特集/リハビリテーションにおける技術 リハビリテーションにおける科学技術の利用

特集/リハビリテーションにおける技術

リハビリテーションにおける科学技術の利用

Technology Utilization in Rehabilitation

RICHARD T. ROESSLER, Ph. D.*
早田信子**

 リハビリテーションの分野にひとつの新しい未開拓分野がある─それは重度の障害を持つ人々が職業上また日常生活上抱えるニーズに科学技術を適用することである。この未開拓分野に境界線を引くことは極めて困難なことである。実際、限界という概念を完全に否定する者もある。例えばTandy Corporationの社長であり専務取締役であるJohn Roachは、最近「このエレクトロニクス業界に長く携わっていると、すべてが可能であると信じざるを得なくなる」と語っている。

 技術の発展に限界を見い出すのは難かしい事であるが、それをリハビリテーションに適用するとなると、いくつかの問題に本格的に取り組まない限りは、不幸にも限界を見い出すのがよりたやすい事なのである。この論文の目的はリハビリテーション・科学技術提携における問題点を確認し、これらの問題に対する可能な解決法を探ることである。

 財源

 障害を持つ人々が科学技術的装置や補助具を取り入れることを遅らせている問題のひとつには財源不足がある。リハビリテーションの研究と開発にさらに多くの投資をするためには、財源がまず最初に必要である。例えば最近のNIHRの調査によれば、連邦政府は年間研究開発に約6,600万ドルしか費しておらず、所得保障プログラムに約360億ドルを費している。従って研究開発は支払いにまわされた全金額の、わずか0.02パーセントを占めるにすぎない。個人の立場からすると、障害を持つ人々の多くは、改造コンピューター、運転者用補助具、オートメ化された家庭環境システムといったような科学技術的装置や、補助具を買う経済的余裕がない。

 財源問題を解決するためには責務遂行と奨励が必要である。連邦政府は障害を持つ人々用の科学技術関連製品の研究や開発に、もっと多くの資金を確約すべきである。議会はリハビリテーション関係に科学技術を適用するため財政上、法規上、施行上奨励するものを増やすべきである。例えば、雇用主が「ハイ・テク」業務改造費用の一部を、取り戻すことができるようになる減税は重要なことである。さらに、特許と認可に関わる法規上の政策を再検討して、それらが新技術の開発を抑制していないかどうか決定すべきである。最後に、連邦政府は、障害を持つ人々の、公営および民間の職場環境における雇用に関して、現存する法規を強化すべきである。例えば、第503項の違反に対してさらにきびしく従わせる事は、従業員中の障害を持つ人々のために、科学技術的設備を供給することに、私企業の関心を高めることになるであろう。

 科学技術査定局によれば、科学技術的補助具や装置に対する連邦政府の保険プログラムの払戻し政策を調査するためにも、議会の決議が必要とされる。これらの払戻し政策を検討して、障害を持つ人々自身が科学技術的補助具を購入することを促進し得る範囲を決定する必要がある。払戻し政策が、独立生活を営むための装置利用よりも、むしろ医療面に限られるのがしばしばである。さらに、連邦政府は障害を持つ人々が科学技術的補助具を購入できるようにするための、低利貸付け保証プログラムを始める必要がある。連邦政府は、払戻し政策を修正し、低利貸付プログラムを実施することにより、障害関連製品の市場を相当に拡大し得るであろう。これらの製品に関する情報が障害を持つ人々に提供される必要があることは言うまでもない。

 科学技術情報入手

 利用可能な科学技術的装置や補助具に関する情報の不足は、常に存在する問題である。さらに人々はどのようにしたら低価格で改造が出来るのか、あるいは各自のニーズに最適の装置を買うためには、どのようにして製品を比較したらよいのかわからない。これは、情報源が適切に調整されておらず、製造者達が互いの仕事について無知なためである。その結果、しばしば他の装置の誤りを繰り返していたり、すでに利用可能な製品と比較とりわけ重要な進歩もみられないような装置が造られることになる。このために、装置の有効性や融通性に真の進歩がなされないのである。

 情報上の問題にはいくつかの解決法が提案されてきている。技術査定局は、障害を持つ専門家つまりリハビリテーションは技師、リハビリテーション医、関連する保健専門家を訓練するために、リソースの増大を要求した。DixonとEndersは、リハビリテーション拡張員と地域科学技術有能者チームを提案した。科学技術に関する各地のリソースである拡張員は「科学技術的補助具を提供したり、低価格の設備をデザインするための安価な方法に関する専門的な知識や技」を備えているであろう。DixonとEndersはせっかく良い主張をしたのであるから、リハビリテーション・カウンセラーというのは科学技術を障害問題に適応する事に関してもっと精通しているべきであると勧告すべきであった。職業リハビリテーションサービスの全国的ネットワークも「高度な科学技術装置の資金供給、処法、メンテナンスを含むサービス配達システム」に関してLeslieが指摘したニーズに対する答えを示している。

 ボランティアや障害を持つ人々から成る地域科学技術有能者チームは、障害を持つ人々に利用可能な装置、低価格の改造、製品の比較に関して助言を与える事ができるであろう。公立図書館のような各地域のサービス機関は、科学技術的補助具や装置に関する情報を集め系統だてる事もできるであろう。

 地域レベルの努力の結果は、コンピューター連結で入手できる各地域のあるいは全国規模のデータベースの中に記憶されるであろう。これらのデータベースには、「自分でしよう」式解決法、大量に市場に出回っている製品の安価な改造や、新技術の採用に関する情報が含まれるであろうが、それらすべてが、主として商業用の製品を説明しているABLEDATAで入手できる情報を補う事であろう。

 消費者関与

 消費者の関与が無いために障害を持つ人々のニーズに対して、科学技術を採用する事が多くの面で阻げられている。最近あげられた例には、静かな研究室の限られた中では十分に役立つが、実社会の騒音のより激しい環境では誤って応答した音声付車椅子がある。業界全体を通じて、装置開発者側は「何があなたに最適か承知しております」という態度を考えなおした方が良いと思われる。科学技術的改造を計画する際に、障害を持つ人々を除外しないひとつの「顕著な例外」は、一吸い、一吹きシステムのような車椅子のコントロールの分野である。

 ときには消費者が相談を受ける場合もあるが、それら消費者が限られた市場部分だけしか代表していない場合もある。つまり、障害を抱えながら積極的に独立生活を営んでいる人々よりも、むしろ入院患者といったように。病院のような環境では装置がずっと限られた適応しかなされないが、自立生活では装置の利用に際してより多くの柔軟性、融通性、耐久力、持続性、移動性がしばしば必要とされる。

 消費者関与が無い事は、また結果として受け入れ性の欠除になる。過去における多くの補装具の場合のように、将来の科学技術的装置も、もし消費者が根本的に受け入れできないものであれば、押入れから出ることがありそうにない。これらの装置の分野の中で起こりそうな問題の例としては、付添い看護のニーズを満たすロボットまたは動物の開発がある。これらを適用する際の好ましくない面には、障害を持つ人々が得ている人間的な接触の量を減少させ個人の没個性化の感情を増大させるということがある。

 消費者関与の必要性の認識を高める事が第1段階である。第2段階では、国によりまたは私的に融資されている研究を整えることに障害を持つ人々が、確実に関与できるようにするための何らかのシステム化されたアプローチが必要になる。最近(1983年)の研究によると、技術査定局は、特別な議会の局-消費者関与局-を設立してそのようなプロジェクトへの消費者の入力を、調整すべきであるという事を勧告した。技術査定局はまた、議会は私的機構が公私双方のセクターに対し市場取引上、生産上の援助提供を行なう事を認可すべきであるという勧告も行なった。そのようなサービス機関がカナダ政府内にはある。それは「障害者用の専門的な援助とシステムの協会(TASH)」と呼ばれている。

 国レベルでのこれらのような消費者志向型サービス機関は、新しく開発された装置に関して偏見のない綿密なデータを提供する事により、重大なギャップを埋める事が出来た。科学技術開発局によれば、製品のあらゆるものについて多くの評価上の質問に答える必要がある:例えば「安全性、有効性、実現の可能性、有益性、信頼性、価格、修理の可能性、便利さ、消費者の満足感、特許保護、負担額、近づき易さ等」である。

 消費者訓練および製品へのサービス

 大量に市場取引される製品用として普通に存在する科学技術的装置には、在る多くの援助サービスが、障害を持つ人々用に開発された装置については全く皆無である。Sherrickは、「装置使用のための、性能検査のための、あるいは修理のための」読み易く完全に順序だてられた説明を作成するために少しの注意も払われていないと述べている。購入した装置へのサービスやそれを修理する事も大きな問題である。BoweとLittleは修理が必要になった時にその装置を製造した工場がまだ存在していたらその消費者は運が良いと言えると言ったが、なるほどその通りである。多くの会社は、たとえ依然として商売をしていたとしても、修理サービスには少ししか、あるいは全く備えがない。顧客へのサービスで欠けているもう1点は装置を使用するための消費者訓練で、これはさらに複雑な情報処理用の装置やシステムのいくつかにとっては特別に重要なサービスである。

 マイクロコンピューターの使用

 マイクロコンピューターについて特別にふれる事がなければ、科学技術についてのどのような議論も完全なものではないであろう。Frank Boweを引用すると、障害を持つ人々のマイクロコンピューター使用に関する最近の問題の重大さを以下のように指摘している「コンピューターは最初にそう思われがちなほどよりは、ずっと利用しにくいが現実である。しかも努力の方向が利用しやすいのではなく利用しにくい方向に向いている。」

 VanderheidenやBoweは、障害を持つ人々がマイクロコンピューターを使用する上で妨げになる事について述べている。最も重要な問題のうちの3つは、ソフトウェアとハードウェアが入手しがたい事、コンピューターの携帯性の欠除、それにコンピューターの旧式化である。Vanderheidenによれば、各種障害を持つ人々は、複製に対する保護や記憶用空間が必要になるといったようなプログラムの特質のためにごくわずかのパーセントのソフトウェアだけしか利用できない。

 コンピューターの携帯性については、それが大量売買に訴えることから、問題としては減少しつつある。このことから、障害を持つ人々が会話の補助具や教室内での補助具として使用できるような携帯用のコンピューターが出回るであろう。

 コンピューター技術の急速な進歩のために、ある種の製品は非常に短期間で旧式化してしまう。その結果、障害を持つ人々はマイクロコンピューターへの投資に躊躇する。Vanderheidenはこの問題に対応して、コンピューターの1機種から別の機種へと移し変えのできるものと「モジュール互換性のある装置」が開発されるよう勧告した。彼のあげている例は、新しいコンピューターシステムに容易に取り付けられる標準点字表示装置、プリンタ「会話するビデオスクリーン」である。

 Boweもコンピューターテクノロジーをより広く利用するための解決法を概説している。近づき易さに対する設計原則を論じた中で、代理機能性と即応性の重要性を強調している。代理機能性の意味は、開発されたコンピューターはすべて入力、出力機能に多重方式のコミュニケーションを備えているという事である─つまり、音声認識、音声合成、けん盤、プリント、点字、液晶表示等。コンピューターは、別のデータ入力システムに対する即応性も必要である。つまりコンピューターは、データが標準けん盤から入ろうと、あるいは口頭、タッチスクリーン、多種のはい・いいえ、モールス符号スイッチといった他の種類のユーザ・インターフェースから入ろうと関係なくそれを処理すべきである。」

 コンピューターはいっそう携帯性を高めるべきではあるが、一方さらに強力なものにもなるべきである。障害を持つ人々用に作られたソフトウェアを収容するためには、コンピューターの記憶容量の1部を別のデータ入力装置からの指令を解説するのに必要なプログラミングに当てる必要がある。さらに、使用者が順書式にワードプロセミングとテキスト編集の両方をできるようにするため、いくつかのプログラムを一度に装[填]できるよう、十分な記憶装置が必要である。Boweはコンピューターが多重タスクを行なうための付加的記憶装置の重要性も強調した-つまりコンピューターが1つのプログラムを実行させている間に入ってくる電話の呼び出しにも電話線が使えるということ。音声認識や音声合成の装置といった他のコンピューター設備を内包するためにも記憶空間が必要とされる。

 コンピューターの近づき易さが現実のものとなる場合には、製造者側は障害を持つ人々の要望に応える必要がある。この分野における問題の一例は、Dvorakけん盤に対立するQWERTYけん盤の使用である。Dvorakオプションではホーム列キー位に最も普通に打たれる文字を配置し、使用者が多くの語を最少の手の動きで打つ事を可能にしている。この種のけん盤がより広い範囲で利用可能になれば、関節炎のような障害を持つ人々のコンピューター利用を促進する事であろう。

 ソフトウェアの製造者達は、ある種の保護上の特質を変えて欲しいという要望に対しても反応が遅い。各々のソフトウェアプログラムでは、許可なしにプログラムの複製を作る事が出来ないようにするために指令が内包されている。不幸にも、これらの保護上の特質は視力障害を持つ人々の音声シンセサイザー使用の妨げにもなる。今日までこれらの制限を取り除く必要性に関する製造者側からの見通しの明るい回答は少しもない。

 最後の一警告

 同じ問題に関したものであっても、科学技術的解決と感覚を備えた人間らしい解決法は異なるであろう。すでに述べたように、人による付添いをロボットや動物で代行することは、深刻な援助サービス不足への1つの答えではあるが、望み通りの効果はあげられないかもしれない。人間的な交わりや自らの個人としての存在感覚を欠く事は、機械やその他の手段を用いる事から生ずる個人の便利さに対する支払いとしてはあまりに高価すぎるものである。

 Boston Self Help Centerの常務取締役Kenneth Zolaも科学技術のもう1つの危険性を指摘している。障害を持つ人々を人間生活の社会的、職業的領域に統合してゆくために社会が果たすべき義務を、技術的進歩によって減少させるような事があってはならない。縁石や階段を登る事ができる多目的車椅子が環境上の不備という、より大きな問題への解決には全くならない。在宅勤務を可能にするコンピューターシステムは、障害を持つ人々が事業所で働けるようにしたり、近づき易い公的輸送手段を提供するというニーズに対する解決には全くならない。

 最後にAmerican Coalition of Citizens with Disabilities(アメリカ合衆国障害者市民連合)会長のPhyllis Rubenfeldは、科学技術は障害を持つ人々のオプションを制御するのではなく増大すべきであると主張した。「コンピューター制御に眼や口棒を用いる四肢麻痺のコンピュータープログラマー」といった広く行きわたっている定型概念は、障害を持つすべての人々の職業計画上のニーズに対する答えではない。Rubenfeldも疑問を投げかけているように、「もしその人がコンピュータープログラマーになることを望まない場合にはどうするのか?」

 結び

 障害を持つ人々のライフスタイルを向上させるという科学技術の将来の見込みがそれと気がつかないうちにだめになったわけではない。実際、障害を持つ人々にとって科学技術はさらにいっそう個人として独立し、自らを社会に統合させるための鍵の1つである。が、しかし、リハビリテーションに対して科学技術が抱く将来の見込みを実現するためには、多くの障害を乗り越えねばならない。ひとつの重要なステップは、政府機関や私的企業が行なう研究や開発に対してもっと多くの連邦政府のドルをつぎ込むことに関したものである。消費者達に対しても、医療保険給付金や低利保証貸付によって科学技術的補助具や装置を購入するために補足的財源が必要である。装置の開発者や投資家に対しては、改訂特許法で保護の保証をする必要がある。最後に雇用主側に対しては、業務改造に「ハイ・テク」を使用した場合の減税のような奨励や、Rehabilitation Act(リハビリテーション法)の第503項にある規定のような現存する規則の政府による強制が必要である。非差別雇用の強制は、企業側の科学技術を職業上適用する事に対する関心を高めるであろう。

 消費者関与局や議会により設立される私的な科学技術機関のような国のリソースも必要である。消費者関与局は、障害を持つ人々による装置開発への参加を調整する。議会が設立を認可する私的組織体の役割にはいくつかのものがあるであろう。例えば、市場取引きや生産への援助提供、消費者の入力を装置製造者に流すこと、新製品の品質や信頼性を検討すること。

 各地域レベルでのリソースに関する勧告も可能である。例えば、リハビリテーション・カウンセラーは科学技術的補助具や装置の種類や利用の可能性についてより良く通じているようになる必要がある。科学技術的な製品やそれらの改造についての多くの国のデータ集積所をいかにして利用するか知っている必要がある。公立図書館における科学技術援助チームやデータベースのように、科学技術利用に関する地域プログラムを始める事もできる。

 最後に、リハビリテーション専門家は、近づき易さを求めて設計を行なったり、また融通のきく製品を造ったりという原則を促進する必要がある。例えば、もしマイクロコンピューターを障害を持つ人々のニーズを心にとめながら(つまり、身体的な近づき易さ、代理機能性および即応性)設計すれば、すべての人々が情報化時代に平等な足掛りを持つ事になる。消費者やリハビリテーション専門家が近づき易さの擁護を行なわなければ、科学技術の将来の見込みは現実ではなく、まさにそれ─見込み、にとどまるであろう。障害を持つ人々は情報化時代を現実の好機としてよりもむしろそうであったかもしれない好機として考えることであろう。

参考文献 略

(Rehabilitation Literature,July-Aug., 1986,vol.47,No.7-8)

*Professor of rehabilitation education and research at the Arkansas Research and Training Center in Vocational Rehabilitation.
**翻訳家


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1987年3月(第54号)19頁~24頁

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