リハビリテーション機器の用語と分類

リハビリテーション機器の用語と分類

─ISO(国際標準化機構)による提案とわが国の対応─

加倉井周一*

はじめに

 最近の国民の老齢化につれて障害者・寝たきり老人等に対するリハビリテーション機器(以下リハ機器と省略)に対するニーズがますます高まりつつある。リハ機器にはさまざまな問題があるが、その一つに用語と分類がある。本邦でもリハ機器・福祉機器・福祉関連機器などさまざまな呼び方がされているし、どこまでを範囲とするかについても必ずしも関係者のコンセンサスが得られていない。リハ機器の一部である義肢装具(車いす・杖・歩行器を含む)については、すでに日本リハ医学会リハ機器委員会が中心になり福祉関連機器用語〔義肢装具部門〕としてJIS規格が制定されている(JIS T 0101-1980、1986改定)が、他のものについては全く野放しである。最近ではISO(国際標準化機構)が新しいリハ機器の国際規格案を提唱しており、今後我が国にも影響を与えることが予想されるので、その状況について説明する。

1.Nordic Classification SystemとISOの国際規格案がまとまるまでの経過

 福祉の先進国である北欧では、Nordic Committee on Disability が Nordic Classification & Registration System of Technical Aids for the Disabled(以下NNHと省略)を1978年8月に制定、その後内容を改良し1986年には第3版がでている。この分類の特徴はリハ機器を10の大分類(クラス)に分け、更にその下に中分類(サブクラス)・小分類(区分)と構造的な組立てを行っているほか、各々に3つとびの2桁のコーディングナンバーをふってある(小分類は6桁になる)。3つとびの番号がついている理由は、将来新しい項目をおこす際のことを考慮したためである。このNNHは北欧以外のヨーロッパ諸国(例えばオランダ)で採用されているが、その後1980年5月に発足したISO/TC173(リハビリテーション機器システム専門委員会、幹事国スウェーデン)の中に設けられたSC2(用語と分類専門分科会、幹事国オランダ)において国際規格のたたき台として取り上げられ、種々の検討を重ねた結果1989年4月にリハ機器の国際規格案ISO/DIS9999として我が国にも回覧されてきた。

2.ISO国際分類案の骨子

2.1 国際分類案の目的

 この分類の目的は使用者(障害者)・医師を含めたリハ関連職種・リハ機器の処方者・生産者及び供給者・政府当局・社会保障関係者・使用者団体の相互のコミュニケーションをはかることにあり、具体的には、①リハ機器の探索と選択が容易に行える、②情報・使用の指示・選択基準・法的な文書、研究、リスト、カタログなどに用いられる用語の統一、③在庫管理などリハ機器開発のための基礎資料となる、④様々なレベルのリハ機器の改良に関する統計の基礎となる、⑤コンピュータベースの情報システムとして利用される、などが考えられるが、最も大きな利点は⑤にあるものと思われる。

2.2 リハ機器の定義

 障害者が使用する製品・機器システムで、障害者の機能・形態障害(impairment)、能力障害(disability)及び社会的不利(handicap)の防止・代償・軽減又は中和のために特別に作られたか、もしくは既製品として存在するもの。

2.3 国際規格案の範囲

 原則として障害者個人が使用する機器を対象とし、医薬品・原則として医療領域でのみ用いられる機器・リハ機器操作訓練に関するもの、及び設置のための設備・支給システムに関するものは含まれていない。また現状では公共輸送機関ならびに建築へのアクセスはこの分類には含まれていないが、後日再検討したいとの意向である。

2.4 リハ機器の分類とコード化

 前述したように、本分類の特徴はリハ機器を機能的に大中小の3つに分け、各々に2ケタの番号がついていることにある。1つのクラスはサブクラスの総和に等しく、1つのサブクラスはその区分の総和に等しい(別の言い方をすれば、1つのクラスはサブクラスに、また1つのサブクラスは区分に分解できる)。しかし実際には多様な障害者のニーズに対応した様々な機器があるので、この分類に機械的にきれいにあてはまる訳にはいかない。機器の重複分類を避けるためある項目に関連する他の項目はその番号を参照せよということで逃げている。例えば0303呼吸療法用具(サブクラス)の項目には、バイブレーターは032712(区分)を、環境改善器具は2703(サブクラス)を参照せよという記載がある。

2.5 ISOの国際規格分類に対応する北欧と我が国のリハ機器の品目数

 参考として、ISOの大・中分類と我が国のリハ機器があてはまる品数ならびに北欧のNNHに登録されている種類を表1に示した。但し用語は仮訳であり、*印のついたものは大・中分類のみで小分類項目がないものである。我が国の機器がNNH及びISOの概念に必ずしもあてはまるとは限らないことに注意されたい。このうち東京都社会福祉協議会の福祉機器登録制度は、飯田橋にある福祉機器展示ホールの機能と連係して1986年3月にNNHのシステムを参考にした我が国初のリハ機器コンピュータベースの登録システムであり、これまでに約1,800件の機器がインプットされている。北欧と我が国の機器品数を比べてみると、いずれもパーソナルケア用品、移動機器、家具・家庭設備品が多く、このあたりがリハ機器の中心となることが理解される。我が国に比べて北欧では治療訓練機器が多いのは、後述するように国情の違いによるためである。またハンドリング機器が多いのは分類の概念の違いによるためと考えられる。意外だったことは環境改善機器・工具とレクリエーション機器が少ないことで、何か訳があるのかもしれない。ISOの分類を全般的にみるならば、障害者のQOLの拡大につれてリハ機器の中身が介助機器から自立を助けるものに次第に移行することが予想され興味ぶかい。

表1 リハビリテーション機器の分類と本邦及び北欧における品数

ISO/DIS 9999による分類
(大・中分類のみ)

東京都社会福祉協議会
福祉機器登録システム
(1989.7)

福祉機器用品年鑑
88-89年版掲載品
(時事通信社刊行)

Nordic Classification
System(1985)

03 治療・訓練 65(3.5%) 281(5.2%) 210(15.9%)
 0303 呼吸療法用具   31 12
 0306 循環治療用具    
 0309 光線療法用具    
 0312 ヘルニア治療用具     16
 0315 透析治療用具     11
 0318 薬飲み器  
 0321 注射器     17
 0324 試験器材   31
 0327 刺激装置    
 0330 温熱・寒冷療法用具    
 0333 褥創防止装置     40
 0336 認知療法器*    
 0339 視力訓練器    
 0342 コミュニケーション訓練器具    
 0345 脊髄牽引療法器具*    
 0348 動作、筋力、バランス訓練器具   38 86
 0351 継続訓練用具   177
 0354 性行為補助具*    
06 義肢装具 85(1.6%) 118(8.9%)
 0603 体幹装具システム     44
 0606 上肢装具システム     23
 0609 上肢装具(非装着型)*    
 0612 下肢装具システム   69 37
 0615 機能的電気刺激療法、ハイブリッド装具システム*    
 0618 義手システム    
 0621 装飾義手    
 0624 義足システム    
 0627 装飾用義足*    
 0630 義肢以外の身体補填器具    
 0633 整形外科履物   16
09 パーソナルケア 748(40.5%) 1,225(22.6%) 293(22.2%)
 0903 衣類・靴 149 69
 0906 保護用具   53 25
 0909 更衣 11 18 18
 0912 排泄 353 151 57
 0915 気管切開用具    
 0918 ストマ用品    
 0921 皮膚清拭具   122 16
 0924 収尿器   25 10
 0927 集尿袋     16
 0930 おむつ・パッド 77 502 32
 0933 入浴・体洗い用具 149 213 94
 0936 マニュキア・ペディキュア用具    
 0939 髪の手入れ用具 18
 0942 歯・口の手入れ用具  
 0945 顔の手入れ用具    
 0948 体温・体重測定器具   23
 0951 時計   22
12 移動機器 409(22.0%) 1,197(22.1%) 266(20.2%)
 1203 歩行補助杖 103 392 58
 1206 歩行器、歩行車 54 167 50
 1209 特殊自動車 17
 1212 自動車補助装置 38 52
 1215 バイク  
 1218 自転車 176 28
 1221 車椅子   390 65
 1224 車椅子用部品   62
 1227 カート 57
 1230 移動介助器具 17   11
 1233 移動式リフター 12 51 15
 1336 固定式リフター
 1339 オリエンテーション機器   14
15 家事用具 42(2.3%) 219(4.0%) 77(5.8%)
 1503 炊事 26 59 22
 1506 皿洗い器    
 1509 食事用具 14 141 47
 1512 掃除    
 1515 裁縫 19
18 家具・家庭設備品 310(16.8%) 1,066(19.6%) 208(15.8%)
 1803 テーブル 21 30
 1806 照明固定用具    
 1809 椅子・シート・クッション   530 94
 1812 ベッド 267 467 46
 1815 家具高さ調節装置    
 1818 支持用具 11   27
 1821 ドア・窓・カーテン開閉装置    
 1824 家の構成要素    
 1827 階段    
 1830 昇降装置 23 11
 1833 非常脱出装置   37
 1836 格納具    
21 コミュニケーション・シグナル 160(8.6%)*** 335(6.2%) 71(5.4%)
 2103 視覚補助器(オプチカル・エイド)     12
 2106 電動視覚用具    
 2109 タイプライター・ワープロ用入出力ユニット   13
 2112 コンピュータ*  
 2115 タイプライター・ワープロ   56
 2118 計算器    
 2121 汎用性ソフトウェア*    
 2124 書字用具   49
 2127 非電動読書用具   22
 2130 オーディオレコーダー、ラジオ  
 2133 テレビ、ビデオ  
 2136 電話   12
 2139 音伝導システム    
 2142 会話用具     12
 2145 補聴器   150
 2148 シグナル 27 24
 2151 警報システム    
24 ハンドリング器具 4(0.2%) 40(0.7%) 74(5.6%)
 2403 標識・指示器    
 2406 容器操作器具    
 2409 コントロール・操作器具     16
 2412 環境制御システム 20
 2415 タイマー    
 2418 ハンドリング器具   13 29
 2421 リーチャー   22
 2424 位置決め器具    
 2427 固定器具    
 2430 移動器具    
 2433 ロボット*    
 2436 搬送用器具    
 2439 工業用搬送車    
 2442 コンベアー    
 2445 クレーン    
27 環境改善機器・工具 37(2.0%)** 2(0.1%)
 2703 環境改善器具    
 2706 計測器    
 2709 作業器具    
 2712 手動器具*    
 2715 機械、動力器具及び付属品*    
30 レクリエーション 71(3.9%) 195(3.6%)
 3003 玩具* 43
 3006 ゲーム*    
 3009 訓練・スポーツ器具* 66 152
 3012 楽器*    
 3015 写真用品*    
 3018 手芸用品*    
 3021 園芸用具*    
 3024 狩猟・釣り用具*    
 3027 キャンプ・キャラバン用具*    
 3030 喫煙用具*    
 (その他)   783 (14.4%)  
合計 1,846(100.0%) 5,426(100.0%) 1,319(100.0%)

*印のついたものは大・中分類のみで小分類項目なし。
**障害児教育用具含む。  ***コミュニケーション全般132を含む。

3.ISOの国際規格案に対する我が国の取組み

 周知のように日本リハ医学会は、ISO/TC173の国内審議団体として車いすなどについては積極的なかかわりをもってきたが、用語と分類については直接関与してこなかった経緯がある。しかしながら上記の事態に対応するため昨年6月にリハ機器委員会内にリハ機器用語小委員会を設け、ISOの分類の検討と用語の翻訳を行ってきた。我々が問題にした点は、①大分類のうち治療訓練機器には我が国の国状にそぐわないものも含まれている(例:透析治療・注射器など)。また②ハンドリング機器・環境改善機器にはマニピュレータ、クレーンなど一般工業製品が含まれているが、半面食事用具には箸がなかったり、障害児用教材の項目が欠如しているなど内容においても若干問題がある。③最大の問題はいわゆる民生機器(健常者用に作られているが障害者が用いても便利な機器)をどのように扱うかにかかっていると思われる。

 ところで通産省工業技術院では日本リハ医学会にJIS制定のための原案作成委託を毎年行っているが、その一貫として平成元年度にはリハ機器用語を検討することになっている。我が国の基本姿勢として原則としてISOとJISの整合性をとることになっており、上述したISO/DIS9999がまもなく正式な国際規格になる可能性を考慮すると、ある程度ISOの内容を反映させた用語と分類案を検討する必要があるように思われる。最近では東京都社会福祉協議会以外にも各地方自治体でリハ機器の常設展示場を設けたりしているが、膨大なリハ機器の情報を中間ならびにエンドユーザーに効率よく提供するためにはどうしてもコンピュータベースの登録システムが必要である。またリハ関連職種(PT、OT、介護福祉士など)の教育カリキュラムに新しくリハ機器が含まれるなど最近の諸般の状況を考慮するならば、我が国としても積極的に取り組む必要があるように思われる。日本リハ医学会の上記の検討委員会には用語委員会の大橋正洋委員長にもメンバーに加わっていただいており、平成2年3月までに我が国のリハ機器用語案がまとまる予定である。単に日本リハ医学会だけでなく、多くの関連団体の諸先生の積極的なご意見をいただければ幸いである。

引用文献 略

*帝京大学市原病院リハビリテーション科


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1989年10月(第61号)15頁~20頁

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