特集/総合リハビリテーション研究大会'87 卒業後の進路と福祉的就労

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特集/総合リハビリテーション研究大会'87

《分科会Ⅰ》

卒業後の進路と福祉的就労

司会 加藤寛二*
手塚直樹**

 「卒業後の進路と福祉的就労」というテーマのもとに、約250人の参加者を得て行われた分科会Ⅰは、先ず司会者からその主旨等の説明があり、つづいて2人の提言者(東京都立中野養護学校進路担当関口トシ子氏、社会福祉法人ときわ会あさやけ作業所所長中川幸夫氏)による提言が行われた。

 提言に引きつづき、参加者による討論が活発に行われた。

 そうした主旨、提言、討論の概要は、次のとおりである。

 Ⅰ.主旨(司会者)

 養護学校教育の義務制施行以後、その障害は急速に重度化し多様化してきた。10年を経た今日、学校における量的拡充はほぼ充足に達したと思われるが、教育内容の質的充実が強く求められるようになってきている。

 養護学校卒業後の進路をみると、昭和56年をピークに就業者数は減少してきている。また問題点として「障害の重度化に伴う就業の困難なこと」「入所施設等の受け入れ場所が少ないこと」等が指摘されている。

 近年、児童数の減少化傾向の中で、養護学校高等部の生徒数は年々増加している。それは主に、後期中等教育の重要性、高等部の増設、高校の進学率の増加、障害の重度化等によるものと思われる。

 こうした背景の中で、本分科会においては、障害児が卒業後、地域生活を進めていくもっとも重要な側面である就労についての基本的な考え方を確認しながら、第1に「養護学校等における教育のあり方、特に卒業後の進路と進路選定にあたっての諸活動」、第2に「一般雇用等の関連を認識しながら、福祉的就労のあり方や、それをめぐる諸問題」に焦点をあてて、討議をすすめていきたい。

 Ⅱ.提言

精神薄弱養護学校高等部の卒業後の進路

関口トシ子

 1.企業就職について

 東京都の場合、企業就職率は56年では30%を少し切っているがその後5年間では25%を前後している。就職率は高等部への入学者が増加するにつれて低下しているが、高等部の卒業生は、10年前は167名、60年度で786名、61年度では650名となっており、就職対象者の絶対数は減るどころか増えている。5年前142名が就職しているのに対し、最近3年間では170人台となっている。本校でも数年来前年を10名くらいずつ上まわる入学者がある。

 これまでもちえおくれの就職に対する困難さは言われて来たが、福祉社会を目指す時代になってきたとは言え、年々一層困難になってきている。その背景には、社会情勢の変化として、機械化、合理化が進み、更に産業構造の変化、雇用形態の変化でパート、アルバイト、高齢者労働力の拡大などが進み、ちえおくれの就労の場がますます狭められてきている。また福祉制度の充実に伴い、親の企業就職に対する意識が薄れていく傾向にあり、情勢と意識の両面から、就職に対する今日的課題は非常に大きなものがある。しかし、できる限りは、一般企業に就職させることにより、生活の基盤を作り、地域に生きるという方向で進路指導を進めていかなくてはならない。本校では、現場実習は、ちえおくれの子を就労に結びつけるために不可欠な、具体的体験の場として重要視し、1年生は校内作業週間を設けて現場実習に備え、2、3年がそれぞれ現場実習を行っている。しかし、実習先は極端に少ない。本校の場合は地域性もあり製造業関係の職場は特に少なく、どちらかというとサービス業、外食産業等が多く、子どもの実態に合う所がなかなか無いのが実情である。実際に、ちえおくれを雇用してもらえる企業は、小、零細企業が殆どであるが、ちえおくれに対する積極的な求人は一件もない。

 本校では58年度から、夏休みに集中職場開拓を行っている。昨年度までの4年間で約800か所開拓、夏休み以外と合わせると約1,000か所開拓している。そのうち、実習可能といわれた企業は約100か所で、条件をつめたりしていくと更に減り、実習を実施した所は約50か所、実際に雇用に結びついたのは以上の新規開拓か所のうち約20か所である。

 開拓の方法としては、アルバイトニュース、折り込み、ちらし、父母からの情報など何にでもとびつき、情報をカードに記入しておき集中開拓時に、それをもとに地域割をしてまわり、その周辺でとび込みの開拓をするという方法である。本校では、昨年まで高等部の教員だけで集中開拓に当ってきたが、進路は小学部から高等部までの12年間の積み重ねであるということを再確認して、今夏は、小学部、中学部も含め全校の教員約60名で開拓に当ることにし、現在準備中である。

 このように、本校では、学校独自で開拓した所に就職するケースが圧倒的に多いが、その場合も、職安を通して正規の雇用となるようにすすめてきている。しかし、今後は更に厳しい状況になると思われ、最賃除外やパート就労等のケースも出てくることが予想される。

 2.福祉的就労について

 54年の養護学校義務化を境にして、それ以前は企業への就職者の方が多かったのに対して、55年度以降は、逆に福祉作業所入所者が上まわり、以来企業就職者数は横ばいの傾向にあるのに対し、福祉作業所入所者は増え続けている。最近3年間では、福祉作業所入所者は300人をはるかに上まわり、これは卒業生の約60%に当たる。

 福祉作業所は東京都から区に移管になったため、区によって状況に大きな開きがある。最近は公立福祉作業所はどこも満杯で、民営作業所への依存度が非常に高くなっている。福祉作業所の入所者は61年度は約280名で、そのうち公立は約45名、民営へは約230名となっている。

 福祉作業所側の問題としては、どこでも滞留が問題になっている。本人の福祉作業所歴の長さと就労への意欲の低下、それに伴う高齢化への対処にも頭を悩ませている。また、企業からのUターン者も多く、その受け皿としての福祉作業所のあり方も検討されなくてはならない。

 本校地区では、育成会やその他の運動体が精力的に作業所作りやその他の施設の充実に向けて運動や実践をすすめており、それが行政を大きく動かす力となっている。今後の地域の福祉施設は、重度も受入れ、生活実習所と福祉作業所の中間レベルのもの、Uターン者の受入れ、再訓練、また授産の場として、進路選択の場として個性を持ったものになっていってほしいと思う。本校ではPTAの進路対策は、各地区初の対策に重点をおいて、地区の親の会に協力して運動を進めており、これまでは、小規模授産所作りをテーマとしてきた。杉並・中野地区では、第2、第3の民営作業所の外、生活寮も設立されており、さらに今後は、老後の問題を考えた方向で、今年度は「生涯を見通した生活の場はどうあるべきか」をテーマとし、各区で活動を進めることになった。これからは、子ども達が、卒業後も、地域で生活していく場として、生活の場、仕事の場、余暇活動の場も含めて考えていく時ではないかと思う。中野区では、都ではじめて、障害者福祉事業団が設立され、障害者の就労に対する相談や援助、民営福祉作業所への側面からの支えなどをすすめることになり期待するものは大きい。

 3.学校教育の課題

 重度、多様化、多人数化となって精神薄弱養護学校高等部の学校現場として言えることは、「自立」のとらえ方が昔と変わってきていることである。「職業的自立」を目標とする生徒から、その基本となる「身辺自立」そのものを目標とする重度の生徒まであり、「自立」ということを、それぞれの生徒の実態に合わせて何らかの形で社会参加できるようにととらえて実践している。

 そのような中で、職業教育の焦点はなかなか絞りきれないのが実態である。最重度から軽度まで、さまざまな生徒の集団で、育つものも大きいが、概して軽度の生徒が重度化してしまう傾向があるのも事実である。今回の身体障害者雇用促進法改正で、雇用率に精神薄弱をカウントするという進展はあったが、雇用の義務化をはばむものとして、職業教育の徹底と、生活面の指導が指摘されている。職業教育の徹底は、全入の学校現場の現状からは、なかなか難しい。生活指導を含む、職業訓練機関等の専門機関の設置、充実が望まれる。

精神薄弱者通所授産施設の実態

中川幸夫

 私が勤める「あさやけ作業所」は昭和49年に、既存の授産施設や東京都の福祉作業所などに入所できない重度の障害者のために設立された作業所である。設立後、4年間は無認可作業所として運営されたが、昭和53年に法人認可を受け精神薄弱者通所授産施設として再出発した。こうした設立経過をもつ作業所なので、授産施設としては比較的障害の重い人たちの入所割り合いが高いという特徴がある。

 そうした特徴をもつ「あさやけ」の実態を中心にしながら地域の通所施設がかかえている問題について最初に報告したいと思う。

 第1に、通所授産施設や小規模作業所が養護学校卒業生のもっとも重要な受け皿になっていることである。現状では卒業生の進路問題とは言っても、施設数の絶対的な不足から学校・本人・家族は選択する余地はなく「とりあえず卒業後通えるところがあればいい」というのが実情である。「あさやけ」でも入所者の約75パーセントの人たちが養護学校を卒業してすぐに入所してきている。

 第2に、授産施設は本来通過施設として位置づけられ、必要な訓練や作業ののち社会に復帰することを建前としているが、入所者の重度化傾向にともない在所期間が長期になっている。当施設はまだ設立13年であるが約半数の人たちが10年以上の在所になっている。このことは現状では社会に復帰していくことの困難さを示している。就職等で退所していく人はごくわずかで、退所者の大半は同様の他施設・作業所への転移や死亡あるいはさまざまな理由による通所困難による退所である。

 第3は、これも重度化傾向に関連してくるが、養護学校卒業生の入所希望者の多くが重度障害者のため、障害の種別を分けての受け入れがむずかしいことである。特に、東京都では昭和49年の全員就学のときに入学した子供たちが卒業期を迎えてきているため、この傾向はますます強まってきている。この問題は、通所施設というより地域に密接した施設のあり方、現行の福祉の制度の谷間で不利益を受けている障害者の問題としても重要な検討項目であると言える。

 このように養護学校卒業生の進路保障がきびしい状況のなかで、その矛盾がそのまま通所授産施設にもちこまれてきていると言える。そうしたなかで、授産施設は通過施設から長期就労の場へ、障害の種別に分かれた施設から地域の希望する障害者が入所できる施設へなど、授産施設の機能やあり方にかかわる問題がせまられてきていると思われる。

 最後に、通所施設で大きな課題となってきている生活施設問題についてふれたいと思う。親の高齢化や入所者の自立要求との関連で地域で生活できるための施設が切実に求められてきている。現状では、家族が健在であることによって通所施設に通い働くことが保障されていると言える。「あさやけ」入所者の家族状況を見ても、親の平均年齢が60歳という状況のなかで、現在はほとんどの家庭が両親健在であるために入所者の通所が保障されている。核家族化のなかで、家族の誰かが病気で倒れても、次の日から障害者の生活状況をかえざるを得ないギリギリのところで日々の生活が営まれていると言える。こうしたなかで、地域のなかの生活寮や福祉ホーム等の生活施設は、障害者の就労を地域で支えていく重要な役割をはたせるものと思われる。

 Ⅲ.討論

 提言にひきつづいて行われた討論は、いくつかの問題が提起されたが、課題別にみた主要な意見をまとめると、おおよそ次のようになる。

 その第1は、卒業後の進路にかかわる問題である。

 進路のひとつのとらえ方は、提言者の関口氏が述べているように、「できる限り一般企業へ、そして地域の中で生活する方向でとらえたい」ということである。

 しかし実際は、提言者も指摘するように、全教員が4年間開拓した1,000事業所のうち、実習が実際にできたところは5%、就職に結びついたところは2%というきびしさである。

 また、養護学校の在籍者は年々多くなり、卒業生は以前の数倍になっている。全員入学制による歪が今、現場で出ているように思う。進路のむずかしさの基本は、この量の増大に対応しきれない状況にあるように思うという発言があった。

 その第2は、雇用や就労に結びつけていく学校等の教育の中味の問題である。

 現在の教育の内容では、職業人が育っていかないのではないか、生活能力、作業能力、人間づくり等を重視したカリキュラムが必要ではないか、という意見である。

 また、8時間労働のきびしさをどのように体験させていくか、そうした機能を学校はどのようにもつのか、特に校内実習や職場実習を充実していく必要がある。

 しかし反面、次のような意見もあった。

 学校でもう少しきびしく教育・訓練していれば就職は可能になるという声が強いが、求められている“社会生活能力”というものは、実は一番むずかしいものである。

 また、重度化の著しい現状の中で、労働ということを強調しすぎるのではないか、という意見があった。

 特に大切なことは、「各分野の人が、その責任をなすり合うのではなく、その場その場で最大の努力をして、各々の責任を果たしていくことが必要である」という発言であろうと思われる。

 その第3は福祉的就労の場の問題である。

 授産施設は、通過施設というとらえ方がある。しかし重度化の中で、現実としてその性格はかなり違ってきている。

 また、雇用、保護雇用、福祉的就労、作業活動という一連の体系づけの中で、通所授産や小規模作業所はどのように位置づけられ、また成長の過程のどの段階を受けもっていったらよいのか、必ずしも明らかでない。

 特に最近強く感じるのは、重度化の激しい中で、施設のニーズはますます高まってきており、施設数の大幅な不足と在宅者の増加が多くなってきていることである。

 たとえ通所施設に入所している者でも、その生活は年老いた両親によって支えられていることが多く、とても不安定である。という発言があった。

 また、施設に関連して、法内施設と地域の小規模作業所等の法外施設の格差が大きすぎる、小規模作業所の経営基盤の脆弱さや職員不足の問題は大きい、という発言もあった。

 その第4は、地域の生活を支え援助していくネットワークづくりの問題である。

 この地域の支える体系づくりは、提言者の2人からも強く述べられたが、討論の過程でも、生涯の生活を見通したうえでの、働く場、生活の場、余暇活動の場等が、地域の中に体系づけられていくことが必要である、という意見が述べられた。

 その第5は福祉就労や能力開発等に関する法制度の整備の必要である。

 特に、ニーズに応じて急速に増加してきている小規模作業所や、職業訓練や能力開発システムの制度の充実を望む意見があった。

 その他、身体障害者雇用促進法の改正案が5月の国会で成立し、精神薄弱者が雇用率に算入されるようになったことなどを受け、同法の改正に関する意見が出されたほか、問題行動をもつ入所者に対応しきれない小規模作業所の現状等の問題が出された。

 Ⅳ.まとめ

 本分科会は、2時間という時間的制約と、約250人という参加者という状況の中で、その問題を十分深めることができなかったきらいはある。

 しかし、提言者からの的確な発言内容や、参加者からの積極的な発言によって、その目的は達することができたように思う。

 特に印象深かったことは、地方の養護学校の先生から、「小・中・高と一貫した教育を行う必要は十分認識している。そして社会生活能力や生活習慣を十分身につけなければならないこともわかっている。

 しかし、日々教育、訓練し、進路選択をし、実習させ、職場開拓をして就職させる、そのうえアフターケアを行っていく。こうしたことすべてが一教師の私にかかってきている。私も一生懸命に頑張っているが、限界を感じるし、孤立感をもつことがある」という発言があった。

 各々の分野の各々の専門家が、ひとつの目標に向って協力していくことが、今もっとも求められていることであり、それがまた、この分科会のもっとも大きなねらいであったのだと思う。

(まとめ 手塚)

*小平養護学校校長
**身体障害者雇用促進協会


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1987年11月(第55号)91頁~95頁

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