世界のリハビリテーション 韓国の障害者リハビリテーション

世界のリハビリテーション

韓国の障害者リハビリテーション

高橋五江 *
李昌喜 **

 はじめに

 日本と韓国は、隣国同士として、古来よりの深い文化的、社会的交流にもかかわらず、近年の不幸な歴史的経緯は互いを「近くて遠い国」としてきた。日本人にとって韓国は意識の上では欧米よりも遠い国であった。しかし、同じアジアの一員として、今まさに、近代化、工業化に向けて急展開を遂げようとしているこの国の素顔を知り、国民レベルでの相互理解を深めることによって、真に「近しき隣人」としての友好関係を樹立してゆくことが急務ではないだろうか。

 韓国は正式国名は大韓民国であり、南北に分断された朝鮮半島の南に位置する資本主義国家である。国土面積98,484km2、人口3,933万1000人であり、主要産業は繊維、衣服、電気機器、自動車等製造業である。また、1人当り国民所得は1,528ドル('82)である。1988年にはソウルでオリンピック開催の予定である。

 1.障害の概念と障害者の現状

 1)定義

 1981年に制定された心身障害者福祉法第2条は、心身障害者を次のように定義している。「この法で障害者というのは、肢体不自由(四肢および体幹)、視覚障害、音声・言語障害、精神発達遅滞および他の精神障害を有する者であって、その心身の障害のために、日常生活上や社会生活上で相当の制約を受けている者をいう。」

 2)障害者の現状

 心身障害者の数および出現率と構成比は表1のとおりである。5年毎に障害者の実態調査が行なわれており、最近では1985年に行なわれた。

表1 心身障害者推定人口
   区分
障害種別
障害者数
 (千名)
出現率
(人口千人当)
構成比
(%)

978.3 23.74 100 
精神薄弱 47.0 1.15 4.8
肢体不自由 646.7 15.70 66.1
視覚障害 45.0 1.09 4.6
聴覚障害 115.4 2.80   11.8
言語障害 44.0 1.06 4.5
その他 80.2 1.96 8.2

注)80年度標本調査における出現率を1985年推計人口に比例して推定
出典)略

 障害の5つの種類(肢体、視覚、聴覚、言語、精薄)はその程度により、最重度の1級から6級までに区分されている。身体障害者手帳制度に類する障害者の登録制度はない。

 2.障害者福祉の歴史

 韓国の障害者に対する施策の歴史をみると、古くはSilla朝期(A.D.500~700年)に寡婦や孤児や重度障害者達に食料の供給や保護が行なわれ、また1783年Yi朝のChung Cho王が盲人の施設を作り、そこで職業訓練として易術を教えた等、仏教や儒教に基く慈善事業が行なわれてきた。

 1910年から日本統治下に入ったが、1932年施行された日本の救護法は、1944年に朝鮮救護令として発動されるまで韓国には施行されなかった。

 1948年に共和国が建設されて以来、韓国は経済的発展に力を入れてきたが、1950年から3年にわたる大動乱は、貧困者や障害者等社会的扶助を要する人々を大量に発生させた。1962年以降の経済発展5ヶ年計画によって、めざましい経済発展を遂げる一方で、都市化、公害、所得較差、伝統的家族形態の変化、非行問題等新たな社会問題を発生させた。

 急速な経済成長に比べ、社会福祉分野の発展は大きく遅れていた。それは政府の経済優先政策とともに、南北国境問題をかかえる韓国の、GNPの6パーセントにも達する防衛費支出の重圧が存在するためである。近代的障害者リハビリテーション対策は1945年に始められたが、その歩みは遅々としていた。1955年には、国連とアメリカの援助によって初めての国立リハビリテーション・センターが設置され、障害者の医療や職業療法や職業訓練等が紹介された。

 社会問題の深化とともに、国民の社会福祉に対する要求は高まり、1970年代後期からは、社会福祉関連予算の拡大が行なわれるようになった。

 1981年の国際障害者年は、韓国の障害者福祉施策を大きく前進させる契機となった。1981年に心身障害者福祉法が制定され、翌年施行されたが、これにより、従来分散されていた障害者福祉施策体系の一本化が行なわれた。また、これと相前後して、障害者関係法の改正、全改正が行なわれた。同年、障害者福祉施策を統括する部局として、保健社会部(厚生省に相当する)、社会局にリハビリテーション課が新設された。

 現在、すべての障害者の社会への完全参加と十全な可能性の追求を施策の目標原理として、障害者施設の増設、改善施策を中心に、雇用促進事業、特殊教育、在宅障害者の相談事業、物理的環境の整備等が徐々にはかられてきているが、法的基盤の整備の下で、実質的な発展は今後に期待がかけられているといえよう。1988年には、障害者オリンピックが開催される予定である。

 3.法・行財政

 1)法体系

 大韓民国憲法策32条は、政府はすべての国民に対して、社会保障を提供する責任があることを明記している8)。この下に障害者福祉の基本法として、心身障害者福祉法があるが、他にも障害者関連法は数多くあり、これらは特に1981年以降、改正、全改正による整備がすすめられてきているが、その主要なものの概要は表2に示した通りである。

表2 障害者関係立法

名     称
(制定・施行・改正年)

所 管 庁 概     要
心身障害者福祉法
(1981.6制定 1982.2施行)
保健社会部 心身障害者の定義、理念、心身障害者福祉指導員、指導啓発、相談及び入所措置、補装具の交付、雇用の促進心身障害者福祉施設、補装具製造修理など
生活保護法
(1982.12全改正 1983.12施行)
保護の種類(生計・医療・自活・教育・出産・葬祭)、生活保護委員会、保護施設など
医療保護法
(1977.12制定 1982.6施行令改正)
対象 1.生保、生計扶助対象者 2.社会福祉施設収容者 3.罹災者 4.国家有功者と家族 5.重要無形文化財と家族 6.その他 指定医療保護施設、医療保護基金など
社会福祉事業法
(1970制定 1983.5改正)
社会福祉事業とその定義、社会福祉委員会、福祉委員、社会福祉士、社会福祉法人、社会福祉協議会など
児童福祉法
(1981.4全改正 1982.2施行)
児童―18歳未満 児童福祉委員会、児童福祉指導員、児童委員、児童相談所、児童福祉施設13種類
国民福祉年金法
(1973制定 1975改正 施行はまだ)
年金の種類(老齢、障害、遺族、返還一時金)対象 公務員、軍人、その他年金加入者を除く18歳~60歳までの国民
特殊教育振興法
(1977制定 1981施行)
文教部 特殊教育機関、無償制度、私立学校への補助、職業補導、特殊教育要員、点字図書館、判定委員会など
産業災害補償保険法
(1983.12制定)
労働部 医療リハビリテーション・職業リハビリテーション施設など
職業安定法
(1982.4改正)
身障者雇用促進について 優先採用勧告条項 優先就業職種52種の明示
傷痍軍人関係立法
(1962.63制定)
保勲庁 退役軍人管理事務所、医療保護、職業訓練、職業の優遇施策など

出典)『社会福祉法令集』(韓国語)韓国社会福祉協議会編、1984

 2)行政

 障害者福祉施策の国の所管庁は保健社会部、担当部局は社会部リハビリテーション課である。同課は、課長1人、係長2人、担当官6人から構成されている。地方自治体には、障害者施策の単一の行政単位はなく、福祉事務所的な社会福祉の公的機関もない。なお、特殊教育については文教部(文部省に相当する)が所管しており、雇用対策については、労働部(労働省に相当する)と保健社会部が競合しているが、労働部は主として、産業災害補償保険法および職業安定法に関する施策を扱っている。また、傷痍軍人関係は保勲庁が行なっている。これらを横断的に統括する単一の行政単位はない。

 民間の障害者福祉事業は、韓国リハビリテーション協会等9つの社団法人と、79の社会福祉法人、計88の公益法人によって経営されている。

 3)財政

 1982年度国家予算総額の32.8パーセントにものぼる防衛費を筆頭に、70パーセント以上が規模の加減が制約的経費で占められ、財政支出規模の調整の伸縮が少ない特徴をもつ韓国国家予算は、必然的に、住宅、上下水道、社会保障、社会福祉等を合む社会開発費の比重が低水準にならざるを得ず、教育部門を除いた社会開発費は総予算の6.3パーセントにすぎない。

 国の障害者福祉予算は、国庫および内外からの寄付金等より成る社会福祉基金より構成されている。1985年度の障害者福祉予算は、137億7295万9000ウオンであり、このうち国庫は、134億4746万1000ウオン、社会福祉基金は、3億2549万8000ウオンである。予算の内訳は表3の通りである。

表3 1985年度障害者福祉予算
内    訳 予 算 額
(千ウオン)
構成比
(%)
前年比
(%)
国庫

1.リハビリテーション課

11,190,036

81.2

143

 ①施設

10,924,573

79.3 148
 ②その他事業

240,498

   1.7 34
補装具交付事業 106,582 0.8 34
リハ協会(就労事業その他) 72,806 0.5

0

実態調査 61,110 0.4
 ③行政支援 24,965 0.2 2
2.国立覚心学院(精薄施設) 2,257,425 16.4 58

13,447,461

97.6 122
基金 3.民間委託事業(リハ協会) 325,498

2.4

104

  在宅障害者支援事業
325,498 2.4 △31
総    計

13,772,959

100.0 112

出典)略

 障害者福祉施設の財政は、国庫、社会福祉基金、地方費、その他から成る公的補助金が全収入の3分の2余りを占め、他は、法人負担または収益事業収入、民間支援、入所収託金等より成っている。

 4.保健・医療

 国民皆保険の体制がまだ成立していないため、医療保険の受給率は32.7パーセント(1982年)にとどまっている。1988年国民医療保険の実現を目標としており、1986年には、保険証を発行する予定である。しかしながら、都市貧困層と農漁村地域住民の莫大な保険費用の調達が政策課題となっている。

 こうした現状からまだ体系的な障害発生予防施策は講じられていない。医療リハビリテーション相談は保健所で行なわれている。障害者の医療リハビリテーションに対する欲求は非常に高く、早期リハビリ実施体制の整備が課題となっている。

 医療リハビリテーション施設の数は表4の通りである。

表4 医療リハビリテーション施設の数
種   類
国公立病院 51
私立病院 44
私立診療所 14
保健所及び支所 1,538
補装具製作所 62
1,709

出典)略

 現在、国立リハビリテーションセンターが建設中であり、1986年開設の予定である。

 5.特殊教育

 障害児教育は、1977年に制定され、1981年に施行された特殊教育振興法に基づき、特殊学校(幼稚園、小・中・高校)と高校以下の一般の学校に併設された特殊学級において、国公立の場合は高校まで、また、私立の場合は小学校のみが無償で行なわれている。その概要は表5、6に示した通りである。

表5 特殊教育の概況 (84.4 現在)
特殊学校 特殊学級
学校数 78
学級数 927 946 1,873
生徒数 12,518 14,027 26,545
教員数 1,365 1,670 3,035

出典)略

 

表6 障害別特殊学校の現況 (84.4 現在)
  国立 公立 私立
学校 生徒 学校 生徒 学校 生徒 学校 生徒
78 12,518 2 854 19 3,517 57 8,147
視覚 13 1.317 1 283 3 271 9 763
聴覚 19 3,977 1 571 803 15 2,603
肢体 10 1,615 1 516 9 1,099
精薄 36 5,609 12 1,927 24 3,682

出典)略

 韓国の義務教育は小学校課程の6年間であるが、障害児に対しては、特殊教育振興法第10条、不利益処分禁止規定中の例外規定によって、入学拒否が行なわれている現状があるが、障害児の就学を促進するために、現在この法改正に向けての努力が推進されている。全障害者のうち、高等学校以上の高等教育を受けている者は8.87パーセントである。

 特殊教育の教員養成後(特殊教育学部をもつ大学)は現在6校あり、年間の卒業定員は410名である。

 教育施設の新設にあたっては、障害者用エレベーター、スロープ、洗面所等の設備を備えるよう指導が行なわれている。普通学校において、特殊学級は優先的に1階に設置される。障害学生の入学試験に際しては、特別時間が設けられる。

6.職業

 韓国の全障害者のうち、経済活動人口76万1000人のうち、就業可能人口は68.4パーセントの52万718人であり、就学中、あるいは障害が重度である等の理由により、就業不可能人口は31.6パーセント、24万282人である。就業可能人口52万718人のうち、実際に就業しているのは54.9パーセント、28万6136人であり、残り45.1パーセント、23万4582人は何らの就業もしていない。就業人口28万6136人の内訳は、俸給・賃金生活者が38.3パーセント、10万9584人で、自営業が19.9パーセント、5万7057人であり、農林・水産業が39.1パーセントの11万1867人、その他が2.7パーセント、7,628人となっている。全障害者の83.9パーセントは職業訓練を全く受けていない。授産設備をもつ障害者施設では、1984年度に3,407人の障害者の職業訓練を行なった。平均訓練期間は18ヶ月、対象者の平均年齢は17歳であった。そこで作られた手工芸品は、ソウルの専門の市場で販売されている。

 障害者就業斡旋事業は、1982年度より韓国障害者リハビリテーション協会への委託事業として行なわれており、1984年度は500人の就業が完了した。85年度は目標が1,000人に拡大された。

 職業安定法が1982年に改正され、身体障害者優先採用勧告条項が新設され、身体障害者優先就業職種52種が明示された。現在は障害者雇用促進法の制定が政策課題となっている。

 また、障害者の社会参加を制限する各種法令の改善が進められており、既に自動車運転資格や、理・美容師の資格改善が行なわれた。

 労働部では、障害種別の福祉工場を現在建設中である。

 7.所得保障

 1973年国民福祉年金法の成立により、国民皆年金の法的基盤が整備されたが、財政的理由により施行が遅れているため、現在、公務員や軍人等、特定の年金加入者以外は無年金の状態である。重度障害者特別扶養手当制度も心身障害者福祉法にもりこまれたが、まだ実施に至っていない。そのため、障害者にとって最終的なよりどころは、1982年に全改正された生活保護法である。扶助の種類は、生計、医療、自活、教育、出産、葬祭の6種類である。1983年度の生保受給者総数は342万人であり、これは総人口の8.7パーセントにあたる。施設の障害者8,021人、在宅障害者4万3647人計5万1668人の障害者および、その家族を含めると約18万人の障害者世帯が生活保護を受けている。しかしながら、保護の水準については、必ずしも十分とはいえない状況である。

 その他、所得税および相続税の控除制度がある。

 8.福祉サービス

 1)施設サービス

 1985年度の障害者福祉予算の95.7パーセントは施設関連予算であり、前年度より148パーセント増の大幅な伸びをみせている。このことからも、現在韓国が施設の整備拡充を重点施策としていることがわかる。

 心身障害者福祉法第15条に規定された心身障害者施設とは、肢体不自由者更生施設、視覚障害者更生施設、聴覚・言語機能障害者更生施設、精神薄弱者更生施設、心身障害者療養施設、心身障害者勤労施設、点字図書館、点字出版施設の8種類である。本法の成立にともない、従来児童福祉法の施設であった精神簿弱児施設、肢体不自由児施設および盲ろうあ児施設は、法改正により心身障害者福祉法の施設に統合された。施設の概況は表7の通りである。85施設のうち、特殊教育を行っているもの38、医療リハビリテーションを行っているもの75、職業訓練を行なっているもの67である23)

表7 心身障害者福祉施設現況 (1984 現在)
種別 施設数
()内は成人施設
入所人員
()内は18歳以上
肢体不自由 26(8) 2,408(1,001)
視覚障害 9(1) 714(310)
聴覚障害 13(2) 1,211(313)
精神薄弱 30(5) 3,590(932)
療   養 4(1) 277(51)
利用その他 214(22)
85(17) 8,414(2,629)

出典)略

 2)在宅福祉サービス

 在宅障害者対策は、その必要性が認識されてはいるが、実際にはまだ緒についたばかりといえよう。内容的には、障害者相談指導事業、就業斡旋事業と補装具の交付事業が主たるもので、予算的にも1985年度障害者関係予算の3パーセント強にすぎない。相談指導事業は韓国リハビリテーション協会への委託事業として、障害者の社会心理的問題や教育・医療、就労の問題や家族問題、施設の利用等に関する相談を行っている。就業旋斡事業は前述の通りである。補装具の交付事業は、貧困な障害者に義肢、車椅子、補聴器、補助器を無料で交付する制度であり、1984年度は1,500人に交付された。

9.生活環境

 国際障害者年を契機に、障害者の社会生活上の便宜を促進するための施策が進められてきている。1984年5月には建築法が改正され、公共施設、建物、学校にエレベーターおよびスロープを設置することが義務づけられた。地下鉄建設に際しては、それが設計上に反映された。'86ソウル・アジア競技大会、'88ソウル・オリンピックを控え、競技場についても同様な整備が進められている。1985年には、改善を一層推進するため、障害者用各種施設模型の写真展が開催された。

 現在の障害者用施設の整備状況は表8の通りである。

表8 障害者用施設整備状況  (84.12)
盲人用信号機 横断歩道点字ブロック 横断歩道段差の解消 障害者用公衆電話 公共施設スロープ 地下鉄点字ブロック 地下鉄エスカレーター

120ヶ所

584ヶ所

3,223ヶ所 559ヶ所 103ヶ所 53ヶ所 9ヶ駅

出典)略

 10.職 員

 1)医療リハビリテーション

 医療リハビリテーションの専門職の数は表9の通りである。

表9 医療リハビリテーション専門職の数
種     類
リハビリテーション専門医 28
理学療法士 1,948
作業療法士 26
看護婦 88
リハビリテーション相談員 20
言語教師 100
補装具技師 150
2,360

出典)略

 2)施設職員

 障害者施設の職員は1984年度で、総計1,957人である。その内訳は、施設長85、総務85、医師74、看護婦125、ソーシャルワーカー20、栄養士70、保母856、PT67、ST7、OT14、聴能訓練士7、補装具製作技師9、職業訓練士130、特殊教師52、心理判定員11、調理士91、運転士46、ボイラー技師15、その他となっている。そのうち、社会福祉士の資格を有するもの258人、その他の専門資格者520人となっている。保母、聴能訓練士、補装具製作技師等の資格制度は未確立である。労働条件や賃金等、施設職員の待遇は十分とはいえない状況であり、そのため離職率が高く、'84年度は全職員の約3分の1、664人が離職をした。

 3)福祉専門職

 ソーシャル・ワーカーは、社会福祉士として教育法の規定により1級から3級までに分れている。その資格基準は社会福祉事業法施行令の別表に定められており、障害者分野では、約1,200人の社会福祉士がおり、そのうち1級社会福祉士は約80人である。韓国ソーシャルワーカー協会(KASW)は1967年に結成され、1977年に保健社会部に登録され、各市、各道に支部がある。しかしながら、ソーシャル・ワーカーは韓国ではまだ十分には社会的認知を受けていない。

 社会福祉士の養成については、社会福祉学部をもつ大学が5校、短大が18校あり、毎年約800人の卒業生を送り出している。

 心身障害者福祉法による公的な専門職として、心身障害者福祉指導員が定められているが、まだ実際には発足していない。また、地域には、民間の篤志家である福祉委員がおかれ、担当地区内の障害者やその他の要援護者の援助と指導を行い行政に協力をしている。

 11.その他

 政府は、障害者の社会参加を促進するため、障害者の各種の競技大会や、国民の啓発活動に力を入れている。全国障害者技能大会、全国障害者スポーツ大会は毎年開催される。1981年からはテレビやラジオで障害者のための番組が組まれるようになった。また、毎年4月20日は「リハビリテーション・デイ」と定められている。

12.今後の課題

 1981年国際障害者年を契機に、韓国の障害者福祉は急展開を遂げつつあり、他の諸政策とともに、その至近目標は'88ソウル・オリンピックにおかれている。福祉施策では、前近代的、慈善事業的性格を払拭し、近代的社会福祉政策へと発展を遂げるために邁進している最中にある。障害者施策は、法的基盤の整備と中央行政主体の確立がなされたが、実質的には、今後の施策の拡充・強化が待たれている状況にあるといえよう。

 今後の課題については次の通りである。

(1)財政的課題 障害者施策の発展のためには、まず予算の大幅な拡大が不可欠であるが、前述のように、非常に制約的な国家予算が最大の障壁となっている。国家予算枠の大幅な拡充の方向を探ると共に、補完的に民間財源、民間資源の積極的な動員、また、マンパワーとして、ボランティアの育成、活用をはかっていくことが必要であろう。

(2)保健医療 国民健康保険制度の早期実現と共に、一連の母子保健施策、国民保健教育を通して、障害の発生予防、早期発見の社会的体制を確立することが必要であり、また、早期治療、早期リハビリテーションの開始へと続く包括医療の体制が必要とされている。そのためには、専門医療施設、設備の拡充と共に、専門職体系の養成制度、資格制度の確立および待遇改善が必要であろう。

(3)施設サービス 施設の量的拡大は進んできているが、今後は併行して質的課題に取り組むことが必要であろう。すなわち、施設の専門分化、機能の拡大、経営と処遇内容の近代化、職員の資質の向上および待遇改善等である。従来の収容中心型の施設から、今後ニーズの高まるであろうコミュニティ・サービスにも対応してゆけるような、地域に密着した新しいタイプの施設へと変化が求められている。

(4)自立生活の促進 障害者のノーマリゼーションの具体化という視点からも、障害者の自立生活の促進は、現代の障害者施策の必然的趨勢であり、今後の重要な政策課題であろう。そのためには、所得保障、住宅施策、教育、就労の促進、保健医療施策、利用施設やホームヘルパー制度等の在宅福祉サービスの充実、物理的生活環境の整備、障害者用生活諸用品の開発等々、障害者が市民生活をおくる上で必要となってくる広範な分野にわたっての体系的な施策が講じられることが必要であり、それらを統括する行政主体および諮問機関の設置等も必要となってこよう。

(5)行政参加 障害者施策を推進し、実効を高めていく上では、その政策の立案段階に、行政担当者や、学識経験者だけでなく、権利主体者としての障害者自身、あるいは、障害者の権利代弁者としての家族や、専門職集団の考えが反映されるようなシステムを作ることが重要である。そのためには、障害児・者教育の推進、障害者自立活動の促進、そして障害者団体の育成等障害者の意識を高めていくための努力が必要であり、また、家族への教育、専門家集団の育成、ひいては、国民意識の変容を求める啓発活動を促進することを通して周辺から障害者を支えてゆくための施策も重要課題であろう。

おわりに

 本稿は、現地での資料収集、韓国語資料の翻訳を李が行ない、数回の共同討議を経て、高橋が文章化したものである。資料収集に際しては、韓国保健社会部リハビリテーション課と文教部義務教育課および、三育リハビリテーションセンター研究課、尹光碩氏より貴重な資料の提供を受けた。また、ソウル大学社会福祉学科教授、張仁協氏に梨花女子大学社会事業学科教授、李恵[ひ]女史に助言指導をお願いした。記して感謝の意を表したい。

注) 1)~7)、9)~16)略
8)第32条「①すべての国民は人間にふさわしい生活を営む権利を有する、②国家は社会保障、社会福祉の増進に努力する義務を負う、③生活能力のない国民は、法律の定めるところにより、国家の保護を受ける。」

*東洋女子短大非常勤講師
**日本女子大大学院留学生


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1987年3月(第54号)31頁~38頁

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