特集/太平洋地域のリハビリテーション アメリカ信託統治区

特集/太平洋地域のリハビリテーション

アメリカ信託統治区

 背景

 第二次世界大戦の結果、多くの島々が連合国の支配下におかれたが、それは独立を助けるためだった。マリアナ、マーシャルそしてキャロラインなどのミクロネシア諸島は、米国が戦略的統治区に変えていった。軍事基地設営の可能性をふまえて、グアム、北マリアナ、マーシャル、パラオは条約や独立を交渉する際、別々の行政体系をとった。しかし戦略的交渉能力のない島々は一つのグループを形成し、これがミクロネシア連邦政府となった。

 1986年の米国の信託統治区解除以後、職業リハビリテーションを含む種々のプログラム基金は米国内務省が切り換えを行い、一般基金として支給される予定となっている。これが実現すれば地方当局の裁量で基金が配分でき、プログラムの作成、開発、実行が独自にできるようになり、地域に見合ったニーズに対応することができる。それはいままで米国本土政府の官僚当局が判断するニーズとは相対するものになろう。

 

ミクロネシア連邦政府(F.S.M)

 ミクロネシアは4つの州からなり人口約7万5千の国である。このレポート作成のため短期間滞在したトラック州、ポナペ州とヤップ州、コスラエ州である。

1.トラック州

 トラックは火山島群から成り、周囲はサンゴ礁にかこまれている。約120km2がの全土はグアムの南西100kmに位置し、4万人の人口はミクロネシア連邦政府の中で最大である。とりたてて産業はなく、主な雇用源は政府であるが、その政府も賃金支払いをアメリカ基金に依存している。

 障害

 障害の発生

 トラックでは18才から25才の青年男子の自殺率が世界で最も高く、自給自足経済から現金主義経済への移行に伴うカルチャーショックからくる「心の病」によるものと思われる。伝統的に財産や、子供のしつけは母方にゆだねられていたが、男が賃金労働者になるにしたがい経済力がついて、この伝統に変化が起きてきた。結果として役割争いが全家族に波及し、ストレスをもたらした。太平洋地域にみられるその他の障害としてはアルコールの問題があり、飲酒後の外傷、交通事故、けんか、木からの落下などである。

 政府のサービス

 トラックでは障害者を治療のためハワイヘ送っている。年間1人につき8万ドル使われているが、これが当たり前と考えられている。ミクロネシア政府はアメリカの基金援助がなくなれば、これは出来なくなることである。

 特殊教育が存在するが、職員と会うことができなかった。

 職業リハビリテーションは米国とミクロネシア政府から5万ドルの補助金を受けて6人の職員の給料と交通費そしてトラック州の1,000人のリハビリテーションの費用をまかなっている。職員は米国のリハビリテーションモデルに従って活動しているが障害者の雇用状況は悪く、政府が唯一の雇用供給源である。職業リハビリテーションは漁業、小規模店舗、縫製業などに800ドルの資金援助をしている。

 注:以下「米国太平洋諸島管轄地域の保険サービス」から引用

 幼・小児の保健プログラム

 トラックでは身体障害児及び発達障害児に対する適切な専門医紹介、診断治療が十分に行われていない。障害をもつ子供とその疑いのある子供は全員、内科医の診断を受けている。しかし障害児対策の助けとなる公衆衛生に関心の深い小児科医が多いに必要とされている。障害児には、それぞれに応じた治療プランがなく医療サービス、社会サービス、栄養学サービス、教育サービスあるいはリハビリテーションのサービスを総合的に受けていない。

 両親に対する社会的援助サービスはないが医療専門相談員が断続的ではあるが障害児のために活動している。障害児プログラムは教育局がおこない保健局は障害児サービスプログラムを扱っていない。

 適切なリハビリテーション・サービス

 関係各局が共同した総合リハビリテーションサービスはない。

 州内での協力態勢

 教育局は特殊教育の分野でリハビリテーションプログラムをおこなっている。障害児リハビリテーションサービスはトラックではあまり確固としたものがなく、リハビリテーションサービスの発展の見通しはない。各種のリハビリテーションを提供する組織間での紹介制度は発達していない。

 登録

 トラックでは障害者個人を組織的に追跡調査する方法がない。

 非政府組織

 トラックの文化は伝統的に大家族制で家族以外組織は影響力が弱く、教会だけが唯一の例外である。非政府組織は見あたらず、障害者の分野では教会が今だに積極的にならざるをえない。この分野に興味を示す牧師も多い。将来的に見ても消費者グループのようなグループが出来る可能性はほとんどない。

2.ポナペ州(ポンペイ州)

 ポナペは320平方キロメートルの大きな火山島とサンゴ礁(サンゴ礁にも人が住む)とから成り、トラックの東およそ700kmにある。島には海岸がなく、毎年雨が5,000mm降るため、川や滝が多い。古代ポンペイ人は太平洋では特異な存在で、巨石で作った人口島都市ナン・マダルの建築物が有名である。

 障害

 障害発生

 ポナペでの障害発生について数字はでていない。

 政府のサービス

 政府のサービスはトラック島と同じ状況だが、1つ特筆すべきことがある。特殊教育専門家であり、州知事夫人のスーザン・モービスは過去2、3年間、学生と共同で精神障害者の作業分析表を開発した。表には1日の生活活動が記され、障害者が一歩一歩進歩するようになっている。これは全島に利用できる潜在性が大きいが、現在のところここにのせる段階ではない。

 注:以下の資料は「米国太平洋諸島管轄地域の保健サービス」から引用。

 幼・小児の保健プログラム

 教育省で主におこなわれているが、障害児の障害状態によっては保健サービスを通じて行われている。身体障害児サービスと国やホノルルのシュリナーとの間にはわずかにつながりがある。障害児およびその疑いのある子供には内科医の医療証明が支給される。障害児にはそれぞれに見合った治療プランがあるが、医療サービス、社会サービス、栄養サービス、教育サービス、リハビリテーションサービスが統合的に含まれるとは限らない。というのは、ポナペではこれらのサービスが辛うじて受けられる状況にあるだけである。障害児をもつ家族に対する社会サービス援助はほとんどなく、医療相談員が専門医に紹介している。障害児へのサービス計画の立案、検討のために資料の収集、分析が行われている。これは教育局とミクロネシア政府が行っており、ポナペ州は行っていない。障害児教育サービスは無条件に提供している。

 適切なリハビリテーションサービス

 きちんとした職員を置いたリハビリテーションサービスはない。理学療法はある程度受けられるが、作業療法、聴覚学や音声病理学といったサービスは受けることはできない。理学療法器具は一部手に入るが、リハビリテーション用器具は手に入らない。義肢装具を注文するために寸法を計ることは可能である。リハビリテーションカウンセラーもいないし、障害者個々人を守る法律、規則もない。サービスは依存度を軽減し、障害者が家庭生活や社会生活に参加する能力を開発するようになっていない。雇用促進のための職業リハビリテーションもない。

 州での協力態勢

 職業リハビリテーションサービスは現在、教育

局の管轄にあり、保健局との協力態勢がない。

 登録

 ポナペ内での障害者リストがあることはあるが、不完全なものと思われる。

3.ヤップ州

 ヤップはヤップ島と東100㎞に広がる人間の住むサンゴ環礁からなり、人口約1万2千の島である。ヤップ島周囲の島々の人々とは言語も違い、文化も異っている。ヤップの人口の3分の2は、ヤップ島に住み残りは周囲の島々に住む。しかし、周囲の島々の人口の増加率の方が高い。

 障害

 注:以下「米国太平洋諸島管轄地域における保健サービス」から引用。

 幼・小児の保健プログラム

 身体障害児と発達障害児を定期的に綿密にスクリーニング方式で見つけ出し適切な専門医に移送し、診断を受けさせるプログラムがある。障害児又はその疑いのある子供は内科医から医学評価を受ける。すべての障害児それぞれに個別の治療プランがあるわけではない。

 障害児の大多数に対し継続的なプランがあるが、必ずしも個人べースのものではない。障害児をもつ家族への社会的援助もなく、障害児専門相談員が定期的に訪問するだけである。ヤップ州では障害児サービスの立案、検討のために必要な資料の収集や分析が行われていない。障害児のための普通教育サービスも総合教育サービスも行われていない。

 適切なリハビリテーションサービス

 障害によって不利益をこうむる人々が利用できる適切なリハビリテーションサービスはない。

 州内の協力態勢

 障害者個人を追跡する方法はあるが、組織的な規模にいたっていない。障害児プログラムは基本的には教育局の管轄であり、保健局は機能していない。教育局の障害児プログラムに関する資料は手に入らなかった。

4.コスラエ州

 コスラエは他のミクロネシアの州と違い特異である。基本的にはよく言われているように一島一州である、コスラエは、ポナペの南東600km北キャロライン諸島に位置する小さな接岸の容易な島である。

 人口は約6,000人である。スペイン、ドイツ、日本、アメリカ、ミクロネシアや太平洋諸島の文化にさらされながらも、コスラエ独自の文化と言語が支配している。しかし、この文化の等質性も外からの影響でくずれはじめたことへの懸念もある。

 コスラエ島民の多くはブレッドフルーツ、タロイモ、バナナ、ココナッツ、シトラスの実等の栽培で生計をたてている。少数ではあるがきゅうり、すいか、キャベツなどの作物を育てている小規模な商業的農民もいる。魚がこの地方の主な蛋白源で、家族内で消費する分だけ捕る。問題は輸入食品の消費の増大で値段が高く、栄養価に乏しく、塩分、糖分が多く、虫歯、肥満、糖尿病、高血圧、アル中や栄養失調などの原因となっている。また、歩かないで車に乗るようになったこと、デスクワーク、西洋風生活スタイルに伴うストレスなどが、精神衛生上の問題となっている。

 コスラエは、米国の信託統治の原案では、ポナペに属していたが、1977年1月1日にポナペから独立して州となった。1979年ポナペ、トラック、ヤップとともにミクロネシア連邦共和国を形成した。

 コスラエ州は州レベルの立法、行政、司法、郡単位の議会、村レベルの長で成り立っている。行政の長は選挙で選ばれる。立法府は選挙による14人のメンバーから成り、ミクロネシア連邦共和国の上院議員を2人選出している。コスラエ州政府は州内の主たる雇用供給源でもある。

 障害

 注:以下は「米国太平洋諸島管轄地域の保健サービス」から引用。

 幼・小児の保健プログラム

 身体障害児および発達障害児をスクリーニング方式で見つけ出す正規のプログラムはない。問題児が見つかった時に特殊教育局に問い合わせるだけである。障害の疑いのある子供は内科医の医学評価を受ける。島外の医師の診断を必要とする場合も多い。障害児を持つ家族への特別サービスはないが、その必要性がある。障害児のための特別医療相談が2年に1度行なわれているが、もっと回数を増やす必要がある。特筆すべきことは、米軍の心臓専門医が心臓に雑音の聞こえる子供を診察するために近く来島することになっていたが、中止になったことである。これで2度目である。期待していた家族の失望は大きい。家族は交通の不便さと時間のかかりすぎに苦労している。保健サービスは試験的実施に苦労している。これは障害児に関する資料がないためで、プログラムを作成し実施するにはまず資料の収集と分析が必要となる。

 適切なリハビリテーションサービス

 保健局が積極的に組織的なリハビリテーション計画に参加している様子はない。基本的には教育局が特殊教育プログラムを通じてリハビリテーションサービスを行っている。老人向けの職業リハビリテーションサービスもある。

 この地域には「保健5年計画」がある。ミクロネシア政府が資金を出している身体障害児サービス(CCS)の責任者に内科の医師が任命され、相談を受けて専門医への紹介を行っているが、直接の医療サービスは行っていない。0歳児から20歳までの子供で正常な成長発達が疎外される可能性のある器質性の疾患や欠陥、あるいは状況をもつ者を対象にCCSプログラムの援助が受けられる。コスラエの内科医全員がCCSプログラム対象者を見つけ出す責任を負い、患者の追跡調査、記録報告、スクリーニング、付添人の指導、相談員との協力を行っている。PHNも患者の発見と追跡調査に参加している。CCSプログラムの責任者である医師は患者が見つかるとポナペにあるミクロネシア政府保健サービス省内のMCH/CCS/FDコーディネーターヘ紹介する。そこからグアム、ホノルル、時にはサンフランシスコまで紹介がいく。CCSプログラムのこの恩恵を受ける患者は少ない。

 州内の協力態勢

 関係局間の協力態勢は良いが、CCSプログラムと病院関係者、特殊教育、職業リハビリテーションプログラムとの間でより一層の協力関係が求められる。

 登録

 保健サービス局内のCCSプログラム担当医がCCS患者の追跡調査を行っている。特殊教育調整者と職業リハビリテーション調整者も同様の仕事をしている。

 

北方マリアナ諸島連邦(CNMI)

 14の島から成り、総面積は183.6平方マイル。一番大きい島がサイパンで、次はロタ、ティニアンと続き、人口は約18,000人。その半分以上が15歳以下である。

 障害

 政府サービス

 地方の職業リハビリテーション機関が政府基金を利用するにあたり、2つの興味ある協約を取りかわしており、米国本土内の基金とは質を異にしている。その第一は米国からマリアナ連邦に配分される職業リハビリテーション基金はマッチングペイメントの形をとっていない。第二は一年で消化しなかった基金は次年度に繰り越すことができる点である。マリアナ連邦内の保健環境は太平洋地域としては標準以上にあるが、保健状態は米国の田舎の低所得者層と同程度である。

 注:以下は「米国太平洋諸島管轄地域の保健サービス」からの引用。

 幼・小児の保健サービス

 障害児サービスは比較的新しく、看護婦は障害の発見方法の訓練を十分受けていない。提供されるサービスの範囲が狭く、治療プランには限りがある。医療相談は定期的に提供されるだけである。基本的な教育サービスは少ない。各地で公的な保健チームが活動し、学校にも行く。

 適切なリハビリテーションサービス

 サービス職員の一人として物理療法士がDr.Torres病院に配属されている。職業リハビリテーションと医療サービスと教育局との間に組織的な連携や協力態勢がない。

 リハビリテーション器具を正常に作動させ維持することが長年の課題である。義肢などの補装具はすぐには到着しない。

 国内の協力態勢

 特殊児童のための調整委員会が毎月開かれ、サービス面で協力態勢をとっている。この委員会では成人の障害者の問題も扱うことがある。患者が2つ以上の機関でサービスを受けてもチェックする方法がない。

 登録

 障害児全員の登録簿を作成中。

 

マーシャル諸島共和国

 マーシャル諸島は低く平担なさんご島と環礁24島が2列に並び、総面積は170平方キロ。赤道と北回帰線の間の数百キロの海に島々が点在し、土地は肥沃でない。外側の島々は水不足に悩む。3万人いるマーシャル人は単一民族で、独自の言語をもつ。伝統的な首長を中心とした大家族制度が色こく残る。

 障害

 障害発生

 1963年の小児マヒ流行時に200人以上が身体障害者となった。

 政府サービス

 1985年までの10年間、EtheL Coelingさんはマジュロ病院で障害者問題と取り組んできた。彼女ほどの専門知識と経験をもつ者は国内では珍しく、彼女の引退が近いことは非常に残念である。病院内の車イスの修理調整の店をまかされているのは障害者のEsli Tibonさんで、台湾で訓練を受けたことがある。この種の店はミクロネシア内ではここ一店だけである。

 職業リハビリテーションは現在、マッチングペイメント方式で米国から補助金を受けている。1985年は患者226人に対し年額8万ドルと職員2名が割り当てられた。ミクロネシア連邦と同様に補助金は自営業促進計画にあてられる。

 盟約が採択され、職業リハビリテーション基金は米国内務省を通じて一般基金から配分されることになっている。もしこれが実現すれば基金は各地の機関にゆだねられ、各地のニーズにあったプログラムの立案・開発・実施が可能になる。現地のニーズはこれまで米国本土の政府機関や行政機関が想定してきたニーズとは、まるっきり違う。

 職業リハビリテーションのプロジェクトが提供する移動援助は興味深い。周辺の村落は車イスを改造して手押し車として使い、焚き木やコプラ、米などを運んでいる。この手押し車は将来、障害者のいる村落へ配るという約束に応じたものである。品物を運ばない時は、障害者の移動用に使える。これで村民全員が納得し、無料の手押し車が障害者への認識を高めるきっかけとなる。

 保健担当者の話によれば、移動が困難な障害者の中には一室しかない家の片隅の、マットの上で一生を過ごす者もいるとのことである。そして栄養失調や床ずれがあったとしても、その素振りはめったに見せない。少なくとも村落では大家族制度が障害者の介護を保証しているようだ。

 米国が太平洋で行った核実験により被害を受けたマーシャル島民の保健ケアは米国が行っており、マーシャル諸島連邦政府は関与していない。公法96―205、第102項は以下のように定めている。

 「内務省長官はビキニ、エニウェトック、ロンジェラップ、ウティリック環礁の住民および核実験により被爆した、あるいは被爆したとみられるその他の環礁の住民に対し、医療および治療、環境調査、核実験による直接的あるいは間接的なけがや病気や状況の監視を行なう。このプログラムは、国防省長官、エネルギー省長官および保健教育福祉省長官の諮問を受けて内務省長官が作成したプランに沿って施行される。」

さらに続けて

「このプランは環礁内住民個々人の状況、条件ニーズに応じて開始する。

(1)統合的、包括的保健ケアのプログラムにはイオン化放射能の生物学的影響を重視した一次ケア、二次ケアおよび三次ケアが含まれる。」

 注:以下は「米国太平洋諸島管轄区における保健サービス」から引用。

 幼・小児の保健プログラム

 身体障害児と発達障害児の早期発見は定期的に十分行なわれ、内科医が障害児とその疑いのある子供に医学評価を出している。障害児の治療プランは範囲が限られ、障害児をもつ家族に対する社会サービス援助はない。医療専門相談員が時々訪問してプログラムを補完しているが、常時というわけではない。障害児に関する資料収集は不十分で、現状ではプログラムの作成、評価には役立たない。障害児向けの基礎教育で制限を設けないサービスはない。

 適切なリハビリテーションサービス

 現在、物理療法士1名が配属されているが、取り扱い件数からみて、それで十分であろう。訪問相談員を送り、グアムもしくはホノルルのリハビリテーションセンターヘ紹介することで、物理療法士を助けている。リハビリテーションの基本的設備は十分あるが、超音波、超短波、EDXなどの近代設備はない。しかし現在の取り扱い件数からみて、その必要性はない。リハビリテーション設備の入れ替え周期は早いが、そのための資金は十分でない。リハビリテーションサービス、職業リハビリテーションあるいは特殊教育プログラムのいずれかで、適切なリハビリテーション相談員を利用できる。現地に補装具・装具の店があり、周辺のニーズを十分満たしている。この地域は障害者を独自のやり方で社会に同化させる傾向をもつ文化圏にあり、現在のプログラムは、この文化圏内で解決していく方向で作られている。職業リハビリテーションプログラムは求職者を援助し、特殊教育プログラムと協力して、現地では受けられないサービスについて紹介・調整を行っている。

 国内の協力態勢

 各種リハビリテーションサービス間の調整役を受け持つ人間も機関もないが、国内サービス委員会がその役割を果している。活動は活発ではないが、すぐに召集できる。保健サービス、職業リハビリテーションおよび特殊教育の名簿をよせ集めれば国内の障害者の大多数を網羅することができるが、家族が申し出ていない障害者も少数いるようだ。リハビリテーションサービス、職業リハビリテーションおよび特殊教育の間での紹介制度は緊密とはいえないが組織化されており、各種のリハビリテーションが受けられ、障害内容の評価、必要なサービスの指定、患者の発見、援助、公教育が可能であり、国内関係機関と密接な関係にあるホノルルのパシフィック・リハビリテーション病院への紹介・調整もできる。

 登録

 登録制度はないが、保健サービス、リハビリテーションセンター、職業リハビリテーションおよび特殊教育の名簿があるので必要な情報は手に入る。登録の一本化がなく、代わりに分散化した名簿が個人の必要最低限の情報を提供している。各種のリハビリテーションサービスを提供できる機関も一本化されていないが、各種リハビリテーション関連機関の職員相互の連絡が緊密で、それを十分に補っている。

 

パラオ共和国

 640マイルに広がるパラオ共和国は約200から成る石炭岩の小火山島の集まりで、カロリン諸島の最西端に位置する。

 障害

 障害発生

 注:以下は「米国太平洋諸島管轄区における保健サービス」から引用。

 幼・小児の保健プログラム

 障害児のスクリーニング方式による発見、評価・治療、リハビリテーションのサービスが組織化・一体化されていない。医療専門相談員は定期的に来ないし、広範囲な活動をしていない。統合的な普通教育は行なわれていない。

 適切なリハビリテーションサービス

 保健制度の下で組織化されたリハビリテーションサービスはないが、将来の計画はある。現在不十分ではあるが職業リハビリテーションを中心としたサービスを教育局が行っている。

 国内の協力態勢

 関係機関同士が非公式に情報交換して、不十分ではあるがリハビリテーション活動を行っている。

 登録

 正規の登録制度はない。

 

米領サモア

 島々は中央に山がそびえるため、人口の大半は海岸部に点在し、交通の便の悪い地域もある。気候は熱帯性。島々は狭い範囲に密集し、人口の92%が中心となる島、ツツイラ島に住み、残りも隣りのアヌイ島、少し離れたマヌア島、スワイン島に住む。経済状態が悪いため、職を求めてハワイに移住した者も多い。グアム島と共有の保健制度があり、先進国のそれに近い。サモア人は信仰が厚く、教会が地域社会で重要な社会的役割をもつ。

 障害

 障害の発生

 事故による死亡率が高いのが目につく。1976年から78年にかけて事故死の34%が自動車事故で、中でも飲酒運転によるものが多い。親族殺人や自殺もある。ツツイラ島は太平洋地域では都会であり、実際、太平洋諸島住民の都市化・保健の向上による影響を調べる際にサモア人がその研究対象となってきた。肥満、高血圧、心臓病、糖尿病が増加した。

 政府サービス

 職業リハビリテーションは1976年に初めて導入され、1980年には稼働している。現在、局長および副局長を米国本土から契約雇用しているが、現地職員が技術を修得して、すぐにでもそのポストにつくべきだ。

 注:以下は「米国太平洋諸島管轄区における保健サービス」から引用。

 幼・小児の保健プログラム

 障害児については関連分野が共同し、総合的ァプローチをとる必要がある。資料収集はある程度行われているが、分析、評価それにプログラム作成が不十分である。サービスがあることはあるが、微々たるもので効果は薄い。

 適切なリハビリテーションサービス

 リハビリテーションサービスは十分とはいえず、聴能士は一人もいない。施設や状況は最小限で基本的サービスのみを提供している。リハビリテーション相談所や補装具・装具の入手場所は少ない。米領サモアには障害者保護法がなく、雇用促進の援助も活発でない。リハビリテーションを受けるための紹介・調整も緊急に必要か否かにかかっている。

 国内の協力態勢

 リハビリテーションサービス間の調整役となる人間も機関もなく、登録表の交換もない。障害者関連の各機関相互の組織的な紹介制度もない。基本的なリハビリテーションサービスはLBJ熱帯医療センターを通じて受ける。

 登録

 現在のところ障害者の登録制度はない。

 

グアム

 面積500km2のグアム島は米領ミクロネシアの主島で、ハワイと中国と日本とオーストラリアの中間に位置する。巨大な空軍基地と海軍基地があり、日本人観光客を対象とする観光業が主要産業である。人口は10万人で、原住民のチャモロ人、フィリピン人、アジア人それに米国本土人がいる。生活水準は比較的高い。

 障害

 障害の発生

 島内の障害者の状況調査はされていないが、先進国と同程度であるという意見がある。

 政府サービス

 政府が中心となって障害者サービスを行っているようだ。米国本土の複雑な福祉制度も導入され、障害者は多岐にわたってサービス・介助が受けられる。

 保健サービスは高度だが経費も高い。特殊サービスを必要とする障害者は治療のためにハワイや米国本土に送られることが多い。近隣のアジア諸国がグアムの障害者のニーズに答えるべきだとする意見が多かった。現在のところ、ほんの数例しかない。残念ながら米国本土から帰国した障害者が本土の障害消費者グループに触発されて熱心な運動家になった例はない。

 障害をもつ若者の教育は重度の障害者は入れないが規模の大きいBrodie特殊学校へ行くか、統合教育に参加する形で行なわれている。上級教育はグアム地域カレッジもしくはグアム大学で行われ、障害をもつ学生の受け入れを促進するプログラムを活発に行っている。グアム大学には特殊教育コースがあり、1984年にリハビリテーションコースは廃止せざるをえなかった。このような大学側の努力もあってグアムは今やミクロネシアの中心地として確立されつつあり、障害者関連サービスを含めた各種サービスを提供している。

 「職業リハビリテーション」(VR)がグアムの障害者のための中心機関である。VRは庇護ワークショップと生活技術(活動療法)センターを経営している。両方とも昼間活動し、それぞれ100名と30名の収容能力がある。

 「認定者」にはVRの援助で補装具が支給され医療が受けられ、ハワイもしくは米国本土で社会復帰する。VRを通じて公共機関、民間機関に就職した障害者の数は不明だがVRの資金援助を受けて自営業を営む人に数入会えた。最も一般的な自営業とは公営建物内で小店舗を開くか、コーヒー、ドーナツ、菓子類の小型屋台を引くことである。1985年予算では99人の障害者の社会復帰のために100万ドルが計上された。

 注:以下は「米国太平洋諸島管轄区の保健サービス」より引用。

 幼・小児の保健プログラム

 身体障害および発達障害については定期的な早期発見スクリーニングのプログラムがあり、それに伴って適切な紹介、診断、治療、継続管理が行なわれる。障害児およびその疑いのある幼・小児は内科医の医学評価を受ける。障害児それぞれに治療計画がたてられ、医学サービス、栄養サービス、社会サービス、教育サービスおよびリハビリテーションサービスを協力態勢のもとに統合的に受けられる。障害児をもつ家族に対しては社会サービス援助がある。資料を収集・分析し、障害児サービスプログラムの計画立案・評価に役立てている。

 適切なリハビリテーションサービス

 開業医、グアム記念病院、職業リハビリテーション局、教育局、保健サービス局など多方面から直接的・間接的なリハビリテーションサービスが受けられる。成人障害者のサービスの調整は公式には職業リハビリテーション局がその責任を負っているが、各機関は利用者とサービスの必要性について独自に記録をつけている。紹介制度は組織化されているが、必要とするサービスを協力態勢のもとに受けることを保障するためのものになっていない。

 国内の協力態勢

 21才未満の障害者のリハビリテーションサービスについて調整の任を負う機関がない。装具・補装具のサービスはない。

 登録

 障害者を組織的に追跡する中央登録制度はない。

 非政府組織

 グアムには非政府組織がたくさんあるが、障害者サービスの提供を現在も積極的に続けているクラブや組織や機関は見つからなかった。

 自立

 1984年にMike Caldwell博士、Pat Botten,John Reyesなどの関係者がグアム西太平洋障害者協会(Guam based Western Pacific Association of the Disabled WPAD)を発足させた。Caldwell博士はグァム大学教育学部長で、以前から障害者には教育が特に必要であると考えてきた人である。また国際リハビリテーション協会(RI)のアジア地区代表の一人であり、教育委員会議長をつとめたこともある。John Reyesは副総督の息子で、1984年にオーストラリアのアデレイドで開かれたDPI会議に代表として出席したことがあり、現在はWPADの副会長をつとめている。会長はMs.Pat BottenでWPADの中心人物である。彼女は米国本土の出身者で、1980年代初めに障害者になった。彼女の考え方は確固たるもので、彼女もWPADも他のプログラムや障害者活動家組織に心を開かず、WPADの目標達成に役立つ道を閉ざしてしまった。彼女の中心的テーマは若い障害者の心に行動主義を植えつける方法を見つけ出すことである。

 WPADの規約により、運営は障害者メンバーの手にゆだねられ、米領ミクロネシアのうち、どの島の出身者でもよいとされている。グアムが中心となっているが、パラオ、北マリアナ諸島、ミクロネシア委託統治領、マーシャル群島も規約の範囲に含まれる。WPADは国際リハビリテーションのメンバーとして認められ、DPIのメンバーを申請中である。WPADはその機構と目的を次のように定義している。

 「西太平洋障害者協会(WPAD)は障害者が自己を擁護できる力を与えることを目的として発足した。いかなる組織も、いかなる国家も、中央政府も地方政府も、障害者以上に障害者問題を理解することはできないとWPADは考える。そして障害者が自らを代表することにより障害者の自治は急速に発展する。障害者の流れを妨げている主な原因は、健常者が自らを介助者として位置づけてしまうことにある。人道主義が結果的には障害者に障害の程度にかかわらず依存心を植えつける場合が多い。

 障害者が自らのために行動し発言する機会を提供することにより、自尊心と自信が生まれる。こうして自立生活を享受できる世の中になれば『無能力者』という固定観念は一掃される。」


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1986年11月(第53号)8頁~17頁

menu