第16回リハビリテーション世界会議「ポスターセッション」 障害児療育における日比国際協力の試み(その1)

第16回リハビリテーション世界会議「ポスターセッション」

【地域リハビリテーション】

障害児療育における日比国際協力の試み(その1)

AN INTERNATIONAL COOPERATION BETWEEN JAPAN AND PHILIPPINES IN THE FIELD OF REHABILITATION FOR HANDICAPPED CHILDREN(No.1)

福嶋 正和 *

河村 光俊 **

亀ガ谷真琴 ***

Jeanne Flordelis ****

 私ども日本人は戦後40数年を過ぎ、豊かな物質的生活を享受し、老人や障害児(者)など社会的弱者もさまざまな福祉的恩恵(まだ十分とはいえないが)に預かることができるようになった。一方、東南アジアやアフリカでは、極度の貧困のため多数の餓死者がでていることもマスコミを通して私どもも知っている事実である。しかし、私ども日本人(もちろん筆者も含めて)は豊かな生活(精神的生活はどうかは別にして)にあまりに埋没しすぎているため、この地球上のこの深刻な格差について知っていても、実体験として実感できないのが実状である。

 筆者もフィリピン(以下、比国と略す)となんら関わりのなかった以前は、アフリカの飢餓などにも「対岸の火事」的関心とほんの少しの同情の気持ちを持ったに過ぎなかった。

国際協力に関わることになった契機

 星野はすでに5年以上にわたってセブ市を拠点として結核症やハンセン氏病の医療奉仕活動に献身し、成果を挙げている。星野は、国際協力を真に実効あるものにするには、現地の専門家養成が急務であるとしている。

 筆者らが比国と直接的に関わりをもつことになった契機は、星野よりセブ市での講演を依頼されたことであった。そこで、1987年1月、11月ならびに1988年11月に、PT学生、医師会会員、医学生、ロータリー会員、障害児をもつ母親などを対象に障害児療育に関する講演と示説を行った(写真1、2 略)。

比国の保健衛生的現状

 比国の保健衛生的最重要問題は国民の過半数が貧困層であるということである。しかも、貧困層ほど出生児数(平均7―8人)が多く、一部の富裕層とますます貧富の差が大きくなっている。したがって、彼らは非衛生な生活を余儀なくされ、乳幼児の栄養失調や感染症(とくに結核症、ポリオなど)が多く、また乳幼児死亡率がきわめて高い。(1984年:出生数1,000に対して日本で6、比国で58)

 近年、ユニセフなどの国際協力活動により、ようやく各種の予防接種が普及しつつあるが、最近そのためポリオは減少傾向にあるということである。しかし、貧困と慢性的な栄養失調が改善されない限り、根本的な問題解決にはならない。

比国の障害児療育

 上述の諸問題に専門家の努力が注がれており、障害児療育のマンパワーが不足し、国際協力も不十分であるため、この分野はまだまだ多くの問題が未解決のまま残されている。

 脳性麻痺に関しては、とくに未熟児、新生児仮死、核黄疸などの周産期異常は、死亡するか、生きながらえても重度障害を残すことが多い。比国全体で脳性麻痺の早期発見・早期療育がどの程度行われているか筆者が十分知るところではないが、セブ市では、今後の課題として残されている。

 また健常に出生しても、結核性髄膜炎、ポリオなどに侵されることも多く、それらの後遺症に多くの子供たちが悩まされている。

日比国際協力に関するアンケート

 筆者らの活動は国際援助ではなく、対等の立場で交流し合い、むしろ比国の専門家のイニシアテイブを尊重する国際協力であることを基本としたい。

 筆者らは1987年11月の講演の聴衆を対象にして、今後の国際協力のあり方を探るべく、次のようなアンケート調査を行った。以下、原文(英文)のまま提示したい。

Request for the Questionnaire

 It will be indispensable from the end of the 20 th to the 21 th Century to promote the international mutual cooperation between the developing and the advanced countries in the various fields from the world-wide points of view.

 We have been engaged in the medical rehabilitation for handicapped children for more than 10 years.We think that the international cooperation in the fields of medical rehabilitation between Philippines and Japan will become one of the most important tasks in the future.

 We would like to make a questionnaire to you, in order to search your opinion, how the cooperation between your country and Japan should be accomplished.

 Would you please make a mark( /)to each suitable item of the following question ? Please write something suitable in( ).

1.your date of birth(     )

  sex :1)female, 2)male

2.What are you?

 1) pediatrician

 2) other medical doctor(     )

 3) medical student

 4) PT-student

 5) Rotarian(your occupation :   )

 6) others(             )

3.Do you think, the international cooperation in the field of medical rehabilitation is necessary?

 1) yes

 2) no

 3) unclear

 In the case of “yes”, what kind of methods do you want?(The plural selection is possible)

 1) lectures on the special fields

 2) practical demonstrations

 3) guidance of the specialists for mothers with a handicapped child

 4) interchange of personnel or specialists

 5) others(            )

4.Do you have an interest in rehabilitation for handicapped children?

 1) I am interested very much.

 2) I am interested a little.

 3) I have no or little interest.

5.What are the problems or difficulties in rehabilitation for handicapped children in the Philippines?(Plural selection possible)

 1) Deficiency of the man-power

 2) Deficiency of information on handicapped children

 3) Deficiency of the international cooperation in this field

 4) Poor system of “community-care” for handicapped children

 5) The rehabilitation for handicapped children is not yet any important tasks in medical care, because there are many children with severe infection and/or malnutrition

 6) others(            )

6.We think, the cooperation of Japanese Society of Medical Rehabilitation rather than that of our individual is important. What do you think of it?

 1) the cooperation of Japanese Society of Medical Rehabilitation

 2) the individual cooperation(Please select the more important item,if you want to select both.)

 3) others(            )

7.What do you expect us to make progress in the field of medical rehabilitation for handicapped children?

Would you please describe your opinions at will? What is your impression of our lecture?

アンケートの分析

 アンケートの分析結果は表1―6に示すとおりである。

 回収総数は129であるが、配布総数が不明のため、回収率は不明である。

 回収例を年齢別に見ると、20―25歳が56例(43.4%)と最も多く、25歳以下では76例(58.9%)と青年層が過半数を占めた。また男女別に見ると、女性が67例(52.0%)で、男性の50例(38.8%)をかなり上回った。(表1)

表1 アンケート回収例の年齢別・性別分布
(総数:129) (1987年11月、セブ)
  20以下 20~25 25~30 30~40 40~50 50以上 不明 不明
20 56 15 10 5 13 10 50 67 12
15.5 43.4 11.6 7.8 3.9 10.1 7.8 38.8 52.0 9.3

 回収例を職業あるいは社会的地位別に見ると、PT学生62例(48.1%)、医学生24例(18.6%)であり、学生が3分の2の多数を占めている。また筆者はロータリークラブ例会guest speakerとして招待され、スピーチを行ったが、ロータリー会員から25例(19.4%)が回収された。(表2)


表2 アンケート回収例の職業・社会的地位別分布
  (1987年11月、セブ)
  小児科医 他の医師 医学生 PT学生 ロータリー会員 PT その他
10 24 62 25 13
7.8 7.0 18.6 48.1

19.4

4.7

10.1

 国際協力については、129例中128例とほぼ全例において必要性を認める回答を得た。そのうち、「国際協力のどの方法が望ましいか」については、デモンストレーション111例(86.7%)、講演85例(66.4%)が多数を占めたが、専門家の相互交流78例(60.9%)、障害児をもつ母親への直接指導79例(61.7%)も過半数以上に達したことも注目される。(表3)

表3 貴方は国際協力のどの方法が望ましいと思いますか?
(1987年11月、セブ)
  講演 デモンストレーション 障害児をもつ母親への直接指導 専門家の相互交流 その他
85

111

79 78 1

66.4

86.7

61.7

60.9

0.8

 回収例における障害児療育への関心度については、大いに関心あり95例(77.2%)で、少しは関心あり19例(15.4%)を加えると、関心ありが90%を越えた。(表4)

表4 貴方は障害児療育に関心がありますか?
(1987年11月、セブ)
  大いに関心あり 少しは関心あり 関心なし 無記入
95 19
77.2 15.4 2.4 4.9

 比国における障害児療育の問題点に関しては、コミュニティ・ケア体制の欠如が93例(72.1%)、障害児の情報不足が87例(67.4%)、マンパワーの不足が78例(60.5%)など身近な問題点が浮き彫りにされる。一方、「感染症や栄養失調が優先」が53例(41.1%)であることは、比国の保健衛生面での深刻さを示唆している。(表5)

表5 比国における障害児療育の問題点
(1987年11月、セブ)
  マンパワーの不足 障害児の情報不足 国際協力の不足 コミュニティ・ケア体制の欠如 感染症や栄養失調が優先 その他
78 87 51 93 53

60.5 67.4 39.5 72.1 41.1 4.7

 組織的協力か個別的協力かについては、組織的協力が62例(48.1%)、個別的協力が37例(28.5%)、「両方の協力が必要」が22例(17.1%)であった。このことから、組織的協力を望む者が過半数に達しているが、両方の協力を望む者を加えると、筆者らのような個別的協力もまだまだ必要であるように思われる。(表6)

表6 組織的協力か個別的協力か?
(1987年11月、セブ)
  組織的協力 個別的協力 両方の協力が必要 無回答

62 37 22

48.1 28.5 17.1 6.2

日本におけるアンケートとの比較

 日本においてもほぼ同様のアンケート(多少修正しているが)を昭和63年1月から3月にかけて千葉大医学部学生、千葉大医師、金沢大医療技術短大部学生、京大医療技術短大部学生などを対象に行い、合計310例を回収した。その詳細については紙幅の都合で割愛するが、日比の国際協力についての意識を比較してみたい。

 国際協力については、205例(66.2%)が、その必要性を是認しているが、99例(31.9%)が「よく判らない」と応えている。これは比国では国際協力が切実に要望されている一方、日本でも国際協力の必要性は認識されていながらも、まだ現実の問題としては十分捉えられていないように思われる。

 国際協力の方法については、留学生の受け入れ(奨学金による)が123例(39.7%)、デモンストレーションが121例(39.0%)、障害児を持つ母親への直接指導が102例(32.9%)などが主なものである。日本では、「留学生の受け入れ」が多いことおよび比国でのアンケートにおいて「専門家の相互交流」が60.9%であったことより、国際協力は一方的ではなく、相互交流が重要であることを示唆している。

 上述の比国の問題点を考慮して日比国際協力をどうすべきかという設問に対しては、「専門家を現地に派遣し、現地の専門家養成に協力する」が、176例(56.8%)、「現地専門家と協力して障害児療育活動を行う」が、167例(53.9%)と過半数を占めた。一方、ここでも「感染症や栄養失調の子供たちへの国際援助が急務」が、117例(37.7%)であったことは、比国の保健衛生的現実に対する日本での認識が比国でのそれ(41.1%)とほぼ一致していることを示唆している。

 組織的協力か個別的協力かについては、組織的協力が252例(81.3%)と圧倒的に多数を占め、個別的協力が15例(4.8%)と極めて少数であったことが注目される。その理由としては、個別的協力では経済的にも能率的にも限界があることを指摘している例が多かった。比国でも上述のように組織的協力が約半数(48.1%)を占めたが、個別的協力への要望も少なくなかったこと(個別的協力が28.5%、両方の協力が17.1%)が、日比の意識の相違として注目される。

 今回の国際協力に関する日比の意識調査は、母集団が極めて限定された集団であるため、これがそのまま日比全体の意識の相違と決めつけることはできないが、おおよその傾向は把握できるものと思われる。

結語

 善意の国際協力も、相手国の国情、歴史、考え方、習慣などの違いにより誤解を生じ、国際摩擦を起こしやすいことは、最近の国際問題により明らかである。今後、国際協力の一方的な押し付けではなく、日比対等の協調関係もしくは相互交流を推進していかなければならないと考える。

 私どもは、このアンケートの結果を十分に吟味し、セブ市における障害児療育の発展のために微力を尽くしたい。私どもの活動はようやく千里の一歩を踏み出したに過ぎないが、今後は具体的には、次の3点の活動をセブ市の専門家と協議して推進していきたい。

 1)障害児療育に関する講演とデモンストレーション

 2)比国の専門家の日本での研修

 3)セブ市における障害児の早期発見・早期療育システムの確立

 本論文の要旨は、第25回日本リハビリテーション医学会および第16回リハビリテーション世界会議で報告した。

 本アンケートにご協力いただいた比国の学生、医師など、ならびに日本でアンケートにご協力いただいた千葉大医学部学生と医師、金沢大医療技術短大と京大医療技術短大の学生の諸氏に深謝申し上げるものである。

参考文献 略

*千葉市療育センター
**金沢大学医療技術短期大学部
***千葉県こども病院
****Cebu Doctors' Hospital


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1989年2月(第58・59合併号)68頁~72頁

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