第16回リハビリテーション世界会議「ポスターセッション」 施設中心ケアからコミュニティ・ベースド・リハビリテーション(CBR)へ

第16回リハビリテーション世界会議「ポスターセッション」

【地域リハビリテーション】

施設中心ケアからコミュニティ・ベースド・リハビリテーション(CBR)へ

FROM INSTITUTIONAL CARE TO COMMUNITY-BASED REHABILITATION

Desta Asfaw

はじめに

 エチオピアの人口は推定4,600万人である。障害者の人口はWHOの推定によれば460万人である。エチオピアの人々は繰り返し起こる干ばつと長い戦争との影響に苦しんでいる。そして障害者はその影響を最も受けている。

 エチオピア人民民主主義共和国(People's Democratic Republic of Ethiopia)は、当然ながらその政策と開発計画に障害者の福祉を組み入れている。エチオピア政府は1979年に国家開発計画を発表したが、その中で次のことを述べている。「……政府とコミュニティは障害者の職業訓練を保証する……この弱い立場にあるグループをコミュニティ生活に積極的に貢献する有効な自立した市民とするために……」したがって、政府機関と主要な組織は、障害者の利益と福祉を促進するために資源を活用することを求められている。

施設中心アプローチの短所

 1971年に障害者リハビリテーション機関(the Rehabilitation Agency for the Disabled―以下RADとする)が設立されたが、それ以前は多くの慈善団体と財団が保護雇用施設を提供しており、また就労機会を提供しているものもあった。現在でも行われている有名な雇用プログラムの一つに傘と乾電池の生産工場がある。この工場は500人の障害者を雇用している。しかし、障害者を雇用するために設立された施設の多くは、羊毛カーペット、ラグ、木綿布を中心とした手作り生産をしており、経済的には採算は合っていない。厳しい予算の制限があるものの、RADは生産作業所や保護雇用の改善に努力してきた。RADは障害者が働くことができるように雇用の保証と労働者の権利を確立し、作業所が財政的に存立できるようにさまざまな試みをしてきた。しかし内的外的な経済要因により現在生産しているような物品を作り続ける限り、利益を上げることは不可能であることが分かった。RADは生産作業所に毎年50万Birr(25万米ドル)を超える助成をしてきた。

 RADはAddis Ababaから約160キロほどのTibilaにあるリハビリテーション農場を引き継いだ。Tibilaには800人以上のらい回復者が連れてこられていたが、ほとんどの人が農業に従事することが不可能であった。RADはこのプロジェクトを運営するために毎年30万Birrを超える助成をしなければならなかった。

 このプロジェクトは、少数の障害者のグループに多額の予算を費やしたということで、不満の残るものであった。すなわち、使用された費用はもっと多くの障害者にリハビリテーションを行うことが出来たと思われるほど、多くRADの年間予算に占める割合も多かったためである。

コミュニティ・ベースド・リハビリテーション・プログラム(CBR)

 以上のことから、RADが予算を余り増やすことなく、より多くの障害者にリハビリテーションのサービスを提供できるような新しい戦略を展開しなければならないことは明らかになった。RADとILOは基本的なリハビリテーションサービス供給を目的にパイロットプロジェクトを開発した。これらの改革に際して、RADは運営面でRI刊行の「80年代の憲章」(Charter for the 80s)と「障害者世界行動計画」(World Programme of Action Concerning Disabled Persons)に非常に影響を受けた。

 1985年初期に完了した研究で、エチオピアにはリハビリテーションサービスを行うことのできる組織された行政サービス機構があることが分かり、この機構を利用してサービスを始めることがもっとも効果的であることが指摘された。エチオピアの地方コミュニティの下部組織は農民組合(the Peasant Association)である。この組合は一つの村ないしそれ以上の村から成りたち、そこで選ばれた代表者に統治されている。

 それまでの地方人口は拡散した居住パターンを示しており、リハビリテーションプログラムを行うには不便であった。しかし、村の組織化によって、現在629万663人の人々が村に移住し、CBRプログラムを効果的に行うのに必要な下部組織となってきている。

 各地域には少なくとも一つの主要病院があり、その病院には県と地区のヘルスセンターとヘルスステーションをつなぐ組織がある。基礎的な教育サービスはエチオピアのほぼ全人口にいきわたっている。さらに、成人は読み書き教室に出席することが奨励されている。教育省(the Ministry of Education)は地方の委員会とコミュニティとの共同で、コミュニティ技能訓練センター(community Skill Training Centres-CSTCs)をほとんどの地区に設立した。このCSTCによって、どんな組織でも承認されれば地方開発に必要な技能を大衆に訓練することが可能になった。

 RADは地方の障害者にリハビリテーションサービスを供給するために、多くの省や大きな組織に協力を求めて交渉を始めた。

 最終的に出てきた計画によると、保健省(the Ministry of Health)が医学リハビリテーションサービスを担当し、RADは保健助手(Health Assistants)の特別訓練を担当する。障害予防の仕事は保健省とRADが共同で行う。教育省(the Ministry of Education)は選考された障害児が通常のクラスに出席できるよう、また、障害者がCSTCで技能訓練を受けることが出来るように協力する。農業省(the Ministry of Agriculture)は調整の役割を担当する。

 従って、RADは社会的心理的リハビリテーションサービスやコストのかからない補助器具や装置を供与しなければならない。また、すでに活動しているCSTCで職業リハビリテーションサービスを組織し、その資金調達を担当する。

 CBRシステムは新しく、初めての試みなので、まず小規模な実験で査定評価し、その後全国規模で実行する方が得策である。従って、2つの県の19の地区でパイロットプログラムを展開することが推奨され、Shoa地域のYererとKereyuおよびArsi地域のChilaloで行われることになった。

 パイロットプログラムの対象地域の人口は約170万人で、そのうち障害者は少なくとも11万人であると推定される。このプログラムによる障害者へのリハビリテーションサービスは、家族やコミュニティを対象としたサービスを行う大きな組織を通して間接的になされる。このプログラムに含まれる大きな組織とは農民組合、生産者組合(the Producers Co-operatives)、サービス組合(the Services Co-operatives)である。

 これらの大きな組織は次のことについてプログラムに協力することを約束する。

 ――農民組合は障害者の訓練期間中の維持費を負担する

 ――農民組合、サービス組合、生産者組合は、障害者が訓練完了後、コミュニティが要求する適当な条件で可能な限り就労の機会を与える。

 RADはこのプログラムに3つの主要な部門を設ける。その一つひとつの部門が互いに連携し、補足しあって実行される。CRW部門は20人のCRWスーパーバイザーを訓練し、彼等を県レベルで配置する。また、地区レベルに配置された20人のCRWは、特定のサービス組合に配置雇用された76人の草の根レベルのCRAを訓練しその仕事を監督調整する。彼等は、サービス組合が担当する町や村の障害者のために連絡、評価、照会、基本的ケア訓練、リハビリテーションサービスの仕事を担う。サービス組合はCRAの雇用および配置を行い、これがコミュニティからのプログラムに組み入れられる。このことによって、コミュニティが草の根リハビリテーションサービスの供給に積極的に参加することができると期待される。CRWとCRAは、リハビリテーション障害予防サービスを行うために教育、保健、職業訓練、農業のそれぞれのサービスと連携し、それらを活用する。プロジェクト期間中、プロジェクト対象地域において1万人をこえる障害者と接触出来るものと期待される。

 地方の職業的リハビリテーション部門は、障害者がコミュニティのニーズに関連する農業、手工芸、工業などの多様な技術の職業訓練を受けることが出来るよう援助する。障害者への訓練は、RADがコミュニティと教育省、農業省、および関連組織の協力を得て行う。訓練は既存のコミュニティ技能訓練センター(CSTC)と農民訓練センターで行われる。プロジェクトの期間中180人の障害者がRAD運営の特別コースで訓練を受け、さらに144人の障害者が統合コースで訓練を受けることになっている。6人の職業リハビリテーション教師(VRIs)がすでにRADで訓練を受けプロジェクト地域に配置された。VRIは農業、木工細工、金属細工、かじ屋、縫製、皮細工の分野の技術学校を卒業しており、コミュニティと協力して、選抜された障害者のためのカリキュラムや訓練プログラムを準備し、また、訓練期間中職業教師として働く予定である。

 Operation Handicap Internationalとの関連で履行されている安価な補助具をthe Low-Cost Aids and Devices部門は2つの小さな作業所をAssellaとRADのNazarethセンターに設立する。これらの作業所は現地の材料を使って、主に初歩的な義肢と装具のような費用のあまりかからない補助具を生産する。さらに、作業所は、村の職人やCRWとCRAが村レベルの簡単ではあるが、しかし役立つ理学療法の補助器機等を作るための訓練にも使われる。これらの村レベルの機器とは腕と脚の運動装置、松葉つえ、視覚障害者のつえ、平行棒、座るための補助器具などである。

結論

 費用のかかる施設ケアで少数の人々を集中リハビリする方策は、多数の障害者のニーズを無視することになる。したがって、限られた資源でより多くの障害者にリハビリテーションを行う方策を開発することが急がれている。包抱的なCBRプログラムを促進するためにもっとも当てにできる資源は、そのコミュニティである。障害者を援助する責任は政府だけでなく、その家族とそのコミュニティにもある。包括的なCBRプログラムでは、コミュニティにある設備、サービス、材料を活用して、できる限り費用をかけずに、障害者にその居住地で基本的なリハビリテーションを行うことが期待されている。RADはパイロットプログラムの評価結果に基づき、他の地域に同じようなプログラムを開発し実行するだろう。また、RADは現在の施設でのサービスを続けるかたわら、将来、コミュニティベースの方法を使って、さらに効率的で適切なリハビリテーションプログラムを開発し実行することに携わるだろう。

 この報告にあたって、国際組織、姉妹機関、政府、非政府組織そして大きな世界コミュニティに感謝したい。これらの援助なしにはリハビリテーションの崇高な目標に到達することは出来ないであろう。

(工藤幸子訳)

Rehabilition Agency for the Disabled, Ethiopia


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1989年2月(第58・59合併号)65頁~67頁

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