第16回リハビリテーション世界会議「ポスターセッション」 電気刺激装置を用いた麻痺患者の運動リハビリテーションにおける技術的進歩

第16回リハビリテーション世界会議「ポスターセッション」

【リハビリテーション工学】

電気刺激装置を用いた麻痺患者の運動リハビリテーションにおける技術的進歩

TECHNOLOGICAL PROGRESS IN REHABILITATION OF LOCOMOTION OF PARETIC PATIENTS USING ELECTRICAL STIMULATORS

R. Acimovic-Janezic *
M. Kljajic **
U. Stanic **
N. Gros
B. Pangrsic
*
J. Rozman **
M. Malezic **
U. Bogataj **

序文

 ある種の中枢神経系の病気や怪我の後生き延びた患者の大多数は、運動システムの疾患に現われる後遺症に一生苦しむ。終身に及ぶ疾患(不全麻痺や種々の麻痺)は、より広い意味においてばかりでなく、運動といった基本的な日常行動においてさまざまな障害を克服する時に重要な問題や困難を提示する。

 技能や技術が発達したため、麻痺患者対象のリハビリテーションプログラムによって機能を改善できる可能性がいろいろ生じている。電子工学的装置や電気機械装置が、治療手段や整形具として長く用いられているが、患者のニーズに最も合致するばかりでなく専門的基準に従っているシステムはどれであるのかを見極めるために、機能性、信頼性、美的外観を考慮に入れながら非常に多く(2,500症例)の主に片麻痺患者を対象にし研究を行った。リハビリテーションの一方法として機能的電気刺激(FES)が発明されて以来、それを応用することは一つの目的であったが、一つの問題でもあった。最初の腓骨筋刺激装置が記載されて以来、いくつかの電子工学装置が開発され、応用された。マイクロ電子工学や微小電極の技術が進歩したことによってさらにより選択された電気刺激を、特に埋め込み式刺激装置を用いることにより期待できるが、それ以上の機能的矯正は患者側の受け入れ限界次第である。

 当研究の目的は、運動を矯正するために用いる電気刺激装置(ES)の型の妥当性を確立し、患者がリハビリテーションプログラムの課程の中でESを取り入れられるようにすることである。

方法

 リハビリテーションの基本的なアプローチの一つは、作業の中に診断、患者の選択、複雑な治療用のプログラムおよび特定のFESシステム選択を含む協同研究チームによる方法である。これに伴なって、患者の身体や精神の状態、技術上の特性、中でもとりわけ患者側の受け入れについて確かな決定を下しておく必要がある。これらの事項のいくつかは相互に関係しているが、しばしば互いに相反する。従って、いかなる解決策であろうとも、以下のような原則につき評価規準を満たすものでなければならない。

・装具は患者がそれなくしては可能でないような活動を行う機会を与えること。

・装置は実際のニーズに役立つこと。不必要な器具を付けるのは必要な器具を用いないのと同じように危険である。

・ブレイシングで達成できないような機能は避ける。装具が問題に対する不動の解決法というわけではない。回復期に何ヵ月あるいは何年かにわたって有意義に利用したとしても、いつかは患者と医師の双方がその使用をやめねばならない。

・患者が外観や自分でつけるということを含んだ上でその装具を受け入れるということは、美的に魅力的な装具の方がずっと受け入れられ易いことを意味している。

 リハビリテーションのゴールは通常以下の段階を経て達成される:患者選択段階、実行段階(FES装置決定、治療あるいは終身使用のため電極の位置決定)および評価段階。

 歩行矯正に対するFESの効果は、臨床観察、電気生理学的測定(筋電図、伝導運動速度)に基づいて評価し、生体力学的データは、測定用の靴つまり電気測角器を用いて力を測り具体化した。

結果および考察

 患者の特徴 過去10年間に処置を行った2,500人の患者グループの中から無作為に選んだ1,575人の代表患者サンプルを分析した(女性730人、男性845人、年齢21歳―63歳)。主たる病状(脳卒中、脳損傷、腫瘍手術、高部脊髄損傷、多発性硬化症)が原因で第一次的処置をした後、平均4―20ヵ月後にみられた損傷は以下のものであった。左半身麻痺(725人)、右半身麻痺(780人)、左+右半身麻痺(70人)。歩行回復のための電気刺激装置の分布を図1に示す。

図1 FES処理

図1 FES処理

 刺激装置の特徴 A.多チャンネル電気刺激装置は、動けない患者をできるだけ早期に起立させ、移動を可能にすることを根本目標とする症例にふさわしい、診断上、治療上の手段として役に立つことが証明されている。治療に用いた6チャンネルのマイクロプロセッサー刺激装置には、真中に16個のスイッチが6列あって刺激順序が選べるようになっており、これらに続く右側には、各チャンネルに、左または右のどちらかのかかとのスイッチと、振幅ノッブにより誘発がなされるのを選択するためのスイッチがある。測定した統計的データは液晶表示装置の左側にある押しボタンによって最上部右コーナーに表示される。以下のような歩行パラメーターが測定でき、そのセッションの後ただちに利用できる:ステップ数、一歩当たり平均時間、歩行の時間的均整、両方の脚について標準偏差がついた平均、かかと着地時間。

 

 多チャンネルFESで治療した2―3週間後に、ほとんどの患者は足首背面屈曲と膝牽引用の2チャンネル装置が必要となろう。このようにして我々は電気刺激装置の単一チャンネルシステムと多チャンネルシステムとの間で、ある種の区別を行うところまで進んだ。

 B.単一チャンネル表面刺激装置 1) システムPO10.機能的腓骨筋電気ブレイスは麻痺患者の歩行の機能的矯正を目的としており、刺激装置、電極ケーブル、電極、伸縮自在膝サポートおよびマイクロスイッチ付靴内底から成る。

 2) 膝下腓骨筋刺激装置MICROFESは上部運動ニューロン損傷の患者用の電子工学的補助具で、装具および治療具として用いる。この刺激装置は膝の真下に付ける。刺激装置と表面電極は伸縮自在サポーターを用いて適所に納める。

 3) IPPO埋め込み式腓骨筋刺激装置を図2に示す。(図2 略) これは、患者の歩行の刺激と同調するかかとのスイッチおよびアンテナから埋め込み物へと伝導される刺激パルスやRFエネルギーのバーストを生産する電子工学回路構成部分付コントロールユニットから成る。コントロールユニットの寸法は、6×4.5cmで、患者は膝下でベルトに下げて装着できる。埋め込みに要する外科的手続きは短かく(20―30分)、簡単で、局部麻酔をして行う。短かい切開(3―5cm)を行って、神経を露出させ、埋め込み物をその隣りに置く。

図2(写真) 皮下腓骨神経電極付き埋め込み式腓骨筋ES (略)

 評価 手術の間に、目的とする刺激の効果を客観化しまた埋め込み物の電極の位置をコントロールするため歩行評価と電極配置の定量方法が開発されている。図3に刺激がある場合と無い場合のIPPOを用いた麻痺患者の歩行を例として示す。IPPO刺激を用いたことによって地面反応力の適用箇所が著しく矯正されていることが明白である。分析を行った電気刺激装置の第一世代には改善がなされたにもかかわらず、煩わしさは部分的に続いている。例外であるのはIPPOで、使用が非常に簡単で、確かで、ずれた埋め込み物の5回に及ぶ再埋め込みにもかかわらず、患者からの要望が最も頻繁にある。毎日絶え間なく使う結果として、歩行中の慢性電気的刺激が原因で、痙攣性腓腹筋の張度成分が減少することが結果として最も客観的なことである。単一チャンネル電気システムに関する最終結果から得られる結論は、単一チャンネル電気刺激装置のうち、埋め込み式膝下腓骨筋刺激装置が最も妥当な装具であるということだが、我々が足の最も望ましい選び抜いた背屈を実現することができなかったことから、埋め込み物の形の修正が必要であると信ずる。これは我々の分析で、埋め込んだ電極のずれが原因で繰り返し5回埋め込みをしたことが示されているために、埋め込み物の固定に修正を行うことも当然含まれている。

図3 患者の地図反応力。刺激無患者(実線)。刺激有患者(点線)

図3 患者の地図反応力。刺激無患者(実線)。刺激有患者(点線)。
 我々は客観的な規準によって電気装置の装具としての品質に関して、非常に重要かつ有益な情報を得ることができたが、最も重要な規準は障害者自身がその装置を受け入れるかどうかであろう。

(早田 信子訳)

参考文献 略

*University Rehabilitation Ljubljana, Yugoslavia
**Institate Josef Stefan, Ljubljana, Yugoslavia


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1989年2月(第58・59合併号)89頁~92頁

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