第16回リハビリテーション世界会議「ポスターセッション」 リハビリテーションの方法

第16回リハビリテーション世界会議「ポスターセッション」

【医学リハビリテーション】

リハビリテーションの方法

白質と灰白質の相互作用を利用したより新しいアプローチ

REHABILITATION MANAGEMENT

A NEWER APPROACH THROUGH INTERPLAY OF WHITE AND GREY MATTER

Rajul Vasa*

 リハビリテーションの分野は非常に広い。リハビリテーションの中でも最も重要で微妙な領域のひとつ、つまり重度四肢麻痺、対麻痺、小児脳障害、退行性障害、老化に伴なう問題に苦しむ患者の身体的リハビリテーションについてお話ししたい。

 伝統的には、四肢麻痺の患者は電動車いすでリハビリテーションがされ、対麻痺者は手動車いすで前進し、脳卒中の患者は自立のために身体の正常な側を使うよう訓練される。

 腰部脊稚、頸部脊椎、膝関節の退行性障害は、整形外科で検討され、温熱理学療法や運動で対症療法を受ける。考えなければならないのは、退行性変化に至ることになるような身体の反射反応の変化を生じさせるシナプスのリレーにおける変化についてである。

 私がこの仕事を始めた時には伝統的な教育を受けたが、身体障害を抱える人々のリハビリテーションは、失なったものを補うべく正常な身体部分をより強化することであった。私は自分にこう言い聞かせ始めた。この身体的障害を抱えた患者は内科医や外科医がその命を救うやいなや彼らの限界を言いわたしたため、大きな希望を持って理学療法士の所に来るのだと思う、と。もしも生き延びた後の全責任が我々の肩にかかっているとしたら、我々はこれらの患者に何をすることができるのか、という単純な質問を自分に投じた。正常な身体部分は促進テクニックでより強化し、麻痺部分は世界大戦中に痙攣性をおさえ、拘縮や変形を予防するために開発されたテクニックで処置する。私はこれを最終目標として受け入れることを拒んだ。正常な身体部分と麻痺した身体部分を連携する何らかの方法があるにちがいないと思ったからである。

 中枢神経(CNS)障害は回復不可能というのが伝統的な考え方である。回復不可能な障害にもかかわらず実用的歩行を可能にするのが現代的な考え方である。

 この新しい考えは、ノーベル賞受賞者FHCCRICKによる脳の中のすべてのものが他のすべてのものにつながっているという科学的事実に基づいている。皮質と皮質下部の中の灰白質と脊椎は、白質の接合部と往復運動でつながっている。

 灰白質と白質の間では、成長や機能のために必要な瞬間、瞬間のニーズに応じて不要な刺激を制限したり増加させたりする相互作用が絶えず行われている。

 ここで白質と灰白質の相互作用の途方もないほどの複雑さを強調したいと思う。

 私はソ連のサーカスを見ていた。1人の若い小さな体育専門家が地上約50フィートの所で、ぶらんこで一方から他方へと漕いでいた。この女の子がみごとに身体を調和させて演じているのを見て息をのんだ。上演中の当人の脳の中の膨大な相互作用について不思議に思った。

 もうひとつは、ソ連人の女の子と男の子がペアで音楽の拍子に合わせてローラースケートに乗って、振り付けた動きを演ずるのを見た。2人を見ながら、ペアを組んで上手に演ずるために2人の皮質や皮質下部で結合しているにちがいない接合部の数や2人の違う人間の皮質の調和のことを考えて気が狂いそうだった。

 この瞬間にここで皆様全員にお話し、同時に皆様全員を見ている間、私の脳の中で起きている神経接合部の瞬間ごとの結合については依然として想像の世界のことである。

 この不十分な点を意識した上で新しい考え方や新しいリハビリテーションの方法では、接合の分析に基礎を置いている。今日の生物工学ができることはCAT SCANを用いた検討により脳の中の損傷のある場所を見つけ出すことだけである。機械を用いて接合喪失と接合機能障害の分析を行うことは生物医学的工学の将来の課題である。電子工学で非常に進歩している日本が、直接的、間接的接合喪失に傷害後処置を行える世界で最初の国になるという挑戦を受けて立つことを希望する。

 傷害は傷害の中の接合やさらに傷害から離れた遠くにあるさまざまな接合にも影響を与える。傷害を受けた脳の正常な細胞のステーションには2つの側面がある。つまりそれが接続を断たれた部分と連鎖していると反応は異常で、他の正常なユニットと連鎖している時は反応は予言できる。

 Bach-ye-Rita教授の神経生理学の研究では、神経形成性と樹状突起成長がCNS傷害以後回復を行うのに責任を負う要因のひとつであることを証明している。

 このためになおさら理学療法士の仕事がそれだけ一層難しく、重要になるが、何故かというとそれはちょうど精神病患者が小さい、ささいな刺激によって異常行動にかりたてられる収容所の中の様に、自然回復や樹状突起の成長が全く突然のことで、規則も、規定も、法律も無いからである。気が狂った人はすべての刺激に反応し、正常な健全な人のように抑制することができないが、それと同じなのが傷んだCNSの中にあって、外部(身体的)や内部(心)の刺激のすべてが敏感な部分を刺激し、その結果痙攣性、硬直、筋緊張欠落等の最も良く知られた異常な運動パターンが起きる。

 痙攣性のような自然の混乱にまかせるよりも、むしろ有利に利用して自然回復を形づくるため、セラピストの責任が最も試され、最も微妙になるのはこの時である。例えば、脳卒中の患者では、上肢においては、二頭筋、胸筋、手首屈筋、胴体外側屈筋における伸張反応から、下肢においては、股関節外転筋、四頭筋、前脛骨筋、親指伸筋から回復が始まる。

 急性のショック期後の完全な下半身麻痺の場合、脊索がショックからぬけ出している時、自然回復後は、より高度の抑制がなく脊索が自立的に機能を開始するという形をとる。この結果、脚は各種の異常な発作のために抑制のきかない不随意な動きをする。

 より新しい方法では、脊椎の中の傷害にバイパスをつくり、ブリッジをつくる。vestibular patlwayへの各種刺激は、下肢に影響を及ぼして伸筋パターンに作用し、屈筋の収縮を逆にするが、これが対麻痺者にとっては最大の災いである。ブリッジ全体がワイヤレスあるいはコードレスのリモートコントロールのように直接的ワイヤやサポーターなしにつくられる。

 状態について話していては終りがない。手始めにいくつかの例をあげる。

 最初は、私がこの職業に就いて最も感激的な体験を味わった28歳の患者についてであるが、未知のウイルスによるウイルス感染の後に重度の四肢麻痺になり、肢体が不自由であった。これらのウイルスは脊椎から脳幹や大脳基底核へと達していた。この女性が生き廷びたのは最新の薬と最新の救急ケア施設のおかげであった。命は取り留めたが、生きていない彼女の身体に何をできるだろうか。完全に麻痺してしまった身体に。セラピストは慣習通りに、両脚および上部胴体を含む全胴体でゼロからひとつの筋肉しかない絶望的な身体を見つめた。弱い首の筋肉しかない極めて弱い上肢。セラピストは、患者が一人でベッドに入ることもできないため昼と夜の付添い人をつけるよう注文をした。手始めとして、神経学的回復の助けによってゼロ級筋肉が重力と戦える筋肉に変わるまでは、担当看護婦による消極的な運動、消極的な運動に根ざした小道具運動を行った。7ヵ月後でも神経学的回復は全く無かった。患者は家では汚れた人間用のべッドにいて、車いすで移動する時には袋のように運ばれた。神経科医、神経外科医、整形外科医は、患者は最も運が悪いと考え、哀れむべき予後を告げ、バランスをとるためのコントロールが胴体に無いため、胴体を車いすにひもでゆわえる付添人がついての車いす移動を最大限度に可能なこととして言いわたした。

 インドでは患者は医師に挑戦するほど大胆である。私がこれを公に言う理由は、最もすぐれたリハビリテーション成果を得るためには、気持ちが非常に大きな役割を果たすからである。患者に、より良くなりたいという最大限の欲望はあっても気持ちが悲観的でそれを成し遂げる欲が少しもなければ、結果は惨めである。しかし強い意志力を持つ楽天的な患者で一生懸命励む人は、すばらしい結果を表わす。

 強く、健全な心を持つこの患者は、より良い方法を求めて、7ヵ月の成果無し後に我々の所にたどりついた。私が成果無しと言う理由は、この女性が7ヵ月の終りになっても自分のベッドに入ることもできなかったからで、それ以外のことはご想像いただきたい。我々が分析した結果、貧弱な頭と頸コントロール、貧弱な上肢コントロールを除いてはどこもお先真っ暗で、バランスをとる筋肉が皆無であった。

 我々は弱い両腕を使って身体全体を外側から安定させて、頭と頸に影響を与え次に身体に影響を与えることに決めた。左脚につけた完全braceに取り付けられたプラスチックのコルセットで胴体は完全にがっしりとささえられた。肘が受け身的に伸びるように固定させている長いvestibular cruthesを使って、股関節伸筋連鎖に影響を与えて体重を担わせたかったため、右脚には股関節を自由にさせる膝上までのプラスチックAFOをつけたが、これは、頭と頸を経由したvestibular connectionが介在ニューロンのプールを経て脊髄連鎖に影響を与え始めるようにするためであった。これが脊索に傷害がある場合の我々のバイパスであった。こんなに重装備のブレイシングは、伝統的な方法ではないかとおっしゃるかもしれないが、この場合のブレイシングは最終的にはその使用を止めるためのものであった。伝統的にそうしていたように永久使用のためにブレイシングをつけたわけではない。この患者の場合のブレイシングはバイパスのためであって麻痺を補うためのものではない。

 新しい考えでは傷害を無視して、正常であって使用されるのを待っているvestibular connectionのバイパスを用いてブリッジをつくった。この女性はベッドに横になって7ヵ月を過ごした後、今や立てるようになった。身体を進ませるのに用いたのは、胴体コルセット、vestibular cluthes、左の完全brace、右の膝上までのプラスチックAFOである。筋肉のサポートを積極的に行うよりも、むしろ小脳を奮いたたせて、胴体のまわりにより良い安定性を積極的に得るため、徐々に訓練を増すことによって、コルセットを、次にbraceやsplint等々を取りはずすことができた。今日この女性の全身の筋肉像はゼロから1でしかないが、ビデオフィルムでおわかりのように簡単なブーツと2本のカナダ式クラッチだけで車で移動する。選択的コントロールができるほどに筋肉像を改善できてはいないが、屈筋、伸筋の連鎖の働きがすばらしく、自分の足で歩き回ることを可能にしている。現在この女性の介在ニューロンの脊椎中のプールは以前よりもずっと豊富である。

 運動不足が原因のosteoporotic bonesによる拘縮、変形、病理学的骨折といった多発性の有害な合併症は、患者を抗生物質その他の薬に頼らせることになるような繰り返し起きる胸、腎臓の感染をひき起こすが、もはや必ず現われるものではない。非常に進歩したビジョンの聡明なアプローチがあればのことであるが。

 私が受け持った脳卒中の患者全員についてお話したい気持ちになるが一人に絞る。この人は弁護士で自宅のフロ場で意識を失い入院した。1週間は意識が無く、3週間は半意識が無い状態であった。CAT SCANでは、B.G.および左半球のそれを囲む個所に血腫があった。意識が戻った時には話が全くできず、身体の右側が全く動かなかった。6週間病院にいてから車いすで帰宅し、麻痺した側では全くバランスがとれなかった。すでにL.L.で異常な連鎖反応が進んでおり、股関節が膝の伸びと反対で、足は著しく反転し、膝が曲げられなかった。上肢では屈筋の連鎖が二頭筋のあたりで最大限に活発であった。この筋肉は異常な収縮反応を示した。自分で胴体のバランスがとれず、つんのめって前にころぶかごのように倒れ、我々に課せられた仕事は容易ではなかった。

 より新しい方法は、より弱い連鎖を動かしてそれが逆に不要な強い連鎖を抑制できるようにするため、この回復しつつある神経システムの形成に影響を与えて過度の伸張反応をそらせることであった。

 現在、この紳士は裁判所に出ており、右手で食事をし、どのような補助もなしに1マイルを歩くことができる。

 成長しつつある正常な脳では、発達の道しるベは、完全に成熟していない神経接合を働かせて得られる結果であり、もしパスウェイ崩壊から分析すれば発達の道しるべはさらに多くの意味を持つ。

 皆様に緊張低下症の未熟児において成長しつつある脳の問題の一例をお話する。この3歳の男児は立てず、当然歩けない。立たせようとするとただちに両脚を屈曲作用時に引っ込める。この男児は屈曲作用時に脊髄連鎖が過度に活発であった。私は、ふくらはぎの筋肉を手がかりにして伸筋の連鎖を励起させた。この子供は2週間で歩けたが、歩かせる望みを捨てていた母親にとってはびっくりするような驚きであった。振り返ってみて言えることは、この子供は構造的には正常な脊椎、正常な小脳を持っていたということである。しかし、2つの構造物の間に相互作用がなかった。シナプスのリレーが確立されるやいなや自分で立つことができ、歩くことができた。

 整形外科の分野に関わる一例をあげる。60歳の婦人が膝の痛みを訴えて私の所にみえた。しばしば腫れが出て、整形外科医の診察を受けていた。放射線科医の報告では、最小限の退行性変化が脛骨顆の軽度の粗面化と2つの顆表面の間の関節隙にあるわずかなずれにあらわれていた。薬によってその時々の軽減は得られたが、関節の腫れは続き、身体活動は制限された……家の中を歩きまわることだけで、しゃがむことは完全に制限されていた。診断の結果、関節に急性の感染はなくその他のいかなる病気の進行もなく、単なる老人の退行性変化で、患者は肥満体ではなく普通の体重であった。検査をしてみると、患者の歩行がおかしいのは、関節の対部分のためではなくそれ以上の何かが原因であることがわかった。さらに検討した結果、この婦人は右側でのバランス反応が極めて不十分であることがわかった。右脚一本でバランスをとる時には胴体と脚の筋肉全部を使わなければならなかった。バランスを失わないで右脚で立つことはできず、そのため胴体を強いて横に曲げざるをえなかった。長期間にわたりこの過程が続いたために、脛骨表面に粗面化がおきたり、反射バランスをとることもできず関節に負荷をかけていたことは明らかであった。ちょっとした筋肉緊張で小さなストレスが続き、整形外科や老年医学からではなく、より深い接合分析の側面から全体的に取り組まなければならないような退変性行化を抱えるに至った。CAT SCANSでは神経学上の傷害も萎縮もなかったが、老化に伴なって脳の各種接合でのシナプス伝達に低下がみられるのは確かであった。

 例をあげているときりがない。従って紀元2000年に向けてのアプローチは以下のことを行なう包括的なアプローチとしてまとめたい。

(ⅰ) 麻痺した身体の部分を正常な身体の部分と機能的に連携させる

(ⅱ) 痙攣性のような自然の混乱にまかせずむしろ有利に利用して自然回復を形づくる

(ⅲ) 最高に機能させることをめざしてさまざまな接合を経由して傷害にバイパスをつくり、ブリッジをつくる。

(早田信子 訳)

*Brain & Spinal Dysfunctfon, Bombay, India


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1989年2月(第58・59合併号)26頁~30頁

menu