Onerva. M. Maki *
この研究の目的は、1982-83年度のフィンランドの小学校の聴覚障害をもつ生徒について基礎的な資料を提示することである。この調査は普通学校における聴覚障害児へのサービスや教授法の開発の基礎となる情報を提供することである。以前の研究では中程度および重度の聴覚障害児を発見することに力点が置かれていた。今回の研究では、比較的軽い聴覚障害(20-30dB)も含めている。この場合聴覚障害の基準はよい方の耳が3つの周波数(500-1000-2000Hz)の少なくとも1つにおいて20dBかそれ以上であるとしている。
学校保健に関する全国保健委員会の指示(1392/02/82)には、聴力検査は普通学校の1年生、3―4年生、8年生を対象に20dBのレベルで行うこととある。調査資料は学校の看護婦(N=514)によって質問表に書き込まれた生徒の記録を集めたものである。さらに聴覚障害の程度、聴覚障害および他の障害の診断に関する情報が得られた。また、補聴器の使用、聴力検査をした場所、学年、教師の氏名についての情報も記録されている。
調査方法はex post facto-methodによった。研究は現状をありのまま記述する形式をとり、結果は度数分布表と図表による説明を行っている。
今回の研究(表1)によると、普通学校に統合されている聴覚障害児(≧20dB)の数は1,923人(0.35%)である。特殊学校あるいは聴覚障害学級に出席している生徒を含むと、1982―83学校年度の聴覚障害者の総数は2,504人(0.46%)である。学年別の分布表を見ると、1学年と2学年の割合が他の学年と比して統計的に重要な違いがあること(p≧01)が分かる(表1)。
学年 |
聴覚障害児数 |
特殊学校生徒数 | 聴覚障害児数合計 | 1982-83学校年度の全小学校生徒数 | |||||
N |
% |
N | % |
N |
% | N | z | P< | |
1 | 170 | 0.28 | 61 | 0.10 | 231 | 0.38 | 61462 | 2.96 | .01 |
2 | 167 | 0.29 | 55 | 0.09 | 222 | 0.38 | 58251 | 2.86 | .01 |
3 | 160 | 0.30 | 67 | 0.13 | 227 | 0.43 | 52982 | 1.03 | ns |
4 | 171 | 0.31 | 68 | 0.12 | 239 | 0.43 | 55030 | 1.03 | ns |
5 | 210 | 0.37 | 48 | 0.08 | 258 | 0.45 | 57254 | 0.36 | ns |
6 | 206 | 0.34 | 76 | 0.13 | 282 | 0.47 |
59846 |
0.36 | ns |
7 | 203 | 0.33 | 79 | 0.13 | 282 | 0.46 | 61796 | 0.00 | ns |
8 | 243 | 0.36 | 61 | 0.09 | 304 | 0.45 | 66895 | 0.38 | ns |
9 | 272 | 0.39 | 66 | 0.10 | 338 | 0.49 | 69473 | 1.15 | ns |
不明 | 190 | 109 | |||||||
合計 | 1,923 | 0.35 | 581 | 0.11 | 2,504 | 0.46 |
542,989 |
2-tailed t-test:05/1.96;.01/2.58;.001/3.30
補聴器の使用を勧める平均レベルは≧30dBである。この研究で聴力喪失のレベルが30dB以下であるケースが20あった。補聴器を使用していないが、将来補聴器を使用するだろう潜在者の数は161で、全調査ケースの46.7%であった(表3)。
学 年 | 補聴器なし 生徒数 |
補聴器使用 生徒数 |
合計生徒数 | |||
f | % | f | % | f | % | |
1 | 119 | 82.6 | 25 | 17.4 | 114 | 9.2 |
2 | 99 | 77.3 | 29 | 22.7 | 128 | 8.2 |
3 | 105 | 76.6 | 32 | 23.4 | 137 | 8.8 |
4 | 123 | 82.0 | 27 | 18.0 | 150 | 9.6 |
5 | 148 | 82.7 | 31 | 17.3 | 179 | 11.4 |
6 | 141 | 77.5 | 41 | 22.5 | 182 | 11.6 |
7 | 152 | 80.9 | 36 | 19.1 | 188 | 12.0 |
8 | 182 | 82.4 | 39 | 17.6 | 221 | 14.1 |
9 | 191 | 80.9 | 45 | 19.1 | 236 | 15.1 |
合 計 | 1,260 | 80.5 | 305 | 19.5 | 1,565 | 100.0 |
不 明 | 358 | |||||
資料合計 | 1,923 |
平均聴覚 喪失(PTA) |
補聴器なし | 補聴器使用 | 合計 | |||
f | % | f | % | f | % | |
<30dB | 491 | 96.1 |
20 |
3.9 |
511 |
59.7 |
>30dB | 161 | 46.7 |
184 |
53.5 |
354 | 40.3 |
合 計 | 652 | 76.2 |
204 |
53.8 |
856 | 100 |
全調査データ(500-1000-2000PTA)における聴覚障害の平均は30.1dBと47.9dBの間であった(Maki 1987、75)。聴力損失が31dBと80dBの間のケース(中度と重度の難聴、Roeser and Downs 1981)に限って言えば、聴力損失の程度は39.4dBと55.4dBの間であった。これらのケースは重度の難聴のカテゴリーに属する。
すべてのケースの原因は3つのカテゴリーに分けられる:1)遺伝によるもの、2)後天的なもの、3)不明。明確な診断を下せたもの650はケース(34%)のみであった。この内、原因が遺伝によるものが347(5.4%)であった。また、混合障害は95(4.9%)ケースのみであった。
全フィンランドにわたるこの研究の結果によると、聴力検査は全国保健委員会の指示に基づいて実施されていた。学校の聴力検査において良い耳で≧20dBの聴力損失があると発見された全ケース(1,923)の内、大学の聴覚センターまたは聴覚検査センターでの再検査に送られたものは72.7%であった。また、8.8%は検査場所が記述されておらず、9.9%が他の施設であった。ケースの内96.7%が大学の聴覚センターか聴覚検査センターを、衛生省の指示に基づく補聴器の処方を受けた。
健康管理の目的は児童生徒の成長や発達を保護することである。学校保健は生徒一人ひとりへのサービスの一環で他の学校の働きと切り放してはならない。従って、学校保健職員は学校の働きとその目標とにも精通していることが重要である(1392/02/82)。学校の児童聴力検査は、早期外科手術を行うために中程度の耳の疾病を発見することに加えて、言語発達を妨げ学習を遅らせている聴覚障害をみつけることができると期待されている。この研究結果によると、ケースの72.7%において全国保健委員会の指示に基づいて、生徒の聴力が検査された。このことはこの研究と同じ年にだされた指示が早くも有効であったことを示している。保健職員と学校当局間の協力を調整する規則がないので、資料がすべてのケースにわたって生徒の最大利益のために活用されたとは限らない。この研究の期間中、全国教育省委員会、全国社会福祉委員会、全国保健委員会間で共同グループが設立された(SOSKO 1984)。これは保健サービス、リハビリテーション、教育計画の調整を指示するためである。1981年にDavis氏らによってなされた研究でも同様な結果が見いだされている。
その後の研究にも当研究の成果が利用されている。教師の態度、知識、要望についての報告書は、教師の期待について情報を提供し、また、その分野の教師訓練のための基礎知識を提供している。さらに2つの報告書が今年刊行される。1)学校を成功させるための構造的要因とプロセス的要因との関係と、2)補聴器使用者の学校での成功についての研究である。
参考文献 略
(工藤 幸子 訳)
*University of Jyvaskyla, Jyvaskyla Finland
(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1989年2月(第58・59合併号)41頁~43頁