補装具とリハビリテーション用具、その供給と情報―マレーシアから

〈特集〉第16回リハビリテーション世界会議「プレ/ポストコングレス・セミナー」

 

補装具とリハビリテーション用具、その供給と情報―マレーシアから

ORTHOSES,PROSTHESES AND REHABILITATION AIDS:SOURCES,DELIVERY SERVICES AND INFORMATlON 

―PERSPECTIVE FROM MALAYSIA―

Zaliha Omar

 マレーシアは昨8月31日に31歳になったばかりの若い国であり、障害者の必要に応じたサービス供給のどの点から見ても、いまだ揺籃期にあるといえる。我が国ではリハビリテーション医学がその専門性を認められたばかりである。もっとも、リハビリ的な医療行為は特にハンセン病や第二次大戦時の四肢切断などに関して、我が国の独立以前から行われてはきていた。今日では、国連障害者の10年の終わりに近づくにつれ、マレーシアの人々も障害者が必要としている事柄に関心を寄せるようになってきはじめている。保健省、文部省、福祉省、そして寄与は少ないが労働省が障害者のための政府サービスの責任を負っている。先進諸国におけると同様に、我が国においても障害者は社会保障制度を通じて自動的に国家責任となるわけではないので、身体障害者に対するケアの提供における民間部門の果たしている役割は大きい。これには、ボランティア組織、補装具や福祉機器の製造企業、さらに、寄与は小さいが、開業医や医療関連職種などがある。最後に、しかし最も重要なグループとして障害者自身の家族がある。

最初の相談窓口

 障害者やその家族によって、抱えている問題や必要な用具について相談するための決まった標準的な方法があるわけではない。福祉省は障害者の自発的な登録を奨励しており、それには、ソーシャルワーカーと医者の事前審査が必要とされる。現在までに総計4万7588人が登録している。総理府の監督下の独立組織である国家人口・家族計画委員会は障害者、特に障害児の登録を促進するための運動に着手している。しかし、これによって登録した人数はわずかである。1984年の国勢調査では、マレーシアの人口は1500万人であり、現在の人口は1600万人と推定されている。WHOの開発途上国における障害者の出現率の推定値である10%を適用すると障害者の数は160万人と推定される。上の登録者数はあまりにも少な過ぎると思われる。

 障害者が最初に相談するのはさまざまな人々である。ボランティアの場合もあり、福祉担当官、大学病院の医者、国立病院の医者、開業医、医療関連職種、他の障害者、補装具製作所やリハビリテーションセンターの職員である場合もある。

マラヤ大学医療センターにおける委託制度

 マラヤ大学医療センターにおいては、リハビリテーションを必要とする患者は最終的には病院のリハビリテーション部門に入る。リハビリテーション部門は整形外科にこ属しており、整形外科の担当教授によって運営されている。従って、整形外科のすべての医者は、リハビリテーション部門に接触したり、補装具やリハビリテーション用具の製作者と直接議論することもできる。しかし、委託先としてはリハビリテーション外来(これはリハビリテーション部門の外来部門である)を通じる方が望ましいであろう。

 ここでは、リハビリテーション評価、リハビリテーション計画、フォローアップと再評価、総合リハビリテーションプログラムの調整が効率よく行われているからである。患者は民間からの外に、医療関連職種、ボランティア組織、国立病院、社会保障機関、福祉省の事務所、開業医などから委託されてきている。

マラヤ大学医療センターにおける福祉機器の支給

 マラヤ大学医療センターにおいて直接供給している福祉機器はほんの限られたものである。松葉杖や歩行補助杖、簡単なシート、地元で得られる材料で作った日常生活用具や簡単な改良をほどこした移動補助具などである。高価で高度の福祉機器はリハビリテーション外来を通じて福祉機器の5大メーカーか、ほかの2、3の医療機器メーカーあるいはクアラルンプールおよびクラング渓谷地区の10あまりの製薬業者から購入することができる。

 福祉機器を必要とする患者はリハビリテーション外来に委託され、ここで他の関連専門職員とともに機能評価を行う。病院で製作するか、企業から購入するための処方箋を発行する。機器を利用するための訓練はリハビリテーション部門で行われる。

 他の病院では、クアラルンプール総合病院以外にはリハビリテーション外来を持たないので医者そしてあまり頻繁にではないがPTやOTが福祉機器を供給する責任があると考えられている。

マラヤ大学医療センターにおける補装具の支給

 マラヤ大学医療センターは設立25周年を祝っている。設立以来補装具製作部門は病院に関連したすべての補装具を供給してきた。しかし、5年前から装具の製作のみに限定しており、義肢の製作は実験的なものに限定している。我々の製作部門は義肢の製作に要するすべての機器を備えているわけではなく、また義肢の製作は福祉省の運営する補装具製作所の外に、2つの大きい企業とひとつの小さい企業で効率よく供給されているからである。装具の製作に専念して以来、病院における過去の経験から見てもサービスの効率化、装具製作とアフターサービスのすべてにおける技術的改善において格段の進歩を達成した。補装具製作の技術的知識の改善を可能とするに際しての日本政府およびドイツボランティア協会の援助に感謝する。

 補装具を必要とするほとんどの患者は評価、支給、使用法の訓練およびフォローアップのためにリハビリテーション外来に委託される。

 国立総合病院においては補装具を必要とする患者は整形外科外来で診察を受け、国立義肢適合センターで製作を受ける。迅速なサービスを必要とする場合には、民間の補装具製作所によることになる。

 補装具を必要とする障害者が、福祉省の出先のソーシャルワーカーに相談し、直接補装具製作者の紹介を受けて製作を依頼することも、とくに地方においては稀ではない。

 開業医からの場合には、民間の補装具製作会社に直接依頼する場合もあれば、マラヤ大学医療センター・リハビリテーション外来を通じて、間接的に依頼する場合もある。

利用可能性に関する考察

 マレーシアは南支那海によって分割される西部マレーシアと東部マレーシアとの2つにわけて考えることができ、33万434kmの面積を有している。人口は西部マレーシアに1300万人、東部マレーシアに300万人であるが、主として農業地帯にすんでいる。しかし、これに反し、補装具や福祉機器サービスは都市部に集中しており、多くの人々にとってその利用を不可能としている。

 民間の補装具製作センターは4社あるが、そのうち3社は首都クアラルンプールにあり、マラヤ大学医療センター補装具製作部および国立義肢適合センターも同様である。福祉省の捕装具センターは首都から50km離れたクラングにある。もう一つの補装具センターも、現在ではあまり患者はいないが、ハンセン病患者のリハビリテーションにとっては歴史的に重要なものであり、クアラルンプールに近く、30kmしか離れていない。

 半島の最南部の住人にとっては、シンガポールが補装具、福祉機器のための避難所となっている。

 したがって、補装具、福祉機器を必要とする障害者のほとんどは、これらの機器を得るために首都まで出向かなくてはならない。すなわち、家庭を離れた何百マイルもの旅行を意味する。しかし、車いすや歩行器具は近くの町の地域の薬屋から購入することもできる。障害者の中には、地元で入手可能な材料を使って、自分で必要な道具を発明したものもいる。自分で義肢を作ろうとするものもいる。少なくとも北部の2つの都市、イポーとペナンそれに他の都市には補装具士や職人が出張し、採寸した後、納品と適合のために再度訪問することもある。

情報サービス

障害者に情報を普及するための公式に組織された情報センターや巡回展示機関は現在までのところ、特に農業地帯においては存在してはいない。しかし、医者、病院職員、電話帳、特にボランティア組織や福祉省の出先機関などから十分な情報を得ることができる。特に、イポー市のボランティア組織、Yayasan Sultan Idris Shah 財団は真に地域に根ざし、地域と分かちあうリハビリテーションを発足させた。ここでは、地域教育プログラムを経常的に開設しており、これによって福祉機器に関する情報を公衆に公開している。頻繁に展示会が開催されており、かなりの情報がここから得られている。

福祉機器マーケット

 障害者人口の正確な統計も存在しないので、福祉機器マーケットをいくぶんなりとも正確に推定しようとするのは困難である。一般的な印象からすれば、我々には現在よりももっと多くの福祉機器が必要であることは確かである。しかし、サービスを必要とする障害者とその供給者との間に十分な情報交換を保障するための組織的な福祉機器資源や情報サービスの方がより必要とされていることに留意すべきであろう。

 捕装具の供給に関する限り、現在の補装具センターは十分に利用されてはいないと思われる。これは、これらのセンターが首都圏に集中していることからも驚くべきことではない。一つの解決策としては、地方の障害者のための巡回システムを作ることであろう。わずかの専門家を十分に活用し、すべての障害者にサービスを提供することを可能とするために、単純な委託システムを計画することができるであろう。

将来のためのニーズ

 福祉機器の需要に関しては、より精密な予測が必要である。なぜなら、需要に見合った適切な計画を策定し、それに従った執行が可能となるからである。情報センターの組織化は、おそらく地域社会にとって近親感のある既存の各種サービスを利用したものとなろうが、それによって、相談者の適切な選別と、単純で理解しやすい委託システムが望まれる。地域に根ざしたリハビリテーションプログラムを補完するものとしての巡回システムの重要性は強調し過ぎることはないであろう。サービスの効率をモニターするための監査システムを採用する必要もある。最後に、ケアのための専門家が少なく、ここ数年間はこの状態が続くであろうから、総合リハビリテーションサービスを提供するための統合的なシステムの構築はチャレンジの対象として存在し続けるであろう。

Malaya Unnivwrsity,Malaysia

参考文献 略


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1989年3月(第60号)3頁~6頁

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