第16回リハビリテーション世界会議「ポスターセッション」 遊び道具についての考察

第16回リハビリテーション世界会議「ポスターセッション」

【教育リハビリテーション】

遊び道具についての考察

―重度重複障害児のための―

THINKING ABOUT PLAYTHINGS

―FOR CHILDREN WITH PROFOUND AND MULTIPLE HANDICAPS―

Suzie J.Mitchell*

はじめに

 この論文の主要点は2つある。1つは、遊びは子供時代における万国共通の行動だということである。もう1つは、子供は、遊びを通して自分たちが生きている世界について学び、またその中で、自分たちを取り巻く環境の中の事物と自分たち自身の間に存在する関係について学ぶのだということである。このように、遊びはあらゆる子供の発達にとって絶対必要な一部であり、大人の生活では当たり前の技術を学んだり練習したりするための基礎を、遊びが形づくっているとみなすことができる。

 子供が遊びを妨げられると、その子は幼児期の技術が身につかず、その後の学習の基礎が準備されないのである。

 重度の、また重複した障害を持つ子供は、遊びを通して学ぶ機会を与えられない場合があるが、その原因は、

 ・身体の損傷および(または)

 ・学習障害および(または)

 ・意欲不足および(または)

 ・知覚の損傷

である。

 障害が複雑であればあるほど、その子の遊びのニードも複雑化するのである。

 Newson(1979)は、子供が遊ぶことがなぜ難しいかが分かれば、その難しさを補って改善していくことが可能である、と述べた。

 そのような改善にとりかかるために、Newsonは続けて、(以下原文のまま)“子供の経験が限られていたのなら、埋め合わせがされなければならない。子供の能力は広げられなければならない。独創性を大事にしなければならない。また、技術を訓練し発達させるために、遊びに対する本能的な意欲を利用するべきである”と述べている。この同じ問題に関して、Sheridan(1977)は、遊ぶために子供に必要なのは、遊びの空間、遊びの時間、遊び仲間、そして遊び道具である、と述べている。

 遊び道具のテーマを心に留めて前述の点に戻ると、次の問題は、子供の障害が複雑であればあるほど、遊びのニーズを充たすためには、その子供に合うような遊び道具を設計する必要があるということである。ありきたりの営利本位に作られた玩具は、子供の遊びに不可欠なものではない。子供が持って遊ぶものは何でも、その子供にとっての立派な遊び道具となり得るということを、十分に理解することが大切である。それでは、よくできた玩具あるいは遊び道具の特徴とはなんであろうか。それは子供の興味をとらえて、その子が今持っている技術を訓練し完成させていく準備をするものでなければならない。それはまた、子供に何かを達成したという意識を与える一方で、新しい技術の発達を考慮に入れるものでなければならない。

 上記のことを考えに入れた上で、適切な遊び道具を子供に用意するためには何をすべきだろうか。

 それには、子供自身のことや、その子のできること、できないこと、やる気などについても知らねばならない。また、子供の遊びを見て、その子がすでに持っている技術を訓練させたり、その子の中に新しい技術を育てたりするために欠けているものが何であるかをつかまねばならない。同時に、子供が生活をしている環境について、田舎か都会か、先進国か開発途上国か、また親の家か施設の介護のもとかなどの知識も必要である。

 子供とその世界についてこのような点を考慮にいれた上で、想像力を幾分添えたならば、どの子供に対しても適切な遊び道具を見つけることは可能に違いない。

 ハイ・テクやロー・テクとは何を意味しているのだろうか。

図1 (ハイ・テクノロジー、ローテクノロジー)

図1

 “ロー・テク”の遊び道具とは、廃品からの手作り、または、特に遊びの目的で購入したものではない品物を指す。電気を使わずに作られたもので、使用にも電気はいらない。

図2 ロー・テクの遊び道具の構成要素

図2 ロー・テクの遊び道具の構成要素

 ハイ・テクの遊び道具とは、マイクロ・テクノロジーの部品を取り合わせて作ったものを指し、普通はスイッチを使って動かす。その製作および(または)使用の際には、動力源を必要とする。

図3 ハイ・テクの遊び道具の構成要素

図3 ハイ・テクの遊び道具の構成要素

 “ハイ・テク”の遊び道具も“ロー・テク”の遊び道具も、それぞれ長所と短所があるため、子供の状況によって役に立つことも立たないこともある。

 ハイ・テクの遊び道具はたいへん用途が広く、またひとりひとりの子供に個別にあわせて作ることができる。特別なスイッチを広範囲に取り合わせると、もっとも重度の障害を持つ子供でさえ利用できるようにすることが可能である。さらに、ハイ・テクの遊び道具は、子供の生活の他の領域、すなわち、移動とか、コミュニケーション用補助具や環境制御システムにまで、容易に範囲を広げることも可能である。しかしハイ・テクの遊び道具は、製作、使用、維持に際して高水準の専門技術を必要とするし、大人が関わらなくてはならず、大人の時間が必要という点でも、高価である。またこういう遊び道具は動力源を必要とするので、電気(コンセントから取るにしても、電池でも)という点から見ても、世界中のすべての子供が利用できるわけではない。

 ロー・テクの遊び道具もまた非常に範囲が広い。ひとつひとつ、特定の子供の学習要求に応じて作ることが可能なためである。こちらは、利用や維持に特別な専門技術を必要とはしないし、従って費用がほとんどかからない。動力源も必要ない。ロー・テクの遊び道具の大きな欠点は、“その重要性が高く評価されないことが多い”ということである。

結論として、次のようなことになる。

   知 識

 +既存の思考法に捉われない水平思考

 +想像力
───────────────────
 =どの子供にもぴったりの遊び道具

謝辞

 友人であり、元同僚でもあるCarol Ouveryに感謝。彼女がいなかったなら、ここで述べた意見の発展は決してなかったであろうから。

参考文献 略

(松平晴子 訳)

*The Ryegate Children's Centre and the Education Department, Sheffield, United Kingdom


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1989年2月(第58・59合併号)38頁~40頁

menu