

(2)行政面

 オランダは中央集権と地方自治を組み合わせた地方分権主義をとる、立憲君主制の単一国家である。福祉・リハビリテーションの行政構造は中央・州・市の3レベルになっており、各レベルに各種の諮問委員会がある。オランダでは従来から福祉サービスは民間団体の率先によって実施されるべきと考えられてきたが、最近は州・市による事業も増えてきた。

 1968年に関係省間の連携を図るために設立された「省間リハビリテーション政策委員会」は、総合リハビリテーション法がないために起こりやすいサービスの分断を防ぐための、関係省間の公式諮問・政策企画・協議機関となっている。この省間委員会のメンバーが障害者福祉・リハビリテーションに最も関係の深い省であり、その名称および事業内容は次の通りである。

①厚生・文化省―病院、リハビリセンター、生活施設、医療保険、福祉サービス

②雇用・社会保障省――就業あっ旋、保護雇用、公的扶助、各種社会保険

③法務省――障害児・者の権利保護

④住宅・環境省――住宅、生活環境、住宅改造、公営住宅

⑤文部・科学省――障害児の教育

⑥防衛省――戦傷病者対策

⑦大蔵省――財政

⑧運輸・公共事業省――障害者の交通・移動

Ⅳ 医療・保健

 オランダは社会保険制度が進んでいるにもかかわらず、国民皆保険制度ではない。一定以下の所得(1983年度46,550ギルダー。1ギルダー≒71円で約330万円相当)の者が国民強制保険の対象となり、それ以上の所得の者は私的保険の対象となる。公務員、教職員および警察官は別途保険制度下にある。医療・保健は厚生・文化省下にあり、その法・組織大系は図1の通りである。

  図1 保健ケアの法・組織大系

図1 保健ケアの法・組織大系

 保健ケア施設・病院数(ベット数)および医療関係専門職の数は表4、5の通りである。公立病院の病床は18.4%のみで、残りはすべて宗教法人立の病院となっている。医療構造は4つの層(図2)になり、基本層は保健所、家庭看護機関によって担われ、予防的医療を行う。第1層は一般開業医、保健婦、助産婦によって担われ、第2層は各種の専門医による外来および入院医療で、病院において実施される。精神衛生サービス、サイコセラピイ、薬物中毒者の治療、総合病院・精神病院での入院治療、障害者のための各種入所施設、ナーシングホームも第2層に入る。最後の第3層は大学病院等における神経外科、腎臓移植、腎臓透析、心臓手術など、高度の専門医療であり、この第3層だけは地域の枠を越えて利用できる。

表4 保健ケア施設・病院数およびベット数(1981)
種類 総数 ベット数 1ベット当たりの人口
病院 230 72,848床 196人
精神病院 79 24,951床 575人
精神薄弱者ホーム 146 29,407床 486人
ナーシングホーム 327 47,187床 303人

 

表5 医療関係専門職者数(1982)
種類 総数 1職員当たりの人口
開業医 5,492 2,605
専門医 9,732 1,470
歯科医 5,970 2,395
薬剤師 1,601 8,930
産科医 947

理学療法士 12,300

1,300

   図2 医療構造の4階層

図2 医療構造の4階層

階層 実施機関 保健ケアの内容
第3層 各種専門医
(大学病院)
神経外科、腎臓移植、腎臓透析、心臓手術などの高度の専門医療
第2層 各種専門医
(病院・施設)
総合病院、精神病院での入院・外来医療、各種施設、ナーシングホーム
第1層 開業医
保健婦
助産婦
プライマリーケア、自宅での出産等
基本層 保健所
家庭看護機関
予防的ケア

 医療保険には被用者を対象とする「健康保険法、ZFW」と国民健康保険としての「特別医療費法、AWBZ」がある(表6)。

表6 障害者に関する医療保険制度
法律 対象者 給付内容 保険料
健康保険法
(ZFW)
一定所得以下の被用者(強制)、任意希望者、老齢者 通常の医療費、補装具費、その他(365日まで) 雇用者、被用者とも4.9%、任意希望者自己負担、老齢者公費
特別医療費法
(AWBZ)
全国民 366日目からの長期医療ケア、施設ケア、補装具、在宅看護 雇用者3.95%、自営業者自己負担

 (1)「健康保険法」(1966年)は年間所得46,550ギルダー以下の被用者とその家族が対象で、オランダの全人口の75%がカバーされている基本的プログラムである。保険料は雇用者と被用者が同率(所得の4.9%)を負担し、通常の医療費をカバーする。障害が発生した場合は365日を限度として医療費、補装具費、その他のサービスが給付される。この被用者の強制保険のほか、同法下に任意保険と老齢者保険の枠があり、前者は前述の基準所得以下の自営業者等が対象で、保険料は本人負担で任意に加入できる。老齢者の場合は保険料は公費負担である。

 (2)「特別医療費法」(1968年)はオランダ全国民を対象とし、長期医療ケア費を保障するものであり、障害者にとって非常に重要な制度である。障害発生後365日までは前述の健康保険法の対象であるが、366日目からは本法の対象となり、医学的リハサービス、補装具、在宅看護費などのほか、各種のリハビリテーション施設、障害者関係施設(入所・通所とも)の入所費・利用費がカバーされる。保険料は被用者については雇用者が負担(3.95%)し、老齢者は公費、自営業者は所得に応じた自己負担となっている。各種の障害者関係施設の運営費は同法から出されるが、入所半年後からは利用者の所得に応じた自己負担がある。

Ⅴ 教育

 オランダの学校教育は公立と私立があるが、財政的には同じ基盤に立っている。1848年の憲法で教育の無償提供が規定され、最初の義務教育法は1900年に制定された。現在は、以下の諸法律に基づいて教育が実施されている。

 ・幼児教育法 1955年 

 ・初等教育法 1920年 

 ・特殊教育法令1967年 

 ・中等教育法 1963年

 ・大学教育法 1961年

 ・徒弟奉公法 1966年

 ・義務教育法 1966年

 すべての教育は文部・科学省下にあるが、特殊教育については厚生・文化省との連携を図るために、「社会サービス・特殊教育調整委員会、Social Services Coordinating Committee for Special Education」が設置されている。

 特殊学校は、「感覚障害、身体障害、精神障害のある児童、行動異常児、または特別の事由により一般学校に通学できない児童」を対象としている。これらは1967年制定の特殊教育法令(Decree on Special Education)に基づいて実施されている。

 特殊学校の1例として、精神薄弱児の教育の状況を紹介したい。

 精薄児特殊学校は現在330校あり、約4万人の児童が在籍している。このうち300校は通学校であり、通学バスで児童を送迎している。教育費は無料であり、通園バスの経費は市が負担している。精薄児の約80%は15歳で特殊学校を卒業し、適切なアフターケアがあれば何らかの仕事に就き、社会生活を営める。残りの約20%は障害の重い者で、18歳までは養護学校に通学し、その後は保護雇用の場に入る。これら2グループの教育プログラムは別々になっている。

 330校のうち約100校は市立であり、残りの230校は宗教法人立である。後者の3分の2はカソリック系、3分の1はプロテスタント系である。教員の人件費は中央政府が負担し、建物・設備・教材、事務職員等の人件費を市が負担する。これは市立、宗教法人立とも同じである。「1学級18児童以下」と規定されており、児童が73名いる場合は中央政府が5人の教員の人件費をもち、市当局が5教室を用意する。特殊学校の教員は一般教員の10~20%増の給料が保障されている。

 精神薄弱児以外の障害児のためには、盲学校、ろう学校、肢体不自由児学校等がある。一般学校の中に設置される特殊学級は全くなく、近隣のデンマークやスウェーデンでは統合教育がめざましく発達しているのとは対照的である。しかし、統合教育の必要性は認識され始めている。

Ⅵ 職業

(1)一般雇用

 1947年の「障害労働者法」により、従業員25人以上の事業所は従業員の2%相当の障害者を雇用すべきであると規定されたが、この法律は強制力がないためにそれ程効果をあげていない。また、オランダは現在、高失業率(約15%)下にあるため、障害者の一般雇用は進み難い状況にある。

 また一方では、障害者のための所得保障制度が充実しているために、一旦、障害者が障害年金を受給してしまうと、労働市場への復帰が困難になる。失業年金は2年間を限度としているが、障害年金は65歳からの老齢年金に引き継がれるまで継続支給されるという好条件下にある。このため雇用者は被用者を解雇する代わりに、障害年金の支給申請手続をし、何らかの障害のある者を企業から排除する傾向もあるという。

(2)保護雇用

 オランダでは典型的な保護雇用の一形態である「社会雇用、Social Employment」が充実している。これは1969年に制定された「社会雇用法」に基づくものである。1978年末時点で、約200のワークショップにおいて約70,000名の障害者が就労しており、1ワークショップ当たりの平均作業員数は300名以上であり、規模は大きい。ドルドレヒト・ソーシャル・ワークショップでは障害をもつ作業員が1,050名、職員150名と非常に大規模である。

 この社会雇用は、働きたい者すべてが労働権をもっているという前提で、その対象者は「生産的作業に従事できるが、個人的理由によって一般企業への就職が困難な人、または就職準備中の人で、65歳以下の者」となっている。その目的は、働く機会を提供することと、障害者の能力を維持増強することにある。

 社会雇用法の実施は市当局にまかされており、作業員は市と雇用契約を結ぶ。市はワークショップの運営を民間に委託することもできる。雇用条件は一般企業に近いものになっており、賃金は公務員給与のように号俸等級制度を採用し、勤務時間は一般企業と同じであるが、個々の事情に応じて短縮できる。通常の勤務時間働いた者は家族を扶養できる賃金を受け取れるが、社会保険から障害年金を受けている者は年金が減額される。

 「社会雇用」の場に実際に就労している者の障害については、精神病・精神薄弱が一番多く、そのあとに下肢障害、神経疾患、循環器疾患、呼吸器疾患が続いている。作業内容は、事務作業、生産作業、屋外での園芸・土木、公園清掃作業などと様々な作業が用意され、またその作業によってソーシャルワークショップへの収入があるもの、収入の伴わないものもある。対象者は最も適した作業に就けるようになっている。社会雇用の組織図は図3の通りである。かなりの公費負担がなされており、政府からの補助金は表7の通りである。このような補助金を見ると、1人の障害者を社会雇用するために年間約150万円に近い経費を費やしている。これは、何らかのハンディキャップがある人の労働権を保障するのは国の責任であり、それに必要な費用は社会的コストとして国家財政でみていこうという考え方によるものであろう。

図3 社会雇用の組織図

図3 社会雇用の組織図

 

表7 社会雇用プログラムの補助金体系

表7 社会雇用プログラムの補助金体系

Ⅶ 所得保障

 社会保険制度の中で、障害者の所得保障に関するものは、被用者を対象とする「疾病給付法、ZW」と「労働者障害保険法、WAO」、国民一般を対象とする「一般障害給付法、AAW」がある(表8)。

表8 障害者の所得保障制度
法律 対象者 給付内容 保険料
疾病給付法
(ZW)
被用者 前収入の80%(100%)給付、障害発生後3日目~365日まで 雇用者4.8%、被用者1.0%
労働者障害保険法
(WAO)
被用者 前収入と障害等級に応じて支給、最高は前収入の80% 雇用者1.5%、被用者17.6%
一般障害給付法
(AAW)
18歳以上の全国民(25%以上の障害) 障害等級による一定額給付、在宅障害者の補装具、住宅改造、家事、サービス 雇用者6.5%、自営業者自己負担、先天障害者公費負担

 (1)「疾病給付法」は65歳以下の被用者を対象とし、疾病や障害のために就労が困難になった時、その事由が発生後3日目から365日まで支給される。それまでの収入の80%支給と規定されているが、労働組合(Trade Association)から20%追加されるので、実質的には100%給付である。保険料は雇用者4.8%、被用者1.0%である。

 (2)「労働者障害保険法」は前法「疾病給付法」の支給期間後、すなわち障害発生後366日目から対象になり、給付額は前収入と障害程度(7段階、表9)に応じて決定され、最高は前収入の80%であり、最低賃金より下ることはない。この場合の障害程度とは、実態調査における機能障害の等級(5等級)とは全く別であり、労働能力の喪失と労働市場での機会の喪失を意味し、稼得能力が15%以上欠損した者が対象となる。従って、労働市場の事情により就労の場が得られない者は、機能障害・能力障害がどんなに軽くても、100%の重度障害とみなされる。

表9 労働者障害保険法の障害程度と給付率
労働能力障害の程度 給付率
労働能力障害15%以下 給付なし

 〃  15~25%

本人の日額の100/107.5の10%

〃  25~35%

〃      20%

〃  35~45%

〃      30%
〃  45~55% 〃      40%
〃  55~65% 〃      50%
〃  65~80% 〃      65%
〃  80%以上 〃      80%

注) 日額とは、障害がなかった場合に本人が得られるはずの日給額をいう。

(3) 「一般障害給付法」は被用者、自営業者、就労経験のない幼少時からの障害者等、すべての障害者が対象であり、労働経験のある者については、障害を受ける前の収入が最低賃金以上であり、かつ25%以上の労働能力障害のある者に対し、障害程度(6段階、表10)に応じて一定額支給される。前記の「労働者障害保険法」は本法を補足するものであり、同法の給付額を越える分を労働者障害保険法から併給する。この「一般障害給付法」は金銭給付だけではなく、補装具、日常生活用具、住宅改造費、自動車改造費、家事サービス等のサービス給付も保障しており、地域社会で自立生活を営む重度障害者にとって重要な制度である。

 表10 一般障害給付法の障害程度・給付率と基準額(1983年1月現在)

(1)
労働能力障害の程度 給付率
労働能力障害25%以下 給付なし
〃  25~35% 基準額の20%
〃  35~45% 〃  30%
〃  45~55% 〃  40%
〃  55~65% 〃  50%
〃  65~80% 〃  65%
〃  80%以上 〃  80%

(2)
基準額
年齢 日額
(一般基準) ギルダー
21歳以上 77.36(約5,490円)
20歳 68.69(約4,880円)
19歳 60.09(約4,270円)
18歳 51.49(約3,750円)
中間基準額 89.62(約6,360円)
最高基準額 108.15(約7,680円)

注)中間基準額、最高基準額は扶養家族の構成によって支給される。

 

 上記3法は雇用・社会保障者の管轄下にあるが、実際の運用はオランダに26ある産業別の労働協会(Trade Association)が行っている。障害者の認定および障害等級の決定は、労働協会の下にある合同医療サービス(Joint Medical Service)が行う。この地方事務所がオランダ全土に27か所あり、保険医、職業カウンセラー、法律家のチームワークによって、金銭給付、サービス給付が決定されている。

 「労働者障害保険法」と「一般障害給付法」の受給者は約73万人に昇っており、その半数以上は精神障害者(主に精神薄弱者)とか腰痛を訴える軽い障害者で占められている。支給額が前収入の80%であり、インフレと連動してスライドし、65歳まで継続して受給できる、などの好条件下にあるため、失業保険(2年を限度)や早期退職年金の代替となり、構造的失業を隠しているともいわれ、障害者が労働界に復帰する上での妨げともなっている。

 なお、上記3法のいずれにも該当しない者のためには「国民扶助法、ABW」があり、これは65歳までの稼働年齢層を対象とする公的扶助である。管轄は雇用・社会保障省であるが、実施機関は市である。これら4法すべては65歳を支給上限としており、オランダのすべての国民は65歳から老齢年金の対象となる。

Ⅷ 福祉サービス

 オランダでは福祉サービスは、従来から慈善団体や宗教法人によって提供されており、基本的に、福祉は民間団体が率先して実施すべきであり、政府は後方に控えているものだと考えられてきた。

 すなわち、中央政府および地方自治体はサービスの連絡調整、促進、助言、財政に責任をもち、障害者に対する直接サービスは主に公益法人の民間団体が実施している。しかし市に保健局と社会サービス局があり、直接実施しているものもある。保護雇用や職業あっ旋事業は公的責任となっている。

(1)施設サービス

 障害者関係施設は厚生・文化省の管轄下にある。リハビリテーションセンターについては、「オランダリハビリテーションセンター協会」が1970年に「モデルセンター委員会」を設置し、リハセンターのあり方について審議し、1975年にその報告書が出された。そこには、リハセンターの対象者、目的、専門的機能、入所者自治会の必要性などがまとめられている。

 最近では、重度障害者の自立生活を保障する各種の生活施設が設立されているが、これらについては後記の「生活環境」の項においてふれたい。

(2)対人福祉サービス

 対人福祉サービスも厚生・文化省下にあり、具体的には、①精神障害者のソーシャルサービス、②生活施設におけるソーシャルサービス、③在宅障害者へのソーシャルサービス、④各種デイセンター、ワークショップ、ホステル、短期施設におけるソーシャルサービス、⑤家族ケア、⑥自立生活サービスなどがあげられる。

 これらのサービスは民間団体、また最近は市当局によっても提供され、主にソーシャルワーカーが実施する。このほかに、補装具・日常生活用具の交付、住宅の改造、レジャー・スポーツ・レクリエーション、ボランティア活動の振興などが行われている。

 オランダでは古くからコミュニティーケアも盛んであり、訪問看護制度も発達している。訪問看護婦は約4,000人おり、家事や身辺介助を行うホームヘルパーは73,000人(1974年)いる。

 また具体的なサービスの1例として、精神障害者(精神薄弱者が中心)のための主要サービスを紹介すると、次の通りである。

 ①デイセンター:290か所(1982年)あり、11,500人が利用し、各種作業活動、親睦プログラムなどが行われている。

 ②短期施設・ホリデーホーム:7か所あり、260人が利用できる。精神障害者を短期間預かることにより家族の負担を軽減しようとするものである。

 ③ホステル:388か所あり、8,000人が生活している。地域社会の中での生活の場を提供するものであり、日中は就労または他の活動に参加している者のための、長期的な生活の場である。

 ④若者・成人のための特別プログラム:ゲーム、スポーツ、クラブなどの余暇活動の場を用意し、既存の社会資源を十分に活用することを目的としている。

Ⅸ 生活環境

 オランダ障害者政策協会(NOG)が障害者のための環境づくりにおいて、指導的かつ連絡調整的役割を果たしてきた。また1980年には政府の委員会が発足し、NOGはその助言者という立場に立ち、積極的な活動を展開している。

 1975年に市場会建物条例において、「今後建設する公共建築物は障害者に利用しやすいものとしなければならないと規定された。これはオランダ全市の90%において採択され、成果をあげている。また既存の建物の改造も行われているが、これは遅々としている。1975、1977年の両年度には障害者の失業対策の一環として、建築物の改造にかなりの予算を使い、雇用の促進を図ろうと試みた。

 (1)シンボルマーク

 1969年に国際リハビリテーション協会(RI)によって採択された、障害者が利用できる建物であることを示す「国際シンボルマーク」については、オランダはその普及について慎重にのぞみ、認定委員会を設け、申請のあった建物を実際に実踏調査した上で交付してきた。その認可基準は、「正常な上肢機能を有し、下肢機能障害のある車いす使用者が一人でその建物に入って、利用できること」であり、オランダ全国において約2,900の建物が現在、このシンボルマークを掲示している。このうち、郵便局が580ヶ所でトップを占め、その次は事務所、店舗となっており、各々290ヶ所位である。

 RIが制定した国際シンボルマークのほか、オランダ独自のシンボルマークがある(図4)。一つはオランダ喘息協会が交付している「ちょうちょ」のマークであり、慢性閉塞性肺疾患者のための配慮をしてあるホテルやバンガローを示すものである。もう一つのマークは、オランダ旅行業者協会(ANWB)が採用したものであり、オランダ語の障害者の頭文字「g」からデザインされた。これは、RIの国際シンボルマークの基準は満たしていないが、障害者のための配慮をしていることを意味し、現在では建物ばかりでなく、障害者に関係するパンフレット、旅行ガイド、雑誌等にも使用されている。

図4 生活環境改善のための各種シンボルマーク

図4 生活環境改善のための各種シンボルマーク

 (2)交通機関

 約45,000人の障害者が、外出の際に車いす・自動車等を利用しており、自分の車のためまたはタクシーを利用するための費用として年間約20万円の移動手当が支給されている。自動車購入の際にはローン制度が利用でき、また自動車改造費は所要経費が全額支給されるが、これらはすべて社会保険制度に基づくサービスである。障害者の利用できる小型バス1,100台、大型バス100台が用意されているが、ワークショップ、学校、病院への送迎は無料であり、私的利用の際には使用料がかかる。

 汽車については事前に電話連絡することにより人的介助が得られる。また100か所位の駅には障害者の乗降車に利用するスロープが設置されており、新たに造られる客車には車いす者用席が設けられている。介助者を必要とする障害者には、汽車・電車・バスなどの利用に際し、介助者の運賃は無料となる。

 100メートル以上を自力で歩けない歩行障害者には、特別駐車許可証が交付され、駐車に際し特別な配慮がなされる。現在約35,000名の重度障害者がこれを交付され、自宅前とか職場においての特別駐車が許可されている。

 (3)住宅・生活施設

 障害者の生活の場に関する対策はオランダでは非常に進んでいる。自宅を障害者用に改造する場合は、その経費がすべて住宅省から支給され、上限規定がない。しかし改造費が膨大となる場合には、転居を勧められることもある。年間約45億円が障害者の住宅改造のために使われている。

 個人住宅のほかに、オランダでは重度障害者の自立生活の場を保障するために様々な試みがなされてきた。1966年にアーヘム市に設立された「ヘットドルプ」は、重度障害者の自立生活の場として、当時、世界的に注目をあびた。1972年にヘットドルプを訪問したが、約400人の重度障害者が個室で生活し、約200人の介助職員が同敷地内の職員宿舎に住み、8時間交代の24時間介助体勢が取られていた。ヘットドルプのような大規模な生活施設は現在4か所あり、もっと小規模な施設は22か所ある。大規模だと地域社会とのインテグレーションが図りにくいということで、小規模な施設が造られるようになったものである。

 これらの生活施設のほか、1964年にスウェーデンにおいてスタートした「フォーカス住宅」がオランダにも導入され、35プロジェクトのうち現在14プロジェクトが完成し、好評を得ている。これは公団住宅の中に障害者用の住居を12~15戸分散して設けるものであり、棟の一画にADLユニツトが設けられ、そこに介助職員が2名、8時間交代で24時間待機し、入居者の要請に応じて介助する。スウェーデンのフォーカスを範としているが、現在ではオランダの方が質量ともに優れていると、高く評価されている。このような重度障害者の自立生活の諸形態を整理すると図5の通りである。

図5 重度障害者の自立生活の諸形態

図5 重度障害者の自立生活の諸形態

Ⅹ 専門職

 (1)医療関係

 医療専門職の状況は表5に示したが、そのうち、リハビリテーション専門医は1979年現在で145名である。オランダには現在6つの医学校がありそのうちの3校において「リハビリテーション・物理医学科」が設けられ、その設置率は50%と高く、専門医となる研修年限は4~5年である。

 表5に見られたように、公的機関から出された文献にPTしか出てこないが、オランダにOTがいないわけではない。他の文献によると、医療関係職者数(1975年現在)は表11の通りである。表11(PT6,000人)と表5(PT12,300人)の間のPT数に約2倍の開きがあるのは、1975年と1982年の7年間に6,300名が新たに養成されたことということであろう。

表11 医療関係職員の状況(1975)
職種 人数
理学療法士 6,000
作業療法士 1,500
言語療法士 12,000
視能訓練士 2,000

 オランダにおけるPT、OTの養成校の状況は表12の通りである。PT校は20校、OT校は3校で、PT校はすべて国立であるのに対してOT校はすべて私立である。PT校のうち19校は文部省下にあるが、1校は厚生・文化省下にある。教育年数はPTは4年、OTは3年半または4年となっており、ヨーロッパ諸国や日本の3年間より長い。

表12 理学療法・作業療法士養成校の状況(1975)
   学校数 設置・運営者 教育年数 年間卒業生数
理学療法 20 厚生省立1校、文部省立19校 4年 1,000~1,500人
作業療法 3 私立3校 3.5年、4年 120人

(2)福祉関係

 文部省下における大学におけるソーシャルワーク教育のほか、専門学校としてのソーシャルアカデミーが19校ある。このソーシャルアカデミーは政府に公認され、補助金を交付され、高卒者を対象とする4年間のコースであり、3年目は実習にあてられる。リハ分野に進みたい者はリハ関係施設で実習をし、ソーシャルアカデミーを卒業すると、MSWとしてリハ機関に就職する。このように、障害者福祉分野に進むソーシャルワーカーのための特別教育プログラムはないが、障害者福祉の現場における領域別の現任訓練が積極的に実施されている。例えば、デイセンター指導員研修会、精薄施設職員研修会などである。作業活動センターおよび生活施設の職員を対象とする現任訓練も制度化されたばかりである。また、ソーシャルワーカーの専門職団体は宗教の宗派別に組織下されている。

 公的機関で、リハビリテーションに係わる仕事に従事しているソーシャルワーカーには、特別リハビリテーションアドバイザー(special rehabilitation adviser)がスーパーバイザーのようにつき、指導、助言、調整的機能を果たしている。

(3) 職業関係

 職業リハビリテーション関係職員としては、公的職業あっ旋機関で働くカウンセラー(雇用担当官)、社会雇用ワークショップで働く指導職員、社会保険制度下で障害の認定・障害程度の決定にあたる「合同医療サービス」(19頁参照)における職業カウンセラーなどがいる。彼らのほとんどは、前述のソーシャルアカデミーの卒業生のようであるが、詳細はわからなかった。

 公的職業あっ旋機関に配置されると、2週間の現任訓練が実施され、障害者を担当する際に必要とされる医学知識、面接技術、また特に、精神医学に関する講義や実技訓練を受ける。

ⅩⅠ 研究

 リハビリテーションに関する研究事業として、現在具体的に何が行われているかについて適切な文献が入手できなかったので、今回はこの項は省略する。

ⅩⅡ 問題点と将来像

 オランダに関する今回の研究を通して、オランダのリハビリテーション全体における問題点を指摘することは難しい。

 オランダは世界第2次大戦後に経済的に急成長し、それに伴って、社会保障制度が確立された。1940年代のオランダの社会保障制度は最低限度のものであったという。しかし、40年代にケインズ派経済学が導入され、また戦後、国民全体に「新しい社会を建設しようという熱意」がみなぎり、これらの2要因を通して、社会保障制度が高度に体系化された。

 現在の各種社会保障法(社会保険、公的扶助、社会援助)はほとんど1960年代に制定されたものであり、その水準は世界をリードしていると言える。しかし、給付水準があまりにも高くなったために(国民総所得の33.7%を占める)、様々な問題点が出てきた。働くよりも障害年金で生活する方が楽になり、社会保険受給者が急増し、経済的危機に直面している。

 また、オランダでは障害年金を受ける前にリハビリテーションサービスを受けるかどうかは本人の選択にまかされているので、所得保障制度の充実が、リハビリテーションの振興を阻んでいるともいえる。

 その他の問題点としては、リハビリテーション総合法がないためにサービスの分断が起こっていること、障害者と非障害者とのインテグレーションを図っているといわれながら、現実には、学校制度も分離されており、雇用の場についても、社会雇用制度の充実により、非障害者とは全く離れた環境に置かれていること、などが挙げられる。

 今回は紙面の関係と研究の不十分さから、オランダのリハビリテーションおよび障害者福祉の全貌を表わすことはできなかったが、更に研究を続けてゆきたい。

参考文献 略

*国立身体障害者リハビリテーションセンター


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1985年3月(第48号)10頁~24頁