第16回リハビリテーション世界会議「ポスターセッション」 特殊職業訓練施設の意義

第16回リハビリテーション世界会議「ポスターセッション」

【職業リハビリテーション】

特殊職業訓練施設の意義

THE SIGNIFICANCE OF A SPECIAL INSTITUTE FOR VOCATIONAL TRAINING

Ton Bergers

 この機会に、オランダにおける特殊教育と特殊職業訓練のおかれている位置について述べたい。

 我が国では、多くの身体障害者が小学校から大学に至る普通教育を受ける機会を与えられているが、その一方で、政府は、持殊教育を受ける若者の数の削減を強力に推進している。これは、普通教育を受ける障害者は、政府と民間基金からの援助を受けられるということである。こうして受けられる学習のための便宜とは、聴覚障害者のための通訳者であり、視覚障害者のコンピューターであり、交通費の特別補助、学童用の施設、そして校舎の改造などである。これは技術学校にもあてはまることはもちろんである。数年前に政府は民間基金への財政援助を決定した。これで残された唯一の問題は、まだ学令に達していない幼児と、障害をもちながらも後年学習を開始する人たちに関するものだけとなった。このうち後者に関しては、学習者がまだ仕事につくことが出来るかどうかということが重要な問題である。しかしこのことについてさらに追及すれば、論点を逸脱することになるので、ここではこれ以上論じないことにしたい。オランダの教育と社会保障法に関心のある方には、1986年10月の“Seen at close quarters”(『間近に接した障害者』)と題した私の覚書をご参照頂きたい。希望の方は、Werkenrode,P.O.Box 9002,6560 GC GROESBEEK,the Netherlandsまで問い合わせられたい。

 特殊教育と特殊職業訓練の機能は極めて限られている。まず、一般論として、特殊教育は費用がかかるので、予算との関係がある。が、他方、非常に根本的な問題もからんでいる。公共の施設において、障害者をないがしろにしてはならない。多くの若い障害者がいまだに社会的・物理的制約のために、一般社会組織に参加する方法を見いだせないでいる。オランダには、知恵遅れ、身体・視覚・聴覚障害者専用の施設がある。とくに若年障害者を対象とした数少ない職業訓練施設は、国立の施設である。そのうち身体障害者用の施設は2ヵ所、Hoensbroekの職業訓練センターおよび私が所長をしているWerkenrodeのセンターである。この他に盲人用のセンターもある。

 Werkenrode方式の新機軸のポイントは、実習主体の教育である。とくに25歳以下の青年は、行政部門、印刷業、園芸業における個々の能力に応じた職業訓練を受けることができるが、ほかのコースを受講している学生も訓練を受けることができる。平均的在籍期間は18ヵ月だが、短期コースもある。訓練には実習が2期間含まれている。訓練所の近隣地区での実習と、出身地の近くでの実習である。これはWerkenrodeが国立の施設であるためである。

 学生達が努力し、また社会事業雇用省や雇用者および被雇用者のような民間の協力者など、さまざまな資本家や教師のおかげで、1987年には、すべての生徒が就職できること、すなわち100%の雇用を達成することも可能であると思われるようになった。しかしながら、これは非常に意欲的な若者に関することであるということを念頭においておく必要がある。訓練所への入所手続きには6―9ヵ月かけている。

 職業訓練とは別に、Werkenrodeにはいわゆるトレーニング・プロジェクトというものもあり、訓練所の近くに住む若者は訓練を受けることができる。このプロジェクトも非常に良い効果をあげているといえる。

 Werkenrodeでは特殊中等教育にも力をいれている。これも国立学校で、学生数は190人である。概して、一次的目標、すなわち、身体障害者の職業訓練と教育に主眼が置かれているといって良いであろう。

 しかし特殊教育施設ではそれ以上のことが出来るはずである。私は、障害をもつ若者も働くことが出来るという事実を一般に認めさせるのに、相当貢献できるであろうと考えている。

 この場合大切な手段は情報だが、なかでも、普通教育の職業指導官や職業組合、一般世論などに役に立つ情報が重要である。毎年私たちの施設についての簡単な映画がテレビ放送され、障害者も完全な社会参加をすることが出来るのだということを、障害者ばかりでなく、ソーシャルワーカーにも繰り返し繰り返し訴えている。

 さらに、障害者が一時的に私たちの施設に入所し、後に再び普通教育に戻れるようになったり、普通教育からドロップアウトせざるを得なかった生徒たちに、より進んだ訓練を提供することもある。

 特殊教育において、新しいカリキュラムや方法論を実験し、これをその後普通教育に活用することも可能である。

 当センターから地域の普通教育に対し助力もしている。教師が仲間の教師にアドバイスしたり、バラメディカルスタッフが助言するのはいうまでもない。

 従業員が、不慮の病気や事故のために図らずも職場から脱落してしまった時など、経営者からアドバイスを求めてくることもある。このような場合には、このセンターで従業員をどのようにして再起させるか学ぶことも出来る。

 Werkenrodeにおける新たな展開として重要なことは、地域の身体障害児にたいし、将来の就職のチャンスについてアドバイスしてやることを目的として、調査情報局が開設したことである。つい最近設置されたばかりであるにもかかわらず、職場を捜す側、すなわちソーシャルワーカーや経営者と、障害者の双方がこの局を利用している。

 過去25年の間に、障害者の雇用調査の分野では多大な経験を重ねてきた。面接だけではことは運ばない。医学検査ばかりでなく、技能や心理テストも含めた総合的な検査が実施されれば、十分な調整も可能である。その結果、特殊教育施設に入所することになるかも知れないし、例えば見習として実社会に復帰することができるかも知れない。あるいは普通教育にまわされることになる。

 特殊教育施設の行う調査も重要である。現在、T.N.O.(Dutch Organization for Applied Scientific Research―オランダ応用化学研究所)との共同研究が行われ、当施設のデータばかりでなく国内はもちろん国際的データも活用して、以前はほとんど教育を受けることのなかった片腕・片足の人々に道を開いている。このような人たちの就職はとくに困難なようである。Werkenrodeでは、過去2、3年のうちにこの種の障害者200人以上を教育した。現在、彼らが生産過程においてどのような職場についたか調査しており、これまでの経験とあちこちで得た情報をもとに、今後どのようなカリキュラムを教えればよいか調べたいと願っている。

 障害者が造園業にたずさわったり、あらゆる種類の援助を活用する場合に、我々の施設の利用価値は高い。もちろん、このことは、公共の建物や家屋、スポーツセンターなどを障害者が利用しやすいようにするなどの社会改造についてもいえることであり、これは、実際に各センターでも努力している。

 とくに住宅や生活に関しては、Werkenrodeは地域に多くの試みを行ってきた。個々の生徒はォランダ各地の出身者なので、住宅や生活に関して我々が相当な経験をつんでいる。

 ひとつの施設の使命と地位が、人々に仕事の喜びを取り戻させ、社会参加を可能にする特殊職業訓練以上のものであるということを明確にわかっていただけたことと思う。

 これは状況や所在地、とりわけこのようなセンターのスタッフのもつ創造性によることは当然である。

 最後に大切なことをもうひとつつけ加える。当施設には個室やアパートが200室あるが、その大部分はとくに夏の間は障害者グループの住居として使えるようになっている。これは地域に限らず、外国人にも開放されている。小冊子が用意されているので、関心のある方は先述の住所まで問い合わせられたい。

(横山和子 訳)

Workenrode, The Netherlands


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1989年2月(第58・59合併号)44頁~46頁

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