異なった国々におけるリハビリテーション技術の供与―カナダの場合

異なった国々におけるリハビリテーション技術の供与―カナダの場合

PROVISION OF REHABILITATION TECHNOLOGY IN DIFFERENT COUNTRIES―CANADA

Morris Milner

 カナダにおける医療ならびにリハビリテーションサービスは連邦政府ではなく州政府の責任で行われており、10州それぞれが独自の保健サービス提供システムを持っている。この報告ではオンタリオ州保健省の補助機器計画について解説・議論することにする。

 カナダには福祉機器の製造業者は少ししかないが、福祉機器の商品化と技術転移の成功例とともに特に著名な機器メーカーについても触れることにする。

 技術に工学が関連した情報サービスはさまざまのところから得られるが、そのいくつかについても述べることにする。リハビリテーションのための機器や設備の研究開発の経費は慈善基金だけでなく州や連邦政府によってもまかなわれている。この分野にも言及する。

オンタリオ州保健省補助機器計画(ADP)

 1982年の6月まではオンタリオの住民は長期の障害のために補助機器を必要とする場合には、基本的には個人べースの保険、もしくはそれら機器の供結を目的とした慈善団体に頼っていた。障害児童は慈善活動の成果により伝統的に豊かな援助を受けており、彼らに対しては適切な対応がされていた。1982年の7月からADPは児童(19歳以下)のための補助器具の供給を開始した。この中には移動用機器、補聴器、補装具、ストマや失禁症のための用具も含まれる。1983年の1月には呼吸用補助器が、1984年の4月には視覚とコミュニケーション機器が加えられた。この計画の基本的な目的はそれぞれの障害者が必要とする医学的(リ)ハビリテーション機器を得られるようにすることにあり、指定した機器については75%の費用を負担することになっている。これらの機器は機能障害を回復、改善するものから、機能の悪化を防ぐもの、喪失した身体の部分を補填するもの、苦痛を軽減するためのものにまで及んでいる。1986年には範囲を成人にまで拡大して、補装具と呼吸補助器の支給を開始し、現在ではすべての種類へと拡張されている。

 この計画では機器のコストとその適合の査定のためのコストの一部を提供しているが、はじめのうちは処方や適合評価のための人的資源は、病院やリハビリテーションセンターの予算で賄われることになっている。

 医学的な評価の後、機器専門家に委託して詳細な処方箋を作成することになるが、これには適正価格を記載してある。この専門家はADPに登録した健康管理の専門家である。義肢や特別な坐具、高級なコミュニケーション機器のための処方を行う場合には、認可された診療所の登録された専門のチームによる評価が必要とされる場合もある。ほとんどの場合福祉機器はどのメーカーのものでも良いことになっている。ADP登録業者は処方された福祉機器の承認価格の75%を直接ADPに請求し、残りの25%を依頼人に請求する。ADPはその福祉機器を審査し認可する。ほとんどの機器に対してADPは承認価格を決めている。

 福祉機器を非登録業者は全額を支払わなくてはならず、ADPから認められた額までの払い戻しを受けることになる。

 処方箋を発行した機関は支給した機器やシステムの使用法について、患者(そしてその家族や介助者)を教育、訓練する責任を負っている。

 この制度によって支給された福祉機器はそのほとんどが使用者所有となる。高価なコンピュータやコミュニケーション機器などは貸与でしか供与されない。

 この制度では、医学的に承認できる理由があれば、身体の成長によるためであってもADPが補助して購入した機器の交換のための費用も支給する。

 もし紛失したり修理不能なまでに壊れてしまったなどそれ以外の理由で機器の交換が必要となった場合には、ADPはその機器の種類に応じてあらかじめ定めておいた期間に応じて交換の費用を負担する。

 個人の好みは多種多様なため、差額を支払いさえすればこの制度によって指定されていない機器も選択することができる。

 価格の25%の個人負担の部分やこの制度に指定されていない機器に対する他の財政的な援助が慈善基金や州や市町村によるプログラムによって得られることもある。

 機器専門家や指定業者は選別の後に任命される。機器専門家としての認可を受けるためにはその地域のADPの講習会に出席しなければならない。

 この制度は関連分野の専門家、および経験者よりなる諮問委員会の助言を受けている。

 諮問委員会には福祉機器の種類に応じた小委員会がある。処方や評価の手続きを含めて最も効果的で能率的なサービスの提供のための助言を行う。この制度を評価することはもとより、福祉機器やシステムの研究開発や職員の研修をも含む新しい施策に関する提案も行う。

機器専門家の要件

 機器専門家の要件としては以下のものが挙げられる。リハビリテーション一般と専門分野に関連ある事項についての十分な知識、一般的な適合査定の技術、リハビリテーションを必要とする人口に影響を及ぼす病気の経過に関する十分な知識、例えば急速に変化するニーズの予測、関連機器、その特性と禁忌に関する十分な知識、新しい技術開発に興味をもち、それに追随する能力、そして患者が機器を安全で適切な使用法を学ぶことを援助する能力などである。

消費者および支援グループとの協力

 諮問委員会の活動には、これらのグループの参画が有益である。これらのグループの参加を得て毎年会議を開き、情報を共通のものとし、利益の重複した分野についてADPの主導の下に、分担や資源の再配置の可能性をさぐっている。

販売業者の参加

 諮問委員会はまた、販売業者に対して福祉機器を常に入手可能とするためには彼等の協力が必要なので、彼らの経常的な参加にも期待している。

障害者用福祉機器システム(TASH)とリハビリテーション工学ユニット(RTU)

 TASHは通常の販売業者からは普通には得ることのできない福祉機器の利用や販売を促進するために10年以上前に設置された。それは、カナダの国立研究機構と、カナダ障害者リハビリテーション協会の共同事業として設置された。10年以上にわたって、資金は国立研究機構が受持ち、運営はリハビリテーション協会が行ってきたが、現在は基本的には自立した運営ができるようになっている。国立研究機構はこの間、リハビリテーション工学ユニット(RTU)を通じて資金供与を行ってきたが、RTUは研究機関やリハビリテーションセンターで開発中のものと、開発の完了した福祉機器を調査し、区分している。ひきつづき、機器メーカーと合意・協議し、市場調査のための試作を行い、最終的にはTASHによる配布を行う。このようにして、種々の製品が消費者に届けられている。

バラエティアビリティーシステム社(VASI)

 これは、市場の限られた福祉機器類の製造販売のための設備とそのためのスタッフを有する組織である。VASIは障害児のための慈善団体であるオンタリオバラエティクラブがスポンサーになっており、ヒュー・マクミラン医療センター(HMMC)(オンタリオ障害児センター)のリハビリテーション工学部によって運営されている。その製品は特殊な固定装具や歩行具、姿勢保持のための座具や椅子型システム、動力義手、上腕や種々の電動制御システム(筋電義手を含む)などの電動上肢の部品、そして記号使用者のためのコミュニケーション機器などがある。

 その製品のほとんどは、HMMCで開発した機器から生まれているが、それらはHMMCにおいて徹底的な医学上のテストと評価を定期的な臨床サービスを通して行ったものである。このような運営方法によって、研究室からメーカーヘ種々の機器の技術転移を効率的に行い、次いで最終消費者にわたすことに成功している。VASIの製品は広く世界中に流通しており、研究開発はオンタリオバラエティクラブ(28号計画)の援助を受けている。

車いす製造業者

 カナダの主要な車いすメーカーはエベレストアンドジェニングズ(E&J)とフォートレスサイエンティフィックの2社であり、共に性能の良い電動車いすを販売している。E&Jは手動の車いすも作っている。

技術情報サービス

 病院における医療サービスの中で障害者を援助するのに有用な技術に関する情報が得られていることが多い。例えば、HMMCは専門家や消費者にとって有益な膨大な量の図書資料を持っている。

 トロントにあるカナダ障害者リハビリテーション協会(CRCD)には図書館があり文献の集積を行っている。ブリティッシュコロンビアでは、キンズメンリハビリテーション財団は優れたコンピュータベースの情報資源を提供しており、また、非常に多くの種類の福祉機器の展示を行っている。ここを訪れた者は、これらを自由に使ってみることができる。

 多くの医療サービスプログラムにおいても福祉機器の展示を取り入れはじめている。

福祉機器の開発資金供与

 福祉機器開発のための連邦政府の財政援助は、医学研究審議会(大部分は大学における基礎研究に)、カナダ厚生省の国家保健研究・開発計画(応用研究と臨床研究に)、自然科学技術研究機構(主として大学での工学研究に)などである。オンタリオ州では、州政府からの資金も供給されている。それらはオンタリオ厚生省(OMH)やオンタリオ地域・社会サービス省からである。OMHのADPは、この計画にふさわしい研究・開発のために間もなく約600万ドルを支出することになっている。この中で、障害者のための福祉機器の分野においては、新しい機器の開発、既存の機器の評価、サービスの供与法、そして、訓練員と研究者の養成に使われることになろう。

 さまざまなリハビリテーション技術の開発には、多くの慈善団体も役立っている。それらのなかには、アトキンソン慈善団体、カナダ対麻痺協会、弱児童病院財団、オンタリオイースターシール協会、マックスベル財団などがある。CRCDは資金提供先に関する冊子の編集を行っている。

今後の展開

 成人、特に老人の福祉機器の需要に本格的に取り組む必要がある。職業リハビリテーションの分野においても努力が払われるべきである。ここでも、技術が果たすべき重要な役割があり、障害者が家庭および、地域社会において長期に活発に機能できるようにするためのニーズは大きい。

*Department of Rehabilitation Medicine,University of Toronto,Canada


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1989年3月(第60号)6頁~9頁

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