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特集/総合リハビリテーション研究大会’87研究発表論文

<成人>

頸髄損傷(C5B)者のADL自立の可能性

土嶋政宏 *

 

1. はじめに

 これまでに、頸髄損傷者における日常生活動作(以下、ADLと略す。)の自立達成度とその損傷レベル・残存機能レベルの位置づけについては、Longや矢部らの論文などにおいて述べられてきてはいるが、その具体的な訓練内容や方法等についての詳細な記述は少ない。また、長年の医療ケアの進歩とともに高位頸髄損傷者へのALD自立に対するアプローチも積極的に行われるようになり、その自立レベルも向上してきており残存機能を生かしていく上においても、今後のADL自立訓練に対して適切で明確な処方を必要とする段階にきている。

 当センターの頸髄損傷者に対するADL自立訓練の経過は、長年に渡りいろいろな方法・手段の試行をしてきた。特に、昭和57年ころよりベッドや車椅子上での長坐位・端坐位保持から移動を主とした基本動作(APDL:身のまわり動作)の完成、そして応用動作(広義のADL動作)までの一連の訓練過程において、ADLが坐位バランスの良否により決定的な自立達成度における要因となることが解かってきた。また、坐位バランスと脊柱との関係において、長時間の車椅子上坐位姿勢を続けることや体幹筋群の弛緩状態などの要因から、損傷レベルによりやや異なりはするが、受傷後1年程度訓練を続け経過してくると脊柱のアライメントが急激なCカーブを呈し、長坐位における肩の位置が低くなり両手でのプッシュアップ能力も向上してくる。これと同時進行にて坐位での安定性も高くなる。

 今回、受傷より10年を経過した高位頸髄損傷(Zancolli残在機能分類:C5Bレベル)者に対して、機能及びADL訓練を中心にアプローチし、その方法や自助具の開発などによって身のまわり動作を始めとし、コンピュータシステムエンジニアとしての就労、それに自動車の運転免許取得などまで、これまでは、この損傷レベルにては自立が不可能とされていたADL項目において実用化することができた。このケースを通して、アプローチ方法の再検討や自助具の改良、適応レベルの明確化を行ってきた結果において、やはりこれまで困難とされていた多数の頸髄損傷レベル者においてもADL自立が可能となり、訓練方法についても再現性がありシステム化することが出来たので、このケースの受傷からADL各項目動作自立までの経過について、そのポイントなどをくわえ述べる。

2. 症 例

 1) 患者 M.T. 28歳 男性 頸髄完全損傷(C5B)上肢機能左右差なし。

 2) 受傷後の経過

 昭和52年4月:高校3年時(17歳)オートバイ事故にて受傷。当リハ・センターへ1年6ヶ月の期間入院し、リハ訓練を受け家屋改造も行い退院となる。しかし、家庭内でのADLはほぼ全介助の状態であった。

 昭和53年2月:度重なる褥創発生のために再入院し両坐骨先端部を切除。約4ヶ月の入院期間を経て家庭へ帰った。

 昭和54年12月:家庭生活で、褥創頻発と筋力低下が著明にみられたために当リハ・センター更生援護施設へ入所し再訓練を行う。体力面も向上し、細かなチェックにより褥創の発生もなくなり入浴と排便以外は自立することができ家庭復帰した。そして、県下に設置された障害者のためのコンピュータ・ソフトウェア養成コースへ通うまでになった。2年の養成課程を終了し中小企業ではあるが自宅近くの一般コンピュータ企業に就職して毎日電動車椅子にて通勤した。

 昭和61年4月:就労していた企業が遠地へ移転してしまったために退職せざる得なくなった。そこで、再就職を目的として、電動車椅子で行けるような場所にコンピュータ関係の企業が無く、遠くまでの移動を可能とするためにどうしても自動車運転免許の取得が必要となり、当リハ・センター更生援護施設へ入所した。これまで、この高位損傷レベルにての免許取得者がいないために可能性への追求と言う目的で訓練を行い入所後8ヶ月にて運転免許証を取得した。

 3) 身体機能の状態

 身長175cm、体重50kg、V.C 2,400cc

 M.M.T

  Deltoid ,Trapezius ,Biceps(Normar)

  Brachio Radialis    (Good

  E.C.R(L&B), Triceps  (Zero)

 R.O.M

  各関節いずれも運動制限は無い。

  (Hyper-range):Spasticity軽度

  坐位バランス段階区分 Stage5

 ベッド上、長坐位あるいは端坐位にて両上肢を動かすことができる。

 

図-1 頸髄損傷者の坐位バランス段階区分と各残存機能レベル別の特性

頸損坐位バランス段階区分

 0:坐位保持不可(車椅子、又はギャッジベッドの背もたれがあっても不可)。

 1:車椅子、又はギャッジベッドの背もたれがあれば坐位保持可能。

 2:車椅子、又はギャッジベッドの背もたれがあれば坐位保持可能、かつ上肢も動かすことができる。

 3:車椅子のグリップに片手をかけて、体幹を動かすことができる。

 4:ベッド上、両手保持にて長坐位あるいは端坐位保持ができる。

 5:ベッド上、長坐位あるいは端坐位にて両上肢を動かすことができる。

機能レベル別坐位バランス段階区分
  1
4   * 4/5 * * * *
5
  
A * 1/1 2/* * * *
B * */2 6/7 * * */1
6



A * * 8/* */4 * *
B1 * * 1/* 2/* */2 *
B2 * * 1/* 3/2 */3 */2
B3 * * * 4/* 1/1 1/6
7 A * * * 3/* 3/* 1/5
B * * * * * 1/1
8 A * * * * 1/* 6/3
B * * * * * 6/2

S49~S56/S57~S60
単位 人

(このデータは、昭和49年から昭和60年までの当センターに入院した頸髄完全損傷者102名を対象とした)

図-2 高位頸損(C5B)者の自立した各ADL項目
<ADL自立項目>
(1)移動動作
 ①臥位←→坐位(起き上がり動作) ②車椅子←→ベッド ③車椅子←→自動車トランスファーボード ④夜間の体位交換 ⑤車椅子←→便器 ⑥車椅子5cm段差越え
(2)衣服着脱動作
 ①かぶりシャツ ③ズボン ③パンツ ④靴下 ⑤靴
(3)整容動作
 ①整髪 ②ひげそり(電気力ミソリ)③歯みがき ④洗顔
(4)食事動作(自助具の自己装着)
(5)尿集器の操作
 ①準備動作 ②装着動作 ③排尿動作 ④洗浄・乾燥動作
(6)コミュニケーション
 ①書字(自助具の自己装着と筆記具の取り替え)②電話(プッシュホーン)
 ③無線機の操作 ⑥コンピュータの操作
(7)手動式改造自動車の運転操作(自動車運転免許の取得)

図-3 高位頸損(C5B)者のADL動作場面〔写真略〕

3.各日常生活動作項目自立の経過

 1) 1回目入院時のADL改善

 当ケースの初期における訓練は、ベッドサイドからはじまり他動的関節可動域拡大訓練や筋力増強訓練、自助具の製作などから車椅子での坐位ポジションが取れるようになると積極的に坐位バランス訓練を行った。この初期時に自立したADL項目は、①紐ループ使用によるベッドからの起き上がり動作。②上服(かぶりシャツ・前開きジャージ)の車椅子上坐位での着脱動作。③整容動作(整髪、ひげそり、歯みがき)いずれの動作も、手部のみのユニバーサルカフ式自助具の使用にて可能となった。④食事や書字動作は、Wrist Extension状態に保持する背側支持バー付きロングオポーネンス・スプリント(ランチョータイプ)を使用して可能とはなったがスプリントの自己装着は困難であった。スプーンとフォークの交換には介助を要し、書字場面でも筆圧が弱くマジックインキやサインペンでなければ実用とはならなかった。⑤カセットレコーダーやラジオ類はON-OFFスイッチの接触面を広くすることにより操作が可能となり、カセットの2スイッチ同時タッチが必要な場合に段差を付け他のスイッチに触れず誤動作しないように設定した。⑥水飲み用コップは、手部保持用カフだけでなく痙性予防としてラバーを付ける必要があった。⑦本のページめくりやエレベータのスイッチ操作はデバイスなしで可能となった。
 

 2) 2回目入院時のADL改善

 2度目の入院の目的が、褥創頻発による両坐骨先端部切除手術であり、ADL改善訓練は短期間の対応であった。①電動タイプライターの操作では、タイプ紙挿入のため自助具等を工夫することにより可能となった。②一般の安価なガスライター操作による点火までを含む喫煙動作が可能となった。③食事や書字用自助具の改良で、自己装着が可能となるような軽量でコンパクトな形態でいろいろな筆記用具やスプーンとフォークなどのアタッチメントが可能となるような機能をくわえた。この改良型は、手部ループと背側バー、前腕部カフとその先端に続くベルト部分からなり装着の固定はベルクロにて行う。筆記用具の交換には、タンスの戸によく使用されるキャッチャーを取り付けている。この改良型を使用することにより食事や書字動作の効率を高め時間の短縮を計ることができ、長時間の書字も可能となった。

 3) 3回目更生援護施設入所時のADL改善

 家庭生活の中で、褥創頻発だったためにほとんどがベッド上生活をよぎなくされ筋力低下が著明にみられた。しかし、これまでのADL機能は維持されていた。そこで、基本的な筋力増強訓練から始め褥創に対しては生活指導とともに細かな管理チェックを行って約4ヶ月後に筋力も以前のレベルにもどり褥創も完全に治癒した。①車椅子とベッド間の直角移動動作は、1日4時間の訓練時間で最初は前進から始め後退動作を行い約6ヶ月の努力の結果、一方向のみ5分で可能になった。②ベッド上動作の起き上がりをこれまで紐ループにて行っていたのをベッド柵の使用にて可能とした。これは、掛け布団を使用した場合に紐ループを手元に手繰り寄せる労力を省くことができ、朝の身のまわり動作処理時間の短縮を計れる。③衣服着脱動作ではベッド上でズボンやパンツが10分程度、車椅子上では靴下や靴の着脱が可能となった。但し、靴下の着動作には足先の通しにストッキエイドが必要である。靴下や靴の着脱動作では、いずれの場合も車椅子上で両上肢の使用が必要となり車椅子上での高い坐位バランス能力が要求される。④褥創予防のための夜間体位交換動作は、寝返り動作にともなう尿器取り替えの際の尿失禁防止用補助具として、片手操作用のペニスクランプを製作した。これにより尿失禁の不安もなく完全自立を計ることができた。⑤尿集器の操作((a)準備動作・(b)装着動作・(c)排尿動作・(d)洗浄と乾燥動作)は、各動作の補助となる自助具の開発を行い洗浄と乾燥以外での動作は10分以内にて可能となった。(a)尿集器の準備動作は、車椅子上坐位姿勢で両手で3点ブージを使用し、尿集器の外れを防止するためのリングとパンツ間のストッパーやコンドーム等を設置しておく。(b)尿集器の装着動作には、コンドーム開きに3点ブージを使用する。当ケースの場合、ブージ爪部の長さを半分に短縮することにより、ペニスの奥にて引き抜きができ操作を容易にすることができた。これにより、ペニスへのコンドーム装着からパンツにリングを固定するまでの動作が約8分にて可能になった。(c)排尿動作は、蓄尿袋(ウリナール袋)に貯った尿を放出するためにズボン内側に付けたチャックを開き、その中から蓄尿袋を取り出す。そして先端部の開閉弁を操作し便器の中へ放尿する。この放尿の際に使用する開閉弁は、初期に浣腸用高圧砲形カランの改良型を使用し、その後安価で簡単にできる四角と丸形リングの組み合せ式弁やこれに洗たくバサミを使用した自助具を製作している。これにより毎日介助を要していた排尿動作が自立し、長時間の作業や移動にも自信を持つことができた。(d)尿集器の洗浄と乾燥動作では、まず先端の弁を開放しリングを付けたままの状態で氷ケイ部へ水道から水を注ぎ流す。次に、大腿部の上に置いたタオルで水切りを行う。そして、尿集器を反転させパウダーによりゴムのくっつきを防止するのだが当ケースの場合、この方式では時間を要すため尿集器乾燥用ハンガーを製作した。⑥アマチュア無線機の操作も多くの友人とのコミュニケーションを図るため無線の免許(電話級)を取得した。後に自動車運転中の緊急連絡方法として活用できた。⑦自動車のハンドル旋回装置の製作により自動車運転適性試験を受けた結果、手動式運転補助装置・手部固定式ハンドル旋回装置・重量限定なしという条件にて合格はした。しかし、この時点では自動車の改造や操作の安全性を充分に確認する期間のなさや対応できる機構の自動車がないなどの問題から実際の取得までには至らなかった。⑧書字用ディバイス使用による書字速度は、3年間の訓練経過により健常人標準動作時間値(MTM法)の約50%(健常人の2倍の時間を要す。)の時間値にてできるようになって、高校通信教育のレポートも直筆にて提出している。⑨コンピュータ・ソフトウェア(情報処理コース)への通所、神奈川県下にあるアガペ作業センター内にコンピュータ・ソフトウェア養成コースが開設されたので、情報処理コースを受験し適性試験に合格した。このコースが入寮制システムをとっていて身辺の自立が条件とされていたために、通所とし父親の通勤行き帰りの送迎と週2回のボランティアというルーチンで作業センターまで2年間通った。そして、自宅の近くのコンピュータ企業に就職し電動車椅子にて通勤した。このように、各ADL動作項目が自立し、複合動作でもそのほとんどが10分程度で可能となった。

4) 4回目更生援護施設入所時のADL改善

 今回の入所目的は、就労と遠距離通勤手段としての自動車運転免許取得であった。前回の入所から約3年を経過しており、やや上肢の筋力低下と全身的な耐久力の低下がみられたために基礎的体力の向上を目的とした訓練から開始した。①車椅子と自動車間の移乗動作の自立、基本訓練として車椅子とベッド間の横移動をトランスファー・ボード使用によって約3ヶ月にて完成した。②自動車運転適性試験の合格、以前の適性試験時よりもハンドル旋回力がやや弱かったため1度目の適性試験は保留となり、2回目の適性試験でハンドル旋回力(右方向:4.0㎏、左方向:3.5㎏)と車椅子から自動車への移乗が可能となったことにより合格した。③自動車の改造と運転免許の取得は、手動式アクセルブレーキ運転補助装置、装具式ハンドル旋回装置、体幹固定ベルト、セルスタータ、キースイッチ、助手席のたたみ延長レバー、ライトスイッチ取り付け位置換え、ウィンカー左側延長レバー、パワーステアリングの軽量化などの改造をくわえ一般通常の規定よりも10時間の延長教習過程により、改造期間を含み約6ヶ月間にて運転免許を取得した。④車椅子の積み込み動作、車椅子の材質をアルミニュウムにして重量を11㎏までの軽量化を計ることにより積み込み動作のみ可能となった。このような経過により、現在、なかなか狭き門ではあるが就職活動のために職安や会社訪問を行っている。

図-4 高位頸損(C5B)者の自動車運転訓練における経過

図-4 高位頸損(C5B)者の自動車運転訓練における経過

図-5 高位頸損(C5B)者の自動車運転〔写真略〕

4. 考察とまとめ

 以上の経過のごとく、長期間における機能訓練及びADL訓練の結果においては、これまでまったく自立が不可能であるとされていた高位の頸髄損傷者の各ADL項目について実用化することができた。表‐1に示すように、これまで論述されていたADLの自立達成に関する損傷レベル区分をはるかに越えた高位頸髄損傷者の自立を対象として当リハ・センターではアプローチしてきている。

 これらの動作自立には、リハビリテーション科を中心として、整形外科や泌尿器科など医師サイドからのアプローチもさることながら、車椅子上やベッド上の坐位バランス機能を中心として、筋力の低下や関節可動域の運動制限、痙性、年齢、意欲などが大きく影響していることはいうまでもないが、残存した身体機能を最大に生かしていくのに自助具の果たす役割は多大であり、作業療法士(O.T.)からのいろいろな自助具の開発や提示、それに頸髄損傷者側からの日常何度とない道具の使い込みとフィードバックによる代償運動機能を育むことにより、これまで自立不可能とされていた高位頸髄損傷レベル者においても、かなりのADL項目について自立する可能性を持っている。                                 

表-1 頸髄損傷者の各ADL項目における損傷レベル別自立度   総数51名
   損傷レベル
ADL項目
 C5B
(n:10)
 C6A
(n:12)
6B1
(n:6)
6B2
(n:11)
6B3
(n:13)
ベッド上の寝返り 20% 30% 60% 100% 100%
ベッド上の起き上がり 30% 50% 60% 100% 100%
車椅子上の足組み 20% 50% 60% 64% 100%
移動    直角 30% 80% 80% 80% 100%
      横側方 10% 10% 40% 50% 80%
更衣動作(上服) 30% 80% 90% 100% 100%
更衣動作(下服) 20% 40% 70% 100% 100%

排尿動作

30% 50% 90% 90% 100%

排便動作

0% 0% 10% 40% 40%

入浴動作

0% 0% 0% 20% 50%

 

 尚、本文をまとめるにあたり、これまでの長期にわたるADL自立へのチャレンジに御協力下さいました当リハ・センター関係各スタッフと受傷後10年の間苦労を共に分かち合ってきた本ケース(M.T氏)に感謝致します。

<参考文献> 略

*神奈川県総合リハビリテーションセンター
神奈川リハビリテーション病院 作業療法士


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1988年3月(第57号)13頁~18頁